ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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あくまでメインはダンまちですので、こちらは気まぐれ更新です。そこはご注意下さい。

それではどうぞ!

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ルビ振り編集しました。


舞剣士の帰還篇
 Ⅰ 


 α

 

 

 飛行機から出て、空港の中に入った俺──黒崎(くろさき)翔矢(しょうや)を出迎えてくれたのは一人の少女だった。少女の格好は、若紫色のサマーベストに黒色の生地にピンクの一本線が入ったプリーツスカート、同じく黒色の生地にピンクの一本線が入ったニーソックス。何より目を惹くのは彼女の綺麗な栗色のポニーテール。

 その少女は俺を見るなりムッとした表情になり、大股で歩いて詰め寄ってきた。

 

「翔矢! 貴方、一体どこで何してたのよっ!?」

 

 いきなり、少女は俺の胸ぐらを掴みながらそう言う。

 俺は目をパチクリさせながら、彼女にどうどう、と宥める。

 

「落ち着いてよ紗矢華。とりあえず手、離して……苦しぃ」

 

 ペシペシと少女──煌坂(きらさか)紗矢華(さやか)の腕を軽く叩いて胸ぐらを掴むのを辞めさせる。

 紗矢華は渋々といった様子で手を離した。

 

「ちゃんと聞かせなさい。何してたのよ?」

 

「分かった、話すよ。とりあえず、歩きながら話そう」

 

「分かったわ」

 

 紗矢華は俺の提案を承諾して、空港の出口へ体の向きを変えた。

 俺は背負っていた大きい竹刀袋を背負い直して、先に歩く紗矢華の隣に並んで歩く。

 

「それで、どこ行ってたのよ? 二年間も連絡無しで」

 

 紗矢華がジト目+倒置法で訊いてくる。それに俺は苦笑いを浮かべて口を開いた。

 

「アルディギアの王女の護衛をね。あとはアルデアル公国で"蛇遣い"と殺り合って…………」

 

 蛇遣い、という単語を出したところで俺は少し苛立つ。

 なんだあのホモ蛇使いは。俺は吸血鬼ではないというのに、何故か求婚してくる。正直言って迷惑で、迷惑過ぎて殺意すら湧く。

 俺の殺気に気付いたのか、紗矢華が少し冷や汗をかいている。

 

「そ、そうだったの。でも、連絡くらいしなさいよ。『舞威媛(まいひめ)』の私と『舞剣士(まいけんし)』の貴方はコンビで動くことになってるんだから」

 

 拗ねたように愚痴る彼女に、俺は少し申し訳ない気持ちになった。

 舞威媛、舞剣士とは、俺と紗矢華が所属する政府の特別機関『獅子王機関』の役職のことだ。

 獅子王機関は日本に古くからあるもので、それは平安時代まで遡る。それ程昔からある機関なのである。

 そして、本当は舞威媛は暗殺、護衛などの仕事上一人で行動することが多いのだが、俺と紗矢華は連携が上手く、昔からの仲であるが故にこうしてコンビで行動することが大半だ。

 しかし二年前、人が足りなくなったと上──獅子王機関の三聖──から通達を受けて、俺と紗矢華は別行動をとることを余儀なくされた。

 任務の最中、連絡を取るにもその余裕がなく、その上蛇使いが現れるという最悪の事態が発生。挙句の果てに携帯がぶっ壊れるという事件が発生。紗矢華に連絡したのはつい昨日だ。

 携帯がぶっ壊れ、連絡したのが昨日だということを紗矢華に伝えると、彼女は小さく合掌した。

 

「翔矢、ご愁傷様」

 

「そんな哀れみが篭った眼で見ないでっ!」

 

 やけに哀れみと優しさが篭る眼が、凄く俺のHPゲージをガリガリと削った。

 残りは、約三割くらいか。どれだけダメージ受けたんだよ。

 

「……まぁ、とりあえず久しぶり、紗矢華」

 

 歩きながら俺は笑顔を向けて彼女の顔を見る。すると、紗矢華は何故か顔を赤くして背けてしまった。

 

「え、えぇ……久しぶり……」

 

 その後、俺達は空港を出て、出入口近くに停めてある獅子王機関の白いワゴン車に乗り込もうとした。だが、その直後に空港内で爆発が起きた。

 

「何!?」

 

「吸血鬼三人、獣人二人のテロだね」

 

 紗矢華が叫び、俺は彼女に、知覚した情報を教える。

 俺は目を紗矢華の背中に向ける。そこにはあるはずの黒色のキーボードケースが無いことに気付いた。

 

「紗矢華、煌華麟(こうかりん)は?」

 

「任務じゃないから、持ってきてないわ」

 

「さようですか……」

 

 煌華麟とは『六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)』という獅子王機関の兵器の名前だ。その兵器は銀色の長剣の姿をとり、空間断裂という能力を持っている。

 だが、その兵器を紗矢華は現在持っていない。なので、彼女は簡単な魔術しか使えない。そしてこの場には制圧出来る武装を持っているのは俺しかいない。

 

「はぁ……仕方無い、か。俺が先行するよ」

 

 そう言って背負った大きい竹刀袋から、真っ黒な片手用両刃直剣(ロングソード)を取り出した。

 取り出したものは『六式重装降魔剣(デア・ブリンシュッツ)』。銘は黒翔麟(こくしょうりん)。艶のある黒色で、何処か儚げな感じがする剣だ。

 

「それじゃあ、行こうか紗矢華?」

 

「ちょっ、翔矢!? 危ないでしょう!?」

 

 黒翔麟を紗矢華に放り投げて、俺は手に紺色の長剣を一本虚空から取り出す。紗矢華がキャンキャン吠えるが、それには構わずに俺は空港内へ走り始めた。

 

「待ちなさいよっ、翔矢ぁぁあ!」

 

 後ろで紗矢華が黒翔麟を振り回しながら追いかけてきた。怖い。

 

 

 β

 

 

 空港内はシン、とした静寂に包まれていた。物陰に隠れた俺達二人はまず、敵の居場所を割り出していた。

 

「んー、全員魔力が低くて分かりづらいや」

 

 俺は思った以上に魔力の低さに呆れたように言った。紗矢華はそんな俺に対して厳しく言う。

 

「バカなこと言ってないでちゃんとしなさい」

 

「りょーかい」

 

 間延びした返事をして、左手に大型拳銃を虚空から取り出す。

 さっきから虚空から取り出している武器は、俺の契約している使い魔の武器だ。ただし、武器はこの二種類しかない。

 俺は目を細めてテロリスト共の居場所を探した。だが、それは無駄に終わった。

 何故なら、向こうから大声で叫んでいたからだ。

 

「逃げようなんて考えてんじゃねぇぞ!! もし逃げたら、俺の眷獣で殺してやっからなぁっ!?」

 

 金髪の男がそう強気に叫ぶが、残念ながら、俺と紗矢華には怯みなどは皆無だ。

 残りのテロリストの居場所も把握したので、そろそろ強襲しようかと思い、俺は紗矢華に目を配る。彼女も俺と同じことを思ったらしく頷く。

 大型拳銃を金髪の男の肩に照準を合わせて、トリガーを引いた。ダァンッ! と銃声が鳴り、銃口からは紫色の魔力の弾丸が放たれた。

 

「なん──っ!?」

 

 銃声を聞いてこちらを向いた男は肩に弾が直撃し、仰向けに倒れた。

 続けて二人の獣人の太腿に三発ずつ魔力弾を撃つ。獣人は異常な体力と強固な肉体を持つため、通常一発で済むこの弾丸を三発お見舞いする。

 獣人二人を行動不能にして、残るは吸血鬼二人だ。その吸血鬼達は俺達に罵詈雑言を言い放ち、魔力を一気に解放して傍に青色の魔力を放つ馬と、オレンジ色の魔力を放つ虎が出現した。

 

「こんな狭いところで二体の眷獣をぶっ放すなよ……」

 

「本当、私もそう思うわ……」

 

 俺の悪態に紗矢華も便乗して言う。

 俺は長剣を消して、大型拳銃をもう一丁取り出して二体の眷獣に照準を合わせて、大型拳銃に魔力を溜める。紗矢華は黒翔麟の柄頭を強く押して、刀身を二つに割る。剣先の所から弓弦が伸び、長剣だった黒翔麟はアーチェリーの弓のような形になった。

 

「貫け、黒翔麟っ!」

 

「喰え、『暴食(グラ)()大罪(ベルゼブブ)』」

 

 霊力で作った二本の弓矢を番えて、紗矢華は弓矢を射る。その弓矢は敵の眷獣の心臓部に直撃する。俺はその間に溜めていた魔力を解放して、大型拳銃のトリガーを引いた。

 瞬間、通常、拳銃からは有り得ないレーザーが放たれ、弓矢が当たった箇所を貫いた。

 眷獣は陽炎のように消え去っていく。

 

「な…………俺達の眷獣が……!」

 

「どうなってやがる……っ!!」

 

 自分達の眷獣がやられたことに動揺して、テロリストの吸血鬼達はたじろいだ。

 俺は大型拳銃を吸血鬼達に突きつけて、脅す。

 

「さてと……君達、どんな罰がお望みかな?」

 

「……ひっ……!」

 

「あ…………ぁ……」

 

 ドスの利いた声で吸血鬼達の頭に大型拳銃をくっつける。吸血鬼達は明確な、そして巨大な殺気に当てられて怯んだ。

 さて、獅子王機関や他の部隊に引き渡す前に、何かしておきたいなぁ──

 

「翔矢? 引き渡す前に何かしようだなんて考えないことね」

 

 その声が聞こえて、俺は後ろを振り向いた。そこにはすっごいいい笑顔の我パートナー、紗矢華だった。しかも黒翔麟を構えてる。

 

「そ、そんなこと考えてないよ? そんなふうに見える、僕?」

 

「一人称が僕になってる時点で考えてたでしょう?」

 

「ぐっ……鋭い……」

 

 昔は気付かなかったが、俺は嘘をつく時に一人称が『俺』から『僕』になる。小さい頃は僕と言っていたから、不思議はない。そして、紗矢華は幼い頃からの仲だ。それで分かるのだろう。

 結局、俺はテロリスト達に何もしないで──というより、紗矢華に羽交い締めにされていた──獅子王機関の人達が来るまで静かにしていた。

 空港にいた民間人達は、俺達がテロリスト共を沈めた後に落ち着くように言い、この一件は収束に向かったのだった。

 

 

 γ

 

 

 関西地区・高神の杜。

 高神の杜に着いたのが夜だった。何故なら、事後処理に追われていた為だ。

 はっきり言って面倒だと思ったので、ぽーい、と投げてやろうかと思った途端に絶対零度の視線が俺の額にグサッと刺さった。その正体は紗矢華。仕事やれ、と目で訴えてきたので俺は渋々とやっていた。

 そして現在、俺と紗矢華は師匠──縁堂(えんどう)(ゆかり)の部屋の前に来ていた。

 

「久しぶりだな、師匠に会うのは……」

 

「二年間も任務だったしね。私はちょくちょく会ってたけど」

 

 俺の長期の任務とは真逆で紗矢華は短期の任務の繰り返しだったようで、報告などで師匠と会っていたようだ。

 それにしても、久しぶりだ。たった二年であるが、師匠の顔に何本皺が増えているかな。

 

「翔矢、あまり失礼なこと考えない方がいいわよ?」

 

「あれ? 顔に出てた?」

 

 俺の問いに、紗矢華はうん、と頷く。俺は苦笑いを浮かべる。これが師匠にバレたら死ぬかもしれない。いや、死ぬ。確実に。

 俺はそんなことを思いながら、部屋の扉をノックした。

 

「黒崎翔矢、煌坂紗矢華二名、入ります」

 

 そう言って、俺と紗矢華は部屋に入った。失礼します、と紗矢華と一緒に言って、俺は部屋のソファに腰掛けた妙齢の女性を見た。

 

「久しぶりですね、師匠」

 

 俺は微笑んで師匠に向けて挨拶した。師匠はにやりと笑って応えた。

 

「久しぶりだね、翔矢。任務ご苦労さん」

 

 飄々とした態度で、彼女は俺を労った。

 挨拶を済ませたところで、師匠は俺達に座るように声をかけた。お言葉に甘えて座らせていただく。

 その後、軽く任務報告も済ませて、俺達は師匠が淹れてくれた紅茶を飲んでいた。

 しかし、突然師匠が口を開いた。

 

「翔矢、紗矢華。お前達二人に任務だよ」

 

 任務と聞いて、俺達は姿勢を正しくした。そして、その任務内容を師匠は言う。しかしその内容は俺にとっては一番最悪なものだった。

 

「アルデアル公国の貴族(ノーブルス)、ディミトリエ・ヴァトラーとその客人、セリア・オルートの護衛だよ」

 

 もう、疲れた。なんでよりにもよって蛇遣い(あいつ)の護衛なんかを…………。

 




翔矢君の黒翔麟は煌華麟を片手剣にして、黒くして鍔のあたりが違うような武器だと思ってください。説明不足で申し訳ありません。

それでは失礼しました!

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