ISってなに?   作:reレスト

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本って役に立つよなー、読んで良し、叩いて良し、投げて良しの三拍子だ!……

「で、何でついてきたんだ?」

 

 

 しばらくの間大いなる青空を見上げた後、本題に入った。何で俺が日本代表候補生候補の事を知っていたかは、めんどいから話してない。騒ぎだしそうだったしな。

 

 

「えっと、何で追われてたかじゃなくて何でついてきたかの方が大切なんですか?」

 

 

「当たり前だろ? ついて来られたせいで、多分俺まであいつらに目ぇつけられただろうしな。それについての事情説明くらいはあってしかるべきだろ」

 

 

「うぅ、す、すみません」

 

 

「まぁ、どうせ俺が急に走り出したから反射的についてきたんだろ」

 

 

「わ、分かってたなら聞かなくてもいいじゃないですかぁ!」

 

 

 ため息混じりに推論を言うと、どうやら図星だったようで山田は顔を赤くしながら怒鳴ってきた。 怒鳴ると言っても子犬の威嚇程度の迫力すらなかったが。

 

 

「デカイ声出すなよ。頭に響くから」

 

 

 俺が片耳を塞ぎ、半目になりながら文句をいうと今度はシュンとなった。……反応がいちいち子犬とかそういう小動物を彷彿とさせる奴だな。

 

 

「何で追われてんのかは知らんが、とりあえずIS学園に戻れば大丈夫だろ。あそこは特別だしな」

 

 

 まぁ、何となく予想はつくけどな。

 俺は携帯を取り出してGPSを使い、現在地を確認してからメールを打つ。めんどいからとっとと終わらせよう。

 

 

「何度もそうしようと思ったんですけど、行く先々であの人たちに見つかってしまって」

 

 

「学園に連絡しろよ」

 

 

「……連絡したら家族が酷い目に遭うって言われて、私、もうどうしたらいいか」

 

 

 山田は、目に涙をいっぱいにして話してくる。……こういうのを見て言うのもなんだが、……この子は馬鹿なんだろうか。

 日本代表候補生候補と言ったら、エリートコースを行ける切符を半ば手に入れてるような奴らだ。そのまま行けば、日本代表候補生、日本代表と国の重要人物になるかもしれない。

 

 

 そんな逸材達に何かあったら国自体の評価が危ぶまれる。

特に日本なんざIS学園なんて物を運営して、各国の代表やら代表候補生やらを預かってる。なのに自国の代表候補生候補やその家族すら守れませんでしたーじゃ、いいバッシングの的になるだけだ。 だから警護っていう面では日本はかなりのレベルなんだけどな。

 

 ……こいつの性格だったらテンパってそこまで頭が回らないか。 てか、それにしても動きが遅い気がするんだが……。

 

 

「まぁ先回りされてた理由は、さっきまで付いてた発信器のせいだろうな」

 

 

「えっ! ど、どこに付いてるんですか!?」

 

 

「さっきまでって言っただろうが、青汁を取った時に外してそこら辺の鳥に投げ付けたから、もうどっか遠くに行った」

 

 

 バタバタと制服をいじり始めた山田に呆れながら教える。あんなちゃちな発信器なら簡単に見つけられるからな。あいつら自体は大したことないんだろ。

 ……いや、そもそもあのボケウサギと比べるのが間違いか。

 

 

「そ、そうなんですか。なにかすごいですね、さっきもあんなに大きな人を倒しちゃいましたし」

 

 

「慣れたら誰でもできる」

 

 

 小学生からずっと、実践経験だけはバカみたいに積んでたからなぁ。天災達のせいで。

 

 

「……無理だと思います。あれって何なんですか? 柔道じゃないですし」

 

 

 コロコロと表情を変えながら、山田は質問してくる。目先の恐怖よりも身近な疑問の方が先に来るのか。案外図太いんじゃないだろうか、この子。

 

 

「合気道だよ」

 

 

「え? でも」

 

 

 

「合気道ってのは元々、日本の古流武術の1つで、投げ技だけじゃなくて関節技とか当て身技みたいなのもあるんだよ。合気道=投げ技オンリーじゃないからな」

 

 

 

 色々と聞かれる前に一気に説明した。いちいち聞かれて説明すんのもめんどいし。細かいところになると『崩し』『入身』『転換』とかが入ってくるんだが。まぁ、あの程度の説明で十分だろ。

 

 

 

「はー、そうなんですか。勉強になります」

 

 

 

 そんなしょーもない会話をしながら時間を潰す。途中で帰ってきたメールの内容を見て、思わず顔をしかめたが、仕方ないだろう。めんどくさい内容だったしな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はぁ、やっと来たな。こっちは風邪引いてんだから、少しは気ぃ使えよな。」

 

 え? と山田が俺の声に反応してからすぐに、オールバックとそのSPがぞろぞろと現れた。途中から公園に入ってくる人が不自然に少なくなっていったから、おそらく人払いでもしてたんだろ。ご苦労なこった。

 

 

「また会いましたね、変質者さん。SPまで増やして、そこまでこいつにご執心ですか? このロリコン」

 

 

 SPを10人に増やして現れたので、何となくバカにしてみた。他意はない。

 

 

「自分の立場が分かってないようだな、クソガキ。私達の邪魔をしなければよかったものを」

 

 

「いやいや、俺は一般人だって言ってたのに突っかかってきたのはそっちだろ? その年でもう痴呆か? オッサン」

 

 

「グッ、こちらの事情も知らんくせに何を」

 

 

「事情、ねぇ。どうせ日本代表候補生候補のこいつと何かしら契約を結んでおいて、プロパガンダにでもするつもりだったんだろ。契約内容によっちゃ色々できるし、もしこいつが日本代表になったら専属のスポンサーとしての宣伝にもなるしな。凄まじい青田買いだな、おい」

 

 

 先ほどまで余裕だったオールバックの表情がどんどんと険しくなる。ダルいから八つ当たりさせてもらおうか。

 

「普通の奴だったらIS学園に言われてアウトなんだけどな、こいつの性格だったら大丈夫と考えて接触した。が、逃げられて追いかけまわしてやっと追いついたと思ったら一般人に邪魔されたあげく発信器まで見抜かれて、それにも気づかずに発信器を取り付けられた空を飛んでる鳥を追っかけ回して、途中で違うことに気づいてやっとこさこいつを見つけたと。間抜けだねぇ」

 

 

 やれやれと言うような表情でオールバックに騙りかける。息継ぎなしで言い切ったから多少疲れたが、まぁしょうがない。オールバックの顔が真っ赤になり始めたし、そろそろいけるだろ。

 

 

 

「図星でしたか? それにしても、あんた程度の実力でよく日本代表候補生候補の情報が入りましたね?」

 

 

 日本代表候補生ならまだしも、そのさらに候補となると本人を含めて少ししか知ってるやつはいない。今回みたいに青田買いでもされたら色々と面倒になるからだ。 さてさて、獲物は釣れるかなっと。

 

 

「……ふん。そこまで知ってしまっているならお前には消えてもらうしかないな」

 

 

「おいおい物騒だな。いいのか? そんなことをしたらすぐに足がつくけど?」

 

 

「ハッ! ガキ1人が消えたぐらいならどうとでもなるんだよ。こっちにはそれだけの力がある」

 

 

 ニタニタと笑いながら、自分の優位を確信したオールバックが言う。

 

 

「たかが一企業にそんなことが出来るわけ」

 

 

「出来るんだよ。私達の後ろにはそれだけの力があるバックがいるからな」

 

 

「……政府の人間か」

 

 

「その通りだよ、クソガキ」

 

 

 俺が苦い顔をするとオールバックはさらに醜悪な笑顔を向けてくる。

 

 

「日本代表候補生候補の情報もそこからか」

 

 

「あぁそうだ。今回のことが成功したらその利益をいくらか渡すことになっていてね。その人の力を使えば何とかなるんだよ。ま、ギブアンドテイクってやつだよ」

 

 

 ……もう十分だろ。これ以上はめんどいし、こいつがアホで助かったな。携帯を取り出し、合図を送る。

 

 

「ふーん」

 

「ようやく諦めたか。おい、早くそいつを」

 

 

 オールバックの言葉を遮り、ブォン!! と轟音をたてながら、簡素だがなかなか広い公園に黒塗りの車が数台現れた。 車の中からぞろぞろと屈強そうな方々が出てきて、オールバックとその周りの奴等を制圧した。その間10秒の早業だ。やっぱ本物は違うね。

 

 

「な、なんなんだお前らは!?」

 

 

「IS学園が事情を話して動いた、あんたのバックの人間以外の政府の方々の部隊だよ」

 

 屈強な男に押さえつけられているオールバックがうるさいので説明する。

 

 

「そんな馬鹿な!? 私達の行動がなぜ!?」

 

 

「あんたIS学園舐めてない? とっくにバレてんだよ」

 

 

 まぁ、そのバックの人間のせいで多少手間取ったらしいけどな。つーか証拠集めに学生使うなよな、ホントに学園長かよあのオッサン。

 

 

「嘘だ、そんなそんな」

 

 

「おかしいと思わなかったのか? たかが高校生のガキがそれなりに鍛えてるSPを投げ飛ばしたり、発信器に気づいたり、大人数に囲まれたのに普通にしてたり、政府の人間とか言ったりとかさ。そこまで考える高校生なんざ、ほとんどあり得ないだろ」

 

 

 オールバックの顔がだんだんと青くなっていく。もうちょいだな。

 

 

「あぁそうだ。あんたのさっきの発言のおかげで、しぶとく言い逃れしようとしてた政府にいるバックの人間とやらも捕まったらしいぞ。調査協力ありがとーございます」

 

 

 携帯を開き、メールを見ながら笑顔で伝えると、オールバックは絶望という言葉がぴったりの表情で項垂れた。やっぱ騙り合いって大切だよなー。

 

 

 オールバック達は車に乗せられて連れていかれた。はぁ、やっと終わった。さて、学園長には何貰おっかなー。

 

 

「あの!」

 

「ん?」

 

 さっきまで空気を読んだのか展開について行けなかったのか知らないが、終始黙っていた山田が話しかけてきた。……多分後者だろうな。てか、熱のせいでちょっとテンションがおかしかったな、俺。

 

 

「どうした山田? もう終わったから帰っても大丈夫だぞ」

 

 

「あなたは……」

 

 

 山田は聞きたいことがあるが何を聞けばいいか分からないといった感じで言い淀む。

 

 

「まぁ、特徴とかないから仕方ないよな。」

 

 

 しっかりと山田の方に体を向けて、そういえばしてなかった自己紹介をする。もう帰るだけだし、いいだろ。

 

 

「IS学園2年の水無月 悠夜。以後よろしくしなくてもいいから厄介事を持ってくんなよ」

 

 

 山田は目を限界まで見開き──かけてる眼鏡がずれた──息を飲んで、吐いて、思いっきり息を吸い込み──

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇーーーーー!?!?!?」

 

 

 ──もはや衝撃波といってもいいような大絶叫を放った。

 

 

 そこまで驚くことかね?


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