ぼっちではありません、エリートです。   作:サンダーボルト

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今回の話を投稿するために、タグを追加させていただきました。一部は銀魂タグだけで十分かな~とは思ったんですけどね。捏造設定と下品な表現が入ります。


姉弟と兄妹

「……何のつもり?」

 

 

川崎さんが私を怪訝な目で見てきます。まあそうでうよね。複数人で説得しにきたと思ったら、いきなり喧嘩して帰ったんですから。

 

 

「あの人がいると話になりそうになかったのでね」

 

「いなくなったから話すと思ってんの?」

 

 

また彼女は人を小馬鹿にしたように笑う。そんな甘い相手ではないのは百も承知ですよ。

 

 

「話さなくても結構。分かってますから。川崎さん、あなたはご自分の学費のために働いているのでしょう?」

 

「……っ、何を根拠に…」

 

「その台詞が正解と認めているようなものです……なんて馬鹿な事は言いませんよ。あなたの家の経済環境、総武高の進学希望者の多さ、太志君から聞いたあなたの性格を吟味した上で導き出しただけですよ」

 

「……流石、エリートエリート言ってるだけはある、って事か…」

 

 

私ってそんなにエリートエリート言ってますかね?…言ってますね。

 

 

「……でも、分かったから何?あんたにだってどうにか出来る訳ないんでしょ?なら、余計な口出ししないでほっといてよ」

 

 

開き直ったのかどうか知りませんが、川崎さんはむしろ饒舌になって反抗的な目をしながら言い放つ。確かに彼女の言う通り、私は今すぐ学費を肩代わりできるだけのお金を用意できません。……そもそもそんな事請け負ってませんし。

 

 

「とりあえず、この事は太志君にメールで伝えておきますから」

 

「っ!!太志は関係ないでしょ!余計なことしないでよ」

 

「余計なこと?彼の不安を取り除いてあげることが、余計なことだと?」

 

「そうよ……家族でも何でもないあんたに、バイトのことでとやかく言われる筋合いなんてない…」

 

「……あのねェ、彼がどれだけ心配しているか、あなた本当に分かってます?」

 

「あんたに言われたくないね。ならあんたは分かってるの?本当は分かってないくせに、知ったような口きかないでよ」

 

 

そう言って、川崎さんはグラスを拭きながらギロリと私を睨む。……この人、何故太志君が小町さんや我々に相談するまで思い詰めていたのかが、まるで分かってないみたいですね。男の私だから分かったんでしょうかね?よく考えたら、この人に遠慮する理由なんてありませんでしたね。この人のせいでここまで駆り出されたとも言えますし。

 

 

ならいいか。自分のしでかしたこと、全部突き付けてあげましょう。

 

 

「じゃあ言わせてもらいますよ。太志君はね、あなたが夜な夜な援助交際したり、売春したり、お金で○○(ピー)を売ったり、挟んで吸ったり擦ったり、見知らぬおっさんの上で腰振ったり、○○○(ピーー)とか○○○○○(ピーーーー)とか挙句の果てに○○○○○○○○○(ピーーーーーーーー)とかしてんじゃないかって心配だったんですよ」

 

 

……なんでしょう、元々静かだった店内が一層静かになったような気がします。まあ気にしててもしょうがないのですが。川崎さんは私を見たまま硬直しています。グラスを拭いていた手が止まり、段々と顔が真っ赤に染まってきました。おお、初々しい反応。そういう耐性はありませんでしたか。

 

 

「ば、バカじゃないの!?いきなり何言い出してんの!?」

 

「太志君も年頃ですからねェ。そういう考えに至るのも仕方ないと思いますが」

 

「あたしがそんな事するわけ……」

 

「それ、本気で言ってます?」

 

 

川崎さんの言葉を遮る。いや、雪ノ下さんもですがあなたも大概、人の事を考えてませんね。この場合、男の気持ちと言った方が正しいですけど。

 

 

「美人の姉が夜に誰にも行き先を告げずに出かけて朝帰り。何を聞いても話してくれない。いかがわしい事をしてるんじゃないかと勘ぐったって何もおかしくはないでしょうが」

 

「け、けど…」

 

「それに加えて、今度は知らない店から電話が来て、その店の名前も怪しい。誰かに相談していなければ、もう彼の頭の中では確定してしまっていますよ」

 

 

優しいお姉さんが自分たちのために、体を売ってお金を稼いでるってね。川崎さんの学費については彼は知らないでしょうが、どっちにしろお金には困っていたようですし。私達に相談したから怪しい店云々は笑いごとで済むレベルでしたが、身内の彼は相当悩んだことでしょう。一番頼りになる両親が頼れないのなら尚更ね。

 

 

「デリケートな話ですから、他人に話すのには抵抗があったはず……なのに彼は私の妹に相談しました。つまりそれほど追い詰められていたんですよ」

 

 

さっきまで赤かった川崎さんの顔色がみるみる青くなっていく。今更気づいたって遅いんですけど。色んな人を巻き込んだお仕置きと二度とこんなことをしないように釘をさすのを兼ねて、もうひと押ししておきましょうかね。

 

 

「川崎さん、確か弟だけでなく妹さんもいらっしゃいましたよね?いくつかは知りませんが、例えば妹さんが高校生くらいになったとして、毎晩どこかに出かけて朝に帰ってきて、どこに行っていたか聞いても関係ないの一点張りを通されたらどう思います?」

 

「……ぅ……」

 

「更に妹さん宛てに聞いたことのない店から電話までかかってきたら、放っておくなんて家族にできる訳ないと思いますがね。……で、川崎さん、余計なことがなんでしたっけ?」

 

 

顔面蒼白で呆然とする川崎さんを眺めながら、私はナッツをかじってMAXコーヒーを飲む。いやはや、ここまで効果があるとはね。家族思いの優しい人だから妹を引き合いに出せば理解できると思いましたが、効果は想像以上でした。いっそやり過ぎたまであります。

 

 

「………ぁ、あたし……なんてこと………。そんな、つもりじゃ……」

 

 

なにやらブツブツ呟きだした川崎さん。瞳には先程までの鋭さも力強さも無くなっていました。涙目でオロオロと動き、手にしたままのグラスも落ちてしまいそうです。自分が何をしていたのかを理解して、その罪の意識に潰されているようですね。自業自得なんですが、流石に可哀想になってきました。一応、家族のことを思っての行動ですから。

 

 

「とにかく、一度ご両親と太志君と話すべきです。このままではいけない」

 

「……………でも、お金は…」

 

 

話し合うよう勧めますが、なおも川崎さんは大学資金の事を言いたくない様子。家族に心配をかけたくない、迷惑をかけたくないという気持ちは分かります。……ですが、

 

 

「例え解決できそうになくても、それでも話すべきです」

 

 

悩みを一人で抱え込まれ、頼られない事は辛いんです。もしも奇跡が起きて、川崎さんがバイトで大学に行くためのお金を用意できたとして、それをご両親や太志君に見せたらどのような反応をするのでしょうか?諸手を挙げて喜ぶのでしょうか?

 

そんなはずはない。きっと自分を責めたててしまう。問題に気づけなかった事を悔やむでしょう。川崎さん一人に押し付けてしまった事を呪うでしょう。

 

 

「……何で、あんたはそこまで…」

 

 

俯いていた川崎さんが顔を上げて、私に問いかけてくる。正直、この事言うのは恥ずかしいんですがね…。でも、今の彼女を動かすには嘘を吐くわけにはいきません。

 

 

「私が自分がエリートだという自覚がなかった頃…小学生くらいの時の話なのですが、妹の様子が少しおかしいのに気が付きましてね」

 

 

”……おい小町、どうかしたか”

 

”え?……やだなーおにいちゃん、こまちはどうもしてないよ~?”

 

”……そうか”

 

 

そうか、じゃないでしょう凡人だった昔の私。妹が何かを抱えていたのは分かっていたのに、何故それで終わってしまったのですか。きっと大丈夫だろう、だとでも思ったのでしょうか。

 

その翌日、小町さんは両親と喧嘩をして家出してしまいました。原因は小町さんが帰ってきても家に誰もいないのが嫌だった事。私の両親も共働きで、私も放課後は一人で図書館とか寄り道ばかりしていましたから、小町さんよりも帰りは遅かったんです。小町さんに甘い傾向の私の両親も、その日は偶然にも虫の居所が悪かったようで、喧嘩にまで発展してしまったようです。

 

小学生の足で行けるところなんてたかが知れていますから、小町さんはすぐに見つけることができました。しかし、あの時の事を私は一生忘れない。

 

 

”ごめんなさいおにいちゃん…こまちのために…ごめんなさい…”

 

 

私の胸に飛び込んで泣きじゃくりながら、私に謝っていた小町さん。本当なら、回避できたはずなのに。ちゃんと話を聞いて、私が寄り道をするのを止めて早く帰ればよかっただけなのに。私が動かなかったせいで、小町さんを…妹を泣かせてしまった。

 

小町さんも川崎さんと同じく、家族に心配をかけまいとして黙っていたのでしょう。どうもしていないと言っていた時の瞳は、川崎さんの瞳と同じでした。抱えた問題を何とかしようとしても、自分にはどうにもできないと悟り、絶望に苛まれた瞳。

 

 

「……だからですかね。妹と境遇が似ていたせいか、どうにも放っておけなくなりまして」

 

「……あんた、シスコン?」

 

「否定はしません」

 

 

たまにそうかな、と自分でも思いますから。話を聞き終わった川崎さんの顔色は幾分か戻っていました。

 

 

「……分かった。あたし、話すよ。ちょっと怖いけど…」

 

「ま、こっぴどく叱られるのは覚悟した方がいいですよ」

 

「……決心が揺らぐから止めてくれない?」

 

 

メールは送ってしまいましたから、どの道逃げられないんですけどね。しかし心配はいらないでしょうね。川崎さんの瞳には力が戻っていますから。

 

先に帰らせた二人の分も含めた三人分の会計を支払ったところで、私は携帯を取り出す。

 

 

「川崎さん、私とメル友になりましょう」

 

「……は?まあ、いいけど…」

 

 

川崎さんはすぐに携帯を取り出してくれましたが、顔に何で?って書いてますね。

 

 

「あなたの言った通り、私はあなたの親の代わりにお金を用意することはできません」

 

「…ごめん、あれは…」

 

「よろしいのですよ、事実ですから」

 

 

川崎さんは申し訳なさそうに頭を下げてきましたが、私が言いたいのはそういう事ではありません。

 

 

「代わりにお金を用意できなくても、あなたが選べる選択肢を増やすことくらいはできますよ。エリートですから」

 

 

頼まれたとはいえ、ここまで首を突っ込んでしまったなら責任くらいはとりますよ。後味の悪い結末はご免ですから。

 

 

「何かあったらメールしてください。何もなくてもメールしてください」

 

「どっちにしろメールしろってことね…」

 

 

携帯をしまいながら苦笑する川崎さん。まあ依頼抜きでもメル友が増えるのは嬉しいんですけどね。

 

 

「……じゃあね、比企谷。また学校で…」

 

「ええ、それでは」

 

 

遠慮がちに少し笑った川崎さんに手を振り返し、エレベーターへと向かう。……あれ、これって問題解決してもしなくても学校で会いたいって事ですか?違いますよね。

 

恥ずかしい勘違いをしながら、私はエレベーターのボタンを押した。




小町の見せ場を奪ってしまいましたが、ある意味キーパーソンなので貢献はしています。

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