あと六割程がこなた視点です。
そして6、7000文字程度・・・次は頑張ります。
現在旅館の目の前。
こなたの家へのお泊まり発言につい反射的に了承してしまったが、じゃあ早速行こうかという話にはならず、
「いやいやいや、いきなりそんな事言ってもすぐに許可なんて出せんからな!?ウッ・・・気持ち悪・・・。」
「そ、そうだよ~!?大体このは君の家ってどこなの?」
と、引率係二人がストップをかける。まぁそりゃそうだ。あと黒井さん、ココで吐かないで下さいね。
「こっからはそんなに離れてませんよ?海から大体一km程でしたがこっちの道を通れば大分距離を短縮できますから。その代わりに階段とかもあるから徒歩でしか通れませんけど。」
携帯電話から地図アプリを開いて詳しい場所を教える。恐らく五、六分程歩けば着くだろう。
「う~ん、一応問題は無さそうだね。けどそしたらこのは君だけさっきの道を走らなきゃいけなくなるよ?自転車で来たんでしょう?」
「大丈夫ですよ。急げばそんなに時間はかかりませんから。」
「むう~、交通安全課としては今の発言はあまりいただけないな~。」
「・・・これはツッコんだ方が良いのか?こなた。」
「いや~、そっとしといた方が良いんじゃない?」
念のためこなたに確認をとるが別に無理に深入りしなくてもいいみたいだ。
「あ、それなら私達も少し遊びに行っても良い?どういう所か気になるし。」
「うんうん、皆で遊んだ方が楽しいよ~。」
「ご迷惑でなければですが、御一緒させても宜しいでしょうか?」
好奇心からか柊姉妹と高良も来たいと言ってきた。
「おう、別に構わねぇぞ。なんなら全員泊まりに来てもいい。布団の数なら無駄にあるし。」
「このはって一人暮らしの癖に随分大きいマンションに住んでるからね~。」
「えっ、そうなの?」
「婆さんが『住むなら立派な所がいいわよね』って言ってここら辺で特に良い物件を選んだからな。お陰さまで毎週掃除が大変だ。」
「あ、いや、今の『そうなの?』は一人暮らしをしているのかって意味。家族は?」
「ここから何十kmか離れた所に実家がある。皆そこに住んでるよ。高校この近くだからここにしたんだよね。ちなみに母さんは事故って死んだ。今頃天国で苦笑しながら見守っていると思う。」
「随分重い話をサラッと流すわね・・・。」
「そういう性分なんで。」
柊姉がどう返答すればいいかと微妙な顔をしている。そんなに気を使わなくていいのに。
引率係二人は随分悩んだが子供達だけで行かせるのもどうかという結論に至ったらしく、自分達もついていくと決めたようだ。
「けどまぁ確かに問題はあらへんし、ウチらが先に来てしもうたら近くのコンビニにでも入って時間潰せばええんやないの?」
「そうですね。それじゃ、私ちょっと旅館の方に連絡してきます。」
そう言って成実さんが旅館の中に入って行った。では俺も自転車取りに行きますかね。
「じゃあ俺も家に向かうから後で落ち合おう。」
「分かったわ、それじゃ。」
「おう。」
柊姉が返事をし、そのまま駐輪場に向かう。
地下に停めたので階段を降りる必要がある。上りは坂だ。
「あ、このは、荷物持とっか?」
「いや、大丈夫だ。これくらい持てる。」
傍を歩くこなたに返事をする。
・・・。
「待て、何でお前がいんだ。」
「どうせだし一緒に行こうかなと。」
「いや、あいつらどうすんだよ。」
「場所は分かっただろうし、かがみに『このはと一緒に
「成実さんにどう説明するつもりだ?」
「『風になりたくなった』って言えば大丈夫だと思う。」
「チョロイなあの人。」
気付けば隣にこなたが居た。ビックリした、本気で気づかなかった。
機械に自転車を停めた場所の番号を打ち込む。四時間につき百円だったのでまだギリギリ二百円で事足りた。
「お前やっぱ前世は猫だったんじゃねぇの?気配消すの上手いし、気まぐれだし、獲物で遊ぶ事あるし、猫口だし。」
「後半は別に言う必要無くない?」
「間違ってはいないからいいだろ。」
「私そんなに嗜虐趣味持ってるように見えるのかな~?」
「結構平気で毒吐くからなお前。」
「このはも結構毒舌家だよね。」
ぶつぶつ呟くこなた。何やら「このはを動物に例えたら蛇かな・・・いや、毒蛇の方がしっくりくる。」なんて言っている。失礼な。
そんな事を言っている内に自転車に辿り着いた。鍵を外して取り出した後、荷物を籠に入れて出口に行き、坂を上っていく。
「自転車押すの手伝おっか?やる事無いし。」
「そうか?なら頼む。」
こなたに手伝ってもらい、重い荷物が乗った自転車を坂の上まで押していく。
上りきった時にはお互い少し汗をかいていた。この暑い中、大した距離が無くても坂を上るという行動は半端なく疲れる。
「ふぃ~、意外と疲れるもんだね~。」
「そうだな。けどお前が手伝ってくれたから昨日より大分楽だったぞ。」
「ホントにごめんね~。あれは完全に予想外だったんだよ~。」
「いいよ別に。それじゃ、出発するから後ろ乗ってくれ。」
「りょーかーい。」
こなたが後ろに乗った事を確認して自転車を走らせる。
いつもより重くなった筈なのに何故かペダルが軽く感じたのは後ろにいるのがこの少女だからだろう。
・・・・・・・・・・
このはと一緒に家まで向かっている道中、色々話した。
最近起こった事、高校の事、・・・家族の事を。
この前私がメールした日は予想通り不良と喧嘩をしていたようだ。喧嘩にしてはやけに一方的だったが。
学校では既に高校一の厄介者として扱われているみたいだった。まぁ成績は良い癖にいつも喧嘩ばっかりしていたらそうなるだろう。
家族は相変わらずだった。時々お婆さんやお爺さんと連絡をとって笑ったり、おじさんと会ったら出来るだけ会話を続けて元の状態に戻そうと尽力しているらしい。
・・・姉妹の話は最後までしなかった。もう口に出すのも嫌みたいだ。
それからも話し続けたけど、話しながらもずっと私はその事を考えていた。
もうこの関係を直すのは不可能なのかもしれない。
だけど私は出来れば何とかしたいと思っている。
元々は私が原因でこうなったのだ。それなら私がその関係を修復しなければいけないのも当然だろう。そうじゃなくても手伝いはしないといけない。
だけど出来ない。
今まで色々手を尽くしてきた。時にはさりげなく会話に姉妹の話を入れたり、時には実家に行きたいと言ってなるべく三人が出会うよう誘導したり、時には思いきって仲直りしようと言ったりなど、それ以外にも沢山。
けれども会話を続けても巧みな言葉使いで別の話に持っていかれ、実家に来ても二人の部屋には絶対に入らなかったし視界にすら写さなかった。
どれだけ手を打っても切っ掛けにすらならなかった。
だけど一番辛かったのは仲直りを提案した時、
『・・・わりぃ、こなたからのお願いでもそれは、それだけは絶対に聞く事が出来ねぇ。
もう会うなと言われれば二度と会わないようにしよう。
こなた以外の全てを捨てろと言われれば全部捨て去ろう。
死ねと言われればこなたの望むように死のう。
だけどその要求だけは無理だ。俺は・・・
俺は絶対に、絶対にあいつらを許さない。』
・・・はっきりと姉妹に対して憎悪の感情を剥き出しにして呟いた事だ。
悲しくて仕方がなかった。必死に表情を崩さないように頑張った。
私の失敗一つで彼にとって彼女達は構ってくれるが迷惑な姉二人ではなくこの世で最も嫌悪する人間達に変わったのだ。
あの時程深く自己嫌悪した時など無い。
何故あんな行動をしたのか。
何故何もしようと思わなかったのか。
せめてあの時、もっと上手く動いていればここまで酷くはならなかっただろうに。
ただ怖がってうずくまっていただけの自分を殴りたいと何度思っただろう。
その後も彼の家での家族会議に参加せず、部屋で震えていただけの自分を蹴飛ばしたいと何度考えただろう。
思い出しただけで苛つきが止まらない。
彼は私を尊敬しているがその眼差しを受けるたびに私は自分自身を許せなくなる。
彼女達を指し置いてどの面下げてお姉さんぶっているのかと。
ふと、さっきの海の家での会話を思い出す。
彼が私と付き合いたいかという話をした時、他の皆はあの後の彼の熱弁に注目していたが、気付いているのだろうか。
あの時、彼は一言も私を彼女にしたいとは明言していない事に。
別に、私の事が嫌いという訳では無いだろう。もしかしたら付き合えるならば付き合いたいと思っている可能性もある。これは流石に考え過ぎかな?
恐らく気付いたのは私と発言した彼自身だけだろう。皆特に何も聞いて来なかったし。
私も彼と付き合うかと言われたら『ノー』と答えるだろう。
多分、私も彼も意味は違えど考えている事は同じだと思う。
『自分にそんな資格は無い』と。
彼の方は純粋にレベルが釣り合わないと思っているのだろうけど、私はそんな事は無いと言い切れる。彼は私を高く見すぎなのだ。そもそも自分自身だって相当凄い事を彼は理解しているのだろうか。いや、していない気がする。
けれど私には本当にそんな資格が無いのだ。彼の明るい未来を潰した癖にそんな場所に居ていい筈が無い。
もし付き合うとしてもその前に彼と彼女達の関係を良好な状態にしてからだ。
・・・彼にとっては彼女達はもう家族では無いのだろう。もう顔も見たくないとハッキリと口でも態度でも告げているのだ。
けど彼女達はやっぱり彼の家族なのだ。どれだけ彼が拒絶してもその縁は決して切れはしない。それは彼女達が仲直りを諦める瞬間までずっと続く。
そして彼女達は決して諦めないだろう。昔から意地っ張りなのは良く知っている。
難しいかもしれない。不可能かもしれない。けれど絶対に諦める事だけはしない。
「・・・ねぇ、このは。」
「ん?どうした?」
「・・・いや、帰ってからもいっぱい遊ぼうね。」
「・・・?おう、わかった。」
彼が彼女達を赦すか、
彼が一生彼女達を拒絶し続けるか、
どっちに転ぶにしろ諦める事だけはしてはいけないのだから。
家に着くまであと少し。そんな所でちょっとトラブルが起きた。
「おい、テメー夜桜だろ?テメーにゃ随分ウチの奴等が世話になってんだ。ちょっと面貸せよ。」
・・・ここまで堂々とした喧嘩の誘いは最近中々見なかった気がする。
なんの事は無い。彼を敵視する不良が出てきただけだ。
現在路地裏のど真ん中。信号に捕まりこのはが「こっち通った方が早いかもしれないな。」と進路変更をした所から始まり、そこを通過中に目の前にガラの悪い如何にも『俺、問題児!』って感じの男が現れ、今に至る。
で、そんな誘いを受けて彼が反応しない筈もなく・・・
「ハッ!そりゃ悪かったな。良い感じに盛り上がっていたからな、ついつい一緒に遊んじまった。」
「このは、一般的にそれは蹂躙って言うんだよ。」
「別に良いだろ。有象無象が泣き叫んだって楽しいだけだ。」
「今何か思いっきり私情が入った気がするんだけど気のせい?」
「気のせいだ。」
絶対嘘だ。
そんな会話を余裕と受け取ったのか、不良が顔を歪め、威嚇してくる。
「テメーナメてんのか?状況分かってねーなら教えてやる。こっちは六人、しかも挟み撃ちだ。逃げられるもんなら逃げてみろよ。」
そう、今私達は出入口を封鎖されている。前に三人、後ろに三人。不良の隙間を自転車で抜けるのは難しいだろう。跳ね飛ばすのも無理そうだ。
・・・けど相手も相当馬鹿だな、自分達の人数言ってどうすんの。これで相手はこの六人しかいない事が分かった。ひとまず前の三人はリーダー、不良A、不良Bと名付けよう。後ろは不良C、不良D、不良Eだ。
脇に通路は無い。つまりどっちかを押し通るしか方法は無さそうだ。
すぐさま彼が目の前の三人をねじ伏せようとした時、
「ねぇこのは、私が代わりにやってもいい?」
「・・・は?こなたが?」
私は彼を呼び止め、そう言っていた。
少し驚いた表情を見せる彼。そりゃそうだろう。私が自分から喧嘩しにいくなんて滅多に無い事を彼は知っているのだから。
だけど今は少し暴れたい気分だった。多分さっき『あの時』の自分を思い出したからだろう。
「ん~、別に構わねぇけど、だったら後ろの三人で暇潰しさせてもらうぞ?。」
「いーよ、遊んでて。」
お互い自転車から降りて反対の方向に向かう。
それを見た瞬間、リーダーは顔を真っ赤にして怒鳴り出す。
「バカにすんのもいい加減にしろ!こんなクソチビ一人で俺らを潰すだと!?ガキにやられる程俺らは落ちぶれてねえ!」
「残念でした~、私はこれでも高校二年生だよ~。不正解者には罰としてジュース一本ね。」
「ふざけんな!」
我慢ならなかったのか正面から殴りかかってくる不良A。
「遅い。」
ヒュッ、ガシッ!
「んな!?」
冷静に顔を左に傾けて拳を避ける。そのまま腕を掴んで一気に背負い投げをかます。
ズダァン!!
「ゴハッ!?」
地面に叩き付けられ過呼吸を起こす不良A。起き上がる前にとっとと決着つけちゃおう。
リーダーと不良Bは私が予想以上に戦える事に驚いたのか硬直している。
・・・やっぱり馬鹿でしょ、敵の目の前で動きを止めるなんて。
すぐさま不良Bに対して鳩尾に正拳突きを叩き込む。
ドンッ!!
「ウゴッ!?」
体をくの字に曲げて倒れる不良B。思いっきり急所に打ち込んだからしばらくはマトモに動く事が出来ないだろう。
「ッ!テメーよくも・・・!」
ガシッ!
ようやく我に帰ったのか、私の腕を掴み取るリーダー。
うん、殴るんじゃなくて先に動きを止める為に掴んだのは良い判断だ。
けど、もっと力込めないと駄目だよ?
グルンッ!!ズルッ!
「ハァ!?」
掴まれた腕を捻り、リーダーの手を外す。あっさりと拘束を外されたからか、リーダーが信じられないとでも言うような顔をする。私を止めるには少し握力が弱かったね。
ダンッ!!
「グォッ・・・」
間髪入れずにリーダーの胸部に掌底を打ち込む。よろめいた所で渾身の回し蹴りを頭に叩き込んだ。
ズガンッッ!!!
「ガッ!?」
少しの間ふらついた後、バタリと倒れるリーダー。脳震盪を起こしたのかそのまま気絶したようだ。う~ん、ちょっと力込め過ぎたかな?
とりあえず未だにうめいているAとBは放っといて彼はどうしているか確認をする。
「オラオラどうした!!まだまだつまんねぇぞ!!」
「う、うああぁぁあああぁぁぁ!!??」
「な、何なんだよコイツ!?」
「ば・・・馬鹿げている・・・。」
「・・・うん、問題無さそうだね。」
・・・不良Eの両足を掴んで思いっきりぶん回していた。不良Cは既にボロボロになって倒れており、不良Dは涙目のまま逃げ続けていた。ていうか人間一人を振り回すって相変わらずの怪力だな・・・。
「お~い、このは~。こっちはもう終わったよ~。」
「は?もう?早いなオイ。」
「逆に聞くけどその早い時間の間でどうしたらそうなったの?」
「一人ぶちのめして二人目の頭揺らした後に足掴んで今に至る。」
「実に分かりやすい解説ありがとう。もういいから早く行こう?皆待っているだろうし。」
「それもそうだな。・・・オラァ!!」
「ぎゃああああ!!」
「ちょっ、こっち来ん・・・ガフッ!」
あ、Dに向かって投げた。うわぁ痛そう・・・。
Eは完全に目を回している。後で吐くんじゃないの?絶対にさっきの気持ち悪いよね。
そしてこのはは気にせずこっちへ歩いて来る。あれだけ動いて息切れ一つおこしていない。やっぱりこのはって肉体面のスペックおかしいよね?
もう此処に残る理由も無いので自転車に乗り、その場を去って行く。途中でこのはがリーダーに蹴りを入れていた。何故に死体に鞭打つような真似を・・・。
・・・・・・・・・・
あの雑魚数名で遊び終わった後、ようやく我が家に辿り着いた。しまった、もう八分は経ってる。少しはしゃぎ過ぎた。
皆もうとっくに着いているだろう。ひとまずマンションの下にある駐輪場に自転車を停めて荷物を回収する。すぐそこにあるコンビニに行ったら予想通り全員暇潰しをしていた。
「少し時間かかったわね。そんなに距離あったの?」
「いや~、ちょっと信号に捕まってて。」
「そだね~、途中で荷物の中身がバラ撒いちゃったり色々あったのさ。」
「・・・何かもっともらしい理由の筈なのに何処か白々しさが感じられるのは気のせいか?」
「かがみん、きっと疲れているんだよ~。」
むぅ・・・柊姉は中々鋭いらしい。
全員集まった所で俺の家に向かう。黒井さんは待っている間に天然水を買って飲んでいたらしく、大分顔色が良くなっていた。それでも若干気持ち悪そうだったけど。
ロビーの機械にパパッと暗証番号を入力して中に入る。人数が多い為、階段ではなくエレベーターを使用する。
三階に上がり、一番奥の部屋に向かって鍵を開け、中に入って行く。
「てれーまー。」
「「「「「「お邪魔しまーす。」」」」」」
さて、忙しくなりそうだ。