ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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丁度一年ぶりの更新となります。
本当に申し訳ありませんでした。仕事との両立がほぼ出来ていなく、今は長期の休暇が取れているので、その間にプロット作り、肉付け、仕上げ、投稿という形をとっていけたらなと思います。

一年もの間、お待たせしました事を深くお詫び申し上げます。
お気に入り登録してくださった皆様、お待ちくださってありがとうございます。
暇を見て、翔矢くんや紗矢華のイラストでも描いて挿絵にしたいと思ってますのでどうかご勘弁を……!

それでは、一年ぶりなのに短いですが本編をどうぞ!!

追記:すみません、優鉢羅の時にルビ振り間違えました。誤字報告ありがとうございます。
おかしいなぁ。ルビ振りだけは間違えないようにしてたのに。とにかく、申し訳ありませんでした! 気をつけます!(一月二十四日八時四十分分現)


 XI

 α

 

 

「ふぅん、あれがナラクヴェーラの"火を噴く槍"か。なかなかいい感じじゃないか」

 

 愉しげに拍手を送るディミトリエ・ヴァトラーに、それを見る(あかつき)古城(こじょう)がイライラしながら地面を蹴った。

 

「ちっ、なんでアンタがここにいるんだ。ご自慢のバカでかい船はどうした!?」

「あぁ。実は"オシアナス・グレイヴ"を乗っ取られてしまってねェ」

 

 飄々とした口ぶりで肩を竦ませる彼に、俺は嘘だろ、とイラつきながら心の中で呟く。

 

「乗っ取られたぁ!? てめぇ、それ絶対嘘だろ!!」

「嘘じゃないサ。まぁ、そんなわけでボクとセリア嬢は命からがら逃げてきたんだよ」

 

 暁が牙を剥きながらヴァトラーに叫ぶが、彼はぬらりくらりと平然と宣う。

 そこで俺はある疑問が浮かび、それをヴァトラーに向けて訊いた。

 

「なぁ、ヴァトラー。そのオルートはどこに行ったんだ?」

「あぁ、どうも逃げてる最中にはぐれてしまったようでねェ。魔力の反応はするから大丈夫だと思うんだけど……」

 

 先程までのとぼけたような飄々とした態度ではなく、ヴァトラーは少し心配そうに呟く。

 おそらく、この一件はヴァトラー個人で企んだもの。あるいはほんの少しの関わりでオルートがいるようなものなのだろう。

 今の彼を見るに、オルートとはぐれた事は予想外のようだし、これはヴァトラー個人の企みのようだ。

 

「この一件、全てはお前の掌という事か"蛇遣い"」

 

 俺の同じ結論に至ったのか、南宮(みなみや)さんが眉根を寄せて不機嫌そうにヴァトラーに問うた。

 しかし、そんな馬鹿正直に肯定するわけもなく、彼は肩を竦ませてみせる。

 

「まさか。一応僕も被害者だよ? ……ただ、これ以上被害が出るみたいなら、自衛権を行使しなくてはねェ」

 

 いつものように軽薄な笑みを浮かべ、ヴァトラーはそのサングラスの下にある紅く染まった瞳で戦場を跋扈するナラクヴェーラを見つめた。

 

「させると思うか、ヴァトラー?」

「……あぁ、君がいたんだったね翔矢(しょうや)

 

 睨み付ける俺に視線を向け、彼は愉しげに笑う。

 すると、ヴァトラーは忘れてた忘れてたと呟いて、足元にあったボロ布のようなものを持ち上げて俺達の目の前に放った。

 ぐしゃ、と湿った音を立てて転がってきたのは、暁と同じ彩海学園の制服を着た男子生徒だった。

 

「や、矢瀬(やぜ)!?」

「あれ、知り合いだった?」

 

 目を剥いて驚く暁の反応を見てヴァトラーは愉快そうに笑った。

 

「さて、ボクはナラクヴェーラを破壊に行きたいんだけど……」

「何度も言うが、させないぞ」

 

 うずうずしているヴァトラーを牽制するように、俺は"黒翔麟(こくしょうりん)"を弓形態にして魔力の矢を番える。

 近くにいる南宮さんは彼の性格を理解しているからか、疲れたように溜息をついている。

 ──しかし、どうしたものか。

 つい先日雪菜に、監視役が戦場に行くのはダメ、と言ったばかりで、俺自身で動きたいが動けない。南宮さんあたりに監視役を代わってもらいたいがそうもいかないだろう。

 これでは埒が明かない。

 

「──ディマはわたくしが見張っておきますので、翔矢さん達はナラクヴェーラの撃破をお願いしますわ」

 

 どうしたものかと悩んでいると、俺達が来た方向から綺麗な蒼い髪を靡かせて、"焔の女王"──セリア・オルートが優雅に歩いてきた。

 

「オルート? 一体どこに……」

「急に襲撃があったもので、逃げたのですが道に迷ってしまって……」

 

 凄く申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた。

 この反応を見る限り、本当のようだ。ヴァトラーも思い出したように頭を抱えている。

 

「君は方向音痴だったもんネ……。それで? セリア嬢。ボクを見張るとはどういう事かな」

「そのままの意味ですわディマ。流石に、神々の兵器まで持ち出すなんて、わたくしは一切聞いていないですわよ?」

 

 厳かに語りかける彼女は、何も聞かされなかった事が気に食わないのか、地面に紅い焔をチロチロと出現させる程機嫌が悪かった。

 ただでさえ、常に熱い気温が数度上がったように感じる。

 すると、一触即発の雰囲気の中、気の抜けたアラーム音が聞こえた。

 一斉に音の発信源を辿ると、引き攣った表情をする暁の姿が見えた。

 

「なんだよ!? こんな時に!?」

 

 まったくだよ。静かに内心でツッコミを入れ、視線を吸血鬼二人から暁に移す。

 携帯の画面を見た彼は目を見開いて、急いで電話に出た。

 

浅葱(あさぎ)か!?」

 

 その名を聞いた俺と紗矢華(さやか)、南宮さんは驚きの表情を浮かべる。

 暁のクラスメイト、藍羽(あいば)浅葱(あさぎ)はクリストフ・ガルドシュに連れ攫われた筈だ。彼女と一緒に、俺と紗矢華の妹分の姫柊(ひめらぎ)雪菜(ゆきな)、暁の妹の暁凪沙(なぎさ)もまた連れ攫われている。

 

「え!? 姫柊?」

 

 んん!? 雪菜!? なんで!?

 

「無事なの、雪菜!? 今どこにいるの!?」

 

 俺と暁は唐突な事で狼狽するが、紗矢華はもの凄い勢いで暁が持っている携帯を奪って叫んだ。

 流石紗矢華。雪菜の事になると反応が俺より早い。

 俺も雪菜の声を聴こうと思い、暁と紗矢華の近くに向かう。

 無事です、雪菜がいつものように生真面目な口調で答えた。

 

『今は"オシアナス・グレイヴ"の中にいます。藍羽先輩や凪沙ちゃんにも怪我はありません』

 

 やや聴こえづらい。聴こえなくもないけど、どうもな……。

 それに、紗矢華と暁の距離が近い。若干気に食わない気持ちが湧いてきて、俺は紗矢華から携帯をとり、スピーカーにして聴こえやすくした。

 暁はさんきゅ、と口パクで言って、次に雪菜へ返答する。

 

「そうか。とりあえず、ここよりかは安全だな」

 

 彼がそう言うと、雪菜は呆れたように息を吐いた。

 

『という事は、やっぱり先輩達はナラクヴェーラの近くにいるんですね』

「あ、あぁ」

『またそうやって勝手に危ない場所に顔を突っ込んで……。自分が危険人物だという自覚があるんですか。翔矢さんと紗矢華さんが一緒にいて、何やってるんですか』

 

 ……どことなく雪菜の声が冷たく聴こえるんだけど、気のせいかな。

 

「いや、それはなんていうか、まさかあれが出てくるとは思ってなくてだな」

「ゆ、雪菜達が誘拐されたっていうから、心配で……」

 

 あわあわと俺の両隣で言い訳する二人を見て、俺は一瞬瞑目してから口を開けた。

 

「雪菜、俺が悪いんだ。雪菜が連れ攫われて、気が動転して。暁の監視を任せられたのに連れてきてしまった」

 

 最後にごめん、と誠心誠意の謝罪をした俺はスピーカーから聴こえる声を待った。

 すると、ほんの少し間を開けて溜息が聞こえてくる。

 

『流石翔矢さんです。先輩達みたいな言い訳しないなんて』

「「ぐぬ……」」

 

 雪菜のその一言で両隣の二人が苦い表情を浮かべる。

 

『でも、ちょうど良かったです。翔矢さん、ナラクヴェーラが市街地に近づかないようにしばらく足止めお願いできますか?』

「足止め?」

『はい。藍羽先輩が今、ナラクヴェーラの制御コマンドの解析をしてくれてるんです。それが終われば、現在の暴走を止められるので』

「ふむ……。そういう事ね……」

 

 獅子王機関からの情報通りならば藍羽浅葱は"電子の女帝"と呼ばれ、その手の者からは名高いハッカーのようだ。

 その実力が確かなら、ナラクヴェーラの制御コマンドの解析も手間はかかるだろうが不可能ではない筈だ。

 そもそもの話、ガルドシュが藍羽さん達を連れ去ったのはその実力を買っての事だと俺は思っている。

 とりあえず、現段階では黒死皇派はナラクヴェーラの制御が出来ていないという事になる。

 

『足止めだけでいいんです。暁先輩が近くにいるので、無理に動いて眷獣を暴走させても困りますし』

「うっ……」

 

 あくまで足止め、か。しかし、神々の兵器を足止めとは簡単に言う。

 今も使い魔の力を使ってナラクヴェーラの動きを視ているが、特区警備隊(アイランドガード)が使う特殊弾も段々効果が薄れてきている。

 同じ手はあまりよろしくないようだ。骨が折れそうだが、妹分からの頼みだ。やるしかない

 

「分かった。足止めは任せて。決して、無理はするなよ」

『はい。翔矢さん達もお気をつけて』

 

 そう言うと電話が切れた。携帯を暁に返して、俺は破壊された監視塔を睨む。

 現在、特区警備隊(アイランドガード)の撤退状況はなんとか増設人工島(サブフロート)から逃げ出す事が出来たようだ。

 

特区警備隊(アイランドガード)の撤退は完了。……オルート、ヴァトラーの監視、頼めるか?」

「お任せ下さいな翔矢さん」

 

 今回ばかりは戦闘狂のオルートもヴァトラーの動きに耐えかねたか、素直に頷く。

 ヴァトラーは若干不満そうな顔をしているが、こいつを動かすわけにはいかない。

 

「ヴァトラー、お前はそこでじっとしてろ。あの兵器は俺達が相手をする。捕まっている雪菜達をお願いしてもいいですか、南宮さん」

「ふん、うちの学校の生徒だからな。助けるのは教師の義務だ」

 

 優雅に日傘を回していた南宮さんは鼻を鳴らして微かに笑みを浮かべる。

 

「他人の獲物を横取りするなんて、どうかと思うけど翔矢?」

「その言葉、そのままお返しするぞ。他人の領地で勝手に行動する方がどうかと思うぞヴァトラー。さっさとどっかに引っ込んでろ」

 

 拗ねたように言う彼に、俺は手で追い払うようにシッシッとジェスチャーをした。

 

「ふゥむ、そう言われると返す言葉もない」

 

 少し考えるように顎に手を当てた。そして、

 

「それじゃァ、領主たる暁古城に敬意を表して、手土産をひとつ献上するとしよう。君達が気兼ねなく戦えるようにね──"摩那斯(マナシ)"! "優鉢羅(ウハツラ)"!」

「なっ!?」

「おまっ!?」

「ディマ!?」

 

 ヴァトラーが解き放った膨大な魔力の波動に、暁は絶句し、俺とオルートは思いっきり睨んだ。

 彼の頭上に出現したのは数十メートルにも達する程の二匹の蛇。荒ぶる海のような黒蛇と、凍りついた水面のような青い蛇。どちらも強力なヴァトラーの眷獣だ。それらが互いに絡み合い、一体の巨大な龍へと姿を変えた。

 

「二体の眷獣を合体させた!? これがヴァトラーの特殊能力か!!」

 

 荒れ狂う竜巻のような眷獣に、暁が声を荒らげる。

 そう。これがヴァトラーを"蛇遣い"とたらしめる所以だ。

 これがあるから若い世代の"貴族"でありながら、格上の"長老(ワイズマン)"をも喰らう事が出来ている。

 

「まぁ、こんなものかな」

 

 満足そうに呟き、ヴァトラーは荒れ狂う群青色の龍に指示を下した。

 増設人工島(サブフロート)と、絃神島本体を繋ぐアンカーをひとつ残らず破壊された。重さ数百トンはあるであろうコンクリートブロックと金属ワイヤーで造られたアンカーが、ガラスのように粉々に砕け、その爆発の影響で増設人工島(サブフロート)がゆっくりと洋上を漂い始めた。

 

増設人工島(サブフロート)が……!?」

「なるほど。気兼ねなく、っていうのはそういう事か」

 

 しかし、十中八九奴自身が少なからず暴れたかっただけだろう。絃神島本体もかなり被害が出ているはずだ。

 

「南宮さん、"雪霞狼"の事もお願いします」

「分かった。助けたついでにあの転校生に返しておく」

 

 "雪霞狼"が入ったギターケースを南宮さんに渡すと、彼女は空間を歪ませ、ギターケースをどこか別の空間に移動させた。

 俺はそれを見て頷き、紗矢華と暁の方に視線を向ける。

 

「絶対に市街地に近づけさせないようにな。暁、紗矢華」

「えぇ、分かってるわ」

「もちろんだ!」

 

 俺と紗矢華は"黒翔麟"と"煌華麟(こうかりん)"を構え、暁は魔力を溜めて神々の兵器──ナラクヴェーラを見据える。

 俺が行くぞ、と言い、禍々しい兵器に向かって走り出した。

 

 




さてさて、モンハンワールドがあと二日で発売ですね。
私も楽しみでしょうがないです。

それでは皆様、また近いうちにお会いしましょう! プロットは作っているので更新できるはずです!

ではでは!

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