ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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オッタルは周りから怖がられても気にしてない顔してるけど心の中ではシュンとなっちゃう系冒険者だと思うのん。


レオと猪男とお使いと

 

「……レオ、どうしたの? 今日は動きがぎこちないよ」

 

「……ちょっといろいろあって」

 

昨日の『豊饒の女主人』の一件から一夜明けて次の日。一日休みをもらった僕は本来ならば羽を伸ばして体が軽い状態で今日を過ごすはずだったのだが、昨日の疲れは全く取れず体中が筋肉痛の状態になってしまっている。

 

「せっかく上達してきたと思ったのに、師匠はガッカリだよ……」

 

「うっ……すみません」

 

上達しているというのは自分で言うのもなんだけど本当だ。師匠の教え方は思った以上に上手で、最近では姿勢もよくなってきて、強く弓を引いてもちゃんと丸太に命中させることが出来るようになってきたのだ。

 

元々【神々の義眼】のおかげなのかある程度は射線が読めるため、バランスさえ取れるようになれば上達は早いみたい。

 

といっても今日は師匠から軽蔑されるほどに下手くそになってる。体中が痛くて集中できない……。

 

ちなみに同じく全身筋肉痛のベルはリリがいないとか言い訳、もとい理由をつけて今日も休んでいる。羨ましい。

 

「はぁ……そんな状態じゃ特訓にならない。今日はもう終わり。バイトは出来る? 出来ないって言ってもさせるけど」

 

「や、大丈夫です。バイトはいつも通りやります」

 

いつも通りの眠たそうな表情で結構辛辣な言葉を吐く師匠だけど、尻尾は心配そうにゆっくりと揺れている。

 

多分僕が無理っていったら口では文句を言いながらも休ませてくれるんだろうなぁ、と最近分かるようになってきた師匠の優しさに感動する。

 

でも一度二日酔いで休ませてもらってる身だしこれ以上師匠に甘えたくはないので、バイトはやらせてもらうことにした。

 

 

でも今日は歩きたくないから近場の通りで軽くにするか。

 

 

西の区画は僕らのホーム、それに『青の薬舗』もあるからオラリオ内では一番多く利用している区画なんだけど、ポーションの売込みをするのは何気に初めてだったり。

 

でも考えればここで売るのがやはり一番楽なんだよね。住んでる場所の関係上、小さな路地の方まで場所は把握できてるし、お腹がすいたら『豊饒の女主人』に行ったりホームに帰ったりできるし。

 

まあ昨日の今日であの酒場に行く気は起きないから、今日はホームで何か軽いものでも作って食べようかな。

 

 

なんて考えてるうちに午前中の売込み終了。勝手がわかっている通りとは言えやはり買ってくれる人はほとんどいなかった。唯一買っていってくれたのは、なんだか小生意気な小人族の少年一人。

 

自分は大規模ファミリアの冒険者なんだぞと、やたら自尊心の高そうな態度取ってたから「このポーションはあのロキファミリアの冒険者も買っていった一品だ」って言ったらあっさり買って行ってくれた。

 

名前は何だったかな。……ロアン?

 

 

まあいいか。とにかくお腹が空いた。早くホームにいったん帰ろう。・・・・・としたんだけど、また一つ厄介ごと。

 

 

「おい」

 

ホームへの帰り道をふさぐように【猛者】オッタルが仁王立ちしている。また貴方ですか。

 

「……。どうでもいいですけど何でいつも裏路地で現れるんですか? こっちはいきなり話しかけられてビクッとなるんすよね」

 

もうこれで三度目だ。身体大きいし威圧感あるけどさすがに慣れてきた。

 

「……俺は大通りでは目立つ」

 

あ、たしかにこの人凄い有名人だもんな。大手を振って歩くわけにもいかないのか。

 

「それは何というか、大変ですねぇ。それで、今日は一体何の御用です? 別に貴方達のことを他人に話したりとかしてないっすよ」

 

「それは知っている」

 

知ってるのかよ。どこかで監視されてんの? プライベートは守ってほしいものだ。

 

「今日は貴様に頼みがあってきた」

 

「頼み?」

 

オッタルさんは布で包まれた長方形の箱のようなものを取り出して僕に渡す。

 

触ってみた感じからしてこれは本……?

 

「なんすかコレ」

 

「この本をベル・クラネルに渡せ。もちろん貴様がその本を俺から受け取ったことは口にするな」

 

……よく見るとこの本魔力が籠ってる。普通の本じゃない。

 

「この本読んだら怪物祭の時みたいに危険な事件に巻き込まれるとかないでしょうね?」

 

「その本が何なのか分からないのか?」

 

「?」

 

「それは魔導書、読んだ者に魔法を与える本だ。我が主はそろそろベル・クラネルには魔法が必要だと判断したのだ」

 

ふむ、そんな便利な本があるのか。でも貴重そうだし僕らじゃ手が出せないくらい高いんだろうなぁ。

 

それで、どうするか。

 

これが魔導書だっていうならオッタルさんに言われるまでもなくありがたく頂戴したい。

 

なんだか最近ベルは魔法とかスキルが欲しいってよく嘆いてるし、魔法一つ使えるだけでダンジョンの生還率も確実に上がるからね。

 

でも、それが太らせて食べる系の餌付けだと分かっていると抵抗が……。

 

「っていうかオッタルさん、今日はやけに僕の質問に答えてくれますね。嬉しいことでもありました?」

 

「貴様、我々のこと、そして目的も知っているのだろう? ならば隠す必要などない。ただし、口外すれば貴様の命はないと思え」

 

「分かってますよ」

 

でもここまで寛容に喋ってくれるなら少しくらい踏み込ませてもらいますか。

 

「それじゃあ聞きたいんですけど、貴方の主神、えっと、フレイヤ様は僕のことどんなふうに視てます?」

 

「それを知ってどうする気だ?」

 

僕がフレイヤ様の名前を出した瞬間空気が変わる。もしフレイヤ様に対して無礼なことを言った瞬間殺される、そんな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

 

「……別になにも。ただ彼女はベルにご執心なんでしょ? そのベルに僕は付きまとってる訳ですから。もしウザいなんて思われて理不尽に殺されたりしたらたまったもんじゃないですから」

 

現状、僕はフレイヤ・ファミリアに見逃されている。神フレイヤがベル・クラネルを密かに狙っているということに気付いている人間をあえて泳がせている。

コイツらと僕じゃどうしようもない実力差があるから、もし僕の行いで機嫌が悪くなったら、いやあるいはただの気紛れでも僕は消し飛ぶかもしれない。

 

そういった不安を目の前の大男に説明する。すると、

 

「……安心しろ。我が主は貴様の魂の色も気に入っておられる。それこそベル・クラネルに執着していなかったのなら強引に奪っていたくらいには、な」

 

……マジか。ありがとうベル。僕は君のおかげで今ここに居られるらしい。

 

心の中で今も筋肉痛で呻いてるであろう親友の顔を思い浮かべる。

 

さて、感謝も済ませたところで真剣に考えよう。

 

今オッタルさんは言った。魂の色が見えるって。それってさ、もしかしたら僕が見てるオーラと同じものなんじゃないか……?

 

もしそうなら、神フレイヤは、僕が異世界の住人であることに気付いているかもしれないんじゃないか?

そこまでじゃなくても、この世界には少なくとももう一人、ベートさんと追いかけた黒コートの異界の住人がオラリオに潜んでいる。

バベルの最上階から魂の色が見える目でオラリオを見下ろしているなら、あの神は僕の知りたいことを知ってる可能性が高い。

 

 

「もう質問は終わりか? ならば魔導書の件、頼んだぞ」

 

そういっていつかのように僕に背を向け歩き出す。

 

僕は今はこれ以上は踏み込めないと判断し見送ろうかと思ったが、そこで最も大事な使命を思い出した。

 

「待ってください!!」

 

大声で呼びとめるとオッタルさんは怪訝な顔をして振り向く。

 

僕はすかさず、持っていた『青の薬舗』印のハイ・ポーションを取り出し、オッタルさんの手に握らせる。

 

「……何の真似だ?」

 

未だに状況をよく理解できてないらしいオッタルさんはポーションを見つめて微動だにしない。

 

「知ってるかもしれませんが、今僕『青の薬舗』って言う【ミアハ・ファミリア】の施薬院でお手伝いしているんですよ。それでさっきまでも店の宣伝と売込みを行ってましてね。どうです? 一本買っていかれないですか」

 

「いらん」

 

即答され突き返される。いや、怯むなレオナルド。ここまでは予想通りだ。普通なら都市最強の冒険者に売れるわけがない。

 

だが今だけは僕の手に彼の弱みとでもいうべきものが握られている!

 

「……あ~あ、残念だなぁ。折角ベルに魔導書渡さないとって思ってたのに、仕事がこんな感じじゃ渡すの忘れちゃうかもなぁ……、はぁ」

 

肩をすくめやる気のない風に言うと、ギロッっと凄い勢いで睨まれる。

 

「貴様……自分が言っていることが分かっているのか……?」

 

怖えぇぇぇ。めちゃくちゃおっかないよこの人!

 

でもそんな恐怖は顔に出すな! あくまで素知らぬ顔で突き進め!

 

「いや別にね、ベルに渡すのがいやって言ってるわけじゃないんですよ。でも、よく言うじゃありませんか。人間やっぱりマイナス思考でいると失敗も多くなっちゃうものなんですよ」

 

下手な口笛を吹きながら絶対に目を合わせないようにあれやこれやと理由をつける。

 

すると今まで放たれていた胃に穴が開きそうなくらいの殺気が和らぐ。

 

お、折れたかな?

 

「…………ない」

 

「え?」

 

ボソッと何事かを呟くオッタルさん。聞き返してみると、

 

「だから、今はお金を持ち合わせていないと言っている」

 

……マジで? 無一文? 都市最強の冒険者様が無一文?

でも格好は上がピチピチの黒のインナー、下も飾りっ気のないズボン。ポーチすらつけてないし本当に財布持ってきてないのかよ。

 

「……そもそも貴様に魔本を渡したらすぐに主のもとへ帰るつもりだったのだ。持っていなくても不思議ではなかろう」

 

なんだかひとりでに開き直っちゃったよ。別に責めてないのに。

 

あ、でも耳がピコピコしてる。

 

師匠との最近のやり取りで獣人は感情が分かりやすいのは経験済み。

 

アレはオッタルさん、相当恥ずかしがってますね。

 

しかしハイ・ポーションを売りつけるチャンスをふいにするのも惜しい。

 

ここは……。

 

「はぁ……分かりましたよ。お金は後日払ってくれればいいです。どうせ僕らがどこで何してるとか把握済みなんでしょ? だから買っていってください」

 

「……承知した」

 

そう言うとオッタルは僕からハイ・ポーションを受け取り、今度こそ去って行った。

 

 

後日『青の薬舗』にハイ・ポーションのお金がいきなり送られてきて、何かの間違いだと言って送り返そうとするミアハ様と知らない顔して受け取っておこうと主張する師匠との間で一悶着あったらしい。

 




いつかレオ君とフレイヤも絡ませたい。でも確実に魅了されちゃうんですよねぇ……。

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