ベルの大冒険   作:通りすがりの中二病

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開幕

(……何か、やたら視線を感じるな……)

ミアからご馳走された軽食を摘みながら、ベルは思った。

少し前からやたら店内から視線を感じる、最初は気のせいかとも思ったがどうやら違う様だ

見られている、どういう訳か知らないが…自分はこの店にいる誰かに、確実に見られている。

(……さっきのミア母さんとの会話、アレが切っ掛けだったな……)

先程、ミアとの世間話の最中に一際強い視線を感じた

自分は今日この都市に着いたばかりだし、恨みを買われる様な理由も覚えもない

仮に金目当ての物取りだったしても、今の自分の格好を見て獲物にしようとは思わないだろう

となると、先ほどの会話そのものが自分が見られている理由…そう考えた方が良いだろう。

(……でも、別段特別な事は話していないしなー……)

幾ら思い返して見ても、先ほど自分たちがしていた会話は当たり障りのない世間話だ

特定な名詞や単語すらも殆ど出てこない、第三者にとっては気に止める程でもない雑談だった筈だ。

ひょいとベルはクラッカーのチーズ乗せを口に入れて、咀嚼しながら考える

せっかくの料理も、考え事をしながらでは味も半減だ

だがしかし、自分に向けられる確かな視線を感じる以上無視するのも出来なかった。

(……確かこういう時って、馬鹿正直に帰るのは悪手って言ってたなー……)

明らかに追跡されている、監視されている状況において、自分の根城を突き止められるのは絶対に避けなければならない事

もし仮に自分をつけ狙う悪意ある第三者に自分の根城を特定されたら、最悪その日に寝込みを襲われる危険があるからだ

今は仮宿暮らしと言えど、やはり寝る時くらいは安心して寝たい

もしもこの視線が店の外を出ても続くようなら、少々用心しなければならないだろう。

(……行動を起こすのなら、早い方がいいな……)

如何に夜の顔を持つ迷宮都市と言えど、流石に深夜になればなるほど人気は少なくなるだろう

万が一の事態が起きた事を考えると、やはりなるべく人気があったほうがやりやすい。

大体の算段はついた、後は行動するのみだ。

「ごちそうさま、会計お願いします」

「ったく、どうしてウチの連中はああも露骨なんだろうね。あれじゃ、どうぞ警戒して下さいって言ってる様なもんじゃないか」

「…申し訳ありません、私のせいで皆気が立ってしまって」

「アンタが気にする事じゃないよ。ポーカーフェイスも碌に出来てない連中に呆れているだけさ」

『豊饒の女主人』のバックヤードにて、ミアとリューはこっそりと食堂から抜けて此処まで来ていた

あそこでは少々人目についてしまうため、内緒話は不向きだったからだ

話は店の客の一人である、自分達にとって聞き逃す事のできない発言をしたベルの事だ。

「……で、アンタの方はどうだい?ここ最近何か変わった事はあったかい?」

「思い当たる事はありません。あの少年の顔にも覚えはないので、今日が恐らく初対面です」

「だろうね。あの坊主は今日オラリオに着いたばかりって言ってたし、雰囲気や仕草が都市に馴染んでいない…ありゃどっちかって言うと田舎生まれ田舎育ちだろうね。典型的なお登りさんだね雰囲気がそんな感じだ」

「…考えすぎ、という事でしょうか?」

 

やや伏し目になりながら、リューはどこか自信なさげな様子で答える

今も尚、彼女が背負い続けている過去

嘗て自分が引き起こし、犯した業

それにより、彼女はギルドのブラックリストに乗っており一時期は懸賞金も掛けられていた。

 

もしもあの少年が『賞金稼ぎ』としてこの都市に、この店に現れたのだとしたら…自分を狙ってきた可能性が高い。

 

「だけど、確かにあたしもちょいと気になる事がある。あの坊主はこの五~六年は賞金稼ぎとして生計を立てていたって言ってた

あの坊主は見たところ十四から十五って所だ…年の計算がちょいと合うとは思えないね」

 

言葉通りに受け取れば、あの白髪の少年は十歳にも満たない頃から賞金稼ぎや魔物狩猟で生活していた事になる

『剣姫』という前例もあるが、あれは例外中の例外だ。

 

「師匠がいるって言ってたけど、その師匠がよほど悪人なのか狂人なのか…まあ、よっぽど頭がいかれてるかブっ飛んでるかのどちらかだね…だが、もしもそうじゃないのだとしたら」

「揺さぶりかカマ掛けか、こちらの反応を見る為の言葉だった…という事ですか?」

 

リューは確認するように、ミアに尋ねる。

『五年前』というのは、自分がとある事件に巻き込まれ、ある惨劇を引き起こしてブラックリストに乗り、懸賞金を掛けられた時期だ

それに、あの白髪の少年は自分の事を驚いた様に見つめていた…今までの情報を整理するに、やはり無関係とは思えない。

 

「確証はないさ。それに、なんつーか…あの坊主は、そういう悪知恵とかを働かせるタイプじゃないと思うね」

「ですが、師匠なる人物がいるという話です。あの少年が仮に無害だとしても、やはり無視できるものではありません」

「かもね、だからと言ってこっちが何かアクションを起こしたらそれこそ藪蛇ってヤツだろう?

現状、いつも通りにしておくのが一番さ…だからアンタも、妙な気は起こすんじゃないよ?」

「…分かりました」

 

渋々、という面持ちでリューはミアの言葉を了承する。

確かに無視できないが、もしも相手がそれを見越しての事だったらミアの言うとおり薮蛇になってしまうだろう

ならばやはり、ここはいつも通りに振舞っているのが一番だろう。

 

そしてリューもミアに続いて食堂に戻る

それとほぼ同時だった。

 

「ごちそうさま、会計お願いします」

 

そんな声が響く、リューが視線を走らせると件の少年が伝票を持って会計待ちしていた

他の皆は給仕あるいは調理の最中だったので、手が空いているのは自分だけだった。

 

あまり疑惑の人物に関わりを持ちたくないが、先程もミアが言っていた様に自然体でいるのがベストだ

そう判断して、リューは会計に入る。

 

「お待たせしました。日替わりディナーセットが一つ、アップルジュースが一つ、合計で…」

 

手早く会計を終わらせる、少年から金を受け取ってお釣を渡す

「ありがとうございました」と、決まり文句を言ってお辞儀をする

まだ疑惑と疑念が晴れた訳ではないが、件の人物が店から出て行く事にリューはホッと一息ついて

 

 

 

「――あの、もしかして昔は冒険者をやってました?」

 

 

 

次の瞬間、心臓を鷲掴みにされた様な錯覚に陥った。

 

「…いえ、ただのウェイトレスです」

 

起伏の無い声で答える

動揺を顔に出すまいと、いつも通りに声を出さそうと、必死に表情と感情を制御する。

 

「そうですか、変な事を言ってすいません」

 

目の前の少年は小さく笑いながらそう言うが、その表情すらリューには酷く歪んだ様に見えた。

 

「美味しかったですよ。これからもご贔屓にさせて貰いますね、リューさん」

 

純粋な賛辞の言葉でありながら、その声すら酷く醜悪な響きに聞こえた。

 

 

「…………」

 

 

もしもリューがもう少し落ち着いていたら、もしもほんの少しだけ保っていたら

まだ話は違っていただろう

 

だが、もはや『もしも』の話は意味をなさない

最早、リューの中で『ソレ』は決定事項になった

 

もしも今この場で、同僚やミアが引き止めたとしても、それはもうリューの耳には入らなかっただろう

既にリューは決意を固めていた、覚悟を決めてしまっていた。

 

「シル、少々良いですか?」

「ん、どうしたの?」

 

同僚に声を掛ける、今は勤務中ゆえに勝手な行動は少々まずいからだ。

 

「急用が出来たので、もう上がります。ミア母さんにもそう伝えておいて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの時、自分は…何も守れなかった――

 

思い出すのは後悔してもしきれない過去、どれだけ泣き叫んでも消せない過去。

 

――あの時は、全てが遅かった…全てが手遅れだった――

 

苦楽を共にした、何よりも大事だった仲間を、友を、家族を、自分は守れなかった。

生き延びた自分は悲しみ、嘆き、喚き、絶望にのた打ち回り

 

――そして、狂った――

 

怒りの業火に身を焼きながら、復讐の化身となりながら、自分は狂った

仲間の敵を殺し、葬り、それに組した者、関わった者も同様に襲い、死に追いやった

最早そこには何の正義も大義もない、ただの殺人鬼が犯す殺戮だった。

 

全ての仇を殺し尽くした後、自分には何も残されていなかった

このまま死ぬのも良い、そんな風に思っていた所をシルに救われて、今は『豊饒の女主人』のウェイトレスをやっている

今の生活は楽しい、偶に身に余ると感じてしまう程に穏やかで楽しい日々を送っている。

 

――だから、自分はもう迷わない――

――元々自分で蒔いた種、それで自分の命が刈り取られてもある意味仕方がない――

 

――だがシルを、ミア母さんを、店の皆を巻き込むのなら…自分はもう迷わない――

――手遅れになる前に動く、先手を打つ――

 

――ただの勘違いなら、それで良い――

――ミア母さんに説教されて、お店の皆に笑われて、ただそれだけで済む――

 

――だが、もしも自分の不安が的中していたら…最早迷いも容赦もない――

――相手が誰であろうとも、どんな魔物や神であろうとも…自分は全てを消し去る――

 

更衣室で手早くカチューシャを外して、エプロンドレスを脱ぐ

店のイベントで使ったウィッグが置いてあったので、そちらも利用させて貰う

部屋の奥に置いてある大掃除の時に使う作業用の衣服から、体のラインを隠せる物を選んで纏ってその上から灰色のマントとコートを着る

これならよほどの近距離で顔を見られなければ、先ずバレない

そして、店に置いてある得物を携帯する。

 

現役時代の『本来の得物』ではなく、店で悪質な不埒者を撃退するための物だ

だがこちらも迷宮都市製の武器、強度や攻撃力はちょっとした『業物』レベルだ。

 

「…………」

 

最終チェックをして、裏口から速やかに街道に出て追跡を開始する

恐らく、都市にきたばかりなら少なくとも近隣の店で立ち止まる事も多い、ならばそれほど店からは離れていない筈

手早く考えを纏めて、リューは白髪の少年を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やっぱり、尾行されてるなー……)

 

夜の人混みの中を歩きながら、ベルは少しウンザリした様に思う

途中の露店で買った『じゃが丸くん』という食べ物を咀嚼しながら、夜の街道を歩く。

 

(……店から出た少しの間は視線を感じなくなったけど、少し前からまた見られてる……)

 

恐らく会計を済ませた自分を追って、少し間を取って尾行を始めたのだろう

尾行者が居るのは確定したが、ただそれだけだ

まさかそんな状況で易々と宿に帰る訳にも行かず、宛てもなくベルは彷徨っている。

 

(……そもそも、どうして僕は尾行されているんだ?……)

 

オラリオに着いたばかりなので怨恨関係は先ずありえない、お世辞にも大金を持っている様にも見えない。

それこそ持っているのは、自分の体くらい――

 

(……待てよ……)

 

ここまで考えて、ベルの心の中で何か引っかかる物を感じた

もしも相手の狙いが怨恨や金でなく、『自分そのもの』だとしたら

 

「――人身売買――?」

 

そう口に出した瞬間、ベルの中で何かが噛み合った。

 

(……そうだ、確かミア母さんとの会話の途中から強い視線を感じた!――)

 

あの時自分は、『オラリオには今日着いたばかりだ』と言った

ならば、自分がいなくなっても気に留める人間はほぼ居ないという事だ。

 

(……師匠がいるとは言ったけど、そんなの幾らでも偽装工作ができる!――)

 

ここは迷宮都市オラリオ

例えば、自分の所持品をダンジョンに放置しておくだけで『興味本位でダンジョンに入り、モンスターの餌食になった哀れな少年』の構図が出来上がる

先の店でも「モンスター狩猟で生計を立てていた」と言っていたから、それなりに説得力もある。

 

こんな如何にも田舎上がりの少年がそんな事を話していたら、相手にとってはとても美味しそうな獲物に見えただろう。

 

(……だったら、尚更このまま素直に帰る訳にはいかない……)

 

宿の場所を教える事もそうだが、そんな輩を野放しにしておくはベルにはどうしても出来なかった。

 

(……多分、人気のある場所だと尻尾は出してこない……)

 

相手がもしかしたら複数人の可能性もあるから、誘い込むとしても上手く場所を選ばないと下手を打つだろう

大よその考えを纏めながら、ベルは再び足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……中々、尻尾を出さない……)

 

雑多の中を縫う様に移動しながら、リューはややイラついた様に息を吐く。

あの少年がどこまでの事に気づいているのか、知っているのか

あの少年の師匠がそれを指示しているのかどうか

 

それらをある程度見極める為の尾行なのだが、中々本命にはありつけない

今の所はただ町を観光しているだけ、今の時点では何も判断できない。

 

(……自分の勘違いなら、それが最良だけど……)

 

だが、そこまで楽観的に今の状況を捉える事はできない。

仮にあの少年が、自分の懸賞金だけが目当てだとしても…それは店の皆に多大な迷惑を被る事になる

お尋ね者だと知りながら、ギルドにも報告せずに『ブラックリスト』の人物を数年間も匿っていたのだ。

 

店に対するギルドからの罰則や罰金は勿論、あらぬ噂や悪評が付き纏うのは確実

最悪それらが理由で、店が潰れる事も有り得るだろう

 

やはり、どこかで「落とし所」を考えておくべきだろう。

 

(……ん?……)

 

ここで、白髪の少年の動きが変わる

先程までの街道沿いのルートとは違って、やや裏道よりに入っていく。

 

「…………」

 

迷わず追跡を続行する

街道の明かりや活気と人気から徐々に離れていくが、寧ろそれはリューの追跡続行の後押しをする事になった。

 

幾つかの区間を渡り歩き、一際狭い建物と建物の間の路地の前で白髪の少年は立ち止まった

そこで少年は二三度、周囲の確認を取る様に見回す

勿論、既に死角に入っている自分の姿が見える事は無く、そのまま少年は路地に入っていく。

 

 

ついに『当たり』が来た

そんな風に覚悟を決めて、リューもまたその路地に入る

だがしかし、少年の姿は既にそこになかった。

 

(……いない、どこに行った?……)

 

路地は狭い一本道、見失うとすれば路地を抜けたか、この両脇にあるどこかの建物に入ったかのどちらかだ

先ずは路地を抜けていないか確認しよう、そうリューが判断して足を進めようとした時だった。

 

 

「――動かないで下さい――」

 

 

次の瞬間、背中に硬く尖った物が突きつけられた。

 

「…っ!」

「両腕を上げて下さい。こちらの指示に従ってくれれば、手荒な事をするつもりはありません」

 

――しくじった、リューはその事を痛感する

どうする?と、現状に対して自問自答する

街道に比べて人気と人目は少ないが、ゼロではない

ここで揉め事を起こせば、そう時間は掛からずに騒ぎは気づかれるだろう

そうなれば、追い詰められるのは自分の方だ。

 

だが、このまま大人しくしていても同じこと

この少年に素顔を見られたら、その瞬間もう引き返せなくなる。

しかし

 

「ミア母さんのお店に居た人ですよね?」

 

その瞬間、リューの心臓が一際激しく跳ねた。

 

「店を出てからも、僕の事をずっと尾けていましたよね?」

 

その瞬間、リューの思考が冷たく静かなモノになっていった。

 

 

 

「――大体の事は解っているので、ギルドまでご同行願います――」

 

 

 

 

その瞬間、リューの思考と意識を置いて体が先に動いた。

 

甲高い衝撃音が鳴り響く

その衝撃と共に、二つの人影が弾ける様なバックステップで距離を取る。

 

マントを靡かせながら、リューは携帯していた銀棍を構える

ザザっと地面を削りながら、白髪の少年…ベルは愛用のショートソードとナイフを構える。

 

互いに戦意が漲っている事を感じ取り、互いから視線を離さずに目標を定める。

これ以上の言葉のやり取りは、もはや無意味

ここから必要なのは相手を打ち倒し、捻じ伏せる力

 

既にお互いが、戦闘姿勢を整えていた。

 

――コイツを野放にしてはならない――

 

――コイツを逃がしてはならない――

 

――だから今ここで、確実に仕留める!――

 

 

互いに地面を蹴って、互いの得物を振り上げ、再び衝撃音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「招待した側の礼儀として名乗っておこう、余の名はバーンだ

それでは、今日のこの出会いに…一つ乾杯と行こうか?」

「必要ない」

「…む、もしや飲めぬ口だったか? ならば別の物を頼もう…果汁系で良いかな?」

「要らん、長居をするつもりはない。さっさと用件を言え」

「おや、気を悪くさせてしまったかな?」

 

ククっと薄く笑いながら、バーンはグラスに注がれた清酒を口に含む

どうやら、呼び出した相手にはあまり気に入られていない様だ。

 

バーンは『ヘファイストス・ファミリア』での商談を済ませた後に、フレイヤ・ファミリアにオッタル宛の『招待状』を送っておいたのだ

特に変な事は記していなかった、この時間と場所と書いて『世間話でもしないか?』と記しておいただけだ。

 

だが、一つだけ招待状には『遊び』を施しておいた。

古代魔族が扱ったとされる、鏡を用いた通信術だ

『フレイヤ・ファミリア』がどの様な内装をしているのかは知らないが、確実に数枚は手頃な鏡がある筈

バーンはそう判断して、オッタル宛の『招待状』を送っておいた。

 

無論、それは『フレイヤ・ファミリア』で大いに警戒を抱かせた

見たことの無いスキル或いは魔法を用いた通信術、しかも内容はオッタルを誘い出す文

主力を主神フレイヤから離れさせて、ホームに奇襲…そんな危険性も考えられた。

 

――しかし、オッタルは気づいた。

 

鏡に映った文字に込められたバーンの力の残滓に、その異質さに、異常さに、異形さに

『この手紙の送り主を、放っておくのは危険だ』そう判断した

コレを自分に送った人物の風貌と真意を、確認しておく必要があったからだ。

 

無論、オッタルとてのこのこと相手の要求にしたがった訳ではない。

留守の間に主神フレイヤの護衛として、Lv6の者を数人置いてきてある

また予め決めておいた合図がなかったら、もしくは時間までに自分からの連絡がなかったら、直ぐにファミリアの者がココに乗り込む手筈になっている。

 

「何、用件というのは大した事ではない。手紙に書いてあった通り、其方と世間話がしたくて手紙を送ったのだ」

「………」

「迷宮都市オラリオに存在する数多の冒険者の中でも最強と名高い男、迷宮都市唯一の『Lv7』の冒険者、最強の一角と名高いフレイヤ・ファミリアの団長である猛者オッタル…出来ることなら、直にあって話してみたいと思うのが人情だと思わぬか?」

 

目で殺すとは、正に今のオッタルの様な目つきの事を示すのであろう

人の肉体くらいなら簡単に貫けそうなその眼力と迫力、それを真正面から受け止めながらも大魔王は言葉を続ける。

 

「…人に話をせがむ前に、先ずは己の事から語るのが礼儀ではないか?」

 

静かに重く、オッタルは言う

それを聞いて、バーンもまた『確かに』とククっと笑って

 

「余は嘗て魔王と名乗り魔王軍を結成し、地上世界を滅ぼそうとした。だが勇者に敗れて、その計画は失敗に終わった」

「…それで?」

「九死に一生を得た余は、新たに魔王軍を結成すべくこの迷宮都市に将来有望な人材を発掘しに来た訳だ…ここまで言えば、もう察しがついたかな?」

「断る」

「そうか、ならば仕方ないな」

 

バーンの誘いを間髪なくオッタルは切り捨てる

そしてバーンも特に気にする事無く、酒を飲んでいる

仮にも魔王と名乗った人物があっさり引き下がるのを見て、オッタルは改めて警戒しながら尋ねる。

 

「随分とあっさり引き下がるのだな」

「その気のない者を無理に引き入れるつもりはない。余に対して心から、魂から、真の忠誠を誓ってくれるものでなくては…あの者達には勝てぬ」

「ならば尚更無理な話だな、我が心と魂は女神フレイヤに捧げている」

「…で、あるだろうな。それでは仕方あるまい、潔く引き下がるとしよう」

 

オッタルは尚も警戒しながらバーンを見るが、目の前の老人からは戦意も悪意も感じない。

店内の気配にも絶えず注意を張り巡らせていたが、今店にいるのは自分たちや店員を含めて精々十人

それに時間は迷宮都市の稼ぎ時だ、何か揉め事が起きれば外の通行人の目に嫌でも止まる。

 

仮にそれが無かったとしても、自分に対して不埒な行いをすれば…それは即ち「フレイヤ・ファミリア」への宣戦布告になる。

 

(……現時点で、自分と揉め事を起こして得られるメリットはないな……)

 

となれば、このバーンが語った事は大よそ真実だろう

世間話がしたかった、あわよくば自分に引き入れたかった、だが無理強いをするつもりはない。

 

だがしかし、オッタルはどうしてもソレで終わりだとは思えなかった

まだこの老人は、自分に対して何かしらの目的があると踏んでいた。

 

そして、そのオッタルの心情を見透かした様に…バーンが再び口を開く。

 

「もう薄々察しがついていよう? ほんの少々、其方には余の戯れに付き合って欲しいのだ?」

「…戯れ?」

「うむ、迷宮都市最強の力を…余に教えて欲しい」

 

グイっと、グラスの中の清酒を飲み干す

空になったグラスをカウンターに置いて、バーンはオッタルに告げる。

 

「――猛者よ、余と一つ力比べをしてみぬか?――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――日間ランキング、9位に入ってた…(驚愕)――

どうも作者です!まさかのランキング・ベスト10に入った事を知って、やばい位にテンションが上がりスピードアップに成功しました!
次回もこのペースを維持できたら良いなと思っております!

さて、今回は勘違いが勘違いを呼ぶ展開になってきました
ベルくんからするとリューさんは「人身売買クソ野郎」
リューさんからするとベルくんは「人の過去を穿りに来たハイエナ野郎」
という感じになっております。

作者的には、あまり他の人とネタ被りはしたくなかったので「いっその事、滅茶苦茶こじらせてみようかな?」という具合でこの展開になりました。
さて、次回はベルくんのオラリオでのデビュー戦です。多分この作品始まって以来のガチバトルになるかと思います(対アダマンタイト兵は別)

そして次回、バーンさまとオッタルさんの「力比べ」の方も書く予定です!それでは!

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