パラレルから本編に戻ります。
今回の犠牲者、一期一振。
ブラコンになりました。ギャグ方面にブラコンです。本来はそこまでじゃないんですよ。
「貴方は…懐かしいような気がする」
畑仕事中に一緒に組んでた子にいきなり言われた。
えーと…いっぱい兄弟の上の方?あ、脇差だ脇差。何か、この子不思議ちゃんだなぁ。
よく分からんけど、とりあえず不思議ちゃんの頭をわしわし撫でて畑仕事に戻る。
あ、ごめん、土ついたかも。
て事がこの間あってから、不思議ちゃんと結構遭遇するようになった。
お互い目が会うとパタパタ寄ってきてじっと見られる。何が言いたいか分からないから毎回頭を撫でてみるんだけど、そうするとどっか行っちゃうんだよね。
…猫?
髪が白いから白猫だね、白猫ちゃん。うん。
縁側の暖かいとこに座ってると勝手に寄ってきて、くっついて、気が済んだらどっか行く、とかさ。まんま猫だと思う。
そんでもって、何だかよく分からない内に白猫ちゃんに懐かれてから…こう、視線を感じるんだよなぁ。何だろ。
「あたしがコタツにミカンを堪能したいから、明日から冬にします」
ある日の朝食後、審神者ちゃんがキッパリと宣言した。
わー、審神者ちゃん横暴ー。
あ、おかんと雅さんが「冬支度とかあるんだよ!?」て審神者ちゃんに抗議してる。
でも多分却下されるんだろうなぁ。
次の日、起きたら…寒っ!ちょっ、審神者ちゃん!こんなに寒いとか聞いてないよ!!
寒さに慣れる為に暫く戦は無しになったのはいいけどね。内番は…あ、これ深く突っ込んだら駄目、て何か受信したから気にしないでおこう。
コタツは大きさに限りがあって、入れる人数にも限りがある訳で…。
はい、何が言いたいかと言うと追い出されました。
私なら大丈夫、て訳分からない理由で。私だって寒いっつーの!
審神者ちゃんはね、女の子だからね、いいんだけどさ。魔王様は絶許だコラ。
エアコンとか温風ヒーターとかハロゲンとか何もない…まぁ、石油製品は分からなくもないけど。せめてエアコン…。
うぅ…火鉢とか微妙だよ…囲炉裏の方が暖かいんじゃね?
火鉢にあたってると白猫ちゃんと男の娘がふらりとやってきてくっついてきた。
冷たっ!ちょっ、私の体温奪われる!くっ…でもちっちゃい子相手に怒る事も追い出す事も出来ない!
こんにゃろー、てわしわし二人の頭撫でまくってる内に…お、暖かくなってきた。そうだよね、元々子供って体温高いよね。
うん、時間経つにつれて暖かくな…、…んん?また視線を感じたような…気のせいかな。
「大典太殿。弟達が是非とも貴方と一緒に雪合戦がしたいと言っておりまして」
また少し日が経って、皆が寒さに慣れた頃にそんな風に声をかけられた。
あ、いっぱい兄弟の長男だ。何か雰囲気がロイヤルさん!
ちみっこ達と雪合戦?オッケーオッケー!任せろ!
て事でコート着て庭に出てみると、いっぱい兄弟勢揃いだ。こうして見ると本当に沢山居る。
…あのさ、一緒に雪合戦、なんだよね?何かもう始まってるんだけど…まぁいいか。ふわふわと雪が落ちてくる中、皆元気一杯だなー。
ほんわかしながら兄弟を眺めてると、隣に居たロイヤルさんに雪玉が直撃。こらとか言っててまた雪玉が飛んできて、段々ロイヤルさんvsちみっこ達になってきた。
やー、ロイヤルさん含めて君達元気だよね。はっはっは、ただ突っ立ってるだけで寒いなー、とか、ぼっち寂しいなー、とか思ってない。思ってないですよ、断じて。
ちみっこ達が疲れてようやく終わりらしい。
ロイヤルさんの息切れてるよ。ま、そりゃそうだ。あーあ、全員雪まみれだし。
ちみっこ達の雪を払ってやるロイヤルさんって本当にお兄ちゃんだよね。
んじゃ中に…あ、ロイヤルさん待った待った。君も雪まみれだから。軽く払って…よしよし。まったく、雪で廊下濡らしたら連帯責任で怒られるじゃないか、おかんに。
今度は一緒におやつでもどう?て誘われた。ロイヤルさんに。
え、うん、いいけど…兄弟水入らずの時間にいいの?
おかんと雅さんにおやつとお茶を貰ってコタツに直行。あ、流石に私も運ぶの手伝ったよ。
おやつは鹿の子、ていう和菓子だってさ。うーん、私あんまり粒あん得意じゃない…と言うか苦手なんだよねぇ…。
あ、ロイヤルさんのがもうない。何だ何だ、もしかしてスイーツ男子仲間?そんなロイヤルさんに私の分をプレゼントするよ!
…食べ物は美味しい人が美味しく食べるのが一番だと思うんだ。
へーい…今日は合戦場だよー…あー、テンションだだ下がり…。
今日の面子はロイヤルさん一家です。
あのさ、最近君達との遭遇率半端ないんだけど気のせい?
いいけどさ。じゃ、いっちょいきますか。
ちみっこ達が居るから、難易度低めのステージで戦う。無茶させられないからね。その優しさを私にも下さい、切実に。
と言うかおかしいなぁ、私は一般人だった筈なのに何で戦い慣れてんの?
今の自分に疑問を持ちまくってると…は?ロイヤルさんが足挫いた?
「面目次第もございません…」
適当な岩があったからそこに座らせて、私は膝をついて怪我の様子を見る。あーあ…見るからに腫れてきた…これ相当痛いんじゃない?
ロイヤルさんを見上げたらすっっごい落ち込んだ風に謝られた。…多分今の言葉、謝罪だよね?
これじゃこのまま進めな…、…はっ!これいい口実だ!隊長ロイヤルさんだし、隊長負傷って事で帰ろう!
いやー、残念だなー、隊長負傷じゃしょうがないよねー。
ロイヤルさんの速度に合わせてたらまた敵がくるかもしれないし、早く帰りたいからロイヤルさんをおぶって喜々として帰る事にした。
思惑通り審神者ちゃんに怒られる事はなかったよ!やったね!
「兄上とお呼びしても良いですか?」
またある日、ロイヤルさんに唐突に言われた。
…お、おう…?
はぁ、どうぞお好きにお呼び下さい…。私も君の事ロイヤルさん呼びだからね。
えーと…でっかい弟ゲットだぜ?
- - - - - -
骨喰藤四郎には記憶がない。
二度焼けて失った。
だが、兄弟達の事は分かる。加えて鯰尾藤四郎が何かと自分の世話を焼いてくれる。だから記憶などなくても困った事などなかったし、それで構わないと思っていた。
…彼に会うまでは。
大典太光世。
彼の刀を見ていると懐かしい気がしてならない。それも、自分が『こう(脇差に)』なる前から一緒に居た事があったような…。
骨喰藤四郎は考える。
時に、鯰尾藤四郎に具合が悪いのかと酷く心配されてしまう程に。
ある日、骨喰藤四郎と大典太光世が畑仕事の内番を一緒にする機会があった。
近くに居れば居る程懐かしい、という思いが強くなる。
骨喰藤四郎はとうとう耐えきれず彼に言ってしまった。懐かしい気がする、と。確かな記憶もないというのに。
大典太光世に見られている間、骨喰藤四郎は緊張しっぱなしであった。
記憶もないのにと怒られるのか、呆れられるのか、それとも……同情、されるのか…。
ところが彼がとった行動はそのどれでもなかった。
若干驚いた風ではあったが、常と変わらぬ凪いだ目をして骨喰藤四郎の頭を撫でた。言葉こそ発する事はないが、そうか、と、彼はただありのままを受け入れた。
大典太光世の行動に驚いたのは骨喰藤四郎の方である。
もし昔一緒に居たのなら、全てを忘れられたというのに悲しくないのだろうか。それとも、懐かしいと思ったのは自分の勘違いだったのだろうか…。
などと骨喰藤四郎が驚きに思考を奪われている間に大典太光世は畑仕事を終わらせてしまったらしい。
流石にそれは素直に申し訳ないと思った。
骨喰藤四郎はその日から、大典太光世の姿を見かけるとよく眺めてみるようになった。
彼は喋らないので真偽を聞き出す事は出来ない。
だが、この懐かしさは間違いではないと思うようになった。
何故なら自分の頭を撫でる手が心地良く、それがまた懐かしさを呼ぶからだ。もしかしたら、こうして肉の器を手に入れる前も撫でて貰った事があるのかもしれない。
自分に触れる手の暖かさを求め骨喰藤四郎の足は知らず彼の元へと向く。
彼は彼で骨喰藤四郎の事を受け入れるものだから、更に彼の刀の元へと思ってしまう。
大典太光世の側は酷く居心地がよく、そしてそれ以上にしっくりとくるものがあった。
一体何度目になるかも分からない程頭を撫でられ、突然に骨喰藤四郎は得心した。
ああ、そうか。彼は今の俺を受け入れてくれているのか。
記憶がない俺も、俺だと。
「相変わらず」器の大きな方だ…今も…「昔も」…。
一期一振は酷く悩んでいた。
悩み事は何か?
そんなものは当然可愛い弟達の事に決まっている。
最近、乱藤四郎と骨喰藤四郎の様子が可笑しい。
いつもならば大抵兄弟は皆一緒に居るのだが、この二人は最近ふらりと居なくなる。そして一振りの刀の元へと足を運んでいるのだ。
兄弟だけで固まり過ぎるのはあまり良いとは思えない為、色々と交流を持つ事は歓迎する。
しかしながら頻度が高すぎないだろうか?
一期一振は机に肘をつき、組んだ指に額を乗せて深い深い溜め息を吐く。
と、そこにたまたま鶴丸国永が通りかかった。仲間の深刻な様子に何事かと足を止め、彼にしては珍しい事に最初はちゃんと真面目に相談に乗ってみた。
鶴丸国永はなる程と話を聞きながら、相変わらずのブラコンだなと頷く。
そして極々軽い調子で明るく、冗談だと直ぐに分かるような事を口にした「つもり」であった。
「もしかして大典太の奴、嫁として娶る気だったりしてな。なー…「鶴丸殿、失礼します!」」
だが重度のブラコンには通じなかったらしい。
鶴丸国永の冗談の筈の言葉に凄まじい形相をし、一期一振は勢いよくどこぞへと走っていってしまった。
「…これは俺が悪いのか?」
一人、一期一振の背を見送りながら鶴丸国永がひとりごちる。
どうか、切実に!大典太光世にはばれませんように!
鶴丸国永の助言を受け一期一振は大典太光世の観察を始める。
彼は武に優れた人物であり礼儀正しく、基本的に穏やかな気性だ。好ましい御仁であるのは間違いない。
だが、それとこれとは別である。
無論兄としては乱と骨喰の気持ちは優先したい。しかし…しかし…!
一期一振は乱藤四郎と骨喰藤四郎が火鉢にあたる大典太光世にくっつく姿を見ながら拳を握り葛藤する。
どこか優しげな手つきで二人と戯れる大典太光世に腹立たしいやら、弟達に優しくしてくれる事に微笑ましさを感じなくもないやら…実に忙しい。
たまたまそんな一期一振の姿を目撃した三日月宗近は、何やら面白そうな事になっているな、とのほほんと笑っていた。
大典太光世と一期一振、この二人ならば滅多な事も起こるまい。
一期一振はとりあえず大典太光世と接触を図る事にした。
彼の刀と直接話をした事は…いや、元々彼は口がきけないようである、話ではなく交流自体がそうない。
ならば直接交流してみれば何か違うかもしれない、と弟達を口実に遊びに誘ってみる事にした。
結果は…彼の刀の包容力を実感しただけで終わってしまった。
いつもならば一期一振は遊ぶ弟達を眺めるだけだった。が、今日は何故か途中から参加してしまった。
いいや、何故か、ではない。理由は分かっている。
監督する立場を忘れ存分に遊んでしまったのは大典太光世が「見守ってくれている」、と無意識でも感じたからだ。
おまけにこちらの体についた雪を払う気づかいまで見せる。そのくせ自分には無頓着であるから、一期一振は何とも妙な気分になった。
ならばと次は一緒のお八つに誘ってみた。
すると大典太光世は当然のように全員分のお八つを運ぶのを手伝い、かつ重い茶は全て彼が持った。
おまけにその動作がさり気なさすぎて、一期一振は全て終わってから気がついたくらいだ。
それはともかく。
お八つの時間は普通にゆったりと過ぎていく。大典太光世の両隣を当たり前のように乱藤四郎と骨喰藤四郎が固めたが…まぁ、それくらいは許容範囲内である。
一期一振は自分の分の菓子は物欲しげな顔をする弟達にやり、楽しげな様子に目を細める。するとコトリと自分の前に菓子が置かれる。
犯人は大典太光世だと直ぐに分かった。何せ彼の前には茶しか置かれていないのだから。
乱藤四郎と骨喰藤四郎から羨ましそうな視線を受けたが…どうしてか、これを弟達にやる気にはなれなかった。
またある日。これは全くの偶然であったが、一期一振は大典太光世と一緒に出陣をする機会を得た。
彼の刀は使い勝手が非常に良いらしく、色々な部隊をたらい回しにされている。今回は自分達の隊に回されたらしい。
三日月宗近に並ぶ実力者なだけあり、彼が居るだけで行軍の安心感が違った。
戦闘になれば好き勝手に動いているようで弟達の足りない所を補ってくれている。自分も彼に背中を任せられる事で、無駄に入っていた肩の力が抜けたのが分かった。
しかしながら、どうにも肩の力を抜き過ぎてしまったらしい。
敵からの攻撃をかわす際に盛大に足を捻ったのだ。敵を倒しはしたものの、これでは機動力は激減する。それくらいに盛大にやらかしてしまった。
一期一振は弟達に情けない姿を見せる事も堪えたが、それ以上に大典太光世にこの失態を知られた事に気落ちした。
自分でも驚く程に落ち込んでいるのは、見張っている筈の相手に失態を知られたからか…それとも…。
怪我の様子を診た大典太光世は小さく息を吐く。
その小さな音に一期一振の肩が僅かに跳ねた。
失望、させてしまっただろうか…。
更に落ち込みかけていると、大典太光世はしゃがんだままこちらに背中を向ける。
その意味が分からず首を傾げていると弟達から「おんぶしてくれるって」と理由を教えられた。
一期一振はあまりにも意外な展開に目を瞬かせる。一瞬拒否をしようとしたが…確かに、まともに歩けないのでは足手まといにしかならない。
自分を益々情けなく思いながら、一期一振は大典太光世の厚意を受ける事にした。
隊長である自分がこうであるから、これ以上の行軍は中止となった。
大典太光世の背に揺られながら一期一振は何処か擽ったを覚える。
もし自分に兄がいれば、こういうものなのだろうか…。
思えば、自分はいつも兄弟の長兄としてどこか気を張っていた。
きりきりと張った糸はふとした事で簡単に切れる。
彼は、大典太光世は、その糸を緩める為に自分を甘やかしてくれたのではないだろうか。こうも甘やかされているのを自覚してしまった今、そう思えてならない。
一期一振がその安心感と揺れの心地よさに、戦場だというのに本気で寝てしまい本丸に帰ってから大典太光世に謝り倒したのはまた別の話。
「鶴丸殿、兄というのは良いものですな」
「ん?急にどうした」
一期一振と鶴丸国永、この二人は火鉢にあたりながら少しばかり雑談をしていた。
そしてふと、一期一振がしみじみとした言葉を漏らす。
突然の話題に鶴丸国永は不思議そうな顔をし、ひとまず話の続きを促した。
「最近、私にも兄上と呼べる者が出来ました。見守られるというのは何とも、擽ったくも心地良いものです」
「ほう、そいつぁ何より。相手の名は…」
穏やかな顔をして告げる一期一振に知らず鶴丸国永も表情を緩める。その原因の名を鶴丸国永は皆まで言う事はなかったが、二人の脳裏に思い描かれた人物は同じであった。
いやはや、こいつは驚きだ。一期一振の鉄壁の「兄」の仮面を剥がしたか。
やはりあいつは面白い。
一期一振の変わりように鶴丸国永は喜色を露わにする。
退屈な生に変化をもたらす事…面白い事は大好物である、それが良い変化ならば尚いい。
どうせならこのまま先日の冗談も忘れてくれれば万々歳であったのだが…
「そうそう、私の兄弟達について…兄上も含め、笑えない冗談は控えて頂けますね?」
「…善処しよう」
そう上手くはいかないらしい。
大典太光世本人にバレるよりはマシか、と鶴丸国永は息を吐き頷いた。
- - - - - -
おまけ
ボツ案。
「大典太殿!乱と骨喰、どちらを嫁に選ぶのですか!?」
ぶふっ!げほっ!ごほっ!
皆…そう、皆の居る前でロイヤルさんがトンチンカンな事言い出した。
げほっ!
うぅ…ビックリした…お茶飲んでたから盛大にむせたし…あ、王子背中さすってくれてありがとう。
つーか嫁ってどういう事?て思わず長らしい魔王様に目をやると…
「…俺にも出来る事と出来ん事がある。あれのブラコンはどうにも出来ん」
袖で口元隠して視線逸らされた。
ちょっ、魔王様は万能だよね?そうだと言ってくれ!
つーか私はノーマル!女の子が好き!野郎はありえねーから!
「いち兄のバカ!」
「…すまない」
あ、男の娘と白猫ちゃんにロイヤルさんが回収されてった。
…集まる視線が痛い…どんな公開処刑だよこれ…。