ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜 作:倉崎あるちゅ
お久しぶりです。
マイクラや貯めてたゲームを消化してて遅れました。申し訳ありませんでした!
彩海学園中等部。
そこでは高等部に転校してきた生徒の話で持ち切りだった。美形の男子生徒だと聞きつけ、その話題は一気に広まった。
2時間目以降の休みに高等部に行く生徒達が増え、休み時間は中等部の廊下はがらんとしている。
そんな中、姫柊雪菜は高等部にいる古城の監視のため、式神を使って監視をしていたのだが、彼の隣に座るその転校生の顔が何故かどの角度からも見えない。
危険がないのか確認したかった雪菜は、どんな人物なのか判別できず眉を顰める。
「一体、どうなって……」
閉じていた目を開けて、彼女はそう呟く。
そんな雪菜の目の前に、古城の妹の暁凪沙がひょこ、と顔を出した。
「雪菜ちゃん、どうかした?」
「あ、ううん。なんでもないよ。ただ、高等部の転校してきた人ってどんな人なのかなって」
雪菜がそう言うと、凪沙は笑みを浮かべて雪菜の机に手を置いて身を乗り出す。
「お、雪菜ちゃんも気になる? 実はあたしも気になってたんだよねっ。古城くんと同じクラスらしいんだけど、家に帰って聞くより見に行った方が早いかなって思うんだ。雪菜ちゃんはどう思う?」
相も変わらず凪沙のマシンガントークに雪菜は頬を引き攣らせる。かろうじて、そうだね、と相槌を打って先程の何故か顔が見えない転校生を思い出す。
「気になるなら古城くんに言って昼休みに食堂に連れてきてもらおうよ」
凪沙のその提案に頷いて、次の授業の教科書やノートを取り出す。高校生程度の勉強は終わらせている雪菜だが、しっかり授業を受けている。
凪沙も古城に転校生を連れてくるようにメッセージを送ったようで、雪菜に昼休みねー、と言って自分の席に戻っていった。
もう一度目を閉じて式神に意識を集中させるが、何度角度を変えてみても顔を識別できない。ただわかるのは魔族登録証をつけていないことから魔族ではないと判別できる。
「これは、認識阻害? いや、でもこれは……空間を歪めているような……。それとも別の呪術?」
空間を歪めているとなるとクラスメイト達も気づく。しかし、それがないということはそれと別のものとなる。
その後、雪菜は違和感を抱えたまま授業を受け、心ここに在らずといった様子だったがなんとか乗り越え、昼休みに雪菜と凪沙は古城達がいる食堂に来た。
辺りを見渡して、彼女達は古城達のいる席を発見した。
「んっ、このラーメン美味しいね基樹」
「だろ! 俺のおすすめ」
「翔矢、こっちのカレーも美味しいから、良かったら食べていいわよ」
「ありがと浅葱」
雪菜は、はぐはぐと学食を食べる空色のパーカーを着た生徒の後ろ姿を見て目を疑う。
「浅葱が自分のを譲るなんて珍しいこともあるが……
「何言ってんの
「それが食いすぎだって言ってんだよ」
はぁ、と古城は溜息をつく。すると、後ろに人がいるのを察した彼は振り返ってにっ、と笑う。
「お、来たな」
「やっほー古城くん。浅葱ちゃんと矢瀬っちも!」
「凪沙ちゃん、いらっしゃい」
「よっす凪沙ちゃん」
元気よく手を挙げて、凪沙は古城達のところへ歩み寄る。
「ん?」
ラーメンを啜っていた翔矢はチャーシューを口に頬張りながら後ろを振り向く。咀嚼してごくりと飲み込んで、凪沙の後ろから歩いてくる雪菜を見つけてイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべた。
式神で認識できなかったのは翔矢が那月に頼み、空間を歪めてもらっていたのだ。
「ど、どうして翔矢さんが……!?」
「数日ぶり、雪菜」
箸を置いて、翔矢は軽く手を挙げる。
「攻魔師の仕事でこっちに引っ越してきたんだ。またよろしくね、雪菜」
「え、ええっ? は、はぁ……よろしく、お願いします」
攻魔師、引っ越し、いろいろ訊きたいことが多すぎて、雪菜は混乱した。パチパチと目を瞬かせていると隣の凪沙が、あっ、と声を上げる。
「この前屋上にいた!」
「あ、あぁ、うん。この間はどうも」
凪沙の言葉に軽くどもりながら答え、翔矢は冷汗をかく。古城はそういや凪沙も来てたよなー、などと呑気なことを考え、浅葱はニヤニヤと笑って翔矢を見る。
「なんだ、凪沙ちゃんもその時いたのかー。俺だけかよいなかったの」
「ちょっとだけだけどねー」
「あ、あはは」
この場でただ一人、当時教室にいた基樹が不貞腐れたように呟き、翔矢は乾いた声を漏らした。
二人を席に座らせたあと凪沙とも自己紹介を済ませ、一緒に昼食をとる。その時に古城は、隣に座る雪菜に小声で質問する。
「なぁ姫柊、こいつって普段こんなに食うのか?」
「そうですね。朝は少食ですがお昼や夜になると結構食べますよ」
「マジか。浅葱レベルとは言わんが、それでも相当だぞ」
「翔矢さんは、その……ハーフなので燃費が悪いそうで」
雪菜が凪沙の方をちらりと見てからそう言うと、古城はそういやそうだった、と雪菜とは逆の隣に座って大盛りのラーメンを今まさに食べ終えようとする翔矢を見て思い出した。
「ふぅ、食べた食べた。ごちそうさまでした」
律儀に手を合わせてから、手元に置いてあるお冷が入ったコップを傾ける。
「そういえば、翔矢くんってどこらへんに住んでるの?」
紙パックのジュースを啜る凪沙が翔矢に訊ねる。彼はあぁ、と目線を逸らして頬をかいた。
「いやー、まだ住むところ決まってないんだ。一応経費でキーストーンゲートのホテルに泊まってるけど」
「うっそ、キーストーンゲートのホテルって凄い高級じゃん! 翔矢くん凄い! ねぇねぇどんな内装なの? ベッドはもうふかふかなんだろうね、お料理はどんなのがあるの?」
「え、ええっと……」
「悪い翔矢。……おい凪沙、落ち着けよ」
凪沙のマシンガントークにたじろいでいると隣の古城が苦笑いを浮かべて彼女を諌める。これには雪菜も苦笑し、古城を挟んで彼女は翔矢に話しかけた。
「ところで、翔矢さんは暁先輩のことを名前で呼ぶようになったんですね」
「あぁ、うん。最初は基樹と浅葱も苗字だったんだけど、他人行儀で嫌だって浅葱が言ってさ」
「なるほど。……あの、翔矢さん」
ん? と首を傾げて少し言い淀む雪菜を見る。
「紗矢華さんと話してる時に、その……不用意に他の女性の名前を出さないように」
「紗矢華? どうして?」
「とにかく、出さないように」
「あ、はい」
聞き返すとジトっとした目を向けられ、翔矢は大人しく従った。それで、と雪菜が言葉を続けて口を開く。
「翔矢さんがよければ、私と一緒に住みませんか?」
「え、雪菜と?」
「はい。住むところがないということなら、ちょうど部屋を余しているので」
願ってもない申し出だった。
翔矢としては最悪、師匠である縁堂縁の式神が常駐する獅子王機関の絃神島出張所にお世話になるつもりでいた。
第四真祖の監視に雪菜の補佐。この任務を受けている身としてこれ以上ない拠点だろう。加えて雪菜の家の使っていない部屋の数は三部屋中二部屋。翔矢が住んでも一部屋残る計算だ。
「姫柊さんはいいの? こんな顔でも男よ?」
会話を聞いていた浅葱が翔矢の顔を指さして質問する。指をさされた彼は、こんな顔……としょぼくれる。
「大丈夫ですよ。翔矢さんとは昔からの付き合いですし、何かあれば翔矢さんのお父様やお母様にでも」
「僕は何もしないから父さんと母さんはやめてお願いします」
「それに紗矢華さんにも言えば──」
「絶ッ対やめてそれだけは! 僕死ぬから!」
本当に嫌なのか、翔矢の一人称が僕になるほど首を振る。そんな彼を見て雪菜はふっ、と微笑んだ。
「冗談ですよ」
「冗談に聞こえない……」
ぐったりと背もたれに背を預けて呻く。
「この様子じゃ大丈夫そうね」
「妹みたいなもんって教室でも言ってたしな」
「大丈夫かこれ」
一人称が変わる時はパニックの時など、と聞いている古城はその心労が凄まじいことに心配する。
じゃあ、と凪沙が柏手を打つ。
「翔矢くんが引っ越し終わったら、ここにいるみんなでお鍋にしようよ! 雪菜ちゃんが引っ越してきた時もお鍋だったし!」
「んじゃあ明日か明後日辺りか」
荷物あるしな、と古城が言って浅葱と基樹も頷く。
「あ、それなら問題ないよ」
翔矢のその言葉にえ? と全員が彼を見る。
翔矢は顎の下まで伸びた髪をいじりながらにこりと笑う。
「魔術で別空間に収納してるから、あとは移動だけ」
「なんでもありだなお前……」
仕草が少し女子のような翔矢を呆れたように見て、古城は呟く。その隣の雪菜は魔術という単語が出てきて焦り、古城の背中に隠れるようにして小さく言う。
「い、いいんですか。攻魔師のこと……!」
「南宮さんからは隠さなくていいって言われてるからね。獅子王機関のことと魔族だってことがバレなければいいし」
「そ、そうですけど」
心配そうな顔をする雪菜に、翔矢は微笑むだけだ。
「へぇ、便利ね」
「じゃあ今日お鍋にしよう!」
「うん。買い物は俺と古城に基樹で済ませておくから」
翔矢がそう応えると古城が嫌そうに声を上げ、基樹が俺もかよ、と顔をしかめる。
その後凪沙が鍋の材料を決め、それを翔矢がメモしていく。大食いの浅葱がいるので大量の材料を買うことになるが、そこは翔矢が経費で落とすそうだ。
その言葉を聞いた雪菜はジトっとした目を彼に向けていた。
α
放課後。
俺と古城、基樹の三人はこのあとの鍋パーティーのためにスーパーに来ていた。浅葱は管理公社のバイトがあるため鍋が完成する頃に暁家に来るそうだ。凪沙ちゃんは部活で、雪菜はそれにつれていかれた。
「うっわ……白菜高いね」
「まぁここは人工島だしな」
「
食費は経費で落ちて良かったな。自分のお金で払ってたら身が滅ぶ。
絃神島の物価の高さに戦々恐々としつつ、俺は白菜を手に取って目利きする。自分で料理をするにあたって、食材の目利きを怠るなと母さんに叩き込まれているため、スーパーに行ったらこのように手に取ってよく見ている。
これ、自分で育てた方が安くできるんじゃ……? しかもそっちの方が鮮度もいいだろうし。
「これでいっか」
手にした白菜をカートに入れて、もう二つ入れる。
「えーと、次はしらたきか?」
「うん」
「んじゃ、俺肉行ってくるわ」
「できるだけ良いの持ってきてね古城」
「はいはい」
使い魔の能力で古城の反応は追えてるし直接
「にしても量多いな」
「浅葱も食べるし、俺もよく食べるからね」
あはは、と笑う。基樹もだよなー、と頭に手を組んでへらっと笑う。
「大変だわな、
「
「あー、確かに辛い」
矢瀬基樹。人工島管理公社の名誉理事、矢瀬
そのことに気づいたのは、ホテルに泊まっている間に彼がヴァトラーに海から拾われたのを思い出してからになる。何故騒ぎの近くにいて、ヴァトラーに拾われるのか、少し考えて行動すればよく分かることだ。
調べるのに多少骨が折れたけどなんとかなった。
別に獅子王機関からも基樹と接触してはならないなんて聞いていないし、彼が知っていることを不利にならない程度に聞くくらいならいいだろう。
そう思い、基樹には隙を見て古城や浅葱に気取られないように行動して接触していた。
「安心しろよ。獅子王機関のことや魔族ってことは浅葱にはもちろん、誰にも言うことなんてしないからさ」
「うん。俺も基樹が不利にならないように立ち回るつもりだ。だって監視するだけなのに痛い思いなんて嫌だもんね」
「この前みたいなのはホント勘弁」
〝オシアナス・グレイヴ〟に捕らわれていた雪菜の下へ〝雪霞狼〟を届けてくれたのは基樹だったらしい。その行動がなければ、雪菜は戦線に復帰できなかったので本当に感謝しなければならない。
損な役回りが多いと嘆く基樹と喋りながら残りの食材をカートに入れていく。古城も肉をメモに書いた通りのものを持ってきてくれたので、あとは会計するだけだ。
流石に量が多かったのでカートを別けて古城と基樹にお金を渡してレジに並んだ。
「おっも……!」
基樹の前では吸血鬼だとバレないように、古城は重そうに装う。今嘆いたのは唯一人間の基樹だ。
「人通りが少ないところで空間に入れるからそれまで我慢してね」
ギギ、と壊れかけの機械のように基樹が頷く。
しばらく歩いて路地裏に入り、俺は竹刀ケースから〝黒翔麟〟を取り出す。基樹はおおー、と興味深そうに見つめる。
微量な霊力を流し入れて虚空を小さく斬りつけた。
ブゥン、とノイズが鳴って小さな穴が空く。そこに荷物をゆっくり入れて保管する。本当はこのまま暁家まで行けるが流石に無闇に使うのは雪菜が怒るだろう。
「さ、古城の家にいこー!」
「凪沙ちゃんの料理楽しみだなー」
俺と基樹がそう言うと古城ははいはい、と適当に相槌を打った。
暁家に着いてからは鍋の下ごしらえをするために、俺がキッチンに立って肉や野菜を包丁で切っていた。料理をする、とは言っていたはずだが古城も基樹も意外そうに見つめてくる。
「男料理かと思ってたけど、全然そんなことなかったな」
「だな。俺と似たようなもんだと思ってた」
「酷いね二人とも」
これでも母さんや師匠から叩き込まれているので料理は紗矢華よりできる。調理できるレパートリーも和食から洋食、フランス、果てはアルディギアの郷土料理まで作れる。
「はぁ……こりゃ煌坂が焦るわけだ」
小さく古城がそんな言葉を漏らした。
「紗矢華がどうかした?」
「いや、最近あいつと電話するようになったんだが……お前の手際の良さを見て納得したわ」
「んー? どういうこと?」
イマイチ理解できない。
なんでもねーよ、と苦笑して、古城はソファに深々と座る。
「大変そうだなー翔矢の幼馴染ちゃんは」
「だよなー、ありゃあ骨が折れるだろうよ」
「これを経験して、古城ももうちっと鋭くなれば俺も楽なんだがなぁ」
「なんで俺なんだよ」
キッチンで調理していると、テレビを見ながら古城と基樹がそう話す。
その間に下ごしらえを済ませ、時計を見るとまだ雪菜と凪沙ちゃんが帰ってくるまで時間があった。俺は〝黒翔麟〟を使って空間の狭間からアルディギアで貰った紅茶セットと茶葉を取り出した。
「あ、そうだ」
南宮さんからもらったお茶請けを出そう。古城達にはあげないけど。
二人の分の紅茶を淹れて目の前に俺のとは別のお茶請けと共に置いた。二人から絶賛され、雪菜と凪沙ちゃんが帰ってくるまでの間は彼らの話を聞いていた。
β
「うぅ……お腹いっぱいです……」
「結構食べたもんねー」
何事もなく鍋パーティーは終了した。
十人前ほどもある鍋やその他の料理達を俺と浅葱が平らげ、それを見た凪沙ちゃんが喜んで余った食材でまた料理を食卓に出した。
雪菜もまた普段食べないわりには、今日は結構食べていたと思う。
「あ、この部屋使っていい?」
「はい。どうぞ」
雪菜が使っている部屋の隣の隣のドアを開けて荷物を置く。
何故隣の隣かと言うと、もしかしたら隣は紗矢華が使うかもしれない、という淡い期待があるからだ。雪菜もまたそれを察したのか特に何も言わない。
「よっ、と」
空間の狭間からアルディギアの騎士団から贈られた高級ベッドを、次にマットレス、掛け布団など次々に調度品を順番に置いていく。
一時間ほど部屋でドタバタしていると、雪菜が部屋に訪れた。
「こ、これは……」
部屋に置かれた数々の高級な調度品達。机の上には暁家で出した紅茶セットがある。
「いらっしゃーい。紅茶飲む?」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
唖然とした表情で頷いて、淹れた紅茶を受け取る。
「凄いですね」
「俺ってアルディギアに長期任務で行ってたでしょ? その時のお礼ってことで騎士団や王様から色々ね」
今飲んでる紅茶の茶葉もだよ、と言うとビクリと肩を震わせて、彼女はカップに入った紅茶を凝視した。
恐る恐る紅茶に口をつけて飲む雪菜がおかしく見え、俺はくすくすと笑い声を漏らす。それに不満を覚えたのか、雪菜がむぅ、と頬を膨らませた。
「はは、ごめんね。つい」
「翔矢さんはいつもそうやって意地悪します」
「えー? そうかな」
「そうです!」
ぷりぷりと怒る彼女の口に南宮さんからもらったお茶請けを放り込んで、なんとか誤魔化す。今のように年相応な反応をしているのが可愛くて紗矢華と一緒に意地悪をしている。
最初こそは紗矢華は抵抗があったが、慣れとは恐ろしいものだ。
「紗矢華さんも一緒に住めたらいいですね」
「うん。きっとそう遠くないうちに来れるんじゃないかな」
あの古城が世界最強の第四真祖なんだし、これからも問題は起きるだろう。俺達獅子王機関はそれに駆り出されるだろうし、何かのきっかけで紗矢華がここに住むようなことがあっても不思議じゃない。
「また昔みたいに一緒に遊べる時だって来るさ。それまで頑張ろう」
「はい。お互い、頑張りましょう」
雪菜がそう力強く頷き、俺は笑みを浮かべた。
次から天使炎上篇いきます。
感想、評価お待ちしております。