「イベントに声があるとかなり新鮮だな・・・」
「声付きしか知らないアタシからしたら何とも言えないわね」
「「それにしても」」
「「ヤンガスの声父さん(碇指令)だよな(よね)・・・」」
父さんの策略に嵌って九死に一生、いや奇跡体験!アンビリバボーな瞬間を乗り越えてからしばらく。
僕は斜め前を歩く綾波さんに先導されるような形でNERV本部への道を進んでいた。
「・・・」
「・・・^^;」
黙って歩く綾波さんに、黙って続く僕。
自分で言うのも何だけど、僕はそれなりにコミュ力がある方だと思っている。
だけどこの何とも言えない空気を打破するような策も勇気も僕には無かった。
もしこの状況を視聴者視点、所謂神様視点で見ている人がいたとする。
多分その人は「シンジはヘタレてるな」とか「話しかけるくらいできるだろ!」とか「ニコポなでポでやりたい放題だぐへへ」とか「ちくわ大明神」とか思っているんだろう。
誰だ今の。
とにかくだ。
僕に対してそういう『転生者』のような視点で物事を語られても何の意味も無い。
小説とかアニメだとかを見て、「この場面は自分なら~」とか思う人は少なくないと思う。
だが、その場面にいる自分をリアルに想像する人はいないだろう。
無意識に美化し、その場面に佇む自分はリアルの自分とはかけ離れた容姿になっているに違いない。
さらにその自分には、場面を思い通りに進められる『原作知識』。
苦労もせずに物事を進めるための『能力』も当たり前にように保有しているのだろう。
これを『転生者』と言わずになんというのか。
そんな場面を思い通りに進める妄想をしている人達に、僕は問いたい。
自分はリアルそのままの容姿で、原作知識の無い知らない世界なのにもかかわらず能力無し。
そんな自分の前をこちらを見向きもしない絶世の美少女が歩いていた。
しかしその美少女は謎が多く、勇気を出して話しかけても十中八九無視されるだろう。
その状況であなたは、
『彼女に話しかけることができますか?』
「(誰か助けてーっ!!!)」
そこまで考えた所で僕は心の中で絶叫した。
あまりの緊張で誰に話しているわけでも無く、偉そうに意味の無い問い掛けを繰り広げていた僕。
しかしそれは「これはひどい」なんて言葉では片づけられない状況をLIVEで体験していることを態々再確認するハメになるという結果に終わった。
▼ しんじ は げんじつ から にげだした!
▼ しかし まわりこまれてしまった!
▼ げんじつ の こうげき!
▼ つうこんのいちげき! ←今ここ。
もうチート転生者でも父さんでも何でもいいから助けてほしい。
誰か綾波さんが気になる話題とか教えてくれないかな・・・
自分で解説するのも可笑しいけど、僕が父さんに助けを求めている時は大体諦めている時だ。
父さん助けて!→しかし何も起こらなかった!→やっぱり父さんはダメだね(暴論)といった流れはもうすでにお約束だからね。
というわけで助けを求める事をかなり時間をかけて諦めた僕は、爆砕覚悟で綾波さんに話しかける!
「綾波さん!今日はいい天気だね!」
あ、やっちゃった。
「そうね」
え?
返事が返ってきた。
会話が・・・成立した。
絶対に失敗すると言っても過言じゃない、あの言葉。
その言葉に返事が返ってきた。
無視されると勝手に確信していた僕は驚いて固まるが、『今回は』止まっているわけには行かなかったのですぐに歩き出す。
ん?『今回は』?
・・・そうだった、思い出した。
今のやり取りとこの驚きを僕は知っている。
『と、父さん!今日はいい天気だね!』
『ああ、そうだな』
母さんのお墓の前で、初めて父さんと交わした会話。
沈黙に耐えられなくなり勇気を出して話しかけ、返事が返ってきて驚きその場に固まってしまったあの時。
あの時と、全く同じ感覚だった。
・・・と、いう事は。
「綾波さんはいつもこの道でNERVに向かうの?」
「違うわ」
「あ、そっか。学校からの時もあるもんね」
「そうね」
言葉数は少なくとも、僕の言葉に対してしっかりと返事を返してくれる綾波さん。
やっぱり思った通りだ。
綾波さんは、父さんと同じタイプの人だったんだね。
そうとわかれば話は早い。
僕が感じていた重い空気は、いつの間にか消え去っていた。
NERVへの道を歩きながら、何でも無いような会話に花を咲かせる僕と綾波さん。
僕がしゃべって、綾波さんが答える。
そんな会話を続けていると綾波さんがエスカレーターに乗ったので、僕も3段くらい遅れて乗る。
下へと続く、異常に長いエスカレーター。
まだ此処へ来て日が浅く、方向感覚がまだ掴めていない僕でもNERVがもうすぐそこだという事はわかった。
・・・じゃあそろそろ、少し踏み込んだ話をしたほうがいいかな。
「もうすぐで着くね」
「そうね」
「綾波さんは零号機の起動実験、大丈夫?」
「どういうこと?」
今までと同じように、YESかNOで答えられる質問をすると初めてそれ以外の答えが返って来る。
質問に質問で返すなーッ!!とは言わない。
確かに少し、分かりずらかったかな・・・?
「前に起動実験で大怪我したって聞いたから、平気なのかなって思ってさ」
「・・・」
話しをしていて、初めての沈黙。
少し綾波さんの纏っている空気も変わった気がした。
あれ・・・もしかして地雷踏んだ・・・?
「・・・あなた、碇指令の子供でしょ」
「え、あ、はい」
唐突なその言葉に、つい改まった返事をしてしまう。
それに何の関係が・・・?
「信じられないの?お父さんの仕事が」
「・・・そっか、父さんの仕事なのか」
父さんはNERVの司令官だから、これも父さんの仕事になるのか。
何処か心の中で、勝手な区切りをつけてしまっていた。
そんな風に少し考え込んでから意識を綾波さんへと向け直すと、綾波さんは振り返って僕を見つめていた。
・・・今は、地雷を踏まないようにする事に専念するか。
「父さんの事は信じてる・・・けど、実験は別だよ」
「どうして?」
「だって、一回大怪我してるんだよ?」
「・・・?」
ほんの少し眉を顰める綾波さん。
普通の人にはわからないかも知れないけど、父さんで慣れている僕には頭の上に「?」が浮かんでいるのまでハッキリ理解できた。
・・・って、なんでわかってないんだ?
「今回も失敗しちゃったら、もっとひどい怪我するかもしれないじゃないか!」
理解でき無さそうな反応が逆に理解できなかった僕は、つい声を荒げてしまう。
しかし、綾波さんは不思議そうに「?」を浮かべたままだ。
・・・僕と綾波さんで話題がすれ違っている気がする。
なんかこう、アンジャッシュ的な。
「あなたは何の心配をしてるの?」
「綾波さんの心配に決まってるじゃないか」
むしろ他に何があるんだと聞きたいのを堪えて、「おまえは何を言ってるんだ」と言わんばかりに返事を返す。堪えられてないな。
僕の返事を聞いた綾波さんは、何に驚いたのか目を少し見開いた。
アレかな。
自分が傷つく事は気にして無くて、僕が気にしているのは綾波さんじゃ無く実験の成功だとか他の事だと思っていたとか?
・・・少し、イラッと来た。
今なら某正義の味方の周りの人の気持ちが、良-く理解できる気がする。
「・・・どうして」
「あたりまえだろ?友達じゃないか」
綾波さんの問いに、僕は間髪入れずに返事をする。
その質問はすでに予想済みだったからだ。
綾波さんは少し見開いていた瞼を、さらに少し開いて驚いた。
普通だったら「何言ってるんだ?コイツ」と言った反応が返って来るような、恥ずかしいセリフを言ってしまっているのはわかっている。
だけどその反応は少しでもアニメや漫画を知っている人の反応であって、綾波さんのような純粋無垢な人には当てはまらない。
だから綾波さんが変な感情抜きで、僕の言葉をそのままに受け取っているのは理解している。
理解しているからこそ、その「予想もしていなかった」的な反応は嫌だった。
父さん式会話術だけど、結構な量の話をしたんだ。
僕はもう、綾波さんとはそれなりに仲がいいと思っている。
「少しとはいえ、一緒に歩いて話したんだ」
「・・・」
「僕はもう、とっくに友達だと思ってるよ」
「・・・」
驚いた表情のまま黙っている綾波さんに、畳み掛けるように続ける。
少し無理矢理な気がするけど、なのはさん式ということで勘弁してほしい。
それでも固まったままの綾波さんに、視線を合わせジッと見つめて返事を待つ。
すると少し経って、綾波さんの視線がほんの少しずれた気がした。
・・・もしかして今、目を逸らしたのかな。
照れているのか、それとも嫌だったのか。
どっちなんだろう。
「・・・もしかして、嫌だった?」
「・・・違うわ」
「ならよかった」
僕のテンプレな問いに対して、望んでいた返答が返って来る。
一応本当に心配だったので笑みを浮かべてそう言うと、綾波さんの視線がさらに数ミリずれる。
嫌じゃないという事はこの反応が消去法で照れている、という事になるのでつい和んでしまう。
そして綾波さんも僕も、何も言う事が無くなったので最後の締めとして僕は笑ってこう言った。
「綾波さん、実験がんばってね。応援してるから」
「・・・」
綾波さんは何も言わず前を向き、少しした後にほんの少し頭を上下させた。
僕は綾波さんが頷いたんだと理解し安心して、少し声を出して笑ってしまった。
うん、よかったよかった。
シンジも綾波レイもここからドンドン仲良くなっていくんだろうね。
続きが実に楽しみだよ!
・・・ふぅ。
・・・うん。
ところでこれ、なんてゲーム?
最後なんて恋愛もののVRMMOゲームなんてものがあったらこんな感じなのかーとか思いながら話してたからね。
いやこれ現実だよね?
ケンスケ達とかとふざけているわけじゃ無く主人公ロールをして、しかもそれが完璧に機能しているとか現実味なさすぎでしょう?
綾波さんも人間味が無いからちょうどいいってやかましいわ。
今のでわかったけど、綾波さん自身は普通の女の子だ。
じゃあ人間味が無いのは何だったのか。
・・・周りの、扱いだろうなぁ。
ごめん綾波さん。
さっきは「父さんの事信じてる」って言ったけど、少し不安になって来たよ・・・
とまぁシリアスはここまでにして置いて、と。
ねんがんの あやなみさんとなかよくなったぞ!
殺してでも まもりきる!
地雷踏みかけたっぽいしこれ以上の情報収集は諦めるとして、これは大きいな。
これも父さんとの会話で会得した、父さん式会話術のお蔭だね。
・・・ん?という事は、これは父さんに助けられた事になるのか?
父さん助けて!→しかし何も起k(以下略)が成立しなかった事になるのかな?
・・・すごく嫌な予感がする。
フラグ回収ならずという事態に僕のライダー(宝具はエヴァ)としてのスキル、直感A(偽)が警報を鳴らし始めた。
僕の中で旗回収不可避と信じられていたフラグが折れてしまったんだ。
絶対によからぬ事が起こるに違いない。
僕はエスカレーターを降り、再び歩き始めた綾波さんの後ろを歩きながら見えない何かに対してずっと警戒していた。
・・・
「成功、か・・・」
暴れることも無く、固定されたままの零号機を見て僕は呟く。
あれから少し歩くとNERVに到着、そしてすぐに綾波さんが乗り込んで起動実験が始まり、そして成功に終わった。
「なぁに?うれしくないのシンジくん」
「そんなことないですよ」
僕のおかしな反応に、となりで同じく零号機を見ていたミサトさんが問いかけてくる。
何でも無いと返すとミサトさんは「そうなの」と言って零号機に目を戻した。
・・・ハッキリ言うと、僕はこの実験が失敗すると思っていた。
例の嫌な予感、それがこの実験の失敗に対するものだと考えていたからだ。
これじゃないならいつ、何があるんだろう?
そうやって考え込もうとして、やめた。
そうだよね、嫌な事なんて無い方が良いに決まっている。
いくら僕の予想の的中率がこの街に来てからかなりの物だったとしても、それをスキルと呼んで勝手に深く考え直ぎたかな。
そんな風に自分の考えにやれやれと溜息をついたところで、放送が響き渡る。
《総員、第一次戦闘態勢についてください、繰り返します・・・》
・・・これこそがフラグ、だったか。
僕は自分の考えの迂闊さに嘆きながらミサトさんと共にその場を後にした。
・・・
『初号機発信準備!』
『第一ロックボルトを外せ』
「解除確認!」
『了解!第二拘束具を外せ』
僕も慣れたもので、最初の頃とは違いオペレーターの指示に対してキリッとした声で答える。
気合十分。気力も十分で体に力を込める。
まぁエヴァの視界からは、こっちをじっと見ている綾波さんが見えてるから気合いが入るのはしょうがないよね。
そのうちエヴァの発進準備は整い、ミサトさんの声でエヴァが発進する。
いつものように襲い掛かる重力に耐える僕。
だけど今日は耐えながらも、無線越しに聞こえるミサトさん達の声を聞きとろうと必死に意識を集中した。
さっき僕が立ててしまった、「嫌な予感の回収フラグ」。
絶対に回収しないために、そのための努力は怠るつもりは無いのだ。
視界が遮られている以上、気にする部分がそれしか無いとも言えるけど。
・・・ん?なんか向こうが騒がしい。
何かに対して慌てる声がするが、周りの轟音でよく聞き取れない。
やめてよ怖いじゃんか!
僕は何が起こるかわからない恐怖と重力に耐えていると、ガコンとという音と共にエヴァが止まり外の景色が視界に飛び込んできた。
地上に着いた。
何があったのか。
それを聞こうとしたがそれよりも早く、ミサトさんの叫び声が聞こえた。
「ダメ!!避けてっ!!!」
「っ!!?」
次の瞬間、僕の視界は白一色に染まった。
原作でゲンドウに絆を求めたレイ。
そしてシンジと少しの触れあいで感情を見せるようになったレイ。
私は綾波レイ自身には何の問題も無く、悪かったのは環境だと信じています。
そんな普通の女の子に対して、シンジくんの主人公ロールは効果抜群だったようです。
そしてレイを通して、NERVの闇を垣間見たシンジくん。
さすがのシンジくんも、そして私も一時的にとはいえシリアスのならずには居られませんでした。
ですが皆さん、安心してください。
皆さんは知らなかったと思いますが、実は私はシリアスを書くのが苦手なのです。
そのうち、反動が倍返しで返って来ると思うので、それまでお待ちくださささささ(禁断症状)
それとすみませんでした。
◇さんビームしか出てないですね。
次回こそ本格的に出てきますので本当にサーセンwww
(シリアスは死んだ、もういない)
・・・と、思っていた時期が私にもありました。(追記)
皆様の御感想を読ませて頂き、執筆中の九話の内容に思う所が有ったので最初から書き直すことにしました。
なので投稿がかなり遅れると思います。
ご了承願います、そして本当にすみませんでした。