城下町のダンデライオン-ちょっと変わった生活- 作:ダラダラ
さぁ~第五話です。今回もは、大分オリジナル展開になっております。
そして、毎度のことながら、アニメと漫画がごちゃ混ぜです!
ご了承ください
―追伸―
今回はちょっとシリアス展開…
感想で面白いと言って下さった方、申し訳ございません。
シリアスです…
でも、読んでほしいです!
皆さん、始めまして、櫻田家・三女の茜
花をも恥じらう15歳です
我が家はごく普通の11人家族なのですが、うちのお父さんはこの国の王様でして
つまるところ、私達一家は、この国を治める王家の一族なのです
しかし、私たちは、国王であるお父さんの方針で、ごく普通の生活をしています
私達王家の一族はそれぞれ特殊能力を持っていて、それが王族の証ともなっています
私の能力は自身と自身が触れたモノにかかる重力を操ることができます
こんな風に、家の階段を降りるときにも使えます
「修ちゃん、おはよう」
「…パンツ見えるぞ」
「っ!!」
バッ!
…ですが、使い所は要注意
洗面所に向かうと、三女の岬と、次女のかなちゃんが居て、学校へ行く用意をしています
「おはよう、カナちゃん、岬」
「おはよう~」
「今頃起きたの、茜?今日、委員会あるんだけど」
「…え?」
「クラス委員も参加しなくちゃいけないって言ったでしょ?」
「あぁ!!」
私達が通う桜華高等学校の2年生で生徒会の副会長をしているカナちゃん
そして、私は自分のクラスの代表として、クラス委員をしています
でも、今日の朝の委員会活動については忘れていました…
「カ、カナちゃん待って!」
「…玄関で大声出さないで」
私が朝食を食べ始めようとした時、カナちゃんはもうすでに玄関で学校に登校しようとしていました
それに驚き、朝食のパンと鞄を持って、玄関へと私も走ります
「なんでこんなに早く出るの?まだ時間あるよ?」
「うるさい。アンタと一緒に登校したくないからよ」
「えぇ!?」
「行って来まーす」
「そんなぁ!」
かなちゃんは私をおいて、先に家を出てしまいました…
私は急いで靴を履き、カナちゃんを追います
その時、玄関の向こうからかなちゃんの声が聞こえます
「あら奏様、おはようございます。今日はお早いんですね?」
「おはようございます。臨時で生徒会の招集ありまして」
どうやら、近所の方と朝のご挨拶しているようでした
「あらあらお姫様も大変ねぇ」
「いえ、そんな…王族だからといってその様な義務はありませんわ。好きでやっていることですから」
カナちゃんはいつものような声音や口調ではなく、丁寧で優しい言い方をしています
これは、カナちゃんのいつものことですが、家族の中で見せる顔と、外で見せる顔は違っています
今もきっと、カナちゃんの周りにキラキラと星が輝きそうなほど、いい笑顔をしていることでしょう…
「待って~!!」
私は家を飛び出し、カナちゃんに追いついて、一緒に登校をしました
途中、カナちゃんが私をおいて走り出したり、私が車に引かれそうになった所を間一髪、カナちゃんの能力・
そして、委員会が行われる教室に向かって、廊下を歩いているとき、廊下の窓から見えるサッカー部のグランドでは、サッカー部員が一生懸命汗を流しながら、朝の練習に励んでいました
「あ、カナちゃん!蓮兄がいるよ!ほら、あそこ!」
「…サッカー部なんだから当然でしょ?」
「…なんか、サッカーしている時の蓮兄って、生き生きしてるよね~楽しそう」
蓮兄は、汗を拭いながら、真剣にサッカーの練習を姿でした
「そういえば、修ちゃんも蓮兄の一生懸命な姿に感化されて、サッカーをやり始めてたよね?」
「っ!えぇ…そういえばそうだったわね」
私はサッカー部を見ながら、カナちゃんと話していたので、カナちゃんがどんな顔をしていたかに気付きませんでした
蓮兄がサッカーに夢中になり、走っている姿はいつもカッコよくて、私も修ちゃん同様、憧れていた
この人はなんて楽しそうにサッカーをするのだろうかと思いました
小さい時から、何度も蓮兄の試合を見に行きましたが、その中には当然、負けてしまった試合もたくさんありました
だけど、蓮兄は負けている試合でも、楽しそうで、何故か笑っていたことに私は驚いたことがあります
そのことを、隣で見ていた葵お姉ちゃんに聞いてみたことがありました
お姉ちゃんは、その質問に何かを思い出したのか、笑いながら答えてくれました
「だから、サッカーは面白いんだよ!って言われたことがあったよ。勝ちたいのは、当然。でも、負けて悔しくてもっと頑張ってうまくなりたいと思うのも、サッカーの面白い所だって、蓮は笑ってたよ」
そう、答える葵お姉ちゃんの視線の先には、一生懸命ゴールを目指す蓮兄の姿がありました
「葵お姉ちゃんは、いつから蓮兄のこと好きだったのかな?」
「さぁ?葵姉さんはあんまり、自分のことは語らないし…でも、蓮兄さんに恋心を抱いてるって自覚があるのかもわかんないわよ?姉さんはしっかりしているけど、偶に抜けてる所あるし」
「カナちゃんもだけどね~」
「うるさいわね…っていうか、葵姉さんより、茜は蓮兄さんのこと、どう思ってんのよ?」
「え?どうって…?」
「蓮兄さんのこと、異性として好きなのかってことよ!あんた、兄さんにいっつも懐いてるじゃない」
「…え?え、えぇぇ!!?な、ななな何言ってんの!?蓮兄は、大好きだけど、そっちじゃないよ!!私にとっては、頼れる優しいお兄さんって感じで…好きだけど、家族としての好きってことであって…とにかく!そんなんじゃないよぉぉぉ!!!」
「…分かったから、静かにしてくれない…?」
「だって、カナちゃんが変なこと言うから…」
カナちゃんがいきなり変なことを言うから、私は顔を赤くしていまいました…
確かに、蓮兄は好きだけど、やっぱり頼りになるお兄さんって感じにしかならないな~…
優しいし、面白いし、私たちのことを大切にしてくれる良いお兄ちゃん
幼なじみでご近所のお兄さんではあるけど、私達全員、蓮兄は櫻田家の一員です
蓮兄は、私たちのことどう思っているのかな…?
その時、蓮兄と一緒にパス練習をしていた男の人が変な方向へ飛ばしてしまったボールを、蓮兄はおそらく文句を言いながら拾いに走ってきました
その時、視線に気付いたのか蓮兄が私達の方を見上げたので、私は蓮兄に手を降ります
「蓮兄!おはよう~!」
「おぉー!茜、奏~委員会か~!?」
「うん!そうだよ!蓮兄も練習頑張ってねぇ~!」
その時、カナちゃんが腕時計を見て、時間を確認すると、委員会の開始時間丁度になっていました
「うわっ!もうこんな時間じゃない!!遅刻よ!!」
「え!本当だ!」
「茜、早く行くわよ!!」
「蓮兄!バイバイ!」
「頑張れよ~!」
「…」
蓮兄に挨拶して、カナちゃんと二人、委員会のある教室に急ぎました
-俺は、朝練習のメニューで琢磨とパス練習をしていたのだが、必殺!ミラクルパス!とか言うネーミングセンス皆無のパスを琢磨が出した
そのパスは、変な方向に高々と飛んでいって、俺はため息が盛大に出る
「はぁ~…面倒くさいな~」
そのボールを仕方なく、俺が取りに行くことに…ちなみに琢磨は、練習中に馬鹿なことをしていたため、橋谷監督とキャプテンの孝也にシバかれている
ボールは大分端っこの方にまで飛ばされていた
それを拾おうとしていると、誰かの視線を感じ、そちらに目を向ける
すると、少し距離のある校舎の中から、茜と奏がこちらを見て、茜が俺に向けて手を振っていた
「蓮兄!おはよう~!」
「おぉー!茜、奏~委員会か~!?」
「うん!そうだよ!蓮兄も練習頑張ってねぇ~!」
おそらく委員会活動の何かだろう
その時、奏の焦っているような態度で、時間がないことに気付き、急いで二人向っていった
「蓮兄!バイバイ!」
「頑張れよ~!」
「…」
茜は手を振ってくれるが、奏はちらっとこちらを見てから、さっさと行ってしまった
奏のあの態度はいつものことだ
茜のように人前や公共の場で余り素の自分を見せたがらず、見栄を張っていた
それは、国王選挙に勝つためであろうが、それでも、自由気ままな他の兄弟とは大違いだ
それに、奏はどうやら俺がサッカーをしている時、嬉しそうな顔をしない
いつもは普通なんだが、時折、俺がサッカーの練習をしている時や、サッカーについての話になった時には、一瞬暗い表情になる時がある
そのことに気づいている奴・そして、何故かのりゆうについて知っている奴は、そんなにいないだろう
「お~い!蓮斗!!早く~!」
「おぉー!って、お前が変なところに飛ばすからだろ!!」
琢磨が馬鹿みたいにジャンプをして手をこちらにぶんぶんとッ、振っているのが見える
本当に馬鹿みたいだ…
朝の練習が終わり、琢磨と翔と俺たちの教室へ入っていく
自席に着くと、隣の席の卯月と、その回りに菜々緒、静流、そしていつもより早く登校している葵がいた
「おーす。葵、今日は早いんだな。いつも朝練習終わった俺らと同じくらい、遅刻ギリギリの時間に来るのに」
「おはよう。今日は茜が居なかったから、結構早く着いたの」
「あぁ~そういや、茜と奏に練習中に会ったよ。すっげぇ、慌てて委員会に行ったみたいだけど」
「あ、やっぱり…」
俺は自分の席に鞄を起きながら、葵と話していると、菜々緒があることを思い出す
「そうだ!確か、今日の体育って、2年生のクラスと私たちのクラスが野球の試合するんだよね?そのクラスって、奏ちゃんのいるんでしょ?」
「そういえば、奏も昨日の夜、負けないって言ってたよ」
「奏ちゃんのクラスとか~それはちょっと、手強いかもねぇ~」
「奏さんは、、運動神経が良いですもんね」
「何言ってんの!?うちのクラスには、葵が居るでしょ!」
「私、そんなに野球、うまくないよっ」
どうやら、今日の5時間目の体育は、2年生と合同で、女子は野球をやるそうだ
確か、男子もそうだったはずだ
奏がいる2年のクラスってことは、男子には修がいるってことか
あの二人、同じクラスだしな
「ねぇ、蓮斗。男子はなにすんの?」
女子だけで話していたが、そこで、菜々緒が俺に問う
「あぁ、俺たちも、2年のクラスとサッカーやるっていってたわ」
「サッカーなんだ!じゃぁ、楽勝なんじゃない?蓮斗いるし」
「さぁ、どうだろな~。修のクラスにも、サッカー部の部員はいるし」
ただ、修は試合には出られない…
あいつは激しい運動のできない体になっているからだ…
「蓮兄!!俺も蓮兄みたいにサッカー、うまくなって、一緒にプロになろう!!そして、ワールドカップで優勝しよう!!この国を一番にするんだ!!」
小さな時の記憶が思い出される
まだ、修がサッカーでプロになることを夢見て、俺と一緒にボールを追いかけていた頃のことだ…
「…」
「…蓮?大丈夫?」
「っ!あ、あぁ、なんでもない。ちょっと、ボーっとしてた」
「そう…?」
思わず、授業の準備をしていた手を止め、思い出に耽っていたところを、葵に呼び戻される
そして、SHRが終わり、午前の授業が始まる
だが、今日も今日とて眠い授業です…
あぁ~ダメだ…視界がグラついてる…
肘を立て、ペンを持ちながら、俺は眠りの世界へと旅立つ
「(蓮ったら、また寝てる…蓮、まだ少し気にしているのかな、修君のこと…)」
葵が先生にバレない程度、一番後ろの席の俺を見ていたことを、俺は知らない
昼休みで昼食を食べた後、俺たちは男子更衣室へと行き、体育の準備をする
「2年生の奴らを完膚なきまでに叩きのめしてくれるわ!!」
「張り切ってるね~琢磨」
「逆に叩きのめされてたら、面白いのにな」
「おい!!」
安定の翔と俺の琢磨弄りを終えて、俺たちはグランドへ
2年生男子のほか、女子の2・3年もここで体育をするようだ
「お~い、お前ら女子も絶対に勝てよ!!」
「もう、男子が勝った前提になってるじゃん…」
「勝ったも同然よ!なんたって、うちには蓮斗が居るんだからな!」
「蓮斗便りなのね…そこは、自分で点を取りに行きなよ」
女子のほうに居る葵たちに向けて手を振り、大声で勝利宣言をする
菜々緒と静流のツッコミは最もだ…
その声は当然、2年生男子にも聞こえていた
視線がやばいぞ~…こんな大声で叫んで、恥ずかしくないのか…こいつは…
勝つことに執着心を持つことは大切だけど、度が行き過ぎるのも問題だ
それに、こいつはきっと、サッカー経験がないやつも含まれる体育の授業だから、天狗になっているんだろうな…
そして、先生が来たため、男女別れての授業が始まった
「え~今日は、2年生対3年生のサッカーゲームを行うそれぞれ、AとBのチームを作ってくれ。2年Aチーム対3年Aチームで先に試合をし、その後、2年Bチーム対3年Bチームで試合をする。それでは、まず、チームに分かれてくれ」
「蓮斗!一緒のAチームになろうぜ!」
「あぁ、まぁ、良いか。翔は?」
「俺はBチームに行くよ。3人、サッカー部が固まったら、ダメだと思うし」
「流石は、翔だ。琢磨と大違い…」
「うるせぇ!!」
翔は、Bチームのところへ行き、俺はAチームに入る
そろそろ、人数が固まってきた頃、3年の人数は多いことが分かり、2年の人数が少ないことが発覚した
「そうか…そうだな、日高!」
「?はい」
「お前、2年のチームに入ってくれないか?3年Aチームは人数多いみたいだし、サッカー部が二人になっているだろう。だから、2年の助っ人になって貰いたいんだが」
「あぁ、俺は別に構いませんよ」
「なぁにぃぃぃ!!!!?」
先生の提案で、俺が2年生のAチームに入ることになった
その時、琢磨は悲痛なまでの叫び声を上げ、何故か2年生のサッカー部員は歓喜を上げていた
ってか、2年のこのクラスにもサッカー部員が4人もいるじゃねぇか…まぁ、いいや
琢磨の根性を叩き直すいい機会だな
2年と同じ色のギブスを着て、まず、俺とサッカー部員2人が入った2年Aチーム対琢磨が入った3年Bチームの試合を行うことに
その時、グランドの端、木陰にあるベンチで、制服姿の修に気付く
修は俺には気付かず、青く晴れ晴れとした空を見上げていた
…先ほども述べたように、修は激しい運動ができない。そのため、この授業だけでなく、これまでもずっと、体育は見学してきた
昔、サッカーをうまくなりたいと言って一緒にサッカーボールを追いかけ、一生懸命に練習していた姿を見ていた俺は、どうすることもできない自分に至極腹が立ったことを覚えている…
「では、試合を始めるぞ!」
先生の声で俺は考えることを止め、目の前の試合に集中し、ゲームがスタートする
…結果、2年Aチームの圧勝に終わった
琢磨は意気消沈し、端っこで項垂れていた
あいつ、恥ずかしい奴だな…でも、可愛そうとは思わない、当然だ
そして、次のBチームが試合をスタートさせた
俺は、見学をしている修に近づく
「よう、修」
「蓮兄。すごかったよ。流石だな」
「そう言って貰えて嬉しいよ。でも、まだまだだ…もっと、強くなりたいと思ってる」
「きっと、プロになってくれよな。それで、ワールドカップで優勝してくれ」
「ははっ、修王子様から言われたら、絶対にプロにならないとだな」
「いや、王家とか関係ない。俺が憧れた蓮兄には、夢を叶えて欲しいって思うぞ。俺は、ピッチの上で、楽しそうにする蓮兄に、憧れたんだからさ。俺はサッカーをすることはできないけど、応援することはできる。蓮兄のファン第一号は俺だから」
修はいつになく、真面目な顔で語るため、こちらの調子が狂ってしまう
「修が真面目な顔をする時はたいてい、変な言葉を発するときだから、調子が狂うな…」
「…何気にひどいぞ」
「…悪い悪い。ありがとな、修」
体育の授業、木陰の下のベンチで、体操着の俺と制服姿の修でサッカーの試合を見ながら、語り合った
…修、だけどな、俺の夢はそれだけじゃないんだ
「ん?」
その時、考え事をしていると、ふと視線を感じる
その方向に顔を向けると、野球の試合をしている奏からだ
俺が振り向くと、奏は視線を逸らし、野球に集中する
「どうしたんだよ、蓮兄」
「…いや、なんでもないよ。女子の試合はどうなっているのかな~って」
「あぁ、奏と葵姉さんの試合か?二人とも運動神経良いからな~でも、葵姉さんはやる気なさそうだけど」
「奏の勢いに押されそうだな…」
おそらく先ほど、奏が見ていたのは、修だろうな…
奏にとっては、体育の授業でサッカーをやること、そして、その中に俺が居ることで気になって仕方がないって所だろう
それを近くでやられると奏にとっては、この授業は精神的にきついのかもしれない…
体育が終わり、俺たち3年生男子は、Aチームが負け、Bチームは翔の活躍で勝った
女子は奏の活躍で、2年生が勝ったようだ
「失礼しました」
放課後の部活動を終えて、俺は一人グランドに残り、練習をしていた
そして、自主練も終え、サッカー部の部員は、俺しか残っていなかったので、更衣室の鍵を閉め、職員室に届け、現在は昇降口に向かって歩く
その時、
あれ、奏かな?
暗くて確証はないが、奏らしき人影がみる
「お~い、奏?」
「はい?蓮兄さん」
俺が呼んだ声で振り向いたのは、やはり奏だった
「こんな時間まで委員会か?」
「えぇ、今度、行われる予定の行事について仕事があったもので」
「行事?」
「それは、来週、行われる朝礼会の時に言いますわ」
何故か、奏の笑顔に嫌な予感しかしない…
「蓮お兄様は、今までサッカーの練習ですか?」
奏は門を出た後に、急に態度が変わり、先ほど咄嗟に出たのだろう"蓮兄さん"が、今出ている"蓮お兄様"に変わっていた
外面のいい奏さんに一瞬で変身…末恐ろしい子…!
「あぁ、そうだよ。自主練だけどな。サッカー部のみんなはもう帰ったよ。そういえば、奏は、国王選挙、頑張っているみたいだな」
「えぇ、もちろんです。必ず、国王になりますから」
「誰かに協力してもらえばいいのに」
「一人でできます!他人の手を借りるのは尺ですから」
最後の方はとても小さい声だったが、隣である俺には聞こえた
…見栄張り…
「それに…一人で国王にならないと、修ちゃんに償いができないから…」
「…」
奏は無意識だと思われる言葉を俺は聞き逃さなかった
たぶん、今日の5限目の授業が心に残っているんだろうな…修のこと見てたし…
奏が、修への償いと呟いたり、今朝のように俺がサッカーをすることで奏が暗い顔をしたり、体育で見学をする修を見たり、といったことは全て、昔に起きたある出来事が原因であった…
「そうだ、奏。今日の体育、めちゃくちゃ活躍してたな~見てたよ」
暗い顔をしていた奏の気をこちらに戻させ、話題を変える
「っ!えぇ、今日の試合を全力を出しましたので」
「葵はやる気がなかったしな~お前は、負けず嫌いだから本気だったんだろうけど」
「別に、負けず嫌いではありません」
「嘘つけ」
相変わらず、奏は畏まった丁寧な口調で、会話をするが、俺と奏の間には、いつも通りの平穏な空気が流れ、会話は自ずと弾んでいった
しばらく、そう歩いていると、いつも通る道のところに空き地があった
だが、その空き地がいつもと異なっている…
「え、何?これ…え…?」
いつもと異なる理由…空き地には、黒くて巨大な無質の壁が立っていた…
怖ぇ~…ってか、よく倒れないな…何これ?
「なぁ、奏。何これ?え、壁?これ何か知ってるか?」
「…」
俺が空き地から奏へと視線を向けると、同時に奏は隣にいる俺から視線を180度逸らす
「…」
「…」
「…奏ちゃん?」
「如何致しましたか?連お兄様」ニコッ!
奏のきれいな口調と笑顔は、完璧なのだが、奏の後ろにある負のオーラは俺に圧力を掛ける
恐ろしいまでに…
その圧力に気圧される俺ではない!
「…なるほど、これ、お前が生成したんだな。で、何があったわけ?」
「…。」
まだ、喋らんか!!…あまり聞かれたくないことなのか…?
まあ、何も無いのならいいが、お金に関して一番しっかりしているはずの奏が、こんなバカでかい壁を作った
それに、これはきっとただの壁ではなく、何か特殊な壁なのだろう…
今一緒にこの空き地にある壁を見ているということは、朝登校中に何かあったってこと…確か、茜と一緒だったよな…
奏は茜や家族に何かあれば、きっと取り乱してしまう…いつも俺や家族の前では冷静で、外ではいい子を装っているが、家族のことで何かあればきっと取り乱してしまうだろうからな
俺は思考を総動員で働かせ、理由を考えたが、答えはすぐになんとなく気付いた
「なるほど。なんとなく分かったわ」
奏にそういうと、奏はバッと顔を上げる
「な、何がわかったって言うんですか?」
「ん~?奏がなんであれを作ったのかってこと」
「どうしてだと思ったんですか?」
「言っていいの?」
「間違っていれば、今度、何か奢って貰います」
「何その訳のわかんない理屈…まぁ、いいや。俺が思ったのは、今朝の茜と一緒に登校している時、茜の身に何か起こった。そして、奏は、咄嗟に作ったのがあの壁…急だったからこそ、無駄に大きくなっちゃんだろ?」
「…探偵か何かですか?」
「ちげぇよ…お前らのこと見てれば、大体のことはわかるし。二人ともなんともないんだろ?」
「はい…」
「そっか…ならいい!よく頑張りました」
俺は葵や茜、栞たちについしてしまういつもの癖で、奏の頭に手を置き、撫でる
「子ども扱いしないで下さい!」
「あ、やっぱり?」
奏は、俺の行動に顔を少し赤くしながら、怒ってしまう
俺はその様子に、思わず、口角を上げて笑う
そして、俺と奏は一緒に帰り道を歩いていった
家へとつき、ご飯も風呂も終えてから、自室に上がり、ベッドに飛び込む
バタンッ
「ふぅ~…」
ベッドの枕に顔を埋めていると、ふと今日、帰り道に奏が言っていた言葉を思い出す
「それに…一人で国王にならないと、修ちゃんに償いができないから…」
あれは、奏の心も声…奏がずっと抱えているもの…
その理由は、あることがきっかけが原因だった…
―ずいぶん前の話だ
俺はその時の現場に居たわけではないから、後から聞いたことだ
家の留守を任されていた、幼い修・奏・茜の三人は、奏の提案で、公園に遊びにいったそうだ
当時の奏は、子どもなんだから当然だけど、今のようにしっかりしていなかった
修は、今と変わらず、飄々としていても、的確なことを言う大人じみたところがあったな
奏は留守番より公園で茜と遊びたいと言い、修はそれを止めたそうだが、茜は公園で遊びたいらしく、結局、3人で公園に行ったそうだ
そして、修がそろそろ帰ろうと言う言葉に、茜も乗り、まだ茜と遊びたい奏は、茜の気を引くため、自身の能力・物質生成を用い、大きな城を生成した
だが、奏の能力には限界がある
それは、生成した物に等しい金額が、自身の預金口座から引かれていくこと…
当時の奏は、今のようにお金に関して几帳面ではなかった
その事が災いし、奏が生成した大きな城は、残高では完全に生成できず、城は倒壊してしまったそうだ
そして、その真下には茜が居た
修は、茜を助けるために、飛び込み大怪我を負ったのだ
救急車で急いで搬送されたものの、修は、激しい運動ができなくなった
修のサッカー選手になる夢が断たれた
その惨状を目の前にした奏の心には、今も傷が残っている
自分のせいでと思い、修に償わなければと考えているのだろう―
俺がサッカーをする姿を見ると、暗い顔をするのは、俺と修が一緒にサッカーをしている所をずっと見ていたからだろう
だから、俺もサッカーに関することはなるべくこいつの前で言わないようにしている
同情とか情けとか、そんなのではなく、ゆっくりと傷が癒えてくれるのを待つために
そして、もう一つ、奏が国王になる理由…
奏は誰にも言っていないようだが、俺は、以前、奏が貯めていた大金を医療関係に資金援助していると聞いたことがある
スポーツ医療センターにも寄付しているそうで、よく通う俺はその噂を耳にした
奏は、きっと、国王になって、医療に全力を注ぐつもりなのだろう
修の足を治すために、もとの体に戻せるように、医療の発展を目指しているのではないかと、俺は思う
…俺はそうやって努力をする奏を応援したい
だから、俺の国王選挙の投票は、奏だ
奏には、誰にも言わない夢がある
そのために、奏は今必死に頑張っているんだ
だが、それは俺も同じだ…
修がサッカーができなくなったと聞いたとき、俺はひどく衝撃を受けた
そして、どうして良いのか分からなくなった
何をしてやれるのか分からなくなった
だけど、今、俺の夢はプロになって、ワールドカップで優勝すること、もっともっと、強い奴と試合してサッカーの楽しさを誰よりも味わいたいこと
そして、もう一つ、誰にも悟られず、心の奥に密かに持つ夢がある…
それは、修、お前とだけに昔、約束した夢
「蓮兄!!俺も蓮兄みたいにサッカー、うまくなって、一緒にプロになろう!そして、ワールドカップで優勝しよう!この国を一番にするんだ!!」
「あぁ、一緒にプロになろう!約束だ!」
一緒にプロになろう…
一緒には無理でも、俺はずっとピッチに立ちサッカーを追いかけ続ける
いつか再び、一緒に立つことを夢見て…
修本人は、もう忘れてそうだけどな…
冷めてるところあるからな~…ははは…
俺の幼なじみは、王家だけど、それぞれ個性があって、それぞれ多くのものを抱えて生きている
それは、他人からすれば、小さなことかもしれない
だけど、それを乗り越えようとする強い気持ちを持ったすばらしい家族であると思います
「くぁ~…もう寝よ…」
部屋の電気を消し、布団の中へと入る
明日は、朝からハードな部活が待っているから、ゆっくり体を休めておかないと…
………
……
…
「明日、土曜じゃねぇかぁぁぁぁ!!!!!葵との映画忘れてたぁぁぁぁあ!!!!!!」
「うるさい!!蓮斗!!近所迷惑でしょうが!!」
「うわぁぁぁ!!どうしよ!何も考えてなかった…!」
俺の悲痛の叫びに下の階から、母さんの怒りの叫びが聞こえる
しかし、今の俺には効果なし!
はぁ~…すっかり大事な事を忘れていたよぉ~…
そして、明日の計画は、全くのノープラン…
チーン・・・
次回予告!(ちょっと遊び心が…)
ついにやって来ました、土曜日!
葵と二人で映画の約束をしていた蓮斗ですが、全くのノープラン!!
さぁ、無事に終わるのでしょうか!?
そして!!二人の距離に変化はあるのかぁぁぁ!!!!?
遊びが過ぎました。すみません…
以上です!ありがとうございました!