もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

4 / 13
感想を見るのがとても楽しいです。皆さん、DQM+がお好きなようで・・・。


第三話

――勇者初めてのダンジョン探索、特にハプニングも起こらず、九階層に至るまで特筆するべき出来事は起こらなかった。

 一階層のモンスターは足止めにもならず、一瞬でその儚い生命が散っていった。

 勇者を苦しませた存在は唯一、横幅が限りなく広い大通路のみである。

 

(誰が、どうやれば地下の空間にここまで広い通路を作れるんだ……?)

 

 要は、ただ答えのない問題に頭を悩ませただけなのだが。

 

 二階層から四階層に至っても問題は起きない。

 ロランはその名を知らないが、『ダンジョン・リザード』と呼ばれるヤモリのモンスターもロランの前にその身を現した。

……しかし、一階層のモンスターよりも僅かに大きい魔石を残して、黒い砂となり消滅する以外の出来事は起きる事はない。

 

 五階層に至って、壁面が薄緑色に変わりダンジョン自体の構造も以前の階層よりも複雑に変わる。

 だが、そこは数多のフィールドを突破してきた勇者の面目躍如といったところか。

 特に迷うことなくその歩を進める。

 

――最善の道を突き進み、モンスターを毛ほどの障害にも感じさせず、ダンジョンを蹂躙するその姿。

 もしも、迷宮が明確な意思を持っていたとしたら、まさに悪夢のような存在。

 いや、夢であったならどんなに良かったことだろう。

 

 単眼を持つカエルのモンスター、自慢の舌による攻撃は、伸ばされたそれを逆に掴まれる。

 怪物として生まれ落ちた生涯の中で体感したことがないほどの力によって引き寄せられ、彼の拳の前に黒き砂に還元させられる。

 自身の特徴を利用され、その身を滅ぼすという皮肉な運命を辿ることになった。

 異様に長い腕の先に、ナイフのような三本指を持つ人型のモンスター。 そのリーチの差を生かす時は来ない。

 純粋な戦闘力では六階層の中では随一だが、それより遥か上の戦闘力を持つ男の足元にも届くはずもない。

 いとも容易く懐に潜り込まれ、『せいけんづき』を叩き込まれる。

 

 『フロッグ・シューター』『ウォーシャドウ』、両名とも全く相手にならない。

 しかし、上層には新米殺しの名を持つあのモンスターがいる。

 

――そのモンスターの名を、キラーアントという。

 鎧のように硬い外皮、その顎は新米冒険者の貧弱な防具ごと噛み千切る。

 ピンチに陥るとフェロモンを発し仲間を呼ぶという厄介なおまけつきだ。

 

 キラーアントの群れが、悪夢――ロランと遭遇する。

 その数、およそ十数匹。

 新人冒険者にとっては災害と言っていい程の最悪の事態。

 ダンジョンに意識が宿っているのなら、恐らく快哉を叫んでいたことだろう。

 新米殺しのモンスターであれば、あの数が襲い掛かれば――

 

 ひと時の、風前の灯のような希望はキラーアントの外殻と共に容易く打ち砕かれる。

 群れの中でも前方に位置していたキラーアント四体が同時に、まるで爆発が起きたかのような音・衝撃と共に、肉片と殻を無残に撒き散らす。

 同時に炸裂したと錯覚するほどの速さによって放たれた四発の拳、それは他の時代、場所において『ばくれつけん』と呼ばれる技に酷似していた。

 

 残党を『まわしげり』によって撃破する。

 フェロモンを発する時間すら与えない瞬殺。

 彼の前にモンスターはなく、彼が通った道に残るは無数の紫紺色をした魔石、ドロップアイテムのみ。

……そんな彼に、僅か十階層目にして異常を感じさせた。

 これは、迷宮の大健闘だったといえるだろう――

 

 

 

(やった! やった! やったんだ! 僕は! 二人目の眷属を作ることが出来たんだ!!)

 

 日がもうそろそろ真上に来ようかという時、中央広場(セントラルパーク)にて深く項垂れていた彼―――ベル・クラネルという赤目白髪の少年に声をかけてみたところ、何でもどのファミリアにも入らせて貰えず、途方に暮れていたのだという。

 

……彼には悪いが、チャンスだと思った。

 迷宮で頑張ってくれているロランに報いるためにも、どうしても彼の仲間を見つけてあげたかった。

 ダンジョンを探索するために必要な基礎知識を一通り伝え、彼の背中にヘスティアの血を媒介として『神の恩恵(ファルナ)』を刻んだばかり。

 

 流石に一人目の家族と違って、Lv.1の平凡なステイタスではあったが、そんなことは関係ない。

 昨日と今日で合わせて二人も家族が出来たのだ。

 今までの閑古鳥が鳴いていたファミリアとは大いに違いがある。

 

 しかし、たった一つだけど、とても大きな問題がある。

 その問題とは、ベル君の冒険者になった目的だ。

 彼は、祖父に聞かされた英雄譚に憧れて迷宮都市オラリオを訪れたのだという。

 

――彼は、英雄になりたいと思ってオラリオに来たそうだ。

 農作業ぐらいしかしたことが無いと言っていたのに、ちょっと……いや、かなり大それた望みのように感じるけど、家族の目標なのだ。

 ヘスティアは、全力で応援してあげようと思える。

 

 そこで問題となるのが――ロランの存在だ。

 彼は、元いた場所で……多分だけど、英雄と呼ばれるに相応しい偉業を成し遂げているはず。

 そんな人が、心の傷を負ってオラリオにいるということ。

 それは――まだ分からないけど、何か想像を絶するような出来事あったのだろう。

 

(ベル君の目的が、彼の心の傷に触ることがないといいんだけれど……。)

 いや、たとえそんなことが起きたとしても、僕らはもう家族なのだ。身内の傷を癒すことが出来ないなんて、そんなのは家族――ファミリアとは言えない。

 

 セントラル・パークから廃教会に戻ってベルのステイタスを確認し、登録のためにギルドへ向かう途中でもそんなことを考えてしまう。

 心配ではあるが、気を取り直して、入り口の前でベルと向かい合う。

 今日はもうメンバー探しもおしまいにして、今度は一緒に扉をくぐるつもりだ。

 

「さ、さあ! ここが冒険者のためのギルドだよっ!」

「す、すごい建物ですね……。神様、ここで僕は何をすればいいんですか?」

「まずは、ギルドへの登録だね。心配することはないよ! そう難しいことはないからね。その後、ベル君にはダンジョンについての講習があると思うから、ちゃんと勉強するんだよ?」

「僕、頑張ります! ……そういえば、ロランさんは今もダンジョンに潜っているんですよね?」

「そうだよ……勉強会が終わったら、二人で彼を迎えに行こうじゃないか!」

 

 ベルがヘスティアから聞いた、ロランという人物像は概ね以下のとおりである。

 昨日眷属になったばかりの、青を基調とした装備を着た男の剣士。

 とても心優しく、オラリオで一番と言っていい程腕も立つ――もし、他の人が同じ事を聞いたとしても、少なくともオラリオ一番、という部分は信じないだろう。

 しかし、この少年はヘスティアの言うことを一から十まで信じる、純粋な人柄だった。

 

 純粋な人柄であったからこそ、この後にヘスティア・ファミリアの名をオラリオ中に知らしめる珍事を引き起こすことになるのだ――

 

 

 

 エイナ・チュールは安堵していた。

 少し遅い時間に冒険者登録に来た赤目の少年――ベル・クラネルが、あのロランという規格外な剣士と同じファミリア、ヘスティア・ファミリアの名を記入した時は心臓が止まるかと思った。

 あの今朝の失態――ただの登録に、ウラノス様の元へ確認に行くという愚行を思い出してしまう。

 驚愕の事態とはいえ、ダンジョンを鎮静化するために祈祷を行っている主神の邪魔をするべきではなかった。

 彼のレベル記入欄を祈るような気持ちで見たとき、『1』という数字が燦然と光を放っていたように感じたのは、受付になってから初めてのことである。

 

 彼の隣に微笑みながら佇んでいる、ツインテールの少女が恐らくヘスティアという女神なのだろう。

 今までそのファミリアの名を聞かなかったことから、最近オラリオに降り立った神様、のはずなのだが―――

 

 一人目の眷属がLv.10、というのはどのような奇跡を使ったのだろうか……。

 こんなこと、とても他人に……暇を持て余した神々にも漏らせるような話ではない。

 明日の朝、ロランのレベルが発表されるまでは黙っていようと強く心に誓う。

 

 ベル、という少年は彼とは正反対だ。

 強さも駆け出し冒険者としては並で、どこか頼りなく感じる。

 

 ここで彼女の世話焼きな性格を発揮される。

 ダンジョンの基礎について、今教え込んであげよう。

……仕事もひと段落したところだ、生き残るための知識なんてものは、幾らあっても足りないものだろう。

 

 エイナにとっては簡易的な説明……しかし、あまり勉学に励んでこなかった少年にとっては多大な労苦を伴うものであったらしい。

 ベルは疲労の色を顔に張り付かせながらギルド本部から出てくる。

 その脇にはヘスティアもいる……彼女は、そこまで疲れてはいないようだ。これも神の成せる業といったところか……?

 

 もう、オラリオの太陽も落ちかける頃である。

 ギルドの白い建物も夕日に照らされている。

 

「……そういえば、ロランさんもそろそろダンジョンから帰ってくる時間じゃないですか? 確か、夕暮れにはダンジョンから帰って来るって言っていたんですよね?」

「おお、そういえばそうだね! さっそく迎えに行ってあげよう!ロラン君がたんまり戦利品を持って帰ってきてくれるだろうから、二人の歓迎パーティをしようじゃないか!」

 

 バベルに向かう二つの足取りは軽い。

 ベルは強い剣士に会えるという、いかにも英雄に憧れる少年らしい期待から。

 ヘスティアは、一人目の眷属がダンジョンから持ち帰るものが、今の貧乏を吹き飛ばしてくれるだろうという期待と、眷属たちが初対面するという大イベントが……ちょっぴり不安も残るが……待っているから。

 

 

 

―――鋭利な角を持った兎が、ロランに向かって突進する! 

 それはまさに決死の特攻……言い換えてしまえば、無謀な突撃。

 その武器がロランに届くことはない。

 

 いとも簡単にその角を掴まれ、壁に叩きつけられる。

 衝撃によって生まれた風圧が、黒い粉塵を撒き散らす……この作業も慣れたものだ。

 もう何匹このようにして葬ったか分からない。 

 魔石を入れるリュックも、もうこれ以上は入らないように見える。

 明らかに容量の限界オーバーだ。

 パンパンに張るまで詰め込んだ魔石とドロップアイテムは、どれ程の金額になるのだろうか?

 

……それよりもおかしいのは叩きつけた壁に残る大きな亀裂である。

 岩石ほどの硬さはあるはずのダンジョンの壁が、いくら怪物とはいえただの兎を叩きつけられただけで、まるで隕石でも衝突したかのように陥没などするものだろうか……?

 ここでも己の膂力を存分に発揮して、ロランはぼやく。

 

「……次で、十階層か」

 

 ここを降りて、様子を見たら帰るか……。

 ロランはそんな判断を下しながら十階層に降り立つ。

 しかし、帰ることが出来るのはもう少し後になってしまいそうだ。

 一つの異常への気付き――モンスターが全くいないのだ、一匹も姿を捉えることが出来ない。

 一階層から九階層まで、ロランには不自然といえる数のモンスターと戦ってきた。

 ハッキリとした理由は分からないが……考えられる理由としては、ルビスから与えられた加護の残滓からダンジョンが神の気配を感じ取ったのか。

 しかし、はっきりとした理由は定かではない。

 

 八階層あたりから地面が草原に、そして天井が10M近くまで高くなった。

 木色の壁面に苔がまとわりつき、太陽の光と彷彿させるようであった燐光が、霧によって遮られている。

 しかし、ロランの感じる違和感は今までに無かった霧などではない。

 

 ロランは、探索の続行を決意する。

 この異変の原因を探っておかなければ、後々面倒な事になるという予感がした。

 草を踏みつけながら、霧を物ともせずに進む。

 その姿は既に臨戦態勢に入っている。

 霧に紛れて奇襲を仕掛けてくるモンスターがいる可能性は捨て切れないからだ。

……敵襲を警戒をしていたロランの鼻に、嗅ぎ慣れた匂いを感じ取る。錆に良く似たこの匂い……これは、人の血の匂いだ!

 

 素早く首を振り、周囲を見渡す。

 そして……見つけた。

 霧の向こうにうっすらと見える緑色の肌を持つ巨人……この姿に、ロランには見覚えがあった。

 

(間違いない、あの匂いはこいつが原因だ。)

 

 瞬間、ロランは駆け出した。

 近寄るにつれ、奴の姿が明瞭になっていく。

 ダンジョンの天井に届こうかという巨体、ぎょろりと動く巨大な一つ目、まともに食らったら一溜まりもないであろう棍棒。

 その巨人を、アレフガルドでは『ギガンテス』と呼んでいた。

 

 ギガンテスは既に棍棒を振り上げている。

 その目標は……足元で倒れている人影。

 その身は、血に塗れていた。真っ赤な液体、それは恐らくその人の中を流れていたのであろう。

 

 ロランが止めを刺そうとする巨人の姿を確認した時、彼の左腕に盾を、右腕には剣を『そうび』する。

 この行為は、彼が全力を出す合図に近いもの。

 彼の本分といえる剣士として闘うということ。

 その時、無情にも……ギガンテスの右腕が、振り下ろされた――

 

――その棍棒を、盾のみで受け止めた剣士がいた。

 無論、その男とはロランのことである。

 僅かな隙に、彼は足元で倒れている冒険者を確認する。

 鎧を着込んだその男……微かだが、息はしているようだ。

 

 彼の装備である、『ちからのたて』。

 中央に魔力の籠められた宝玉をあしらい、この世界には馴染みのない紋様が彫られているそれは、ギガンテスの棍棒による一撃を受けても、僅かな変形すら見られない堅固さを備えている。

 

―――迅速に倒さなければならない。この人の命を救うためにもっ!

 

 彼の右手に握られる剣―――ロトの剣、これはロトの血脈に連なるものが人々を守る時に用いられてきた、絶大なる力を持つ武器だ。

 あらゆる魔を切り裂くという大業物。神、そして冒険者に殺意を抱くダンジョンの邪悪なるモンスターに効かぬはずも無し。

 

「……一撃で、終わらせてやる」

 

 体に染みついた動きが、破壊神に助力する者たちとの闘いで研鑽された動きが勇者全力の一撃を作り出す!

 

―――古流剣殺法『(のぼり)一文字』

 

 古流剣殺法における奥義の一つ、剣による斬り上げの一撃。

 しかし、ただの一撃にあらず。

 その斬撃はギガンテスを通り抜け、轟音と共に天井に深く、大きな傷跡を残す。

 そのまるで龍の王がその強靭なる爪をもって傷を付けたかのようだ。ロトの剣が持つ攻撃力と剣士としての技量、人外の域に達した怪力の集大成といえる一閃。

 それはまさに一刀両断、ギガンテスはその胸に埋め込まれた魔石ごと切り裂かれる。

 

――かいしんの いちげき! ギガンテス は たおれた!

 

 その巨体を維持することが出来ず、一瞬にして消滅する。

 残されたのは真っ二つに切断された魔石と、ロランと倒れた冒険者に降り注いだギガンテスの返り血のみ。

 その魔石は、ギガンテスの力の源に相応しい大きさだといえる。

 少なくともロランはここまで大きい紫紺色の結晶を見たことが無かった。

……これでは、リュックに収まりきらないだろう。

 

 そんなことより、気にしなければならないのは冒険者の容体だ……。

 魔石の回収方法は置いといて、男に『ちからのたて』に秘められた魔法を使用する。

 アイテムとして使用するだけで、『ベホイミ』の効果が得られる。

 

(この効果には、僕も助けられたものだなあ……。)

 

 奇妙な感慨を抱きながら、ロランは男の容体を手早く確かめる。

 

――男の意識はまだ戻らないが、傷は塞がったようだ。

 

 しかし、例え死ぬことは無くとも、早く安全なところで休ませるべきだろう。

 そう考えたロランは、顔に付いた返り血を拭うことも程ほどに、冒険者を背負う。

……鎧を着た、大の大人の冒険者をまるで重さを感じさせず軽々と背負う膂力、並の人間のものではない。

 両断された魔石を小脇に抱え、駆け足で出口に向かう。

 

 モンスターから見れば、格好の獲物のように見えることだろう。

 両手がふさがったこの状況、敵に襲われでもしたら……まあ、対処できない、ということは無いだろうが、行きよりは危険な道になることは間違いない。

 それに、背負っている人も心配だ。

 早く帰るに越したことは無いだろう。

 

 その足取りは軽かった。

……アイテムの詰まったリュック、冒険者、巨大な魔石を抱えているにも関わらず、である。

 




いやー、戦闘の描写って難しいですね。遂に、ドラクエのモンスター『ギガンテス』の登場です。彼(?)のような存在がダンまちの世界にどのような影響を及ぼすのか!?乞うご期待です。

・・・ロランが強すぎんねん・・・DQM+と比べるとこれでも控えめな気がするとかどういうこっちゃねん・・・。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。