ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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タケミカヅチファミリアの残りの2人の名前が知りたいと思う今日この頃。



レオと恋する乙女

 

 昼飯を食べて、同じく『バベル』の近くで販売開始。ここだと『バベル』の安い食堂でお昼を食べられるから楽だ。

 

 でも北西の大通りより買ってくれる人は少ない。『バベル』前まで来てるってことは大体準備を済ませた後ってことだから当然ちゃ当然か。

 

「行って参ります、タケミカヅチ様!」

 

『バベル』2階から戻ると入り口付近で東洋風な出で立ちをした6人組のパーティーが神様の前に整列していた。

 

 タケミカヅチ様と【タケミカヅチ・ファミリア】の皆さんだ。どうやら今からダンジョンに潜るらしい。

 

「おう、レオじゃないか。お前も今から潜るところ、いや、帰るところか?」

 

 タケミカヅチ様は僕に気付き、軽く手を挙げて挨拶をしてくれる。

 タケミカヅチ様の方を向き整列していた命さん達もこちらの姿を認め、それぞれ挨拶を交わす。

 

「そのどちらでもなくてですね、今僕『青の薬舗』でお手伝いをしていて回復薬の売込み中なんです」

 

「ああ、そういえば昨日ミアハが言っていたな。お前ら、回復薬に不安があるなら今のうちに買っとけよ。ポーションなんていくらあっても困らんからな」

 

『はいっ』

 

 タケミカヅチ様の呼びかけで桜花さん、千草さん、飛鳥さんの三人がポーションを購入する。タケミカヅチ様はミアハ様と仲が良いから少し割引をしておこう。

 

 よし、午後は幸先のいいスタートを切れたぞ。

 

「レ、レオ殿……」

 

 桜花さんにポーションを渡したところで、さっきから挙動不審な振る舞いを見せていた命さんがオズオズと言った感じで話しかけてくる。

 

「あ、命さん。この前は本当にありがとうございました。そのお礼も兼ねて安くしときますよ。どうです?」

 

「いえっ、お気になさらず! タケミカヅチ様も仰っていましたが、お礼など不要です! ……いや、ち、違う形でお礼は受け取りたいです……って何でもないです!?」

 

 んん? 本当にどうしたんだろ? ダンジョンじゃあんなに堂々としていたのに、今は顔を伏せて見る影もないぞ。

 

「あの、不躾を承知で相談があるのですが……」

 

 軽く深呼吸をして落ち着きをいくらか取り戻した命さんはポツリと呟く。

 

「相談? 何ですか? 全然聞きますよ」

 

「……ちょっと来てください」

 

 僕がそう言うと、命さんは桜花さん達と目くばせをした後タケミカヅチ様をチラッと一瞥して、皆に話が聞こえない所まで離れる。

 

 周りの態度からして桜花さんたちは命さんの相談事が何なのかを知っているようで、知らないのはタケミカヅチ様だけみたいだ。

 

「それで、一体どうしたんですか?」

 

 再度尋ねると、しばらくした後命さんは頭を下げた。

 

「お願いします! ミアハ様にしたようにタケミカヅチ様に自分のことについて口添えしていただけませんか!?」

 

「…………えっと?」

 

 ちょっと状況がつかめない。何て口添えするの? てかなんで僕? ミアハ様?

 

「……もうちょっとわかりやすく説明してもらえるかな?」

 

「はい、あれは昨日のことなんですが……」

 

 

 ―――昨晩、とある通りにて

 

 

「よう、ミアハじゃないか」

 

「タケミカヅチ、久しぶりだな。命ちゃんもこんばんは」

 

「ご無沙汰しております、ミアハ様」

 

「今日は買い出しか?」

 

「うむ、ナァーザの奴は新薬の研究で手が離せんからな。なに、このくらいはせねばいつも頑張ってくれているナァーザに申し訳が立たんからな」

 

「それもそうだな。ところでミアハ、お前何かいいことでもあったのか?」

 

「分かるか? いや最近どうもナァーザの機嫌が悪くて困っていたのだが、ヘスティアのとこのレオにアドバイスをされてな。今日ちょっと接し方を変えたら機嫌を戻してくれたんだ。嬉しそうにしているナァーザを見てこちらも嬉しく思っていたところなんだ」

 

「!?」

 

「ほほう、レオはなんでナーザちゃんの機嫌が悪いのかを理解してお前に教えてくれたのか」

 

「いや、結局なんで機嫌が悪いかは分からずじまいだったよ。レオもそこは自分で考えろと言っていたしな」

 

「なるほど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ということがあったんです!!」

 

 興奮気味に話す命さん。

 

 しかしまったく心当たりがないんだけども……。

 

 となれば……あれかなぁ。僕が酔って覚えていない時の話かな。

 

「つまり、命さんはタケミカヅチ様のことが、その、好きなんだね?」

 

「す、すすすす好きというかっ! お慕いしてるというかえーっと…………はい」

 

 それで僕がミアハ様にしたであろうアドバイスをタケミカヅチ様にも、と。

 

 しかし困ったな。あの時のことは本当に覚えてないんだ。

 

師匠はグッジョブって言ってきたけど、もちろん僕がミアハ様に何を言ったのか細かく聞いているわけじゃないし、ミアハ様自身も一昨日の夜のことを聞いたら凄い慈悲深い目で「感謝する。しかしオラリオのことはもう少しキチンと勉強したほうが良いと私は思うぞ」ってしか言わなかったし。……あれってどういう意味だろう?

 

「あー、ごめんなさい命さん。僕その時酔ってて、ミアハ様に何言ったか覚えてないんですよね」

 

 ガァーンッ! という擬音が命さんの頭の上に落ちてきたのが見えた。うんホントごめん。

 

「ど、どうにかなりませんか? レオ殿は希望なのです。あのタケミカヅチ様と並んですけこましとかジゴロとか言われてらっしゃるミアハ様を変えたのですから!」

 

 あのお二方はそんなこと言われてるのね……。ていうか命さん錯乱しすぎ! すごく失礼なこと言っちゃってるよ!?

 

「お願いします!」

 

「……とりあえず考えときますけど、期待しないでください」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 あまりの押しの強さに渋々了承。まあダメ元でタケミカヅチ様と話してみるか。

 

 

 

 

 その後、命さんは桜花さん達の元に向かい一緒にダンジョンへ降りていく。それを見送り、残される僕とタケミカヅチ様。

 

 話すなら今しかないよね。

 

「命とは何を話していたんだ? ポーション代でも値切られたか?」

 

 僕が口を開く前にタケミカヅチ様の方からニヤニヤしながらさっきのことを尋ねられる。

 

 うわー、この神様全く命さんの気持ちに気付いてないよ。

 

 ここで少しでも嫉妬している素振りでも見せてくれればまだ可能性はあったのに。

 

「違いますよっ! てか良いんですか。もしかしたら愛の告白だったかもですよ?」

 

 とりあえずカマをかけてみよう。タケミカヅチ様はどんな反応をするかな?

 

「ハッハッハッ、それはいい! レオが綺麗な心を持っているのは神である俺には分かるからな。もしそうなら祝福せねばなるまい!」

 

 …………マジか。

 

 いや、ほとんど冗談としか受け止めてないみたいだけど命さんが嫁に行く話に全力肯定かよこの神は。

 

「ど、どうしたレオ。そんな怖い顔をして……?」

 

 おっと、どうやらタケミカヅチ様への不満が顔に出てたらしい。気を付けないと。なんせ相手は神様だからね。

 

「命さんはタケさんにとってどのような方なんですか?」

 

「た、タケさん? ……いや、まあいい。そりゃあもちろん大切な娘だ」

 

「娘、ですか」

 

「ああ。命だけじゃない、他の眷属だって大切な俺の子供たちだ。そんな子供たちが、恋をし、幸せを掴もうとしているなら、祝福するのが父の務めだろ?」

 

 そこにあったのは残酷なまでに強い親愛。この気持ちを否定することは僕には出来ない。タケミカヅチ様が命さん達のことを大事に思っているのがひしひしと伝わってくるから。

 

 でも、

 

「……その気持ちが、恋慕に変わることはないんですか?」

 

「ない。……とは言い切れないな」

 

「……え?」

 

 意外だ。てっきり無いって断言するものだと。

 

「意外か? でもそうでもないんだ。俺たち神は、むしろ子供たちにこそ惹かれやすいからな」

 

「じゃあ……」

 

「だが、あいつらは俺にとって息子、娘なんだ。たとえ好きになろうともな。神である俺じゃ、あいつらを幸せに出来ない」

 

 諦観というよりも信念の様なものを感じる。そっか、つまりこの神様は物凄く頑固者なんだ。

 

「そう、ですか……」

 

 命さんごめんなさい。説得は無理です。

 

 でも、命さんへのアドバイスなら思いつきました。命さんがダンジョンから戻ってきたら、こう言ってあげます。

 

 

「頑固者になってください」

 

 





最初は命さんとレオ君を絡ませるつもりだったのに、結局はタケミカヅチ様の話になってしまいました。

なんでだ……。

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