城下町のダンデライオン-ちょっと変わった生活-   作:ダラダラ

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どうも、ダラダラです。
まさかの2話連続投稿ですっ!

よろしくお願いいたします!


(注)原作にある第1巻最後のページで「国際新年会」を行っている場面がございます。今回はそれを使わせていただきますが、残念ながら、この作品では、新年に到達しておりません!そのため、「国際親睦会」に変更しております。ご了承ください!!


第9話 はじまる恋は誰の恋?前編

「お疲れ様でしたぁっ!お先に失礼します!」

「おぉ、お疲れ~!」

 

サッカー部の朝の練習が終わり、更衣室では部員が着替え、そして、着替え終えた者からどんどんと自身の教室に向かっていた

今も2年の後輩たちが、まだ残っている俺や、琢磨、翔、孝也、に向けて挨拶をし、部室から出て行く

その後輩の挨拶を、キャプテンの孝也が答えていた

 

「はぁ~…今日も授業、明日も授業…本当、毎日、勉強ばっかりだよな~…大学生が羨ましい…」

 

琢磨は着替え終えベンチに座ると、これから6時間もある授業にため息を吐く

 

「琢磨のお兄さんって、確か大学生だよね?」

「そう、今、大学3年生。昨日もさ、俺より、遅く家出て、俺より早くに帰ってきてた…授業が2つしかなかったらしいし、週に3日しか学校がないらしいんだよっ!大学生ってほんと、何してんだよっ!!絶対、暇じゃんっ!!ってなった…」

 

翔は、制服に着替えながら、項垂れている琢磨の話を聞いている

 

「俺たちも来年は、そんな生活になるんだから、今は乗り越えろっ!それより、来週には、IH(インターハイ)の予選だからなっ!!気合入れろよ!!体調管理は万全にしておけっ!特に…蓮斗!お前、絶対に鼻声だろうがぁぁ!」

「あ、やっぱりそう思うか…?俺も朝起きたら、喉がちょっと痛くてさ…」

「絶対、風邪だろっ!!」

「あぁ、もしかして、この間の清掃活動で、ずぶ濡れになったからじゃない?乾かさないで帰ったでしょ?」

「さぁ~それが原因かわかんないけど…」

 

孝也の暑い…暑っ苦しい話し方はいつものことだが、今は、少し頭に響くので、勘弁してほしい…

まぁ、俺の自業自得って奴だけどな…

翔が言ったように、この間の清掃活動で水浸しになり、乾かしもせずに家へと帰った

その後、風呂に入ったのだが、輝と栞を勝手に追いかけた結果、湯冷めした

そして、最後には人様の家のソファーで熟睡…

そりゃ、風邪も引くな…

 

「あ、そうだ。琢磨、翔、俺が川で水浴びたから風邪引いたとか葵に言うなよ。あいつ、自分のせいでもないのに、自分のせいだって、自責の念に駆られるからな…」

「…ほほぉ~さっすが、幼なじみですなぁ~」

「いやぁ~琢磨さん、これは焼けますね~」

「…うるさい」

 

琢磨と翔に釘を刺せば、ニヤニヤとまた嫌な笑いを向けてくる

近所の噂好きなおばちゃんのように見える…

 

「いいから、早く更衣室から出てくれ。閉められないだろ…」

「「「おーっ!」」」

 

そして、孝也に促されるように、3人は、さっと準備を済ませ、更衣室から出る

 

…ん?

俺が出ようとした時、ベンチの上に置いてある物に目が着く

そこには、教科書とノートがあった

 

「蓮斗、何してんだ?閉めるぞ?」

「これってさ、2年のあいつのだよな?」

「あ、本当だ。名前もそう書いてあるし…忘れ物か?ったく、しょうがないやつだ…昼休みに届けにいってやるか…」

「…いや、今届けに行くよ。確か、小テストが2時間目にあるから、1時間目に猛勉強するとか叫んでたし…孝也、監督のところに行くんだろ?俺が届けとくよ」

「そうか?悪い、頼んだ!」

「何で、お前が謝るのかわかんねぇけど、了解っ」

 

更衣室から出て、琢磨、翔には、先に教室に行って担任に遅くなると伝えて貰うことにし、二年塔へと向かう

そして、忘れ物をした奴の教室へと行き、クラスの子にそいつを呼び出して貰った

 

「蓮斗先輩っ!」

「よぉ、お前、部室にこれ忘れてっただろ?小テストだぁ!ってさっき叫んでたから、持ってきたんだ」

「うわぁ!部室にあったんすねっ!?ありがとうございますっ!すんげぇ、探してたんですっ!本当にありがとうございますっ!!」

「良いって別に!テスト頑張れよ~んじゃな」

「うっす!」

 

教科書とノートを渡した後、自分の教室に戻ろうとした、その時…

 

「あの、サッカー部の日高蓮斗先輩ですよねっ!?」

「ん?そうだけど…」

 

そのクラスの数名の女子が俺へと声を掛ける

 

「あの、IH(インターハイ)応援してます!!頑張ってくださいっ!!」

「あぁ、ありがとうっ応援に答えられるように頑張るなっ」

 

2年女子からのエールを貰い、それに答える

そこまでは良かったが…

 

「本当に、カッコいいよぉ~!!」

「背も高いですね~!!」

「サッカーってずっとやってたんですか!?」

 

女子たちの質問がたくさん横行し、俺は教室に向かえない…

 

「おい、女子共っ!蓮斗先輩に群がってんじゃねぇ!!」

「そうだっ!蓮斗先輩には、葵様がついてらっしゃるんだぞ!!」

 

と、そこに忘れ物をしたサッカー部員とそいつと同じクラスのサッカー部員数名が、俺と2年生女子の間に入るのだが、よりごちゃごちゃしている…

 

早く、教室に戻りたい…

そう思い、この状況からどう打破するか考えていた

 

すると、

 

「廊下で騒がないで下さいね。授業も始まりますので、教室に入ってください」

 

俺たちの周りに一気に冷気を漂わせた人物が登場

 

背筋が凍るほどの寒気がして、その声の主の方へ振り向く

そこには、顔には笑みを浮かべているものの、後ろには大きなどす黒いオーラを纏った奏がいた

うふふふっと笑っているものの、どう見ても相手を威圧する笑みだ

 

そして、それを見た女子もサッカー部の後輩も教室の中へとそそくさと去り、着席する

 

「よ、よぉ、奏…そ、そういえば、ここって奏と修の教室だったな…」

「はい、蓮お兄様も朝の練習お疲れ様です。サッカー部の活躍を期待しておりますね。このようなところで、下級生の女子と戯れているということは、さぞ、自信があるようですものね?葵姉様には、ご報告しなければいけませんわね」

「…なんで、そんなに怒ってんの…?とりあえず、勘弁してください…」

 

奏に精一杯の誠意を込めて、腰を90度に曲げ、お願いする

 

「…蓮お兄様、少し鼻声ではありませんか?」

「ん?やっぱ、気付いちゃうものなのか…ちょっとな、まぁ、すぐ治るってっ!そんなことより、この分じゃ確実に遅刻だな…」

 

先ほどとは打って変わって、奏は、俺の話し声が変わっていることに不審に思い、聞いてくるが、余り心配はかけたくないので、笑ってごまかす

しかし、奏は、すごい俺の顔を探りを入れるようにじーっと見てくる

 

「はぁ~…大丈夫だと仰るのなら宜しいですが、くれぐれも悪化しないように気を付けてくださいね?蓮お兄様が、倒れると私の家族が全員、騒然としますので…」

「奏も?」

「…え?」

「奏も心配してくれんの?」

「…早く、教室に戻ったらどうですか?」

 

奏の優しい言葉に、少し意地悪くからかう笑みで言うと、そっぽを向かれてしまった

 

「ははっ、悪かったって!嬉しいよ、ありがとなっ」

「…」

 

そういい、奏の頭を2・3度できるだけ軽く叩く

奏はいつものように怒ることもなく、黙っている

今日は良いようです

 

「んじゃな、奏、勉強頑張れっ」

「…蓮お兄様より大丈夫です」

「それ言うなよ…マジで勉強はやばいんだから…」

 

そして、その場から立ち去る…

…立ち去らしくれなかった…

 

ガヤガヤガヤ…

「どした?」

「なんか、修が…」

 

奏の教室内が騒ついていたのだ

 

「なんか、あったのか?」

 

俺と奏は、教室の中へと目を向ける

そして、クラス全員が注目している方へと視線を向けると、教室の窓際一番後ろの席で、修の前にいる女子がボトボトになっていた

 

「す、すまん佐藤!大丈夫か!?いきなり顔があったもんだから!」

「は、はい!ぜんぜん平気ですっ!」

「何やってんだ…あいつは…」

「修ちゃん、いつの間に来てたのかしら…」

 

修が全力で前に座るボトボトになった女の子に謝る

女の子は優しい性格なのか、怒れないのか、気にしていないと笑っていた

俺と奏は半ば呆れた顔をして、その光景を眺める

 

「あのままじゃ、授業に受けれないだろ…ったく、しょうがない…お邪魔しますっ」

 

そう言って、俺は2年の教室の中へと入る

 

「修っ、お前何してんだよ」

「蓮兄っ!あぁ、その、遅刻しそうだったから能力でここに来たんだけど、席に着いたとたん、佐藤の顔があったんで、飲んでた牛乳ぶっかけてしまった…佐藤、本当にすまん!」

「だ、大丈夫だよ!私、牛乳好きだから」

「いやいやいやいやっ!!」

「そういう問題じゃないって!大丈夫か、この子!?」

 

ある意味すごいな、この子は…

佐藤さんという修と奏のクラスメイトは、笑いながら許す?と言っているのだが、そのままではいけない

 

「佐藤さん…だっけ?着替えは持ってるの?」

「あっ!はい、着替えは持ってます!」

「そっか、とりあえず、これ使ってくれ。今日はまだ使ってないし、洗濯してあるから綺麗だと思うんだけど…」

「えっ!そんないいですよっ!!」

「いいからっ!修がご迷惑をお掛けしましたので、ね?」

「…は、はい…」

 

佐藤さんには、着替えがあるようでよかった

なければ修の持っている服全部ひん剥いて、渡していた

当たり前だっ!女の子に牛乳をぶちまける奴がいるかっ!

とりあえず、着替えるまでの拭くものとして、俺は持っていた使っていないタオルをスポーツバッグから出し、渡す

最初はタオルを受け取ることに渋い顔をしていた佐藤さんだが、半ば強引にタオルを渡す

何故か、佐藤さんは顔を赤くしていたし、回りの女子は、きゃあきゃあと言っていたが…

 

「着替えるなら、先にシャワールームに行ってきた方が良いよ。水じゃなくて、牛乳だからベタベタしてしまうだろ」

「シャワールーム?」

「あぁ、運動部の奴しか知らないか~…」

「あっ!私、シャワールームわかります!」

 

佐藤さんに運動部の部員が使用しているシャワールームへと促し、近くに居た2年運動部の女子に案内を任せた

そして、佐藤さんがシャワールームへ行こうと立ち上がり、俺ももう教室に帰ろうと思い、入り口へと向かう

 

「そだ、奏。佐藤さんが修のせいで授業遅れるって担任に言っといてくれよ」

「分かっていますわ。それにしても、世話焼きなところは、葵お姉様とそっくりですわね」

「…でしゃばりで悪かったな…つか、さっきから何怒ってんだよ」

「そんなこと言っておりません。怒ってもおりませんっ」

「…まぁ、いっか。んじゃ、行くわっ!もうチャイム鳴ったし、確実に遅刻だな…」

 

と言っていたその時、また教室内から怒鳴り声がする

 

「修!なにうちの花に白いのぶっ掛けてんのよ!」

「言葉を選んでくれないか、一条!」

 

どうやら、花というのは、先ほどの佐藤さんの下の名前であり、その子の友人と思われる女の子一条さんという子が修に怒鳴っていた

だけど、健全な男子高校生には、言葉を選んでほしい怒り方だった…

 

「…奏、お前のクラスは、個性豊かだな…」

「そのようですわ…」

 

そして、今度こそ、二年塔を後にし、自身の教室へと向かった

 

 

 

 

昼休み

 

やっと4時間目が終わり、昼休みに入った

 

「ゴホッゴホッ…」

「蓮斗、大丈夫?」

「ん、大丈夫だよ。どうってことないっ!さて、今日は食堂にしようと思ってんだけど、行かないか?」

「あ、俺も今日は弁当ないし、久しぶりに食堂で御飯食べようぜっ!」

「琢磨は、さっき早弁したから、弁当がないんでしょ…?」

「腹が減っては戦はできぬって言うだろっ?さっ、行こうぜっ!!」

 

そして、俺と琢磨、翔は、食堂へと向かう

 

「あれ?今日は蓮斗たちいないのかな?」

「食堂へ行ったのではないでしょうか?先ほど、教室から出て行くのを見ましたよ」

 

トイレから帰ってきた菜々緒は、いつもなら昼休みに蓮斗の机を囲んでいる3人がいないことに不審に思うが、卯月の言葉に納得する

そして、一緒にトイレへと行っていた静流、葵も弁当を持って、卯月の席へと来る

 

「葵さん、蓮斗さん、体調が終わるいのですか?」

「え?そうなの?」

「はい、1時間目はそれほどでしたが、4時間目くらいになると、咳を我慢しているところを何度か見ましたので…体調が悪いのかと思いまして…」

「…蓮とは、今日、ほとんど話をしていないから分からない…かな…」

 

唐突に、卯月は葵へと俺のことを問い、それに菜々と静流も反応する

そして、卯月は俺の体調を気遣ってくれていた

卯月とは隣の席なので、気付かれても不思議ではない…

俺はそれを忘れていた

今日は、葵に風邪を引いたと、心配されたくなくて、極力葵と話をする機会を遠ざけた

一番話をする昼休みには、食堂を選んでまで…

心配をかけたくないと思っているのと、なんか、分からないけど、弱っている自分を見られたくないという意地だ

仕様のないことでも、これが俺の性格だっ!

 

そして、俺は、葵が暗い顔をしていたことなど知らずに食堂のうどんを啜っていた

 

昼休みが終わる頃に教室へと戻ると、葵がこちらに近づいてくる

 

「蓮っ話があるんだけど…」

「ん?」

「おらぁ~席に着けぇ~!」

「…橋センだっ!悪い、葵、また後でな」

「…うん」

 

だが、次は橋センの授業だから、俺は葵の話は聞かずに席へと着いた

 

俺は、葵が今のちょっとした会話で気付いたとも知らずに…

 

「(やっぱりちょっと、鼻声になってるし、目がしんどそう…)」

 

 

 

放課後

 

掃除を早々に終えることができ、俺はサッカー部の部室へと向かった

まだ、他の学年やクラスは掃除をしている中、昇降口を出る

そして、しばらく歩いていたのだが、体調が悪化しているのだろう、足がいつもより重く感じる…

 

あぁ~マジでやばいかな…先に保健室行って、帰った方が良さそうだったら、帰ろう…

大事な時期だしな…よしっ!先に保健室へ行こうっ

 

と、来た道を引き返そうと後ろを向いた瞬間…

 

「あ、先輩っ!」

バシャンッ!

「…」

 

誰かの声と共に、俺に降りかかる冷たい水…

何だろう…俺って、水難の相でも出てるのだろうか…

 

「す、すみませんっ!!先輩っ!!ご、ごめんなさいっ!!どうしようっ!!本当にごめんなさい!!!!」

 

そして、水を掛けた子に視線を向けると、その子は、今朝、修によって牛乳を被ってしまった2年生の佐藤花さんだ

 

「…佐藤さん?」

「は、はい!!あ、あの、今朝のお礼を言おうと思って、呼び止めてしまったのですが、ホースも先輩の方へと向けてしまいまして…本当にすみませんっ!!」

 

佐藤さんは真っ青になった顔で精一杯俺に謝っている

ほとんど、半泣きに見える…

その姿がなぜか、妹として慕っている茜に似たところがあり、もともと起こってはいないけど、何故か笑えてくる自分

 

「…ふっ…あははははっ!!佐藤さんと同じだな~!俺は牛乳じゃないけどな~大丈夫、顔を上げて?気にしないでいいからっ」

 

余りの衝撃に笑いが止まらない

体はだるいんだけど、何故か笑っているわけの分からん自分

でも、申し訳なさそうにする佐藤さんは、俺の様子から、少しは気分が落ち着いたようだ

あのまま帰したらきっと、ずっと責任を感じていそうな子だかな…

 

「本当にすみませんでしたっ」

「もう謝らなくていいよっ!着替えて拭けば、大丈夫だし。今日、佐藤さんは修に牛乳掛けられても怒らなかっただろ?俺もそう。怒ってないから、気にしないでくれ」

「は、はい…ありがとうございますっ!」

「ヘックショイッ!でも、ちょっと、寒いからもう行くな?本当に気にしないでね~」

「は、はいっ!そうだっ!せめてこれだけでも!!寒いのでしたら、これ、私の上着です!着てください!!」

「え…?いや、でも…」

「私は大丈夫ですのでっ!!本当にすみませんでしたっ!!!」

「ちょっ!!佐藤さんっ!!?…俺、入んないよ…」

 

佐藤さんに気にしないように言うが、まだ動揺しているのか、佐藤さんは、自分が着ていた制服の上着を脱ぎ、俺に渡して、ダッシュでその場から居なくなった…

ありがたいんだけど…俺が女子の制服着れる訳がない…

 

「え…これどうすんの…?へックショイッ!ゴホゴホッ!本格的にやばくなってきたし…」

 

駄目だこりゃ…先に着替えて、職員室行って監督に休むって言って、佐藤さんに上着返して…

頭がボーっとするし、頭痛もする…体の寒気と、関節が痛む…

完全に悪化した…

 

ふらふらとした体で、鞄に入っていたサッカー部のジャージに着替え、職員室に行き、橋センに伝えに行く

伝えに行くと、髪がボトボトに濡れていることと、俺の様子から本気で心配されたが、ちゃんと休むと伝えて、職員室を後にする

あぁ~自分の体ってこんなに重いんだな…

 

そして、何とか、佐藤さんのいるクラスまで辿り着く

 

「あの、佐藤花さんはいる?」

 

教室で俺の目に留まったのは、先ほど、修にすごいことを叫んでいた佐藤さんの友人だろう一条さん…?という女の子に声を掛ける

 

「あっ、先ほどの先輩。花なら、修を追って帰りましたけど?」

「あ~やっぱり帰っちゃったか…え?修を追って?んじゃ、帰り道で会うかな?」

「どうかしたんですか?」

「うん。上着を借りた?んだけどさ、返さないといけないと思って…ポケットに携帯とか入ってるみたいだから、今日中の方がいいかなと…まぁ、修のところに行ったのなら、帰り道に会うかもしれないし…ありがとな~」

 

二年生の教室から出て行くが、もうすでにふらふらしているし、思考も働かない…

佐藤さんがさようならを言いに行っただけということも知らずに上着を持って、学校を出た

 

 

 

 

はぁ~やっぱり、見つかんないな~…てか、帰り道ってこんなに遠かったっけ?

とりあえず、上着を最悪、修に渡して帰ったら、薬飲んで寝よう…

今日は、父さんは出張だけど、母さんは遅くなっても帰ってくるし、櫻田家は国際親睦会のパーティがあるらしいから、迷惑を掛けることもない…

うん、帰ったら、寝るか…

 

「…き…だから…っ…櫻田君のことす、好き…だから…気になって…」

「…マジか」

 

…ん?普段なら、さっと通り過ぎてしまうような路地裏から声がして、そちらを振り向く

すると、そこには修と何故かツインテールになっている茜、そして…

 

「…佐藤さん?」

「え?」

「あぁ、やっぱりそうか、会えてよかったよ…って、邪魔しちゃったか?」

「「蓮兄っ」」

 

路地裏では、顔を真っ赤にした3人の姿があった

よくよく考えれば、先ほど聞こえてきた言葉から、いろいろと察するべきだった

けど、ちょっと、その余裕がないもので…

 

「あぁ~気にしないで、続けてくれ…俺の用件は後で言うから」

 

そして、路地裏の外に出て、壁に凭れ掛かる

その時、後ろから声を掛けられる

 

「蓮兄っ!」

「おう、茜。話はいいのか?」

「うん、修ちゃんと先輩の話だからね…それより、なんで、髪が濡れてるの…?」

「それは気にするな…」

「…蓮兄、大丈夫?顔赤いし、しんどそうだよ…?」

「それも気にするな…すぐに良くなるよ…」

 

茜は俺のところまで来て、隣の壁に一緒になって凭れ掛かる

どうやら、一発で分かるほど、俺の体調は芳しくないようだ…

心配をかけたくないから、話題を変える事にする

 

「それより、なんでそんなに怒ってるんだ?なんだ、修が佐藤さんに取られると思ってるのか?」

「…別に、そんなんじゃないけど…」

「ほんとっ、お前らは分かりやすいよな~思考がそっくりだ…さすが、家族思い、兄弟思いの櫻田家だよ…そんな、家族をずっと羨ましいって思って一番近くで見てたから、尚更…な…」

「蓮兄…?」

「っ!…悪い、変なこといったな…忘れてくれ…」

 

駄目だ…風邪を引くと、余計なことまで言ってしまう…

茜に不安そうな顔をさせてどうするんだよ…俺…

 

「すまん、佐藤…」

 

その時、路地裏の外に居るとはいえ、修と佐藤さんの会話がダイレクトに聞こえてくる

俺は、どんどんと、遠くなる意識の中で、それを聞いていた

 

「佐藤の気持ちは本当に嬉しい…できることなら俺も…。…っだが、今は選挙に専念したいんだっ!!奏を王様にさせない為に妨害工作で忙しいんだ!!」

 

何言ってんだあいつ…!!

 

「…なら、待っててもいいですか…っ」

「え?」

「選挙が終わるまで待っててもいいですかっ?」

「佐藤…選挙はずっと先のことだぞ?そんなに待たせるわけには…」

「私は全然平気ですっ!」

「わかった!約束しよう!必ずや佐藤の思いには応える!!」

「は、はいっ!」

 

「…なんなんだ、この会話…」

「私たちが近くに居ることは完全に忘れてそうだね…」

 

修と佐藤さんの告白現場を完全に盗み聞きしている状態の俺と茜…茜は真っ赤になって聞いていた

 

「じゃ、じゃぁね、櫻田君っ!!」

「あ!おい佐藤!!」

 

その後、勢い良く路地裏から、顔を真っ赤にした佐藤さんが飛び出してきて、俺たちには気付かず、走っていってしまう

完全に自分の世界に入ってしまっているのだろう…告白が成功すれば、浮き足立つのも当然だが…

 

「俺の用事…終わってないんだけど…」

 

佐藤さんに返すはずだった上着をまだ片手に持ったままだ

 

駄目だ…頭が痛くなってきた…もう、走るのもしんどい…

 

と、そこで、修がふざけた面をして路地裏から出てくる

顔が真っ赤だ…こんな修を見たことはないけど…

 

「おい、修…本当にあれでよかったのか?待たせていいのか?」

「あぁ、佐藤が待っててくれるって言うのなら、それに甘えるしかないと思うからな」

「そっか…それでいいならいいけど…でも、一つだけ言わせてくれ…好きな人が自分を好きで居てくれるなんて確率は、すごく低いんだ…大事にしろよ。自分の気持ちも佐藤さんも…」

「蓮兄…」

 

だるい体を壁から離し、修へと真剣に眼を向ける

これは男として大事なことだからな

 

「…もしかして、蓮兄は佐藤のことが好きなのか…!?」

「…は?」「…え?」

 

俺、結構いい話をしていると思っていたのだが、修はいきなり難しい顔をしてふざけたことを言い出した

そのことに驚き、俺も茜までも本気で固まる

 

「さっきだって、佐藤を見て、会えてよかったって…蓮兄、さては佐藤が好きで追いかけて告白しようとしていたのか!?すまん!俺も佐藤のことが好きだから、譲れなっ…」「違ぇよ…どういう解釈したら、そうなんだよっ…!」

「ち、違うのか、良かった…」

 

と、本気で安堵する修に始めて俺はイラついてしまった

あぁ、本気でしんどいのに…!!

 

「佐藤さんを探してたのは、さっき、佐藤さんに上着を渡され…借りたんだけど、返せなくてな…だから、ついでにこれ持って行ってくれないか?」

「そうだよ、修ちゃん、送ってあげたら?」

「あ、あぁ…そうだな…」

「んじゃ、これ、ありがとうって返しといてくれよ。…お前もこれを渡すのを口実に送りやすいだろ…?」

「っ!!じゃ、じゃぁ、行ってくる!」

「パーティあるから早く帰ってきてよっ!?」

 

そして、修は佐藤さんのいるところに瞬間移動(トランスポーター)の能力で消えていった

 

「はぁ~…やっと、終わった…後は、帰る…だ…け…」

ドサッ

「っ!?蓮兄っ!!!」

「もう…駄目…」

 

その場に倒れた俺を慌てふためき泣きそうな顔をしている茜の顔を最後に俺の意識は遠のいていった…

 

 

 

 

眼をあけると、見覚えのある天井と、慣れた布団の感触を感じる

 

「蓮兄っ!!…具合どう…?」

「…あ、あぁ。大丈夫だよ…ゴホッゴホッ!」

 

そして、俺が眼を開けたことで、茜が俺の視界に入ってくる

どうやら、茜に自分の家の布団まで運んで貰ったようだ

 

「ごめんな、茜…俺、気を失ってどれくらい経ったんだ…?」

「蓮兄が気を失ってから、そんなに時間は経ってないよ…でも、良かったっ!蓮兄、目開けて…!!私の家に行ったんだけど、今、みんなパーティの準備でお城に行ってるから居ないの…それで、蓮兄の鞄から鍵開けて寝かせたんだけど…どうしようってなって…!」

「…そっか、心配かけて、迷惑かけちゃったな…ほんと、ごめん…そうだっ…!パーティには間に合うのか…!?大事なパーティなんだろう…?」

「うん、今から準備すれば大丈夫っ!でも、蓮兄一人にするのは…」

「俺は平気…寝てれば大丈夫だし、母さんも今日は帰ってくるからさ…」

 

茜の泣きそうな顔を何とかいつも茜の笑顔に戻ってくれるように、元気な声を出して、安心させる

あんまり効果はないけど…

 

「本当っ?でも、それまで、一人になっちゃうよ…」

「心配すんなって。風邪薬飲んで、寝てれば。すぐに母さん帰ってくると思うし。茜は、この国の王女として、パーティに行くんだろ?俺なんかに構ってちゃいけない。それに茜がいると、うつしてしまわないかって心配になっちまうからさ。茜は茜のやるべきことをしに行くんだ、な?」

「…わかった…そうだ、お母さんが来たら、連絡してっ!そしたら、安心するしっ!」

「そうだな、了解。メールするな。さ、もう時間ないだろ?楽しんでこいよっ」

 

そして、茜は自分の家へと帰っていった

 

さて、どうしたものか…今、何度くらいかな…体温計は一階だし…下に行くか…あ~…目の前がぐらぐらして、遠のいてる感じ…

 

やっとの思いで、布団から立ち上がると、俺がいつも学校に持っていくスポーツバッグの中に入っていた携帯が鳴る

そして、携帯を取り出し、見るとメールが来ていた

 

内容はいたって普通の内容…始めて送られてきた内容であるわけでもない…

ただ、今日はなんだか…胸が締め付けられた…

 

"今日、急遽、夜勤交代で担当することになった。御飯は、何か買って食べてっ!"

 

どうやら、母さんは、今日帰ってこないらしい…つまり、今夜は、俺一人のようだ

 

"わかった、適当に弁当買ってくる。仕事、頑張れ"

と、母さんにメールを送る

 

その後、

"母さん、帰ってきた。心配かけたな。運んでくれてありがとうっ!パーティ楽しめよっ!"

と、メールを打つ

そして、

"後、俺が熱出したって他の奴に言うなよ~心配かけて、パーティ台無しにしたくないからさっ!内緒なっ"

茜へとメールを送った…

 

まっ、俺のことを話している時間もないと思うけどな…昔、俺が倒れたときには、櫻田家家族が全員飛んできたからな…あれには、驚いた…

 

携帯を持ち、ふらふらする体で一階へと向かう

 

 

一人の夜は、まだ続きます

 




中途半端に終わりました…すみません…
今回は、前編と後編に分けております。
次回をお楽しみにっ!

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