………似合わねぇ
俺は鏡に写った自分の姿を見てそう素直な感想を抱いた、そもそもなんで執事服なんかきてんだろ?
〜少し前〜
あぁ〜、駄目だ、どうしても撤回しやがらねぇ、篠ノ之の方はウサ耳で釣ったら行けそうだったのに織斑に邪魔されたし、織斑の方は一ヶ月、鍛練に毎日付き合うって言ってもう少しだったのに今度は篠ノ之に邪魔されたし、二人同時に釣れるもんなんかあるはずもねぇ
くそぅ、どうすればいいんだよ
「あ!水無月君やっと見つけた〜」ん?なんだ?
俺が天災達をどうやって説得するか考えているとクラスメートの女子が声をかけてきた
見つけたってことはなんか用事でもあったか?最近帰ってきたばっかでいろいろと忙しかったから先生の話しもまともに聞けなかったしなぁ
「もう時間がないから早く来て下さい!」
と言って俺の腕を掴み引っ張って行く、何処にだよ
うん?女子の態度が前言ってたのと違うって?………それはさ、あれだよ、篠ノ之と織斑がいらんことを言ったせいで質問を大量に喰らった時に
思っていたよりも柔らかい態度だった!めんどくさそうにしてるけどちゃんと答えてくれる!落ち着いてて大人っぽい!とか言われてなんか気さくに話し掛けられるようになった
……オイ、今このたらしが!とか思った奴、ならお前は男女比率がだいたい0.1対9.9の中で女子を邪険に扱って敵にまわせるか?無理だろう?女子を敵にまわして学校生活を過ごすことを考えたらある程度柔らかく接してた方がかなりマシだわ、主に胃のためにな
……それでも結局視線を集めてストレスが溜まるんだが
話が逸れたな、まぁ女子の態度が違うのはこんな理由だよ……結局どこに向かってんだ?
「着いた〜、じゃあ水無月君、早く入って下さい」
連れて来られたのは教室だった、普通なら気にするような場所じゃないんだが……なんか入りたくない、確実に俺に不利益な何かがある、なので
「悪い、ここに入ったら体調が悪くなるから帰るな」
「あ、そうなんですか、って普段から使ってる教室に入ったら体調が悪くなるってどういうことですか!?」
「あぁ悪い、訂正だ、今ここに入ったら体調が悪くなるんだ」
「なんで今日だけ体調が悪くなるんですか!?」
「そういう日もあるだろ?どこかの部屋に入ろうとすると急に気分が悪くなる予感がする日とか」
「ありませんよ!?」
「いやいや、絶対あるって、例えば周りはキレイなのにある部屋の周りだけ油でギトギトで確実にその部屋から汚れが広がってるのにその部屋に入らないと駄目な時とか」
「うっ、それは確かにそうですけど、日は関係ないでしょう!」
その場面を想像したのか一瞬顔をしかめた直ぐに切り返して来る……なんかすごくノリがいいというか、ツッコミが上手いな、この子、普段はボケ(ウサ耳)ばっかり相手にしてるからちょっと新鮮だなぁ
……この嫌な予感がなかったらだが
今は厄介な相手でしかないどうすっかな、いっそ逃げた方がいいかも知れない、そうだ、そうし……遅かったか
俺が逃げる決意をした瞬間に扉が開いて中に引きずり込まれた
「待ってたよ〜」
「きたきた!」
「やっと主役の登場だね!」
中ではクラスメートの女子達(といっても俺と変態君以外は全て女子なのだが)
が世話しなく動いていたのを一旦止めてこちらに声をかけてきた、ってか主役?
「なぁ」
「何かな?」
近くにいた女子の一人にどういう状況なのか聞いてみた
「何の準備してんの?それと主役って何なんだ?」
「えっ?」
返ってきたのは疑問の声と驚いたような顔、なんかおかしなこと聞いたか?俺が首を傾げていると急に納得したように手を叩いた
「そっか!水無月君はこの前いなかったんだよね、なら分からないのも仕方ないね」
「この前?って、あぁ、大会の時のことか」
「そうそう、それでね、大会をしている間の期間に今度この学園で初めての学園祭で私たちのクラスがする出し物を決めたんだ」
なんでわざわざ大会の期間中にそんなこと決めんだよ……違うな、大会の期間だったから学園祭の準備ができたのか
この学園は基本的に日本が金を出して作って他の国とか企業にスポンサーとしてついてもらって成り立ってる、だから普段から企業や国の要請をある程度聞かなきゃならん、視察とかな、たとえ何処の国や団体、組織に縛られない治外法権の場所だとしても、だ、まぁ金がなきゃ成り立たんしな
それに教師達はそれらの相手だけじゃなく生徒達も見ないといけない、そんな状態で学園祭なんかできる筈もない、だから去年は学園が出来て間もないのも含めて学園祭はなかった、が
今年は違う、モンド・グロッソという世界各国、というより世界中が注目する、世界的イベントがあった、当然、国や企業の注目も自動的にそちらに集まる、だから国や企業の対応をしていた教師達も余裕ができるで、その余裕を使って学園祭の準備を進めておいて各クラスにも出し物を決定させたと、成る程ねぇ
……いらんことしやがって、で、考察というか説明というか色々と考えて嫌な現実から目を逸らしてたんだが、もう無理だな
「そうか、それで何することになったんだ?」
「メイド&執事喫茶だよ〜」
「……執事も女子がするんだよな?」
「まっさか〜、勿論メインの執事は水無月君だよ、この喫茶店の看板なんだから頑張ってね!」
……終わった、いまさら拒否ってもなんだかんだ言ってやらされる、やっぱついていくんじゃなかった
はぁ〜、ん?そういえば
「色々と言いたいことはあるが、それは置いといて、ウサ耳バカと世界最強(凶)は何するんだ?」
織斑はともかく篠ノ之がまともに働くとは思えん、つかあいつら何処にいるんだ?
「……?、あぁ!篠ノ之さんと千冬様のこと?」
「そうそう」
織斑への様づけは前からあったんだがモンド・グロッソの後からめちゃくちゃ増えた、ちなみに同級生には様付け、下級生にはお姉様、上級生にはさん付けで呼ばれている、そのことでなんかつぼに入った俺が爆笑したらキレて追い掛けまわされた……雪片と真剣を装備して
パワードスーツがわりのISを装着して使う筈の武器を生身で振り回して追い掛けられたときはマジでビビった、あいつホントに俺の一つ下か?
ついでに言うと一緒に笑ってたウサ耳は瞬時に潰された、あれは俺が助かる為に必要な犠牲だった、だから助けなくても仕方なかったんだ、俺は篠ノ之のことを笑い……もとい案じながら喜色満面……悲痛な表情で駆け出したよ
……本音?なんのことだよ?よく分からないな、とりあえずその時は逃げ切れたから結果オーライだろ?
「千冬様はメイドをしてくれることになって篠ノ之さんは……」
「あ〜、悪い、聞いた俺がバカだった」
そうだよな、あの天災に協調性なんかある訳ねぇか……って、それよりも
「メイド?織斑が?」
「そうなんです!最初は嫌がってらしたけど皆でお願いしたら聞いてくれたんですよ!」
……ビビったな、俺が聞き返したら横から質問していた女子とは違う子が目をキラキラさせて俺の疑問を肯定してきた
なるほど、こんな感じのテンションでクラスの女子に頼まれて断れなかったと、にしてもメイドねぇ、冥土の間違いじゃね?
「それで今ちょうど試しに着てもらってるんですけど、もうすぐ来られると思いますよ」
ふむ、織斑達も引きずり込まれてたのか、もうすぐ来るね、なら日ごろの仕返しでもするかな、織斑なら多分つか絶対にさせないだろうし、油断してるだろ
カツカツカツ
「まったく、なんで私がこんな恰好をしなければならないんだ」
「ちーちゃんまだ言ってるの〜、似合ってるからいいじゃない♪」
来たか、角度はこんなもんでいいか
「うるさい、普段からおかしな恰好をしているおまえとは違うんだ」
「ちーちゃん私のことそんな風に見てたの!?ひどいよ〜、クスン」
「下手な嘘泣きはやめろ、それよりもこの恰好を悠夜さんにも見せなければいけないのか」
「ちーちゃんのいじわる、でも大丈夫だよ!ゆーくんならきっと褒めてくれるよ!」
どうでもいいけど扉の前で騒いでないでとっとと入れよ
「いや、悠夜さんのことだから見てもスルーされそうだ」
「そんなこと……ありそうだね、ゆーくんだし」
「悠夜さんだからな」
……馬鹿にされてるのか?これは?
「とりあえず入ろっか」
「そうだな」
シュン、カシャ
「「えっ?」」
俺は教室の入口の自動扉が開いた瞬間に携帯のシャッターをきった、なかなかいい感じに撮れたな
「あれ?ゆーくんなんで此処にいるの?」
画像を保存、保護、ロック、コピー、パソコンに送信っと、パチン
「おまえらっていうか織斑と同じ理由だ」
俺は携帯の操作を終えて携帯を閉じながらメイド服を着ている篠ノ之の疑問に答えた
「そぉなんだ〜、あっ!ゆーくん見て見てカワイイでしょ!」
といって今着ているメイド服を胸を張りながら見せてくる
「確かにかわいらしい感じのデザインだな」
「そうでしょ、って違うよ!服じゃなくて束さん!」
「見慣れてるっていうか見飽きてるから特になんとも」
「ひど過ぎるよ!?ゆーくんは束さんに飽きちゃったの!?そうじゃなくてこの服を着た束さんがカワイイか聞いてるんだよ!」
「街頭アンケートでもしたら過半数はカワイイって答えると思うが?」
「そんなのどうでもいいよ!束さんはゆーくんに聞いてるの!」
ふぅ、これくらいでいいか、まぁ多少仕返しは出来たか、これ以上するとめんどくさいことになりそうだし
「容姿はいい方だろうし、服もデザインは悪くないからカワイイの部類に入るだろ、というより普段からファンシーな服着てんだからあんまり変わらん」
「うぅ、褒められた気がしないよ、ゆーく〜ん」
「十分褒めてるだろ?それより篠ノ之、ちょっとこっち来い」な〜に?と言いながら近づいて来た篠ノ之の頭からすばやくウサ耳を奪い取り振り向きながら前に突き出す
ガッキィン!
今までフリーズしていた織斑が振り下ろしてきた刀をウサ耳で防いだ、あっぶねぇ〜、もう少しで斬られるとこだった
「……悠夜さん、今すぐさっき撮った写真を消去して下さい」
「却下だ、せっかくのカードをみすみす捨てられるか」
俺の返答を聞いてさらに力を込める織斑、鍔ぜり合い?いや耳ぜり合いか?をしながらお互いに一歩も引かない
「わぁ〜!?束さんのウサ耳が〜!?ちーちゃんストップストップ!!壊れちゃう!束さんのウサ耳が壊れちゃうから!?」
「放せ、束!私は今すぐにあの写真を消さなければならないんだ!邪魔をするな!!」
「ダメだよ!今放したらまたウサ耳に被害がいっちゃうよ!」
篠ノ之が必死になって織斑を羽交い締めにして止めていた、よく止めてられるな〜
俺は奪い取ったウサ耳をくるくる回しながら見物していた
ちなみにウサ耳で真剣を止められたのは、旧ウサ耳が壊されたのを反省して天災が無駄に高い技術力を使って特殊コーティングを施したからだ、天災が自慢げに説明してたから多分大丈夫だろうと思って使ったが、まさか本当に止められるとはな
無理だったら逸らすつもりだったからよかったんだが、基本的にこういう技術の話では嘘つかねぇからな、あいつ
〜回想終了〜
で織斑達が騒いでる間に渡された執事服を着ることになったと、うん、めんどくせぇ
とりあえず教室に逝くか、俺は更衣室を後にして教室に向かった
さて、入るか
シュン
『おぉ〜〜!』
「だるそうな感じがいいね!」
「似合ってるよ!」
「でも何か物足らないね」
「うーん、そうだね」
いや、そんなこと知らんしどうしようもないだろ、特にやる気があるわけでもないしな
「で、これでテキトーに執事もどきのウェイターをすればいいのか?」
「そうだよ、でもテキトーにやっちゃダメだよ、真面目にやらなきゃ」
「つっても、どうせ売上が貰える訳でもないし賞品もないからなぁ、イマイチやる気が出ねぇ」
「ん?あるよ、賞品」
「は?あるの?どんな?」
「えっとね、まず学園祭では各クラスでやる出し物をいくつかのグループに分けるの、飲食系のグループとかお化け屋敷みたいなアトラクション系みたいに」
「それで、各グループの最多売上だったクラスの中で1番売上に貢献した人に特別に賞品が貰えるんだって、ちなみに賞品はその売上に1番貢献した人の要望をだいたい叶えるらしいよ?初めての学園祭だからってすごいよね〜」
……なるほど、ね、なら
「インパクトが足りないんだったよな?」
「えっ?う、うんインパクトというか、何か物足りないというか」
「わかった、ちょっと行ってくる」
「ど、どこに行くの?」
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
俺はトイレにいって直ぐに戻ってきた
シュン
「あ、水無月さん、ど……こ…に」
「これでどうだ?」
「わっ、すごくキレイ」
「何かミステリアスだね」
「さっきよりも色気みたいなのが出てる」
俺はトイレにいって今まで付けていたカラーコンタクトを外し元の紫の目にしてきた、インパクトは出たみたいだな
「その目、どうしたの?」
「カラーコンタクトだ」
その一言で皆さん納得してくれた、ほんとは逆なんだがな
「じゃあ、少しウェイターの練習をしてみようか」
「了解」
俺は執事服をキッチリと着て練習に望んだ、客の役はじゃんけんで勝った女子一名だ
シュン
客の役をしている子が入ってきた、さぁやるか
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「は、はい」
俺は心からの笑みを浮かべて対応する、営業スマイルとは違う、本当の笑みだ
「どうぞこちらに、席へご案内いたします」
「お、お願いします」
客の役の子の前を歩き席へ誘導し椅子を下げて座れるようにする
「どうぞお座り下さい」
「あ、ありがとうございます」
「勿体ないお言葉です、こちらが当店のメニューとなります」
「えっと、それじゃあ、ダージリンとショコラを」
「承りました、ダージリンとショコラですね?少々お待ち下さい」
あらかじめ用意されていた紅茶とショコラをもって音を立てずに移動する、雰囲気を出すために紅茶は熱いやつだ
「お待たせいたしました、ダージリンは熱いのでお気をつけ下さい」
「はぃ〜」
「あ、熱っ!」
ガチャン、パシャ
とよっぽど緊張していたのか手が震えて紅茶を客の役の子が零してしまった
「ご、ごめんなさい」
泣きそうになりながら謝ってきたがこれくらい許容範囲だ
「お嬢様お怪我はありませんか?すぐに新しい物をお持ちしますので、気にしなくてもよろしいですよ」
「………」
黙っちまったけど、まぁいいや、新しい紅茶を出して、っとよし飲み終わったな
「いってらっしゃいませ、お嬢様、またのご来店を心よりお待ちしております」
一礼して終了だな
「こんな感じでいいか?」
『す、すごーい!!』
「水無月さん普段と全然違う」
「ほとんど完璧だよ!」
「すごく出来る人みたいだった!紅茶を零してもすぐに対応してたし!」
「つ、次わたしがお客さんやりたい!」
「ずるいわよ!わたしもやりたい!」
なんか二回目の練習相手の座を巡ってうるさくなってきたな、二回もやらないがな、後は本番だけで十分だ
輪から外れて離れるといつの間にかおとなしくなっていた織斑と篠ノ之が寄ってきた
「ゆーくん、凄かったね!束さんにもご奉仕して欲しい!」
「学園祭当日に金払って客として来たらやってやるよ」
「えぇ〜」
「急にどうしたんですか?普段なら絶対にあんなことはしないでしょうし、それにわざわざコンタクトまで外して」
ぶーたれている篠ノ之をスルーして織斑が尋ねてくる
「賞品のためだ」
「何か欲しいんですか?」
「あぁ」
「何が欲しいんですか?」
「言わねぇ、それよりも他人事みたいに言ってるけどおまえもするんだぞ?ウェイトレスつかメイド、そのメイド服を着て」
織斑は思い出したのか顔を赤くしながら落ち込むという器用なことをした
「に、似合ってますか?」
「容姿はいい方だし、服のデザインも悪くないから、カワイイと思うが?」
「……あんまり褒められた気がしませんね」
篠ノ之と同じこと言うな
「そうだ、写真の画像を」
「織斑がおれより売上に貢献したら消してやるよ」
「……分かりました」
織斑はムスッとした表情で賭にのってきた
「悠夜さんはなんであんなに手慣れてるんですか?」
「フランスにいたときにちょっとな」
「ちょっととは?」
……説明すんのもめんどくせぇし、ここは
「織斑が次ウェイトレス役するらしいぞ」
「ちょっ!」
「本当ですか!」
「見たいです!千冬様の接客!」
「わたし!わたしがお客さん!」
「ゆ、悠夜さん!あっ、ちょっと、待て、こら、やめ」
織斑は人の波に呑まれて行った、ドンマイ
さてと、これで客足は確保できんだろ、世界最強の冥土が見れるしな、売上に関しては絶対負けねぇ、賞品は貰う
俺は今までにないくらいの決意をもって学園祭に臨む、今の平穏が多少崩れてもメリットの方がでかいからな
……平穏なんかあったかだって?うるさい、多少あった、筈なんだよ黙ってろ
俺は突っ掛かって来るウサ耳馬鹿をかわしつつ決意を固めた