ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜 作:倉崎あるちゅ
ごめんなさい、本当は昨日中に投稿したかったんです、本当です。
それと、重大発表。
この話から、ストブラに専念します。ランキング載ったんでやる気出ましたw
それとそれと! お気に入り登録が100以上に!ありがとうございます!
それではどうぞ!
聖なる夜篇
α
クリスマス。それは、イエス・キリストの生誕を祝う日である。
しかし、今の若者はその事を知る者は少ないのではないだろうか。
興味がある者は知っているだろうが、興味の無い者はとことんそういうのに疎い。楽しかったらそれでいいと思うのが大半だと思う。
まぁ、それはそれで同意するけども。
何が言いたいかと言うと、そんな楽しいクリスマスを、俺は任務に没頭しているのだ。
「はぁ……一昨年、去年と同じくクリスマスは任務、か……」
憂鬱そうに、俺は溜息を一つついた。
クリスマスだと言うのに任務で丸潰れでやる気ゼロ。それに拍車をかけるように、今年のクリスマスもまた、紗矢華や雪菜がいないという事だった。正確には仕事が忙し過ぎて会えない可能性が大ということだ。
前回と前々回のクリスマスではアルディギアの王女様、ラ・フォリア・リハヴァインの護衛の任務にあたり、その上ヴァトラーとの戦闘により楽しいクリスマスとはならなかった。
いや、訂正しておこう。前回のが楽しくなかった。前々回は騎士団の団長や国王様達と楽しくやった。
そして今回の任務はというと、吸血鬼の監視や護衛にあたる剣巫、舞威媛、舞剣士達の血液検査のまとめをやっている。何故血液検査など、と思うかもしれないが、吸血鬼と接触しているため、いつ『血の従者』なるか分からないからだ。
検査のまとめなど専門家がやればいいのだが、残念な事に俺はこの検査で、問題ない血を個人的な目的で使うため、こうして任務という形で手伝っているのだ。
「あぁ、もう怠い……」
まだ四分の一も終わっていない状況で、俺は自室の机に突っ伏した。
任務を受けたのが昨日の午後十時。現時刻は昼になるかどうか。
「朝ご飯すら食べないでやっても、これくらいしか進まないのかぁ……」
椅子から立ち上がり、コーヒーを淹れるためにキッチンの方へ向かう。
パリスタでホットコーヒーを淹れ、俺はコーヒーの入ったカップを持って書類が山になっている机についた。
砂糖やミルクを入れないで、ブラックのままカップを傾ける。
「ふぅ……苦味がいい感じに染みる」
殆ど寝ていないので、コーヒーの中のカフェインで眠気を覚まさせる。
さて、と呟いて俺は仕事に取り掛かった。
β
その日、高神の杜には軽く雪が降っていた。
通路を歩いていた紗矢華は、色素の薄い長い髪を揺らして立ち止まった。
「雪……?」
ふと外を見た紗矢華は、珍しいなと思った。
関西にあるここに雪が降るなど滅多にあることではない。低気圧が近いづいている証拠だろう。
紗矢華は雪から目を離して歩き出した。
目的地は師である縁堂縁の部屋だ。話があると言っていたので、彼女は今、そこへ向かっている。
しばらく歩いて、目的の部屋に着いた。
紗矢華は三回ノックし、返事があったため部屋の扉を開ける。
「失礼します」
部屋に入る断りを入れ、礼をした。
頭を上げれば、ソファに寛いで何故か黒い笑みを浮かべる縁がいた。
「呼び出して悪かったね、紗矢華」
「いえ、時間が空いてましたので。……それで、ご要件は?」
飄々とした態度の縁に、紗矢華は苦笑しながら単刀直入に要件を聞く。
その瞬間、縁の顔がニヤリと歪んだ。紗矢華は嫌な予感しかしなく、背中に冷や汗をかいた。
「要件は…………」
ごくり、と生唾を飲む。
そして、後ろから出てきた物に、紗矢華は盛大に顔を引き攣らせた。
「これを着てもらう!!」
「絶対に嫌ですっ!」
出てきたのは丈の短いミニスカートのサンタ服。肩の露出したものだ。
「なんでそんなのを着なければならないんですか!」
「今日はクリスマスだろう? なら、着ても不思議ではないさ」
「大ありです!」
縁のぶっ飛んだ発言に、紗矢華は肩で息をしながらツッコミを入れる。
それに、と続けて縁は黒く笑って言う。
「今日、
「っ……だ、誰が着ますか!」
頬を染めて紗矢華は叫ぶ。縁はそんな彼女を見て笑った。
少し笑った後、縁はいいことを思いついたと言いたげな表情をした。
「紗矢華、任務だ。それを着て翔矢の任務の手伝いをしてきな」
「なっ!?」
ププと吹き出すのを我慢する縁。そして、師である縁に反抗することが出来ない紗矢華は、逃げる道がない。
呆然と立ち尽くす紗矢華に、縁はミニスカサンタ服を彼女に手渡した。
「こ、これを着て、翔矢の所に…………?」
想像しただけで紗矢華は茹でダコのように顔を真っ赤にした。頭から湯気が登りそうな勢いである。
縁はさっさと着ろ、と言わんばかりに視線を送る。
結局、渋々紗矢華はそのミニスカサンタ服を着ることとなったのだった。
γ
時刻は午後三時過ぎ。
俺は何度淹れたか分からないコーヒーを飲みながら書類を少しづつ片付けていた。
判子を押す書類と、サインをする書類、不備がある書類に付箋を貼るなど、簡単そうなものが読んで字の如く、山程ある。
あれから徐々に慣れていき、仕事のスピードと効率が上がったおかげか、やっと半分近く片付いた。
「くっそ、書類がごちゃ混ぜになってる……!」
途中途中、こういった事態が発生する。渡される書類を分けるように言っていたのだが、どうもそれがなっていない所がある。
きっと、男である俺に不満を持つ者がいて、その者が嫌がらせ感覚でしたのだろう。
この高神の杜には女性が多いから、その弊害だろう。
「あぁ……今日中には終わるかなぁ…………?」
弱音を吐いて、俺は机に乗った小さく、丁寧に包装紙に包まれた箱を見つめる。
溜息をつき、俺は仕事に戻る。
すると、扉の方からノック音が聞こえた。
「……はい、どうぞー」
俺は声だけ出して手を止めずに仕事を続ける。
「しょ、翔矢……?」
紗矢華の声が聞こえ、俺は顔を扉の方へ向ける。そこには顔だけ出して部屋の中を様子見る紗矢華がいた。
若干頬が赤いがどうしたのだろうか。
「紗矢華か。どうしたの?」
紗矢華を見ただけで、元気が湧いてきた感じがして、俺はさっきの弱気な調子を吹き飛ばしていつも通りの調子で訊いた。
紗矢華は目を背けて、扉の向こうでもじもじしだす。
「えーと……その……」
「ん? 中に入らないの? 寒くない?」
俺は椅子から立ち上がって扉の方へ歩いた。
俺が近づくと、紗矢華は急に慌て出して後ずさる。どうしたんだと思いながら、俺は扉を開けた。
すると、
「……ん?」
「うぅ……」
丈の短いミニスカートを押さえて、涙目のミニスカサンタ服の紗矢華がいました。しかも肩が露出している。それと、紙袋を持っている。
なるほど、と俺は思った。この衣装だから恥ずかしくて頬が赤かったのかと。そして、それを見られるのがもっと恥ずかしくて中に入らなかったのだと。
「えと……廊下少し寒いし、中に入ったら?」
コクンと彼女は頷いて足早に部屋の中に入った。
紗矢華をソファに座らせて、俺はキッチンでホットコーヒーを淹れる。ついでに自分の分も淹れて、紗矢華の所へ戻る。
「はい、コーヒー。ブラックでいい?」
「え、えぇ。あ、ありがと……」
両手でカップを持って、紗矢華はふぅ、と少し冷ませてコーヒーを飲む。
俺は椅子に座り、淹れ立てのコーヒーに口をつける。
しばらく黙ったまま俺達はカップを傾け続けた。しかし、いくら経っても話が進まないため、俺から切り出した。
「それで、どうしたの? その、サンタの格好までして」
出来るだけ紗矢華を直視しないように訊いてみる。
紗矢華は"サンタの格好"と聞き、ビクッと肩を震わせて、目を背けたまま口を開いた。
「師家様に任務だって言われて……それで……」
最後の方はゴニョゴニョと呟いて聞こえなかったが、どうやら師匠がまたぶっ飛び発言をしたようだ。その被害者が紗矢華。
苦笑を隠しもせずに、俺はコーヒーを啜る。すると、紗矢華の背中から紙片が俺の方に飛んできた。
パシッと掴むと、その紙片は手紙だった。
『任務という形で紗矢華を行かせたからね。私からのクリスマスプレゼントだとでも思ってくれ。P.S.どうだい、紗矢華のあの格好は?(笑)』
手紙の差出人は師匠だった。
内心感謝しつつ、それと同時に腹黒だと思った。これを紗矢華が見ればグシャグシャにされてゴミ箱いき確定だろう。
「師匠がねぇ……。まぁ、御愁傷様、紗矢華」
「うぅ……いっそのこと殺して欲しいわ…………」
「当人からしたら、とんでもないくらいに恥ずかしいんだろうね」
味わいたくないなぁ、と付け足して、俺はコーヒーを飲み干した。紗矢華は顔を俯かせている。
そんな彼女を見て、俺は素直な気持ちで紗矢華の服装の感想を言う。
「でも、似合ってるからいいんじゃないかな?」
「へっ!?」
ガバッと、紗矢華は顔を上げて素っ頓狂な声を出した。
俺はぱくぱく口を開けたり閉じたりする紗矢華を見て微笑み、仕事に戻った。
不思議と、さっきまでの憂鬱さはなくなっている。紗矢華と話すことが出来たおかげなのかもしれない。
「あ……翔矢、何か手伝うことある?」
我に返った紗矢華は俺の下へとことこ歩いて寄って来た。
「じゃあ、そこの書類の束を、同じ種類のやつで分けてもらえるかな。……ごめんね」
「いいのよ。任務なんだし……それに、翔矢の役に立てて嬉しいわ」
「ありがとう」
俺の謝罪に、紗矢華は嬉しいことを言ってくれる。
その後、俺達は仕事を着々とこなしていった。
Δ
「「終わったぁぁ!」」
はぁぁ、と大きな息をついて、俺達は伸びをした。パキパキと小気味よい音が二つ鳴り、互いに顔を合わせて笑った。
「やっと終わったね……。紗矢華、ありがとう」
「えぇ…………どういたしまして」
俺は机に突っ伏して、紗矢華はテーブルで突っ伏した。俺達の隣にあるのは綺麗に積まれた書類の山。
「コーヒー淹れるわよ」
「うん……」
椅子から立ち上がった紗矢華は、キッチンの方へ向かっていった。
何時なんだろうと思って、時計を見た。時計の針はもう十二時を回ろうとしていた。
「あ、ああっ!!」
「ちょっ、ど、どうしたのよ?」
俺が叫ぶとカチッ、と無慈悲にも針が十二時になってしまった。
俺の唐突な叫びに、紗矢華は驚きつつもコーヒーのカップを机に置いた。彼女は俺の顔を覗き込んで訊いてきた。
「あぁ……結局、クリスマスは任務か……」
「え? あ…………」
正直泣きそうである。三年連続任務でクリスマスが潰れるなど。
紗矢華もやってしまった、と言わんばかりの表情をしている。
「えーっと……その、翔矢?」
「……何…………?」
首だけを動かして紗矢華の方に向く。紗矢華は、持って来ていた紙袋を俺に差し出してきた。
「これ……翔矢のパーカー、ボロボロになっちゃったから、新しいの…………」
頬を染めて、紗矢華はクリスマス過ぎちゃったけど、と付け足して言った。
俺は紙袋を受け取り、中を少し見た。その中には前まで着ていた水色のパーカーのデザインに似た、若紫色のパーカーがあった。
「これ、紗矢華のベストと同じ色だ」
「……い、嫌だった?」
不安そうに上目遣いで訊いてくる紗矢華に、俺は首を横に振る。
「いいや、嬉しいよ。今度は傷だらけにしないようにしないと」
「そ、そう? 良かったわ」
紗矢華はえへへ、と凛としていた表情を緩ませた。俺はそんな彼女を見ているだけで良かった。
でも、俺だけ満足しててもダメだよね。
俺はそう思い、机に置いてあった包装紙に包まれた小さい箱を手に取り、紗矢華に差し出した。
「俺も、紗矢華に。……クリスマスは過ぎちゃったけどね」
苦笑いをして、紗矢華に手渡す。
紗矢華は緩めていた頬を、また緩めた。それはまるで、満開の桜を見ているようなものだった。
「ありがとう、翔矢。開けてもいい?」
「どうぞどうぞ」
紗矢華は包装紙を丁寧に解き、次に箱の蓋を開けた。
そこに入っていのは、一本の桜色のリボンだった。紗矢華がいつもつけているものとは違い、少し明るいものだった。それに少し大きい。
「いつもつけてるそれもいいけど、こういうのもどうかなって思ってさ」
俺は気恥ずかしく思い、頬を掻いた。
すると、紗矢華はポニーテールにしていた髪を解き、俺がプレゼントしたリボンで髪をくくった。
「……ど、どう?」
「うん、凄く似合ってる」
「ふふ、ありがと」
互いに気恥ずかしくなったのか、二人揃って頬を染めて笑い合った。
今年のクリスマスは、紗矢華がいてくれたから一昨年や去年と違って、今年は凄く充実したと思う。
俺にとって紗矢華の存在は大きいな、と改めて認識した。
本当に、ごめんなさい。クリスマスの話なのにその一日後に投稿なんぞ……。
クリスマスに遅れたので、翔矢君と紗矢華のプレゼント交換も遅れた、というふうにしました。
あと、紗矢華がやけに素直過ぎたかなと思っています。まぁ、この作品の紗矢華は基本素直だと思うので大丈夫ですよね?(殴)
補足です。本編で描写されてませんでしが、翔矢君の服装は古城君に少し似てます。違うところは紗矢華と同じような模様のネクタイをしている、というところでしょうか。
それと、作中の紗矢華のミニスカサンタは、『ストライク・ザ・ブラッド~新たなる真祖~』の【プレゼントの行方】のものです。
それでは、失礼致しました!!