むぅ、悠夜さんを誘ったのはいいがどこへ行くか考えてなかったな、早く決めなければ休憩時間が終わってしまうんだが、どこに行けばいいのか分からんな、あらかじめ決めておけば良かったのだが悠夜さんを普通に誘ったとしても断られるだろうと思って今日までなにも考えてなかったからな
現にさっき断られたから、私の考えは正しかった訳だ、そもそも悠夜さんは基本的にめんどくさいからと言って行動したがらない、だから悠夜さんを誘ったり行動させるのは至難の技だ
逃げ道を徹底的に潰し、条件を提示し、行動するリスクとしないリスクを考えさせて行動した場合のリスクを優位に立ててやっと五分五分の確率にもちこめるのだ、今回、悠夜さんを誘えたのは運が良かったとしか言いようがない
束が解いた暗号を『借りて』きてそれを交渉に使ったから悠夜さんも断れなかったんだ、正直あの暗号は解かせる気が全く感じられなかった、あの束でさえてこずったと言っていたからな………よっぽどやりたくなかったんだろう
いや、こんなことを考えている場合ではなかった、早く決めなければ悠夜さんが来てしま
「はぁ〜、休憩終わったらまたあれを着なきゃならんのか、めんどいな、まぁ考えるのは後でいいか、で織斑どこに行くんだ?」
……遅かったか、どうする、まだなにも決めていない
「決めてなかったのか?」
「うっ、すみません、決めていませんでした」
「いや別にいいけどな、とりあえず腹減ったからなんか食べに行かないか?」
「……そうですね、それではパンフレットに載っている料理部の料理店に行ってみませんか?」
「なんの捻りもない出し物だな、まぁそのほうが安心出来るからいいけど、それじゃそこ行くか」
「はい」
スタスタ
〜千冬&悠夜移動中〜
「着いたな」
「えぇ、とりあえず入りましょう」
「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」
「二人だ」
「二名様ですね、こちらへどうぞ」
空いている席へ案内されてメニューを渡された
「ご注文がお決まりになりましたら、従業員にお申し付け下さい」
丁寧にお辞儀して料理部の部員は厨房に戻って行った
さて、何にするかな
「決まった」
悠夜さんは決まったのか、私も決めなければ……って
「早過ぎませんか」
メニューをもらってから一分も経っていないんだが
「こんなもんだろ、悩んでてもしょうがないしな」
「そういうものですか?」
「少なくとも俺はな」
私の質問に適当に答えて悠夜さんはどこともなく視線を漂わしていた、悠夜さんらしいな、さて私もメニューを決めようか
その後、私と悠夜さんはそれぞれ頼んだ料理を雑談しながら食べて店を後にした
「学食とは違っていておいしかったですね」
「そうだな、それに店全体の従業員も良かったし」
む、それは
「好みの女子でもいましたか?いやらしいですね」
悠夜さんの言葉につい皮肉を言ってしまう、今は私といるのに他の女の話しをされるのは聞いていて面白いものじゃない
「アホか、そういう意味じゃねぇよ、俺が言ってんのは従業員の接客態度のことだよ」
「どういうことですか?」
「あそこの従業員、つか店員だな、店員はお前や俺を見ても全く態度を変えないでいただろ、それでだよ」
悠夜さんがめんどくさそうに説明してくれて理解できた、私や悠夜さんに束はこの学園では知らぬ者はいないと言っていいぐらいの自分で言うのもあれだが、有名人だ、私は世界一のIS操縦者として、悠夜さんは世界初の男のIS操縦者として、束はそのISを造りだした科学者としてだ
その事もあって普段からミーハーとでも言うのか、私達を見ると黄色い声をあげたり近づいてきたりする生徒がかなりの人数存在する、そういう態度でなくてもある程度距離というか壁のようなものがある
それは仕方のないことだとは思うが疲れるのも事実だ、けれどさっきの店の店員はそんな気配を微塵も出さずに接客をしていた
束も外からの干渉を嫌うがあいつは普通の感性をしていないからいいが、悠夜さんはある程度普通の感性を持っていてめんどくさがる人だからある意味束よりもそういう態度を取られるのが嫌なのだろう
だからあの店を評価していたのだ、普段なら気付けただろうにどうしたのか……いや、原因は分かっている、悠夜さんとこうしていられることに浮かれているのだろう、我ながらどうなのかと思うが不快ではない、寧ろ心地よく感じる
肩肘を張らずにありのままの自分でいられる、勝手な理想や期待を押し付けたりせずに私を私として扱ってくれる人が近くに居てくれていることが嬉しい、だから柄にもなく浮かれてしまっているのだ
……何を考えているんだ私は!
「……大丈夫か?」
自分の考えに赤面していると私から少し距離をとり可哀相なものを見る目をした悠夜さんが声をかけてきた……そこまで酷かったのか、自己嫌悪に陥りそうになったが大丈夫だと言って、歩き始めた、今は余計なことを考えずに楽しむことにしよう
次に私達が行ったのはパソコン部の出し物である、『君にこのセキュリティが抜けるか?ハッキングチャレンジ!』という所だった………いろいろと言いたいことがあるがとりあえず、学園としてはいいのか?この出し物は、なぜかそれなりに人が入っているが一般人には無理だろう
かくいう私にも無理なんだが珍しいことに悠夜さんが自分から入ろうと言ってきた
「よし織斑、これやるぞ」
「いいですけど、珍しいですね、悠夜さんが自分からこういう見世物というか目立ちそうなことをするなんて」
「景品があれだからな、多少はやる気が出る」
と言って景品の一覧表を指差す、【防壁を抜いた枚数により景品が変わります】
一枚以下、参加賞の飴
二枚、一世代前のパソコンのパーツ
三枚、最新のパソコンのパーツ
四枚、IS学園食堂の食事三ヶ月間無料券or執事&メイド喫茶の優先入場券
五枚、限定版第一回IS世界大会モンド・グロッソ時の出場者写真集
「なんですかあれは」
「執事&メイド喫茶の優先入場券は大概の出し物の上位景品として渡したらしい、宣伝にもなるしただの入場券だから俺も許可した」
「そっちではなくて!最後の景品です!」
「俺が知るかよ」
私が思わず怒鳴ってしまったので周りが何事かと見てきて悠夜さんは顔をしかめながら答えてくる、私の声が耳に響いたみたいだが今はそんな場合ではない
確かに写真は撮られたがその企画はなくした筈だ!なのに何故それがある!
「あ〜、なんか報道関係の知り合いがいてそこから数冊しか作られなかった写真集を手に入れたらしいな、数冊しか作られなかった写真集なら高値で売れるだろうな、しかも第一回のやつだしプレミアもんじゃね?」
悠夜さんが近くにいた女子に聞いたことを伝えてくれた、くそ、どうすればいいんだ、あんな物恥以外の何物でもない、まだ誰も二枚以上の防壁を抜いていないようだからいいが何時まで持つか、私はそこまでパソコンに強くないからあれを手に入れられるとは思えない
「さて、学食無料券を取りに行くか、こういう時だけはあのウサ耳に感謝だな、これで食費が浮いて他のもんに回せる」
ガシィ!
「……なんだ織斑」
私は出し物に挑戦しに行こうとしていた悠夜さんの腕を反射的に掴んだ、そうだ悠夜さんならあれを手に入れられるだろう、何せ束に追随出来るのだから
「悠夜さん、五枚抜いて下さい」
「なんでだよ、俺は学食無料券が欲しいんだよ」
「五枚抜いて下さい」
「駄目だ、無料券だ、っていうか放せ、腕が痛いから力を強めるな!」
思わず力が入ってしまったようだが仕方ない、しかしどうやって悠夜さんにやって貰うか、暗号を解いた紙は悠夜さんに渡したし使えない、どうする
「……ん〜、でも、いやしょうがないか、そろそろだしなぁ、はぁ無料券が」
私が悩んでいると悠夜さんは何かを考えるそぶりをしてからため息をついた
「わかった、五枚抜いてくる」
「え?いいんですか」
思わず聞き返してしまったが本当にどうしたんだろう、悠夜さんが何も無しでこちらの頼みを引き受けるなんてめずらしいなんてものじゃない
「お前が頼んできたんだろうが、とりあえず取ってくるからな」
「あ、はい、お願いします」
めんどくせぇと言って悠夜さんはいってしまった、よく分からないがこれで大丈夫……なのか?悠夜さんが出来ることを前提で話しを進めてしまっていたがもし失敗したら
………私の杞憂だったようだ、悠夜さんは制限時間ぎりぎりでクリアしていたが明らかに手を抜いていた、やっぱり悠夜さんが1番無茶苦茶なんじゃないだろうか
「取ってきたぞ」
「ありがとうございます、でも頼んでおいてなんですが、何故聞いてくれたんですか?」
いつものように怠そうにめんどくさそうな顔をしながら帰ってきた悠夜さんに頼みを聞いてくれた理由を尋ねた
「なんていうか、詫び?みたいなもんだな」
詫び?よく分からないから詳しく聞こうとしたら何か声が聞こえてきた
「ち〜ちゃ〜〜ん!ゆ〜く〜〜ん!とう!」
声がだんだん近づいて来たかと思うと人込みの中から束が飛び掛かってきた、とりあえず頭をわしづかみにして拘束する
「ずるい、ずるいよ!ちーちゃん!ゆーくんと二人っきりでデートなんて!」
デートか、確かに客観的に見れば男女二人で学園祭を廻っていたらデートに見えるかも知れないな
「ちーちゃん、顔赤いよ」
「う、うるさい!それよりもなんで此処にいる」
指摘されてさらに顔が熱くなるがそれよりもなんで束が此処にいるのかが問題だ
「それはねぇ〜、ちーちゃんが持ってっちゃった紙に発信機と盗聴機がついてたからだよ!」
束が頭を掴まれながら得意げな顔をしてくる、そんな物にまで付けていたのか、でも悠夜さんがそういう物に気付かない筈がない、つまり
「悠夜さんは知ってたんですか?」
「知ってたぞ、割りとちゃちいやつだったしな」
飄々と答える悠夜さん……そんなに私と居るのがいやだったのか、当然か、あんな脅迫紛いなことをしたんだから、しょうがないんだ
どんどんマイナスな考えが浮かんで暗くなってきた私に束が話し掛けてきた
「ちーちゃんもしかして勘違いしてる?」
「なんのことだ」
「ゆーくんがちーちゃんと居たくないから発信機を外さなかったって」
「………」
図星だったので何も言えない私を見て束がおかしそうに笑いながら続きを言ってきた
「図星だね〜?でも残念、ホントは違うんだよ〜」
「どういうことだ?」
「実はね、ちーちゃんが暗号を書いた紙を持っていって直ぐについて行こうとしたんだけどね、盗聴機からゆーくんの声が聞こえてきたんだ」
「『今から織斑と学園祭を廻るがついてくんなよ、1時間半くらいたったら来てもいいがそれまでは合流すんな、分かったな』って、そのあと直ぐに盗聴機の方は壊されちゃったけどね」
「ちーちゃんが二人で廻りたいって言ってたから、ゆーくんはわざわざ二人で廻れるようにあんなこと言ったんだと思うよ」
そうだったのか、悠夜さんが私のわがままを聞いてくれて……駄目だ、頬が緩むのを止められない、ちゃんと考えてくれていたんだ
「そうか」
「ゆーくんにお礼言わないとダメだよ?」
「あぁ、分かっている」
私は近くの店を覗いている悠夜さんの元に向かった
「悠夜さん」
「ん?どうした?」
「ありがとうございます、私のわがままを聞いて下さって」
「あぁあれか、いや織斑のわがままを聞いたっていうか、おまえら二人を同時に相手したくなかっただけだ」
手をひらひらさせながら答える悠夜さん、確かにそれが本心なんだろう、けど悠夜さんはやって欲しいことをやって欲しいタイミングでしてくれる、それは中々狙って出来ることではない、だが悠夜さんは簡単にそれをしてしまう、ごくごく自然にだ、本当に優しいな
「そうですか」
「そうだよ、って何笑ってんだ?怪しいから止めろ」
「笑ってますか?」
「笑ってるから言ってんだろうがよ」
ふむ、笑っているのか私は、悪い気分ではないな
「そういえば、盗聴機は壊したそうですがなんで発信機は壊さなかったんですか?」
「……場所を教えておいておとなしくさせておくか、場所を教えずにあちこち名前を叫びながら捜されたり、学園中のカメラとかセキュリティを使って捜されて騒ぎになるの、どっちがいい?」
「……発信機をそのままにしてくれてありがとうございます」
「だろ?さてと、そろそろ時間だし戻るか」
「そうですね」
悠夜さんと私はごねる束を連れて戻ろうとした時今までの気分をぶち壊す声が聞こえてきた
「おぉ〜!捜したぜ千冬、束!」
……本当に刀の錆にしてやろうか