混沌が異世界から来るそうですよ?   作:クトゥルフ時計

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第四話 「俺に正気を問うことほど」

日が暮れた頃にナイア、十六夜、黒ウサギの三人は噴水広場に現れる。ジンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()黒ウサギを見てコミュニティへの勧誘に成功したのだと察する。

 

ジンは気づかない。黒ウサギの中では先程までの記憶が〝十六夜と一緒に森の中でナイアを見つけた〟という風に改竄されているということに。そして、ナイアが魔王のギフトゲームを開催していたということに。

 

そんなことは露知らず、飛鳥と耀は黒ウサギに先程起きたことを説明した。そして当然黒ウサギは怒る。

 

「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーに接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか?!」「しかもゲームの日取りは明日?!」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」「聞いているのですか三人とも!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたような言い訳に激怒する黒ウサギ。それを見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この〝契約書類〟を見てください」

 

十六夜はその〝契約書類〟を覗き込む。そこにはこう書かれていた。

 

「〝参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する〟――――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃すリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥たちのチップは〝罪を黙認する〟というものだ。それは今回に限ったことではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

まあ、この話をナイアにしてしまったのだから、もし飛鳥たちが負ければ、ナイアがガルドに最も惨たらしい最後を与えるのはほぼ確実である。理由は恐らく〝みっともなく足掻く様が見たいから〟とかだろうが。狂って腐って足掻いて、特大の絶望を叩きつけて、死んだ方がいいと思えるような環境に置いた後にその心を粉々に壊すだろう。

 

が、それはあくまで負けた場合の話だ。

 

十六夜の話を聞いて、黒ウサギが喋り出す。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」

 

黒ウサギが言い淀む。ナイアはなんとなくそのガルドという男が何をしたか察した。

 

「なるほど、確かに外道だ。子供にそんなことするなんてまともなやつのすることじゃない」

 

ナイアの言葉に十六夜は〝お前が言うか〟と心で言う。確かにナイア以上にこの台詞が似合わないやつはいないだろう。

 

黒ウサギは記憶が改竄されているが、十六夜は改竄(そんなこと)されていなかった。それがナイアの思惑なのかは不明だが。

 

飛鳥は言う。

 

「ナイア君もご察しの通り、その子供達はもうこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

箱庭の法は箱庭都市内でのみ有効なものだ。外は無法地帯になっており、様々なコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。

 

そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことは不可能。しかし〝契約書類〟による強制執行ならばどれだけ逃げようとも強力な〝契約〟でガルドを追い詰められる。

 

まあ、逃げたガルドを受け入れてくれるコミュニティがあれば、の話だが。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることが許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

――――なるほど、随分と自分勝手な理論だ。だが面白い。

 

ナイアは飛鳥の言葉を聞いて嘲笑(わら)う。こういう傲慢さは実にナイア好み、邪神好みだ。

 

「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけれど」

 

「いいじゃねえか、黒ウサギ。厄介事はさっさと潰すに限るぜ?」

 

「な、ナイアさんまで……?」

 

ナイアも黒ウサギに言う。ジンも続けて、

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンの同調する姿勢を見て、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

「はぁ~……。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす二人。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

「いいか?この喧嘩はコイツらが()()()。そしてヤツらが()()()。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「………。ああもう、好きにしてください」

 

丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

 

どうせ失う物は無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

《この辺りはカット》

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ナイア達はコミュニティ〝サウザンドアイズ〟に向かって歩いている。サウザンドアイズとはその名の通り、特殊な〝(アイ)〟を持つ者達の群体コミュニティ………ということは皆様知ってるだろうから詳細は省く。

 

今はそのサウザンドアイズの支店にギフトの鑑定を依頼しに向かっている。途中で街路樹や立体交差平行世界論の話になったが、説明するには時間が足りないということでそれはまたの機会になった。

 

しばらく歩いていると、どうやら店に着いたようだ。店の旗には蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。それがサウザンドアイズの旗だということはすぐにわかった。

 

そしてそのすぐ下では、日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

………ストップをかける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨み付ける。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁?!これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ?!」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、〝箱庭の貴族〟であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………う」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺達は〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの〝ノーネーム〟様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

ぐっ、と黙り込む。黒ウサギがまずい雰囲気を感じた、その時。

 

「あの………」

 

獣人の女の子が十六夜達の来た逆方向から現れる。店員はそちらに微笑み話しかけた。

 

「どうしましたでしょうか?」

 

あからさまに変わった態度に黒ウサギは若干のイラつきを感じるが、それをグッと飲み込む。獣人の女の子当然そんなことは知らず、店員に買い物をしたいと申し出た。

 

「ええと、それでは名と旗印を………」

 

聞こうとしたが、彼女はその少女の胸に縫われた旗印を見てその質問を止めた。交差するように描かれた六本の爪痕のような紋章、それは大手商業コミュニティ〝六本傷〟の旗印であった。〝サウザンドアイズ〟でも六本傷とは幾度の交流がある。子供とは言えそれでもそれを聞くことは無礼だと思ったのか、店員はすんなりとその少女を通した。

 

「ではどうぞ中へ」

 

「そう。それじゃ、()()()()()()()()()()()()()

 

耳に届くのは声。その声に驚愕して振り向いた店員が見たのは――――今正に店の暖簾を潜ろうとしているナイアだった。

 

(なんで?!だってさっきまでそこには女の子が―――!)

 

そこで店員は気づく。先程までいた〝六本傷〟の女の子がどこにもいないことに。そしてナイアの指には〝六本傷〟の旗印が挟まれていることに。

 

なぜ、と思うが、店員の脳内にはナイアの姿が、先程ノーネームの中にいた男と同じことがわかる。それだけならいい。しかし、

 

(この男は、()()()()()()姿()()()()()()()?!)

 

あまりにも自然すぎて気づかなかった。十六夜達の来た方向とは逆から、それも誰にも気づかれずに、それこそ黒ウサギや飛鳥、耀、更には十六夜にまで一切気づかれずに移動し姿を変えるなど、明らかに普通ではない。

 

普通を求める相手を、明らかに間違えているのだが。

 

店員が目の前の光景に慄いていた時、暖簾の先に見えるナイアの足が動きを止め、少し横に逸れた。次の瞬間、

 

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

………空気をぶち壊しながら、最強の変態が黒ウサギ目掛けて突っ込んできた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

あの後白夜叉と名乗るこの幼女と黒ウサギが水路に突っ込んだり、投げられた白夜叉が十六夜に(足で)受け止められたりしたが、そこは全カットされました。いいね?

 

ナイア含む五人と猫一匹は、個室と言うにはやや広い和室に案内される。そこには香のようなものが焚かれており、風と共に鼻をくすぐる。

 

白夜叉は上座に腰を下ろし、十六夜達に向き直る。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

そう言って黒ウサギは上空から見た箱庭の図を描く。それを見た四人は口を揃えて、

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンじゃないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「中心に穴は空いてないがな」

 

うん、と頷きあう四人。見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

対照的に、白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ――――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた蛇神の事だろう。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

黒ウサギは自慢気に言う。それを聞いて白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと?!クリアではなく直接的に倒したとな?!ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思えません。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

黒ウサギの言葉にナイアはへえ、と心で言う。これは軽い関心の表れだった。しかし、神格がわかるということだが、黒ウサギの態度からどうやらナイアの()()はバレていないようだった。

 

ちなみに神格とは、それを持つ者をその種の最高のランクに変化させるギフトである。

 

蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。

 

人に神格を与えれば現人神や神童に。

 

鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

 

更に神格を持つことで他のギフトも強化される。そのため、箱庭にあるコミュニティは上層を目指す第一歩として、まずは神格を手に入れることを目標にする。

 

更に言うと、神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種によほど崩れたパワーバランスがある時のみに限る。弱い種がどれだけ知略を尽くしても、圧倒的な力で叩き潰されては意味が無い。

 

しかし十六夜はそんなの知ったこっちゃねえと正面からぶっ潰したのだが…………。

 

ちなみにトリトニスの滝に棲む蛇神に神格を与えたのは白夜叉らしい。それを問題児たちが知るや否や、

 

「へえ?じゃあオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の〝階層支配者(フロアマスター)〟だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

〝最強の主催者〟――――その言葉に十六夜達問題児三人は食いついた。

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声をあげた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様?!」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。――――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印――――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取りだし、壮絶な笑みで一言、

 

「おんしらが望むのは〝挑戦〟か――――もしくは〝()()〟か?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

――――白夜叉のゲーム盤で行われたゲーム〝鷲獅子の手綱〟。グリフォンに跨がり湖畔を一周するというものだったが、それには耀が挑戦した。曰く、〝グリフォンの背中に跨がるのが夢の一つ〟だったとか。結果は勝利。更にグリフォンのギフトまで手に入れるというおまけ付きだ。

 

その様子を見届けた白夜叉は言う。

 

「さて、これでゲームは終わ――――」

 

り、と言おうとしたところで、ナイアが目に入る。そういえばと、白夜叉はとある〝違和感〟を覚えた。

 

(私はあいつに()()()()()()()()()()()?)

 

勘違いかもしれないが、それにしては妙に引っ掛かる〝違和感〟。まるで存在が消えていたような感じだ。

 

しかしそれは心にしまい、白夜叉はナイアに聞いた。

 

「おんしはどうする?〝挑戦〟か〝決闘〟か。〝挑戦〟ならば今の童のゲームの他に新たなゲームを作るが………」

 

ナイアはその質問に嘲笑で返す。そして答えた。

 

「それじゃ〝決闘〟で」

 

ナイアを除く四人に驚愕の声が走る。白夜叉は聞き返した。

 

「おんし……本気か?」

 

「本気だ。こんなこと冗談で言わないさ」

 

鼻で嘲笑(わら)うナイア。白夜叉に続いて黒ウサギも言った。

 

「な、何を言っているんですかナイアさん?!白夜叉様は元・魔王ですよ?!そんな方と戦えば―――――」

 

「だからなんだよ」

 

ゾッとするほどに冷たい声。それがナイアから発せられたものだと理解するのに大した時間はいらなかった。

 

「これは俺がやりたいからやるんだ。お前に手出しはさせねえよ」

 

黒ウサギは黙り込む。ナイアの言っていることに間違いはない。しかし、

 

「………ていう建前はここまでにして、実際は面白そうだからかな。欲望には素直に、ね」

 

は?と思わず声が出てしまう黒ウサギ。ニヤニヤと嘲笑(わら)うナイアに妙に腹が立ってくる。

 

と、白夜叉が、

 

「…………おんし、正気か?」

 

可憐な顔立ちとは明らかに違う、魔王の眼光をその目に宿して問う。しかしナイアはそれにも態度を変えない。

 

「俺に正気を問うことほど意味の無いことは他に無いな。間違いなく俺は正気だ。俺が狂ってるように見えるか?」

 

わざとらしく肩を竦めるナイア。元・魔王だと言われているのに面白そうという理由で挑むのだから狂っていると思われても仕方がない。

 

「そうか。それでは最後の警告だ。――――死んでも知らんぞ、小僧」

 

威圧するような声と共に、一枚の羊皮紙がナイアの手元に落ちてきた。

 

『ギフトゲーム名 〝太陽は無謀を焼くか〟

 

プレイヤー一覧 ナイア

 

ゲームマスター 白夜叉

 

クリア条件 ゲームマスターの打倒。

 

      ゲームマスターの死亡。

 

      ゲームマスターの戦闘不能。

 

敗北条件 プレイヤーの死亡。

 

     プレイヤーの戦闘不能。

 

ルール 今ゲーム中の死亡、及び怪我は自己責任とし、今後怨恨は残さないものとする。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝――――〟はゲームに参加します。

          〝サウザンドアイズ〟印』

 

読み終えたナイアは言う。

 

「なるほど、ずいぶんとはっきりした決闘ルールだ。実に安直で実に単純。勝ちを望むなら正面から打ち破ってみせろと、そういうことだな」

 

「そこまでわかっているなら話は早い。相手が誰であろうとも、〝決闘〟ならば手加減はせんぞ」

 

その目には魔王の眼光、声は威圧、〝白き夜の魔王〟と呼ばれたのは伊達ではないということだ。

 

「開始はどうする?」

 

白夜叉は懐から一枚コインを取りだし、ナイアに見せた。

 

「これを弾き、地面についた瞬間からだ。よいな?」

 

「ああ、それでいい」

 

「それでは………」

 

キィンとコインを弾く音が響く。それは地面から十メートルほどで勢いを無くし、落ち始める。白夜叉の視線とナイアの嘲笑が交錯する。コインの落ちる時間が妙に長く感じた。黒ウサギたちの不安の目がナイアに突き刺さる。しかしナイアがそれを気にする様子はない。

 

しかし流れる時間の中で、ついにその瞬間は来た。

 

コインの地面を叩く音。それが黒ウサギの耳に届くよりも速く――――――

 

 

 

 

 

 

 

超高熱の熱風がナイアを襲った。


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