もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

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この作品が日間ランキングに載っているのを見たとき、驚きのあまりスマホを投げ飛ばしてしましました。壊れなくて良かったです。

皆さん、DQM+とダンまちがお好きなようですね!

追記:ロランのレベルをLv.10に上方修正させました。詳しくは活動報告をご一読下さい。


第四話

「……ロランさん、出てきませんね。神様……どうします?」

「うーん、よっぽど深くまで潜ったのかなあ。もうちょっとだけ待って、来なかったらホームに帰ろうか。お夕飯の準備もしなきゃならないからね」

 

 ヘスティアとベルの二人は、日が完全に落ちるまでバベルの地下一階、ダンジョンの出入り口で座り込んでいた。

 最初の方は立ちながら待っていたのだが、どうやらくたびれてしまったらしい。

 ベルはいい、問題はヘスティアの方だ。自慢のツインテールは地べたに着いてしまっている。

 その上、ワンピースの服を着ているのにだらしなく座ってしまっては……彼女の下着が見えてしまいそうなのだが。

 

 床の中央に空いた直径10Mほどの大穴、その円周に沿うように設けられた緩やかな階段から上がってくる冒険者に、ロランの姿はまだ見えない。

 

「ねえ、神様?」

「何だい? ベル君」

「何だか……下のほうが騒がしくないですか?」

「……聞こえるね。ダンジョンで何かあったのかなあ?」

 

 ヘスティアも耳を澄ませてみると、確かにざわついているような気がする。

 その音が、段々と大きくなっていっている。もしかすると、ロラン君の身に何かあったのか……!?

 い、いや。彼の力量があればそうそう怪我をすることだってないはず。 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 不安を押し込めながらも、階段を注視してしまう。

 

 やがて、現れた。

 恐らく騒ぎの原因であろうその姿が。

 その全身は――血に濡れていた。

 元の色が分からないほど赤く染まった装備。

 仮に頭の上に付けられたゴーグルをかけたとしても、レンズの上で赤黒く固まっている血液のせいでその機能を果たすことは無いだろう。

 脇に抱えた球状の物は何か分からない。

 服から染み出したであろう赤い液体が正体の判別を困難にしている。

 恐らく……石のようなものだろうか。

 何よりも気になるのは……背負っている冒険者だ。

 鎧を着込んだその姿もまた、血に染まっていた。

 

 この世界では一番付き合いの長い主神であるヘスティアでさえ、判別に暫しの時間かかってしまったほどに変わり果てた姿。

 しかし、装備の形とその顔……顔もほとんどが血塗れであったが……から、何とかロランであることが分かった。

 彼女も、ダンジョンに出かける前の姿から変貌したロランの姿に動揺を隠せなかった。

……出来れば、もうちょっとマシな眷属たちの初対面の方が良かった。しかし、もう後には引けない――

 

「べ、ベル君この人が「ひ。」

「……ひ?」

 

 ヘスティアがベルの顔を覗き込む。

 その顔は、もう一人の眷属――ロランの真っ赤に染まった顔とは対照的に、顔面蒼白であった。

 それは、まるで恐怖の根源や、強力なモンスターでも見たような顔で……

 

「人殺しーーーーーっっ!!!!」

 

……ベルの頭脳は、ロランが背負っている冒険者を殺したものだと導き出したようだ。

 よく考えれば、もし殺人をしたとしたら遺体はダンジョンに放置するだろうし、血塗れのまま帰ってくる訳ないだろう。

 しかし、純粋な彼に、そんな血なまぐさい話題についての知識は、残念ながら(?)無かった。

 ロランの見た目だけで判断してしまったようだ。

 

――後に、ヘスティア・ファミリアの新米冒険者が、仲間である剣士を殺人者扱いしたという笑い話が冒険者たちに、そしてその主神である神々にまで、今夜の内に広まってしまうことになる

 彼らは、その剣士がオラリオにおいて最強の実力者であるという事実を、次に太陽が昇るまで知ることは無い……。

 

 

 

 この騒ぎが収まったのは、深夜になってからであった。

 バベルに常駐するギルド職員までもが呼び出される事態。

 本来であれば、冒険者同士のトラブルには関わらないと決め込んでいるギルドまでが駆り出される大事件――結末はその実、大したものではなかった。

 剣士の背中に背負われた冒険者があっさりと目を覚ましたのだ。

 ロランは職員に大雑把に事情を話し、意識を取り戻したとはいえ出血の多かった彼を休ませるため、バベルに用意されている治療施設のベッドに寝かせてきた。

 後は、彼が細かい事を説明してくれるだろう。

 ロランは知らない。

 十階層に、巨人のモンスターが現れたことは無いことを。

 探索しつくされたはずの上層に、今まで見たことが無いモンスターが現れた事は決して『細かい事』の範疇には入らない大事であることを。

 彼は、ダンジョンにも僕の知っているモンスターがいるんだなー、などと気楽に考えていたが、それは大きな間違いであったことを……。

 

「本当に、すいませんでした……」

「いや、仕方ないさ。僕も返り血とはいえ、血塗れだったわけだし……」

「返り血っ……! い、いや、ダンジョンで戦闘があったら、それくらい普通ですよね……あはは……」

 

 ロランに対して先ほどからずっと平謝りしている少年が、新しく眷属になったベル・クラネルという子らしい。

 ロランが見る限り、まだまだ冒険者となるには幼いような気もするが……自分が口を出すべきではない。

 ベルもある程度は覚悟してこのオラリオに来たのだろうから。もしかすると、人には言えない事情もあるかもしれないのだ。

 まあ、流石に人殺し呼ばわりされた時は驚いたが……。それよりも『仲間』、という存在を得られたことの方が嬉しい。

 ロランにとって、その言葉は捨てたと思っていたものだから。

 ヘスティアと出会った時も思ったが……

 

「僕はまだ未熟ですけど……よろしくお願いします! ロランさん!」

 

――認められる、ということが……こんなにも嬉しい事だったなんて……。

 

 

 

 シャワールームで体と衣服に付いた血を落とす、リュックの中に詰まったアイテムを換金するなどの様々な所用を終わらせたロランたちは、三人揃ってようやく廃教会への帰途に着いていた。

 その手には、大きな袋が抱えられている。

 中には、およそ五十万ヴァリス……Lv.1の冒険者で組まれた五人パーティーの一日に稼げる金額の二十倍、ヘスティアとベルは今まで見たことが無かったような、そんな大金。

 ギガンテスのから取れた魔石が二つに分かれていなければ、もっと高く売れていただろうと、換金所の職員は言っていたが……これ以上を求めるのは、高望みのような気がする。

 

「……ロランさんは、今日は何階層まで行ったんですか?」

「今日は……十階層までだね。今日のようなことが無ければ、次はもっと奥まで行けると思うんだけど」

「凄いじゃないか! ロラン君、初めての探索でそこまで行けたのは多分君だけだろうね!……まあ、君ほどレベルが高い新人の冒険者も今までいなかっただろうけど」

「そ、そうでしょうね……。あ、生活費に幾らかお金を渡した方が良いですよね。拠点に戻ったら渡しますね」

「あ……ありがとうっ! ロラン君! とってもとっても助かるよっ!」

 

 こんな夜遅くにお腹が空いても、いつもなら賄いのジャガ丸くんで済ませてしまうけれど、今日はロランの稼ぎがあるから余裕がある。

 遅いから店も開いてないし、時間も無いから手間のかかる料理は出来ないけれど、魔石を使った食料保存箱に残っている材料で頑張ってちょっとした夜食でも作ってあげようかな……とヘスティアは決意する。

 

「ロランさん、後で今日ダンジョンに潜ったときのことを教えてくださいね! 参考になるかもしれないですから」

「僕も聞いてみたいね! 僕の眷属で、ダンジョンに挑戦したのは君が一人目だからね!」

「……僕が初めての眷属でしたよね、ヘスティアさん。そりゃあ僕が一人目になると思うんですけど」

「うっ……。それは言わないお約束だよロラン君……」

 

 笑い合いながら、夜も更けた街を練り歩く。

 ロランは、このささやかな幸せを噛み締めていた。

 普通の人だったら当たり前に存在するだろうこの幸福……仲間と語らい、共に助け合う。

 

(……化物のような存在になってしまった今でも、僕に仲間が出来るなんて、以前では考えることすらも出来なかった。今は、もう少しこのままで……。)

 

――自分の過去を話してしまったら、力を見せてしまったら壊れてしまうかもしれない、この儚い絆を、僕はもう少しだけでも繋いでいたい。

 

 三人揃って廃教会への扉をくぐる。

 確かに、拠点はボロボロで眷属もたった二人しかいない、大手のファミリアからしたら鼻で笑われるようなファミリアかもしれない。

 しかし、一人は頑張り屋で可憐な女神。

 もう一人は、オラリオ最強の勇者。

 そして、最後の一人は―――ま、まあ、まだその実力は発展途上中ではあるが、志は高くその目標は英雄。

 

 このファミリア――ヘスティア・ファミリアなら、きっとオラリオ一のファミリアにだってなれる。そんな気がするのだ……

 

「ああっ! もう食材が残ってないよ、二人とも!」

「えっ!? 僕、今までダンジョンにいて、何も食べてないんですよ! ヘスティアさん、この時間までやってる料理屋知っていませんか!?」

「僕たちもロランさんを待っていて、何も食べていなかったんですよ!? ど、どうしましょう、神様!? もう、お腹ペコペコですよ~」

「こんな夜遅くまでやってる店なんて無いよ! ど、どうしよう。もう賄いのジャガ丸くんも残ってないし……」

 

……前言撤回、そんなことは無いかもしれない……。

 

 

 

 明くる朝、食料品店が空いたであろうタイミングを見計らって買い出しに出かける。

 その姿は……白髪赤目の少年、ベル・クラネルだ。気落ちしているのかその背中は曲がり、青白い顔を朝の空気に晒しながら空きっ腹を抱えて歩くその姿は、どこか悲壮感溢れるものであった。

 

 お金なら渡されている。

 食料を買うには明らかに過ぎた金額だ……出来る限り多く買ってきてくれ、と伝える二人の姿も消耗しきっているようであった。

 さしもの勇者も、そして女神でさえ、生理的欲求である食欲には勝てないらしい……。

 

 お目当ての店に辿り着く。

 そこの女店主は、少年が買う量に驚愕していたようだが、そんなことは関係ない。

 冷蔵庫にも入りきらないだろうが……まあ、今から食べる量を考えたら、何とか冷蔵庫に満杯程度に減らすことが出来るだろう。

 

 急いで廃教会に向かう。

 ダンジョンに潜り、当面の生活には十分すぎるヴァリスを稼いでくれたロランさん、眷属にしてくれた神様。何もしていないのは、僕だけだ。

 彼らに何かをしてあげるために、この買い出しに行くのだって立候補したのだ。

 早く帰って、美味しい料理を作ってあげよう。

 女手のいない家庭で、祖父と二人っきりで過ごしていたのだ。

 料理だって少しくらいは出来る。空腹を我慢して、駆け足で帰宅する。

 

 廃教会までの入り口まで来たところで、中で何かを話していることに気付く。

 ロランさんと神様が二人でいるとき、どんな話をしているのか気になってしまうが、今はそんな好奇心を優先するべきではない。

……ベルだって、もう空腹が限界なのだ。

 

 その傾きかけた扉を……少し乱暴だが、足で開ける。両手が荷物でふさがってしまっているからだ。

 しかし、そこにはヘスティア・ファミリアの二人以外に、見知らぬ美女がいた。その手には……確か、ロランが背負っていた剣を握りしめ、食い入るように見つめている。

 

 赤毛のショートカット、右目に眼帯を付けているその『女神』の名を―――ヘファイストスといった。

 




ベル君、大ポカをやらかすの巻。

やっぱり、ダンジョンに潜るような戦闘シーンが無いと少々話が短くなってしまいますね。

・・・まさか、こんな作品がランキングに載るとはとは思ってもいませんでした。まだまだ精進の足らぬ未熟者な筆者ではありますが、続きを楽しみに待っていてくださる読者の方々、本当にありがとうございます。

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