日曜更新と言ったな?あれは嘘だ。
書いてて前半砂糖を口から出しつつ、後半書き方が難しくてかなりの難産でした。
この小説はコメディもあればシリアスもあります。そこのところ、ご了承ください。
これは夢だ。
球磨はふわふわとした、足元が大地についていない様な不思議な感覚に戸惑いながら思った。
だってそうだろう。でなければ、こんな場所でこんな服を着て立っているはずなどないのだから。
「どうした?ぼーっとして。緊張でもしちゃったのかな」
「うぇっ!? な、なんでもないクマ!」
純白のドレスを着ていた。
マーメイドラインという体のラインに合わせて作られたそれは、膝下付近から裾が広がりまるで童話に出てくる人魚の尾ひれのようなデザインだ。
彼は言っていた。球磨には絶対にこの服が似合うと。彼と一緒に水平線に沈む行く夕日を海の上で見ていたあの日、海風に吹かれ髪をたなびかせていた球磨は人魚のように美しかったと。
顔に熱がこもり、赤くなっていくのがわかる。それを見たのか、彼は苦笑いしながら顔にかかっていたベールを上げた。近づく彼の顔、数少ない男でありながらどこか女性をも思わせる中性的な顔、何回、この顔を見てきたのだろうか。
秘書官として、海の上で、そして今この結婚式場という女性にとって一生に一度の場所で。
「ははは、やっぱり球磨はムッツリだなぁ」
その言葉に球磨は憤慨する。ムッツリなんかじゃない、ただ、こういったことに慣れていないだけだと。
「ち、違うクマ! く、球磨なんかが……私なんかが、あなたと一緒になっていいのかって……」
そう言って、球磨は顔を伏せる。艦娘、巷では化け物とさえ言われていた自分だ。そんな存在と一緒になったとあっては今後どんな弊害があるのだろうか。それを考えただけで球磨は身震いする。
しかし、彼は両手で球磨の顔を上げた。どんどん近づいてくる彼の顔、それを見て視線をはずしてしまいそうになるが球磨を見る彼の眼はとても純粋でその瞳に吸い込まれそうになる。
「俺は球磨がいいんだ。どんなことがあったって……お前とならやっていける、そうだろう?」
「提督……」
提督と呼ばれた青年、長門はそう言って眼を閉じた。それを見て、球磨の瞳に涙が溜まる。幸せになっていいのか、やっと。
球磨も眼を閉じた。彼の吐息が感じられる。心臓はばくばくと音を鳴らし、頭の中では警報がなりひびく。ついに彼と交わる最初の儀式。
「球磨、愛してるよ……」
「私も、愛してます……」
そして――。
「おーい、姉さん起きろって。こんな所で寝るなんて……他の奴等に見られる前に起きろよなー」
「うーん。……あれ、ここは?」
「なんだよ、寝ぼけてここにきたのかよ姉さんは。相変わらずだな~」
「え、あれ、木曾? あれ、提督は?」
「提督ぅ? 知らないぜそんなの。んだよ、大方夢でも見てたんじゃないのか?」
「ゆ……め」
「あれ、姉さん? ど……うわぁっ!? ど、どうしたんだよ姉さん。なんで泣くんだよ!」
「うるさいうるさい! なんでいいところで起こしたクマ! 許さないクマ、絶対に許さないクマ!」
「ちょっまっ、いででで! なんで俺がっ、いででで! ごめん、ごめんって姉さん」
「ゆるざないグマー!」
第七話 少女達は夢を見、過去を見る
前にも述べたとおり、提督は鎮守府での大半を事務作業に費やす。それは資材の申請書だったり、艦娘達が被弾した際の入渠や装備の改修などなど。
数を挙げてしまえばきりがないが、どこの鎮守府でも提督というものは書類の山という表現が正しいぐらいの量を処理しなければならない。それは長門も同じだった。
「これは……中々な量だな」
「申し訳ございません提督。前任の方が問題を起こした際に一時ですが書類の処理が止まってしまいまして……」
「いや、大丈夫だ問題ない。赤城もすまないな、わざわざ一緒に手伝ってもらって」
朝錬を終え、突如空から降ってきた球磨を介抱した後、長門は秘書官である赤城と共に溜まりに溜まっていた書類の山を片付けていた。
「い、いえ。提督とこうして作業できるのです、こんなにうれしいことはありません」
「そうか、すまないな」
喋りながらも書類にサインをする手を動かし続ける。しかし、どうしたことだろうか。赤城の方からペンを使う音が聞こえなくなり不思議に思ってみてみると、少し頬を膨らませていた。
「提督」
「あ、ああ……」
得も言われぬ迫力でこちらを見つめる赤城。それに長門はごくりと唾を飲み込む。
「提督は優しすぎます。私達は艦娘、それ以上でもそれ以下でもありません。確かに疲労はありますが、人間より遥かに長時間行動できます。本来であればこちらで処理していたはずの物まで提督の業務に加えているのです。だから、提督が謝る等……」
「赤城」
「だから……えっ、はい!」
ここまでかと、長門は心の中でため息をついた。
正規空母一番艦赤城、一航戦とも名高い彼女は呉鎮守府の資料にも書いてあったが艦娘という自身に軽い嫌悪感を持っている。なぜかといわれても、その中身を知っている者は誰もいないだろう。知っているとすれば同じ一航戦である加賀ぐらいだろうか。
長門はペンを置いた。その動作に赤城の体がびくりと震える。
「君が自身の存在である艦娘というものを嫌悪しているというのは、報告書を見て知っている。だが、一つだけ君に言いたい事がある」
「……お聞き致します」
空気が変わる。神妙な雰囲気とはこういう事を言うのだろうか、そう赤城は額から流れる汗を拭った。
一瞬の沈黙が広がる。そして――
「お昼にしようか」
ぽかんと。そんな言葉を言われるとは思わなかったのだろう、長門の前にも関わらず赤城は口を開けてしまった。
「へっ? ……ふ、ふざけ――」
その時だった。ぐうぅ~と、腹が減ったときに出る特有の音が響き渡る。ちなみに、この音は長門の腹の音ではない。
「行こうか?」
笑みを作る。それは耳まで真っ赤になった赤城に対して有無を言わさない強制力を持った笑みで。
「はい……」
逆らえるはずもなく、赤城は長門と共に食堂へと向かった。
鳳翔という店がある。その名のとおり、艦娘である鳳翔が営んでいる店で鎮守府の片隅に設けられたこの店は前提督の計らいもあってか、艦娘専用の日常用品を売っている明石を除けば唯一、艦娘達の中で一人だけ店を構える事が許されている。純和風の外観は杉の下見板張りに、漆喰塗りの仕上げが施されており、杉の丸柱を自然石の上に乗せ床は御影石を貼っている。
昔の建築と今の建築が混ぜ合わさって作られた物だ。
そこに長門と赤城は来ていた。
主に空母組や重巡、戦艦など比較的年齢が高いもの達が入り浸るちょっとした憩いの場ともなっているらしい。しかし、夜な夜な入り浸る軽空母がいるらしく、毎度ヒャッハーと何か燃やすのではないかと思うような声をだしているそうだ。今度あったときはとっちめねばなるまい。
開いているのだろう、すりガラスが張られた引き戸の奥では一つの影が動いている。
「お邪魔するよ」
戸を開ける。それと同時にカウンターの奥で料理の下準備をしていたのだろうか、長門の声に気付いた鳳翔が手を止めこちらを見た。そしてその後に入ってきた赤城を見てあらあらと含み笑いをする。
「あら、提督に赤城さん。来て下さったのですね、お待ちしておりました」
「お、お邪魔します鳳翔さん」
「あら、畏まっちゃって。昔みたいにお母さんって呼んでもいいんですよ?」
「えっ、それはどういう……」
「わーわー! ち、違うんです! ほ、鳳翔さん。からかうのはやめてください!」
鳳翔の言葉が恥ずかしかったのだろう、再度耳まで真っ赤になってしまった赤城は今日はなんて厄日なんだろうかとため息をつく。それを見た長門は苦笑いした。
軽空母鳳翔、世界で初めての空母と言われた彼女はどうやら赤城の育ての親のようなものでもあるらしい。
「しかし……よくおわかりになられましたね。この昼時に営業をしている事を」
「あぁ、それは前の提督が書いた資料をね……」
「なるほど、納得しました。どうぞ、昼はこちらでお出しするものしかございませんが」
長門の言葉に納得したのだろう、いそいそとお冷とおしぼりを出す。その手際のよさにさすが一人でこの店を切り盛りしているだけあると感心しながら席に着く。しかし、赤城はなかなか椅子に座ろうとしなかった。その様子に長門はなかなか手ごわいなと苦笑いする。
「赤城、座るといい。なに、心配することはない。ここは私のおごりだ」
「いや、そのですね。艦娘である私なんかが提督の隣に座るなんて……ひゃっ!?」
「そうか、座れないなら私が座らせてやる。だから座れ!」
「わっ、わかりました! わかりましたから一人で座れますから!」
「そうか、ならいいんだ」
なかなか座ろうとしない赤城に業を煮やしたのか、長門は赤城の肩を掴むと隣へ座らせようとした。その行動にさすがの赤城も諦めたのか、胸を押さえながら座る。
「……提督はなかなかに大胆なんですね」
赤城は高まる胸の鼓動を押さえながら呟く。初めて男性を見た赤城ではあるが、他の艦娘達とは違い大騒ぎすることはなかった。それは一航戦でもあり、なおかつ艦娘という存在だからでもある。だからこそ、なるべく関わらずにいこうと思っていた。なのにこれだ。
初めて異性に触れてしまった、それも提督から。赤城の見たことのある資料では男性というものはとても大人しい者だと聞いている。しかし、それは間違いだったと見せてもらった資料の持ち主である五航戦の一人、瑞鶴を恨みたくなった。
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません。……な、なんでもないですったら!だからそんなにこちらを見ないでください鳳翔さん!」
ふと、感じる視線に厨房の奥を見てみると、料理を作っていた鳳翔がこちらを見て楽しそうに微笑んでいた。それを見た赤城は見られていたのかと顔を伏せる。
今日は厄日だ、間違いない。顔に熱がこもり、赤くなっているのがわかる。だけど、心の中でこんなのも悪くないと思ってしまっている自分がいる。
それはだめだと、赤城は唇をかんだ。私は艦娘、提督のそばにいること自体が奇跡、それ以上を望んではいけない。
しかし、赤城は知らない。隣に座っている青年は違う世界から来た存在で困っている女性を助けようと思ってしまう人だということを。
「赤城」
「は、はい」
少しの間、沈黙が訪れる。聞こえるのは準備している鳳翔の規則正しい包丁のリズムのみ。
「私は上手い言い回しがわからないからな、単刀直入に聞こう。何が君を苦しめる?」
時が止まる。どうして、この場所で鳳翔さんがいる前でこの青年は聞くのだろう。自身の悩みが前の提督にばれていたことは知っている、だけどなぜこの場所で。よりにもよって――
「私も聞きたいです、そのお話」
なぜこの場所なのだろうか。いつの間に目の前にいたのだろう、両手にお通しを持った鳳翔がこちらを真っ直ぐ見つめていた。
「私は……私は」
「……あなたが悩んでいたことは知っています。だからこそ、聞きたいんです。でないとあなたはこれぐらいしないと言ってくれないと思ったから」
その言葉に赤城は驚愕した。この場をお願いしたのが鳳翔さんだということに。提督を見る、澄ました顔で鳳翔から受け取ったお通しを食べていた。その横顔にかっこいいやら美しいやら憎たらしいやらたくさんの思考が混ざり合い、何も言えなくなってしまう。
赤城は息を吸って吐いた。そして鳳翔を見つめる。
「私は……嫌なんです、私のせいで人が死んでしまうのが。私は他の方より艦だった頃の思い出が強く残っています。あの戦で私は多くの人を亡くしてしまいました。そこには今は少なかった男性もたくさんいました。記憶に残ってるんです、私と一緒に戦ってずっとずっと、ずっと……最後まで運命を共にした人たちが。嫌なんです、私と関わった人間がいなくなるのは……」
「赤城さん……」
言い切ったのだろう、涙を浮かべながら後悔を口にする赤城に鳳翔は何も言えなくなる。今まで育ててきて彼女が何かを抱え込んでいたのは知っている。だけど、ここまでとは……。
鳳翔は口に出す言葉が見つからなかった。彼女も艦だった頃の記憶はあり、自分より後に生まれた子達が先に逝ってしまう事に後悔していたのを覚えている。
だけど、鳳翔は未来を見た。逝ってしまった子達に不甲斐ない所は見せられないから。彼女は止まってしまっているのだろう、敗戦した戦いの中で。自分自身の時計を。
「だからこそ、私は……」
「赤城」
「私は……、えっ、提督!?」
しかし、その続きは言えなかった。涙を拭こうとしたその瞬間、彼女は引き寄せられ抱きしめられる。
「すまんな、目をつぶってろ」
「やめっ、提督、うぷっ!?」
長門は後悔していた。赤城の抱えているものが思った以上に大きく、溝が深いものだということに。鳳翔にお願いされ、この場を設けたはいいが何もすることができず焦る。
その時、長門は昔のことを思い出した。自分がよく泣いていたとき、母がしてくれた事を。
赤城の体を引き寄せて抱きしめる。よく手入れしているのだろう、ほのかに柑橘系の香りを漂わす髪は長門が息をするたびに揺れ、抱きしめているその体はとても華奢で柔らかい。
(やばい、とっさにやってしまったのはいいが……)
思っていた以上に赤城の魅力がやばい。そう、思いながら長門は抱きしめるのをやめない。抵抗していた赤城だったが、少しずつ暴れるのをやめ次第には大人しくなった。
「あ、あらあら……」
それを見た鳳翔が口元を押さえる。うらやましいと思うと同時に一瞬で赤城を落ちつかせる手段を見つけ、それを実行したことに驚きながら。
(あぁ……よかった、この方が新しい提督で。……だけど、赤城さんもなんて羨ましいんでしょうか)
抱きしめる、その行為はただするだけであれば何の意味もない。しかし、育て親である鳳翔や異性である提督が行えばそれは一種の守りとなる。それを今の状況で瞬時に判断し行ったというのか、この提督は。
新しい提督はとても男性力が高いのね、そう鳳翔は感心する。
「やめっ、やめてくだひゃっ! い、息が首に。首にかかってます!」
「赤城」
「ふっ、うぅぅ……」
「君の苦しみはわかった。私も提督ではあるが兵士だ、死んでゆく者達を見て後悔したことはある。だけどもだ」
息を置く。泣いているのだろう、首に熱いものが流れる。
「未来を見ろ、赤城。これは命令だ。過去に囚われるのは仕方のないことだ、だけど散っていった者達はそれでは報われない。最初は大変だろう、すぐに変われとは言わん。だけど、一緒にこうやってご飯を食べるときに笑いながら食べれるようにはなってほしい、私も力を貸す。私だけじゃない、鳳翔も他の皆もだ。だから、な?」
その言葉は優しくそして深く赤城の中に入り込む。涙が止まらない、提督の服を汚してしまっているのに体は言うことを聞かず提督から離れようとしない。
「私……私」
「ほら、そんなに泣くな。せっかく鳳翔さんが腕によりをかけて作ってくれてるんだ、一緒に食べよう?」
「はい……!」
そして、赤城を放す。名残惜しかったのだろうか、少し動かなかったものの突然思い出したかのように赤城は提督から離れた。そして、涙を拭き涙で赤くなってしまった目で鳳翔と長門を交互に見る。
その目には光が宿っていた。先ほどとは違い、一つの意思が宿った光が。
「航空母艦赤城、空母機動部隊の主力として、日頃鍛錬を積んだ自慢の艦載機との組み合わせ、提督との勝利のために精一杯揮わせていただきます……!」
長門を見据えて、赤城は敬礼する。それを見て長門達は安堵した。その姿に先ほどまでの今にも崩れ落ちそうな赤城の姿はなかったから。
「そうか、期待してるぞ赤城。鳳翔さん、すいません。お時間をとらせてしまって」
「いえいえ、私こそ提督には感謝しております。赤城さんの悩みを聞いてくれたんです。……さぁ、こうしちゃいられませんね!赤城さんの新しい恋の始まりとして未熟ながら英気を養うために腕によりをかけてお作りします」
「えっ、こ――」
「なななななな何言ってるんですか鳳翔さん! 提督も! 男性なんですから抱きしめるなんて事他の子達にしちゃいけませんからね!?」
「えっ、あぁ。わ、わかった。わかったから落ち着け赤城」
「知りません! 怒りました! 鳳翔さん、今日は食べに食べまくります。覚悟してください!」
「待て、赤城! おごりとは言ったが限度がな」
「一航戦の誇り、見せます!」
赤城は思う。目の前に積まれてゆく食料の山を消しながら。新しく入ってきた男の提督、面識もない筈だったその存在はほんの少しの間で赤城の心の中でとても大きな存在となった。
すぐには無理かもしれない、きっとまた迷惑をかけてしまうだろう。だけど、赤城は思う。提督とならきっと一緒にやっていける、その時はまたさっきみたいに抱きしめてもらおう。そう思いながら。
前半砂糖、後半シリアス。そんなお話。
艦娘たちのボイスを聞いてて書いたお話です。
シリアスはなかなかに難しい、やっぱり書いてて楽なのはコメディです(確信
・クマー
砂糖吐きながら書いてた。
・ヒャッハー
言わずもがな。
・シリアス
史実を見ながら、誰かしらこういう感情を持った子達はいるんだろうなーと思い赤城さんをメインに。赤城さん、かわいいです。きっとこれから押せ押せでいくに違いない。
・一航戦赤城
赤城が言った言葉、それはドロップしたときに言ってくれる言葉です。
この言葉をいれたかった。
感想、評価本当にありがとうございます。文章とかも話によって変わったりと節操がないですが皆様に見てもらえる以上、変なものはだせないので頑張っていきます。
といいながら、やっぱり誤字脱字とかはあったり。その部分は多めに見てもらえると、感想で教えていただければ幸いです。
最後に、次は絶対に日常物を書く。次回予告は【お風呂】で。