城下町のダンデライオン-ちょっと変わった生活-   作:ダラダラ

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こんにちは、ダラダラです。
名前の通り、ダラダラしています。

今回は、茜ファンクラブ会長の福品君の話なのですが、完全にサブになってます。
申し訳ございません。

そして、ご感想・お気に入りに登録・投票をして頂いたたくさんの方々にこの場で御礼申し上げます。
今まで、しっかりとご挨拶をせず、申し訳ございませんでした。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


第7話 永遠はないよ

「だから、何もないって!」

「嘘だぁ!絶対なんかあったに決まってる!」

「んな、決めつけられても…はぁ、面倒くさい…琢磨に言ったのが、そもそもの間違いだったか…」

 

はぁ~…いい加減に面倒になってきたな…

 

自分の席で、肘を付きながら、前でぎゃいぎゃい騒ぐ琢磨の声を聞き流すことにする

 

ここは俺たちの教室で、今は登校時間だ

本日の朝練習は、朝礼会のために、少し早く終わり、俺と琢磨、翔は教室で話をしている

 

そして、琢磨が俺の前でぎゃいぎゃい言っているのは、先週の土曜日に葵と映画に出かけたことについてだ

どうして、相談してしまったのか…そもそも、琢磨に言ったことがミスだった…翔だけに言えばよかった…

 

「おっ!グッドタイミング!!」

「げっ…!」

 

琢磨が「教えろ教えろ」と、うるさい時、俺にとってはバッドタイミングに登校してきた菜々緒・静流

 

「げっ!って何よ!朝、会ったら挨拶でしょ!」

「反対に琢磨はグッドタイミングなのね」

「先週の土曜日、蓮斗と葵ちゃんで映画に行ったんだってよ!今、そのことについて問いただしてたんだ!!お前らも手伝え!」

 

静流の言葉に琢磨は意気揚々と今の状況を説明する

これからのことに、思わずため息を吐いてしまう

 

「あぁ~葵から聞いたよ。でも、映画に行って買い物しただけなんでしょ?」

 

菜々緒の言葉に俺も琢磨も唖然とする

あれ…?意外とまともな反応だ…そうか、確かに、琢磨はずっと叫んでいるけど、面白いことが好きなのは翔も同じ

だけど、翔は特に何も聞いてこない…

つまり、やっぱり琢磨(こいつ)はバカなだけってことか…

 

「え!?だって、映画だぜ!?絶対になんかあったに決まってる!!」

「葵から、日曜日に会ったとき、大体のことは聞いたしね~」

「まぁ、進展も何もなしのいつもと同じ休日ってことでしょ?」

 

なんか、ちょっと引っかかる物言いだが、菜々緒と静流の反応に楽になった

そして、「なんでだよ~!?」と、未だにうるさい琢磨(バカ)のことは放って置く事にする

 

「それより、卯月はまだ来てないのか?今日、朝礼会だけど」

「あぁ、たぶん、体調が悪いんだと思う。だから、今日の朝礼会も欠席ね」

「卯月が朝礼会とかで挨拶したところ見たことないね。この前、後輩が謎の生徒会長とか言ってたよ」

「一年生は、入学してから一回も見てないんじゃない?」

 

俺は隣の席にいるはずの卯月がいないと話をすると、菜々緒がそれに答える

そして、翔と静流の言葉に、苦笑してしまう

 

謎の生徒会長って…

 

 

 

 

葵がまたギリギリに登校してすぐに、全員が廊下で整列をする

朝礼会は、全学年の生徒が体育館に集合することになっている

そして、校長先生の長い挨拶が終わり、生徒会の連絡事項で終了となる時だ

 

「-続いて、生徒会長に代わり、櫻田副会長から生徒会より連絡事項です」

 

やはり、卯月は欠席のようだった

そして、副会長を勤める奏が壇上に上がり、挨拶をする

 

「-最後に、来週末、全校を上げて町内清掃活動実施します」

 

…町内清掃活動?なんだそれ…

 

「うわぁ、まじか。面倒くさいなぁ~」

 

俺の前に立っている琢磨がおもむろに呟く

 

「それにしても急だね」

 

そして、琢磨の前にいる翔は琢磨の方に振り返り、話に乗る

周りの人たちも面倒くさそうにしている

かく言う俺も思っていることだけど…

 

そういえば、この間、奏と一緒に帰ったときになんか言ってたな~行事がどうのこうのって、これのことか…

 

 

 

 

 

朝礼会が終わり、教室へと、俺と琢磨、翔の三人で向かっていた

他愛のない話をして、歩いていると…

 

「あの、すみません!」

「?はい、俺?」

「は、はは、はい…!そうです!」

 

突然、声を掛けられたような気がして、振り返ると一人の女生徒がいた

どうやら、俺に話があるようだ

琢磨と翔も一緒に止まる

 

「あの、少しお話いいですか…?」

 

その女の子は赤色のスカートとネクタイの制服を着ているので、1年生であるとすぐに分かったが、顔は初対面の子だ

 

「あ、君知ってる!確か、1年生で可愛いって3年の間でも有名の宮瀬菜穂(ミヤセナホ)ちゃんでしょ!?」

「…なんか、詳しいな琢磨…」

「…琢磨、怖いよ…」

 

琢磨が身を乗り出して、その女の子に聞き、俺と翔は、異常な琢磨に恐ろしさを感じた

 

「でも、俺も聞いたことあるよ。今まで、告白してきた男子の全員を振ってる超美少女だって」

「好きな人がいるからって理由で断っているらしいから、告白した男子共が血眼でその男を探してるとかも聞いたことあるぜ~にしても、本当に可愛いな~」

「お前ら、なんでそんなに詳しいんだよ…」

「知らなさすぎなんだよ、蓮斗は!」

「蓮斗は、他人の色恋沙汰に興味ないもんね」

 

翔もどうやら知っているようで、琢磨と今、目の前にいるえ~と…宮瀬さん?って子のことを語る

琢磨と翔の言うように、確かに興味はないけどよ…

 

まぁ、可愛い女の子って感じではあるな

 

「あの…」

「あぁ、ごめん、こっちで話ちゃって。それで、俺に何か用事?」

「は、はい…えっと、ですね…」

 

 

宮瀬さんは、そういうと、何か言い辛そうにしている様子で、視線が徐々に下がっている

それに、なぜか耳まで赤くしている

え…?俺なんかしたかな…?いやでも、今日初めて会ったし…

 

「っ!なるほどね…蓮斗!俺と琢磨は先に教室行ってるね~」

「お、おい!翔!俺、宮瀬さんとお話したい!!」

「いいから行くよ!琢磨!!」

 

すると、宮瀬さんを見ていた翔が何かに気付いたようだが、突然、琢磨の襟を掴んで、先に教室へと行ってしまった

 

なんだ、あいつら…

 

「あの、それで、何の用だったの?」

「あっ!すみません!その、今日の昼休み…お、おお…」

「お?」

「…お…屋上に!来てもらえ…ませんか!?大事な、話がありますので…」

 

宮瀬さんは、顔を真っ赤にしながら、俺の目を見て話してくれた

 

「…」

「だ、ダメで…しょうか…?」

 

俺は宮瀬さんの言葉に一瞬止まってしまう

そして、なかなか返事をしない俺を不審に思ったのだろう宮瀬さんは不安そうにする

俺が返事をできなかったのは、内容を察したからだ

 

「っ!…あ、いや、その、大丈夫だよ。昼休み、屋上に行くな」

「は、はい!お願いします!」

 

そして、宮瀬さんは去っていった

俺は宮瀬さんの言葉と、真っ赤にした顔、震えた手や足を見て、察した

俺だってそこまで疎くはないと思う

勘違いでなければ、たぶん…そういうことなのだろう…

それに俺だって、人に恋をしているんだ…

 

…勘違いだったらめちゃくちゃ恥ずかしいけどな…でも、もしかしたら…

 

俺は宮瀬さんが歩いて行った方を見つめていた…

 

 

その様子を葵に見られていたことも知らずに…

 

 

 

 

 

にしても、あの子と会ったことあったかな…?

たぶん、なかったと思うんだけど…

 

現在、授業をそっちのけにして、宮瀬さんという子のことを考えていた

昼休みに屋上へ来てほしい、大事な話があると言っていたが、もし、彼女が俺とどこかで会って話をしていたのなら、失礼だから、今までの記憶の中で彼女と話したことがあるのか思い出そうとする

しかし、一向に思い当たる節がない…

 

ダメだ、埒が明かない…

 

「…」

 

俺が授業も聞かず、考え事をしている時、葵がこちらに顔を向けていたことは知らなかった

 

 

 

 

 

昼休みになり、4時間目終了の挨拶を終えた後、すぐに席を立った

 

「あれ、蓮斗。今日は購買なの?」

「ん?いや、違う。ちょっと用事だ。すぐ戻るけど、先に御飯、食べててくれ」

 

翔の呼びかけに答えてから、屋上へと向かうべく、教室を出る

 

「なんだ、あいつ?トイレか?」

「…。さぁ、どうだろね。先に食べててって言ってたし、琢磨と2人なのは嫌だけど、食べよう」

「翔…最近なんか、俺への態度ひどくない…?」

「そんなことないでしょ?」

 

翔は笑顔で琢磨に言うが、正直に恐ろしい笑顔のようなきいがしてならない琢磨

 

「やっほー卯月の登場だよ~」

 

そこに、菜々緒がやってくる

その隣には、通学鞄をもった卯月がいた

 

「卯月、学校に登校して大丈夫なの?」

 

翔は、卯月に駆け寄ると、卯月はいつもの笑顔で答えていた

 

「はい、大丈夫です。ご心配お掛けしました」

「そっか…よかった…平気ならいいんだけど、無理しちゃだめだよ?」

「はい!」

 

そして、翔の心配そうな顔に卯月は申し訳なく思いながらも、笑顔で答えた

 

「おれ?蓮斗はどうしたのさ?」

 

そして、卯月の席へと、葵と静流も現われ、いつも通り、4人で卯月の席を囲んでいる

すると、菜々緒は、翔と琢磨が使っている蓮斗の席では、当の本人がいないことに不振に思い、質問をする

 

「あ~蓮斗ならどっかいったぞ~」

「用事があるみたいなんだ。先に食べててって言われたから、食べ始めようと思って」

「…」

 

琢磨と翔の言葉に、菜々緒・静流・卯月は普通に返事をしていたものの、葵は顔に影を落としてしていた

 

「(蓮、今朝話してた子の所に行ったのかな…しっかりとは聞き取れなかったけど、昼休みにどうとか言ってたよね…)」

「きっと、すぐに帰ってくるよ」

 

葵が思い悩んで、お弁当も開けずに暗い顔をしていた時、翔はそう言った

葵に面と向かっていったわけではないが、葵も気を取り直し、みんなで楽しい昼御飯を取り始める

 

 

 

 

ガチャッ

 

屋上の扉を開けると、今日は天気も気温も良好で、屋上は寝るのにうってつけの場所になっていた

 

「んぁ~…いい天気だな~…」

 

両手を空に伸ばして、背伸びをする

どうやら、宮瀬さんはまだ来ていないようだ

柵にもたれかかりながら、雲一つない快晴の空を見上げ、心地よい風に煽られていた

 

その時、階段を勢いよく走る音が聞こえる」

扉が開き、息を切らして入ってきたのは、宮瀬さんだ

俺がすでにいることに気付き、慌ててこちらまでやってくる

 

「すみません!呼び出しておいて遅れてしまって…!授業が延びて遅くなったんです…!ごめんなさい!」

「別に大丈夫だって!俺もそんなに待ってないし。それに息を切らしながら、走ってきてくれたんでだろ?大丈夫だよ」

「っ!…あ、ありがとうございます…!」

 

息を切らせながら、必死に謝られると、こちらまで恐縮してしまう

宮瀬さんは、走ってきて暑いのか、顔を真っ赤にして視線を逸らされてしまう

 

 

「-どう?落ち着いた?」

「は、はい!すみません。ありがとうございます!」

「特に俺は何もしてないけどな…」

 

息を整え終えるまで少し待つことにし、屋上の柵を背もたれに2人座っていた

 

「昼休みですし、御飯もまだですよね…?」

「まぁ、そうだけど、俺、食べるのは早いから大丈夫だよ」

「そうなんですか?」

 

2人他愛のない話をしながら、笑っていた

緊張が少し和らいでいるのか、宮瀬さんも自然な笑みを浮かべてくれている

そして、唐突に宮瀬さんは黙ってしまう…

 

「あの、日高先輩…今朝、言った大事な話をして…いいですか?」

「うん…」

 

宮瀬さんは、意を決したように話し始めた

お互い横に座っているので、真正面にいるわけではないが、俺は、一生懸命、言葉を紡ごうとする宮瀬さんを見る

耳まで赤くなった彼女は下に向けていた顔を、俺へと顔を向け、話始める

 

「…す、好きです…!好きです!私!日高先輩が、好きなんです!私と付き合ってください!」

 

宮瀬さんは、顔を真っ赤にし、今にも泣きそうな顔で俺を見ながら、気持ちを告白してくれた…

体を震わせ、今すぐこの場から逃げ出したい衝動を必死に抑えている…そんな感じがした…

 

その時、俺は彼女から視線を逸らせてはいけないと思った

一生懸命に気持ちを言葉にすることの大変さが俺にもわかるから…

だけど…

 

「…ごめん、その思いに答えられない」

「っ!!…そ、そう、ですか…」

「気持ちは嬉しい…ありがとう」

 

宮瀬さんの表情は一気に暗くなり、沈んでしまう

俺は、そんな宮瀬さんになにもできない…気持ちは嬉しい…俺なんかを好きになってくれたんだから…

だけど、俺にはもっと大事な人がいるから…

 

「はぁ~やっぱりダメでしたねぇ~!」

「えっ?」

 

すると、宮瀬さんは暗くしていた表情から一転、急に明るい声と表情で勢いよく立ち上がった

思わず、唖然として、俺は置いてけぼりにされる

 

「はっきり言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。結果は分かってたんですけどね?言わないで後悔するより、言って砕けたほうが前に進める気がしたんです。だから、言わせて貰いました!」

「そっか…」

「まともに話したこともなかったのに、告白がうまくいくはずないんですけどね…知ってました?私が先輩を会ったのは、私が中学1年生で、先輩が3年生の時なんです!」

「中学!?」

「へへっ、やっぱりそうなりますよね。話したって言うかも分からないくらいですし…1年生の秋くらいでした。スポーツ大会の時、男子はサッカーの試合をしていて、私のクラスと先輩のクラスが決勝戦で戦うことになったんです。男子が勢いよく蹴ったボールはコントロールが悪くて私にぶつかりそうになったんです。それを助けてくれたのが、先輩でした…。ハンドになるのに、手でボールを掴んで守ってくれたことが嬉しかったんです…。その後に、「大丈夫?怪我はない?」って言ってくれたことに嬉しくなって…。それから、先輩を目で追ったり、探している自分に気付いて、先輩が好きなんだって気付いたんです。楽しそうにサッカーをする先輩をずっと見ていました。そして、先輩がそれが、中1の冬です」

「え、じゃぁ…」

「はい、今は片思い4年目に入ったところですね…」

 

4年間もずっと俺を思っていてくれた…

 

「ありがとう、ずっと思っててくれて…」

「…は、い…」

 

一生懸命に語ってくれた話に、俺は立ち上がり、今度は向かい合わせになる

彼女の顔は、明るく元気な様子だったが、無理をしているのだろう…

手が震えていた…

 

「最後に、一つだけ、聞かせてください…先輩には、好きな人がいるんですか…?」

「…うん、いるよ」

「…誰、ですか…?」

「…教えられない。好きな人がいることは確かだけど、俺の口から最初に告げるのは、その人って決めてるんだ…だから、君には言えない…」

「…そう、ですか…」

「まぁ、結構、人にバレてるけどなっ!」

「…そうですね、私も知ってますよ。まぁ、予測ですけど…先輩のことをずっと見ていましたので!」

「なっ!?んじゃ、何で言わせようとしたんだよ…」

「先輩の口から言って貰おうかと思ったんですけど…でも、今ので先輩がその人に真剣なんだってわかりましたから…私もいつか先輩以上の素敵な人を見つけますからね!」

「あぁ、そうだな。それじゃ、俺、行くわ…」

「はい、呼び出しすみませんでした…来てくれた、だけで…嬉しかったです…!」

「うん、じゃぁね」

 

俺は屋上の扉を開け、そっと閉めた

その後、かすかにすすり泣く声が聞こえてきて、俺の心臓が痛んだ…

俺には何もできない…気持ちに答えることができないのに、半端な優しさは彼女を二重に苦しめることになると思ったから…

 

そっと、屋上を後にした

 

「ねぇ!天気いいし、屋上行かない?」

 

階段を降りていると、楽しそうに会話している2年生の女子数名とすれ違う

そして、聞こえた言葉にすれ違った後、思わず、足を止めた

 

「…なぁ」

「はい?っ日高先輩!?」

「…今、屋上言ってみたんだけど、今、立ち入り禁止になってるみたいで鍵が開かなかったから、裏庭に行ったほうがいいんじゃない?」

「あ、そうなんですか!!?あ、ありがとうございます…!!」

 

それだけ言い、その場を後にする

 

 

 

 

 

…さて、御飯でも食べるかな~

廊下を歩き、自身の教室まで向かう

 

ん?

 

「…そ、そうですか…そうですよね…~…」

 

教室の前では、葵と赤のネクタイをつけたメガネの一年生男子が何か話をしている

一年生がこの三年棟に来ることは珍しい…

 

何してんだろう…

 

俺からは、葵の背中と男の顔しか見えず、話の内容もかすかに聞こえるくらい…

だが、男の顔は恥ずかしそうに顔を赤くしていた…

 

「…」

 

その様子をじっと見ていると、

 

「告白かもね~」

「っ!!うわっ!ビックリしたぁ~…驚かすなよ、翔!」

 

突然、背後から迫り、耳元で囁く翔に、飛びのく

 

「っ!!つか、告白!!?」

「だって、あんなに赤くなっていい辛そうにしているんだよ?それに、葵ちゃんは可愛いから狙ってる子はたくさんいると思うよ~」

「っ!!」

 

葵がモテていることも、告白をされたことがあることも知っている…

王家だろうと、一般人と同じ生活をしているのだし、葵は美人で世話焼きだから、人気が高いことも知っている…

 

そして、王家に告白することがどれだけ勇気がいることかも知っている…

未だに告白の決意をできていない俺が言うことではないし、邪魔するなんてもっての他だ…

 

「葵ちゃん、どうするのかなぁ~って、蓮斗?」

 

俺は、教室へと再び足を進めた

 

邪魔してはいけない…

俺の脳には、一生懸命声を震わせながら、告白してくれた宮瀬さんが浮かんだ…

邪魔してはいけないんだ…これはあの2人の話…俺には、関係のない話…!

 

 

 

 

だけど…

 

「…葵、何してんの?」

「蓮!?」

 

教室の入り口を通り過ぎ、葵と一年生男子の下へと行く

葵の後ろに立ち声を掛けると、葵は特にいつもと変わらない様子…

問題は…こいつだ!

 

「葵になんか用なの?」

「っ!あ、いえ!!何でもありません!」

 

睨むつもりも、声を低くするつもりもなかった…たぶん…

ただ、思った以上に睨み、声が低くなっていたことは否めない…

結果、その男はさっきまで赤くしていた顔が一気に冷めている

 

葵の隣に立ち、俺の方が身長が高いようで、男を見下ろしながら、不機嫌オーラがいつにも増して出ていることに自分でも気付いている

それを止めなくてはいけない事も気付いている

しかし、感情とは恐ろしいもので、感情に押され、理性とのバランスを取れず、自我が調節出来なかった

 

「なんか、番犬みたいだね…」

「ほんとほんと、蓮斗って嫉妬するとああなるのね」

「いつも優しい蓮斗さんが、あのようになるのは驚きです…!」

「サッカー部内でも蓮斗を怒らせてはいけないって暗黙のルールがあるんだぜ」

「それって、あんたのルールじゃない?」

 

翔・菜々緒・卯月・琢磨・静流が教室の入り口からそっと覗き、俺たちの様子を観察していた

そんなことなど、露知らず、未だに睨みつけている俺に、葵が俺の服の袖を引っ張った

 

「蓮、この子は茜と同じクラスの子で、茜について相談があっただけだよ?」

「…え…?」

「今朝、奏が町内清掃するって言ってたでしょ?それについて…(後押ししてほしいみたいな内容だったけど…)」

「…はぁぁ!!?」

 

 

 

俺の絶叫が廊下に響き渡りました…

 

やばい…!めちゃくちゃ恥ずかしい!!!何、今、え…?恥ずかしいっ!!!穴があったら入りたい…!!

 

一年生の男子(福品(フクシナ)君というそうだ)が去った後、俺の体温は一気に上昇し、恥ずかしさで顔から火が出そうだった…

廊下の隅にしゃがみ、葵の顔を見ないようにする…

 

その時、嫌なやつらが登場

一部始終を見ていたらしい琢磨たち

 

「あっはっはっは!!蓮斗、やべぇ!めちゃくちゃ面白いじゃん!!」

「すっごい、勘違いしてたね~!!」

「葵になんか用なの…っ言ってたね」

「静流止めて!!笑いが止まらなくなるよ!!」

 

琢磨から始まり、菜々緒も大爆笑…静流に至っては俺のモノマネをし、俺の勘違いの要因である翔までも大爆笑…

 

「大体、俺と翔は、あの男子生徒のこと知ってるぜ?」

「はっ!?」

「だって、福品君は櫻田茜ちゃんファンクラブ会長だよ」

「はぁぁ!!?つーか、翔!!知ってたんなら、変なこと吹き込むなよ!!!」

 

琢磨と翔から言われた言葉に再び驚きで、叫んだ

しかも、翔に至っては知ってた上で俺を騙したんだからな…!

しかし、翔は急に近くまで来て、俺の耳元で囁く

 

「女の子を不安にさせた罰だよ」

「っ!はぁ?どいう意味だ?」

「…ねぇ、蓮斗。このままなんてないんだよ。時間が経てば気持ちも変わることだってあるかもしれない。それをなくすためには、動かないといけない。永遠なんてないんだよ」

「…マジで、何言ってんだ?」

「まっ、いずれ分かると思うよ~」

 

翔は何を言っているのかさっぱりわからない俺

 

 

 

 

「あれ、茜ちゃんじゃない?」

 

笑いも収まりかけた頃、静流が向けた視線の先には茜が3年女子に囲まれているところを発見

囲まれているといっても、リンチされているではなく、女子たちはおそらく興味本位で囲んでいるのだろう

しかし、人見知りの激しい茜は、涙目になり顔を赤くして固まっている

そして、固まっていた茜は、葵がいることに気付くと…

 

「お姉ちゃぁぁん!!」

 

泣き叫びながら、葵の方へと行き、葵に飛び込んだ

 

…なんで、葵には能力で飛び込まない…?

 

俺の心の声は茜には伝わらない

 

「茜っ!?三年棟に来るなんて珍しいね、どうしたの?」

「えっど…お姉ちゃん、生徒会長さんとお友達だったよね…?」

「う、うん…うちのクラスの子だよ」

「あ、やっぱり三年生だったんだ…」

「ちなみにそこにいるぞ」

「…え?」

「あ、はい!私ですが…」

「う、卯月さん!!?」

「生徒会長の卯月でぇす」

「高1とよく間違われていまぁす」

 

最後にふざけた静流と菜々緒はどうでもよく、茜はどうやら生徒会長を探しに来ていた様だ

 

 

 

 

 

 

そして、予鈴のチャイムがなった瞬間、茜は猛スピードで教室へと帰っていった

 

「結局、茜は、何しにきたんだ…?」

「なんだったんだろうね…?」

 

茜が去った後、俺と葵で茜が走っていったところを苦笑して見ていた

 

「…ねぇ、蓮…」

「ん?」

 

すると、隣にいる葵が俺を呼ぶ

葵の方へと顔を向けると、葵は俺を見上げながら、不安そうな表情で何かを話し始めた

 

「さっき…」

「蓮斗~葵ちゃん~授業始まるぞ~!!次、おっそろしい橋センだぞ!」

「おう!今行く!」

 

葵が何かを言いかけた時、先に教室に入っていた琢磨が入り口から顔を覗かせ、俺たちを呼ぶ声で、葵の言葉が遮られた

 

「葵、んで、なんの話だ?」

「…ううん、なんでもないの…気にしないで!」

「お、おう…」

 

葵はそれだけ言うと、困った顔をしながら、教室へと行ってしまった

 

なんだったんだろう…あの顔の時は、いつもなんか隠してる時だし…

 

「おい、蓮斗。本鈴は鳴っているぞ…さっさと、教室に入れ!!」

「すんませんっ!」

 

いつの間にか後ろにいた橋センの恐ろしい顔に慌てて教室へと入っていった

 

つか、俺、昼御飯食べてねぇ!!

 

 

 

 

 

 

放課後の部活の後の自主練習を終え、家へと帰った

今日は、両親共に早く帰れると朝言っていたので、櫻田家へとお邪魔することはない

風呂に入り、晩御飯を食べた後、自室で明日の準備をしておこうと思った時、古典の教科書が出てきて、あることを思い出した

 

「げっ!忘れてた…!今日、橋センが明日、これまでの確認テストをやるとか何とか…うわぁぁぁあ!!やばいぞ!!全く分からんってか…寝ててノートは白紙だし…」

 

しかも、テストは明日とか!橋セン、鬼だ!!

仕方ない…今は8時か…ちょっと遅いけど、連絡とって見るかな…

 

そして、携帯を手にし、ある人物にメールを送る

 

『明日の古典がヤバイです。ノート見せてください!』と、この内容でメールを送り、あて先はお向かいの家にいる葵だ

テストの前にはいつも助けて頂いてます…

 

そして、返信は意外と早く来て、内容は『いいよ』だった

 

よっしゃ!と思い、早速、葵の家へと向かう

 

 

 

「すみません…遅くに」

「いいのよ~葵~蓮君来たわよ~!」

「は~い!」

 

階段から降りてきたのは葵だ

 

「悪いな、葵。よろしくお願いします」

「テスト前はいつものことでしょっ!あ、先に私の部屋に行ってて。飲み物取って来るね」

「りょうかーい」

 

そして、階段を上がり、葵の部屋へと入る

これまでにも何回も来たことはある

葵が飲み物を持って部屋へと入り、予めセットして置いてくれたのだろう小さな机に飲み物を置く

そして、古典のノートと教科書をそれぞれ出し、葵のノートを写させてもらった

 

「あぁ〜腕、めちゃくちゃ痛ぇ〜…」

「もう、現代語訳も写してないのがいけないんでしょう?授業中、寝すぎだよっ」

「…はい、すんません…」

 

古文のノートを写させて貰っていたが、寝ていたので、先生が訳したものなど、聞いておらず、葵のノートを必死に写しております

 

「この話から、小テストが出るって言ってたから、古文単語と文法と、軽く訳を覚えていれば大丈夫だと思うよ」

「げっ、文法…!」

「はぁ、蓮。もう高3だよ…」

 

葵が俺の隣に来て、俺がノートを書くところに合わせ、そこの文章がどういう文法になっているのか、古文単語の意味など丁寧に教えてくれた

 

にしても…

 

「で、こうなって…」

「…」

「蓮、聞いてる?」

「っ!はい!聞いております!」

「…絶対、聞いてなかったね…もうっ」

 

そう言ってもう一度教えてくれるのは、いいのですが、

近すぎではありませんかねぇ…!!!?

俺だって一応、男子高校生で、好きな女の子の部屋で2人、こんな至近距離で話されると、緊張で胸が爆発するっての!!

 

「あ、あのさ、葵…さん…?」

 

この状況に耐えきれず、思わず近くで一生懸命教えてくれる葵に視線を向け、少し離れて貰うよう言おうとした

が、それがいけなかったのか、

 

「え…。っ!!」

「っ!!」

 

 

 

 

 

俺が呼んだことで葵は俺に視線を向けた

葵の瞳は大きく開き、驚く俺の顔が葵の瞳に映っていることがわかるくらいの近さ

思わず、じっと見つめてしまう…

は、離れないと…

 

至近距離にいて、お互いの顔はもう目の前…

 

 

視線があえば、もう…逸らせない…

息がかかる…

心臓の音だけが脳を響かせる…

 

あ、葵が目の前に……ヤバい…なんか、吸い寄せられる…ヤバい…

 

 

 

 

…したい…

 

 

伝わる熱くなった互いの体温

真っ赤に染まった顔を徐々に近づけていく

葵も真っ赤に染まった顔と視線を逸らすことなく、待っているように見える…

 

葵からもう視線が逸らせない…

ただ、欲求のままに体が動く…

 

後、数センチ…

 

「葵…」

「蓮…」

 

互いの名前を呼び合ったことが合図となり…

瞳をそっと閉じ…

 

 

ガチャッ・・・バタンッ!

「「っ!!!?」」

 

心臓の音しか聞こえなかった時に、突然、響いた隣の部屋の扉が開け閉めする音

その音で2人とも一気に我に返り、さっと、離れる

 

お、おおおおおれ今何しようとしたぁぁぁ…!!!?

 

口元を手で押さえ、破裂しそうなほどになっている心臓と熱くなった体温に思考が混乱する

 

何やってんだ、俺!!?

葵とは付き合ってもいないのに、勝手に手を出そうとして…!!!

 

葵の方を見ると、視線を逸らし、真っ赤にした顔を両手で押さえていた

 

「あ、あ葵…」

「っ!!は、はいっ」

「あ、その…」

 

何話していいか、わかんねぇぇぇ!!!

 

頭が真っ白な状態でこの先どうしろと…?

 

そうだ…未だよな…今、動かないと…

葵に気持ちを伝えないと…

 

ふと、今日、宮瀬さん、そして翔が言っていた言葉が蘇る

"言わないで後悔するより、言って砕けたほうが前に進める気がしたんです"

"…ねぇ、蓮斗。このままなんてないんだよ。時間が経てば気持ちも変わることだってあるかもしれない。それをなくすためには、動かないといけない。永遠なんてないんだよ"

 

言わなきゃ…今、言わなきゃどうすんだ…

 

「あ、葵…」

 

俺は思わず正座をして、葵に向かう

 

「お、俺…

 

 

 

古文のテスト頑張るなっ!!」

「…へ…?」

「いやぁ~葵のノートって流石だよ!!これで明日のテストはきっとバッチしだな!!」

 

って、何言ってんだ、おぉぉぉぉれぇぇぇぇぇえ!!!!!!

 

「…うん、そっか。頑張ってね?」

「お、おう!!んじゃ、もう遅いし、帰るな!」

 

そういうと、物凄い速さで物を片付け、葵の部屋から飛び出す

 

「んじゃなっ!!」

「あっ、蓮!!」

「お邪魔しましたぁぁ!!!」

 

俺は家に帰り、自室に猛スピードで入ると、その場でしゃがみこむ

 

マジで…

 

何やってんの、おぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

あぁ、あそこで告白しろよぉぉ!!!

 

心臓の音がまだまだ、鳴り止まない…

 

俺って、バカなのかな…琢磨よりバカなんじゃないか…!!!?

うわぁぁぁあ!!!!

 

一人、頭の中で盛大に叫んでいました…

 

 

 

「…蓮のバカ…ふふっ」

 

先ほどまでいた葵の部屋では、一人取り残された葵がベッドに横になり枕を抱き、まだ、先ほどの熱の余韻があるものの、嬉しそうに笑っていたことを俺は知らない

 

「俺のバカぁぁぁあ!!!!」

「蓮斗!近所迷惑でしょ!!あんたがバカなことは誰でも知ってるわよ!!!!」

 

前にもあったような構図…

下から聞こえる母さんの叱りを聞くこともなく、頭を抱えていた蓮斗であった

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、書けなかった町内清掃から入りたいと思います。
読んでいただきありがとうございます!

あ、後、一つ
今回登場した宮瀬さんというオリジナルの子は、もしかしたら、今後も出てくるかもしれませんね?
とだけ、言っておきます

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