ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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お気に入り登録数12っ! ダンまちに比べたら一割にも満たないですが、ちゃくちゃくと増えていくといいなぁと思っています。


それではどうぞ!

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ルビ振り編集しました


 Ⅱ

 α

 

 

「アルデアル公国の貴族、ディミトリエ・ヴァトラーとその客人、セリア・オルートの護衛だよ」

 

「きゅ〜」

 

 師匠のその言葉を聞いて、俺は倒れた。その方向は紗矢華が座るところ。

 やばっ、と思ったが後の祭り。ポフッと俺の顔は紗矢華の柔らかな太腿に乗った。決してわざとじゃない。天地神明に誓ってそんなことはしない。

 俺は即座に離れて、綺麗な土下座のポーズをとった。

 

「すみませんでした紗矢華さんっ!」

 

「………………」

 

 謝るも紗矢華は黙っている。チラッと顔を上げて紗矢華の表情を窺う。怒りの色に染まっているかと思ったが、その顔はほんのりと朱に染まっていた。

 

「あのー、紗矢華さん?」

 

「…………次やったら、灰にするから……」

 

「い、イエス・マムっ!」

 

 最後にキッ、と睨まれて、俺はそう答えることしか出来なかった。

 だってそうでしょう。実際に俺は昔にやられかけたんだから。

 

「まったく、なにイチャついてるんだいお前達」

 

「「イチャついてません」」

 

 呆れたように言う師匠の言葉に、俺達は即答した。

 昔はよく紗矢華はこの手の言葉に慌てたものだが、今じゃそんなことはない。ん? 俺? 俺はまず"イチャつく"という言葉自体知らなかったから慌てることすらなかった。

 師匠は咳払いをした後に、真剣な表情を見せた。

 

「翔矢、お前は"蛇遣い"の護衛と監視を。紗矢華は"焔の女王"の護衛と監視を頼むよ」

 

 師匠の指示に、俺は少し疑問を持った。

 

「師匠、女王なら俺の方が相性良くない?『 嫉妬(インウィディア)()大罪(レヴィアタン)』で封じられるんだし」

 

「確かに相性は良いだろうな。しかし、相手は女性だからねぇ」

 

「今更だよ師匠っ!? じゃあなんで俺をアルディギアの王女の護衛を任せたの!?」

 

 今更過ぎる師匠の発言に、俺は声を荒らげた。何を言っているのだろうかと、俺は改めて師匠の頭のおかしさに痛感した。

 

「あれは人が足りなかったからさ。あの時は紗矢華はそこまで強くなかったしね」

 

「それでもだよ!? それでも、先輩達に任せればいいじゃん! なんで僕だったのっ!?」

 

 興奮しているせいか、一人称が僕になってしまっている。だが、支障は無い。

 あの時は紗矢華と同じくそこまで強くなかったはずだ。何故俺だったのだろうか。

 

「お前……自分の強さをどれだけ過小評価してるんだい。少なくとも私以上、三聖未満と言ったところだよ、お前の強さは」

 

「いや、有り得ないでしょう」

 

 呆れたように言う師匠だが、俺は師匠より強いと思った時は一度もない。模擬戦だって一度も勝ったことなどない。

 

「はぁ……そもそも、私は人間で、お前は()()だろう」

 

「あっ……」

 

 忘れていた。肝心なことを俺はまるっきり見落としていた。

 俺は半魔だ。まぁ、ハーフ悪魔ということかな。父さんが悪魔だから、人間の母さんとの間で出来た俺は必然的に半魔に分類される。それに──

 

「それに、証拠として使い魔も使えるしね」

 

 ──使い魔。

 それは吸血鬼の眷獣と同じようなものだ。しかし眷獣とは異なり、使い魔は別次元に生きる魔王達だ。

 通常、一人の悪魔につき一体の使い魔なのだが、俺と父さんは特別で、俺は七体。父さんは七十二体の使い魔と契約している。

 俺の使い魔は七つの大罪の魔王達だ。非常に強く、頼もしい。ちなみに父さんはソロモン七十二柱の悪魔達だ。その中にも魔王が数体いる。

 

「ということは、今回の護衛の任務は私達の強さに見合ったもの、ということですか?」

 

 話を聞いていた紗矢華がそう言う。しかし、師匠は厳しい顔をして首を振る。

 

「いいや、"蛇遣い"と"焔の女王"は限りなく真祖に近い貴族だ。おそらく、紗矢華の煌華麟では難しいだろう」

 

 だが、と師匠は続けて、俺を見た。

 

「半魔である翔矢であれば、もしかしたらその二人を封じることが出来るやもしれない」

 

 なるほど、と俺と紗矢華は頷いた。

 確かに吸血鬼とは違い眷獣は使えないが、それに似たようなものが使える俺ならば、真祖に近いあの二人を封じることは出来るかもしれない。

 

「了解しました。任務はいつから?」

 

 任務内容を承諾したことを伝え、俺はいつから任務なのか訊く。師匠は紅茶を口に含んで、一拍置いて言う。

 

「明日の早朝に"魔族特区"、絃神島にその二人を乗せた"オシアナスグレイブ"という船が到着する。その前に、お前達二人にはその船に乗ってもらう」

 

「師家様、私達はどうやって行けば?」

 

 師匠の指示が終わった後に、紗矢華が質問した。師匠は紗矢華の質問を聞き、俺を指差して口を開く。

 

「それなら問題はないさ。黒翔麟の空間連結を使って船の甲板の空間と、ここを繋げればいいだけさ」

 

「……要は擬似的な空間転移をする、ということだよ」

 

 師匠の説明が回りくどかったので、俺が簡潔に説明する。紗矢華は説明を聞いて、ひとつ頷いた。理解した、という意味だろう。

 

「それじゃあ、夕食を食べ終わったら行くとしますか」

 

「そうね、なんだか嫌な予感するし早めに行った方がいいわ」

 

 紗矢華の発言に俺はまったく同感だった。そもそも"蛇使い"と"焔の女王"が絃神島に行く時点で嫌な予感しかしない。

 

 

 β

 

 

 自室に戻って夕食の準備をし始めた時に、扉が勢い良く叩かれた。

 

「翔矢っ! 開けなさい!」

 

 何故か怒りが孕んだ声が聞こえる。しかもその主が紗矢華。一体何が起きたのだろう。

 疑問に思いつつも俺は扉を開けた。

 

「何、どうしたの?」

 

「言い忘れてたわ。貴方がいない間に雪菜が、私の雪菜が第四真祖なんかの監視役になったのよ!」

 

「へぇ、それは凄い。それで、その第四真祖はどこにいるの?」

 

 目を丸くさせて、俺は驚く。()発言が出てきたが、それは無視する。

 しかし、これは驚きものだ。まだ見習いの剣巫(けんなぎ)である雪菜が第四真祖の監視役に選ばれるとは。

 ちなみに、雪菜と紗矢華はルームメイトだ。いや、だった、のが今は正しいか。ほとんど一緒にいたので、姉妹みたいな距離感だ。俺も雪菜は妹的なポジションだ。

 

「どこに、って…………あぁ、携帯が壊れて情報が入ってこなかったのよね。第四真祖は絃神島にいるわ」

 

「絃神島…………てことは、今回の"蛇使い"と女王の目的は……」

 

 眉を顰めて、俺は思考する。いや、思考するまでもない。これは明らかに第四真祖にちょっかいを出すために絃神島に行くつもりだ。

 それは紗矢華も思ったのだろう。表情を険しくさせて頷く。

 

「やっぱり早めに行った方がいいみたいだね。軽く食べて行こう。紗矢華の分も作るから待ってて」

 

 部屋にある台所に行き、俺は手早く軽食を作っていく。作っているのはサンドイッチだ。ハムサンド、タマゴサンド、サラダサンドなどなど。

 約五分間に作り終えた俺は皿に乗せてテーブルに置く。

 

「翔矢、調理のスピード上がった?」

 

「ん? そうかな?」

 

 料理をしている間紗矢華は扉の前に突っ立っていたが、皿をテーブルに置いた時にやっと口を開いた。

 調理のスピードが上がったと言われたが、別に早くなったとは思わない。アルディギアにいた時は護衛対象の王女に和食や和菓子を作ったくらいだ。

 

「ほら、食べたら行く準備しよう」

 

 未だに突っ立っている紗矢華の手を取って、椅子に座らせた。俺も椅子に座り、サンドイッチを頬張る。少し多めに作っておいたので、船に着いた後でも食べられるだろう。

 その後、紗矢華もサンドイッチを嬉しそうに食べている姿を見て、俺は保護者みたいな感じになった。

 

 

「さて、食べ終わって、準備も終わったし行きますかっ!」

 

「ええ」

 

 椅子から立ち上がって、俺達はそれぞれの武器が入った竹刀袋とキーボードケースを背負った。

 部屋から出て、外へと向かった。

 外に出た俺達を迎えたのは師匠だった。師匠は真剣な表情をして言った。

 

「せっかく長期任務が終わったのに、悪いね翔矢」

 

「別に大丈夫ですよ師匠。今回は紗矢華もいますし」

 

 言いながら、俺は紗矢華を見る。俺の視線を感じたのか、紗矢華は少しだけ胸を張った。任せなさい的なことを思っているのだろうか。

 

「そうだね。紗矢華、翔矢を頼んだよ」

 

「はい、了解しました」

 

 師匠は紗矢華に向けてそう言い、紗矢華はコクリと頷いた。

 

「じゃあ、空間を繋げるよー」

 

 俺は竹刀袋から黒色の片手剣を取り出して、上段の構えをとった。

 母譲りの高い霊力を黒翔麟に注ぐ。リン、と鈴が鳴ったような音を立てて、俺は真っ直ぐに振り降ろした。

 振り降ろした直後、虚空が割れて、ブゥンと旧式のテレビのような音が鳴る。虚空の切れ目から覗く景色は分厚い鉄板と夜空だ。どうやら高神の杜と"蛇使い"と"焔の女王"が乗る船の空間を上手く繋ぐことが出来たようだ。

 

「じゃあね、師匠。いってきまーす」

 

「いってきます師家様」

 

 俺は手を振って、紗矢華はお辞儀をして切れ目の中に入っていった。

 

「行ってきな、翔矢、紗矢華」

 

 切れ目が塞がれる瞬間、師匠の苦笑混じりの声が俺の耳に届いた。




それにしても……文才が欲しいです。あと画力も欲しい……。
現在、オリ主の挿絵を書いています。次回に挿絵を貼ります。

それでは失礼しました!

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