やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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 このSSでは、八幡たちの年齢の基準を2011年4月1日時点とします(原作第1巻の発売日が2011年3月18日。その時点で八幡はGWを迎える前の高校2年生なので)。

 多分計算は間違ってないはずですが…間違ってたら訂正します。

 っていうか、そうすると八幡たちの年齢は変わらないまま、舞台となる街の状況(お店の改装、出店等)は2015年時点、という現象が起きるんですが…。

 ま、まぁ、そのへんはどうか、深く考えない方向でひとつ…!!(土下座)


その31:デイキャンプ@フォレスターズヴィレッジ#6

 どうでもいい話だが。

 

 ドラえもんのテレビアニメが第2作第1期から第2期に変わったのは2005年4月だ。俺はこの時、小学5年になったばっかりで、11歳になる少し前だった。

 

 テレビアニメ版はもっと小さい頃から()ていた。両親が旧作の大長編のビデオを借りてきては観せてくれていた。

 

 大好きだった。宇宙小戦争のEDは聞くだけで涙腺崩壊するし、鉄人兵団のクライマックス場面とか、マジでトラウマになるくらい号泣した。

 

 で、2005年。俺がのび太たちの歳に追いついた年に、テレビアニメ版は絵柄が変わり、声優陣も一新され、大変革を遂げたのだ。

 

 俺はそれに、何らかの意味を感じていた。

 

 うまくいえないが…「ああ、これからは俺達の出番なんだな」という風に思った。

 

 ドラえもんたちがテレビの中で、昔からある伝統的なアニメとしてではなく、ピカピカに生まれ変わって新しい歴史を作っていくのを、俺達はリアルタイムで見ていくことになる。そのことに、何か特別な意味を勝手に感じちゃったりなんかした。

 

 なので、俺の中では、スネ夫の声は、関智○さんだ。

 

 肝付○太さんの声も大好きだけどね。

 

 

×××

 

 

 ホントにどうでもいい話だよっていうかなんで突然そんな謎のこだわり語ってんの俺バカなの!?死ぬの!?

 

 いくら引っ張っても抜けないペグを目の前にして、一瞬意識が飛んでたようだ。

 

 時刻、15時45分。デイキャンプコースの終了時刻まであと15分。わぁい一瞬じゃねえな5分くらい飛んでたな。

 

 ヤバい。何がヤバイって超ヤバい。

 

 クソッ何が「失敗こそが先生だ」だよ調子乗ってんなよド初心者が最初の時点で大失敗こいてることにも気付いてねぇじゃねえかよとんだ大先生だよすいませんあの発言ナシでお願いしますマジ恥ずかしくて死にたいんですけど…!!!

 

 俺の新着黒歴史がたった今、一覧の最上部に表示されちゃったよ…!!

 

 いやまて落ちゅちゅけ俺。落ち着け俺。心の中で噛んでるダメだこれ俺もう。

 

 撤収(てっしゅう)時に寝袋やテントをたたむのにモタモタして初心者感丸出しで笑われたくなかったから、何度か練習はしてきた。テントなら急げば5分くらいでたためるだろう。たたんだテントをバックパックに詰めてロッジの受付に行くまでには、10分もかからないはずだ。

 

 目の前のペグ10本、今すぐ抜ければの話ですけどねー…。

 

 まぁ、実際問題、数分遅れたくらいなら「すいませーん初心者なんで手間取ってー てへぺろ☆」で済むだろうが…、それは俺の中では「デイキャンプ失敗」だ。

 

 俺の理想では、少し早めに撤収を終えて、受付で爽やかに「楽しかったです。いいキャンプ場ですね。また来ますね!」って言って去って行きたいのだ。

 

 あと5分でペグを全部抜かないと、俺の理想は崩れ去る。

 

 …()にも(かく)にも行動だ…!

 

 俺は一本のペグの目の前に膝をつき、テントのガイライン(細い張り紐)ごとグイグイと引っ張ってみた。土への食い込みが少し(ゆる)んではきているが、まだ力任せには抜けない。

 

 周りの土を掘って、土の食い付きを弱めよう…だがスコップはない。何か代わりはないか。何か…!!?

 

 一個思いついたが、ためらってしまう。…だが、もともと百円だし、今この状況、背に腹は変えられない…、ケガだけしないように気をつけて…!

 

 俺はバックパックの割と奥にしまっていた、百円ショップの果物ナイフ((さや)付き)を引っ張りだすと、鞘を抜いて、刀身をペグ脇の地面にグリグリと刺した。

 

 ペグ周りの土をある程度えぐってやると、ようやくペグは土から()がれてズブリと引っこ抜けた。

 

 うへぇ…∨字の溝の部分に土がべっとりこびりついていた。でも土を落とすのは後だ、後!

 

 同じ要領(ようりょう)で数本のペグ周りをほじくった。ナイフはひん曲がって、刃はガタガタにこぼれた。さすが百円。ていうか危険なので真似しないでください。

 

 途中からは、抜いたペグを横向きに持ち、まだ土中にあるペグの紐を引っ掛ける部分に噛ませ、その状態で両手を使って引っ張ってやると、ズズズッと抜けてくれることに気づいて、そっちに切り替えた。かなり力は要ったが、掘り返すよりは早かった。

 

 なんとかかんとか、全部のペグを抜き終わった時には、焦ってたからか、息も絶え絶えで、全身から汗が吹き出していた。

 

 時間がかかりすぎた…もうこうなったらヤケクソだ…!!

 

 ペグに付着した土を適当に指で(ぬぐ)い取って(たば)ね、テントからポールを外し、なにもかも適当にたたんで丸めて収納袋に(おさ)めきれないまま、バックパックにぶち込んだ。整えるのは帰ってからだ。

 

 掘り返した跡を靴で踏みしめて直し、忘れ物がないかザッと周りを見て、ダッシュでロッジへ向かった。

 

 受付に着いたのは、きっかり16時だった。

 

 ぎ…ギリギリセーフ…か?

 

 バテバテの俺の様子に、受付の人は若干(じゃっかん)引いていた。

 

 

×××

 

 

 お、おつかれ、俺…!!

 

 無事に「フォレスターズ・ヴィレッジ」を出て、とぼとぼと帰路(きろ)を歩きながら、俺は大きな溜め息とともに自分に向かってつぶやいた。

 

 まずは時間内に、やりたいと思ってたことを全てこなせたので、成功、と言っていいんじゃなかろうか。

 

 ただ、テントのペグ打ちから始まって、いろいろと失敗もしたし、大変な思いもした。ナイフも一本ダメにした。

 

 次は絶対、もっとうまくやろう…事前に対策を考えて…。

 

 だが今は…とにかく帰って風呂に入って、ベッドでゴロゴロしたい…!!

 

 そういや明日は月曜だったよ…あーもう!今思い出すんじゃねぇよ…!!学校行きたくねぇ…!!

 

 うだうだと考えながら土気(とけ)駅方面のバス停に着いた時、スマホにメールが入った。

 

 小町からだった。

 

 

 

 

 件名『無題』

 

 本文『お父さんと九十九里浜でドライブしてるなう!!ハマグリ美味しかった−♪♪』

 

 

 

 

 添付(てんぷ)で、小町の自撮り写真も送られてきた。自慢の八重歯が輝く満面の笑みだ。

 

 九十九里浜では有名な浜茶屋(はまぢゃや)にいる写真のようで、座っているテーブル中央の焼き網では、エビやデカいハマグリがぎっしり並んで焼かれていた。

 

 席の向こう側では、父親がニヤリと笑ってダブルピースしているのが写っていた。

 

 おい!ハマグリだと!!なぜ俺を呼ばない!!あ、デイキャンプしてたからか。いやデイキャンプとかやってる場合じゃねぇだろ!!いいなああぁぁぁ…!!!

 

 ああ、多分アレだ。親父が寝袋姿(ねぶくろすがた)を小町に撮られて(たか)られたのはこれだったんだな。多分撮られてなくても小町のおねだりならホイホイ行きそうだが。

 

 …ん…?まてよ…?

 

 スマホで地図検索してみた。

 

 九十九里浜までドライブ…車で行ってるってことは、帰り道にちょうどこの辺通れるじゃん。県道83号から20号に入れば土気駅前を通る。そのまま下道で帰れるし。

 

 ちょうどいいや。帰りに乗っけてもらおう。そう思って、父親に伝えるよう返信した。

 

 まもなく、今度は父親からメールが届いた。

 

 

 

 

 件名『家に帰るまでがキャンプですよ』

 

 本文『父さんと小町のデートの邪魔はさせん。それに往復の交通費をカンパしてやったはずだぞ?』

 

 

 

 

 …お父さん…そんな本音と建て前的な…。

 

 …って、は?交通費?

 

 あ、あの千円か…?アレ、交通費としてくれたのか。

 

 あれ…今日の交通費いくらだったっけ…まず片道の交通費を頭の中で計算してみた。電車代が乗り継ぎありで500円、バス代が170円、足して倍にして…1,340円。

 

 おい足りねぇよ。電車賃しかもらってねぇよ。

 

 そう返信したら、すぐに再返信が来た。

 

 

 

 

 件名『軟弱者(なんじゃくもの)め』

 

 本文『誰がバス使えと言った(笑)駅から現地まで歩いても30分かそこらだろ(笑)登山よりよっぽど楽だろうが(爆)』

 

 

 

 

 うわああぁぁぁぁむかつくうううぅぅぅぅ!!!!!!!

 

 「(笑)」とか「(爆)」とか一時代前の書き方してるのもむかつくううぅぅ!せめて草生やすとかにしろよ…!!

 

 しかしまぁ…正論…なのかもな…。

 

 結局、俺は帰りも同じようにバスと電車を使った。もうなんか…疲れたので、歩いて駅へ向かう気力は()かなかった。

 

 今日は…いろいろと…敗北感を味わった一日だった。

 

 でも、父親と小町がおみやげに「いわしソフトみりん干し」を買ってきてくれたので、まぁ、いいことにするか。


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