ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜 作:倉崎あるちゅ
もう必死だったため、誤字や脱字があるかなと思います。
それと、ちょいと急ぎ気味だったのでガバガバな文法だと思います(元からガバ文法だけですけど)。ご了承ください。
あと、車の免許、取得できました。車運転するの楽しいです。
それではどうぞ!(サヤニウムが足りないサヤニウムが足りない)
α
「──私の大切な家族を……!」
そんな紗矢華の悲痛な叫び声に、古城は集中力を切らし、彼女の攻撃に対しての反応が遅れた。
洗練された構えから放たれる鋭い突きが、古城に向かっていく。避けきれない事を理解し、彼は腕を交差して急所を逸らそうとする。
迫り来る痛みを覚悟した瞬間──
「ぐぅっ……!」
彼の中に眠る、未だに制御できないでいる眷獣が、宿主の危険を感知し、覚醒しかける。
必死に抑え込もうと古城は体に力を込めるが、抑えきれず、彼の身体から衝撃波が放たれ、紗矢華を弾こうと迫る。
しかし、
「包め、
朱色の光を纏う翔矢が二人の間に割って入り、煌華麟を黒翔麟で受け止め、朱色の魔力で古城を覆った。
煌華麟の擬似空間断裂を黒翔麟の空間連結で相殺し、盾を作り出す
「お互い怪我なくて良かったよ……」
心から安堵したかのように翔矢は息をつく。
煌華麟を受け止められた紗矢華は、翔矢を見て動揺した。
「な、なんで翔矢が……」
彼を見る紗矢華の眼に、涙が溜まる。
また、理解されないのではないか。そんな思いが紗矢華の心を占める。
翔矢が一緒について来てくれず、彼女は理解されなかった、と思い、この彩海学園に泣きながら着いた。
そして古城を視界に入れた途端、よくも雪菜を弄んだな、という怒りが込み上げ、罵詈雑言を吐き捨てながら彼を攻撃していた。
紗矢華は俯き、煌華麟を地面に落としてへたり込んだ。すると、そんな彼女の頭に翔矢が手を置いた。
「こんな事になるんだったら、一緒に行けば良かったかな……? 紗矢華、こんな所で暁に攻撃したらこうなる可能性だってあるの解ってたよね。もし俺が追いかけなかったら雪菜に迷惑かかってたよ?」
小さく微笑み、翔矢は次に古城の方へ顔を向けた。
そこには朱色の魔力に覆われて、眷獣の暴発を必死に抑え込む古城がいる。
着ていたパーカーは衝撃波でボロボロになり、肌も所々傷も出来ている。
「暁、大丈夫か!」
「だい、じょうぶじゃねぇよ……! いつもより酷い……!」
「俺が近くにいるから余計なのか……? とりあえず魔力を吸っとくか。──吸え、
そう言って黒翔麟を地面に突き刺し、もう片方の手に薄緑色の魔力を纏わせて、古城を水で覆う。すると古城の手足に鎖が緩く巻き付き、魔力を吸い取っていく。
吸い取っていくと、段々古城に余裕が出てきたのか荒かった息も落ち着いたものになっている。
「悪い、黒崎……」
「いいさ。謝んないといけないのは俺達の方だよ」
魔力で生成した水のため、古城は平気に水中で翔矢に謝る。しかし、謝られた翔矢は目を逸らして紗矢華を見た。
翔矢が古城の魔力を吸い取っている間、紗矢華は自分のやった事を後悔し、落ち込んだように壁際で体育座りをしている。
「なぁ、黒崎。訊いていいか?」
「ん? どうしたの?」
不意に、古城が訝しむように翔矢を見ながら訊いてきた。
「昨日から思ってたんだが、お前って何者なんだ? 吸血鬼じゃないのは解るんだが人間でもない感じがして」
その質問を聞き、翔矢はあぁ、と頷いた。同時に、雪菜も抜けてるなぁ、と思った。
最初に力を見せた時に驚かなかったのは説明を受けているものとばかり思っていた。しかし、蓋を開けてみればヴァトラー達の事でそれどころではなかったらしい。
「俺は魔族。種族は悪魔だよ」
「悪魔……?」
「うん。と言っても、人と悪魔から生まれたから半魔だけどね」
「そう、だったのか。……獅子王機関の所属なのに魔族がいるなんて驚きだ」
そう皮肉を言い、古城は苦笑した。それには翔矢も苦笑をする。
「まぁね。でも、俺の他にも魔族はいるよ」
翔矢の言葉に古城はマジか、と小さく笑った。
すると、
「古城ー、お待たせ」
屋上の入口から、ペットボトルを抱えた浅葱が入ってきた。
古城と翔矢はそれを見て互いに顔を見合わせ、顔引き攣らせた。
「あ、浅葱! こ、これは……!」
「ちょっ、あんた、古城に何やってるのよ!? その剣……本物!?」
水の中に古城を閉じ込める翔矢に気付き、彼女が走り寄ってきた。
段々近寄る浅葱に対し、翔矢は"強欲"を解除して、黒翔麟に触れた。
「獅子の武士たる高神の舞剣士が崇め奉る」
黒翔麟から微弱な霊力が流れ、波紋が生じる。
祝詞を紡ぐ翔矢の声に反応し、黒銀の片手剣が黒く輝く。
「暗黒を翔ける麒麟、千剣破の響きを以て夢路に落ちよ」
その光が一際強く輝くと、浅葱の体がふらついた。
「紗矢華! 手離せないからお願い!」
「……だと思ったわよ」
翔矢が紗矢華を呼ぶと、彼女は少し不貞腐れたように言いながら倒れる浅葱を抱き抱えた。
「浅葱!?」
「大丈夫。ただ眠らせただけだから。あとで記憶を差し替えておかないと……」
急に倒れた浅葱を心配した古城が叫ぶが、翔矢がそれを窘める。
翔矢の言葉に古城は安堵をし、息をついた。
瞬間──
「何をやっているんですか、先輩、翔矢さん、紗矢華さん」
底冷えするかのような声が三人の鼓膜を叩いた。
三人が振り向くと、今度は雪菜が雪霞狼を持って屋上の入口に立っていた。
「「ゆ、雪菜……」」
「ひ、姫柊……」
可愛らしくジト目をする彼女に対して、三人は冷や汗を垂らして引き攣った笑みを浮かべた。
β
「だいたい、翔矢さんがいながらどうして紗矢華さんを先に行かせたんですか。そうしたらこんな事にならなかったですよね」
「はい、その通りです……」
「紗矢華さんも紗矢華さんです。第四真祖の監視役はわたしの任務ですよね」
「こ、これは違うのよ雪菜。そこの変質者が雪菜を裏切るような事を──」
「違うだろ! 姫柊違うんだ、この嫉妬女がな──」
「……先輩、紗矢華さん」
「「……はい」」
雪菜が現れたあのあと、ご覧の通り、俺達三人は可愛い妹に説教されています。
紗矢華と暁は、この変質者が、この嫉妬女が、と指を指し合いながら言うが雪菜に一睨みされて肩を震わせて項垂れた。
「はぁ……まぁ、翔矢さんのお陰で藍羽先輩に傷を負わす事もなく、学校を倒壊させる事もなくなりましたから、今回は許しますけど。金輪際、こんな事にならないようにして下さいね。特に先輩」
「は、はい。すみません。反省してます。すみません」
そう言われる暁は凄く申し訳なさそうな顔をして、背中を丸めている。
俺と紗矢華は妹のような雪菜に叱られ、ショックで立ち直るのに少しかかるかもしれない。というか、泣きたいくらい。
「雪菜ちゃん! なんか凄い勢いで飛び出していったけど大丈夫?」
どうやら、また誰かがこの屋上に来たようで、雪菜と同じ制服を着た少女が顔を出した。
黒髪をポニーテールにしてショートカットのように感じ、仄かに赤みのある瞳。今朝チラリと見た暁の妹の暁凪沙だ。
「え、古城君何してるの? というか、その人達誰なの? ……って、浅葱ちゃん!? どうしたのっ!?」
「……先輩と紗矢華さんはしばらく一緒に反省して下さい。翔矢さん、二人をお願いします。わたしは凪沙ちゃんと藍羽先輩を保健室に連れて行きますから。あと、雪霞狼の事もお願いします」
雪霞狼を格納状態にし、雪菜は俺に槍を預けた。
確かに、眠った藍羽さんを運ぶには雪霞狼は邪魔だ。それにほかの生徒に見つかったりもしたら大変だろう。
「あの、雪菜さん……」
「はい、なんですか翔矢さん」
「藍羽さんの記憶差し替えておいて欲しいなー、なんて……」
「解りました、隙を見てやっておきます」
まだショックから抜け出せていない俺は弱々しく言うと、雪菜は小声で答えて小さく笑ってくれた。
──それまでは良かった。
「ま、待ってくれ姫柊。黒崎はいいが、この嫉妬女と一緒に反省だぁ!?」
「それは私の台詞なんだけどっ!? 反省するなら翔矢とがいいん……っ!? 何言わせるのよ、アホつき古城!!」
「俺は何も言ってねぇだろうが! てか、俺の名前は暁古城だ! どう間違えたらそうなる!! 変態女!」
「変態っ!? 私が!? 浮気相手といちゃついて鼻血を垂らすアンタには言われたくないわよ、第四性犯罪者!」
「なんだとっ!!」
「何か間違った事でもっ!?」
顔を真っ赤にしながら罵る紗矢華と青筋を立てて怒鳴る暁の間にバチバチと火花を散らす。
そんな彼女達を、雪菜が凍えるような視線で見下ろし、
「二人とも、何か文句でも?」
罵倒し合っていた二人は、雪菜の視線と冷たい言葉にビクッと震わせ、ブンブンと首を振ってその場で綺麗に正座をした。
γ
しばらく時間が経った。
俺、紗矢華、暁の三人は、人目につかない校舎裏の非常階段に並んで座っていた。並び順は暁、俺、紗矢華の順だ。
最初は端にいる二人がいがみ合っていたのだが、一時間近くも経てば流石に疲れたのか、ダレていた。
それぞれやる気のない表情で空を見たり地面を見たりとしている。やがて紗矢華が、ふぁ、と小さく欠伸をした。
俺は微笑みながら、彼女の頬をつついた。
「ちょ、翔矢やめてよ」
頬を少し赤らめた紗矢華は俺の手を握って自分の頬から離す。
「いやー、ちょっと暇でさ」
「全くもう……」
笑って言うと紗矢華は顔を背けてしまった。昔からこういう仕草をするので、それが笑いを誘う。
すると、俺と紗矢華を見ていた暁が頬杖を突きながら言った。
「お前らって仲いいよな。姫柊よりも仲いいんじゃねぇのか?」
その質問に、俺と紗矢華は顔を見合わせてお互い首を傾げた。
「んー、まぁ、紗矢華とはお互い六、七歳頃から一緒だしね」
「そうね。雪菜と出会ったのはその一年後くらいかしら」
そう言うと暁はあぁ、と納得した声を出した。
「なるほどな。そんなに長い間一緒にいるから、そんな夫婦みたいな雰囲気なのか」
「「はぁっ!?」」
その暁の言葉に、俺と紗矢華は目に見えて狼狽した。
確かに小さい頃から一緒にいたから、師匠や先輩達にからかわれた事が何度かあった。その度に紗矢華は顔を真っ赤にしてたけど段々耐性が付いてきたみたいで、大きな反応を見せる事は無くなった。
しかし、出会って二日も経っていない相手からこんな事を言われるのは初めてだった。
「ちょ、あ、暁? 僕と紗矢華はそんなんじゃ……」
「そ、そうよ! 翔矢と私はまだそんなんじゃないわよ!?」
慌てて暁に言うと、彼は目を丸くした後にニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
例えるなら、俺や紗矢華に罰ゲームをさせる師匠と同じ笑み、と言えばいいだろうか。
「ふぅん。ま、頑張れよ」
「な、何を頑張るのよ」
紗矢華の言う通り何を頑張るのだろうか。俺はそう思った。
しかし、暁の視線は俺にではなく紗矢華の方に向けられており、おそらく彼女に向けて頑張れ、と言ったのだろう。紗矢華は紗矢華で少し顔が赤いし。
何故頑張れ、と言ったのだろう? ちょっと気になる。
「なぁ、黒崎。俺達はいつまでこうしてなきゃいけないんだ?」
「雪菜が帰ってくるまでかなぁ。勝手に動いたら嫌われそう……」
そう言って俺は大きな竹刀ケースとギターケースを抱き締めた。一つは黒翔麟が入ったケース。もう一つは雪菜の雪霞狼が入ったケースだ。
「黒崎も煌坂と同じで、姫柊が好きなんだな」
「当たり前だよ。雪菜は妹みたいなもんだしね」
ギターケースを撫でながら言うと、横から紗矢華が顔を出した。
「そうよ、その雪菜の血を吸ったのよ、貴方は」
「ぐっ……」
紗矢華のその言葉が暁の心に槍のように突き刺さった。
それを見て、俺はハハッと笑った。
暁の表情を見るに、雪菜の血を吸った事に罪悪感があるようだ。これが罪悪感もなく、何も感じない男なのであれば使い魔でボコボコにしているところだ。
けど、今の暁を見ていると、これなら雪菜を任せられるな、と思う。
まぁ、雪菜はやらんがな。
「なぁ、黒崎、煌坂」
そんな事を考えていると、不意に暁が話しかけてきた。
「その……なんか、悪いな。いろいろ」
「は?」
「ん?」
頭をガシガシ掻きながら暁がそう言った。
俺と紗矢華は何の事か解らずに目を大きくしたり首を傾げたりする。
「どうして貴方が謝るの? 気持ち悪いんだけど」
「うん。それには同意かな。どうしたの、急に」
俺達が暁に怪訝そうな視線を向けると、彼はボロボロのパーカーのフードを被って目元を覆いながら口を開けた。
「うるせぇよ! ってそうじゃなくてだな。煌坂の言ってた事は正しいって思ってよ」
紗矢華の言った事、というのは俺が来る前の話だろうか。
だいたい紗矢華の言う事は解るため訊かなくてもいいだろう。
「こないだのロタリンギアの殲教師のオッサンの時……姫柊は俺のせいで面倒な事件に巻き込まれた。だから、姫柊の友達──家族が怒るのも無理ないかな、って。……俺も妹がいるからさ、なんとなく解る気がするんだ。今回の件は黒崎のお陰で姫柊が巻き込まれる可能性は低くなったから安心してる」
この間のロタリンギアの殲教師。確か雪菜が暁の監視を始めてすぐに起きた事件の首謀者だったか。でもそれは、
「それは、全面的に暁が悪い、なんて事は無いよ」
「え?」
「昔から、雪菜は決めた事を突き進む性格でさ。俺達の言う事を一切聞かない時期もあったよ。それに責任感も強い。その時雪菜は、自分がやらなきゃ、と思ったと思う。だから、ロタリンギアの殲教師との戦闘は暁が全部悪いわけじゃない。あの娘も悪いんだよ。監視対象者を巻き込んでしまったからね」
フードの影から覗く暁の目を見ながら、俺は彼にそう言う。すると、肩の荷が降りたように、彼の表情が軽くなった気がした。
「ありがとな、黒崎。お前のお陰で姫柊があんなにいいやつになったんだな」
「いやぁ、それ程でもないよ! 僕はただ両親から教えてもらった事を教えただけだし」
やっぱり、感謝されて嬉しくない事なんてないだろう。つい一人称が変わってしまった。
紗矢華はと言えば、暁が雪菜を褒めたからか、若干嬉しそうにしている。
「どうしようもない男だと思っていたけど、少しは見る目があるようね」
調子よく言うと、紗矢華はでも、と言葉を続けた。
「いいやつ、なんて陳腐な表現は感心できないわね。雪菜を褒める以上はそれなりの覚悟と誠意をもってやってもらわないと」
「……覚悟と誠意が必要って、どんな褒め方なんだよ」
なんか嫌な予感がする。俺はそう思い、口元をひくつかせる。
大体紗矢華がこのように饒舌になると、幼馴染みだけどドン引きする程変態発言をする。
「そんなに難しいことじゃないわ。あるがままの雪菜の姿を忠実に再現すればいいだけだから。きめ細やかな肌、金色の産毛、鎖骨の下にある小さなほくろ。天使の翼のような肩甲骨から、引き締まった脇腹と、骨盤にかけて高低差が織りなす黄金比──!」
あぁ、やっぱり。
久々に聞いたよ。この変態発言。ていうか紗矢華顔赤らめながら言わないで。
「外見っつか、全部身体のことじゃねぇか! もっと他にあるだろ! つか、お前が言うと生々しいわ!」
ありがとう暁、素直にそう言ってくれて。俺と師匠じゃこの状態の紗矢華をどうする事も出来なかったんだ。
「……外見以外で?」
そう言う彼女は、何故か警戒心を顕にした目で暁を見た。
「そうね。確かに私も雪菜のベッドには、こっそり潜り込んだりしたけど。あの子の残り香に包まれて、あれは本当に至福の時間だったわ」
「──誰が匂いを褒めろっつった!?」
「紗矢華! そんな事してたのっ!?」
俺がいない二年間に一体何があったんだと言うんだ……!? 幼馴染みの行動に凄く不安になるよっ!?
「そうじゃなくて、性格の話をしてやれよ! 黒崎、お前なら出来るだろ!?」
え、そこで俺に振るの? まぁ、良いけどさ。
暁に話を振られた俺は、コホンと咳払いをして口を開いた。
「えーと、雪菜は責任感も強くて真面目で、努力家で昔は俺と一緒に修行したり、人見知りなのに初対面で転んだ紗矢華の世話を焼いたりと、雰囲気は大人なのにぬいぐるみが好きで、気が強いのに案外押しに弱いところだったり、たまに背伸びして苦手なブラックコーヒーを飲んだりとか……あぁ後は昔は一人で寝るのが怖いって言って俺のベッドに潜り込んだ時もあったな。──あぁ、雪菜は俺の可愛い妹だ!」
「「…………」」
……あ、あれ? 二人共黙ってどうしたんだろう。俺は雪菜の性格と少し昔話を………………あ。
のぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!! あまりにも調子に乗り過ぎて余計な事まで言ってしまったぁぁぁ!! 恥ずかしくて死にそうだよ!
ズーン、と俺は膝を抱えて丸くなった。
あまりにも恥ずかし過ぎる。
「さ、流石翔矢ね……。雪菜の事を知り尽くしてるわ……!」
ちらりと紗矢華を見ると、悔しそうに俺を見ていた。
そして、反対側の暁を見てみると、
「……あぁ、もう無理だこいつら……。助けてくれ姫柊……」
この世の終わりだ、とでも言いたげな表情でここにいない雪菜に助けを求めていた。
「でも、流石に翔矢は雪菜と一緒にお風呂は入った事ないわよね! 私はあるのよ!」
勝ち誇ったように紗矢華は腰に手を当ててドヤ顔でそう言った。
確かにないけど、そんな顔しなくても。
「もうお前ら帰れよ。姫柊の良さはもう解ったから……!」
「いいえ! 貴方は何も雪菜の良さを理解していないわ! これを見なさいっ!」
頭を抱えて言う暁に、紗矢華は首を振って、自分の携帯を彼に突き出した。
その画面に映されていたのは、俺が昔に撮ってあげた写真だった。
まだ幼い紗矢華と雪菜が手を握り合って、寄り添う写真。
その写真を見せた後に、紗矢華は次の写真を暁にみせた。その写真は紗矢華と雪菜に抱きつかれた状態で写った俺の写真だった。
三人で仲良く取られた写真は、カメラ目線ではなく、日常風景を切り取ったかのような写真。
確か、その写真を撮ったのは師匠だったか。
凄く懐かしく思う。その写真は俺の携帯にもあったのだが、ヴァトラーとの戦闘で壊れたため、もう無きものになっている。今度紗矢華に送ってもらおう。
「へぇ、これは可愛いかもな」
写真を見て、暁は小さく微笑んだ。
今の紗矢華と雪菜をそのままデフォルメにしたマスコットキャラを見ている感じで、面白そうにしている。俺も久々に見てそう思っている。
「当然じゃない。最初から言ったでしょう? 私の──私達の雪菜は天使だって」
自慢げに胸を張って、紗矢華は言う。
しかし、俺としては雪菜だけでなく、今もそうだけど紗矢華も可愛いと思うんだけどな。
「紗矢華も可愛いと思うけどな」
「え……っ!?」
「ん? ……あ」
しまった。思った事考えなしに口走ってしまった。
俺の言葉に、紗矢華は白い肌を真っ赤に染まり、口を開けたり閉じたりさせて目を泳がせている。
「ば、ばか……な、なんでこ、ここで……」
紗矢華はそう言って太ももの間に手を入れ、モジモジしだした。
なんか、凄く可愛い。もう少し弄って紗矢華をもっと困らせたい。
何を言おうか、そう思った瞬間──
「っ!?」
ガバッと、俺は立ち上がって意識を集中させた。
「ど、どうしたんだ、黒崎?」
「……? 翔矢?」
使い魔の能力を少し使い、この学校を調べ上げる。
ちょうどその時、この学校から出ていく黒いバンが視えた。
そのバンの中を調べると、
「雪菜っ!」
雪菜が、いや雪菜だけではなく藍羽さん、凪沙さんも縛られて連れ去られている。
「紗矢華! 暁! 急いで下に行くぞ!」
「え、どうしたんだ? 姫柊に何が」
「何があったのよ、翔矢?」
「雪菜と藍羽さん、凪沙さんが──」
そう言いかけた瞬間、強烈な閃光が輝いた。
次に起きた現象は鈍い爆音が響き渡たり、空中で花火のように膨れ上がったオレンジ色の火球が、バラバラと黒い破片を散らして消えていく。やがて黒煙を纏う炎が噴き上がる。
「何、今の……!?」
「一体何がどうなって……」
「急がないと……!」
二人が呆然としている間に、俺はケースを二つ持って屋上の出入り口に向かって走り出した。
「な、おい黒崎待てよ!」
「翔矢! 置いていかないでよっ!」
後ろから紗矢華と暁の声が聞こえるが、その事をお構い無しに階段を走り抜ける。
さっきこの学校を全部調べ上げた時に、あるものを見つけた。
雪菜達を追いかける前にそっちを先にやった方が良さそうだ。
向かった先は、保健室。
「ちっ!」
ドアを荒く開けて中を確認するとそこには、
「黒崎待てよ、どうし──」
「はぁ、はぁ……少し速度落としてよ……もう。って、どうしたの?」
淡い真紅の体液にまみれて床に伏せている、青い髪の
「──アスタルテ!?」
「この傷……銃創!? いったいなにが……!」
紗矢華が駆け寄って傷の具合を確かめる。華奢なその身体には何発もの弾丸が撃ち込まれた凄惨な傷跡があった。
暁がアスタルテに声をかけると、かろうじて意識が残っていたようで、彼を視認して口から血を流しながら、
「ほう、こくします、第四真祖。クリストフ・ガルドシュと名乗る人物が本校校内に出現。藍羽浅葱、暁凪沙、姫柊雪菜の三名を連れ去りました」
「「なっ……!?」」
アスタルテが伝えた情報に、紗矢華と暁が絶句する。
俺は先程調べたため驚きはしなかったが、ガルドシュが来た事に気付かなかった事が悔しい。
もっと早く気付いていれば……!
「……謝罪します、第四真祖。私は、彼女達を守れなか……た……」
淡い水色の瞳が揺れ、
「アスタルテ!? アスタルテ!」
必死に呼びかける暁の声が、血の匂いが充満する保健室の中に響き渡った。
8627文字っ!?
びっくりだ。まさか8000文字行ってるなんて……。
ちょっと、長過ぎましたねすみません。次は7000文字くらいで良いですかね……?
自衛隊に行く準備が忙し過ぎて泣きたいです。というか免許取ったのに初心者講習受けないと免許取り消しになっちゃう。どうしよう……。
ま、まあ、そんなことはさておき。また今月中にも投稿できたらなぁって思います! 頑張ります!
それでは失礼しました!
追記・9月24日
活動報告にアンケートを設けました。よろしければご覧下さいませー!