ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
それでは、『ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っている』スタートです!
……アレ?
ギルドの一角でのお話
「実は僕、この世界の住人じゃないんですよ」
ギルドの一室、ギルド職員と冒険者が話し合いをするために設けられたブースで、僕、レオナルド・ウォッチはヘスティア様にしか打ち明けていない真実を目の前のギルド職員に明かす。
「………………次、8階層に出現する魔物のおさらいするわよ」
ギルド職員のエイナさんはキョトンとした顔で数秒固まったかと思うと何事もなかったかのように話を進める。
「え~、完全スルーはないですよ。ノリツッコミくらいしてくれてもいいじゃないですか」
「いや意味わからないからねレオ君。そもそもいきなり過ぎるよ。一体どうしたの?」
「いや、これくらい大げさな話題なら勉強会中断できるかなと思って」
「…………レオ君は真面目さが足りない! 冒険者なんていつ死んじゃうか分からないんだよっ? 少しでも生存率上げないとっ」
ここ数日、僕は午後からの数時間、エイナさんに冒険者としての基礎知識を叩きこまれている。
それ自体はいいのだ。エイナさんも言うように知識があるかないかで生存率はかなり変わる。しかもエイナさんは教え方は上手いし美人だし、こんな人に二人っきりで勉強会だなんて話だけ聞けば誰だって羨ましがるだろう。
だけどこの勉強会を受けた人は皆口を揃えて言うはず。「もう二度と受けたくない」と。
要は厳しすぎるのだ。スパルタなのだ。
「そもそもまだ僕1階層までしか降りてないのに、8階層の魔物なんて勉強して意味あるんですか?」
机に突っ伏しながら不満を漏らす。
「あるわよ。万が一っていうことがあるじゃない。先日の
エイナさんはそう言って悲しそうな顔をした。
「何が起こるかわからない、か……」
それは僕が元いた世界、ヘルサレムズ・ロットでもよく言われていたことだ。
本当にその通りだと思う。異世界に渡るなんて普通予想できるようなもんじゃない。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。
「レオーっ、エイナさーんっ」
しんみりした空気になった室内に元気な声が響く。白髪にルベライトの瞳をした兎のような少年がブースに入ってくる。
救 世 主 現 る。
「おーっす、お疲れーベル」
同じ【ヘスティア・ファミリア】の仲間、ベル・クラネルがダンジョンから戻ってきたのだ。
「レオもお疲れ様……」
机に頬をくっ付けながら手を振る僕を見て、ベルは全てを察して苦笑いを浮かべる。
「ベル君お疲れ。今日はどうだった?」
「お疲れ様ですエイナさん。今日はですね……」
エイナさんとの勉強会はだいたいベルがダンジョンから戻ってき次第終わりを迎え、同時にベルのダンジョン攻略の報告が始まる。
この時間は頭を休めることが出来て、淹れてもらったコーヒーを飲みながらベルの報告を聞き流す。
が、
「ななぁかぁいそぉ~?」
今日はエイナさんの怒気の気配に聞き流す程度じゃ済まなくなる。
「キィミィはっ! 私の言ったこと全っ然っわかってないじゃない!! 5階層を超えた上にあまつさえ7階層!? 迂闊にもほどがあるよ!」
「ごごごごごごめんなさいぃっ!?」
ダンッ! と机が叩きつけられる音にこちらまで体がビクッとなる。
ベルが到達階層増やしたって? 7階層? やるねー。
鬼のような形相で叱るエイナさんと蛇に睨まれた蛙状態のベルを見ながら他人事のようにその光景を眺める。
エイナさんは知らないだろうけどベルはもうシルバーバックすら倒せるんだから、7階層程度だったら大丈夫なんだよね。
単独っていうのはやっぱり迂闊なんだろうけど。
「キミには危機感が足りない! 絶対に足りない! 今日はその心構えの矯正に加えて、徹底的にダンジョンの恐ろしさを叩き込んであげる!!」
「ひぃっ」
お、なんだなんだ? 今日はベルも「勉強会」か? じゃあ僕は一足先に帰らせていただきますね。
巻き込まれないように帰る支度を始めるが、ベルは慌てて弁明する。
「ま、待ってくださいっ!? そのっ、僕っ、あれから結構成長したんですよエイナさぁん!?」
「アビリティ評価Hがやっとのくせに、成長だなんて言うのはどこの口かな……!」
「ほ、本当です! 僕の【ステイタス】、アビリティがいくつかEまで上がったんです!?」
「……E?」
エイナさんは目を丸くして動きを止める。
ベルのとっさの発言が何を言っているのかわからず、理解したところで、すぐに信用していない表情を浮かべる。
「そ、そんな出まかせ言ったって、騙されるわけ……」
「本当です本当なんです! なんかこのごろ伸び盛りっていうか、とにかく熟練度の上がり方がすごいんです!」
「……本当に?」
ぶんぶんぶんっ、と勢いよく頷くベル。
エイナさんはそれを見て僕の方に目線を移す。本当に? と目で訴えかけられる。
「才能あるってヘスティア様は言ってました」
嘘は言ってない。
エイナさんは「むむむっ」なんて言いながら指を折って数を数える。2度ほど同じことをした後、難しい顔をして人差し指をその細い顎に当て考え込む。
「……ねぇ、ベル君」
「は、はい?」
「キミの背中に刻まれている【ステイタス】、私にも見せてくれないかな?」
その言葉にブフゥー! とベルが反応するよりも早くコーヒーを噴き出してしまう。
「わっ、レオ!?」
「大丈夫レオ君!?」
「だ、大丈夫大丈夫。それより、話の続きを……」
テーブルを布巾で拭きながら話を促す。
「う、うん。いやね、ベル君の言っていることを信じてないわけじゃないんだけど……」
「で、でも、冒険者の【ステイタス】って、一番バラしちゃいけないことですよね……?」
その通り。レベルなどは明かさないといけないけど、詳細なステイタス、中でも『スキル』『魔法』は【ファミリア】という組織の特性から、弱点などを晒さないためにも黙秘が基本だ。
僕より半月冒険者歴が長いベルも当然そのことは分かっていて躊躇ってはいたが、エイナさんの巧みな話術により了承しだす。
そりゃあベルにとっては問題ないんだ。ベル本人は自身のスキルのことなんて知らないし。
でも知ってる身からするとハラハラもんだよ。エイナさんはスキル欄は見ないって言ってるけど、大丈夫なのかなぁ……。
そんな僕の心配をよそにベルは服を脱ぎエイナさんが背中の【ステイタス】の確認しだす。
まずエイナさんの目が見開き、呆然となる。それもそうだろう。彼が最後に更新した時近くにいなかったから【ステイタス】の詳細は知らないけど、ベルは嘘はついてないはずだ。
ん? エイナさん? なんか目線が【ステイタス】の下の方へ移動してません?ものっすごい凝視してませんか?
「エイナさん……?」
「ぁ……も、もういいよ!」
僕が名前を呼ぶと照れたように笑いながら【ステイタス】から目を背ける。
「……『スキル』『魔法』欄はどうでした?」
カマをかけてみる。
「うーん、そこは神ヘスティアの書き方の癖なのかよく分からなかったんだけどね……って、あ……」
考え込んでいたせいもあったけど普段のエイナさんとは思えないほどあっさり引っかかってくれた。
「エイナさ~ん?」
「ごごごごごごごめんなさい!! つい!!」
ごめんですんだら警察はいらないんだよ! やんのかわれー!
「ま、まあまあ落ち着いてよレオ。僕別にスキルとかないんだし」
あったりしちゃったりするんですよベル君。まあ今回はバレなかったから良かったけど、これは対策を講じた方がいいかもしれない。
ティオナさん達とか背中露出してたのに【ステイタス】見えてなかったし、何か隠す方法でもあるんじゃなかろうか……。
「……二人とも」
「は、はい?」
「なんですか?」
「明日、予定空いてるかな?」
エイナさんとかシルさんがもし冒険者の道を歩んでたらどんな装備だったんですかねぇ。
わたし、気になります!