人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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どうも、遅れましたが、久々の投稿です!

最近性懲りも無く新しいのを描いた上にゲームのイベントもあって大変でした。睡眠時間を削りつつ書いたので誤字とかあるかもしれませんが、その時は報告よろしくお願いします。

さあ、今回はいよいよイケボのオタク出現です!


どこまでも材木座義輝は覇道を進む

 

由比ヶ浜の依頼を無事解決してから翌日の事である。

 

同じクラスであるため、彼女の変化を見てみたが、なかなか良い感じだった。

 

具体的に言うと周囲の友人達が彼女の変化を完全に捉え、受け入れられる程には変化があった。

 

これで周囲の友人達に敬遠されれば、元の木阿弥どころか、寧ろ本末転倒ではあるのだが、受け入れられているのならばそれでよし。依頼は完全に解決したと言える。

 

一つ目にしては難易度が高かったが、その分終わった後の達成感はそれなりにある。

 

放課後になって、同じように奉仕部の部室に向かおうとしていた時だった。

 

「ヒッキー!」

 

ヒッキーって誰だろう。そんな奇抜な名前を持つ人間が世の中にはいるんだな。それはもう親を恨んでもいいレベルだな。というか、それを採用した市役所職員も殺していい。某ルーシーさんよろしく。

 

「ちょっと、ヒッキー!無視しないでよ!」

 

ぐいっと思いっきり肩を引っ張られて、強制的に反転させられる。

 

「なんで無視すんの?」

 

「寧ろ、何で返事しないといけないの?」

 

「名前呼んでるじゃん」

 

「俺は比企谷八幡ていう親から頂いた大変名誉ある名前はあるが、ヒッキーなんて引きこもりの派生キャラみたいな名前をしてるつもりはない」

 

「はぁ?ヒッキーはヒッキーでしょ」

 

こいつ何言ってんのみたいな顔をされた。

 

ラノベだと今の台詞は良い感じの台詞で少し感動を覚えるシーンなどで用いられるものなのに、現実だとこうも差があるのだろうか。遠回しに普通に呼んでくれと言ったつもりだったのだが、どうにも通じていないらしい。

 

「まぁ、それはこの際置いておくとして、何の用だ」

 

「ヒッキー、この後奉仕部に行くんでしょ?私も行こうかと思って」

 

「なんで?」

 

「なんでって……ほら、私暇じゃん?」

 

「知らねーよ」

 

お前の暇を何で俺が知ってるんだ。しかも『じゃん』とか広島弁かっつーの。

 

「つーか、うちの部を暇潰しに使うのはやめてほしいんだが……」

 

うちの部というとさながら俺が部長みたいなので些か語弊があるかもしれないが、とにかくうちの部だ。

 

あの部はある意味では生徒の為に創られた生徒による補助システム。

 

基本的に暇を持て余すことが理想的なのだが、思春期真っ盛りの高校生にとって、悩みというものは付いて回ってくる。それはもうホーミングしてくる。必殺必中である。

 

それ故にあの部活動は暇潰しと称して来られると些かどころか、結構困る。邪魔とまでは言わないまでも、妨げになる可能性も一応ある。

 

「あ!じゃあさ、こうしない!」

 

「どうするんだよ」

 

「私もほうしぶ?に入るの!」

 

名案とばかりに由比ヶ浜はポンと手を叩く。

 

それで解決してるのか。お前の頭の中はどうなってるんだ。

 

そう問いかけたくなったが、強ち間違ってはいない事に気がついた。

 

よくよく考えてみれば、由比ヶ浜は上位カーストに存在する謂わば『リア充』に近い立ち位置の存在だ。

 

人の顔色を伺っていた性格は他人の心の機微に聡いという事だ。空気も読める。

 

対して俺と雪ノ下は友達がほぼいない上に社交性なんてあってないようなもの。特に雪ノ下なんて酷いものである。茜と会う前の俺に毛が生えた程度しかない。

 

現在の俺も社交性の低さには定評があるために、奉仕部を創ったはいいが、話を聴く側が優秀ではあるが、万能ではない上に欠陥部分が致命的過ぎて、いずれ大変な事になる可能性もある。

 

となると、大事に至る前に早々に欠陥部分を補いたいわけだが、その部分を補える人物が目の前にいる。

 

本来は茜が理想的だが、生憎茜は生徒会。部との両立は不可能だ。

 

ならば別の人物にすべきだ。そしてその基準を満たしているのは由比ヶ浜。他の人間を探すまでもない。

 

「わかった。部室に着いたら、雪ノ下に相談するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、部室に着いたものの、其処では雪ノ下が扉の前で立ち尽くしていた。

 

「何してんの?」

 

「ひゃうっ!」

 

可愛らしい悲鳴と同時に、びくびくびくぅっ!と雪ノ下の身体が跳ねる。

 

「比企谷くん……び、びっくりした……」

 

「驚いたのは俺の方だよ」

 

まぁ、その反応は小町で慣れたけどな。後、カマクラ。

 

「それより比企谷くん。何故由比ヶ浜さんがいるのかしら?依頼は完全に解決したと思ったのだけれど」

 

「その事なんだがな。由比ヶ浜も奉仕部に入部したいらしいんだが、俺としても昨日の一件でこの部の欠点みたいなものはわかったからな。由比ヶ浜の入部には賛成だ」

 

「つまり後は私の是非が問題なわけね………」

 

そう言って雪ノ下は由比ヶ浜の方を見る。

 

見られた由比ヶ浜は何を思ったのか、嬉しそうにはにかんだ。本当に何考えたんだろう。微塵も拒否されることを考えていない顔だ。

 

「……いいでしょう。由比ヶ浜結衣さん。貴女の奉仕部への入部を認めるわ」

 

「ありがとう!ゆき「けれど」なに?」

 

「入部届は書いてちょうだいね。入部するのだから、正規の手続きは必要よ」

 

「因みに正規っていうのは規則などではっきり決まっていることだ」

 

「そ、それぐらいわかってるし!私だって、ちゃんと入試受けて入ってきたんだからっ!」

 

そう言う割には由比ヶ浜の目は泳いでいた。それはもう水を得た魚のように。どうやら由比ヶ浜は嘘をつくのが下手なようだ。愛嬌があるとすら思えるほどに。

 

「で、話は戻るが、何してんの?」

 

「部室に不審者がいるのよ」

 

「不審者?」

 

雪ノ下の言葉に首を傾げつつ、慎重に扉を開いて中に入る。

 

扉を開いた瞬間に、吹き抜ける潮風。この海辺に立つ学校特有の風向きで教室内にプリントが舞い散る。

 

「クククッ、まさかこんなところで出会うとは驚いたな。ーーー待ちわびたぞ、比企谷八幡!」

 

「な、なんだとっ⁉︎」

 

驚いたのか、待ちわびたのかどっちかにしてほしいが、取り敢えずノリで言ってみる。

 

舞い散る白い紙をかきわけ、相手の姿を見極める。

 

果たしてそこにいたのは……いや、あんな奴知らない。材木座義輝なんて存在は知らない。

 

いや、正直言って大体が知らない奴なんだが、その中でもこいつとは断トツでお近づきになりたくない。もうすぐ初夏だというのに汗をかきながらコートを羽織って指ぬきグローブをはめてる。

 

こいつを見ていると昔の黒歴史も思い出すから余計に近づきたくない。視界に入れたくない。

 

「比企谷くん。あちらはあなたの事を知っているようだけど……」

 

雪ノ下が俺の背中に隠れながらも、怪訝な表情で俺とあちらを見比べる。その不躾すぎる視線に相手は怯んだものの、すぐさま俺に視線を向け、腕を組み直して低く笑う。

 

「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな………見下げ果てたぞ、八幡」

 

「相棒って言ってるよ?」

 

由比ヶ浜が冷ややかな視線で問うてきた。その視線はどう考えても俺とあいつを同類にした挙句、軽蔑しているように見えた。酷すぎる誤解だ。

 

「そうだ相棒。貴様も覚えているであろう。あの地獄のような時間を共に駆け抜けた日々を……」

 

「体育でペア組まされただけじゃねえか……」

 

我慢しきれずに言い返すと、相手は苦々しげな表情を浮かべた。

 

「ふん。あのような悪しき風習、地獄以外の何物でもない。好きな相手と組めだと?クックックッ、我はいつ果つるともわからぬ身、好ましく思うものなど、作らぬっ!……あの身を引き裂かれるような別れは二度は要らぬ。あれが愛なら、愛など要らぬっ!」

 

「能書きはいい。何しに来た材木座」

 

「むっ、我が魂に刻まれし名を口にしたか。いかにも我が剣豪将軍・材木座義輝だ」

 

ばさっとコートを力強く靡かせて、ぽっちゃりおした顔にきりりっとやたら男前な表情を浮かべてこちらを振り返る材木座。自分の作った設定に完全に入り込んでいる。それを見るたび頭がいたくなる。

 

「ねぇ……それ何なの?」

 

不機嫌というよりも明らかな不快感を持って、由比ヶ浜は俺と材木座を見る。何故に俺も含まれてるんだ。

 

「こいつは材木座義輝。誠に遺憾だが……体育の時間、ペア組んでるやつだよ」

 

それ以上それ以下でもない。寧ろそれ以上になりたくない。

 

とはいえ、先程も材木座が述べたように好きな人とペアを作るというのは軽く地獄である。

 

材木座もその痛さゆえにあの瞬間の辛さを味わっている。

 

俺と材木座は最初の体育の時間、余ったもの同士で組まされて以来、ずっとペアだ。正直、この厨二病ど真ん中男をどこかにトレードしたいのだが、成立するはずもなく諦めている。

 

一方で俺がFA宣言をする事も考えたが、そうなると色々と悪目立ちしかねない。具体的には俺という優秀な選手を葉山かまた戸部あたりが嬉々として組みそうだから。

 

そうなると戸部はともかくとして、葉山と組めば葉山グループの面々から刺すような視線で見られる。戸部は別の意味でウザい。あれも個性だが、とにかくウザい。

 

で、結局はこうなっているというわけだ。

 

「それで?そのお友達は比企谷くんにようがあるようだけれど……」

 

「ムハハハ、とんと失念しておった。時に八幡よ。奉仕部とはここでいいのか?」

 

なんだよ、その笑い方。最近の個性的なキャラでももうちょっとマシな笑い方がある。

 

「ええ、ここが奉仕部よ」

 

俺の代わりに雪ノ下が答えた。すると、材木座は一瞬雪ノ下の方を見てから、すぐさま俺の方へと視線を戻す。だからなんでこっち見んだよ。

 

「……そ、そうであったか。平塚教諭に助言頂いた通りならば八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな?幾百の時を越えてなお、主従関係にあるとは……これも八幡大菩薩の導きか」

 

「その認識には語弊があるわね。ここは願いを叶える手伝いをするだけ、叶えてあげるのではないわ」

 

「……。ふ、ふむ。八幡よ。では我に手を貸せ。ふふふ、思えば我とお主は対等な関係。嘗てのように天下を再び握らんとしようではないか」

 

「主従関係はどうした。後、一々こっちみんな」

 

「ゴラムゴラムっ!我とお主の間でそのような些末な事はどうでも良い。特別に赦す」

 

お前の赦しとかいらねーから。というか、材木座的には今のありえない咳き込みでその場を濁したつもりらしい。

 

「すまない。どうやらこの時代は在りし日々に比ぶるに「失礼しまーす」」

 

材木座のウザい言い回しに声を重ねるようにして入ってきたのは………我が恋人にして、絶大なる人気を誇る生徒会副会長来栖茜だった。

 

「扉が開いてたから何事かと思ったけど、もしかしてお邪魔だった?」

 

「邪魔ではないわ。寧ろファインプレーよ」

 

「ああ。今のプレーは間違いなくバロンドールものだな」

 

「あ、え?よ、よくわかんないけど、流石だね!来栖さん!」

 

雪ノ下と俺の賞賛にとりあえず乗っかる形で由比ヶ浜も褒める。

 

ちなみにどの辺がファインプレーでバロンドールものかと言うと、あのウザったい言い回しを嫌味なく、半ば強制的に止めたことだ。ぶっちゃけ無理矢理止めても良かったが、何事も平和的な解決が一番だ。後、何の接点もないであろう由比ヶ浜も茜の事を知っている辺り、知名度高い。この学校で聖杯戦争したら知名度補正で間違いなく最強のサーヴァントになるな。もちろん、俺は最弱。だが、ぼっち生活で鍛えられしスキルはハサンすらも超える。俺を捉えられるのは茜と雪ノ下くらいだ。………最強の奴らに見つかるなら駄目じゃん。

 

「……して、八幡よ」

 

この状況ですら、材木座は一瞬言葉を止めただけだった。

 

お前本格的にメンタルどうなってんの?つーか、お前の目には俺しか映ってないの?やだ、ストーカーとか超怖い。

 

「余は汝との契約の下、朕の願いを叶えんがためこの場に馳せ参じた。それは実に崇高なる気高き野望にしてただ一つの希望だ」

 

全然メンタル強くなかった。最早一人称も二人称もぶれぶれである。メトロノームばり。

 

「今こそ、我らの魂に刻まれし宿命の為、我と共に覇道を進もうではないか、八幡!」

 

嫌です。勘弁してください。

 

材木座の言動にげんなりし、疑惑の目を向け、嫌悪感のある瞳で見ている俺達。

 

その中でただ一人。違う反応をするものがいた。

 

「ーー否。貴殿に刻まれし魂の宿命は既に失われている」

 

「「「え?」」」

 

俺、雪ノ下、由比ヶ浜の三人が思わず間の抜けた声を上げるほどに、それは異様な光景だった。

 

下ろしていた前髪を上げてカチューシャで固定し、何処からか取り出した海賊なんかが付けている黒い眼帯を装備している制服のブレザーを羽織っているだけの姿の茜がそこにいた。

 

「我こそが比企谷八幡と因果の鎖で縛られし者。永久に流るる時の中、幾度の転生を果たしてなお、我等の魂に打ち込まれし楔は解かれることはない。神であろうと、我等を分かつ事など出来はしない。それは貴殿のような存在であろうともな!」

 

びしっと指をさしてそう宣言する茜に顎が外れるのではないかというくらいに口を開けていた。

 

茜が……茜が、材木座に汚染された⁉︎

 

「帰ってこい、茜!お前はそっちに行っちゃいけないんだ!」

 

「何を言うか、八幡。この世界に善悪の線引きなど存在しない。あるのは歪んだ価値観のみよ」

 

「駄目だ!茜が重傷だ!雪ノ下救急車よべ!」

 

「わかっているわ。脳外科の病院で良いのよね?」

 

「ヒッキー、焦りすぎ!ていうか、ゆきのんも本気で呼ぼうとしないで!」

 

「そうだぞ、八幡。彼女は正常だ。間違っているのはこのせかーー」

 

「うるせえ、それ以上喋ったらぶっ殺すぞ」

 

割と本気で殺意を滲ませてしまった。

 

だが、それもこれも材木座が悪い。こいつのせいで茜が変な方向に汚染されてしまった。

 

正直茜なら厨二病だろうがなんだろうが全然気にしないが、癒し成分が減るのはいただけないどころか致命的だからやっぱり駄目だ。

 

「由比ヶ浜さんの言う通りだよ、八幡、雪乃ちゃん。私は別におかしくなってないから、病院には行かなくてもいいよ?」

 

カチューシャと眼帯を外して、ポケットに直しつつ、茜は苦笑いを浮かべてそう答えた。どうやら、本当に問題ないらしい。割と本気でしんぱいした。

 

「まさか思わぬ掘り出し物を手に入れたと思ったら、早速有効活用出来る機会があったから、つい」

 

「何の前触れもなく、厨二病全開になったから、一瞬再発したのかと思って焦ったぞ」

 

「再発も何も私は何時も厨二病武装してるよ?」

 

「そんな武装はしなくていい」

 

とはいえ、茜の厨二病はあんまり人様に迷惑かけないし、常に発動していないからかなり軽度だ。上手く使い分けているとも言えるが、発動した時はなんか色々凄いことになる。完全に役にのめり込んだ暁には止めるのにかなり苦労する。寝て起きたら元どおりにはなるが。

 

「とにかく、茜さんは無事なのね……良かった」

 

「ゆきのんそんなに心配してたんだ⁉︎」

 

「当たり前よ。と、と、友達の事を心配するのは当然だと思うのだけれど……」

 

尻すぼみに雪ノ下の声は小さくなった。

 

よほど友達と面と向かって誰かに言うのは恥ずかしかったらしい。

 

まぁ、俺もそういうのは少しだけ照れくさかったりもする。

 

茜は恋人、折本は悪友。

 

どちらも口にするのは全く恥ずかしくないが、雪ノ下のように普通に友人となると自然とどもるかもしれない。というかどもる。

 

「と、ところで先程から二人の言っている厨二病というのは何かしら?」

 

恥ずかしさを誤魔化すように雪ノ下は咳払いをした後、問いかけてきた。

 

なんでも知っていそうな雪ノ下ではあるが、興味の無いことに関してはとことん無関心らしい。

 

この様子だと「略語」とか「2ちゃん用語」とか、最近使われている言葉はわからなさそうだな。

 

「あ、それ私も聴きたかった。厨二病ってなに?病気?」

 

「実在する病気じゃねえ。一種のスラングだと思ってくれればいい。厨二病っていうのはーー」

 

「少年の心を忘れない、謂わば夢に溢れた精神状態の事を指すんだよっ!」

 

俺の言葉にかぶせるように、茜が言う。

 

無駄にキメ顔なのはご愛嬌。茜だから許す。

 

それを聞いた由比ヶ浜は未だ頭の上にハテナマークを浮かべているものの、雪ノ下は納得したように頷いた?

 

「つまり、現実を直視できない頭の痛い人ということに…………ごめんなさい。別に貶すつもりはなかったの。私の性格上、どうしてもそう捉えてしまっただけだから、そんな哀しそうな顔をしないでちょうだい」

 

「ゆきのん早っ⁉︎言い切る前に訂正しちゃった⁉︎」

 

「当たり前よ。誤解を正すのは早い越したことはないわ。後、ゆきのんというのは何かしら?やめてほしいのだけれど」

 

「いいんじゃないか、ゆきのん。早くも友達が増え………すみません。トチ狂いました」

 

ゆきのんって呼んだ瞬間に凄まじい殺気が飛んできた。

 

しかもどういうテクニックか、茜には気付かれていない。やば、こいつ暗殺者とか超向いてんじゃねえの?

 

まぁ、こいつの場合は視線で人を殺すラスボスの方がお似合いだけどな。

 

「私もいいと思うけどなぁ、ゆきのん」

 

「……流石に貴女でもゆきのんはやめてほしいわ。何か幼稚園で付けられそうなあだ名で嫌なの」

 

それは暗に由比ヶ浜のあだ名レベルが幼稚園並と言っているのだろうか。

 

本人は気づいていないので別にいいが。

 

「それはともかく、材……なんとか君の依頼は心の病気を治すって事でいいのかしら?」

 

「おい、ついさっき言ったばかりなんだから、覚えておけよ」

 

「冗談よ。材木屋くんよね」

 

「違うよ、ゆきのん。ちゅうにだよ、ちゅうに」

 

おい、店になってるじゃねえか。由比ヶ浜のなんて名前ですらねえよ。材木座のざの字もねえじゃねえか。

 

因みに茜は知らないので、キョトンと首を傾げている。

 

生徒達と積極的に触れ合っている茜ではあるが、材木座の方から避けているのであれば、いくら茜でも無理だろう。ぼっちというのは認識した瞬間、集中的に追い詰めなければすぐに逃げる生物だ。何せ、キングメタルよりも逃げやすい。

 

まぁ、どちらにしても、この様子と言動から考えて、厨二病を治すためにここに訪れたという可能性は限りなく低そうだ。

 

というのも、まず自分から訪れたにしては厨二病を抑える気がサラサラないことだ。

 

治したいなら抑制しようと努力するだろうし、先生に更生のために連れてこられたのではなく、この場所を聞いて訪ねてきたということは、玄関の張り紙を見ずに、平塚先生に相談したということになる。もしかしたら、由比ヶ浜の依頼が入っていた時に入っていた可能性もあるが。

 

その時、茜がふと視線を下に落とした後、しゃがんで一枚の紙を拾った。

 

それは扉を開けた際にこの教室内を舞った紙の一枚だ。

 

床の至る所に散らかっているそれの一枚を俺も手に取ってみる。

 

「これは……」

 

「あれ……だよね。八幡」

 

「ふむ。言わずとも通じるとは流石だな。我が同志達よ」

 

同志扱いされたが、全力で無視。相手にするだけ疲れる。

 

「それ何?」

 

百聞は一見にしかず、問いかけてきた由比ヶ浜に紙を渡す。

 

ざっとそれを見てみた由比ヶ浜は疑問符を浮かべて俺に返してきた。まぁ、何も知らない奴はわからないよな。俺も材木座の性格とあり得ないルビを見て気づいたからな。

 

「これ何?」

 

「小説の原稿、だと思うぞ」

 

「それもライトノベルだよね。異能バトルものの」

 

「ご賢察痛み入る。如何にもそれはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようとしているが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」

 

「何か今とても悲しい事をさらりと言われた気がするわ……」

 

厨二病を患った者がラノベ作家を目指すようになるのは当然の帰結だ。ぶっちゃけ、俺も目指したし、茜も目指していた時期があったそうだ。

 

だが、俺も茜も致命的に極端な話しか作れなかった。

 

救いのないバッドエンドと、誰も不幸にならないハッピーエンド。

 

試しに二人合わせて書けばいけるんじゃね?となったものの、いくら仲良しでも正反対の意見はまとまるはずも無く、御開きとなった。

 

自分の描きたいものを書き、好きなことで食べていけるのはいいことだ。

 

材木座がそれに至る理由はわかるが、わからないのは俺達にわざわざ見せようとすることだ。

 

「投稿サイトとかスレとかに晒したほうがよくないか?」

 

「それは無理だ。彼奴等は容赦ないからな。酷評されたら多分死ぬぞ、我」

 

メンタル弱え……

 

確かに顔の見えないネット越しの相手なら斟酌せず言いたい放題だろう。俺だって、ネット越しなら流暢にペラペラと話せる。

 

友人同士なら気遣いもあるだろうし、やはり面と向かって酷評するというのには体裁なども考えて相当の勇気が必要となる。あくまで一般的に考えれば、だが。

 

「まぁ、いいんじゃねえか」

 

ちらりと雪ノ下の方を見てみると、雪ノ下と目が合い、キョトンと首を傾げていた。

 

いつも知らぬは本人ばかり。

 

多分、ネット越しの酷評よりも雪ノ下の面と向かっての酷評の方が酷いと思うよ?

 

その言葉を俺は飲み込んだ。


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