風見幽香に転生した私は平和を愛している……けど争い事は絶えない(泣)   作:朱雀★☆

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第一章『吸血鬼異変』
第一話・面倒事を断れない私


 おはよう、それともこんばんはかな?

 私の名前は 風見幽香っていうの。

 東方projectに出てくるキャラの一人で、二つ名は四季のフラワーマスター。

 純粋な妖力と身体能力で大妖怪とまで言われた存在。それが私。

 

 先程、私は自己紹介したけど実はちょっと違うんだ。私の“肉体は”風見幽香。けれど、その器に入っている魂が、日本で平和に暮らしていた女子高生である、私なのだ。

 意味がわからないという人、私もよくわかっていないから安心して。

 

 だって、気づいたら花畑で寝ていたんだよ? それ以外の説明は出来ないのは仕方ないと思う。

 目覚めたらその場所に私は存在していた。脈絡もなく、突然に。

 それと、何故か前の記憶がよく思い出せなくなっていたんだ。家族、友人、私がどういった人物だったのか、それすらもあやふやとなり、思い出せない。ただ、私が女子高生で東方projectが大好きだったことだけは覚えている。

 

 最初こそ戸惑いや困惑で悩んでいたが、時が経ち、長い長い時間が進むと気にすることはなくなった。

 なぜ『風見幽香』の身体でこの世界に誕生したのか、いや、それとも憑依したのか? どれだけ考えた所で行き着く先は結局――わからない。

 

 考えるだけ無駄なら、悩む必要もない。考えなければいい。

 

「こんにちは幽香、なにか考え事かしら?」

 

 静寂に包まれた花畑で夜風に吹かれていると、突如そこに現れた、怪しい笑みを張り付かせながら言う目の前の女性――八雲(やくも) (ゆかり)に、私は苦笑を零す。

 

「覗き見とは趣味が悪いわね」

「ふふっそれは仕方ないわ。だって、それは私の楽しみだもの」

 

 口に手を当てて笑う紫――心の中でゆかりんと呼ぶ――に、私は昔を思い出す。

 今でこそこんな穏やかな会話をしているが、昔は死闘を演じた仲だ。

 私の力に興味を抱いた彼女は実力を図ろうとして、私に戦いを挑んできた。私としてはそんな理由でゆかりんと戦いたくはなかったが、逃れられぬ事は理解していた。

 だからこそ、私は生き残るために最初から全力で挑んだ。

 

 結果は引き分け。

 

 戦闘が終わると、周りの木々は軒並み倒れ、山は半分ほど削れて更地になっていた。我ながらよく暴れたものだと思ったわ。

 その後、私に紫は提案をしてきたんだよね。

 

 ――幻想郷に来ない?

 

 そう、彼女は言っていた。私はそれに二つ返事で了承した。

 だって“あの幻想郷”だよ? いかなきゃ損だ。

 

 厳しい戦いだったが、そのお陰で今ではゆかりんと気軽に話せる仲になったし、幻想郷にも来れた。

 内心涙目で戦った意味があってホントよかったよ。うん。

 

「それで、何か用かしら?」

「あら? 用がないと来てはいけないの?」

 

 私が聞くと、わざとらしく泣き真似をするゆかりんに、溜め息を吐く。

 

「じゃあ用がないのなら帰ってくれる?」

 

 いやね、ホントに用がなくて来てくれたのなら帰って欲しくはないんだよ? ただね、ゆかりんが私の所に来る時は大抵面倒事なんだよね。しかも、決まって面倒事の時はこうやって三文芝居をするんだよ。

 はぁ……でもどうせ断れないんだよな~~……。

 

「ウソウソ、用があってきたのよ。だからそう邪険にしないで?」

「……じゃあ早く話してくれる?」

 

 予感の的中に内心頭を抱える私は無意識に瞳を鋭くする。

 すると、ゆかりんは肩を竦めてその“用”とやらの説明を始めた。

 

「実は、貴女に頼みたいことがあって来たのよ。でも、その頼み事の前に少し聞きたいことがあるのだけど、吸血鬼が幻想郷に侵略してきたのは知っているの?」

「えぇ知っているわ。力の弱った妖怪を力ずくで従わせ、色んな所で大暴れしているようね」

 

 私の言葉に、ゆかりんは困った顔をする。

 

「まさかここまで被害が拡大するとは思わなかったわ。少し、侮っていたわね。だから、もう侮ることはしない。全力で叩き潰す事に決めたの。そこで貴女の登場よ」

「私にその吸血鬼を潰して欲しいの?」

「いいえ、吸血鬼自体は私がこの手で潰すわ。貴女にはその間の道中で邪魔をする奴らを相手にして欲しいの」

「雑魚の相手ね……」

「強い者と戦いたい貴女には悪いと思っているわ。お願いできるかしら?」

 

 私の呟きに苦笑するゆかりん。

 いや違うよ? 私は別に雑魚が相手で不満とか抱いていないよ? 寧ろ雑魚が相手で胸を撫で下ろしてるから。心の底から安堵してるから!

 

「いいわ。その頼みを聞いてあげる」

 

 すごい上から目線な言い方で申し訳ない。けど、これが『風見幽香』だから。私はこの在り方を変えるつもりはない。

 

 とかカッコつけて実は勝手に口が動いてしまうだけです。調子こきました……。

 

「感謝するわ。それじゃ、さっそく働いてもらいましょうか」

「ゆっくりする暇もないわね」

「悪いわね。流石にこれ以上吸血鬼にでかい顔をさせるわけにはいかないの。さぁ、ついてきて頂戴」

 

 空間の境界を操って裂け目を作り、目玉が奥から見える不気味な空間が顔を出す。

 これが八雲 紫が持つ“境界を操る程度の能力”だ。あらゆる境界を操ることが出来ると言われるチートである。

 ゆかりんが本気になればその能力を使って吸血鬼を打倒することも難しくはないと思うのだけど、なんでそれをしないのか、疑問を覚えるが、まぁ今は気にしないでおこう。どうせ考えてもゆかりんの事を理解するのは不可能だ。

 

 私はゆかりんの作ったスキマへと入り、目的の場所に向かった。

 

 

 

 

 ――――少女移動中――――

 

 

 

 

 スキマから出ると、目の前に紅い洋館がお出迎えする。

 あぁ……やっぱりここか。

 予想していた通りの展開に、私は一人頷く。

 今起こっている事態は、私の原作知識にある出来事『吸血鬼異変』だ。

 数少ない情報で知っている事は、当時の幻想郷にいる妖怪達は気力を無くし、弱体化していて“外”からきた吸血鬼たちは強力な力があったために短期間で数多くの妖怪が吸血鬼の軍門に下って部下にされたというものだ。

 まさにその原作にあった事が私の目の前に起こっているわけだ。

 

 そうなると、恐らくだが吸血鬼の親玉はあの少女なのだろうな。と、私は想像する。

 原作キャラに会える事は素直に嬉しいが、残念な事に敵方、争いは避けられない。

 

「ここがその吸血鬼の親玉がいる場所よ。藍、出てきなさい」

「ここに、紫様」

 

 紫の呼び声に、瞬時に返答がされ、九尾の妖狐がスキマを使って現れる。

 古代道教の法師が着ているような服で、ゆったりとした長袖ロングスカートの服を着こなす彼女、藍は、私に黙礼する。

 

「幽香、紫様の頼みを引き受けてくれて感謝する」

「別にいいわよ」

「ふふ、さて、藍は私と一緒に行動、幽香は敵を見つけ次第殲滅、いいわね?」

「畏まりました。紫様」

「はいはい」

 

 従順な狐の妖怪と違って私の返答はぞんざいな言い方だ。別に怖くて強がっているわけじゃないぞ。

 

「私は自由に暴れてくるわ。そっちは早くこの馬鹿げた祭りを終わらせてきなさい」

 

 要は、怖いし争い事は嫌だから早くこの争いを終わらせて下さいという私の切実な頼み。

 ゆかりんマジ頼んます!

 

 私は心の中で憂鬱になりながらも、なんでもないような態度で言い、恐らくこの洋館を守っているであろう門番の場所へと足を運ぶ。

 

「頼もしいわね」

「幽香を相手にする敵が少し哀れに感じます」

 

 紫と藍の呟きは、私の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 


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