「インタビューさせてくれないかな?」
鬱陶しい風邪もだいたい回復し、平日の授業も終わり、夕食をまったりと食べていたら。『新聞部』という腕章を付けた女子に急にそんなことを言われた。インタビューって……えっ、今さら? ていう感じなんだが。
「なん」
「何なんだよ、今は束さんがちーちゃんとゆーくんと晩ごはんを楽しんでるのに。邪魔だから消え──むぎゅ!?」
「言葉を被せるな。話がややこしくなるから大人しくしてろ。つーか、俺は部屋で食うつもりだったのに、部屋の前でお前が騒ぐから来ただけだ。」
篠ノ之が話の腰を叩き折るようなことを言おうとしたので、病み上がりでいまいち食欲が無かった。という理由で注文したサンドイッチを、ため息を吐きながら篠ノ之の口に捩じ込んだ。ちなみに手付かずのやつだ。話を聞かなくてもいいんだが、後々めんどくさいことになるかもしれないので、今のうちに聞いておく。
「私が聞くのもなんだが、なぜ今さらインタビューをするんだ?」
俺が聞こうとしたことを、織斑が先に言った。……どうでもいいが、俺への頼みなのに何でこいつらが先に会話(篠ノ之のは会話じゃなかったが)しようとしてんだよ。
「よくぞ聞いてくれました! って、言いたいんだけどね。そんなに大した理由じゃないんだ」
新聞部女子は苦笑しながら言う。
「ほら、水無月君って2年生でしょ?」
本来なら3年なんだがな、年齢的に。
「だから、今の2年と3年はある程度、水無月君のことを知ってるんだけどさ。1年生はそうじゃないでしょ? 先輩達から話は聞くけど、やっぱり上級生だから直接会いに来るのは尻込みしちゃう。って子が多くてね。簡単なインタビューでもいいから記事にして欲しい!! ていう要望がたくさん新聞部に寄せられたから、こうしてお願いに来ました」
「理由は分かったが、それこそ何で今さら? 1年が入学してから大分経つんだが」
いや、本当に。何で今さら? タイミングがおかしいだろ。
「それがね、1年生の子の1人が水無月君に助けてもらった。ていう噂が流れて」
あくまで噂なんだけどね。と新聞部女子は続けたが、俺はその発言を聞いてすぐ、頭痛がし始めたこめかみを抑えた。……どっから洩れた。一応口外禁止の内容なんだが……。人の口には戸は立てられぬ、か。めんどくさい。
「それが引き金になって。学園祭で執事をしてた、篠ノ之博士に口移しで食べさせてた、学園祭でもう1人のIS男性操縦者と織斑さん達を賭けた決闘をしてた、学園祭でコンピューター部の出し物を10秒でクリアしてた、学園祭で織斑さんとデートしてた、等々。いろんな話が出てきて収集がつかなくなってさ。去年インタビュー出来なかったし。ちょうどいいかなー、と」
小首をかしげながら聞いてくる。……かなりひどい捏造が所々にあるな、おい。一部真実だから否定もしにくいし。はぁ、やっぱ面倒なことになった。つーか、最後のが本音だろ。せっかく去年はうやむやに出来てたのに。
「……もう1人の方は」
とりあえず、無理だろうけど、変態君を推してみる。新聞部女子は苦い顔をしながら、
「雑誌記者を目指す身としては、ダメなんだけどさ。もう1人の方は苦手なんだよね。嘘ばっかり吐くし、聞いてないことを言ってくるし、何だか世界は自分中心に動いてる、って感じだから記事にしにくくて。それに、名前を言った途端に態度を変えるし。気味が悪くて」
……嘘の辺りは、やぶ蛇っぽいから聞かないでおこう。インタビューねぇ。サンドイッチをなんとか飲み込んで、復活しようとした篠ノ之に2つ目のサンドイッチを捩じ込みながら、考える。
受けても受けなくても、あまり差はないんだけどな。去年とは状況が違うし。
「簡単な質問くらいなら、受けたらどうですか?」
たらたらと考えていたら、織斑がそう言ってきた。
「んー……。今ここだけで簡単な質問のみ。答えられないことはノーコメント。捏造なしで」
「ホントに! 条件もそれで大丈夫だよ」
喜色満面といった様子でいそいそと準備する新聞部女子。ふむ、これで大丈夫だな。
「ちゃっちゃと終わらしてくれよ。新聞部女子さん」
「あっ、名前言ってなかったっけ? ごめんなさい。私は『黛(まゆずみ) 渚子』水無月君たちと同じ2年生。よろしくね」
よろしくしなくていいから、厄介事を持ってこないでくれ。
「じゃあ最初の質問。女子ばっかりのハーレム学園に入った感想は?」
簡単な質問、ね。インタビューになったら急にテンション変わったな、おい。
「色々とめんどくさい」
「あはは、男の子だもんね。しょうがないよ」
「じゃあ次。何で髪を伸ばしてるの?」
「切りに行くのがめんどくさい。後、切りに行ってIS男性操縦者ってバレたら面倒だから」
1回行っただけで『IS男性操縦者御用達』とか書かれたらめんどいしな。それに、俺の髪を集めて、研究所に売られるとかになったら気持ち悪いから。IS動かした当初、サンプルとして髪を売ってくれ!! って言われてかなり引いたし。かなり必死だったな……嫌な思い出だ。
「なるほどなるほど。じゃあ戦場での心構えは?」
「不意討ち、闇討ち、騙し討ち、何でもいいから面倒にならないように勝つ。最高なのは戦わずして勝つ、というより戦わない。めんどくさいから」
3個目のサンドイッチを捩じ込みながら答える。織斑と黛の顔が若干引き攣っているが、気にしない。
「な、なかなかシビアだね。じ、じゃあ、何かスポーツとかしてる?」
「合気道と剣術」
「IS学園はどこかの部活に入らなきゃダメなんだけど、入ってないよね?」
「学園長に許可はもらってる。女子ばっかりの部活に男子が入っても集中を乱すだけだから。後、めんどい」
建前は重要だよな、建前は。事実でもあるから大丈夫だ。
「……実はものぐさな性格?」
「見たまんまだ」
黛の笑顔が固まってきたな。
「そ、そっか。次は、専用機は欲しい?」
「特に欲しいとは思わないな」
「どうして?」
「どっかの所属になるとどっかに恨まれるし、あんまりメリットがないから」
「よくかんがえてるんだね」
「めんどくさいのは嫌いだしな」
サンドイッチ4個目。数がなくなってきたな。むーむー言ってるけど知らん。
「篠ノ之さん、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。多分」
「大丈夫だ」
黛はちょっと見過ごすのが辛くなってきたのか、篠ノ之のことを心配するが。俺と織斑はすっぱりと言い切る。この程度でこいつは死にやしない。それよりも周りの奴等がめっちゃ聞き耳立ててるな。どうせ記事になんのに、よく分からんな。
「そうなの? ……よし! じゃあ、ここら辺で1番リクエストが多かった質問です! ズバリ! 今、付き合ってる人は?」
「いない」
周りが固唾を飲み込む暇すらなく、即答する。いないもんはいないしな。
「ホントに?」
「本当に」
「……実は?」
「いない」
やたらと食い下がってくるが、答えは変わらん。
「ゆーくんは束さんとちーちゃんと婚約してるからそんなものいな──にゃっ!?」
スッパァン!! と、残っていたサンドイッチは俺が食べてしまったので、仕方なくハリセンで横凪ぎに篠ノ之の目を叩く。食堂のソファーの上でゴロゴロと転がる。 痛そうだな。
「えっと、いないでいいの?」
「イエス」
「おーけーおーけー。それなら数少ないIS男性操縦者として」
「ノーコメント」
「え?」
「ノーコメント、だ」
坦々と、声の調子を変えずに答える。そんなもんどう答えてもどっかに恨みを買う。
数少ない男性IS操縦者としてがんばる? 自分は特別だってか。なりたくなかった? なりたいのになれない奴に対する最悪の言葉だ。かなり穿った物の見方だが、言葉の感じ方なんか千差万別だ。逆恨み何て腐るほどある。
「んー……よし、ありがとう。いい記事が書けそうよ。次があったら、またよろしくね?」
「ないぞ」
「えっ?」
「『今ここだけで』って言っただろ? だから2回目はない」
「……ず、ずるい」
少し泣きそうになってるが、関係ないな。約束は約束だ。
「オーケーしたのはそっちだしな」
肩をすくめながら答える。
「うぅ、分かりました。協力ありがとうございました」
とぼとぼと黛は哀愁を漂わせながら歩いて行った。
「さて、帰って寝るか」
背骨をパキパキとならしながら立ち上がる。疲っかれたー。
「容赦なしですね」
「人の話はちゃんと聞きましょー」
「はぁ。ほら、束。帰るぞ」
「グスッ、ゆーくんがひどいよ〜。ち〜ちゃぁあああん」
「こらっ、ちょっ、へばりつくな束!!」
最近かなり回数が増えてきた、ため息を吐きながら、部屋に向かい歩き始めた。
厄介事が厄介事を呼ぶな。
……もういい、寝る。