人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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二人の距離は意外な形で縮まり、悲劇は起こる

来栖茜とのなんとも言えない関係が始まってからかれこれ一ヶ月。

 

結局、俺は断る理由も意味も見つけることはできず、約束の日を迎えた。

 

ドタキャンを考えもしたが、それだと小町は俺と縁を切るとか言い出すし、あいつも俺が嫌いになったんじゃないかとか心配し出すし、泣きそうになるし。

 

じわじわと外堀を埋められ、俺は今日この日を迎えた俺は約束の三十分程前に駅前にいた。

 

服装は小町が「女の子とデートなんだから、ちゃんとした服装でいかないと失礼だよ!」とか妙に気合の入った声で言ってたが、行く場所が行く場所だけに派手でも地味でもない良い感じの服装。ああいう場所じゃ、気合の入った服装してるやつほど目立つし、白い目で見られる。だっているのは大半オタクだし、その中にはコスプレしてるやつとかいるんだから。見た目だけリア充っぽくしてても「リア充は帰れ!」みたいな目で見られる。因みに俺は見てた側。ホント、なんなのあいつら。俺達の聖地に侵略しに来てんじゃねえよ。

 

さて、どうするか。小町にとっとと行けと追い出されたものの、三十分前はこんな流石に早すぎーーーー

 

「え……と、比企谷くん…だよね?」

 

「ん?」

 

近くからそんな声がしたので、声の下方向を向いてみると其処にはいつか見た怪しさ全開の服装で立っている来栖がいた。つーか、相変わらず顔は伊達眼鏡をかけるのはいいけど、隠せてない。

 

「うん。何か何時もと雰囲気が違ったから不安だったけど、やっぱり比企谷くんだ」

 

「そういうお前は前と同じで怪しさ全開だな」

 

「えっへん。我ながら完璧な変装だと自負してるよ」

 

どうやら本人にとってこの変装(笑)は完璧らしい。なにその穴だらけの完璧。それだと○五郎のおっちゃんの推理も完璧になるんだけど。コ○ンくん必要ないじゃん。

 

「先に言っとくが、顔見たら一発でばれるぞ」

 

「ほぇ?ウソダドンドコドーン」

 

「嘘じゃねえよ、携帯で見てみろ」

 

そう促すと来栖はスマホを取り出して画面を見たあと、「やっちまったー!」的なリアクションを取って、がくりとうなだれた。

 

「……ホントだ。完璧だと思ってたのに……」

 

「お前って妙なところで抜けてんのな」

 

「あはは、よく言われる」

 

やっぱりよく言われちゃうんだ。なんとなーく、小町と同じ匂いがするとは思ってたが、そういうことか。

 

「うぅ〜、でもどうしよう。マスクを苦しいから嫌なんだけどなぁ」

 

うぬぬ、と唸りながら来栖は胸の前で腕を組んで思考する。

 

まぁ、アニメじゃよくあるよな。頭良いけど天然みたいなやつ。それを現実で見るとは思わなかったが、俺の対策はどうやら功を奏したようだ。

 

「マスクが嫌なら、これ掛けてみろよ」

 

俺が差し出したのは俺が後生大事に持っていたサングラス(¥2980)。家の引き出しの中に眠っていたのを持ってきた。

 

これを魔眼封じと称して家の中やラノベを買いに行っていたのは今でも鮮明に思い出せる黒歴史だ。何やってたんだ、あの頃の俺。

 

とはいえ、その黒歴史は初めて役に立ちそうだ。

 

「いいの?」

 

「元々、お前がこうなるかもしれないって思って持ってきてたからな。気にするな」

 

「そうなの?じゃあ、早速……」

 

来栖は伊達眼鏡を外すと俺の渡したサングラスをかけて、携帯に映る自分の顔を見て「おおっ!」と感嘆の声を上げていた。

 

これが普通の女子なら「私、超似合ってるんですけどー」的な意味合いの声かもしれんが、こいつの場合は「これで完璧な変装だぜっ!」的な意味合いの方が強そうだ。というか、実際そうに違いない。今もひたすら楽しそうに様々な角度から自分を見ていた。

 

「……そんなに気に入ったんならやるぞ」

 

「ホントに⁉︎やたっ!」

 

だから嬉しいのはわかったから跳ねるな。超揺れてるから。つか、デカ過ぎないキミ?まだ中学二年生だよ?近頃の若いモンはけしからんなぁ。もしかして小町も二年後にはこんな感じに成長……するわけないか。うん、流石にそれはない。

 

と、思ってたら、来栖は跳ねるのをやめて、一歩こちらに詰め寄ってきた。もしかして俺の心を読んだのか⁉︎……ないな。

 

「じゃあ……はい」

 

差し出されたのは先程まで来栖自身が掛けていた伊達眼鏡。

 

はいって、これをどうしろと?

 

俺が視線でそう問いかけると視線の意味に気付いたのか、手にしていた伊達眼鏡を両手で取るとそのまま俺の目元へと掛けた。

 

「比企谷くんのサングラスと交換。比企谷くん、顔が小さいからちょうどいいね」

 

「…………いいのか、これ」

 

「うん。だって変装のために買ったのに、効果がないんじゃ意味ないし、比企谷くんがくれたからもう使わなくなるだろうから。それにその眼鏡。比企谷くんに凄く似合ってるよ?何時もはちょっと目つきが悪い分、眼鏡のお蔭で緩和されてて、知的さが出てる」

 

「目つき、ね」

 

大体の奴らは『目つきが』じゃなくて、『目が』って言ってたのにな。

 

まぁ、それは俺の人生経験上、仕方のないことだ。多分、あの一件を経て、その腐り具合は更に悪化しただろう。そりゃもう、女子が直視したら呪われるとか言い出すくらいに。

 

そういえば、女子から交換とはいえ貰い物をした事は初めてだな。

 

特別感があるわけじゃないし、彼女は俺がサングラスをあげたから、じゃあ自分もみたいな感じで渡したのだろう。実際、必要がなくなったからとも言っていた。

 

たった一月ちょっとほどの付き合いしかないが、彼女は優しい。

 

それは折本かおりのような表面上の、上辺だけの優しさじゃなく、心の底からそう思ったことを口にする優しさだ。俺と話していない時も隣の席で他の友人達と話している時も嘘は言っていないように見えるし、誰かに対しての悪口も言っているのを聞いたことはない。

 

女という生き物は基本的に共通の敵を作ることが仲良くなる一番の近道だ。

 

それは中学生でもよく見られる現象で、同じ人間が気に入らない人間同士が集まり、愚痴をこぼし合う。

 

そうする事で仲を深めていくのだが、また別の友人と仲良くなるときは先程まで話していたはずの友人の悪口を言いはじめる。そんな恐ろしい存在だ。

 

実際、俺はその共通の敵ーー寧ろ害悪として常に女子の嫌悪感に晒され続けてきた。

 

だからわかる。今目の前にいる来栖茜は俺を嫌っても気持ち悪がっても邪魔者扱いも同情もしていないことも。クラスにいる友人と接する時のように俺のような人間と接してくれている事が。

 

けれど、それと同じくらいに信用出来ていない。

 

それは彼女自身ではなく、他でもない俺自身を。

 

あれだけ散々嫌な思いや目に遭わせられてきて、だというのに折本かおりの本質を見抜けず、上辺だけの優しさに惹かれた。結局、知った気になって何も知らなかった。わかっていなかった。

 

それは今もそうじゃないのか?

 

来栖茜の事を分かった気になって、本当は何もわかっていないんじゃないのか?

 

「比企谷くん?行かないの?」

 

「……いや、行こう」

 

今まで自分の事だけは絶対と信じて疑わなかったのに、俺は初めて自分というものがわからなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっ!ここが幕張メッセかぁ〜!」

 

「時間までまだ一時間あんのに結構いんのな」

 

周囲を見渡すと既にそこら中に今回のイベントが目的であろう人間で溢れかえっていた。実際、電車の中でもそれらしき人間ばかりではあったけどな。

 

「ちっちっちー、甘いよ、比企谷くん。まだ、じゃなくて、もう、だよ」

 

やれやれと言った風に来栖は言う。

 

何熟練者みたいな事言ってんだ。お前だって来るの初めてって言ってただろうが。

 

「時間まで何するんだ?」

 

「当然っ!イベントに合わせて出てるお店を見て回るんだっ!何せ、この日の為にお金は貯金してきたからっ!」

 

「へー、何円?」

 

「五万円」

 

興味本意で聞いたら結構な額でした。キミ、中学生ですよね?

 

因みに俺は二万円。これでも結構コツコツと貯めてきた方だ。異常なのは目の前にいる全身黒づくめの怪しさ全開サングラス女である。

 

言葉に起こしてみると酷いやつだな。

 

「さあっ、レッツゴーだよ、比企谷くん!」

 

「嬉しいのはわかるが、はしゃぎすぎるな……って聞いてねえよ」

 

俺が言い切るよりも早く、既に来栖は動き出していた。

 

妹よ。この光景を見てもなお、デートがうんたらかんたら言えたら凄いぞ?俺としては遊園地に甥を連れてきた叔父のような感覚だ。まぁ、そんな事したことないからわからないけどな。

 

仕方ないので、そのまま後を追いかけるが、ここからがとてつもなく不毛な争いだった。

 

俺が来栖を見つけて、その場に辿り着くと来栖は買い物を済ませて次の場にダッシュ。

 

荷物を持っても俊敏性が増すばかりの彼女を見失い、やっとの思いで見つけ出し、追いつくとまた彼女は離脱する。

 

推測で動こうものなら、逆方向に動き出す始末。お前わざとやってるだろ、って言いたいレベル。

 

そしてそうこうしているうちに見失ってしまった。

 

完全に逸れちまった。

 

二人で一緒に来て逸れるとかどうなってんの?小町、こんなスリリングなのがデートっていうならお兄ちゃんは彼女なんて作りたくないよ。そもそも俺に彼女が出来るのかすら甚だ疑問ではあるが。

 

電話でどの辺りにいるか確認してみるか。と思うが、生憎この人混みだ。

 

それにこれといって目印になりそうなモンもねえし、どの店って言われてもわからん。

 

「仕方ない。探す……必要は無さそうだな」

 

専業主夫志望の俺がしたくもない探偵業をしようとした時、すぐに逸れた人物は見つかった。

 

……尤も、何かもの凄くわたわたと慌てているが。

 

しょうがないので人混みを掻き分けつつ、その場まで走る。

 

近づくにつれ、なお一層彼女が慌てているのがわかる。

 

こんなところなのに怖いお兄さんにでもぶつかったのか?

 

もし、そうならどうするか。生憎、俺は腕っぷしの方には全くと言っていいほど自信が無い。

 

や、だって専業主夫志望だしな。護ってもらう側だから強い必要なくね?

 

取り敢えず脳内で相手が怖いお兄さんだった時にどうやってその場を乗り切るか、と考えていた俺だったが、現場に着いた途端、拍子抜けした。

 

わたわたと慌てている来栖の向かい側に立っていたのは何かガタイの良さそうな長身のお兄さん。

 

確かにこれを見れば焦るな…………相手も平謝りしてなければだが。

 

「何やってんの……キミら」

 

俺もそう言わざるを得なかった。

 

慌てて言葉が無茶苦茶になってる連れの女の子とそれに対してやたらと平謝りしているラグビー部か何かかと問いたくなる程ガタイの良い兄ちゃん。シュール過ぎるぞ、この光景。

 

「あ、あの、そちらさんのお友達の方ですか?」

 

「お、おう」

 

しかも滅茶苦茶言葉遣いが丁寧だった。

 

何、キミ。○代高校のラグビー部の人?練習前にお祈りでもすんの?軍曹呼ぶよ?

 

「すみません、そちらの方とぶつかってしまって……ほら、僕って無駄に図体がデカくてよく怒られるんですよ……それによく周りの人にも怖がられるし……」

 

確かに怖いね。無言でキョロキョロしてたら、俺みたいな人間ならキョドってるだけに見えるが、そちらさんなら確実にいちゃもんつけるために何かを探してるようにしか見えん。

 

「あの、本当にすみませんでした!」

 

「い、いや、大丈夫なんで……。こっちにも非はあるし、お互い謝ったということで良しって事で……」

 

出来ればその図体でぺこぺこしないでください。寧ろ焦る。

 

「ほれ、行くぞ。来栖」

 

「…………」

 

わたわたと焦る来栖の手を掴んでそそくさとその場を離れる。

 

嫌かもしれないが、我慢してもらうしかない。一刻も早くあの場を離れんと謝罪のゲシュタルト崩壊が起きそうだ。というか、悪夢でさっきの男が謝る様を延々と見そう。

 

それなりに歩いたところで一旦止まる。いい加減離さないと怒られるかもしれないしな。

 

「なぁ「びぎがや゛ぐん゛!」うおっ⁉︎」

 

振り返ると鼻水垂らして泣いてる来栖がいて、そのままこちらに抱きついてきた。

 

そんなに嫌だった?でもそのまま抱きついたらもっと嫌な気持ちになるよ?

 

「ゔぅ〜、ごわ゛がっだ〜」

 

怖いのは現在進行形で濁点つきまくりのお前の言葉だけどな。

 

「そうだな。これに懲りたら少しは大人しくしろ。つか、その前に涙とか拭け」

 

小町に渡されていたハンカチ(未使用)を来栖に渡すとそのまま鼻にあてがって思いっきり鼻をチーンってした。

 

「おいぃぃぃぃ!何やってんの⁉︎」

 

「ほぇ?鼻をかんだんだけど……って、あ!これハンカチだった!」

 

「どこからどう見たらそれがティッシュに見えるんだよ……」

 

「ご、ごめん!比企谷くん!これ絶対に洗って返すから!」

 

「いや、別に良いよ。適当に水洗いで」

 

女の子の家で洗濯されたハンカチとか何か妄想しちゃうじゃないですか、ヤダー。

 

「ううん!絶対に洗って返す!自分のミスは自分で責任取らないと!」

 

どうにも彼女は妙なところで責任感が強いらしい。別にハンカチの一枚や二枚どうってことはないのに。

 

結局、俺は来栖の確固たる意志を崩すことは出来ず、ハンカチは後日洗って返してもらうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むふふーん♪今日はとても充実した日だったよ」

 

「……そうか。そりゃ良かったな」

 

満足気な表情で鼻唄を歌いながら歩く来栖に俺は疲労しきった声音で返した。

 

あの後、一応イベントが始まるまで俺の言うことを聞いて一人で突っ走るのはやめてくれはしたものの、それはあくまで「一人で」であって、俺の手をひっつかんで走り回らされた。

 

授業でもこんなに走り回ったことはない。そもそも体育とか真面目にやってないから走らない。明日絶対筋肉痛だわ、これ。

 

「比企谷くんも今日は楽しめた?」

 

「楽しいっつーか…………いや、楽しかった」

 

わざわざ、疲れたなどという必要はない。事実、疲労よりも楽しさが上回っていたのだから。

 

「そっか。私も多分人生で一番楽しめたと思う。自分の趣味に没頭出来て、隣にそれを分かち合える人がいる。人間ってこんなに簡単に幸せになれるんだね」

 

「……そうだな」

 

サングラスをかけているというのに何故だか来栖の微笑みにドキッとした。今日は柄にもないことをしすぎたせいだろうか。

 

「今日は付き合ってくれてありがと、比企谷くん。それに助けてくれた事も」

 

「……あれは別に助けたとはいわん。相手が相手ならどうしようもなかった」

 

「それでもだよ。比企谷くんが助けてくれたことには変わりないから。今度、前の分と合わせてお礼しないとね」

 

そんな事言ってたな。お礼なんて必要ないんだが、言うだけ無駄か。

 

「また学校でね、比企谷くん!今日の比企谷くん、かっこよかったよ〜!」

 

恥ずかしい事を大声で言うな。

 

幸い、この辺に人はいないし、大丈夫だと思うが。

 

「また学校で……か」

 

来栖とこうして別れる度に言われるこの言葉。

 

そこらにいる中学生にとってそれは当たり前の挨拶だ。

 

けれど、そんな事を言われた事がない俺にとってはいつ聞いても新鮮で、黒歴史の跋扈するあの学校に唯一行く意味にすらなっていた。

 

本当に柄でもない。

 

誰かと一緒にいることに安らぎを感じるのは。

 

何時だって一人で居続けた俺が、他人といることに苦痛を感じないのは。

 

でも、それも悪くはないのかもしれない。

 

きっとリア充共も、こんな心地良さがあるから欺瞞でしかない友達付き合いを続けるのだろう。

 

こんな俺が彼女にとっての友人と呼んでいい存在かは疑問であるが。

 

妙な充足感を感じつつ、自らの自宅に帰るために踵を返した俺を鋭い衝撃が襲った。


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