城下町のダンデライオン-ちょっと変わった生活-   作:ダラダラ

11 / 11
お久しぶりです。
城下町のダンデライオンの小説を書き始めて早1年以上経っていました。
全く書いていません!申し訳ございません!
やっとオリジナルの後編を書き終えました!!よろしくお願いします!


第11話 はじまる恋は誰の恋?後編

国王の言葉を聞き、葵は修の能力・瞬間移動(トランスポーター)で、蓮斗の家へと向かった

 

「ここって…」

「蓮兄の家の玄関だ。にしても暗いな。茜と蓮兄は本当にここにいるのか?」

「…とりあえず、リビングに行ってみよ。お邪魔します」

「お邪魔します」

 

葵と修はそれぞれ靴を脱ぎ、リビングへと向かう

何度も入っている蓮斗の家であるため、どこに向かえば何があるかなどは二人ともよく知っていた

 

ガチャッ

「お邪魔します…」

 

葵はリビングのドアを開き、そっと中の様子を伺う

ドアの隙間から覗き見るような姿勢のため目の前にあるテレビが点いていることにはすぐに気づいたが、肝心の蓮斗と茜の姿見当たらない

 

「葵姉さん、茜たちはいたか?というより、何故入らないんだ?」

「だって、蓮の家とは言っても人様の家に無断で入っちゃったわけだし…」

「(そっちの方が怪しい人に見えるとは言わないでおこう)」

 

後ろから見ていた修は覗き見をしている姉(しかも高価なドレスを身に纏っている状態)に感じた思いを胸の内に閉まった

 

「それで、茜と蓮兄はいた?」

「ううん、いないみたい…」

「そうか、蓮兄の部屋に行ってみよう」

「…だ…誰か…」

「「っ!」」

 

修と葵は蓮斗の部屋に向かおうとした

そのとき、誰かの苦しむような極小さな声が2人の耳に聞こえる

 

「この声ってもしかして…」

 

修の言葉を聞かずに、葵はリビングのドアを今度は勢いよく開けて中へと入る

すると、ドアの影に隠れて見えていなかったキッチンへと続く廊下で…

 

「茜…蓮…」

 

葵は驚きのあまり、立ち止まってしまう…

その後に続くように入ってきた修も二人の様子を見て固まる

 

「な、何…してんだ…」

 

葵と修が見たものは、蓮斗が茜を押し倒している絵…

っとかいうとても見てはいけない光景ではなく、蓮斗の体の下敷きとなり手足をバタつかせて苦しむ茜の絵だった

先ほど聞いた誰かの声とは、茜の精一杯のsosだったようだ

あまりの光景に二人して固まる

そして、修は慌てて茜の上に転がっている蓮斗を退かせ、茜はやっと起き上がることができた

 

「大丈夫か、茜?」

「ぷはっ!ぐ、苦しかったっ!」

「でも、どうしてこんな状態に…?茜の能力ならすぐに蓮兄を移動させられただろ?」

「えっ!?そ、それは…蓮兄がっ…あの、その~…」

「「?」」

 

茜は途端に顔を赤くしてもじもじとする様子に、修は頭に?マークを浮かべる

 

「(蓮兄に抱きしめられて驚いてたなんて言えないよっ!しかもその後、蓮兄が気絶しちゃって全体重が圧し掛かってきて、動けなかったし…)」

 

どうやら茜を抱きしめた蓮斗は、そのまま熱のせいで気絶し茜の上に圧し掛かる形で倒れてしまったようだ

そして、茜が生き埋めとなった時に、葵と修が来た

 

「茜?」

 

ずっと赤い顔をして小さく話す茜に修が声を掛ける

 

「あっ!そう、さっき一杯能力使ってここまで飛んできたから、力が出なくて…ってそれより、お姉ちゃんと修ちゃんがなんでここに!?」

「なんでって、急に茜がパーティ会場から姿を消したからだよ。みんな心配してるぞ」

「ご、ごめんなさい…」

 

修の言葉に茜は自分が今しがたどこで何をしていたのかを思い出して暗い表情をする

みんなに心配と迷惑を掛けていることに自責の念を感じた

 

「それより、今は蓮兄のことだな」

 

修の冷静な言葉に茜はハッとして、連斗の方へと視線を向ける

 

「蓮っ蓮っ!お願い、お願いだから目を開けてっ…!」

 

茜が蓮斗の方に視線を向けると、葵が蓮斗の下で必死に名前を呼ぶ姿だった

息苦しそうで大量の汗を流して辛そうな蓮斗の手を握る葵を見て、茜はまたしても胸が締め付けられるような痛みをチクリと感じた

 

「結構、ひどい熱だな…」

「っ!早く病院に運ばないとっ!」

「待て、茜っ!今、俺たちが救急車を呼んだら大変なことになる。パーティに行っていることになっているんだからな。」

「で、でも、このままじゃ…」

「わかってるよ。だから、お城にある医務室に連れて行こう。あそこなら公になることはない」

「そ、そうだね…」

「葵姉さんもいいか?」

「えぇ、修君の能力でお城の医務室までお願い…早く蓮を…」

「わかった、行こう」

 

 

 

今もなおパーティが繰り広げられているお城

しかし、賑やかなところから少し離れた場所に位置する医務室では、とある二人がのんびりとデスクに向かい仕事をして一息ついていた

 

「ふう~今年も派手にパーティをしておるの~」

「ほんとですね、先生」

 

一人は老人の男性で白衣を身に纏い、もう一人は中年の女性で白いナース服を身に纏うお城に雇われている医者と看護師

本日も平和だとばかりにのんびりとした空間の中にいる二人

 

のだが…

 

「着いた」

「「っ!!?」」

 

突然、静かで穏やかだった空間に4人が現れる

医者と看護師は驚愕のあまり声が出ず、目をあんぐりと見開きながら眺めていた

しかもそこに現れたのは、今まさに話をしていたパーティに出ているはずの王家が3人もいる

 

「先生っ!お願い、蓮兄を助けてっ!」

 

茜の言葉に我に返った医者と看護師は、修の背に背負われている一人の青年に気が付いた

青年は、王家の者でもなければこの城の者でもない

どこかの貴族でもなさそうだ

しかし、3人の王家がとても必死になっているところを見る限り、とても大切な人であると長年の経験から年老いた医者は感じた

 

「畏まりました。そちらのベットに寝かせて下されますかな、修様」

「ありがとうございます、先生」

 

修はベットの上に蓮斗を寝かせると、先生は早速、蓮斗の様子を伺う

 

「なるほど、ひどい高熱じゃな…体温は40℃近く…意識障害もあるよう…注射と点滴準備を」

「はい、先生」

 

先ほどまでの穏やかな空気とは一変して先生と看護師は、人を助ける者として懸命に治療に取り組む

その様子を傍らで見守る葵・修・茜

葵はぎゅっと自分の両手を握りしめていた

 

「とりあえず、熱を下げるための注射を打ちました。今、点滴をしておりますので、時期目が覚めるでしょう」

 

処置を終えた看護師が3人の下へとやってきて、優しく告げると3人は安堵し一斉に息を吐いた

そして、葵は一目散に蓮斗のベッドへと看護師の横を通り抜けて向かう

 

「蓮…」

 

先ほどまで辛そうだったの蓮斗の顔は、今は落ち着き静かな寝息を立てている

葵はその様子にまた安堵し、点滴がされていない方の蓮斗の葵よりも大きな手をそっと包み込むように握る

 

「よかった…蓮兄、無事みたいで…」

「あぁ、そうだな。さて、パーティ会場に戻るぞ、茜」

「えっ!?でも、蓮兄が…」

「大勢で医務室に居ても邪魔なだけだろ。それに、残るなら葵姉さんの方が蓮兄も喜びそうだしな。葵姉さんは体調不良ってことにして、俺たちは戻ってみんなに伝えないとな。茜は突然、飛び出していったんだから、みんなの処に行ってちゃんと謝るんだ。」

「はい…」

「じゃぁ、姉さん、終わったらみんなでまた様子見に来るよ」

「2人ともごめんね。よろしくお願いいたします。」

 

医務室から出た修と茜は、パーティ会場へと足を運ぶ

 

「(私も蓮兄のところに居たかったな…)」

茜はもやもやとする感情を再び持ち始めた

蓮斗が最初に倒れてから、本当に心配で大切なパーティにも集中できずにいた茜

蓮斗が一人で家にいると分かったとき、考えるよりも早く体が勝手に動いていた

蓮斗を倒れた状態で発見したとき、本当に恐怖を感じ鳥肌が立った

本当に怖かった…

 

「(でも、蓮兄を早く見つけることができてよかった…それにさっき、葵お姉ちゃんと修が来る前に蓮兄が言った言葉…)」

 

”行かないでくれ…”

 

「(頭から離れないよ…)」

 

茜は葵と修が来る前に起こった出来事を思い出す

それは、蓮斗が熱で朦朧とした状態で茜を抱きしめてしまったことだ

 

茜は顔から火が出るかというぐらいに真っ赤になる

 

ドッドッドッ‼

「(あぁ~!!やばいっめちゃくちゃ心臓が鳴ってるよぉ~!なんなんだろうこれっ!私、どうしちゃったのぉ~!!?)」

 

茜は鳴り止まない心臓を必死に抑えようと両手を胸の当たりでぎゅっと握りしめる

初めて感じる今まで経験したことのない自分の感情に戸惑いを隠せなかった

茜はまだ頬に残る熱に掌で抑えて、何故か切ない気持ちになる

 

「どうした、茜?まさか、蓮兄の風邪が移ったのか!?」

ボソッ「修ちゃんのバカ…」

ガビッーン「なっ…!茜、何故だっ!茜ー!!!」

 

修は妹からの突然のバカ呼ばわりに足を止めてしまうが、そんなことも気にも留めず、茜はスタスタと先に進んでいった

「(この気持ちっていったい何なんだろう…?)」

 

 

 

 

 

<※以下、ナレーションは主人公:蓮斗に戻ります>

 

 

 

んっ…こ、こは…?どこだ?

ってか、体中が痛ぇ~確か俺、リビングで寝てたはずだよな…

水を飲もうと立ち上がって…やべぇ、そっからの記憶が完全に抜け落ちてる

 

目を覚ますと体中の怠惰感と節々の痛みを感じ、視界には見知らぬ天井が目に入る

 

「蓮っ起きたの…?」

 

えっ…

 

「葵?なんでここに…」

「…よかった」

 

まだ、朦朧とする意識の中で、隣から聞き覚えのある心地よい声音の方へと視線を向けると葵がいた

 

なんで葵がここにいんだよ…確か、こいつパーティに行ってるはずじゃ…

 

目の前にいる葵は、いつもの制服でも私服でもなく、きれいな黒いドレスを身に纏って髪をアップにした大人っぽくて上品な姿だった

だが、葵の表情はその姿とは不釣り合いで、顔を曇らせた憂わしげな表情が俺の目に映る

 

「俺、いったい…」

「高熱で倒れたの…記憶ない?」

「いや、全然…」

「茜が最初に蓮を見つけてくれて、修君の能力でお城の医務室まで運んでもらったの。今は、点滴してるから安静にしててってお医者様が言ってたよ」

「そうだったのか…悪い、迷惑かけたな…」

 

迷惑掛けたくなかったのに、結局、また俺はこうなっちまうんだな…

 

自分の情けなさが恨めしかった

まだ、残る熱と体の怠惰を感じるもののなんとか体を起こして頭を下げる

 

「もう俺は全然平気だから…まだ、パーティの途中なんだろ?さ、行ってくれ…。お前たちはこの国の象徴なんだ。俺なんかを心配する必要ない…」

「…っ!」

 

そうだ、俺なんかのために迷惑をかけるなんて…そんなこと絶対にあってはいけない…

こいつらと俺は違うんだから…

 

 

…甘えちゃいけないんだ

 

 

「俺なんかに構ってる暇なんかないだろ?迷惑かけた埋め合わせはきちんとするよっ。だから、早く…「心配して当たり前じゃない!」っ!?」

 

葵はいつもの優しい声とは異なる荒々い声を張り上げた

俺は驚き顔を葵へと向けると、さらに驚愕して困惑してしまった

俺が見たものは、今にも零れ落ちそうなほどの涙を目に溜め、体を震わせている葵の姿だった…

 

「どうして、いつもこんな時に蓮は壁を作るの…もっと頼ってほしいのに…一人で何でも抱えて…辛い時に蓮は自分のことを絶対に言ってくれないっ。隠さなくていでよ…かっこつけないでっ!辛かったら辛いって言ってよ…!」

「っ!!あ、葵…?」

「お願いだから、蓮の声を聴かせて…」

「っ!!」

 

最後の言葉を言い終わると同時に、葵の目からは涙が一筋零れ落ちた

俺は胸が苦しくなった

 

俺は葵にこんな顔をさせたかったわけじゃないのに…

 

葵はこれまでの思いが溢れて止まらなくなったように言葉を続けた

 

「蓮はいつもそうやって強がって、大切なことは何も言わない…私たちずっと一緒に居るのに大切なかけがえのない人だってみんなも私も思っているのに、蓮だけがいつも自分を大切にしようとしないっ!わがままを言ってくれないっ!王家とか国の象徴とかそんなことも関係ないっ!壁を作らないで…もし蓮に取り返しのつかないことが合って、私が後から知って何もできなかったらって思うと、またあの時みたいなことになったらって考えたら、すごく辛いの…お願いっ…一人で抱えないで…」

 

葵の瞳一杯に浮かべた涙は重力に従って幾度も頬を伝い流れていった

 

その表情と言葉に俺の胸にぐさりと突き刺さった

葵を泣かせてしまったことに、胸がえぐられるほどの自責を感じる

ただ、誰にも特にいつも俺の傍にいてくれている葵や櫻田家のみんなには迷惑を掛けたくなかった

わがままを言えば、嫌われてしまうのでないかとか、強いところを見せたくて強がってきた

 

何よりこいつらは王家だ

王家の人間と一般人が本来なら交わっってはいけない大きすぎる差がある

 

…その言葉はいつから俺の体の中へと入ってきたのだろうか…

 

昔から一緒に居たからこそ聞いてきた

 

王家は別格なんだ

一般庶民とは格が違う

 

それはいつしか俺の言葉となり、俺の行動となり、思考となった

 

「壁なんか作ってるつもりなかった…俺もお前たちの中に入りたかった…温かくて賑やかで楽しいお前らの家族に…羨ましくて…でも、やっぱり違うんだって、後になって気づいて…それを繰り返してきた。王家と一般人ということもずっと気にしていた…でも…それが根底にあるんじゃないんだ…」

 

…いつも俺の一番底にあるものは、あの時からずっと変わらない

葵、俺はただお前の傍に居たかった…葵が笑う姿をずっと隣で見ていたかった…それがどんなに大変なことでも…

 

「ただ、葵がいつでも笑ってくれる姿が見たかったから…心配かけたくなかったんだ…泣かせるなんて絶対にしたくなかった…だけど、結果的に俺のせいでまた泣かせてしまった…ごめんな…」

 

葵の頬に手を伸ばし、そっと親指で頬に伝う雫を拭う

葵の目は俺の行動に一瞬驚きの色を見せたが、すぐに頬に触れている俺の手の上にそっと手を重なる

 

「蓮、私はいつでも連の傍にいるよ。だから、頼ってほしい。蓮が私や茜たちのことを考えてくれているように、私もみんなも蓮がいつでも心から笑ってくれることを願ってるの…だからこそ、蓮にはもっと私たちを頼りにしてほしい…だから、謝らないで。蓮が今謝ることは私たちを頼りにしなかったことだからね」

「…っ!あぁ、ごめんな。葵、ありがとう…」

 

俺は心からの幸せを感じていた

あの日出会うことができたおかげで、俺は今とても幸福に包まれている

 

ありがとう…

 

葵の笑顔はいつも以上に優しくとてもきれいで温かかった

俺も自然とその笑顔に優しく笑うことができたような気がする…

 

葵はいつも俺の心を溶かし温めてくれる

そんな葵が俺は好きになって、今もこれからもずっと好きだと思えた

 

 

 

 

 

点滴が終わるまでの間、葵からこれまでの経緯を聞き、みんなに心配をかけてしまったことを知る

その後、お城の医務室にいたおじいさんの先生に診察をしてもらい、薬を貰ってからパーティを終えた修たちと一緒に修の能力で家へと帰った

パーティを終えた櫻田家の兄弟たちからはものすごい心配させてしまい、王様や王妃様までも来てくれた

家に着くと、そこには夜勤のはずの母の姿があって驚いたが、王妃様の五月さんから俺のことを聞き、夜勤を後退してもらって帰ってきてくれたそうだ

まだ熱もあるのだが、俺はこっぴどく母さんに叱られた…

 

 

 

 

 

 

 

翌々日

 

夕暮時、部屋のベッドで寝転び携帯に来ていた友人や後輩から送られてきたLIMEを見て返信する

昨日はまだ熱が残っていたため、母さんの看病を受け安静にしていた

だから、サッカーの練習は当然休み

みんなには俺が休むことが珍しいと思ったのだろう、とても多くから心配する声を掛けられた

 

コンコンッ

「はい」

 

そんな時、部屋を誰かがノックする

誰なのかはすぐにわかった

さっき家のチャイムが鳴り聞き覚えのある声が小さく聞こえたからだ

その人物は階段を上り、部屋の前に止まると2回ほどノックをして俺の返事を聞いてから部屋へと姿を現す

 

「蓮、もう大丈夫?」

「もうすっかり元気だよ。熱も完全に無くなったしな…って?」

 

そこにいたのはやはり葵であった

一昨日あった時のドレス姿ではなく、普段の葵だった

葵はベッドの横に来て俺の言葉を聞きながら、俺に向かって手を伸ばす

 

スッと伸ばされた手が一体どこに行くのかぼんやりと眺めていると、その手は俺の前髪を掛け分けて額へと当てられる

 

あまりの行動に俺は驚き固まる

 

「…」

「うん、もう熱は完全に無くなったみたいだね」

「…い、いきなり驚かすなよっ!?」

「おれ、でもまだ顔赤いね?」

「これは違うっ!何でもねぇ!」

「そう?」

 

わざとかこいつ!?偶に無自覚にするところ何とかなんねぇかな…俺の身がもたない…

 

頭で理解したとき、一気に顔中が真っ赤になる…

これじゃ、また熱が上がりそうだ…と心の中で呟いた

 

「あっそうだ。はい、これ昨日と今日のプリントとノートのコピーだよ」

「あぁ、助かるよ。ありがとう」

「どういたしまして。携帯触ってたら、ちゃんと治らないよ?」

「暇だしな~ランニングに行こうとしたら、母さんにシバかれるし…」

「ランニングっ!?当り前じゃないっ!まだ完全に治ったわけじゃないのにっ!もう…おばさんが買い物に行けないって理由がわかったよ…はぁ~…おばさんが買い物に行っている間、頼まれたんだから、絶対に動いたら駄目だからねっ」

「は、はい…(お前は母さんか…)」

 

葵は、大きくため息を零し、そして意を決したように、顔を少し顰めて告げた

そんな葵を見て少したじろぐ

 

「あ、そうだ。プリン買ってきたの。食べる?」

「おお、サンキューずっとお粥ばっかで他の食べたかったんだ」

「このプリンね、駅前に新しく出来たケーキ屋さんのところで買ったの。今度一緒に行こうよ」

「あぁ、わかったよ」

 

そんな会話をしながら葵は袋の中からプリンを2つ出し、一つを開けてスプーンで掬う

葵はそのスプーンを俺の方へと持ってくる

俺は一瞬その行動の意味を理解するのに、数秒必要だった

 

「あ、葵さん?俺、一人で食べれますけど…?」

「蓮はまだ病人でしょ?ほら、口開けて?大丈夫、いつもみんなが風邪引いた時にはこうしてるから」

「それって、輝とか栞とかだろっ!?」

「茜も奏もよ?」

 

大丈夫か、この姉妹…

 

「いやいや、俺は別にいいって」

「駄目っ、はい、あーん」

 

あーんっておいっ!俺はいくつだよ!!

羞恥のあまり、顔から火が出そうなほど、真っ赤になりたじろぐものの葵は全く気にも留めていないようで頑なに俺へとスプーンを差し出してくる

 

んな、殺生なっ!

 

こうなったら意地でも動かないのが葵…ってか、もう少し恥ずかしがれよっ!ちょっと傷つくぞっ!

……あぁぁ!!!仕方がない…let’s go 俺!!!

 

意を決してスプーンを口に乗るプリンを味わう…

 

味わえねぇ…心臓鳴りすぎて、味わかんね~…

 

葵の奴、本当に恥ずかしくないのか?葵にとって俺は兄弟たちと一緒ってことだよな…ショックが大きいぞ、バカ野郎…

 

心の中で涙を流して自暴自棄になり、悲しいのか嬉しいのか恥ずかしいのかわからない感情を抱え、うるさくなる心臓の音を隠すように、頭ではたくさんのツッコミを入れていた

自分のことで一杯一杯だったから気づくことが遅くなった

パッとふいに顔を上げると、

 

「…」

「…」

 

葵の顔はスプーンを持ったまま固まり、俺と目が合うや否や見る見るうちに顔を真っ赤にしている

あまりのことに俺も思考が再び止まる

 

「葵?」

「…ふぇっ?あ、その…えーっと…」

 

なんでやった本人が後から気づいたみたいに恥ずかしがってんだよっ!

 

…と心の中でツッコミを入れてしまう

 

「は、恥ずかしいね…あれ、こんなだったっけ…?」

「葵、顔真っ赤」

「だ、だって…」

「自分からしたくせに」

 

真っ赤になって戸惑う葵に仕返しとばかりに言葉を掛ける俺

 

「い、言わないでよ…」

 

あぁ~なんだよこれ~!何の嫌がらせだよ~…理性持てよ、頼むからっ!!!

 

「は、はい。まだ残ってるから…あ、後はやっぱり自分で食べて?」

 

真っ赤になった葵の姿を見て、理性を働かせなければならない…ならないんだけど…男ってのはどうしてこういう生き物なんだろうな。好きな子が困ってる姿を見てもっと困らせたいと思っちまう…

 

「食べさせてくれるじゃなかったっけ?」

「っ!だ、だって…」

「言い出したのは、葵だからな」

「…わかったよ…」

 

…まじか…完全に嫌がられると思ったのに…

 

そして、1つのプリンを食べるのにこれほど長い時間を使ったことはない程にゆっくりと葵から差し出されたプリンを頬張った

味は全く覚えていない…

 

病み上がりのせいで、頭がおかしくなったんだ…きっとそうだ…

 

そう、心の中で言い訳を繰り返した

 

 

プリンを食べ終えると、何とも言えない空気になってしまう

 

「わ、私ちょっと飲み物貰っていいかな…」

「あぁ、それなら俺が取りに行くよ…」

「いいよ、蓮は寝ててっ」

「大丈夫だって、少し動かないと体が鈍って…っておわっ!」

「え…きゃっ!!」

 

ベッドから足を出して立ち上がろうとするが、如何せんほぼ丸2日間動かなかったために、足に力が入らず目の前にいた葵へと倒れ込んでしまい、突然のことで支えることのできなかった葵は、床へと尻餅をついてしまう

 

「「…」」

 

葵を襲うような姿勢となってしまったこの状況

俺は全く動けずに、眼前に広がる葵の顔を直視したまま、瞬きすらできずにいた

 

何、このデジャブ…

 

心の片隅では小さく呟いていたものの、少しだけ残っていた俺の理性がガラガラと崩壊していく音が聞こえる…

 

「あ、葵…ごめん、もう…」

「れ、蓮…?」

「…我慢できない」

 

その言葉と同時に俺は葵の柔らかそうなピンク色の唇へと…

 

「れ、ん…っ」

 

口付けた…

 

軽く触れるだけのキスを実際にはほんの数秒程のはずなのに、何秒…いや、何分も経ったような気がした

すっと互いに唇を引く…

 

そっと目を開くと葵の紅潮した頬と潤んだ瞳が見えた

その可愛さに目を奪われ、手を葵の頬へと添えると、葵は少し瞳を大きくして驚いていたが、頬に添えた俺の手を小さな手で包み込むように重ねられ、葵は優しく微笑んだ

それを合図に今度は少し強く互いの唇を合わせる

 

「葵…俺…」

「蓮…」

「たっだいま~!蓮~葵ちゃ~ん、今日はみんなでご飯食べましょうっ!」

「「っ!!!!?」」

 

静寂で静まり返ったこの空間の中で、突然響く玄関扉の開閉音と賑やかな声

俺と葵は咄嗟に我に帰り、急いで距離を取る

だが、互いに顔は日が出そうなくらいに真っ赤で…

俺たちはしばらく黙っていた

 

「葵ちゃ〜ん、蓮〜?」

「「っ!」」

「わ、私、下に降りてるねっ!」

「あ、葵っ」

 

葵は勢いよく立ち上がり口元を手で覆いながら部屋をバタバタと出て行った

俺はそんな葵をただ見ているだけで、出て行った後にようやく、頭を回転させ始めた

そして、ベッドへと体を投げ出す

 

はぁ~やっちまったよ…どうしよ…大切にするってずっとずーっと思ってたのに…何でだよっ俺のバカ野郎っ!外道っ!

でも、今俺の心は罪悪感だけではなく、それ以上に感じる内側から溢れでる嬉しさだった

付き合ってないし、告白すらしていないのに、キスしてしまったってのに、心臓はそれに反して鳴りやむことがなく、顔は紅潮していた

目を瞑り瞼の裏に移るのは、葵の紅潮した表情と柔らかい唇…

 

俺、マジ変態じゃん…

 

「ほんと…最低だな…葵の奴怒ってるかな…謝るか…そんで今度こそしっかりと自分の気持ちを伝えねーと…あいつはどう思ったんだろ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は葵が部屋を出てからしばらくの間、ずっと葵との先ほどの出来事をぐるぐる考えていた

下ではどうやら櫻田家がやってきているようだが、今の俺の耳には他の事は届かない

 

「…」

「葵お姉ちゃん、どうしたの?」

「し、栞っ!何でもないよ。ごめんね」

 

一階では、顔を真っ赤にして会話に入ってこない葵を心配し、栞が葵の服の袖を引っ張り心配そうに眉を下げる

葵は栞に驚くが、心配させまいといつものように語ると、栞は笑顔に変わったことなど俺は知らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

「連兄?」

「…のわぁぁっ!!!!驚かすなよっ茜!!」

 

俺がずっと天井を見ながらずっと考えていると、ニュッと横から現れたのは、茜だった

 

「何回もノックしたし、名前を呼んだけど、反応なかったんだもん」

「え…?わ、悪い。ちょっと、考え事しててさ」

「大丈夫?顔真っ赤だよ?」

「こ、これはっ…何でもないっ気にするな!」

 

茜は俺が顔面中を真っ赤にしていることを指摘するが、あまり指摘してほしくなかった…

俺は必死に片手を口元に抑えて顔を逸らすも赤い顔は収まらない

 

「まっ大丈夫ならいいけど…連兄が倒れたときは本当に驚いたんだからねっ」

「あっそっか。お前が俺を最初に見つけてくれたんだよな?一昨日、お城の医務室で目が覚めた時に葵から聞いたんだ。心配かけてごめんな」

「…え?葵お姉ちゃんから聞いたって…蓮兄、家のリビングで倒れたこと覚えてないの?」

「あぁ、そうなんだよ、リビングで一回倒れてからそっからの記憶が飛んでて…気付いたら、医務室のベッドの上で点滴打たれながら寝てたんだ」

「私が蓮兄のところに行って見つけた時も?」

「?あぁ、そうだよ。あれ、俺なんかした?悪い全く記憶にないんだ…」

 

茜は先ほどまでいつもと変わらない表情であったのに、さっと暗い影を落とす

 

「(蓮兄…もしかして覚えてないの…?)」

 

茜は顔を下げて、俯いてしまう

その様子に気付いて、俺は茜へと声をかける

 

「茜?」

「…の…」

「え?」

「蓮兄のバカーッ!!」

バ‐ンッ‼

「ブフーッ!!!」

 

茜は顔を俯かせていたと思ったらまさかの俺のベッドにある枕を掴み、大きく振りかぶると、俺の顔面目掛けて叩き付けた

顔面命中クリティカルヒット!能力も使っていたようで、俺はベットの上で瀕死へと追いやられ、体は痙攣しているかのようにピクピクとしかしばらく動かなかった…

 

茜は、俺がそんな状態になっているとも知らず、枕を投げた後に勢いよく部屋を飛び出していった…

 

「…だから…手加減…して…く…れ…」

 

 

 

 

 

「連兄のバカ…」

「茜?どうしたの?蓮は?」

 

俺の部屋から飛び出した茜はスタスタと階段を降りて兄弟たちが集まるリビングへと到着した

今日は、俺の母さんの提案により俺の家で晩御飯を食べることになったそうだ…俺、聞いてないぞっ!!

そのため、2階にいる俺を呼ぶ係となった茜が来たのだが、先ほどの通り全く伝えられていない…

 

リビングに行くとテレビを見てテーブルを囲む修・奏・岬・遥・輝・栞と、少し離れたところで談笑しお酒を楽しむ五月さんと俺の母さん

どうやら今日は出前のようでたくさんのチラシを見ながら、兄弟姉妹はワイワイとしている

しかし、葵は一人みんなの中に入ることなく、離れたキッチンで何か料理を作っていた

そこにやってきた茜へと声をかけると、茜はキッチンの中へと入っていく

 

「葵お姉ちゃんは何してるの?」

「これは蓮の晩御飯だよ。まだ、お粥の方がいいと思って」

「…(お姉ちゃんってやっぱり蓮兄のことになると本当に一喜一憂するんだね…)」

「茜?」

「えっ!な、何?」

「どうしたの、さっきからボーっとしてるよ?」

「そんなことないよっ!!私、ピザが良いんだったっ!早くいかないとっ!!」

「ふふっ行ってらっしゃい」

 

茜は隠すように大げさな身振り手振りでキッチンを後にしようとし、葵は笑顔を向ける

しかし、茜は再び留まり、葵の方へと体を反転させる

 

「お、お姉ちゃんっ!」

「何?」

 

強張った緊張した表情で葵へと声をかける茜に葵は優しく聞き返した

 

「お姉ちゃんは蓮兄のことどう思ってる?」

カランカラン…

「…な、ななな何を急に言い出すのよ、茜?」

 

葵は珍しく動揺を隠すことができず、手にしていたお玉を床に落としてしまう

 

「(どうしよう…さっきの事、今は忘れようと思っていたのにまた思い出しちゃう…)」

 

葵は咄嗟に自分の口元に手を添えてしまう

 

「葵お姉ちゃん」

「っは、はいっ!で、でも、どうして急にそんなことを…?」

「わからないけど、蓮兄の事いつもすぐにわかってるし…すごいなって」

「蓮のこと何でも知ってるわけじゃないよ?」

「っでも、私や…みんなが気付かないことに気付いたりするから」

「そんなことないよ。現に一昨日、蓮が倒れた時に真っ先に気付いたのは茜じゃない?」

「あれは帰り道に会ったからで…」

「私は蓮のことを全部知ってるわけじゃないよ。でも、知りたいとは思ってる…蓮がいつでも笑ってくれてたらなって…そう思ってるよ。だからかな?蓮のことつも考えちゃうのって」

 

葵は床に落ちたお玉を手に取り、洗ってからもう一度鍋にあるお粥を煮込みだす

その時の表情は、照れたような笑いと共にすごく穏やかで優しい表情だった

 

「(いつも考えてしまう…いつも笑ってほしい…)」

「だから、私は蓮の事大切に思ってるよ」

「それって好きってこと?」

「…うん」

 

葵は茜の質問に笑顔を向けて頬をほんのり赤らめながら答えた

 

「(だから好き…私は…?私は蓮兄のこと…)っ!!わ、私、今日、大量に宿題が残ってるの忘れてたっ!!先に帰るねっ!!!」

「えっ!茜、晩御飯は!?」

「いらないっ!」

バタンッ!

「どうしたの、葵姉さん?」

「茜が急に飛び出して帰っちゃったのよ。宿題、そんなに大変なのかしら?」

「…ふーん」

 

茜は突然顔中を真っ赤にして俺の家から飛び出していった

そして、後に残された葵の下へと奏がやってくる

奏は茜の様子を見て、何か思い当たる節があるのか、茜が去っていった玄関を見つめていた

 

「葵姉さん、なんか今日いいことでもあったの?」

「えっ!?突然どうしたの?」

「なんかいつもより楽しそう」

「そんなことないわよっ!いつもと一緒よ」

「…ふーん」

 

そして、またしても奏は何かを見透かしたような表情を浮かべてキッチンを去っていった

 

「(どうしよう…やっぱりさっきのことを思い出して唇が熱い…)蓮…」

 

葵は奏が去った後、そっと唇に手を当て紅潮する

 

 

 

 

一方、自分の家へと帰り玄関扉に背を預けて明かりもつけず、茜は自分の靴の爪先へと視線を落とす

 

「(私、蓮兄の事が…ずっと蓮兄の事を考えているのも、傍にいたいって思うのも…これって、好きって事…なんだよね)」

 

一人心の中で何度も自問自答を繰り返す

そして、おもむろに口から出た言葉に茜は胸が高鳴りその大きさに驚き、むず痒くなる

 

「私は蓮兄が…好き」

 

 

 

 

茜にスペシャル枕投げをお見舞いされた俺は、完全に復活していたものの、再びこの部屋での出来事思い出してしまう…

 

俺、本当に葵とキスしちゃったんだよな…夢じゃないよな…

あぁ~どんな顔して葵に会えばいいのか、わかんねぇ~!!!!!

 

一人布団へと顔を埋め、再び高鳴る心臓に胸を当てた

 

 

 

 

 

「よっし!公平なジャンケンの結果、今日はラーメンだなっ」

「え~私、お寿司がよかったぁ~!」

 

それぞれの思いが募る中、1階のリビングでは今日も平和な会話を繰り広げる修と光

そして、奏・岬・遥・輝・栞と完全に酔っているマザーズであった

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。