ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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大変お待たせしました。
今回から天使炎上篇です。

マイクラやAPEX、オリジナル小説の設定をやっていたら遅くなってしまいました。




天使炎上篇
 Ⅰ


 

 

 高度一千メートルの夜の空。北欧アルディギア王国所有の王族と、その従士団だけが搭乗を許されるターボプロップエンジン四発、十二門の機関砲を装備する空飛ぶ城塞と呼ぶにふさわしい装甲飛行船。名を〝ランヴァルド〟。

 そんな船が二人の魔族に襲撃され、全身に炎を纏いながら航行していた。

 襲撃者、BBと呼ばれたD種の女は、アルディギア聖環騎士の疑似聖剣をゆらりと躱して不敵に笑い、スマホ型の端末を操作した。画面には『降臨』の二文字。

 

「なんだ、こいつは……!?」

 

 直後、襲撃者二人と聖環騎士の頭上を光が満たした。

 目を見開いて騎士は喘ぐ。

 暗い夜の空から降りてくるのは、小さな影。その背中には赤い血管を浮き上がらせた歪な翼が六枚生えている。

 そんな禍々しい姿をしているにも関わらず、神々しい光を撒き散らす。

 

「天使……だと……?」

 

 その騎士の言葉を最後に、騎士ごと装甲飛行船は灼熱の光に呑み込んだ。美しい装甲飛行船は爆発四散し、その残骸は真っ暗な夜の海に沈んでいく。

 

 

 その爆発から少し離れたところにいる襲撃者二人は、空を舞う天使を見つめる。

 BBと呼ばれた女吸血鬼は口を釣りあげて笑う。

 

「悪魔のやつらが手を貸してくれたおかげで想定より早く仕上がったわね」

「あぁ、〝疑似神格振動波発生装置〟……これがあったのがデカいな」

 

 獣人の男が相槌を打ち、行くぞ、と言って潜水艦の船内に戻っていく。

 吸血鬼もまた、しばらく余韻に浸ったあとに紅色の槍を消して船内に入っていった。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 ──そういうことだから。

 黒死皇派の事件からしばらく経った頃、古城は浅葱と本格的に話した昔のことを思い出した。それが起因し、事件のあとのキスを思い出し、ハッと顔を上げた。

 気怠い車掌のアナウンスと、眠気を誘う単調な加速。彩海学園に向かうモノレールだ。

 

「先輩」

「うおっ!?」

 

 至近距離から雪菜に呼ばれ、古城は驚きで悲鳴をあげた。

 その態度に雪菜はむぅ、と不貞腐れたように唇を引き結びながら彼を見上げる。

 

「もうすぐ駅に着きますけど」

「お、おう。悪い、ちょっとボーッとしてた」

「悩み事ですか? なんだか真剣な顔でしたけど」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

 

 生真面目な表情でそう訊ねる雪菜に、どう答えたものか、と古城は顔を引き攣らせた。流石に浅葱にキスされたとは言えない。

 

「……藍羽先輩と、なにかあったんですか?」

「え!?」

 

 雪菜はジト、とした目でじりじり古城に寄る。彼は冷や汗を一筋垂らして視線を外した。

 

「い、いや、まさか……ハハッ」

 

 嘘が下手だった。

 

「本当に?」

「してない。なにもしてないです」

 

 確かに古城自身はなにもしていない。しかし、それも少しばかり心許ない言い訳である。

 

「……どうしてそこで目を逸らすんです、先輩」

「そんなこと言われても、この角度はちょっと……」

「角度?」

 

 雪菜はきょとんと目を瞬かせる。

 古城と雪菜の身長差は約二十センチ。その位置から至近距離にいる彼女を見下ろすと制服の胸元を覗き込む形になってしまう。

 谷間と呼ぶにはささやかな膨らみの狭間を。

 

「先輩……!」

「待て待て! 今のは俺は悪くないだろ!」

「……そうですね。いつも通りの先輩で安心しました」

 

 そう言われ、古城はホッと胸をなでおろした。

 でも、と雪菜が言葉を続け、彼は片眉を上げて気怠げな眼差しを向ける。

 

「本当に大丈夫ですか? 顔色も悪いし、翔矢さんに見てもらった方が……」

 

 現状、雪菜が頼れる人の中では翔矢が一番上に来る。

 〝空隙の魔女〟である那月も充分頼れるが、気軽に頼れるのは翔矢だけだ。

 この場に彼がいないのは朝早くから学校に向かったと雪菜が暁家の玄関前でそう言っていた。

 

「あぁ、いや、大丈夫だ。いつも言ってるだろ? 吸血鬼の体質にはこの時間はキツいって」

 

 それに、と続けて古城は言う。

 

「ここ最近ずっと寝不足なんだよ」

「寝不足、ですか」

 

 あぁ、と彼は周囲を見回して小声で雪菜に語る。

 

「煌坂のやつが夜中に電話なんかかけてくるんだよ」

「電話? 紗矢華さんが、ですか」

 

 雪菜が驚いたように目を瞬かせ、顎に手を添える。古城も雪菜の反応を見てだよな、と頷く。

 

「最初はすげぇ嫌そうにかけてきたんだ」

「はい、紗矢華さんは獅子王機関の上司が相手でも着信拒否するくらい男性との電話を嫌います」

「自分でも言ってたぞ。翔矢以外の男と電話なんてしたくないって」

「なら何故紗矢華さんが先輩に……」

 

 古城に電話をする理由が思いつかない雪菜は首を傾げて思案する。

 

「翔矢だよ。翔矢のことを訊きたくて携帯を持ってる俺にかけてきたんだろうさ」

 

 その言葉に雪菜はあっ、と声を上げた。思い当たる節があるようだ。

 

「そういえば翔矢さん、紗矢華さんがまだ喋ってるうちに電話を切った時が……」

「あぁ……その時以降俺に電話が来るようになった」

「その、先輩。すみません」

「姫柊が謝ることはないだろ。悪いのは、煌坂があんなにアプローチしてるのに気づかない翔矢だ」

 

 古城の言葉に雪菜は頷こうとし、彼女は頭の中で台詞を反芻した。

 ──アプローチしてるのに気づかない。

 

「……」

「ん? どうした姫柊」

「いえ。なにも」

「え、なんで急に冷ややかな目線を!?」

 

 プイっと顔を背け、モノレールが彩海学園の最寄り駅に着いた途端に黙って先を歩いていく。

 

「あ、おい姫柊、待てって!」

 

 自らの失言に気づかないまま、古城はフードを被り直して駅のホームをつかつかと歩く雪菜の背を追った。

 

 

 教室に着き、古城はクラスメイト達に挨拶を交わしながら自分の席に座った。すると、背後から背中を軽く叩かれた。

 

「うーす、古城。お前、いつにも増して人相悪いな。どうした」

 

 首にヘッドフォンをかけた男子生徒、矢瀬基樹だ。

 

「ただの寝不足だ」

 

 気怠げな眼を基樹に向け、放っておいてくれ、と目で訴える。そんな彼らに一人近寄る。

 

「おはよう、古城、基樹。……古城は眠そうだね」

 

 古城の眠そうな顔を見て、黒崎翔矢はその整った顔に苦笑いを浮かべた。

 

「よう、翔矢」

「翔矢か……。そういや、朝早かったみたいだな。なにしてたんだ?」

「南宮さ……先生のもうひとつの仕事の手伝いをね。人使いが荒いんだ、あの人」

「あら、何の話?」

 

 男三人でそう話していると、クラスメイトの築島(つきしま)(りん)が笑いながら会話に乱入してくる。

 抜群のスタイルとクールな言動で校内の男子に根強いファンを持つ、翔矢たちのクラス委員だ。

 

「なにか悩み事? もし良かったら相談に乗るよ?」

「いや、別に悩んでるってわけじゃ」

「俺もとくにないかな。大丈夫だよ」

「人間関係ね」

 

 古城は曖昧に誤魔化そうとし、翔矢は穏やかな笑みを浮かべて断ろうとすると倫はそう断言した。自信に満ちた彼女の言葉に、古城は動揺する。

 

「それも女性関係」

「え!? なんでわかるんだ!?」

 

 一瞬、浅葱のことを思い浮かべ、古城は目に見えて狼狽えた。

 ここ最近の寝不足は紗矢華の電話だけではない。浅葱との一件以来、自身の秘密である世界最強の吸血鬼ということを伏せたまま、彼女の好意を受け入れるわけにはいかない、と思いつつ思考の泥沼にハマって眠れないでいるのだ。

 

「古城、お前って意外に霊感商法とか詐欺とかに引っかかりやすいタイプだったのな」

「あー、ダメだよ古城。そういうのはバーナム効果っていう誰にでも該当するものなんだから」

「詐欺? ばーなむ??」

 

 唖然とする古城を見ていた倫はクスクスと声を出して笑う。そこで初めて古城はまんまと倫に嵌められたと理解した。

 

「くそ……完璧に騙された。もうお前らのことは二度と信用しねぇ」

「騙すなんて人聞きの悪い」

 

 はぁ、と乱暴に息を吐いて古城は口を引き結ぶ。

 

「黒崎くんは占いとか信用しない感じ?」

「いいや。占いは魔術や呪術と精通してるからね。信じる信じない、というよりそうなっちゃうから」

 

 やはり攻魔師といった解答に倫はへぇ、と興味を持ったように声を上げた。

 事実、翔矢自身も幼い頃に紗矢華と雪菜の身を案じて占いをしたこともある。結果は躓いたり怒られたりする微笑ましいものだったが。

 

「おはよー、お倫。あんたたちもね」

 

 話していると次は浅葱が話の輪に入ってきた。

 皆口々に挨拶を交わしていく。

 

「あれ、浅葱そのクマどうしたの」

「浅葱も寝不足?」

 

 周りが女性に囲まれた環境にいた翔矢と、仲のいい倫は浅葱の変化に目敏く気づいた。

 

「んー、昨日ちょっとね。って、も?」

 

 自分以外にもいるのか、と浅葱は怪訝な顔をする。

 

「暁くんも、昨日あんまり寝てないんだって」

「な、なによニヤニヤして……」

 

 若干声を上ずらせて浅葱が倫に抗議した。似た者同士、というような意味を込めていると気づいたようで、彼女の頬は赤く染っている。

 

「あたしは昨日の騒ぎで寝れなかっただけよ」

「おお」

 

 早口で言い訳をする浅葱に、基樹が食いつく。

 

「そうか。アレってお前ん家の近くだっけか」

「そうなのよ。明け方まで消防車やら救急車が走り回って騒がしいったら」

「騒ぎって、もしかして」

「なんかわかるのか、翔矢」

 

 浅葱と基樹の会話を聞いて、翔矢はふむ、と腕を組む。

 

「さっき、南宮先生の手伝いをしていたって言ったよね。多分、俺が見た書類がそれだ」

「おそらくそうだろーな。俺もちらっとニュースを見ただけなんだが、夜中に西地区(ウエスト)で魔族が暴れたってよ。未登録魔族が()り合ったらしい」

 

 面白がるように言う基樹の頭に、翔矢は軽く拳を叩き込み、目を細めた。

 

「結構派手にやらかしたみたいで、ビルは何棟か倒れてたし、道路は陥没してるし、特区警備隊(アイランドガード)は押し寄せてきて大騒ぎよ。どこかのバカな吸血鬼が、また眷獣でも暴走させたのかと思ったけど……」

「俺じゃない……」

 

 古城は無意識にそんなことを口走り、翔矢が肘で突く。そのお陰でハッとした古城はあはは、と引き攣りながら笑う。

 ここ絃神市は魔族特区。五十六万人の総人口のうち、約四パーセントは正式な市民権を与えられた魔族である。獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体。そして吸血鬼。

 この街では魔族など珍しくもないため、翔矢や古城以外の魔族が暴れて街を壊しても、驚くことはない。

 

「おっと、そろそろ予鈴だな」

「そうね。席に戻りましょ」

「そうだね。予鈴がなる前にお手洗い行ってこようかな」

「あ、翔矢。俺も行くわ」

 

 基樹、倫、翔矢がそう言って古城と浅葱から離れていく。古城もホームルームが始まるまで寝ようかと机に突っ伏しかけるが、その前に浅葱が彼のパーカーをつまむ。

 

「ところでさ、古城……あんた、今日の放課後、暇?」

「いや、とくになんもないが」

 

 放課後は雪菜にストーカーされるというだけで予定もなにもない。

 古城の返答に浅葱はホッと安堵した。

 

「じゃあさ、授業が終わったあと美術室に付き合って。あんた一人で。翔矢も連れてきゃダメだからね」

「お、おう。わかった。でもなんで美術室?」

「いいから。他の人には内緒にしておいてよ」

 

 頬を赤く染めて囁いて、浅葱は自分の席に戻って行った。放課後、なにされるんだ、と古城は怯えながら机に突っ伏した。

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 放課後になり、古城は浅葱に連れられてどこかに行った。俺は使い魔の能力で古城の位置を把握し、なるほど、と呟く。

 

「幼馴染的には雪菜を応援したいけど、浅葱にも頑張って欲しいんだよねー」

 

 式神を使って視界を共有すると、二人で楽しそうに写真を撮り合っている。二人の姿は執事服とウェイトレスのコスプレをしていた。

 なにやってんの、あの二人。

 

「翔矢さん」

「ん」

 

 二人の行動に呆れていると、隣から聞き慣れた声がかけられた。体ごと声がかけられた方向に向けると、ギグケースを背負った雪菜が拗ねたような表情を浮かべて立っていた。

 

「なにそんな顔してるの」

「別に、なにも」

「嘘でしょ、膨れちゃってさ」

 

 笑って彼女の膨れた頬を突っついてやると、ますます膨れていく。

 

「そんなに嫌? 古城が浅葱と仲良くしてるの」

「いえ、そういうわけでは……ただ」

「ただ?」

「……なんでもないです」

 

 そっか、と雪菜の頭を撫でる。彼女自身、何故今のような態度なのかわからないようだ。

 彼女とそうこうしているうちに、下校時刻を告げるチャイムが鳴り始めた。式神で古城たちを確認すると、浅葱が課題で出されたスケッチブックはまっさらだ。

 

「なーんか二人で約束してるね。週末にでもやるのかな」

「そうですか」

「気にならないの?」

「先輩がご自宅で大人しくする、というならわたしは別に……」

 

 まったく、この子は手が焼けるな。そういうことなら俺からは何も言うまい。浅葱にもチャンスは与えたいしね。

 

「さ、古城は浅葱と離れたみたいだし合流しよっか」

「はい」

 

 夕日に染まる廊下を歩き、美術室周辺に着く。少し先には、こちらに背を向ける白いパーカーを着た少年の姿がある。

 

「お疲れみたいですね、先輩」

「あぁ……って、姫柊。それに翔矢も」

 

 声だけではわからなかったのだろう。古城は振り向いて雪菜だったと気づいた。

 

「こんな時間まで何をしていたんですか」

 

 知ってるくせによくそんな質問を出せるね。ちょっと感心するよ。

 

「いや、ちょっと友達の美術の課題を手伝ってて……」

「美術の手伝いで、藍羽先輩にウェイトレスの格好をさせるんですか?」

「やっぱ見てたんじゃねぇか。翔矢も知ってたろ……」

「うん。会話もバッチリ」

「この国家公認ストーカー共め」

 

 俺だって古城の監視なんて心苦しい。しかしこれも任務。雪菜が視覚だけの式神しか操れないため、使い魔の能力で会話を聞いて補佐するのが俺の仕事だ。

 もちろんプライバシーを守るため、関係ないことはあとで記憶を封鎖している。

 

「まぁ、ちょうど良かった。姫柊たちに相談したいことがあるんだ」

「相談、ですか」

 

 そう言って、古城は浅葱に言われたことを話す。

 あたしに隠していることを全部話せ、と言われたらしい。ちょうどその時は雪菜の頭を撫でてたので聞いていなかった。

 

「このままあいつに秘密にしたままってのは、流石にちょっと気が引けるっていうか、心苦しいっていうか」

 

 なるほど。確かにその気持ちはわかる。過去に一度、俺もその体験をしているからこそ共感できる。

 

「もし俺の正体がバレたら攻魔師のことを隠してる姫柊の立場も影響するだろ? 翔矢はなんとかなるとしても、まずは一度二人に相談した方がいいなって」

「古城はどうしたいの?」

「俺は……悩んでる。知って避けられるか、それとも知らないまま巻き込んじまうのか、ってさ」

 

 廊下の窓枠に手を置いて、古城は真剣な表情で考えている。

 

「……先輩は、藍羽先輩のことが大切なんですね」

「あぁ、友達だからな」

 

 巻き込んで怪我をさせる、もしくは死に追いやってしまう、それこそ前回の黒死皇派のテロだってそうだ。

 浅葱の性格から見て、彼女は古城が第四真祖だと知ったとしても変わりなく関わっていくだろう。まだ浅葱と関わった日にちは少ないが、そこだけはわかる。

 その線もあるかもしれない、と古城も心のどこかで思っているはずだ。だからこそ悩んでいる。

 俺たち獅子王機関がしっかり守れるのであれば包み隠さず話してもいいだろう。しかし、それが叶うことはない。

 

「もし話したとして、わたしの身分は公表しても問題はありません。ただ、問題がひとつ」

「問題?」

「あ、そっか。それもあったね」

 

 忘れていた。浅葱よりも大事なことだ。

 

「凪沙ちゃんのことです」

「あー……そうだ。凪沙の魔族恐怖症……」

 

 俺もまた古城と同様、半魔だということを秘密にしている。浅葱にも伝えていない。使い魔の能力は魔術や呪術で通しているため問題はないが、古城のはそうはいかない。

 

「あーくそ、どうすりゃいいんだ……」

 

 彼は弱音を吐いて頭を抱える。ふと、窓から見える中等部の中庭が目に入った。そこには、件の女子生徒を見つけて、古城は眉を寄せた。

 

「凪沙……? それにあいつ」

「あ、ホントだ」

「わたしたちのクラスの男子生徒ですね」

 

 凪沙ちゃんと話すジャージ姿の男子生徒を見て、古城は見覚えがあるのか、なんであいつと? と疑問を抱いている。

 

「ん、手紙渡したね」

「あ? なんだアレは」

「おそらくですけど、ラブレターでは?」

「は、ハハッ、まさかそんな。凪沙にラブレターを渡す男なんているわけないだろ」

 

 虚ろな笑みを浮かべて、古城がそんな言葉を洩らす。

 

「いや、何言ってるの。凪沙ちゃんはモテるでしょ」

「はい、凪沙ちゃんはモテますよ」

 

 俺と雪菜の言葉に古城はえ、と表情を固くした。

 

「明るくて可愛い、話しかけやすい、面倒見もいい、友達も多い、モテない理由なんてないでしょ」

「はい。傍で見ていてもわたしもそう思うので、結構モテるはずです」

 

 嘘だろ、と言わんばかりに彼は顔を驚愕の色に染める。

 無自覚なんだろうけど古城ってシスコンの気があるよね。

 手紙を渡し終えた男子生徒は颯爽と帰っていった。

 

「とりあえず、今日は手紙を渡しただけのようですね」

 

 窓枠に突っ伏して見ていない古城に実況するように、雪菜が残念なものを見る目を彼に向けながらそう言った。

 そんな目で見ないであげて欲しい。多分俺も雪菜が手紙を受け取るところを見ていたなら同じ反応をしていると思う。

 

 

 

 

 γ

 

 

 

 

「っていうことがあったんだ」

『翔矢も、暁古城の立場なら同じ反応をするわね』

「はは、やっぱわかるか」

『当然じゃない。何年一緒にいると思ってるのよ』

 

 深夜一時。

 俺は幼馴染の紗矢華に電話をかけ、その日起こったことを話していた。思わず彼女が胸を張る仕草を想像してしまい、小さく笑ってしまう。

 

「ま、俺の場合、そんな奴どこかに転移させて放置するけど」

『わかるわ。私も暗殺して抹殺してやるわ』

「それはやり過ぎ」

 

 物騒な話題になりかけたので、俺はゴホン、と咳払いをして話題を切りかえた。

 

「それで、紗矢華。今回の任務はどういうものなの?」

『あぁ、それなんだけど……実は』

 

 歯切れの悪い紗矢華に、俺はん? と疑問を抱く。いつもならすぐ言うはずだが、今回は言い淀んでいる。

 

「なにかあった?」

『翔矢ならいいか。前任者だし』

「前任者? ……もしかして、アルディギア王国の王女?」

『ええ、その王女様が今週末に絃神島に来日するの。でも、航空機にトラブルがあったらしくて』

 

 トラブルと聞き、俺は目を細めた。

 装甲飛行船、〝ランヴァルド〟。王女を乗せたというならその船を使ったはずだ。整備は万全、護衛には聖環騎士団が配置されている。並大抵のトラブルなら即時対応できるはず。その船がトラブルで合流できないとなると、何かあったか。並の魔族を遥かに凌ぐ上位の魔族、あるいは反悪魔(レネゲイド)か。

 

「襲撃された、っていう情報は?」

『まだわからないの。師家様に情報を頼んでいるけれどいつになるか』

「そっか……わかった。俺の方でも調べてみる。反悪魔(レネゲイド)が絡んでたら聖環騎士団の手には負えないだろうから」

『そうね。翔矢、反悪魔(レネゲイド)だったとしたら……無理はしないでよ』

 

 反悪魔(レネゲイド)。俺たち悪魔には魔族特区とは別に悪魔の住処が存在する。そこには国と同じく法律があり、違法に手を染めた者を追放、または自ら抜け出す者のことをそう呼称する。

 俺が獅子王機関に所属するもうひとつの理由が、人に害を与える反悪魔(レネゲイド)を仕留めることだ。

 ふぅ、と息を吐き、重くなりかけた気持ちをフラットにする。

 

「わかったよ。それよりも、王女は結構お転婆だから胃薬用意するといいよ」

『え、それどういうこと!?』

「そのままの意味だよ。じゃ、頑張ってね紗矢華」

『待って! 怖くなってきたんだけど!? 翔矢、手伝っ──』

 

 ブチ、と容赦なく電話を切ってやる。

 手伝ってとか聴こえたけど知らない知らない。さぁて、南宮さんに押し付けられた書類片付けなきゃいけないし、紅茶淹れて頑張るとするかな。

 生真面目な雪菜はもう既に就寝している。静かにリビングに入り、紅茶を準備してしばらく待つ。

 できあがった紅茶を持ってベランダに出て、夜風にあたりながら飲む。

 昼間の蒸し暑さと違い、夜の絃神島は風が心地いい。暑さはもちろんあるが不快ではない。

 

「お、翔矢。お前も外の空気を吸いに来たのか?」

「まぁね。さっきまで紗矢華と話しててさ」

 

 隣の暁家のベランダには古城が夕方のように柵に突っ伏していた。

 

「なんか様になってるな、紅茶飲むの」

「まぁね。アルディギアにしばらくいたし飲み方とかは王家の作法だよ」

 

 立っては飲まないけどね、と付け足して俺はもう一口飲む。

 

「へぇ、そういやそこら辺聞いてないな。昔の任務のこととか」

「話せることは少ないけど、時間がある時なら話してあげるよ」

「おう、面白い話とかも頼むわ。……って、なんだアレ」

「ん、火事?」

 

 古城と話していると、俺たちが住むマンションから見える工場区から火の手が上がっていた。

 

「わかるか、翔矢」

「無理。あの距離だとヴァトラー並の魔力がない限り察知できない」

 

 そうか、と古城は頷く。

 知ったところで古城にはなにもできない。俺も南宮さんからの指示がなければ動くことは許されていない。もし動けばなにをされるか。

 火事が起こる工場区を見つめ、俺たちは挨拶を交わした後、それぞれの部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 




8500文字とか頭悪い。
多分、これからもこれくらいの文量で行くかもしれません。


次は早めに投稿したいですね!!!!
ではこの辺で。


感想、評価お待ちしております。



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