刀剣男子ってなんぞや?   作:甚三紅

3 / 15
勢いのまま投稿。
読んで下さる方々、本当にありがとうございます!
皆様が原動力です!




「あんた達…三日月と大典太の刑…」

 

うちの審神者ちゃんが低く唸るように漏らした言葉。

つーか、斬りつけ魔と私の刑って何?

 

 

事の経緯はこうだ。

真っ白あんちゃんと和泉なんちゃら、雅さんに長髪キ○ローが審神者ちゃんの取り合いをして、不思議な力が働いたのか審神者ちゃんが池にぼちゃん。

審神者ちゃん怒り心頭。

私と斬りつけ魔が呼ばれて刑執行が言い渡された。

以上。

うん、分からん。

 

いやー、それにしてもびっくりした。取り合いしてた所にたまたま居合わせちゃったんだけど、いくら私でも流石に慌てて審神者ちゃん救出したよ。池は深くはないけど、女の子が濡れ鼠とか可哀想だからね!審神者ちゃんいい子だし。

と言うか野郎共、固まって動かないとは何事だ!審神者ちゃん取り合いするくらい大事なんだろうが!

とりあえず部屋に送って自分も着替えたとこで呼び出されたんだよね。今回はいい事した筈だし、そんなビビらないで呼び出された部屋に行ったんだけど…。

 

「……」

 

怒り心頭な審神者ちゃんは…まぁ、被害者だし気持ちは分かるし私への怒りじゃないからまだいい。

審神者ちゃんの後ろに控える魔王様、もとい斬りつけ魔がすっげ怖いんだけど…。

無言で笑顔…おこなの?つーか激おこなの?ぷんぷん丸までいくの?

審神者ちゃんの前に正座してる四人、顔真っ青なんだけど。

ちなみに審神者ちゃんの右に魔王様、左に私、正面にはあの四人、の並びで座ってる。

そして、魔王様に私までガクブルしてる間に冒頭の台詞が言い渡された。

あれ?私とばっちり?

 

場所は変わって本丸の演習場。

私審神者ちゃん助けたのに…と一人ぶつくさ内心呟いていると中央で斬りつけ魔と四人が対峙していた。

元々この場所を使ってた子や人達は斬りつけ魔を見た瞬間波が引くように居なくなったよ。

いいな、私も逃げたい。

せめてもの抵抗に中央から外れる。何も言われないから別にいいよね。

 

「どれ、稽古をつけてやろう」

 

笑顔のまま刀を抜いて構える斬りつけ魔。

おかしいなー、「死合いしようぜ」て聞こえたなー。

長髪キ○ローとか雅さんとか今にも死にそうな顔してるよ。ですよねー。怖いよあれ。

お、無謀にも真っ白あんちゃんと和泉なんちゃらが斬りつけ魔に向かっていった。

て何あれ!ちょっ、何かしてるのは分かるけど速すぎて全く分からん!

呆然としてる間に二人は吹っ飛ばされた。文字通り飛んだ。

え、人って飛ぶの!?

残り二人も刀を抜いて攻撃した…みたいだけど、こっちも簡単に転がされとる。あ、一応手加減はしたっぽい。飛んでないし。

そして終始笑顔なのが怖いです魔王様。

 

暫く見てたけど、何回も同じ光景を見てて段々飽きてきた。

や、四人は段々ずたぼろになってきたけど。

外道?自分に被害がこなきゃそんなもんでしょーよ。ましてや私は巻き込まれただけだし。

とは言え飽きたのも事実だしなぁ…いつまで見てりゃいいの?

思わず溜め息が漏れると金属音が止んだ。ん?こっち見て何、斬りつけ魔。

 

「…分かった分かった、これ以上はせぬ。骨身に染みて理解したろうしな」

 

仕方なさそうに息を吐いて刀を収めた斬りつけ魔。心底ほっとしたようにへたり込む四人。

 

「もうしない…彼女は大事にする」

 

なんて声が聞こえてきたけど、誰が言ったかまでは知らん。

しかし、見た目凄い差だな。

斬りつけ魔は息切れ一つしてなくて綺麗なまま。四人は疲労困憊、て感じでおまけにずたぼろだ。特に真っ白あんちゃんなんか土の汚れが目立つ目立つ。白い服だから仕方ないけど。

そして当然とばかりに斬りつけ魔がこっち来た。私、君にあんま近づきたくないなー…。

 

「そう咎める目を向けるな、悪い事をしている気分になる。さて、主に報告をしに行くか」

 

罰の悪そうな顔してるけど、あんだけボロボロにしたのは悪い事じゃないの?

つーか、ええー…ナチュラルに私も一緒に行くのかよ…。仕方ない、審神者ちゃんの様子見って事で行くか。

ちなみに、逆らうのは怖いから選択肢などない。

 

 

て、事がこの間あったんだけど。

今日はあの時居た雅さんと長髪キ○ローと同じ部隊で戦場です。あと何人か居るけど、どうしてもその二人に目がいく。

あー、今日のは何か、太刀とか大太刀と一緒に行ってた場所よか簡単だって言ってたかな。いや、難易度じゃなくて合戦場そのものに行きたくないんだっつーの!

部隊長は雅さんだって。私?私は最初から隊長には選ばれてない。ラッキー!いやいや、合戦場に行く羽目になってる時点でラッキーも何もないよ。正気に戻れ自分!

 

最初は順調だった、うん。確かに今までいた場所よりはマシだ。嫌な事には変わりないけど。

んで、進んでる内にえっらい強そうな敵と遭遇した。ちょっ、私にも分かるくらいオーラが!オーラが違う!

 

虎徹!虎徹落とせゴルアァァ!!

 

なんて審神者ちゃんの声が聞こえた気がするけど気のせいだろう。

今まで出番が回ってこなくて悠々としてたのに、いきなりの強敵に皆怪我するし滅茶苦茶ビビった。足竦んで動けないよ当たり前だよ私一般人だよ!

でも死にたくないし!頑張って足動かして刀振り回したとも!

半泣きでパニックになって刀振り回し続けてたら、気がついたら周りにいた敵はいなくなってた。

ああ神はいた!!

またあんなのに会いたくないから、静かな内に即引き上げたとも。

流石に誰も反対はしなかった。

だよね、皆怪我してるしね!私も休もう、すっげー怖かったもんよ。そういえばゲート?的な物から戻ってきた時、怖くて振り向いちゃったな。

あれだ、怖い話を聞いた後風呂場で後ろ見ちゃう的な。

…寝よ寝よ。悪夢を見ませんよーに!

 

 

 

- - - - - -

 

 

この本丸にいる刀達は皆、主である審神者の女性が好きだ。

友愛、親愛、恋愛、程度に違いはあれど皆が愛情を抱いていると言って良い。

 

切欠は些細な事だった。

彼女が己の近侍の髪の美しさを褒めただけ。

彼女の近くに居た歌仙兼定とにっかり青江が妬いてそれに反応し、和泉守兼定と三人で我が一番だと喧嘩となり、そこに鶴丸国永が面白がって参入。最終的には彼女に誰が一番かと詰め寄った。

全員が全員、主を好きだからこそそうなった。

だが彼女は審神者とはいえ一般女性である、大の男四人に詰め寄られてはたまらない。

思わず後退りをした場所が悪かった。その先は池で、バランスを崩した彼女は池に落ちてしまったのだ。

当然誰もが主を助けようとする。が、その誰よりも先に池に飛び込み彼女を抱き上げたのが大典太光世だ。

実はそれなりに近い距離に居たのだが、四人は全く気づいておらず突然彼が現れたように感じた。その為、驚いてしまい動きが止まってしまう。

主を姫抱きにする彼の視線は酷く冷たく、首に刃を押しつけられているような気分になる。今にも斬られてしまいそうな恐怖から足が竦み、誰も動く事が出来なかった。

 

にっかり青江は今直ぐにこの場から逃げ出したい衝動に駆られていた。

いや、逃げたいのは己だけではないだろう。他の三人も自分と同じような顔色をしている。

真正面には愛しい主、その主の右には三日月宗近、左には大典太光世。本気の仕置きの布陣だ。

四人共、主を怒らせたい訳ではなかったが、それでも構って貰えるのは嬉しい。しかしながらその両脇がいただけない。

三日月宗近は笑顔、大典太光世は無表情、双方無言である事が恐怖を煽る。

 

二人を呼ばれる前に四人は主に謝罪をした。必死になって謝ったが許しには一歩至らず…いや、その謝罪の場でも喧嘩が勃発したのだ、仕置きも致し方ない。四人はよりにもよって責任のなすりつけ合いを主の前でしてしまったのである。

当然主の怒りは増した。

 

「あんた達…三日月と大典太の刑…」

 

どうやら自分達の命日は今日らしい。

 

稽古という名の仕置きは酷いものであった。

にっかり青江と歌仙兼定はまだ加減されている。が、近侍でありながら主を濡れ鼠にした和泉守兼定、面白がって話をややこしくした鶴丸国永は三日月宗近に折られないよう必死だ。欠片でも手加減を期待したら本気で折られると、合戦場よりも必死になっている。

そして遠い場所に居ながら威圧をかけてくる大典太光世も四人は恐ろしかった。

いつ参戦されるか気が気ではなく、それだけで精神力を削られる。静の大典太光世、動の三日月宗近、主の怒りの度合いを痛感した。

 

それでも、そんな大典太光世に四人は救われる。

やり過ぎだとでも思ったのか彼が溜め息を吐き、それを耳敏く拾った三日月宗近の手が止まる。

そして三日月宗近がちらと大典太光世を見ると呆れたような顔をしており、渋々ながら地獄のような仕置きの時間はようやく終了した。

以前ならば誰かしら気絶をするまで稽古をつけられたが、今回は全員意識もありへたり込む程度で済んでいる。大典太光世様々というやつだ。

にっかり青江は安堵からそれはそれは深い溜め息を吐く。

彼女を大事にすると呟いたのは鶴丸国永か。確かに彼は主をもう少し大事にしても良さそうなものだ、今回の事で少しは懲りればいい。

 

何となしに演習場を出ていく二人を眺めていて、にっかり青江はとても驚いた。

何故か?

おっとりした雰囲気と笑顔に隠れているが、実はとんでもなく唯我独尊な三日月宗近が気を使う、という事をしていたからだ。

誰にどう思われ、例え嫌われようが笑顔で流してきた彼は大典太光世にだけは嫌われたくないらしい。大典太光世の方もそんな三日月宗近を受け入れている。

 

「あー…っとに、大典太が居てくれて助かったぜ…死ぬかと思った」

「全くだ…俺はちょっとばかり驚きを提供しようとしただけなんだがなぁ…」

「あんたはちったぁ懲りろよ」

 

和泉守兼定と鶴丸国永の声を聞きながら、にっかり青江は仰向けに倒れ込む。

 

ああ、空が青い。

 

 

歌仙兼定は今回の出陣にやけに緊張していた。つい先日の事件の際、恐ろしさを痛感した相手…大典太光世と同じ部隊で出る事になったからだ。

しかも自分が隊長である。何故大典太光世が隊長ではないのか。

主曰く彼の錬度自体は自分達とさほど変わりがないとの事。加えて単独行動が得意な事から隊長向きではないと言っていた。

自分達と同程度の錬度…それであの強さは正に規格外ではないのかい?

歌仙兼定は彼の錬度が低いなど信じたくなかったし、世の不条理を嘆きたくなった。

 

出陣した先にて、途中までは順調であった。

大典太光世以外は脇差しと打刀による編成であったがよく一緒になる組み合わせであり、来慣れた合戦場であった。敵の編成も熟知しており大典太光世の手を煩わせる事もなく敵本陣へと部隊を進めていく。

 

順調だったのは、そこまでだった。

 

突然の検非違使の襲撃。

幸いにも後ろを取られる事はなかったが、隊の横っ腹に突撃を受けた。

 

奴らはこちらの錬度に合わせたかのような編成をしてくるらしい。

 

歌仙兼定は敵の刃を受け止めながら、ふと、太刀の誰かが言っていた事を思い出した。ならば大典太光世の錬度が低いらしいのは僥倖というやつだろうか、彼の強さがあれば皆生きて帰還出来るかもしれない。

複数で検非違使一人に当たり、死力を尽くして何とか破壊に持っていく。だが一人、また一人とこちらの数も減っていく。部隊の者に指示を出す余裕など最初からありはせず、戦場を見渡す隙など与えて貰えない。歌仙兼定は各々の判断に任せるしかなかった。

 

「ぐっ…、貴様…万死に値するぞ…!」

 

何とか二体破壊したところでとうとう歌仙兼定も敵の凶刃を受ける。突然の襲撃による動揺を立て直しきれなかった事と疲れから防御が間に合わず、袈裟懸けに深く斬りつけられた。

いかに元は刀と言えども今は人の身、攻撃を受ければ怪我をする。斬られた場所からは血が滲み服を赤く染め、焼き鏝を押し付けられたような熱さが頭の中を支配する。痛みを痛みと認識出来ず、ただただ猛烈に熱い。

どっと血が抜けた事で体が一気に重くなり、指先からは力が抜け膝をつきそうになる。

だが己は隊長なのだ、帰還する義務があるのだと無理矢理手に力を込め束を握り直し、目の前で己の命を奪わんと刀を振りかぶる敵を睨みつける。

 

と、その時だ。

 

愉悦に顔を歪めていた目の前の敵が消えた。

本当に、欠片の一つも残さずに跡形もなく消え去ったのだ。

視線の先には大典太光世。彼が背後から一撃で敵を葬り去ったらしい。

そこからは彼の独壇場である。

敵の攻撃を避ける様は柳の如くしなやかで、一太刀で敵を消し去る様はまるで舞いのように流麗だ。

敵を殺す。

その一点において大典太光世は恐ろしい程に美しく、その姿に歌仙兼定は目を奪われる。今、ここが命のやり取りをしている合戦場であるという事を忘れる程に。

 

気がつけば検非違使の姿はなく、大典太光世のみが地に立っていた。刀を斜めに振り鞘に収める姿にすら見惚れていたが、こちらに向けられた彼の瞳に歌仙兼定はハッとする。

 

撤退を。

 

大典太光世の目はそう語っている。

今の状態でまた襲撃を受けてはたまらない、歌仙兼定は即座に撤退を指示した。

 

怪我をしつつも意識のある者が重傷者を背負い、何とか全員生きたまま本丸に戻る事が出来た。

雅からは程遠いが、生きているだけ丸儲けというやつである。

出迎えた主は皆の様子に真っ青になってい震えていた。皆破壊の一歩手前まできていたのだ、青くなるのも仕方ない。一振りも欠けなかったのは奇跡と言ってもいい。

心優しい主は泣いて謝りながら今回出陣した刀達を丁寧に、大切に手入れをした。大典太光世だけは無傷である事もあり辞退したようだが。

 

後日、検非違使と遭遇した者で集まり反省会を開いた時の事である。歌仙兼定は難しい顔をしていた。

意識を失った者が皆、戦闘不能になる程の攻撃を受けた時に僅かに敵の攻めが緩んだ、と口を揃えて言うからだ。

思い当たる事はたった一つ。

大典太光世。

彼しかいない。

当の本人は激戦区に赴いており今この場にはいない為、真偽の程は分からない。だが予想は間違っていないと歌仙兼定は確信している。

死者が出なかったのは奇跡でも何でもない、自分達は全員大典太光世に守られたのだ。

だが何故、あんな窮地に陥るまで手を出さなかったのだろうか。もっと早くに助けてくれれば…。

そこまで考え、歌仙兼定は自分を恥じる。

最初から他者を頼るなど雅でも風流でもない。そして何より、己の矜持がそれを許さなかった。

そこで歌仙兼定は、はたと気づく。

もしや大典太光世はここまで読んでいたのだろうか。あの時も、あえて瀬戸際まで手を出さなかったのではないのか?

彼程の力の持ち主であれば襲撃されても即殲滅出来た筈だ、それをしなかったのは何故か。

 

そんなの、僕達の成長の為に決まっている。

 

思えば、大典太光世という強者が居る事と、慣れた合戦場という事で全員が慢心していた。戦場を舐めていた、と言ってもいい。

そこに検非違使からの襲撃を受けた。

各々が死力を尽くしていたと思っていたが、きっとどこかで彼を頼っていた。その証拠が意識不明になる程の怪我人が出た事である。

今になり冷静に戦力を分析してみると、検非違使は強敵とはいえ大典太光世抜きでも重傷者を出さずに退ける事は出来た筈だったのだ。

それがこの体たらく。大切な主にも心配をかけた、自分が情けなくて仕方がない。

その事を皆に話せば一様に悔しげな顔をして黙り込む。

 

暫くして、いの一番に集まっていた部屋から飛び出したのは大和守安定だ。そのまま演習場に行くのだろう。

彼に続き、次々と刀達は部屋を出て行く。にっかり青江ですら居てもたってもいられないらしい。

自分もそうだ。胸の内が熱く、もっと己を高めよと自身が叫ぶ。

歌仙兼定は強い意志を瞳に宿し、己も演習場に行くべく立ち上がった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。