城下町のダンデライオン-ちょっと変わった生活-   作:ダラダラ

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大分、ご無沙汰にしておりました。ダラダラです。

久しぶりの投稿ですが、また、中途半端な状態で終わってしまいます…すみません…
こんなに長くするつもりじゃなかったんですけど…気づけば…(笑)

ドレスアップした櫻田ファミリーが登場しますが、絵で見たいっ!という方は、原作1巻の一番最後にドレスアップ姿の櫻田ファミリーを見て、想像してください!




第10話 はじまる恋は誰の恋?中編

国際親睦会会場

 

各国の王家・貴族が集い、国同士の繁栄を祝して行われたこの国際親睦会

そして、気品に満ち溢れた王族・貴族たちは、それぞれ豪華な料理と会話を楽しんでそれぞれの国の代表として親睦を深めていた

 

そんな、明るく賑やかに執り行われているパーティーの中で一人、顔を俯かせて誰にも聞こえない程度の小さなため息を吐く女性が居る

赤い髪のツインテールをし、綺麗な純白のドレスを身に纏う彼女は、国際親睦会が行われいてるこの国の第三王女に値する茜である

 

茜は、場違いな浮かない顔をして誰とも話すことなく、壁際に立っていた

 

「(蓮兄…大丈夫かな…)」

 

茜がなぜこのような浮かない顔をしているのかというと、つい先程の下校途中で起こった出来事が原因であった

それは、下校途中で出会った蓮斗が、突然、自身の目の前で倒れたのだ

茜は慌てふためきながらも、蓮斗を自身の能力・重力操作(グラビティコア)で家まで運び、蓮斗を寝かせる

すぐに蓮斗は目を覚まし、大事には至らなかった

その後、大切なパーティーを控えていた茜は帰り、蓮斗から蓮斗の母親である美紀が帰ってきたと連絡があったので一安心した

のだが…

 

「(おばさんが帰ってきたって言ってたけどやっぱり心配だよ…。それに、蓮兄が倒れたり病気になったりするのってあの時以来…だよ…ね…)」

 

いつも明るくて自分たちの兄として側にいてくれる蓮斗が急に目の前で崩れていく様を見た茜は、不安がどうしても拭い切れなかった

そして、もう一つ茜を不安にさせるのは、まだ茜が幼かった時に起きた出来事もその要因の一つ…

 

 

そんな時、一人の女性が茜の元へとやってくる

 

「茜」

「っ!!…お姉ちゃん」

「どうしたの?こんな端によって。顔色も悪いよ?具合悪いの?」

 

茜に声を掛けたのは、この国の第一王女であり茜の姉である葵だ

彼女もまた、綺麗な黒のパーティードレスを着て、いつもと違い髪をアップにしていた

葵は、端に寄って暗い顔をする妹を心配し、声を掛けたのだ

 

「…ううん、違うのっ!ただ心配事があって…あ、あのねっ!お姉ちゃ…」

 

茜は、いつも頼りになる葵に蓮斗のことを相談しようと思ったのだが、蓮斗からのメールを思い出して言葉が詰まってしまった

 

"後、俺が熱出したって他の奴に言うなよ~心配かけて、パーティ台無しにしたくないからさっ!内緒なっ"

 

蓮斗は、母親が帰ってきたから安心だと言っていた

それに、蓮斗が葵に対して心配を掛けたくないと思っていることは、痛いほど知っている

 

「茜?」

「あ…その…蓮兄、元気かな?って思って!今日は、私たちがパーティで家にいないからしっかりご飯食べてるかなって!」

 

茜は葵の言葉に我に返り、焦って蓮斗のことをごまかしてしまう

葵は少し不思議に思うも、今日の蓮斗の様子を思い出して茜の話に乗る

 

「そういえば、今日、蓮が少し鼻声だったの。咳もしてるって聞いたし…風邪悪化してなければいいんだけど…帰ったら、様子見に行くね」

「あれ、お姉ちゃん、蓮兄と話してないの?」

「…うん。今日は全然…」

「そっか、きっとしんどいことをお姉ちゃんに知られたくなかったんだろうね」

「連は、人が辛い時にはすぐに気付いて全力で励したり解決のために奮闘したりするけど、自分が辛い時にはそれをひた隠しにするからね…」

 

葵は、両手で持つグラスに目を落としながらそう語るが、きっと葵が思い浮かべているのは、蓮斗が葵だけにむける表情だろうと、茜は葵の横顔を見ながらふと思った

そして、胸がちくりと痛んだ

今まで、あまりこのようなことはなかったのに…

 

「だから、蓮が辛い時は一人にしたくないの。きっと、また一人で抱え込んでしまうから。でも、それを中々見せてくれない所が困ってるんだけどね、ふふっ」

 

そして、葵は、茜に呆れたような、それでいて少し茜に見えた愛おしそうな表情をして、茜に笑いかけた

茜も笑ってそれに答えた

 

「お姉ちゃんは、すごいね…蓮兄のこと、すぐに分かるんだ」

「えっ!そ、そんなことはないと思うけど…でも、分かりたいって思ってる…よ」

「(お姉ちゃん、気づいてる?蓮兄が一番見栄を張ろうとする時は、葵お姉ちゃんの前が一番多いんだよ)」

 

葵は、茜の言葉に照れながら、蓮斗への思いを感じていた

しかし、茜は葵を見上げ、心の中で問いかける

 

「(何なんだろう…なんか痛いよ…)」

 

胸の痛みを抑えながら…

 

茜は、葵の考えを知り、胸に残る小さな痛みを押し込めて、葵に蓮斗のことを伝える決意をする

蓮斗がどれだけ櫻田家の家族のことを、そして、葵のことを思っているか知っているのと同じく、葵が蓮斗のことをどれだけ大切に思っているのか知っていたから…

葵には伝えなければと決意して茜は葵の顔を見た

 

「お姉ちゃっ…」

 

「葵様、こちらにおいででしたか!」

 

すると、一人のお城の正装の従業員が葵へと声を掛けたことで、茜の言葉は、遮られてしまった

 

「どうかなさいましたか?」

「はい、葵様のスピーチのお時間でございますので、お呼びしに参りました。壇上へお越し頂けますでしょうか?」

「あ、もうそんな時間なんですね。分かりました。じゃぁ、茜、行くね」

「あ、お姉ちゃんっ!」

「ん?どうしたの?」

「あ…の…なんでもないよ、スピーチ頑張ってね」

「うん、頑張るね」

 

そして、葵は去って言った

茜は、結局、蓮斗のことを言えずに終わってしまった

 

 

 

 

高貴で華やかなパーティ会場とは、打って変わってここは城下のとある民家

その家の電気は着いておらず、リビングにあるテレビの明かりのみが光っていた

そして、テレビの前のソファーに寝転ぶ蓮斗の様子は、先ほどよりももっと悪化したようで、随分と息を荒くしていた

気が紛れるだろうと点けたテレビは頭に入れることができない

顔は火照り熱いが、体だけが異様に寒くて関節痛が酷く寝ることも辛い状態

ソファーとテレビの間にあるテーブルの上には、無造作に置かれた体温計と水だけ

 

茜が帰った後、とにかく自分のことは自分でしようとした蓮斗は、1階へと降りて風邪薬を探すも見つからず、仕方がないので体温計と濡らしたタオル、水を持ってソファーに寝転んだ

二階に戻る気力もなく、近くにあったタオルケットを体に掛けるのみ

 

 

ピピピッ

「(あぁ~病院行った方がいいんだろうけど、今の時間、近くのクリニックはやってないだろうし……まぁ~寝てれば、治るだろ…)」

 

朦朧とした意識の中で、体温計で測ってみると、39.6℃と表示された

誰に連絡するでもなく、一人リビングのソファーで横たわるだけの状態

 

「(この状態がいつまで続くんだろう…夜ってこんなに静かなんだな…昔は、一人リビングにいることなんて日常茶飯事だった…いつの間にか、それができなくなっていた…いや、病気のときは、誰でも心細くなるものだって言ってたし、きっとそのせいだ…)」

 

天井を見つめていると、不思議といろんなことを考えてしまう

 

「…次のニュースです。現在、行われている国際親睦会の会場入り口と中継が繋がっております」

 

ふと、今まで頭に入ってこなかったテレビの声が聞こえ、そちらに意識を向けると、国中が話題としている国際親睦会のことを取り上げていた

そう、幼なじみで王家の櫻田家が全員出席し、国の代表として豪華に彩られたパーティについてである

テレビは、パーティが始まる前、会場へと足を運ぶ多くのパーティ参列者の姿とこの国の王家の姿を映し出した

 

いつも同じ場所から同じものを見ていた彼らが今はテレビの向こうで光り輝く階段を上がり、多くの報道陣や人だかりに囲まれ、綺麗なドレスを着て、笑顔で挨拶をしている

その中には当然、葵もいるわけで

 

葵は髪をアップにして一つに纏め上げて化粧を施し、高価そうなピアスと背中の開いた綺麗な漆黒のドレスを身に纏い、たくさんのシャッターの光の中、笑顔で会場へと入っていった

 

「ハリウッドスターだな…」

 

蓮斗は、葵や他の兄弟・姉妹たちの姿を見て呟いた

 

「皆さん、華々しいですね~王家としての気品といいますか、私達、国民の象徴として今後とも活躍される櫻田家のご兄弟を応援したいですねっ!」

 

ニュースの司会をするアナウンサーたちは、笑顔でそう語った

皆この国の住民は、そう思うだろう

 

「…だよな…」

 

蓮斗は自嘲気味に小さく笑う

 

まるで、自分と彼らとでは、住む世界の違う人だと突きつけられているかのように感じてしまう

そんなことは、蓮斗自身前々から分かっていたこと

一緒に居れば居るほど、周りの環境や多くの人から告げられる…

一緒に居る時間が長ければ長いほど、距離の遠さを実感してしまう…

気持ちが大きくなればなるほど、現実にある高い壁を感じずにはいられない…

 

「(そんなこと分かってる…分かってて離れようとしないのだから…)」

 

蓮斗はタオルケットに顔まで運び体を小さく縮めた

 

「(けど、弱っている時にこれはちょっとしんどいな…)」

 

それでも、ずっと櫻田家について話をするニュースを変えることなくテレビを見ていた

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、茜さん。また一段と美しくなられた…」

 

パーティの中で、正装をした男性が跪き、茜に声を掛ける

彼の名はアルヴィン・R・ローゼ

現在17歳の西洋王家の貴公子・第二王子である

 

そんな立派な立場のアルヴィンが慕うのは茜

 

「今年で貴女も16歳…ついに僕と結婚っ!」「しないってばっ!!」

 

茜は少し恥ずかしそうにするものの、アルヴィン王子の求婚を全力で拒絶

そんな二人のやり取りが繰り広げられている中、茜の兄であり長男・第一王子の修が登場する

 

「アルヴィン。いい加減、恥ずかしいからやめろ。またお前の妹に怒られるぞ」

「これはこれは、修お兄様っ!相変わらず、無愛想で」

「その"お兄様"ってのもやめろっ!タメだろっ!」

「将来、兄となる方を、そう呼ぶのは当然でしょうっ!!」

 

修は着こなした正装を着用し、第一王子として振舞っている

無愛想な表情で居てることは、いつもと変わらないのだが…

アルヴィンは、茜を狙っているのは明らかで、大切な妹をアルヴィンにやりたくない修とは、犬猿の仲…

会えば、常に喧嘩をしている

そんな2人はいつものことなので放置して、茜は立ち去る

 

「ふぅ~…(やっぱり、蓮兄のことが気がかりパーティに集中できないよ…)」

 

先ほどから多くの参列者と会話をするものの、まったく集中できて居らず、まさに心ここに在らずのの状態である茜

 

「よしっ!こうなったら!」

 

そして、茜はあることを思い付き、拳を握る

茜は、グラスをテーブルに置き、そっと出口の方へと近づいていく

 

「茜様、いかがなさいましたか?」

「ふぇっ!?く、楠さんっ!え~と…その~ちょっとお花を摘みに…」

「作用でございましたか、失礼いたしました」

 

茜がパーティ会場の出入り口の戸に手を掛けた時、国王の参謀として仕える(クスノキ)史郎(シロウ)の呼びかけに驚き、変な声になりながら答えると、楠は一つ礼をして下がってくれた

 

「(はぁ~びっくりしたぁ~)さてと…」

 

茜のお城での控室い急いで駆け込み、カバンの中からあるものを取り出す

それは、スマートフォンだ

 

「これで、おばさんに連絡して、蓮兄が安静にしているか確認しよう。そうしたら、きっと私もパーティに集中できるし、蓮兄には終わった後に、何か買って行ってあげればいいことだしね」

 

茜が先ほど思いついたことというのは、このことだった

早速、茜は蓮斗の母親・日高(ヒダカ)美紀(ミキ)の登録番号から電話を掛ける

 

トゥルルルル…

 

何回目かのコール後

 

「もしもし~」

「あ、おばさんですか!?」

「茜ちゃん、どうしたの~?今、パーティの途中じゃ…「蓮兄の様子どうですか!?」…え?」

 

蓮斗の母親に通じるや否や勢いよく茜は、蓮斗の様子を問う

その様子に美紀は驚く

 

「蓮斗?あの子がどうかしたの?」

「え?」

 

しかし、美紀からの言葉で今度は茜が驚く

 

「(まさか…)おばさん…今、家にいるんだよね…」

「実は、夜勤になっちゃってね~今、まだ、仕事中なのよ~蓮斗には一応言っておいたんだけど…あの子がどうかしたの?」

「…じゃぁ、蓮兄って今、家に一人なの?おばさん、蓮兄から何か聞いてる?」

「そうそう。お父さんも遅いから、何か買って食べておいてってメールで言ってあるし、あの子からは特に何も聞いていないけど…何かあったの?」

「…」

「茜ちゃん?」

 

茜は蓮斗のメールを思い出す

そして、葵の言葉も…

 

"母さん、帰ってきた。心配かけたな。運んでくれてありがとうっ!パーティ楽しめよっ!"

"後、俺が熱出したって他の奴に言うなよ~心配かけて、パーティ台無しにしたくないからさっ!内緒なっ"

 

"連は、人が辛い時にはすぐに気付いて全力で励したり解決のために奮闘したりするけど、自分が辛い時にはそれをひた隠しにするからね…"

 

「っ!(蓮兄っ!!)おばさん、ありがとうっ!それじゃっ!」

「あっ!ちょっと、茜ちゃん!?」

 

蓮斗がどのような行動を取ったのか、一気に頭がフル回転して、理解することができた

茜は、急にハッとなって、美紀の話を遮り電話を切って、勢いよく控室を飛び出した

 

ダッ‼‼‼

「蓮兄っ!!」

 

そして、裏口へと続く道を全速力で掛け抜けていく

今の茜には、パーティのことが頭から抜けていた

 

ビュンッ‼

「キャッ!何…?って、茜ちゃん!!?」

 

その時、丁度お手洗いから出てきた光の横を茜が勢いよく通り抜けた

あまりの速さに一瞬、驚くもののすぐに自身の姉である茜だと気づいた光

そして、光は不思議に思う

なぜなら、茜が向かった先には、控室でもお手洗い場でもましてやパーティ会場でもない

あるのは、裏口だけだから

 

「って、あかねちゃんどこ行くの~!!?」

 

光の声は空しく空を切るだけであった

 

茜は勢いよく裏口から外に飛び出て、自身の能力で宙を飛び、全速力で蓮斗の家へと向かっていった

 

「大変だよ~!」

 

光は、急いでパーティ会場へと戻る

そして、近くで参列者と聖人君子のような笑みで会話を繰り広げる次女であり、姉の奏に飛びついた

 

「かなちゃん!大変だよ~!」

「キャッ!って、光、危ないわよっ!何よ急にっ「あかねちゃんがどっかに行っちゃったっ!!」…えっ!?」

 

グラスを持っていた奏は、それを落としそうになるも何とか抑えて後ろから突撃してきた光を振り返る

奏が少々怒っている様子も気にせず、光は慌てて話し始める

 

光の言葉に驚く奏だが、周囲にも聞かれるほどの大きな声であったため、愛想の良い笑顔で周りにいた参列者に振り返る

 

「奏様、何かございましたか?」

「いえ、何でもございませんわ。すみませんが、少し席を外させていただきます。失礼いたします」

 

そして、一礼すると、光の腕をガッと掴み、勢いよく会場を出ていく

 

「で、茜がどっかに行ったってどういうことなのよ?」

「私にもよくわからないんだけど、お手洗いから出てすぐに茜ちゃんがものすごいスピードで裏口から出て行ったところを見て…そのまま、戻ってこないし…」

「はぁ~あの子は何やってんのよ、まったく…とにかく、どこに行ったのか連絡とってみないとっ」

「二人ともどうかしたの?」

 

奏と光が二人で壁際に立ち、こそこそと話をしているとき、パーティ会場にいて、先ほどスピーチを終えた葵と修、母親でこの国の王妃・五月が立っていた

 

「急に二人で飛び出して、何かあったのか?」

「それに、茜もさっきから見当たらないのよね~」

 

葵の言葉に続いて、修・五月が奏・光へと話しかける

そして、奏は平静ではない光の代わりに茜が先ほど裏口から出て行ってまだ、戻らないことを伝えた

 

「茜が!?」

「いったいどこに行ったんだ…」

 

葵と修の驚きと心配の声に奏や光も思案するが、やはりここは母親であった

 

「とにかく、このことは一応伏せておきましょう。今から、控室で茜に連絡を取ってみるわ。大勢がいきなり出て行っては変に思われるから、とりあえず光と修はパーティに戻っておいて。何か言われたら適当にごまかしておいて頂戴。修、光をお願いね。葵と奏は一緒に来て」

「「「「はいっ」」」」

 

母親の一言で、今行うことをそれぞれ認識して行動する

 

そして、五月・葵・奏の3人で控室へと入り、五月はカバンの中から、携帯電話を取り出す

しかし、いくら茜に電話を掛けても一向につながる様子がない

 

「駄目ね…全然、つながらないわ…」

「茜っ…」

 

不安になる葵と奏…大切な家族である茜が急に姿を消せば当然のことである

五月は二人の不安そうな顔を払拭しようと声を掛けようとしたとき、ある人物から電話がかかってくる

 

 

 

 

 

「はぁはぁ…ついた」

 

茜は全速力で飛び、蓮斗の家の前へと降り立った

そして、蓮斗の家を見上げると、まったく電気がついておらず、誰もいないような静けさだった

茜はインターフォンをとにかく鳴らしてみるが、まったく応答する気配がない

仕方がないので柵を開け、家の戸に手を掛ける

すると、簡単に開いてしまい、自分が出て行った後にカギを掛けてないことが一目瞭然だった

 

「お、お邪魔しまぁ~す…蓮兄…?いる?」

 

茜はそーっと戸の隙間から入り、声を掛けるが家の中は静まり切っていた

 

「蓮兄、寝てるのかな…でも、あれだけの高熱でしかも倒れるくらいだから、結構体がしんどいはずだし…(もし、またあんなことがあったら…)」

 

茜の中で、小さいころの記憶が蘇ってくる

小さかったからこそ、その出来事を大きく、後に残るものとなっていた

 

「…そのため…」

 

その時、何かリビングの方から声が聞こえる

それによく目を凝らすと、小さく明かりが点いていることに気付いた

 

「蓮兄…?」

 

その明かりの基へと茜は向かい、リビングに続く戸を開けた

 

「っ!!蓮兄っ‼‼‼」

 

リビングは、つけっぱはしにされたテレビとソファーの下に落ちたタオルケット、そしてキッチンへと続く廊下に倒れ伏していた蓮斗の姿だった

茜は驚愕し、急いで蓮斗の基へと駆け寄り、抱き起す

 

「蓮兄っ!!蓮兄っ!!しっかりしてっ!嫌だよっ!!」

 

茜は蓮斗が息をしていることを確認し、大きな声で意識を失っている蓮斗に声を掛け続ける

涙に濡れる瞳を拭うこともせず、必死に息を荒げ苦しんでいる蓮斗を呼ぶ

 

その時、

「うっ…」

 

蓮斗が目を開け、虚ろな目で茜を見上げる

 

「蓮兄っ!」

「(あ…れ…俺、なんで…つーか、なんで、ここにいんだ?葵)」

 

ようやく意識を取り戻した蓮斗だが、どうやらまだ意識ははっきりとしていない様子

そして、蓮斗には今、目の前にいる人物が葵だと感じていた

 

「なんで、ここに…」

「蓮兄のバカっ!なんで、もっと頼ってくれないのよっ!」

「…ごめん…」

「よかった、意識戻って…待ってて、今、救急車呼ぶからっ!」

 

茜はとにかく救急車を呼ばなくてはと思い、蓮斗から離れようとしたとき

 

「(あぁ、また行ってしまう…頼む…頼むから…)」

ギュッ

「(葵…)行かないでくれ…」

 

蓮斗は、茜を葵と勘違いしたまま、意識が朦朧としている中、目の前にいる茜を弱弱しい力で引っ張り抱きしめる…

 

「…れ、蓮…兄…」

「(…葵)」

 

リビングは、テレビの音だけが響いていた…

 

 

 

 

お城の控室では、ある人物からの着信音が響いていた

五月は、携帯の通話ボタンを押して、応答する

 

「もしもし、美紀?どうかしたの?」

「あ、五月?ごめんね、忙しい時に電話して。ちょっと、気になることがあったからさ」

「気になること?」

 

電話の主は、蓮斗の母親・美紀だ

そして、美紀は先ほどの茜とのやり取りについて五月に話す

 

「さっき、茜ちゃんから電話があったんだけどね、蓮斗の様子がどうのとかで話した後に、急に電話が切れちゃって…どうしたのかなと思ってさ~」

「茜が電話を?どういうこと?…うん、蓮君?」

「えっ?」

 

五月が美紀と話をし、それを真横で聞いていた葵と奏

しかし、茜と蓮斗の二人の名前が出てきたことに、今のこの状況から茜がいなくなった原因が蓮斗にあるということは容易に推測できた

 

「うん、わかったわ。ありがとうね。うん、それじゃぁね」

「お母さん、蓮がどうかしたの?」

「さっき、茜から美紀に連絡があったそうでね。どうも、蓮斗の様子はどうかって聞いたそうなんだけれど、美紀は急に夜勤が入って今も仕事中だから、蓮人のことは知らないって言ったそうなのよ。そしたら、急に茜が電話を急いで切ったみたいで…」

「なるほどね…あばさんの電話を急いで切った後に、裏口から出て行ったと考えると、茜は蓮兄のところに向かったって考えるのが妥当かしら」

 

五月が電話を切った後、葵は五月に詰め寄り、ことの詳細を詳しく聞く

そして、その内容を隣で聞いていた奏により、茜が向かったであろうところを推測した

 

「蓮に何かあったのかしら…」

「姉さん、とにかく一度、蓮兄に連絡とってみれば?」

「う、うん…」

 

葵は、大切な妹である茜のことも心配であるのに、そのうえ、蓮斗までとなり、不安で顔を暗くしていた

そして、表面は冷静を装っている奏の提案で、葵は急いでカバンの中から携帯電話を取り出して、蓮斗へと発信音を鳴らす

 

ガチャッ

「何かあったのかい?」

「お父さん」

 

その時、控室の扉が開き、このパーティの主催である国王の総一郎がやってくる

奏の言葉で、葵は扉の入口へと目を向けた

 

「さっき、楠から伝言があってね。茜がパーティ会場から離れてから一向に戻ってくる気配がないと。そして、裏口が開けられてそこから茜が飛び出していくところをカメラが映していてね」

「えぇ、そのことなのだけれど、あの子、きっと蓮君の家に向かったんじゃないかしら」

「蓮君?」

「えぇ、さっき美紀から電話があってね。蓮君のことを茜に聞かれたんだけれど、今日は急遽、夜勤が入って蓮君の様子を知らないって言ったら、あの子、急に電話を切ってしまったらしくて…」

「なるほど、おそらく、蓮君絡みであることは確かだね」

「それで、さっきから葵が蓮君の携帯に電話を掛けているんだけれど、一向に出る気配がなくて…」

「まさか、蓮君に何かあったのか!?」

ピクッ

 

王様・総一郎と王妃・五月は、これまでの状況から推測するも、一向に当人たちと連絡を取れず、渋っていた

そして、葵は一向に応答する気配のない携帯電話をずっと耳に当て鳴らし続けた

徐々に募っていく不安を押し殺していたのだが、総一郎の言葉に反応し、嫌な予感がどんどん膨らんでいく…

 

「(蓮っ…)お母さん、私、連のところに行ってくるっ」

「「「っ!」」」

「茜と蓮が心配だから…「駄目よ」っ!」

 

葵の言葉に3人が驚くが、五月は瞬時に、葵の言葉を遮った

 

「あなたは、王家の長女としての自覚をしっかりと持ちなさい」

「っ!それは…」

 

王妃としての言葉に葵は、ハッとなる

自分は国を代表する王族の長女

大切な国際親睦会を私情でいなくなるわけにはいかない

しっかりと自分の責務を果たす必要が十二分にあった

しかし…

 

「ごめんなさい…それでも、私、蓮と茜のことが心配でっ…行かせてくださいっ」

 

それでも、葵の瞳はどうすうのか気持ちを決めていた

 

「はぁ~まったく、衝動的に動くところは、さすが姉妹ね…そっくりだわ、茜と…奏だったわね」

「っ!なんで、急に私に振るのよっ」

 

五月は葵の瞳から決意を感じ取り、小さく苦笑をこぼして、母親の顔となった

奏はとばっちりとばかりに反論している

 

「いかがいたします?国王陛下」

 

そして、五月は今度は国王である総一郎に話を振る

今来たばかりではあるが、あらかた話の内容は分かったようで、王は葵へと顔を向ける

 

「大切なパーティの最中に王家がまして王家の第一王女がいなくなるなど、言語道断な話だな」

 

王は葵に厳しい言葉を振りかける

しかし…

 

「だが、家族を思う気持ちを大切にすることもより大切なことだ。どちらを選択するのかは、お前が決めなさい。行っておいで、葵」

「はいっ…」

「んじゃ、俺の出番かな?」

「修君っ!」

 

その時、またしても扉が開き、修が部屋の中へと入ってくる

 

「蓮兄の家にすぐに行けるのは俺だけだからな」

「そうねっ、お願いね、修君」

 

 

葵は修と共に蓮斗の家へと向かっていった

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
大分中途半端ですよね…すみませんっ

しかも、完全なるオリジナルで申し訳ないっす

でも、読んでいただけてうれしいです!ありがとうございました!

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