もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

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二年半ぶりなので初投稿です。


第十二話

 ロランは喧騒を掻き分けながら、ローブのフード越しに眺めていた。すれ違う人たちに彼を気にするものはいない。

 それもそのはず、ロランは気配を消して歩いているのだ。完全に気配を消失させるのではなく、周囲に気付かれない程度に。

 

 すれ違う人々の表情に暗い影を落としている者はいない。喧騒の中には笑顔と、はしゃぎ声と……時折、喧嘩でも起きたのだろう、怒鳴り声が響いていたが。

 しかし、そこには紛れもなく――『平和』があった。

 ロランは、『勇者』は()()を目指して闘い続けてきたのだ。それが好ましいものでないはずがないだろう。

 しかしながら、歩き彷徨い続け、オラリオの城壁にたどり着き、喧騒を振り返って思うのだ。

 

――だからこそ、()()()なのだ、と。

 

 ロランは石段を上り続ける。聴き慣れたブーツで石を踏みしめる音をただ一人で聴きながら。

 それが、より一層……ロランが、自分自身が一人であること、孤独である事を認識させられる要因にもなった。

 

――この世界に、ただ一人の決定的な異物、それが僕だ。果たして、そんな自分が、この世界に居続けることが、オラリオの人たちにとって良いことなのだろうか――

 

 自問自答しながら階段を登りきると、そこに広がる景色は想像以上のものであった。

 一面に広がる建物の灯り、人々が呑み、語らい、そして騒ぐ姿。

 その景色は、平和を取り戻すために闘ってきたロランにはあまりにも眩しく、そして貴いものであった。

 

 そして、その中心にそびえ立つのが白亜の摩天楼、『バベル』。

 今は街中の薄明かりに照らされ、薄暗さをもってその威容を示している。

 

 ロランは思う、この街は()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、決して悪いことだとは思わない。

 しかし、それがただひたすら不気味なものだとロランには感じられた。

 人を襲い、そして喰らう怪物(モンスターズ)たちによって人々の生計が成り立っているこの現状。

 そして、足元にその怪物(モンスターズ)たちが蔓延っているこの現状。

 その現状すら、誰かの意思によって創り上げられたものなのではないかとロランは危惧していた。

 

――決して偶然なんかじゃない、誰かの意思によるものなのだと――

 

 これは何らかの証拠を得て辿り着いた結論などではない。

 強いて言うならば、ただの勘であった。

 しかし、たかが勘と侮るなかれ。

 数多のモンスターたちの悪意に晒され、数え切れない襲撃を退けて培い、果てには大神官ハーゴンの悪辣な幻術を破ってみせた超一級の勘である。

 

 考えに耽り過ぎたところでロランはかぶりを振った。

 いくら考えたところで決して答えの出る問題ではないのだ。

 少なくとも、今はまだ。

 

 結局ロランに出来ることはただ一つ。

 

――闘い続けること。人々を守るために。

 

 だからこそ、強さを求めたのだ。

 その強さが、神をも超えるものだとしても。

 

 つまるところ、ロランはその身体も、その精神も、骨の髄まで()()なのだ。

 幾ら人の恐怖を一身に受けようとも、人を守りたい、平和を守り続けたいという想いは変わることがなかった。

 

 ダンジョンがそもそも悪意によって築き上げられたものかどうかすら分からない。

 オラリオが悪意に晒されていたとして、その正体が誰なのかすら見当もつかない。

 しかし、壁上から見た景色によって、ロランが今まで抱いていた想いをさらに強めることができた。

 

 「……この街を、守るんだ。例え、一人でだって。」

 

 ロランは、自分がこの世界に来た意味は未だに分かってはいない。

 共に神を打倒した仲間がいるということもない。

 ただ、この世界で新しく出来た知り合いを、友達を、家族を、そして、この平和な街を守り切るためになら、また忌み嫌われたとしてもこの力を振るおうと思えた。

 彼が顔を上げたとき、酒場で人の畏怖に触れたときのように怯えたものではなく、その瞳には力強い意志が宿っていた。しかし、

 

――その独り言が新しく出来た、ロランと共に闘うことを決意した家族の気持ちを裏切るものであることに、まだ気づいていない。

 

 ふと、ロランは階段の方を振り返った。

 そこから確かにコツ、コツと石段を靴底が叩く音が聞こえてくる。

 最初はファミリアのメンバーが追いかけてきたのかとも思った。

 しかし、ロランはその足音に違和感を覚えていた。

 彼の優れた聴力はベルでもヘスティアでもないその靴音を聞き、体を強張らせた。

 神々によるあの勧誘合戦は記憶に新しい。

 できることなら、またあの騒動を引き起こしたくない……その一心で、『にげる』準備を整えていたところ、足音の正体がその姿を現した。

 

――長く美しい金髪に金の瞳、顔が整っており、まるで人形のようだが、確かな意志の強さを瞳に宿す少女の姿に、ロランは見覚えがあった。 

 

「たしか、君は……。」

 

 ダンジョンで出会った、ミノタウロスを追いかけてきていた少女剣士の姿であった。

 ミノタウロスの血糊をぶちまけてしまうというインパクトのある出来事だったので、はっきりと覚えていた。

 

「お願いが、あります。私も、弟子にしてください。」

 

 ある種の気まずさをもって、酒場で逃げ出したことと、この綺麗な少女の装備を汚してしまったことについて謝罪をしようとしたが、ロランは先手を打たれてしまった。

 さらに、アイズ・ヴァレンシュタインの猛攻はそこで止まることはなかった。

 突然膝をつき、地面に座り込んだかと思うと、手のひらまでも地面につけて頭を深々と下げた。

 

 ロランには知る由もなかったが――それは、あまりにも見事な『土下座』の姿勢であった。 

 

「ま、待って。そんなことをしたら服が汚れてしまうよ。顔を上げてくれないかな!」

 

 土下座など露知らず、ロランは慌てふためるしかなかった。

 しかし、頑なに少女は姿勢を崩そうとしない。

 顔を下げたまま、ただ一言、

 

「……キョクトーの人に教えてもらいました。お願いをするとき使う最上級の姿勢だって。」

「どうして、そこまで……」

 

 弟子に、と言葉を続けようとしたところで、少女が顔を上げた。

 そこで、ロランは気圧されてしまった。

 彼女の瞳の力強さに。

 

――ただひたすらに強さを求める、悲しいほどに強い瞳の光が、ロランにはあまりにも眩しかったのだ。

 

「私は、強くなりたい」

 

 一瞬の間も無く出たセリフ。

 淡々としていながらも力強い響きを持つ声色。

 

 そこで漠然とロランは察したのである。

 少女は過去の自分たちと()()であることを。

 

 ロランたちは、ただひたすらに強さを求めていた。

 モンスターたちと戦うため、大神官ハーゴンを倒すため、そして世界に平和を取り戻すため。そして、

 

 彼女も何か、()()()()()()()()()を守りたいことを。

 

 そのとき、ロランは決めたのだ。

 助けになるかどうかは分からないけれど、彼女の要望を叶えてあげようと。

 

「……わかったよ。ただし、弟子入りは仲間の許可を取ってからにしてくれるかな?」

 

 彼女は酒場で頼もしそうな仲間たちに囲まれていた。

 ファミリア間でのトラブルはもうごめんである。

 ただ、そんな面倒ごとになる可能性を孕んでいたとしても、ロランには彼女の瞳を裏切ることが出来そうになかったのである――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……前回の投稿が二年半前?
うっそだろと思いながら書き出しました。

いつもより短いですが、キリが良いのでここで今回は終わりです。

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