~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

21 / 23
金剛好きの方、ごめんなさい。

違うんです、私にアイスをくれた人が悪いんです。



第二十話 あべこべ艦これ~間宮さんのアイス~

 人の上に立つ者として必要な物とは一体何なのだろうか。

 

 感情をコントロールする? 確かに、どんな存在であれ自身の感情をコントロールしなければ一流の存在にはなりえない。上に立つ者が、感情に左右されていては、下の者達にも影響を与えてしまう。だからこそ、例え上司が数少ない男性であったとしても、理性的にクールに英国生まれの帰国子女、そして日々尊敬される姉として感情をコントロールしなければならないのだ。

 

 

 

 「提督に……」

 

 

 

 部下には優しく厳しく? 確かに、上に立つ者は優しすぎてもいけないし、かといって厳しすぎてもいけない。どこぞの第二帝国曰く、飴と鞭を使い分けることが重要らしい。これに関しては問題ないと彼女は豪語する。

妹が『提督力不足』で困っているときは、かの十字架に磔にされた聖人のようにパン(自身の肉に等しい提督の私物)と葡萄酒(自身の血に等しいとある筋から買った提督が入った後のお風呂の残り湯)を分け与え、かといって妹が過ちを起こしたときは、心を鬼にして提督の下着をポケットにしまいながら戒める。

 

 

 

 「提督に……!」

 

 だからこそ、今の提督は優しすぎるのだと今回の事件を振り返り、とある艦の妹である、インテリヤクザ(そう言った取材班である青葉の所在は不明)は語る。

 男性である提督の優しさを浴び続ければ、それは次第に体を狂わし、思考を鈍らせ、暖かくて優しい提督力が艦娘の心の表面である海面に接することで生じる霧、海霧となり本体を座礁してしまいかねないからだ。

 

 だからこそ、そう、だからこそ。彼女を止める者がいなかったのかもしれない。食堂、それもたくさんの人がいる前で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「提督に、恥ずかしい言葉(ハレンチ)を言わせたいデース!!」

 

 金剛型一番艦金剛。己の内にあふれるどぅるどぅるした本能を抑えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙というには、短すぎる時間だ。

 

 「間宮さ~ん、A定食をお願いしま~す」

 「あづいクマ……。クーラーの効いた部屋で、アイス食べたいクマ……」

 いつもの事だと思いつつ、球磨型は夏の暑さに参りながら。

 

 「休暇……ほしいでち。大淀さん鬼でち……」

 「この後、どうするんだっけ? あ、だめよ伊19。お水に醤油入れてるわよ……」

 「へへっ、いくぅ……いくのぉ……」

 「群狼作戦(ウルフパック)を提唱します。そうすれば、大淀さんなど恐れるに足りないとろーちゃんは申す所存です」

 「ろーちゃん、なんだか性格が変わってる気がするねぇ……」

 とある潜水艦達はそんなことより、今の職場環境の改善を願いながら。

 

 「きょ、今日は奮発して白米に加え、京都のお漬物である千枚漬け……!」

 「僕は間宮券は使わずに我慢するかな」

 「ガンガン貯めていけば、交換で提督シリーズのラインナップが増えるもんね!」

 提督に信頼を寄せている秋月型姉妹達は、金剛を冷ややかな目で見つつ。

 

 「提督に肩たたき券を作ってあげるの!」

 「それはいい考えなのです!」

 「いい考えだけど、それはどうやって渡すんだい?」

 「簡単に決まってるじゃない! いつもお世話になってるからって渡せばいいのよ」

 「ハラショー。それじゃあ、暁が渡してくれるんだね?」

 「えっ」

 

 日頃お世話になっている提督に、何かできることがないかと考える子達もいれば。

 

 「ぽぽい! ぽいぽい、ぽぽっぽい! ぽい」

 「そうだね」

 「何で今ので会話が成り立つのよあんた達……」

 

 無関心、その言葉が相応しい。この鎮守府では、新しい提督である正海が来てからほぼ日常茶飯事となってしまった金剛型一番艦(へんたい)の行動に、さして注意するものはいない。当初の方こそ注意する者はいたものの、毎度毎度叶うはずのない壮大な発言に関わる者は彼女の姉妹以外いなくなってしまっていた。

 

 ぷくーっと、不満をあらわにする様に金剛の顔が焼いた餅よろしく、膨らむ。

 

 「何でですカー!? 皆、聞いてみたくないんですカー!」

 

 「お、お姉様。落ち着いて……」

 

 榛名が姉である金剛を収めようとするも、金剛はふくれたままその場で文句を言う。

 

 「だっておかしいデース! 女性であるなら、男性の口からきいてみたいはずネー!」

 

 「お姉様の気持ちもわかりますが、とりあえず落ち着いて……」

 

 「嫌デース! 今日という今日は提督に言わせたいデース! 言わせたいったら言わせたいデ、あぎゃんっ!」

 

 パコンと、小気味よい音が食堂に響いた。

痛みで頭を押さえつつ、振り返ってみると、食堂の主である間宮が怒りの形相でお盆を両手に持ち、こちらを睨みつけている。威嚇のつもりか、少々頬を膨らませお盆を胸の前で盾の様にして持つその姿は、本人はたいそうお冠だという事を主張しているのだが、周りの者からは天使か……としか思われていない事には、本人は気づいていない。

 

 「な、何するデース!」

 

 突然の事に驚きつつも、金剛は己の野望を今日こそ成就させるために異を唱える。感情のコントロール? 大丈夫だ、問題ない。出来ている。

 

 「食堂はお静かに! ここは公演する所ではありません」

 「嫌デース! 食堂は自由な場所のはずデース!」

 「貴方達は大人なんですから、子供たちのお手本になるんですよ!? 悪影響を与えるような事は、私が許しません!」

 

 (おかん……)

 (おかんや……)

 (天使か……)

 (天使だった)

 

 間宮の言葉に他の艦娘達が感銘を受ける。しかし、その言葉に砂漠の中に眠る一粒の良心が痛みつつも、『提督にハレンチな言葉を言わせたい』というある意味雨の恵みともいえる言葉に金剛は戦う。

 

 

 

 「い、嫌です聞きたいデース! お前以外の装甲に興味ねえよって言われながら壁ドンからの股ドンに移り、そして無理やり顎を上げさせられてその柔らかい唇に舌を這わせたいって言われながら徹甲弾装填した主砲並の威力を持ったkissをしたいでーす!」

 

 

 

 「なっ!」

 

 しん、と。辺りが静まり返った。金剛が発言した、今までとは違うもはや壮大どころか神話級の願い事に。

 

 「ひ、ひぇぇ。なんて恐ろしい事を……」

 

 余りの卑猥な発言に、周りが凍り付く。妹である比叡でさえ、想像してしまったのか姉の言葉に顔を真っ赤にしていた。霧島は眼鏡があまりの衝撃にひびが入り、榛名はそういう方向性もありか……と、ポケットから取り出した『極秘』とついたメモ帳に何かを書き記している。

 

 「提督にハレンチな言葉を言わせて、恥ずかしさで顔が真っ赤に染まって俯きながら許しを願う姿が見たいデース!」

 

 ピクリと。その言葉に『飢えた狼』の異名を持つ妙高型三番艦の足柄が耳を引くつかせる。

 

 「提督にお酒を飲ませて、酔った所を介抱し、そのままの勢いで提督の服に腕を這わせつつ、マジヤベーイな事したいデース!」

 

 その言葉に隼鷹が。他の酒飲みである面々が。

 

 「だからこそ、提督のハレンチな事をさせて恥ずかし顔を掴むのは私デー、あぎゅん!」

 

 ドゴンと、先ほどより生々しい音が響き渡る。どこから取り出したのか、ステンレス製とは違う、重みのある灰色のお盆で間宮が金剛の頭を殴りつけた。顔を真っ赤にし、睨めつけている。

 

 「は、は、ハレンチな事言っちゃだめです!」

 

 「でも、間宮さんだって聞きたいはずデース! 私、知ってるんだからネー。間宮さんが割烹着の内側に提督の寝顔写真を縫い付けているのをネー!」

 

 「な、なななななっ、ど、どうしてそれを!?」

 

 その言葉に間宮は、約一万八千人の食糧が三週間分は入るはずの倉庫が一瞬で満杯になるほどの恥ずかしさでさらに顔を赤くする。いや、間宮だけではない。他の者達でさえ、『提督の寝顔写真』という部分を聞いた瞬間、口をあんぐりと開けていた。

 

 それもそのはず。現在、鎮守府では開設者である明石を筆頭に、一部の有志達による働きで深夜にのみ『宝物庫』というお店が営業を開始している。そこには、提督語録集をはじめ、提督抱き枕・提督食器・提督ポプリ・提督の写真など、数多の提督シリーズが用意されている。その中でも、提督の写真シリーズや私物シリーズは絶大級の人気を誇り、持つだけで運があがり性能が変化すると噂されるほどの逸品だ。また、後半のシリーズを獲得するためには『提督ポイント』なるものを集めなければならず、間宮券や資材、はてには提督に関する情報や提督の私物と交換することで徐々にグレードが上がっていき、優遇される品が増えていくのだ。

 さらに、提督の写真シリーズはピンからキリまで写真のランクがある。最上級はもちのロンで裸だが、これを持っているものはいない。だが、それに等しいぐらいの存在がある。

 

 提督の寝顔シリーズだ。

 

 これを持っているものは、艦娘達の間でも一部だけだろう。運よく、秘書艦の時に提督が寝てしまっているか、もしくは有志による資料の一部として撮られた物か。だが、ほとんどの写真は売却済みであり、それも精度はさほど高くなく、間近で撮ったものはいない。

 

 だが。

 

 「私の目は誤魔化せないネー! 青葉から聞いたら、間宮さんが寝てる提督に何やらしてたのを聞いたんだから!」

 

 「ち、違います! 私はそんなやましい事なんかしてません! ただ、夜食を頼まれて持って行ったら提督が寝ていたからつい……ハッ!」

 

 嘘を言えない性格、それが間宮だ。その言葉に、周りが驚愕する。つまり、間宮さんは今現在、割烹着の裏に超絶SSRランクの写真を忍び込ませている。何名かが席を立つ。何を、という必要もない。見てみたいのだ。提督の、男性の一番無防備な姿を。

 

 「フッフッフ、観念するネー! 間宮ママも私と同じだって事を!」

 

 「ち、違います! そんなんじゃ……!」

 

 助けを求めようと、辺りを見回す。だが、助けようとする者はいない。あわよくば、このままいけば提督の寝顔写真を拝めるかもしれないという邪な感情が間宮を助けようとするのを邪魔しているからだ。なお、内容を理解していない一部の子達は提督に肩たたき券をどうやって渡せばいいのかと未だ話し合いを続けている。現状、暁が渡さなければいけない状況に陥りつつあり、当の本人が涙目でレディーだもんと俯いていた。

 

 「さぁ、覚悟はいいネー!」

 

 まずはメインディッシュの前に、前菜である提督の寝顔写真。そう決めた金剛が、手をワキワキと閉じたり開いたりしながら間宮に近づいていく。

 

 だが。

 

 

 「あ、あの金剛さん。それぐらいにしたほうが……」

 

 救いの手は差し伸べられた。吹雪型一番艦、吹雪によって。

 

 

 「ブッキー! 止めないでくだサーイ。これは崇高なる野望の為の大いなる犠牲デース」

 

 「そんなどこぞの組織のボスが大層に恐ろしいカードだって連呼しながら使ったら、実は全ての敵を破壊する罠カードだった……みたいな人と同じような事言わないでください」

 

 「でも、これが良き方法デース。ブッキーも、提督とやってみたいことの一つや二つあるはずネー!」

 

 その言葉に、吹雪はほんのりと顔を朱色に染め。

 

 「わ、私は提督と一緒に間宮さんのアイスでも食べれれば……」

 

 その発言にここにも天使がいたかと思う周りの者達と、そういう方向性もありか……とメモ帳に書き記す榛名の姿。

 

 「やっぱりブッキーはピュアで可愛いですネー! でも、アイスだけじゃ……?」

 

 その時。

 

 「アイス……間宮ママ……」

 

 

 

 神の啓示が舞い降りた。そう、それは女神の神託。迷える子羊の為に、神が純情なる心を持ちし金剛に伝えた新しき発想の言葉。今ならわかるかもしれない、日本の卑弥呼がどのような思いで神から啓示を受けていたか。

 アイスは乳製品で作られている。乳製品はつまり乳。牛の母乳。そして間宮さん。間宮さんは艦娘達の鳳翔さんに次ぐママ的存在。胸部装甲も立派だ。つまりこれで証明終了……!

 

 

 突然固まった金剛に、怪訝に思いながら心配の言葉をかける吹雪。だが、心配なんかしなければよかったと後に語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「間宮さんの母乳入り(が牛の乳から作った牛の)アイスを提督に食べさせたいデース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、金剛は大破した。

 

 

 




これはひどい。でもきっと大丈夫、表現を優しくしてるからきっと特にひっかかったりはしないはず。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。