ISってなに?   作:reレスト

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一難去らずにまた一難。え? 終わりは……

 ……やっと朝になった。

 織斑はまだ眠っているが、そろそろ起きてもらおうか。ダルいしな。

 あん? 寝かせておいてやれ? ……無理だな。もう俺の手がもたねぇし、完全に感覚がなくなってやがる。

 

 というわけで、

 

 

「起きろ、織斑。朝だ」

 

 

「んぅ」

 

 

 声をかけたが、織斑は少しみじろぎしただけで起きる気配がない。

 ……めんどい。1回は声をかけたしいいか。

 俺は織斑の額に乗せていたタオルを取り、洗面器に入れていた水を含ませる。

 で、そのままタオルを搾らず、水気を大量に含んだタオルを織斑の顔にぶつけた。

 

 

「きゃっ! 何をす……悠夜さん?」

 

 

 

 

 

 織斑はタオルが顔に当たった瞬間に素早く起きあがった。寝起きで、すぐには状況を把握できなかったようだが、こちらを見て動きを止めた。

 

 

「おはよ〜ございます」

 

「えっ? あっ、おはよう、ございます?」

 

 ふむ、見た感じでは熱は引いたみたいだな。……たしか40度近い熱があったはずなんだが、気にしたら負けか。

 

 

「食欲は?」

 

 

「あ、はい、ありま」クゥ〜

 

 

 俺の質問に答え終える前に、織斑の腹が自己主張してきた。

 

 

「……あるな」

 

 

「……はぃ」

 

 

 また熱がぶり返したんじゃないかというくらい、織斑は顔を紅くしていた。まぁ今のタイミングじゃ、ねぇ。

 

 

「んじゃ、飯つくってくるから手ぇ放せ」

 

 

 いまだに握られっぱなしの左手をぷらぷらと揺らして放すように促す。

 

 

「……ありがとうございました」

 

「どーいたしましてー」

 

 

 少し名残惜しそうにしながらも、俺の手は解放された。

 織斑が礼を言ってきたがそれよりも、全く感覚がない左手の方が大切なのでテキトーに返事をしておく。

 うわぁ、痣ってほどじゃねぇけど真っ赤になってるな。なのに感覚がないし、大丈夫か? 俺の手。

 

「特になにもないが、歩きまわったり、探ったりすんなよ。俺の部屋じゃねぇし」

 

 

「しませんよ。そういえば、この部屋は客間ですか?」

 

「んにゃ、親の部屋だ。さすがに布団は来客用のに変えたけどな」

 

 

 親の使ってた布団で寝かせるのは、さすがにちょっとあれだしなぁ。

 

 

「じゃ、めんどいけど作ってくるわ」

 

 

 ぽいっ、と乾いたタオルを織斑に投げ渡し、洗面器と織斑が手に持ってる濡れタオルを回収してから部屋を出る。あ〜、やっと左手の感覚が戻ってきた。

 メニューは……めんどいし、卵粥でいいだろ。お粥作って卵入れるだけの簡単料理だし、病人にはちょうどいいしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はぁ、出来た。さて、持ってくか。

 あん? 作ってるときの様子? ……男がお粥をかき混ぜるだけの様子なんざ、誰に需要があんだよ? どう考えてもいらないだろ?

 

 

 卵粥とスポーツ飲料水、茶と薬を持って親の部屋に向かう。

 はぁ、ダルい。

 

 

「入っても大丈夫か?」

 

 

 部屋に入る前に一応、ノックをして声をかける。

 なんかあったらめんどいしな。

 

「はい、大丈夫です」

 

 

 許可がでたので、色々と載っているトレーを片手に持ちかえて扉を開け、部屋に入る。

 トレーを机に置き、土鍋に入っている卵粥をお椀にうつして、レンゲと共にわたす。

 

 

「どーぞ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

それなりに腹が減っていたようで、卵粥をがっつかない程度にだが、素早く食べ始めた。

 

 

 他人の食事を凝視する趣味もないので、読みかけの本を読むことにする。

 

 

「あぁ、おかわりはセルフな」

 

 

 カチャカチャという音が止まったので、お椀に入っていた分はなくなったのだろうと思い。先に言っておく。

 

 

「……昨日と違って冷たくないですか?」

 

 

 本から目をはずして織斑の方を向くと、織斑はお椀をこちらに渡そうとする途中の格好で動きを止めてこちらを見ていた。

 微妙に不満そうだな、おい。

 

 

「へぇ〜、わざわざ朝食を作ってやったのに冷たいと」

 

 

「それは、そうですけど。一応、病人ですし」

 

 

 

 

「お預けをくらってた犬みたいに、勢いよく飯を食う元気があるなら大丈夫だ」

 

 

「そ、そこまで勢いよく食べてませんよ!」

 

 

 ふぅ、とため息をつきながら、かなり誇張した事実を言うと。

 織斑は顔を朱に染め、叫ぶようにして訂正を求めてきた。

 

 

「叫べるくらい体力回復してんだから、大丈夫だろ」

 

 

 と、それを聞き流しながら言い返すと織斑は、

 

 

「もういいです」

 

 

 と言って、自分でおかわりをしながら拗ねたように食事を再開した。

 

 

 はぁ、俺だって疲れてんだからしゃーないだろ? それにダルいしなぁ。

 

「それ、何を読んでるんですか?」

 

 

 食事を完食した織斑が薬を開けながら質問してきたので、俺は正直に答える。

 

 

「本」

 

 

「……怒りますよ?」

 

 

 織斑は俺の簡潔で分かりやすい答えが気にくわなかったのか、顔をひくつかせながら脅してきた。 ……駄目だな、テンションがおかしくなってきた。

 

 

「ん」

 

 

 説明すんのもめんどくさいので、本の表紙を見せる。

 表紙には、

 

 

『スローライフ のんびり暮らす生活方法〜上級編〜』

 

 

 と、書いてある。

 

 

「……他の本も同じですか?」

 

 

 机に積んである本を見ながら聞いてきたので、全部見せることにした。

 

 

『胃に優しい料理・お菓子大全集』

 

 

『アクセサリーの作り方〜達人編〜』

 

 

『ネゴシエーション(交渉)〜上げて落として騙り尽くせ〜』

 

 

 

『至高のコーヒーを求めて〜ぶらり諸国密入国の旅〜』

 

 

 

『人間心理〜思考の死角〜』

 

 

『チョップチャプス〜新・旧そろい踏み〜』

 

 

『平穏』

 

 

「………悠夜さん、シャワーを借りてもいいですか? 寝汗で服がべとついて気持ち悪いので」

 

 

 見なかったことにしやがった。 まぁ別にいいけどな。

 ん? 何だよ? 1つ犯罪行為が書かれてる? ……出版されてんだし大丈夫だろ。

 なんか発禁になったとか聞いた気がするが、まぁ気のせいだ。

 

 

 

「別にいいけどさ。普通、男の家でシャワー借りるか?」

 

 

 恥じらいとかないのか?

 

 

「赤の他人でもないですし、悠夜さんなら大丈夫でしょう?」

 

 それとも覗きますか? と艶やかな笑みを浮かべて聞いてくる。 さっきの意趣返しのつもりかよ。はぁめんどくさい。

 

 

「何で覗きなんかのために労力を使わなきゃなんねぇんだよ。めんどくさい」

 

 

「……私が言うのもなんですが、それは男としてどうなんですか?」

 

 

「知らん。俺が納得してるからいいんだよ。それよりシャワー使うのはいいとしてだ、服くらいは貸せるが、さすがに下着はない……いや、もういい分かった」

 

 

 服を貸す。と言った辺りで、織斑は視線をそらしやがった。

 つまり──

 

 

「ボケウサギを呼んだな」

 

 

「すみません」

 

 

 はぁ〜、と頭痛のする頭を手でおさえながら確認すると、織斑は苦笑しながら謝ってきた。

 

 

「まぁ、覚悟はしてたけどさ。もしかしたらって夢くらいもってもいいじゃねぇか」

 

 

 最後の砦がお亡くなりになることを思い、ちょっと泣きそうになる。

 

 

「そろそろ来るころだと」

 

 

 ピーンポーン

 

 

「……スルーは」

 

 

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポー、ピポピポピポピポピポピポピンポーン!

 

 

「ち〜ちゃ〜ん! 愛しの束さんが来たよ〜!」

 

 

「……早く出た方が」

 

 

「分かってるよ」

 

 

 重い、処刑台に上がる罪人のように重い足取りで玄関に向かう。 ダルいなぁ、おい。

 

 

「……どうやって入った」

 

「ふっふっふ〜あの程度の鍵、束さんの前ではなきにしもあらずなんだよ!」

 

 

 俺が玄関に着くと、すでにウサ耳バカは侵入していた。

 言葉の使い方が間違ってる上に犯罪だ。

 しかも、いつもよりテンションが高くてうるさい。

 

 

 

「はぁ〜、とりあえずついてこい」

 

 

「は〜い♪」

 

 

 ウサ耳を伴い部屋まで連れていく。

 

 

「ここだ」

 

 

「りょ〜か〜い! ちーちゃ〜ん、大丈夫? しんどくない? 束さん特製のお薬飲む? あっ! ちゃんとちーちゃんに頼まれてたブラジャーとパンt」

 

 

「うるさいぞ束! あと大声でなにを口走っている!」

 

 

 部屋に案内して先にウサ耳を入らせると、すぐさま騒ぎはじめた。俺は部屋に入らずに中が落ちつくまで待機している。めんどいし。

 

 

 しばらくして、ウサ耳の悲鳴が途絶えたので部屋に入る。

 部屋の中には、肩で息をする織斑と床の上に倒れてピクリともしない篠ノ之がいた。

 床には『ちーちゃ』と途中まで書かれた文字がある。

 床汚すんじゃねぇよ。誰が掃除すると思ってんだ。


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