水無月さんに会ってから三日程経った、今でも学校での私の扱いは変わらないが水無月さんのお陰で大分余裕を持てるようになった。
水無月さんは昨日から学校に来ていない、あの人のことだから、眠いからと言って休んでそうだが本当に風邪であるなら見舞いに行った方がいいか、行くなら何か見舞いの品を持って行った方がいいかなどと考えていたら、最近は一人でいろいろやっていた束から電話がかかってきた。
今まで何をしていたんだと思いつつ電話に出た。
「もしもし、どうした?束、今まで何をしていた?」
「…………」
……おかしい、いつもの束ならハイテンションでうるさいくらいの反応をしてくるのにそれがない、
「……束、本当にどうした?何かあったのか?」
「ちーちゃん」
「なんだ?」
「ごめん、ISを盗まれちゃった。」
「なんだと!?どういうことだ!」
ISが盗まれただって?何の冗談だ、あれは操縦者によって性能は左右されるとはいえ、スペック上ではISが一機あるだけで軍隊と戦え、なおかつ制圧出来るような代物なんだぞ、現に私はミサイルを2000発近くを撃墜してその後やってきた軍隊を相手に圧倒した、
そんな代物が盗まれた?まずい何てものじゃないぞ、
「……とにかく、状況の説明…いや、束、今どこにいる?今からそっちに向かうから場所を教えろ、そこで説明してもらう」
「わかった、場所は……」
本当にまずいことになった、水無月さんにも知らせるべきか?……いや、状況が分からないのに連絡するべきではないな、
今はとにかく束のところに行くのが先決だ、
私は束から居場所を聞くと学校から抜け出し、束に合流するために走り出した。
「それで、どういうことか説明して貰おうか?」
「うん、ちーちゃんと別れた後にね、ISのコアを集めて各国にどれだけの数のコアを渡すか考えながら秘密基地に居たんだけど、」
「今朝、緊急アラームがなって、急いで調べてみたら家に一つだけ置いておいたISの試作品が盗まれてたの」
「ISの試作品だと?そんな物、私は聞いていないぞ」
「試作品って、言ってるけどね、実際はそんなにいいものでもないの」
「ISを作り始めた時に片手間で作った物だから性能も低いし、コアもちゃんとしたものじゃないから、ちーちゃんの白騎士に比べたら張りぼてみたいなものなんだ、」
「……話は分かったが、お前がそんなミスをするとは思えないな」
「ちーちゃん、私だって完璧な訳じゃないんだよ〜?」
………何か隠してるな、コイツがこんな謙遜をする訳がない、だが試作品とはいえISが盗まれたんだ、そっちの方が先決だ、
「……それで、盗まれたISの居場所は分かっているのか?」
「もちろん、束さんにかかれば簡単だったよ、でも相手はモドキでもISを持ってるからね」
「それで私に連絡したのか」
「そうだよ〜、ちーちゃんにはそのISモドキを壊してきてほしいんだ」
「捕獲しなくていいのか?」
「うん、束さんとしてはあんな出来損ないに居て欲しくないし、もしちーちゃんがケガでもしたら嫌だしね」
「分かった、場所は何処だ?直ぐに行く」
「気をつけてね、相手もモドキとはいえISに乗ってるから、場所は……今は海の上だよ」
「分かった、それじゃあ行ってくる」
さて、モドキだとしても束の作った物だからな、気を引きしめて行くか……
〜海上〜
……見つけた、あれだな確かに私の白騎士よりも性能が低いようだな、直ぐに追いつけた、
「そこの奴、待って貰おうか」
相手はゆっくりとこちらを振り向いた、専用のISスーツではなく全身を隠すような服をきていて顔はフルフェイスのヘルメットのような物をつけバイザーで顔が分からないようにしている、そのせいで性別もわからなくなっている、
……束からはISは女しか乗れないと聞いているから女だろうが……
『もう、見つかってしまいましたか』
相手は機械か何かを使って声を変えているようだ、
「さて、無駄話はいいからそのISモドキを返して貰おうか?」
束からは破壊しろと聞いているが降伏勧告位ならいいだろう、
『返す?何を馬鹿なことを、こんなに素晴らしいものを返す筈がないでしょう』
「それはISではない、それを分かっているのか?」
『えぇ、分かっていますよ、篠ノ之博士の論文を私も読ませて頂きましたからね、本物のISには程遠い性能であると』
「分かっていて何故そんなものを盗んだ?世界中が注目している中でそんなモノに価値はないだろう、既に理論は束が世界中に出したのだからな」
話をしている間に戦艦や戦闘機が集まってきた、できるなら戦闘の邪魔になるからどこかへ行って欲しいんだが、
国のメンツと言うやつか、ISの情報を手に入れる為の行動か……
どちらにしても邪魔にしかならない、それほどまでにISの性能は圧倒的だ、
『ギャラリーが集まって来ましたが、まぁいいでしょう、何故この機体を盗んだか、でしたね』
『決まっているじゃありませんか、世界に対して力を示し私の思うままに世界を混乱させる為ですよ!』
相手は大仰な仕草で腕を開き、ありえないことを言ってきた、
『確かにこの機体は貴方が乗っている本物のISに比べて性能で圧倒的に負けています、けれど』
『現在そのISを除いてこの機体を止めることができる兵器がありますか?』
……そういうことか、
『ありませんよね?あるはずがない!まだISがない中でこの機体があるだけで、私は圧倒的なアドバンテージを世界のだれよりも得ているんです!』
『性能が低くともこの機体だけで軍隊を相手に戦い離脱するくらいはたやすい』
『後はISの利用価値を理解出来なかった、無能な政府のトップを人質に取るだけでその国は混乱する!』
『ISの理論を見た時には鳥肌が立ちましたよ、こんなに素晴らしいものがありえるのだ、と』
どうやら相手は科学者か何からしいな、政府に送った理論だけでISの可能性を理解していたらしいからな、
『だが私もその時は半信半疑でしたよ、だから私は、世界中のコンピューターをハッキング(・・)して日本に向けてミサイル2000発余りを発射した!』
……何を言っているんだ?あれは束がしたことだ、わざわざコイツがしたというメリット殆どない筈だ、
世界中のコンピューターにハッキングできるという情報で混乱させる?
……いやそんなことをしても意味がない、今此処で世界に見られているんだ、あのISモドキの性能では逃げ切れない、
考えているうちにも相手は饒舌に喋り続けている、
『そして、あの成果だ!ミサイルを少し篠ノ之博士にハッキングを喰らい落とされたが、そんなことはどうでもいい、』
それは水無月さんがしたことだ、何故そんなことを言う?
相手が何を考えているのか分からない、
『ミサイル2000発を撃墜しなおかつ軍隊をもほぼ無傷で全滅させた!思った通りの規格外の性能だった、』
『そして私はそのうちに篠ノ之博士のコンピューターにハッキングして調べた結果モドキとは言えISがあることが分かった、』
『そして今日、この機体を手に入れた!』
『まぁ、貴方に見つかってしまったのでついでにそのISも貰いましょうか』
『そのあとは、とりあえず回りにいるギャラリーにはご退場願いまして、手始めに日本から潰しましょうかね』
『ISという最高の兵器でね!』
「そういった理由があったのか、なるほどな……全く理解出来ないな」
「それに訂正することがある、」
「ISは兵器ではない、人が宇宙に飛び立つ為の可能性だ」
これだけは言っておかなければならない、束は……私の親友は人を傷つける為にこれ(IS)を作ったのではないと
『これだけの性能を持つものが兵器として使われないとでも?各国は確実に兵器として利用しますよ、絶対にね。』
「それでも、ISが兵器だと言うことは否定させて貰う」
「それに、貴様は此処で私に潰されるのだからな、貴様の妄想もここまでだ!」
「ハァッ」
袈裟掛けに切り掛かるが相手はISモドキの唯一の武装である刀で受け止める、が
「甘い!」
そのまま鍔ぜり合いになるが性能で圧倒している白騎士には無駄だった、
相手の刀を跳ね上げ、がら空きになった胴を斬りに行く、
『クッ』
相手は体制を崩しながらぎりぎりで避ける、だがその隙を見逃すほど私は甘くは……ない!
「ハァァーー!」
上下左右、360°、空間を全て使い切り掛かる、モドキといえ絶対防御はあるようだ、操縦者の命を守る最後の砦だ、
無ければ操縦者は直ぐに死んでしまう、相手の機体は絶対防御がシールドバリアーを貫通して発動したためにもうエネルギー切れ寸前だ、
『はぁ、もうこんなもんでいいかな』ボソッ
相手が何か言っていたが……こんなもんでいい?どういうことだ?
『グッ、まだだ、まだ戦える!私はこんなところで倒れる訳にはいかないんだ!』
……よく分からないが、とりあえず相手を倒すか、
「束からの依頼なのでな、それは破壊させてもらう、これで…終わりだ!」
ISモドキの胸部に露出しているコアを下からの切り上げで破壊する、
その時一緒にヘルメットの一部が切れ、顔が見えた、その顔は…………
私のよく知る、私を救ってくれた、大切な人の顔だった……
「なぜ?あなたが?」
ISモドキが壊れ海に向かって落ちていくあの人を呆然と見ながら私は聞いていた、その中で聞こえたのは、
「プレゼントのお返しだ、有り難く受け取りな」
と言う声だった
海に落ちた、あの人に向かって艦隊が攻撃を加えていく、ISモドキを他国に取られる位なら破壊した方がいいと言う考えからだ、
我に返った私は直ぐさま助けに行こうとしたが白騎士が勝手に動き陸のいつの間にか来ていた束の元に戻っていく、
「束!何をしている!あれにあの人が乗っているのを知っていたな!何故助けに行かない!白騎士を早く動けるようにしろ!」
「ちーちゃん、お、落ち着いて〜耳元で怒鳴らないで〜」
半泣きになりながら束が言って来るが無視して質問を続けた、
「何故あれに、あの人が……水無月さんが乗っている!いや、そもそもISは女にしか乗れないのではないのか?」
「ちゃんと説明するから、ちょっとまって〜」(泣)
……束の説明によるとこの一連の流れを考えたのは、水無月さんだそうだ、
……言っては悪いが水無月さんがこんなに面倒なことをするとは思えない、
束もそう思ったのか聞いてみたら、
「ハッキングをしたのがお前だってばれたら世界中に追われて、お前は逃げるだろ、そしたら姉好きの箒がかわいそうだからな、……お前の行方を聞きに人が俺の所に来たらめんどくせぇし(ボソッ)」
「織斑にはまだプレゼントのお返ししてなかったしな、世界を救ったヒーローになったら前みたいな状態に戻るだろ?人って単純だし…………織斑が学校で孤立したらあの変態どもが余計突っ掛かって来ていい加減うぜぇし(ボソッ)」
だそうだ、
……確実に後の方が本音だろう、相変わらず自分の平穏の為なら手段を選ばない人だな、
「それで、なんでISに乗れたんだ?やっぱりISモドキだからか?」
1番疑問に思っていたことを聞いてみたが、
「ちがうよ〜」
と言ってきた、なら何故なんだ?と疑問に思いつつも水無月さんはどうやって戻って来るのか、何か脱出するための機械を渡したのか聞いてみたら
「ん〜ん、な〜んにも、渡さなかったよ?」
とふざけた返答をしてきた、
「じゃあどうやってあの砲弾の雨から逃げて来るんだ!本当に死んでしまうぞ!」
クソッ、束を信用した私が馬鹿だった、
直ぐさま白騎士に乗って助けに行こうとした私を束が止めた、
「ちーちゃんが今助けに行ったら、ゆーくんの作戦がダメになっちゃうよ!」
「なら水無月さんを見殺しにするのか!」
今までにないくらいの怒気を出しながら束に詰め寄った、
「大丈夫だよ〜、今渡さなかっただけでちゃんと渡してるよ〜」
「時間もかかったけど、もうそろそろじゃないかな」
と束は言ってきた、なんのことだと束に聞こうとしたら、水無月さんが海から上がってきた……上半身が裸で
千冬Sideout
Side悠夜
「プレゼントのお返しだ、有り難く受け取りな」
と言って俺は海に落ちた、我ながらなんでこんなことしてんだ?と思いながら、とりあえずヘルメットを外し上着を全て脱いだ、
これで俺が逃げ切れば終わりの筈だったんだが、甘かった、上から砲弾の雨がふってきてやがる、こりゃ死んだなともはや悟りの境地に立った俺はゆっくりと目を閉じた、カラーコンタクトが取れたがもう死ぬから関係ないか、
そう言えば、なんで俺はモドキだがISに乗れたんだ?女にしか乗れないんじゃなかったのか?ウサ耳天災バカは嬉しそうに「当然だね!」とか言ってたけど、
……まぁ、もうすぐ死ぬ俺には関係ねぇか、平穏平穏言っときながら自分から厄介事に首突っ込んで死んでたら世話ねぇな、
やっぱがらじゃねぇことはするもんじゃねぇなぁ、………死んだら神の奴ぶちのめしてやる、
と考えながら沈んでいたら、篠ノ之から貰ったクリスタルの付いたネックレスが光り出した。
『マスターの危機につき装甲の強制展開を開始します、最適化67%、最良化53%、適応化58%を確認、生命維持の為シールドバリアーを優先、成功、他ISコアから現状最短の距離を算出、白騎士に向けて移動します。』
と無機質な声が聞こえたと思ったら、何かに引っ張られるように海の中を高速で移動した、
しばらくしたら陸に着いたのかネックレスは光るのをやめた、
『マスターの安全を確認、強制展開、解除、スリーブモードに移行します。』
なんかよくわからんが、助かったみたいだ、とりあえず陸に上がるかぁ〜
と陸に上がった俺の前には織斑と篠ノ之がいた。
「とりあえず、篠ノ之か織斑なんか服持ってねぇ?このままだと風邪ひいちまう」
と聞くが反応無し、どうしたんだ?
「水無月さん……目が」
「ゆーくんの目が」
「紫になって(る)(ますよ)!」
あ〜、なるほどそれでか、疲れたから、適当に話して帰ろう。
……あの後、俺は目が紫なのは元からで目立ちたくないからカラーコンタクトで隠していたことを説明させられた、なんで教えてくれなかったのかと文句を言われたが無視した、
俺の思惑道理にISモドキの操縦者は死んだことになり、織斑と篠ノ之は日本と世界を救ったとして、大々的に祭上げられた、都合のいいこって……
世界ではあの一連の事件を『白騎士事件』と名付けてISについて様々な協定がなされた、ISを作った篠ノ之が国家に利用されないように世界各国で自由に動けるように取り決められた、
さらにISについて1番触れる機会がある日本に学校が建てられることになった『IS学園』と名付けられ世界中の人間が集まり技術のお披露目などを目的とした、その中では外から干渉されない一種の治外法権の場となった。
そんな諸々のことが決められた条約をアラスカ条約と呼び、ISを兵器としてではなくスポーツとして扱うようになった。
あの事件で世界中の人々が兵器としての運用に難色を示したからだ、織斑の熱弁も利いたみたいだった。
それでも兵器としての側面はなくならなかったが……
こんな感じで様々なことが起きつつも収束に向かって行った。
頑張った甲斐もあり人の波に飲まれた天災達のお陰で俺はやっと平穏を満喫している、しばらくこのままでまったりしてたいなぁ〜
誰だ!今ムリっていったやつ、出てきやがれ頑張った俺に謝れ!全く、さてと寝ますかね、屋上はいいねぇ〜
そういやこのネックレスのこと聞き忘れてたなぁ……何だったんだ? あれは?あれから何にも変化ないしまぁ大丈夫か。