俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語 作:紅のとんかつ
勝負が始まり、御互いのキャラが攻撃が届くか否かの距離で前後する。
御互い牽制の攻撃を出す事があっても大きく攻めるような事は無かった。
チクチクと差し合いのローペースな戦い。
相手の男からヤジが飛んだ。
「なんだよ!待ちかよ!ビビってんじゃねぇぞ!」
ぐぬぬ、と唸る材木座。
「相手だって同じ動きしてんだ、気にすんな。寧ろ機動力で勝ってるキャラ使ってんのに攻められないとか、ビビってんのはあっちなんじゃないか?」
わざと聞こえるように材木座を励ます。
材木座に手を出すなとは言われたが、そっちがそのつもりなら俺も黙ってない。
材木座を”元気付けて”やらないとな?
それに苛つくのは相手の勝手だ。
ゲームなら材木座が迎え討つが、それは俺の分野だ。悪口で俺に勝てると思うなよ?
そして苛ついて痺れを切らしたのか、不用意に飛び込んできた。
「甘いわ!」
飛び込んできた相手を見切り、材木座は対空投げを決めてやる。そのままコンボに直行だ。
材木座のキャラはスピードが遅いが一撃一撃が重く、防御性能が高い。
しっかり相手のミスを掴めば凄まじいアドバンテージを産む。
ぐぬぬ、と悔しそうな相手。
今は静かにゲームに熱中している。
そうそう、お前がゲーム事態で勝負すんなら俺も何も言わないさ。精々頑張んな。
先制を決め、材木座が有利の展開。このゲーム事態攻めに重きを置かれている為、有利を取ればそのまま勝利まで持ち込める事も珍しく無い。
材木座が丁寧に相手のライフを削っていく。
相手のイライラがキャラにも見え、とにかく攻め手を取り返そうと隙の大きい必殺を繰り返し放ってくる。冷静にその隙を突くように攻撃を当てていった。
「待ちウゼェエエエ!!!」
男が発狂する。
俺が材木座を”励ます”必要も無い位相手は頭に血が昇っている。雑なプレイを繰り返していた。
「・・・・あ・・・。」
だがしかし材木座は相手の悲鳴に反応したのか御粗末な反撃をモロに食らっていた。
「キタわぁあああ!!」
嬉しそうに叫ぶ相手、一気にコンボを叩き込まれた。
デカクて一撃が重い分、スピードは遅い特性上攻め手に転じられると取り返すのが難しい。
材木座はそのまま一勝を相手に取られてしまった。
「・・・・オイ」
「だ、大丈夫だ!今のは少し油断しただけだ!」
俺は相手を気にするなと言おうとしたのだが、材木座は俺の言葉を聞かず勝利演出を飛ばし二戦目に入る。ちなみに二本先取で勝利確定だ。
成る程、相手も相手だが、材木座も中々頭に血が昇っている。
後ろに振り返り三神を見る。
心配そうに俺達を見つめていた。
三軽い灰皿をだったから大した怪我ではない物の、でこに傷が出来ていて、そこから血が出ている。
水樹が鞄から絆創膏を取り出していた。
・・・・。
その姿に俺まで少し頭に血が昇りそうになる。
しかし、だからこそ冷静になれ。
今は材木座が戦っているんだ。俺達のムカつきはコイツが返す。
材木座が相手にコンボをかけられる。
くぅ、と唸りながら相手のミスとコンボの終了を待つ。まあ相手もそこそこ練習はしてるみたいだし、コンボミスはしないだろ。
悔しそうな材木座。
その隙に材木座の量肩を叩いた。
「イライラするのは解るが、冷静になれ。別に相手強くねぇぞ」
「解っておるわ!気が散るからプレイ中は触るな!」
目に見えて苛ついている。
解る、解るが格闘ゲームってのは怒りをパワーにするようなゲームじゃない。
繊細に、丁寧に操作をして
相手の動きを冷静に見て0、1秒単位で相手の攻撃を予測する必要がある。
技術云々もあるがメンタル状況がかなり影響されるゲームだろう。
だからこのままではいけない。
材木座を冷静にする為、材木座の体を引き、耳元で言い放つ。
「・・・・三神も見てるぞ?」
材木座の耳がピクリと反応した。
「・・・・・・・・」
そして相手のコンボも終了した。
そのまま攻めを続けようと仕掛けてくる。
材木座のキャラは耐久値が高い。だから一回や二回コンボされた所で余裕はまだあった。
さらに追い詰めようと走ってくる相手に、材木座はスティックを回した。
グルンッ
”捕まえたぞ!”
その入力が終わると材木座のキャラが相手を見事油断していた掴んだ。
そのまま必殺投げへと移行する。
相手を天高くかちあげると自らも飛び上がり、地面に敵を叩きつけた。
アホみたいに相手のライフが削れる。
材木座の遅くて高火力、相手の早くて低耐久が目立ち、凄まじいダメージを叩きこんだ。
別に愛の力で正気を取り戻したとか、そんなのじゃない。ただ、他人の視線を意識させただけだ。材木座にとって今一番どう写るか気になる相手の視線を。
人間は感情的になると視点がひたすら自分自分になる。周りが見えなくなり、どうすれば良い、次は?とがんじがらめになりミスをして、さらにそのミスで視界を狭める。
だから人に見られている事を意識させ、今の自分はどう写ってるかを考えさせた。
人から見て自分はどうか、それが客観的な視点だ。客観的に自分を見れば冷静になれる。
ただでさえ材木座のキャラは重くて冷静さを必要とするキャラなんだ、そうで無いと困る。
そのまま相手を起き上がらせ、材木座はスティックをグルグル回し出す。
画面では材木座のキャラが光だし、相手に手を伸ばした。
敵は大ダメージに焦ったのかこちらまで聞こえる連打音を鳴らしていた。もう攻撃を振りかぶっていて、逃げられず捕まる。
”捕らえたぞ!”
「捕らえたぞ!」
材木座の声とキャラの台詞が重なる。
立ち上がり喜びを露にした。
材木座の繰り出したのはコストの高い大技である。
「食らえ!ジェネシック・エメラルド・テイ○ー・バスタァアアアア!!!」
ズドォオオオン!!!
心地よい材木座の叫びと共に、相手を地面に叩きこんだ。
フィニッシュ!
大技が決まり、材木座の一勝が決まる。
相変わらずアホみたいな破壊力だなテ○ガーさん。
相手のライフを六割ほど消し飛ばしてしまった。
「ふざけんなぁあああ!!! 」
相手の方からヤジが飛ぶ。バンバンと台を叩いている。
でも流石にあんな技、当たる方が悪い。
大ダメージの投げは、投げを主体とするキャラには、ほぼと言って良いほどどのゲームにも搭載されている。ザンギ○フさんとかな。
だからそういうキャラの投げは警戒して当たり前だ。それに機動力やらデカイ体やらを犠牲しているんだ。
にも関わらず相手はイライラに身を任せて無遠慮に無思慮に特効をかけてくるだけ。
そりゃ投げますよ。
槍持ってるのに柔道家相手にパンチやらキックやら当てにいってるようなもんだ。
”戦士としては2流だな”
俺達の思ってる事を代弁してくれる材木座のキャラ、○イガーさん。勝利演出で眼鏡をクイッと上げる。材木座も同じように眼鏡を上げた。
「お前のようなマナーの欠片も無いクズに、戦士としての心得なんかある訳がない。我が勝ったら、謝ってもらうからな?」
材木座に睨みを飛ばす対戦相手。
その顔には焦りが見える。
そして第三戦目に移行する。材木座の肩に力が入っていた。肩をポンと叩き力を抜いてやる。
「八幡、すまぬな」
「気にするな。俺達の分もぶちかませよ」
そして三神達に目線をやる。
心配そうに材木座の背中を見ている。
材木座は心配要らぬ、と微笑んだ。
「材木座先輩!頑張って!」
ラウンドスリー、ファイト!
三戦目開始の合図が出される。
・・・・ペシッ・・・・ペシッ。
再びチクチクと牽制をし合うローペースな戦いが始まった。流石に相手も投げを警戒していて丁寧な戦いをしている。
御互い一進一退、たまにかする攻撃自体は大した事無いダメージ。少しづつ相手を壁際に押し込む。
そこで材木座がグルンとスティックを回した。
え?今?
材木座のキャラが必殺投げに手を伸ばすも全然届かない。大きな隙をさらしてしまった。
「バカがぁああ!!」
当然相手はそのミスを逃さない。
飛び込んできてコンボを叩き込んできた。
ぐぬぬっと材木座は悔しそうだ。
さっきので味をしめたのは解るが、流石に狙い過ぎだろ・・・。
人間はたまに成功するとその味が忘れられなくなる。だからギャンブルは中毒性があるんだ。
コンボが終わり、そのまま攻めてくる相手を後ろに飛んでやり過ごす。
ヒィイイ!と材木座も悲鳴をあげていた。
なんとか脱出出来たものの、壁際に追い詰めていたアドバンテージを失ってしまった。
再びチクチクと壁際に押していく作業が始まった。
・・・・状況は良くはないな。
「・・・・八幡、三神」
急に口を開く材木座。そして優しく微笑み頷いた。
「我に、力を貸してくれ・・・・。」
・・・・何言ってんだ?お前。
材木座の急な言葉に戸惑う。しかし三神は”ハイッ”と材木座に手を伸ばした。
「我の力の最終形態を見よォオオ!!ドライブ起動!!」
カッ!
その時、奇跡を起こした。
材木座のキャラが一瞬光出すと、電撃を纏いながら立っていたのだ。
まるで、材木座の怒りを体現したかのように。
(このゲームのシステムです)
「なんでそんな所で使うんだ!ソレを!!」
「オーバー・・・ドライブ・・・・である!」
そして材木座のキャラは攻撃を繰り出す。
パワーアップしたその一撃は相手の攻撃に怯まず、力強く!
そして重かった!
(このゲームのシステムです。全キャラ一定時間パワーアップします)
相手も怯み、まるで吸い込まれるように放たれる攻撃に防戦一方の対戦相手。
そこでようやく防御を崩し重い一撃を食らわせた。
「これが我の新の力だぁあああ!!!」
相手をぶっ飛ばす材木座。
ようやく一撃!しかし、重い一撃が入った!
「・・・・やったか!?」
材木座の一言と共に着地するキャラ。
そこでオーバードライブは切れてしまった。
そこで材木座は目を見開く。
「なん・・・・だと・・・・?」
そこには、先程の材木座のように光を放つ対戦相手のキャラが立っていた。
「・・・・オーバードライブをいつからお前だけの物と錯覚していた?」
(全キャラが持つ、このゲームのシステムです)
相手が走り出す。
パワーアップしたその性能を見せびらかす為に。
「パワーアップがお前だけだと思うなよぉおお!!!」
その突進に材木座のキャラの前に降り立った。
目の前に、そして悠然にそびえ立つ!
「あ、じゃ投げるわ。」ガシッ
\捕らえたぞ!/
「」
再び飛び上がるテイ○ーさん。
材木座は勝利を確信し立ち上がる。
「ジェネシック・エメラルド・○イガー・バスタァアアアア!!!」
ズドォオオオン!
再び相手を地面に叩きこんだ。
「やったか!?」
再び言い放つ材木座。
・・・・・・・・。
・・・・ちなみにやってた。
フィニッシュ!!
「うおおおお!!!」
”成長が見られないな!”
キャラと同じようにサムズアップする材木座。
圧倒的ドヤ顔である。
しかし三神も水樹も大喜びで材木座に飛び付いた。
なんて~か、材木座の暴走が効いて本来使うタイミングじゃないパワーアップに相手が勝手にテンパった、といった所だ。
別に大した事はしていない。
パワーアップして怯んだ相手に攻撃を1発入れて、そんで痺れ切らした相手がパワーアップし、テンションを勝手に上げてまた此方のキル・ゾーンに突っ込んできただけ。
ほぼ相手の自爆だ。なんともお粗末な結果だった。
まあ、相手と違って冷静に対処したのは材木座だ。気持ちを攪乱させても自分は落ち着いて対処していたのは確かだ。
ただ、相手より大人だった、だけだな。
そしてイライラと台を叩いている男に材木座は指を指す。
「どうだ?我に勝てぬようでは三神には遠く及ばぬ!ハメやキャラで負けた訳では無いと解っただろう!」
男はくっ・・・・と悔しそうに指の爪を噛む。
確かにこの試合でコイツがどれだけ御粗末なプレイをするのかが十分解った。
ギャラリーも頷いている。
「さあ、汚名は返上したぞ!灰皿をぶつけた事を謝れ!彼女は顔を怪我したのだ!謝れ!」
男はイライラしながら三神を睨み付ける。
三神はビクッと跳ね、怯んだ。
「・・・・ざ、材木座先輩、私は別に・・・」
・・・・ぎゅっ。
そこまで言いかけた所で三神の手をぎゅっと握る手があった。
強く握りながら、三神の目を強く見て材木座の方に目配せする。
「・・・・負けるなよ。今、あんたの為に戦った人がいるんだから・・・・」
水樹の訴えに、三神は材木座を見る。
材木座は力強く相手を睨んでいた。
三神の足が震えだす。
目は前髪で見えないが、涙目かも知れない。
しかし、手を握り、男に向き合った。
「・・・・痛かった、です・・・・」
そして三神はイライラする男を見た。
一歩踏み出し、男の前に立つ。
「こ、怖かった、です・・・。すごく、すごく怖かったんです。痛かった、です。だから、謝って、欲しいです・・・。お願いします」
そして三神は頭を下げた。
謝罪をお願いする、なんておかしな事をする。
だが、三神にとって譲れない物がそこにあったからそんな事をする。決して頭を上げず、男の前から動かなかった。
「・・・・悪かったよ。女に負けて、苛ついてカッとなったんだ。き、気が付いたら灰皿投げてて、あ、後に引けなくなって、怖くなって、怒鳴ってしまったんだ。・・・・ごめん」
男は目を反らし、指の爪を噛みながら謝罪の言葉を発した。情けなく涙目になりながら。
その謝罪にホッと一息付く三神。
「・・・・ゆ、許します。ありがとう、御座いました。」
そして三神は顔を上げた。
男は気不味そうにキョドり、席をたった。
そしてギャラリーの隙間に早足で向かいだす。
「良いゲームだったな!同士よ!また会おう!」
男の背中めがけて一声かけると材木座がフハハハと高笑いした。勝って気持ち良くなっていた。
やれやれ、何事もなくて良かったな。
これでもしあの男が再び灰皿を投げたり、騒ぎ立てよう物なら俺も本気を出す所だったな。
(店員を呼び出して出禁)
本気を出さずにすんで良かった。
フハハハ!と笑いながらカクカクと俺に歩み寄る材木座。隣に立つとフラッと俺に寄り掛かる。
「・・・怖かったよ~ハチエモ~ン!でもねハチエモン、ボク、勝ったよぉお。一人で勝ったよぉお?」
えぇい、すがり付くなうっとおしい。
別に猫型ロボットじゃねぇし、未来にも帰らねぇよ俺は。
すがり付く材木座を剥がしながら後ずさる。
すると三神がまた深々と頭を下げた。
「材木座先輩、私の為に怒って頂き、あ、ありがとうございました」
三神の言葉に材木座はキリッと顔を向け、俺に寄り掛かりながらカッコつけた。
「ふむ、あれくらいこの男材木座義輝ならば当然の事。楽勝であった。気にするな。」
えぇい、俺を台座にするな重い。
カッコつけておきながら小鹿みたいに足が震えている。頭を下げた三神にもその足が見えて気不味そうにする。
中々頭を上げない三神に水樹がボソッと囁いた。
「嬉しかったんなら、笑ってやれば?いつも頭を下げてばっかでさ。それが見たくて材木座先輩は頑張った訳じゃないんじゃない?」
水樹の言葉に困ったように水樹と材木座を交互に見る。
材木座はそれを見るとキリッとして微笑んだ。
「・・・・笑えば、いいと思うよ。」
お前それ超名作アニメのパクり。
そういうアニメの名台詞ってチャンスがあると言いたくなるけど、知ってる奴からしたらギャグにしか聞こえないからな?
・・・・しかし、今回はそのギャグが功を製した。
「・・・・それ、エヴ○ですよね?」
クスッと三神が微笑んだ。
今日一日、三神の顔は暗かった。
恐らく漫画のネタをひたすら考えていたんだろう。アニメショップでもずっと俯いたままだった。
というか学校でだって笑ってる所をあまり見た事は無い。張り付いたような苦笑いを浮かべるか、常にビクビクと頭を下げてばかりだった。
笑えない訳じゃない。
ただ笑えるような事が無かっただけなのかもな。俺にも、一年の時を思い出せば解る。
三神の微笑みは、目元が隠れて見えないが柔らかいように感じる。
材木座が勝ち取った勝利の成果としてはまずまず、だな。
俺は顔を真っ赤にして固まる材木座、そして三神とそれを見守る水樹を見て材木座の成果を確認した。
「ヒッキー!いろはちゃんとこのタイムなんたらクリアしたぁ!凄くない?」
遠くから大きな声がかけられる。
そこにはガンシューティングのエンディング画面にはしゃぐ由比ヶ浜と画面を写メる一色がいた。今の今まで熱中してやっていたのだろう。
運動後のような紅潮した顔で楽しそうに手を振っている。
・・・・やっぱり、ゲームは彼女達みたいに仲良く楽しくやる物だ。ゲーマーじゃない彼女達こそ正しいゲームの楽しみ方をしている事に苦笑いしてしまった。
続く
格闘ゲーム解らない人でも伝わるように書いたつもりですが、解り辛かったらご指摘頂ければありがたいです!