幸運の一番星に憧れた者   作:大夏由貴

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四話目 共にいた証

朝、目を覚ます。

 

「・・・眠い・・・あと五分位寝るか・・・?・・・今何時だよ・・・。」

 

時計を確認する為に隣に顔を向ける。

 

 

こなたが熟睡していた。

 

 

首を横に向けながら思考停止する。一瞬で目が覚めた。

 

「・・・・・・・・・」

「くかー・・・、くかー・・・。」

「・・・あぁ、そういや昨日一緒に寝たんだっけ。」

 

一瞬天使が居たのかと思った。ヤバイ、普通に可愛い。お持ち帰りしたい。あ、此処俺ん家だった。

落ち着け、とりあえず現在時刻の確認だ。現在時刻午前七時四十六分。よし、もう暫くこの寝顔を堪能しよう。

 

「・・・しかし無防備だな・・・。もうちょい警戒しろって、一応俺男なんだぞ。」

 

まぁそれだけ信頼されているって証拠でもあるから嬉しいんだけどな。俺だけの特権だと思えば妙な優越感が込み上げてくる。

・・・いや、俺だけじゃ無いな。そうじろうさんもだ。寧ろあっちの方が一緒に寝る事が多いからそうじろうさんの特権とも言える。

 

「・・・信頼、か。」

 

思い返すのは中学一年目、下校の時に不良に喧嘩売られたあの頃。俺にとって運命の分岐点とも言えるあの瞬間。

初めてこなたに出会った時は心底どうでもいいって思った。

ちょっと腕に自信がある小娘が乱入してきたって認識しかしてなくて、二度と話す事は無いって決めつけていた。

けど翌日、凄く楽しそうに話しかけてきたこなたがどうも邪険に扱え切れずかなり戸惑った。

初めは適当に追い払ったが、何度もしつこく付きまとわれたので遂には根負けしてキチンと向き合って話すようになったのを覚えてる。

 

「最初は一般人Aだったのに気がついたら大親友だもんな。本当に人生何が起こるか分かんねぇな。」

 

結局その後もこなたが起きるまでずっと寝顔を見続けて気がついたら八時半になってた。不味い、朝飯作らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビックリしたよ~、起きたらこのはがガン見してたんだもん。」

「悪い悪い、こなたの寝顔なんて中々見れないからな。貴重なシーンを頭に刻み込むようにしてたらいつの間にかこんな時間に。」

「ん~、確かに今日帰るからね。また会うまで暫くかかるかもしんない。」

「寂しくなるな~。今の内に写真でも撮っておくか?」

「まぁ何にしろまずは朝御飯作ろっか。」

 

雑談をしながらキッチンに向かう。着替えはちゃんと部屋を出る前に済ました。

 

「今日はとりあえずシンプルにベーコンエッグでも作るか?」

「でも食パン無いんじゃなかったの?」

「そうなんだよな、代わりに白米でも出しておこうかって考えてるんだけどどう思う?」

「他の料理考えるの面倒だしそれでいいんじゃない?」

「じゃあそうするか。」

 

エプロンを着て準備をする。こなたはサラダを作り、俺はベーコンエッグを作る。

と言ってもやる事は単純だ。フライパンに油を少し入れて熱した後、薄切りのベーコンと卵を入れたら塩胡椒を振って水を少量加えて蓋をし、弱火にして三十秒程放置すれば完成だ。

まず最初に四人前を作り、その後三人前を作る予定だ。流石に一気に七人前を作れる程うちのフライパンは大きくない。

ひとまず出来上がったベーコンエッグを一つずつ皿に移して次のベーコンエッグを作る。ベーコンエッグを乗せた皿にこなたが千切ったレタスと千切りにしたキャベツ、プチトマトを乗せてテーブルに運んでいく。

第二弾のベーコンエッグも完成し、それらを皿に移してテーブルに運んだら茶碗に米をついでいく。

 

「残りは俺がやるからこなたは皆を起こしに来てくれ。」

「りょーかーい。じゃあ後は頼んだよ。」

 

そう言ってキッチンから出ていくこなた。俺もサッサと準備を終わらせなければ。

テーブルに皿と茶碗、全員分の箸を用意して醤油とドレッシングを置けばミッションコンプリート。

ついでに冷蔵庫から麦茶を出しておく。コップに氷と一緒についで一息つかせた所でこなたが戻ってきた。

 

「このは~、皆起きたよ~。」

「おはよう。いい朝ね。」

「おはよ~。ふぁ~・・・まだ眠い・・・。」

「おはようございます。夜桜さん。」

「よく眠れたか~?ちなみにウチはぐっすり眠れたわ!」

「おっはよ~!今日も張り切っていこうか~!」

 

丁度皆が起きたようだ。黒井さんももう体調は悪くないようなので今日こそ帰れるだろう。

 

「おはよう。もう朝飯の準備は出来ているから座ってくれ。」

「へぇ~、美味しそうね。」

「私とこのはの合作だよ~。存分に味わいたまへ。」

「はい。しっかり味わいますね。」

「けどやっぱり食パンがあったら良かったね~。」

「まぁ合わない事はないからええんちゃう?」

「あ、このは君、お茶貰ってもいいかな?」

「どうぞ。コップはそっちに置いてあるから勝手に取って下さい。」

 

全員を席に案内し、手を合わせて「いただきます」と言った後に朝飯を食う。

 

「にしてもあんたって随分ハイスペックなのね。つかさ程じゃあないけどかなり料理出来るみたいだし。」

「むふふ~、少なくともかがみんよりかは出来ると思うよ。」

「余計なお世話よ!」

「一応一人暮らしをしている身だからな。それ位出来なきゃそもそも節約すら出来ねぇよ。このマンションの家賃どんだけかかると思ってんだ。」

「そ、そんなに此処の家賃って高いの?」

「おう。全く、婆さんももう少し金出してくれればいいのに・・・。」

「けどお婆さんが少ししかお金を出さないのは事実だけどそれってこのはが色んな漫画とかゲームを大人買いをするからじゃなかったっけ?」

「仕方ないだろ、こなたが教えてくれるヤツって全部面白いんだから。後それらプラス小説な。」

「・・・それって自業自得ちゃうんか?」

「き、きっとお婆さんは夜桜さんの事を思ってそういった行動をとられているんですよ。」

「みゆきちゃん、それ多分フォローになってないと思うよ。」

「けどまぁ一応夜桜も学生の身分なんやから遊んでばっかいんと、ちゃんと勉強もせなあかんで~。」

「あ~センセ、このはの成績は学校全体で上から数えた方が早い順位にいますよ。少なくとも十五位以内にはいると思います。」

「えっ!?こいつそんなに頭良かったの!?」

「柊姉よ、お前が俺を一体どんな風に見てたのかをちょっと小一時間程問い詰めたい。」

「いや、だって『総隊長』よ?」

「しばくぞコラ。」

「そういえば警戒隊って今どれくらい人数がいるんだろ?」

「何だ?お前その辺聞いてなかったのか?」

「うん。少なくとも三番隊まではいて隊長、副隊長が存在するって位しか聞いてない。一つの隊に何人いるのかすら分かんない。」

「・・・これで某死神漫画と同じ十二番隊までいたら流石に俺でも引くわ・・・。」

「・・・それは無いって言い切れない辺りがなんともね~・・・。」

「あんた達ってホントに中学の頃何してたのよ・・・。」

「「純粋に青春を謳歌していた。」」

「嘘つけ!!」

 

そんな事を喋りながら時間が過ぎていき、あっという間に朝飯を済ませた俺達は各自食器を洗った後、荷物を纏める為に部屋に戻っていった。俺は見送りに行く為に色々用意するつもりだ。

 

「ん~、どうせなんだし何かお土産みたいなのでも渡しておくか。」

 

となると何がいいだろうか?一応この前デパートで色々買ったので『それっぽい』って物はある。

だがそんな適当なヤツを渡すのもどうだろう?渡すならちゃんとした物の方がいいような気がする。だけどちゃんとした物ってどんなのがいいだろうか。

 

「悩むな・・・。こういう菓子類を渡すのもどうかと思うし、かといってキチンと包容されている物なんて無いし・・・。」

「お~い、このは~。」

「んあ?こなたか?どうしたんだ一体?」

「いや、そろそろ帰るから旅館まで一緒に行こうよ。」

 

途中でこなたがやって来た。どうやら皆もう準備が出来たみたいだ。

 

「あ~、もうそんな時間か。わかった、すぐ行く。」

「うん?どしたの?」

「いやな?折角だから何かお土産でも渡そうかって思っていたんだけどな、何を渡すかが全然決まらなくてどうしようかと悩んでいた所だ。」

「別にいいよ~、そんなの無くたって充分お世話になったんだから。」

「う~ん・・・けどな・・・。」

「あっ!ねぇ、それならちょっといいこと思い付いたんだけどいいかな?」

「ん?何だ?」

「あのね・・・」

 

こなたからの提案を聞いていく。ふむ、それなら確かに悪くない。

 

「いいんじゃないか?別に俺は構わないぞ。」

「おけおけ、それじゃあ向こうに着いたら作戦実行という事で!」

「別に作戦っていうほどじゃねぇだろ。」

「いいんだよ、こういうのは気分の問題なんだから。」

「まぁそれもそうか。」

「じゃあ私先に出とくね~。」

「おう。」

 

そうとなれば持って行く道具も決まりだ。『それ』をサッサとバッグに詰め込んで部屋を出る。

 

「あら、夜桜さん。」

 

と、そこで高良とばったり出会う。

 

「ん?高良、お前まだ出てなかったのか?」

「ええ、少し荷物を纏める為に部屋に入ろうとしたらドアの所で転んでしまいまして・・・。」

「・・・で、何処かぶつけて痛みが引くまで待ってたって感じか。」

「はい。もう皆さんは先に行ってしまわれたのでしょうか?」

「多分な。丁度さっきこなたが出た所だ。」

「そうですか、それなら私が最後みたいですね。」

「だな。時間にルーズなあいつが出たなら他の奴等は全員出ているだろうし。」

 

そう言いながら玄関に向かう。確か中学の時に一緒に映画でも見に行こうって話があって待ち合わせ場所に来たはいいが、いつまで経ってもこなたが来ずに待ちぼうけする事になったのを覚えている。

結局こなたが来たのは約束の時間の三十分も後の事だった。理由を聞くと読んでた漫画が面白く、気が付いたらこんな時間になってたとのことだ。

いや、それなら持って来ればよかったのにって思ったけど口には出さず、心の中に留めるようにした。言っても論破される気がしたからだ。

 

「けどまぁこなたから聞いた通りお前って結構天然なんだな。」

「そ、そうですか?自分ではあまり意識した事は無いのですが・・・。」

「いや、それは直さない方がいい。その方が絶対需要あるから。」

「フフッ、泉さんと同じ事をおっしゃるのですね。」

「そりゃあな。一部の人達にとってお前は『現実にいて欲しい女性』の象徴みたいなもんだろうし。」

「そ、そう言われると照れますね・・・。」

 

高良が顔を赤らめる。うん、大抵の男達はこれでもう落ちるだろうなって確信が持てる。

つーか何でこいつ今の今までフリーなんだ?告白された事とか無いって説得力が無さ過ぎる。

 

「ホント謎だよな~。お前位の女なら惚れる男なんて大量にいるだろうに。ナンパされた事とかねぇの?」

「えっと、実は昨日海で遊んでいたら男性二人に誘われました。」

「ん?そうなのか?こなたはそんな事全然言って無かったけど。」

 

あいつがそういうネタを会話に出さないなんて珍しい。俺に心配かけまいとでも思ったんだろうか?それにしては何か違和感があるけど・・・。

 

「・・・あっ!」

 

高良が何やら「しまった!」とでも言いたげな声を上げた。

・・・オイ、何だその反応は。まるで『俺に知られてはならない』って事を今思い出したような顔は。

 

「・・・高良クン、ちょっと今の話を詳しく聞きたいんだけどいいかな?」

「い、いえ!別にそんなに面白いお話でもありませんし!」

「まぁまぁ、そんな事を言わずにお兄さんに教えてごらん?別にお前に被害がくる訳じゃないんだし。」

「今『被害』って言いませんでした!?」

「気にするな。で?何があったか吐け。」

「あうう・・・じ、実は・・・」

 

半目になって声のトーンを若干下げ、脅し紛いに聞いたら高良は涙目になりながら正直に話してくれた。

内容を聞き終え、警戒隊に対するお仕置きのレベルが更に上がった。こいつが天然で助かった。じゃなきゃ全く気付かずに日々を過ごす事になる所だった。

 

「いやぁ~、ありがとな高良!お前のお陰で明日からどう過ごすかが決まったよ!」

「うう・・・すみません、道背さん、鳴跳さん・・・。」

 

玄関に辿り着き、靴を履いて外に出る。う~ん、明日が楽しみだ!

マンションから出ると皆が待っていた。

 

「あ、このは。準備は出来たの?」

「ああ、バッチリだ。」

「・・・?何か良い事でもあったの?凄くいい顔してるけど。」

「ええと・・・泉さん、実は・・・」

 

高良がこなたに事情説明をしている間に人数を確認しておく。よし、全員いるな。

 

「・・・という事でして・・・。」

「あ~、みゆきさんのドジっ子属性が仇になったか~。」

「本当に申し訳ありません・・・。」

「別にいいよ。私達に被害が来る訳じゃないんだし。」

「い、泉さんも夜桜さんと同じ事をおっしゃるのですね・・・。」

「ん?そなの?」

「はい。・・・フフッ、お互いを理解し合っているようで微笑ましいです。」

「・・・そっか。」

「・・・?泉さん?」

「お~いお前ら、もう行くぞ~?」

「あ、うん。今行く。」

 

旅館に出発する為にこなた達を呼んでおく。すぐに二人共やって来た。

 

「こなた、あんな面白そうな事隠したりすんなよ。あのまま警戒隊(あいつら)に厳重注意で済ます所だったじゃねぇか。」

「このはの厳重注意って絶対に過激なシーンが入るから大して変わらない気がするんだけど。」

「馬鹿言え。ちゃんと手加減してるっての。」

「いや、手加減してたら問題無いって意味じゃ無いからね?」

「善処しまーす。」

「是非そうしてくれると有難いね。」

「・・・?何かお前さっきより機嫌良くないか?」

「そう?ならそうかもね~。」

「何だ?何か良い事でもあったか?」

「むふふ、内緒だよ~。」

 

むぅ、さっきの高良との会話で何かあったらしい。出来れば聞いておきたいがこなたが内緒だと言うのなら無理に聞く訳にもいかないだろう。

その後は皆と雑談をしながら歩いて行った。向こうに着いたら『アレ』を使うし、天気が曇らない内に着いておきたい。出来るだけ早く着く為に先頭を歩いて皆を案内していく。

 

 

「・・・理解し合っている、か~。」

 

後ろでこなたが嬉しそうに何か呟いたが内容を聞き取る事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして五分後、旅館に着いた。う~ん、次から特に荷物が多くない時はこっちから来ようかな?

 

「それじゃあそろそろ帰るとしますかね?皆~、忘れ物は無い~?」

「まぁ全員そんなに荷物は多ないし、大丈夫なんちゃう?」

「いやいやゆい姉さんに黒井センセ、帰る前にちょっとやっておきたい事が。」

「何よ?あんた今度は何する気?」

「違うよかがみ、実際にやるのはこのはだよ~。」

「こなた、別によからぬ事を始める訳じゃねぇんだからからそんな誤解されるような物言いすんなよ。」

「何々~?何の話?」

「そういえば夜桜さん、家から出るのが随分遅れていましたがそれと何か関係が?」

「お、鋭いね、みゆきさん。」

 

こなたがニヤリと笑う。ていうかこいつ、皆に伝えて無かったのか?全員完全に戸惑ってるだろ。

 

「フッフッフ、旅行と言えば記念撮影でしょ~!」

「まぁ要するに俺達全員で思い出の写真を撮ろっかって話だ。」

 

そう言ってバッグに詰め込んだ『アレ』・・・カメラを取り出す。うん、どこも異常は無い。キチンと動く。

こなたに持ちかけられた提案とはズバリこの事だったのだ。お土産をどうするか悩んでいた時、朝飯を作る前の会話を思い出したらしい。

 

「おお~!悪くないんじゃない?」

「ええやん!折角の海や、波を背景に一枚撮るのも悪うないやろ!」

「へぇ~、あんたにしては結構良い事思い付くじゃない。」

「うん、折角なんだから撮ろうよ!どうせなら最後まで楽しくしたいし。」

「ええ。とても良い提案だと思います。」

 

皆もこの提案は賛成のようだ。

 

「じゃあ早速撮るか。えーっと、タイマーを設定して・・・。」

「あ、それなら此処の女将さんに頼もうよ。多分協力してくれると思うし。」

「あー、確かにそうだな。なら頼むだけ頼んでみるか。」

「それじゃあ待っててね、今呼んでくる。」

 

成実さんが旅館の中に入って行く。ならその間にどの辺りを背景にするかを決めておこう。

皆と話し合い、撮る場所、其々の位置を決めた時には成実さんが出てきた。後ろに女将さんらしき人もいる。

 

「やっほ~!OK貰ったよ~!」

「よし、これで準備完了だな。」

 

どうやら無事に許可を貰えたようだ。成実さんに位置を教えた後、女将さんにカメラを持たせて構えてもらう。

其々の位置は黒井さんと成実さんが後ろで立って、俺達高校生組がしゃがんで並ぶ。カメラから見て左から高良、柊妹、柊姉、こなた、俺という順番だ。

 

「準備はいいかい?それじゃあ、ハイ、チーズ!」

 

女将さんが号令をかけてシャッターを切る。

 

パシャッ!

 

フラッシュが光り、一瞬目が眩む。その後も何枚か撮り、上手く撮れなかった写真は削除してもらい、カメラを返して貰った。引率者二人はそのまま車を取り出しに行くと言い、駐車場に向かって行った。

 

「お、中々良い感じに撮れてるじゃねぇか。」

「うんうん♪じゃあこのは、帰ったら印刷ヨロシク。」

「おう、任せとけ。」

「それにしても随分濃い三日だったわね~。」

「お疲れさん。柊姉も帰ったらゆっくり休めよ?」

 

そう言うと不意に柊姉が俺を見て話しかけてきた。

 

「・・・ねぇ、ちょっといい?」

「ん?何だ?」

「仮にも一泊させてもらった仲なんだしそんな他人行儀な呼び方じゃなくて名前で呼び合う事にしない?こなたと一緒にいるんだからこれからあんたとも関わるだろうし。」

「あ、そうしようよ~。そっちの方が堅苦しくないし。」

「私は基本的に苗字で呼ぶ癖がついてるのでこれからも変わらないと思いますが、良い提案だと思います。」

「・・・!」

 

柊姉達からの提案に俺は目を見開いた。

俺にとって名前呼びとは一つの境界線だ。本当に信用出来る人間にのみそうする事を認める。

つまり、『他人』から『友達』へ変わる時に初めてそれを許可する。

今の所それを許可しているのはこなたともう一人の少女だけだ。

正直柊姉妹と高良はまだたったの一日半しか行動を共にしていない。普通ならまだ見極めの段階でその境界線に入れるかどうかは迷っている最中だ。

 

しかし、

 

この三人はこなたの友達だ。それなら話は簡単。

 

「・・・こなた。」

 

こなたの方を見る。こなたは優しく微笑んで俺を見つめ返す。

そして、

 

「大丈夫だよ。皆凄くいい人だから。」

 

ゆっくりと、言い聞かせるように答えた。

 

「・・・そっか。」

 

そっと呟く。こなたが言うなら間違い無い。こいつらは『大丈夫』だ。・・・きっと。

ならば答えは一つだ。改めて三人に向き合い、ニヤリと笑って答える。

 

「それじゃあこれから宜しくな。かがみ、つかさ、みゆき。」

「ええ、これから宜しくね。このは。」

「これから宜しく~。このは君。」

「宜しくお願いします。夜桜さん。」

 

皆で同じ事を繰り返し答えるもんだからまたククッと笑ってしまう。皆も笑っていた。

うん、こいつらとなら仲良くなれそうだ。

 

「お~い、四人共~!もう帰るよ~!」

「はよせぇよ~!それと夜桜はおおきにな~!」

「あっ!もう出る準備できたんだ。それじゃこのは、写真忘れないでね!」

「当たり前だ。解像度最高にして送ってやるから覚悟しとけ。」

「それは楽しみね。もし少しでも荒い所があったらクレームつけてやるわ。」

「それじゃあこのは君、また会おうね~!」

「この二日間はありがとうございました。また会う日を楽しみにしています。」

 

そう言って四人は車に向かって走って行く。俺も帰ったらカメラの写真をプリントせねば。

皆が車に乗ったのを確認し、そのまま家に向けて足を運ぼうとした時、

 

「・・・このは!」

 

後ろからこなたが呼び止めてきた。こっちに走ってくる足音が聞こえる。何か忘れ物でもしたのだろうか?

振り向いて「どうした?」と言おうとした瞬間、

 

 

こなたが抱きついてきた。

 

 

驚いて少しよろめいた。すぐにふらついた体を立て直す。

 

「このは、大丈夫だからね。皆、このはの味方なんだから辛い事があっても私達がついてるからね。」

「・・・ああ、分かってる。」

 

・・・どうやら彼女はまだ若干残っていた『疑惑』の感情を見抜いたらしかった。本当に、敵わない。

ゆっくりとこなたを引き剥がし、今度こそ迷いなく答える。

 

「もう大丈夫だ。ありがとうな、こなた。」

「・・・ううん、こっちこそごめんね。余計なお節介だったかも。」

「いや、今ので完璧に信用できた。・・・お前がいてくれて良かった。」

「そっか・・・安心してね。もうこのはは昔と同じじゃないんだから。」

「・・・だな。」

 

苦笑して呟く。もうそろそろ帰らないといけないと思い、こなたに戻るように促す。

 

「ほら、あいつらが待ってるぞ。早く行ってやれ。」

「うん、じゃあまたね!」

「ああ、また会おう。」

 

こなたが車に戻って行く。途中で振り返り、手を振ってくる。

俺も手を振り返したら満足気に頷き、車に入っていった。二台の車はすぐに発進して高速道路に向かって走っていった。

車が見えなくなるまで見送ったら今度こそ家に向かう。

 

「さて、とりあえず帰ったらプリンターを起動させなきゃな。」

 

のんびり歩きながらこの二日間の事を振り返る。

まさか友人が一気に三人も増えるとは思わなかった。正直これ以上そういう奴等ができるなんて欠片も期待していなかったので今でも信じられないという気持ちが残っている。

けど、こなたがああ言ったからには問題は無いだろう。話した限りでもかがみもつかさもみゆきも皆面白い奴等だ。

ふと、あと一人の少女の事を思い出す。

昨日急なメールを送ってきたあの妹分。

 

「・・・作業が終わったら久しぶりに電話で話でもしてみるか。今何やってんのかな~、みなみの奴。」

 

 

夏休みだってのにこれからやる事は大量にある。けれども俺に不満なんて全く無かった。忙しいだろうけど面倒だとは感じなかった。

ケラケラ笑いながら帰路につく俺は他人から見たらさぞかし不気味だっただろう。

 

 

 

 

 

ちなみに翌日に警戒隊を探したはいいが主犯の道背と鳴跳は危険を察知し、埼玉に帰郷したようだった。チッ、勘のいい奴め。




という事でこれで海水浴編は終了です。次回はちょくちょく伏線として出していたみなみとの絡みを出そうと思います。

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