やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その9:ようやく比企谷八幡は自分の道を「分かる」。

 キャンプ。

 

 アウトドア。

 

 ぼんやりと、それはリア充の勝ち組たちが最後に行き着く遊びだと思っていた。

 

 気の合う友達、もしくは家族で、ラフでおしゃれなウェアに身を包み、こだわりぬいた道具・アイテムを並べておしゃれにテントサイト(野営場所)を設営し、トマトやハーブを散らしたりなんかした鶏の丸焼き的なかっこいいウマそうな料理をダッチオーブンなどで手作りして分けあい、夜は焚火を囲んでレトロなランタンの光を背に酒を飲み、満天の星空の下で語り合う。

 

 それに加えて、日中は海で泳いだり山に登ったり、渓流釣りやロードバイクに(いそ)しんてみたり、フリスビーしてみたりハンモックで昼寝してみたり…カップルでイチャイチャしたり…。

 

 そういうイメージだった。

 

 俺が行くような世界ではないと、そう思っていた。

 

 例えば葉山や戸部や三浦たちのような、仲間とつるんで日常を楽しむことを至上とするような連中の領域だと。

 

 風薫る春も、焼けた素肌が(まぶ)しい夏も、全ての大地と空はああいう奴らが我が物顔に占拠(せんきょ)するものなのだと。

 

 くそっ…爆発しろ。リア充爆発しろ。あとついでに美少女キャラに妙にモテまくるラノベの主人公とかも爆発しろ。

 

 

×××

 

 

 …じっさい、今日買ってきたキャンプ関連の本も、ほとんどが複数の人間で楽しむキャンプのスタイルお手本集、商品カタログ集のようなものだった。

 

 帰宅して早々に風呂と晩飯をやっつけた俺は、「本読むから。」と言い残して、そそくさと自室へこもり、ノートパソコンを立ち上げながら、買ってきた本のページをパラパラめくっていた。

 

 なんでだろう。リビングでリラックスして読みふけっても別に良さそうなものだが、妙に小町や両親の前で読むことをためらってしまった。

 

 本全体からただよってくるリア充臭は、きっと今の俺には不釣り合いに見えるはずだと思ったのだ。

 

 なんせこれまで誰はばかることなくプロのぼっちを喧伝(けんでん)して回ってたからね☆なんか恥ずかしいじゃん??☆

 

 ヘタなエロ本読むよりも、廊下から聞こえる家族の足音にビクビクしちゃってるよ☆

 

 星うぜぇな☆☆

 

 まぁ、…それはそうと、ほとんど生まれて初めて「キャンプ・アウトドア」の情報に触れた俺は、未知の世界にそれなりに好奇心を()き立てられていた。

 

 俺はもうとにかく、写真に映るリア充たちの笑顔には極力目を向けず、ひたすらどんな道具類を使っているのか、そればかりチェックしていた。

 

 そう、防災!防災用具の研究のためです。研究のためなのです…!!

 

 しかし、カッコイイ人たちの使う道具はやっぱりカッコイイですね…てめぇどこ製だよ…?

 

 …へぇ…最近は「ガールズキャンプ」ってのもあるのね…女性ばっかりでおしゃれで可愛い道具ばかり集めて、目にも鮮やかなテントサイトを演出しているページがあった。

 

 どこでどうやって買い集めるんだろ、こういうかわいいの…あるんだろな、そういうお店。

 

 こういうカラーリング、由比ヶ浜とか好きそうだな…なんか。

 

 かと思えば、カヤックに荷物を積み込んで無人島まで漕ぎ出し、砂浜に幕一枚張って寝る、なんていう大胆なスタイルもあった。

 

 登山や森の中のハイキングの延長で、たった一人でテントを張り、かさばらないアルファ米やレトルトで空腹を癒やすというストイックなものもあった。

 

 おー、いちおう(ひと)りでやるスタイルもあるのね。

 

 そういうのもアリなら、俺もちょっとは気楽にやれるかな…?

 

 俺は何気なく、グー○ル様にぽちぽちと入力した。

 

 『キャンプ ぼっち』

 

 …ウッ なんだこの悲しみに満ちた言葉は…

 

 案の定というか、一番に出てきた結果は、だいぶ前に名前も忘れていたが結構好きだったぼっち芸人が、一人用キャンプ道具を紹介するサイトだった(2015年8月某日現在)。

 

 …ハチマンです… まさかの神結果でリアルに声出して笑ってしまったとです…

 

 いや…商品自体はすげえおしゃれでカッコ良かったけどね?これはマジ。割と有名なメーカーのようだし。

 

 可笑しさと切なさがないまぜになった変な感情で顔がひきつったまま、検索結果を追っていくと、もう少しマシなワードに辿り着いた。

 

 『ソロキャンプ』

 

 

×××

 

 

 ソロキャンプ。

 

 

 

 ソロキャンプ…。

 

 

 

 

 形のはっきりしない自分の心の中の需要(じゅよう)に、ばちっと名前を付けてもらったような感じがした。

 

 「…ほう…ソロキャンプ…そういうのもあるのか…。」

 

 などとジロー顔かゴロー顔かをしながら、今度は「ソロキャンプ」でどんどん検索してみた。

 

 そこから、世界が開けた。

 

 出てくるわ出てくるわ。

 

 バイクや軽自動車、スポーツカーの横に小さなテントを張り、折りたたみの椅子やテーブルを置き、今日俺が店で見てきたような調理鍋(クッカー)やガスストーブなどを駆使して一人分のごちそうを作り、たった一人で景色を愛でながら食っている人々が。

 

 やってる人々の立場はいろいろだ。仕事を定年退職して第二の人生を謳歌(おうか)しているおじさまだったり、社会や家族に尽くしつつ、息抜きを欲している人だったり、大学生の女の子バイカーだったり、生まれながらの自由人(プロ)だったり…

 

 どの人も、なんというか、旅の達人、のように見えた。

 

 見ていた中で、あるサイトの一文が気に入った。全ては引用できないが、こんなふうだ。

 

 『ソロキャンプができるということは、ひととおりの技術を身につけたということだ。

 

 自然の中での身の施し方を覚え、孤独を楽しめる、そんなアウトドアマンは、カッコイイ。』

 

 … … …

 

 これが駄文書きなら、「体中を電気が走ったような運命的な出会い」などとか、切って貼ったような表現を使うのだろうが、実際はそんな感じではなかった。

 

 もっとこう、…

 

 まるで行きたかった場所を指し示す標識を見つけて「あ、こっちだな」と思うくらい、ごくナチュラルに、それは俺の中に入ってきた。

 

 知った、とか、気付いた、というより、分かった、という言葉がより当てはまるかもしれない。

 

 ああ、そうか。

 

 分かった。ようやく分かった。

 

 俺はこれを探してたんだ。こういうふうに、なりたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソロキャンプ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその夜、ひたすらその言葉を検索しつづけた。

 

 


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