「これでラストだ!」
バンバンバンバン!
30個中、26個のクレーが出し終わり、残りの4個のクレーが同時に撃ち出された。それを変態君はその場で飛び上がり、体を上下逆さまにしつつ体を捻りながら(空中一回転捻りだな)残弾を撃ちきった。で、着地。と
……まぁ、円の中から出てはいないし、ルール違反ではないけどさ。ものすごい無駄な動きだな、しかも一発も当たってないし。ISの基本機構のPIC≪パッシブ・イナーシャル・キャンセラー≫がなかったらそのまま頭から着地してズドン、だったな。や、見せ物としては楽しいのかも知れないけどね
……で、俺はこの微妙な空気の中でやらなきゃならんのか? 何の嫌がらせだよ。はぁ、めんどくさい
「フゥ、やっぱり量産機じゃ俺の動きについてこれないな」
えぇ〜。あれをISのせいにするのか? それは駄目だろ、色々な意味で。ほら、観客席にいるフランスのお偉いさんっぽい人が青筋立ててるし。あ〜ぁ、先生めちゃくちゃ焦ってるなぁ。まぁ、自分の国のISを低性能だ、って言われたようなもんだしな。そりゃ怒るわ
普通だったら外交問題になってもおかしくないんだが。ここ(IS学園)はトクベツ(・・)だからな、機体のデータを優先的に回すとかして何とかするだろ
いい機体だと思うけどな、あのIS。入れられてたデータを逸脱、てか脱線?した動きだったのにちゃんと補正かけようとしてたしなぁ
「確かに見たら分かったな」
「でしょう?」
「しかも今の一人言、設置してある集音マイクに聞こえるように言ったよな? チラチラ確認してたし」
「そのようですね」
「……よくやるなぁ」
「次は悠夜さんの番ですよ」
織斑の情け容赦のない宣告に、俺は顔をしかめた
「なぁ、マジで帰っていいか」
「駄目ですよ」
「こんな雰囲気の中でやりたくねぇんだよ。おい、目線を逸らすな、こっち向け」
こいつ、他人事だと思って………まぁいい。ちゃんと仕返しは用意してあるしな
俺と織斑が喋ってる間に、変態君は長々と一人言を喋り。満足したのか戻って行った。『俺の専用機があれば』とか『ハンデはこれくらいでいいだろう』等々、変態君が色々言ったせいで、更に空気が微妙になった。……あれはわざとやってんのか? わざとだったら確かに効果的だ。主に俺の胃に対して
「はぁ、そろそろ行くかぁ」
「頑張って下さい。というか絶対に勝って下さい」
勝つ、ね
「ほどほどに頑張るわ」
織斑の声援(脅迫?)に対して適当に返事を返しながら、いじけているウサ耳バカの所に向かう
「篠ノ之」
「くすん、どうせ束さんなんて要らない子なんですよ〜」
うん、いい感じにウザいな。お前は何歳だ、っていいたい
「あっちで織斑がお前と話したそうにしてたぞ」
「……ほんとう?」
「本人に聞いてくれば分かる」
「じゃあ、俺は出番だから行ってくる」
「うん!頑張ってね、ゆーくん♪束さんは寂しがりやな、ちーちゃんの所に行ってくるね!」
そう言って篠ノ之は織斑の所に突っ込んで行った
「ち〜〜ちゃ〜〜〜ん!」
「うわっ!何なんだ束!」
「えへへ〜、束さんが居なくて寂しかったんだよね!」
「何の話だ!」
「もう♪照れちゃって、ちーちゃんかわいい〜!ゆーくんから聞いたよ。束さんと話したかったんだよね?」
「悠夜さんが?……まさか」
織斑がへばりついている篠ノ之を抑えながらこちらを見てきたので、俺は織斑に向け笑顔で『がんばれ』と口パクで伝え、俺にとっての処刑台に歩き始めた。
多少スッキリしたな〜。あん? 嘘つきだって? どこがだよ? ちゃんと言っただろ? 織斑が話したそうに(・・)してるって。誰も織斑が話したいと言っていた、とは言ってないしな。それに聞いてくれば分かる、とも言ったからなぁ。聞いた結果は違ってたってだけだろ? 結局俺の主観だから事実かどうかは分からないからな〜。嘘なんてついてねぇだろ?
あんだけスルーされてたし、かなりめんどくさくなってんだろ、あのウサ耳。
相手すんのがめんどかった、ていうのもあったが……むしろそれが本音だったが、まぁいい感じに仕返しなっただろ。あの天災達には。織斑も便乗してスルーしてたし効果覿面だっただろうしな。まぁあのウサ耳も気づいてたみたいだけどな〜
……このまま帰りたいんだが、ダメかね?
悠夜sideout
side千冬
急にこちらに突っ込んできた束に全く見に覚えがないことを言われた。しかも悠夜さんに聞いたと言っていた。さっきまでの束に対する、悠夜さんの行動を考えてみたら嫌な予想ができてしまい。悠夜さんを見たんだが……私の予想を肯定するように笑顔を浮かべながら口パクで『頑張れ』、と伝えて行ってしまった
……こうなると分かっていて、束にあんな態度をとっていたのか。いや、悠夜さんのことだから、8割くらいはめんどうだったからだろうな。
「むふふ〜ちーちゃ〜ん♪」
「えぇい!離れろ束!」
「や〜ん、ちーちゃんのい・け・ず♪」
悠夜さん、仕返しだとしてもこれは酷すぎますよ。束が普段の3割増しで鬱陶しいです
「そもそも私はそんなことは言っていない!」
「え〜、じゃあゆーくんは嘘ついたの?」
「……束、悠夜さんがなんて言っていたか、完璧に答えろ」
束から悠夜さんが言っていたかを聞いたが……悠夜さんは確かに嘘は言っていないが、誤解しても、というよりは誤解させるための会話だった。
「あぁなるほど!さっすがゆーくん!あったまいい〜」
「……束」
「なぁに? ちーちゃん」
「お前、気づいていただろ」
「そ、そんなことない……よ?」
私が睨みつけながら束に質問すると、さっきまでのテンションはどこにいったのか。目をあちこちにさ迷わせながら疑問形で返事をしてきた
「私が少し考えて分かることを、お前が分からないわけないだろう」
かなり癪だが、束は私よりも格段に頭がいい。勉強にしても私は出来る方だが(自慢でも何でもなく実際のテストでの結果だ)束には勝ったためしがない。
そもそも意味がないと言ってテスト自体を受けようとしないんだが、一度だけ受けさせたことがあった。結果は人物名を答える問題以外は全問正解だった。数学にいたっては計算問題をすべて答えだけで、一切の途中式がなかった程だ
改めてこいつはデタラメだと思ったな。そんな奴が気づかないわけがない。つまり、ただじゃれつく口実が欲しかっただけなんだろう
ちなみに悠夜さんは毎回得点が違う。良かったり悪かったりを適当に繰り返している。
ちゃんとやれば全問正解くらいは容易い筈なのに、なぜそんなことをしているのか聞いてみたら『目立ちたくないんだよ……』と言っていた
……そのセリフにかなりの哀愁が篭っていたので。もう手遅れでは、という言葉は飲み込んでおいた
。ちなみに毎回点数が違うのは、似たような点数を取り続けて怪しまれないためだそうだ
……話が脱線したが、まぁいい。とりあえずこのバカをどうにかし「あ!ゆーくんが出てきたよ!ほらよそ見してないで、ちゃんと応援しなきゃダメだよ〜ちーちゃん!」……
バシッ!
「いたっ!ちーちゃん何するの!?」
自業自得だ、馬鹿者が
騒いでいる束を無視してアリーナを見ると、悠夜さんが中央にあるISに近づいているところだった。
「うぅ、ちーちゃんがひどい〜」
「うるさい」
静かに観戦もできんのか、こいつは
「ほら、始まるぞ」
悠夜さんがISを装着した、が……少しバランスを崩した? ただ動こうとしただけで?
「ちーちゃんちーちゃん。今ゆーくんの動きおかしくなかった?」
「お前にもそう見えたか」
束にもそう見えたということは、見間違いではなさそうだな
悠夜さんはその場で二、三度手を振ってからライフルを構えた。そして一つ目のクレーに向けて撃った。が、その弾は大きく外れて飛んでいった……IS自体に何かあるのか? 悠夜さんならあの程度、外す筈がない。
「う〜ん、ちゃんと調べてみないと分からないけど、反応し過ぎてるみたいだね」
「反応し過ぎている?」
「うん。まぁ簡単に言っちゃうと、手を1センチ動かすつもりでやったら30センチ動いちゃう〜って感じかな? まぁあのISは全身がそんな感じになってるんじゃないかな?」
「それでもあそこまで外れるものなのか? ライフルはしっかりと的に向いていたみたいだが?」
「それだけじゃなくて、照準もズレるみたいだね。多分、打ち込んであるデータがおかしくなってるんじゃないかな?」
「……さっきのあれのせいか」
「だろうね」
私たちが会話をしていると、悠夜さんがライフルを正面に構え
ダダダダダダダダダタダダダダダダダダン!!
18発の弾丸を正面に連続して撃った。最初に撃った1発をあわせて残弾数は11発
バン!パキィ、バン!パキィ
連射した後に悠夜さんは確実に弾を当てていく。はぁ
「悠夜さんは最初から勝つ気も負ける気もなかったみたいだな」
「そうみたいだね〜」
確かにあのやり方が最善だが。普通、何の躊躇いもなくあんなことはできないだろうな。照準を合わせる為だけに無駄弾を撃つなんて
「というか、悠夜さんならあんなことをしなくても、ISのデータを直すくらい簡単だったんじゃないか?」
「ゆーくんなら出来るだろうね♪なんてったってゆーくんだからね!」
束が嬉しそうに宣言する。理由になっていないが納得は出来たな
「だったら何でしなかったんだ?」
「面倒だったんじゃないかな?ゆーくんだし」
「確かに、悠夜さんだしな」
そして次々とクレーは破壊され、悠夜さんは弾切れの為、クレーを8個残して終了した。勿論、残りの11発全て命中させて、だ
つまり、結果は引き分けだ
悠夜さんの事だから、多分もう2回目はないだろう。周りの観客のほとんどは、なぜ悠夜さんが連射したのか分かってないみたいだな。当然と言えば当然だな。そもそもあんな状態のISを装着し、少しバランスを崩しただけで、すぐさま対応するのがおかしいんだ
私たちから見てもほとんど違和感がなかったからな、素人にわかる筈もない
「ちーちゃんちーちゃん!終わったんだし、ゆーくんのとこに行こ♪」
「そうだな」
束が私の制服を引っ張りながら声を掛けてくる。この後、またあの格好をするのかと思うと気が滅入るが、とりあえず束の提案に乗って悠夜さんの所に行くことにした。
ISをめんどくさそうに運んでいる悠夜さんを見ながら、私と束は歩きはじめた