あぁ〜、マジで面倒だった。多少の覚悟はしてたけどさ。本当に壊れて、つうか故障してるとは思わなかったよ。ISを装着した瞬間に転けそうになるわ、照準がズレてるわで最悪だった
まぁとりあえず、ノルマをクリアしたからいいだろ。あのISも整備員に引き渡したしな。出し物のために入れてたデータをクリアして、ちょっと整備すりゃ直るだろ
はぁ、これからまた執事をしなきゃならんのか。正直、欠片も休んだ気がしないんだが……やめよ、空しくなってくる
……で、だ。あの出口の横の壁にもたれ掛かって、腕組みしてる変態君の相手はしなきゃダメか?
……テキトーに相手して帰るか
「フッ、まぐれと機体に助けられたな」
壁に背を預けたまま。変態君はニヤつきながら、相変わらず訳のわからんセリフを言ってきた。多分、本人は不適な笑みで話しているつもりなんだろうが……どう見てもニヤついているようにしかみえない
「あの機体が量産機だったせいで、俺の動きについてこれなかったのと。まぐれ当たりが重なったおかげで、たまたま引き分けになったな」
しかも聞いてないのに勝手に説明? いや、捏造し始めた。とりあえずチョップチャプスでも舐めよう。じゃないとやってられん
カサ、パクっ、カリコリ
うむ、うまい。やっぱチョップチャプスは至高だな。たまに地雷があるが、基本的にうまいしな
「俺のマネをしたつもりで失敗して無駄弾も撃っていたな」
あ〜、うん。それは一部あってるな、無駄弾っていう点では。正直あんなに撃たなくても1・2発で照準のズレは直せたんだよな。けど、テキトーに外すのもあれだし、弾を残して終わるのもおかしいからな。まぁ頑張りました感を出すためだったし、しょうがないだろう
……照準のズレなんてのは、織斑とISでの模擬戦の相手してたらしょっちゅうあるからな。こっちがライフル構えて射撃してんのに、ほとんど回避して突っ込んで来て、容赦なく雪片で斬りかかって来るからな。かわせなさそう斬撃は手に持ってるライフルで雪片を受け流したりぶっ叩いたりして逸らすからな。ライフルがいかれて照準がズレることなんかざらにある
だから今回も簡単に修正出来たんだよなぁ〜。全く感謝はしないけど。考えてもみろ。そもそもあいつらが要らんことを言わなかったら、こんなめんどくさいことをしなくて良かったんだろ? そう思わないか?
「まぁ次の勝負でケリをつけてやるよ!」
………頭が悪いんだな、きっと
「いや、2回目はないぞ」
「は? なんだ、逃げるのか!」
「ちゃんと言っただろ? 『文句なしの一発勝負』って、だから2回目はない」
「ふざけるな!そんなの認められるわけねぇだろ!」
はぁ、決めたことくらい守れよな。めんどくさい、ってこの音は……10秒ってところか
「お前さんが認めなくても、一発勝負の事はアリーナにいる人たちは知ってるからな」
9・8・7・6……
「どういう事だ!」
いちいち叫ぶなよ、うっさいな
「周りに何人かいたからな、口コミで広がったんだろ」
5・4……
「……なら、さっきの勝負は俺の勝ちだ!俺の動きの方が命中させるのは難しいからな、どう見ても俺の方が凄かった!」
「いや、命中した数の勝負だから動きは関係ねぇよ」
思わずツッコミを入れてしまったが、仕方ないと思う。って、言ってるうちに、後3・2……
「なんだと!」
と怒鳴りながら変態君が掴みかかろうと一歩踏み出したが、残念。タイミングが悪過ぎたな。1……
ドッバーン!!バキィ!!「ヘブッ!?」ゴン!!
「ゆ〜く〜〜ん!!束さんが来たよ〜♪」
「待てと言ってるだろう束!というか今変な音がしなかったか?」
……当たるかなぁ〜、とは思ってたが。ここまでキレイに当たるとは思わなかったな。
あぁちなみにさっきの音は、変態君が一歩前に出る→おそらくダッシュで突っ込んで来たであろう篠ノ之がドアを力一杯、蹴り開ける→変態君の顔面にジャストミート→さらにその勢いで変態君は後頭部を壁に強打→篠ノ之と織斑が入って来る。ていう流れだ、基本的に自動ドアなのに何でたまに普通のドアがあるのかは知らん。用務員室とかもそうだな。学長の趣味か?
「……とりあえず、何しに来た?」
「ゆーくんに会いに来たんだよ〜♪」
「やることもなくなったので悠夜さんと合流しようかと。どうせこの後クラスに戻らなければなりませんし」
「はぁ、分かっちゃいたがめんどいな」
「ねぇねぇゆーくん」
「なんだよ」
「わざと引き分けにしたでしょ?」
流石にばれるか
「勝っても負けてもめんどくさいことになるからな」
勝っても? と織斑と篠ノ之は疑問に思ったみたいなので、変態君とのやり取りを説明したら納得したみたいだった
「そういえばさっきの音は何だったんですか? 蛙を踏み潰したような声も聞こえましたし」
「あぁ、それはあれだ」
と言って。俺は気絶して白目をむいている変態君を指でさす
「……どういう状況ですか?」
「そこのウサ耳のおかげ? だ」
「ほぇ? 束さん?」
「よくわかりませんが……束、よくやった」
「おぉ!ちーちゃんにほめられた〜♪」
状況を理解できていないみたいだが、変態君を見てとりあえず篠ノ之をほめる織斑。織斑にほめられてテンションのあがる篠ノ之。よっぽどイラついてたんだな、織斑
「教室に戻るか」
「そうですね」
「えぇ〜!束さん、また暇になっちゃうよ〜」
「知らん」
ぶーぶーと文句を言う篠ノ之を適当に相手しながら教室に向かう。一応、変態君を撃退したのでさすがにスルーはしない
……誰も変態君を気にしなかったが、別にいいだろ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ザブン、サーー
「はぁ〜〜、最高だ」
あの凄まじくめんどくさかった学園祭から2週間あまりがたった。……なんだよ、時間が跳んだ? そんなもん知らん。あの後はさらに増えた客の対応くらいしかしてないからな、特に語ることでもないだろ
そんなことより今はこのゆったりとした時間を堪能したい……まだなにかあんのか? どういう状況かって? まぁ簡単に説明するとだな、俺賞品を頼む権利をゲット→賞品を頼む→若干渋い顔をされたが割りと真面目な願いだったので許可→賞品を堪能中、て感じだ
賞品が何かって? それは………
ガラッ
「おぉ〜!すごいね!檜風呂だよ!しかも海が見えるし、広いn」
バシャア!!
「どうやって入ってきた? ボケうさぎ」
「冷た!ひどいよゆーくん。束さん風邪引いちゃうよ〜」
俺はすぐさま冷水を不法侵入者(ボケうさぎ)にぶっかけた。……まぁさっきのボケうさぎの言動で分かると思うが、俺が頼んだのは風呂だ。この風呂のために俺は元の部屋から風呂のつけられた新しい部屋に引っ越した。流石に元の部屋にさらに風呂をつけるのは無理だったみたいだ、サイズとか諸々で
ちなみに正面がガラス張り。しかもマジックミラーのように外から中は見れないが中からは外が見えて、さらに特殊強化ガラスのため狙撃も大丈夫な特別製だ。
さらに浴槽は高級な檜で出来ていて、いい香りがしている
別に檜風呂とかを頼んだ覚えはないが、せっかくの第一回学園祭でショボいのにしたりしたらIS学園としてのメンツとか……ねぇ?
風呂にした理由はあれだ。入る時間が縛られんのと変態君といちいち遭遇するめんどくささ、それに覗き対策だ……男の裸が珍しいのか知らんが、結構な数が来てたそうだ。教師陣に追い返されてたらしい。ボケうさぎも来ようとしたらしいが織斑が潰したらしい
まぁだいたいそんな理由だ。あぁあと、移動がめんどかった。ちなみに、俺が風呂を頼んだから男子用浴場の建設は中止になった。変態君が何か言ってたそうだが、他国のお偉いさんを怒らせた罰として浴場の使用を禁止された。まぁやったことを考えたらまだ軽い罰だろ
「で、何でお前がいる」
「ゆーくんとお風呂に入りたかったから♪」
「帰れ」
「ゆーくんは束さんのタオルの下、見たくないの〜?」
ほらほらと言って体に巻きつけているタオルを揺らす、が
「下に水着着てるだろ」
そういって斬って捨てる。この程度でいちいち反応してたら身がもたん。……誰だ、枯れてるとか言ったやつ。似たようなことを何回もやられたら誰でも耐性がつくわ。だから俺は枯れてない!
「ちぇ〜何で分かったの?」
「肩紐が見えてるんだよ」
あ、ほんとだといって湯船に入って来るボケうさぎ
「……出てけ」
「水着着てるから大丈夫だよ♪」
「織斑は?」
「浴場に行ってるよ〜」
はぁ〜もういいや、めんどい。と、色々諦めて湯船に肩まで浸かる。しばらく沈黙が続いたあと、篠ノ之が話しかけてきた
「ねぇ、ゆーくん」
「なんだよ」
「いなくならないでね」
「……意味が分からんのだが」
何を不吉なことを言い出すんだ、こいつは
「う〜ん、束さんにもわかんないや」
といって、篠ノ之は哀しそうで泣きだしそうで笑い出しそうな、色々な感情がごちゃ混ぜになったような表情を向けてきた
「居なくならないなんて、
未來のことを保証出来るわけないだろ」
「そうだよ、ね」
「何が言いたいのか知らんが未來≪さき≫のことを不安がっててもしょうがないだろうが。そんなもんなった時に考えたらいいんだよ」
「ふふっ、ゆーくんらしいね」
「どっかの誰かさん達のせいで色々あったからな」
「……束さん達に会ったこと、後悔してる?」
曖昧な笑みを浮かべながら聞いてくる篠ノ之の目は、怯えてるように見えた
「誰かに会ったことくらいで後悔なんかしねぇよ」
慰めるでもなく、励ましたりもしない。いつもと変わらない調子で俺は答えた。慰めるのも励ますのもめんどくさいし、他人にどうこう言われて変わるなら、世の中善人か悪人で溢れてるっての。だから普通に答えた
「そっか」
篠ノ之は少しスッキリした顔で今度は純粋な笑みを向けてきた。風呂に入ってるだけで、異様に疲れたな
「まぁどっかに行くときは手紙くらい残してやるよ、多分。だからもういちいち風呂に入って来んなよ『桜』」
ぽんぽんとウサ耳を外した頭を軽く叩いて湯銭から出て脱衣場に向かう
「うん、ありがとうゆーくん」
後ろから篠ノ之が聞こえないくらいの声で礼を言ってきたが、まぁ気にしなくてもいいだろ。あ〜、俺の休める所は自宅だけかよ。めんどくせぇ。人生相談なら他でやれっての
ちゃんと腰にタオルを巻いてたからな? 変な勘繰りはやめろよ?
「あーはっはっは〜!気持ち良かった〜!!さぁゆーくん!お風呂で身を清めたんだからこのあとは」
風呂から出てきた篠ノ之はやたらとファンシーなフワフワしたパジャマを来て高笑いしながらアホなことを言ってきたが
「折檻だな」
ビタァッ!と篠ノ之の動きが止まりギギギ、とドアの方に視線を向ける。そこには
……鬼が立っていた
「ちー、ちゃん?」
思わず発言が疑問系になるほど、今の織斑の殺気はヤバいみたいだな。俺? 織斑との模擬戦で慣れてるから別に?
「浴場に来るのが遅いから何があったのかと思ってみれば、これか」
「な、なんでここだって分かったの?」
「悠夜さんから連絡があった」
「ゆーくん!?」
なんだよその裏切られた!!って顔は。当然だろ、人の部屋に不法侵入しやがって
「とりあえず、話は部屋に戻ってからだ。悠夜さん、失礼しました」
「いたたたたたっ!? ちーちゃん!指!指がめり込んでるよ!?」
アイアンクローをしながら織斑は篠ノ之を引きずっていった
「なんでそんなに怒ってるの!? あっ分かった!ちーちゃん、束さんがうらやま」
メキッ
「にゃあぁぁぁあああぁ!?」
パタン
断末魔をあげながら天災は帰って行った
「……寝るか」
疲れを癒すはずの所でよけいに疲れた俺はとっとと寝ることにした。それにしてもあのウサ耳バカめ、不吉なことを言いやがって。本当になったらどうするんだよ
……嫌な予感しかしねぇ
俺は嫌な予感をひしひしと感じながら眠りについた。平穏っていつになったら来るんだろうな、はぁ