俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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前書きにある通り彼との関係を出してます!



その7 同族の悪行を、奴は見逃さない。

一色らと合流して最初、俺達は三神の喜びそうな所に来た。

 

 

 

「お・・・・おお!特典が付くではないかこの単行本!」

 

 

 

 

そう、アニメショップだ。

三神もここに入った途端にずっと俯いてた顔をあげ、材木座も目を輝かせている。

 

材木座は漫画コーナー、三神はグッツコーナーで過ごしていた。

どうせなら一緒に回れよ、とか思ったが楽しそうだから良いか。

 

 

・・・・ん?ラノベの新刊が出てるじゃないか。

このラノベ、タイトルはともかく内容が凄い面白いんだよな。文章が面白くて主人公が魅力的で。新刊の発売ペースも早くて気持ちを離さないし、アニメも良かったしな。

 

どうせだから買っていこうと手に取るとどうすれば良いのかな~みたいな顔で由比ヶ浜と一色が入り口前で固まっているのが見えた。周りの男達がチラチラと彼女達を気にしている。

 

 

 

 

お会計に並ぶ。

すると、こちらにも由比ヶ浜達を警戒しながら、さっと後ろにピタリと並ぶ奴がいた。

 

 

俺の影に隠れ、入り口から彼女等が入って来ない事を確認すると一息つく。その手には某有名雑誌に薄い本がサンドされている水樹だった。

お前はエロ本買うシャイな男か。

 

俺の視線に気付き、水樹は気まずそうに目を反らす。

 

「・・・・ラスト一冊だったんで・・・・」

 

 

 

・・・・。

 

まあ、そういうのは無くなったら手に入り難いらしいしな。見逃せなかったのね。

盾になって下さいと頼まれる。

でもお前がオタクって知らないの材木座と由比ヶ浜位だしな。

まあ、材木座はぶっちゃけ気付いてる節があるし、由比ヶ浜も言わないだけで解ってると思うけど。

 

俺も会計を済ませる。面倒だから一緒に出せと指示をして。

隣で水樹は店員に折角のサンド偽装を破られ、バーコード読み込む為に手に取られてビクッとしてた。店員から手渡されると手提げの鞄にさっとしまい、由比ヶ浜達が見てない事を確認するとホッとした。

 

 

「すいません、助かったっす・・・・」

 

別に、立ってて買い物しただけだし。

二人で由比ヶ浜達の所に戻る。

 

並んでる時”キマシタワー!”って女の子の声がBLコーナーから聞こえてきたのは気のせいだろう。

 

 

 

由比ヶ浜達と合流し、店の外のガチャコーナーに椅子と丸テーブルがあったので皆でそこに行き材木座達を待つ。

 

 

 

 

 

「こういう所、あったんですね~。」

 

一色が困ったように辺りを見渡していた。

 

まあ、お前みたいなタイプには縁は無いよな。

漫画買うとか言ってもTSUTAYAとかで十分だろうしな。

 

足をパタパタさせながら由比ヶ浜が笑いかける。

 

「私は姫菜と来た事あったよー。あの時も思ったけど、なんか楽しそうな所だよね~。」

 

 

まあ楽しいだろうな。

周りが同族しかいない所だし、オタクにとっては落ち着く場所だ。

水樹みたいなタイプは別だろうけど。店に入る時からスニーキング・ミッションみたいな動きだった。こちら水樹、アニメ○トに到着した。

 

一色はニヤニヤと水樹に笑みを浮かべた。

 

「美紀はまだ見てきたいなら見てきていいんだよ?別にこそこそしないで~」

 

 

「べ、別に良いし!」

 

 

わ~、と一色の黙らせるように立ち上がる水樹。

しかし、一色のコイツに対する態度大分変わった気がする。いつの間にか名前呼びだし、雰囲気が前みたいな作ってる感は大分無くなった。

 

「仲良くなったみたいだな」

 

 

「あ、はい。美紀っていじるとムキになるから面白いって事に気付きました。新しい玩具を見付けた気分ですね♪」

 

水樹もなぬ?と立ち上がる。

・・・・まあ、仲良くなったなら良かったじゃねぇの?

すると一色が”あ・・・”と閃いたように手を合わせると、急にうつむきモジモジとし始めた。

 

 

 

「でも、一番は先輩、ですよ?」

 

 

急にモジモジと上目使いを向けてくる。

とても慎ましやかで愛らしい。

 

だが、それは俺が一番楽しい玩具って意味だよな、それって。

一色にじと~っと目線を送る。

 

 

 

「ひ、ヒッキーといろはちゃんがアイコンタクトしてる・・・・。ひ、ヒッキー、私もヒッキーといると楽しいよ!!」

 

なんの対抗心か由比ヶ浜までこんな事を言い始めた。

 

嬉しい言葉だけどこの流れで言われるとお前も玩具にしてるみたいだから止めとけ。

 

一色は由比ヶ浜にむっと目線を送る。

 

 

・・・・何この空気。

玩具を取り合う児童なの?お前ら。

 

 

・・・・ん?

 

二人の空気に耐えきれず目を店内に送ると、この店に全く似合わない男が店内を物色しながら歩いていた。

そいつはこちらに気付き、嬉しそうに手を降る。

 

 

 

 

 

 

「あんれ~?偶然じゃん!」

 

 

 

ここにきてクラスで聞き慣れた声が聞こえてきた。空気をぶっ壊して歩み寄って来る男に安心してしまう。

なんでお前がこんな所にいんの?

 

 

「ヒキタニ君にいろはす、優衣じゃんか~。偶然じゃん。」

 

 

クラスのお調子者戸部翔だった。

 

お?お?と皆の顔を見比べる。

 

やっはろ~!と由比ヶ浜。

一色もこんにちはと挨拶。

水樹は誰?といった顔でキョドっている。

 

 

「やんべ~じゃん!ヒキタニ君また女の子増やしてるし!マジでリアタニ君し過ぎでしょ~!休日をエンジョイし過ぎでしょ~!」

 

か~っと自分のデコをぺしっと叩く戸部。

 

は?お前何言ってんの?

後いちいち動きがウザい。

 

 

「ちょっと戸部先輩、まるで私が取り巻きみたいに言わないでくれます?取り巻きを揃えるのは私の方ですからね?」

 

 

「そうは言うけどいろはす、ヒキタニ君の事大好きじゃん?話そればっか・・・・痛ぇ!」

 

急に戸部が足を押さえて跳び跳ねる。

一色はニコニコしながら戸部を見ている。目は笑ってない。

水樹が一色に声をかけようとして、何故か恐ろしいオーラを出している事に怯み、危険を感じたのか、ぐるんと首をひねり俺に話し掛ける。

 

 

「え~っと、ヒキダニ先輩、この人誰っすか?」

 

「戸部だ。俺と由比ヶ浜とクラスが同じで2年。薄っぺらい。あとウザい。」

 

 

「痛ぇ~!あ、戸部翔っす!君はどちらさん?」

 

先輩と解り、その見た目に気圧されたのか丁寧に座り直す。

そいつ悪そうなの見た目だけだから。

 

 

「一年の水樹美紀っす!一色さんのクラスメイトで、一年っす!ヒキダニ先輩と由比ヶ浜先輩には御世話になってます!」

 

 

びくつきながら立ち上がり頭を下げる。

ビビってんな。そいつ中身ヘタレだから大丈夫だぞ?

 

・・・・バサバサっ!

 

 

あ・・・・。

そこで思いきり立ち上がったせいで水樹の鞄が落ち、手提げタイプの鞄から薄い本が散らばった。

 

 

・・・・ニッチな趣味してますね。

 

俺も由比ヶ浜も見てないフリ。

一色は笑いを堪えてる。

 

 

「あ、あ、いや、あ、これ、は・・・。」

 

 

真っ白になっていく水樹。肌色面積が多いその本は雑誌サイズでは隠れていない。

あ、青年誌じゃないよ!多分!

 

俺まで恥ずかしいじゃねぇか。

 

 

 

「あ、ごめん鞄落としちゃったわ」

 

 

 

 

しかし戸部は気にせずそのまま本を鞄に突っ込み出す。

 

そして水樹に鞄を拾い、手渡しながらニカッと微笑んだ。

 

「あ、後さ、ヒキ”タニ”な!先輩の名前間違うとか、あんま失礼な呼び方すんなよ!」

 

まあ、お前の好きな人もっと濃い人だしな。

因みに戸部、お前が一番失礼だ。

 

水樹は固まり、

「はい・・・・すみませんでしたヒキタニ先輩・・・・」

と口を動かした。

戸部テメェ。

 

 

そして戸部は横のテーブルから俺の隣に椅子を引き座る。

隣の由比ヶ浜から少し距離を開けてたからそこに。

む~っと由比ヶ浜。

 

「んでんで?何してんの?こんな所で!珍しいじゃんか!」

 

 

いや、寧ろお前が珍しい。

なんでここにいんの?

 

 

「俺?良く聞いてくれたっしょ!いや解ってるわ~!」

 

いやまだ聞いてねぇ。

でも戸部は止まらない。

 

「今、海老名さんと二人で来たんよ。やばくね?」

 

 

ふて腐れていた由比ヶ浜が食いついた。

へぇ、大躍進じゃないか。

 

「本当に!?進展したじゃん!凄いね戸部っち!デート?デートなの?」

 

へへ~んと胸をはる戸部。

襟足をひっぱりながらサムズアップするドヤ顔が超ウザい。

 

 

「・・・・本当は?」

 

 

「うん優美子と隼人君と表の店で待ち合わせしてたら、二人とも少し遅れるって・・・。んで海老名さんと二人で気まずくなって、行きたい所無い?って聞いたら一人で中行っちゃった・・・。ここから先は男子(カプ除く)は立ち入り禁止だって・・・・。」

 

「駄目じゃんっ!」

 

 

しょんぼりする戸部。

そんな所だと思った。

 

 

「・・・・んで皆は何してん?漫画買いに来たん?」

 

戸部の言葉に水樹はビクッとした。

 

「いや~、戸部先輩には話せない事なんですよ~!依頼です依頼。まあ私は大体解ってますけどね!」

 

 

「ふ~ん」

 

 

聞いといて会話を終了させる言葉”ふ~ん”を使う戸部。

一色もヒクッと顔を一瞬ひきつらせた。

 

 

 

戸部はそんな一色を気にせず店内の方を見る。

その先にはシルバーチャリオッツ!フィギュアを手に取り俯く三神。

 

 

「あ、美嘉じゃん」

 

「知ってんの!?」

 

 

まさかの知り合い?

しかしその知識は俺達と同じ情報だった。

 

 

「ザイモクザキ君の好きな人っしょ?メールで聞いたわ。俺もなんとかしてやりたくてさ~。そっから見付ける度に声かけてるわ。ビクッとして面白いんよ!」

 

 

それ絶対怖がってるから止めてやれ。

相手からしたら、名前すら知らないヤンキーに名前を覚えられてた、という事になる。

超怖いな。

 

 

 

前回の依頼で俺と戸塚、材木座と城山で組み球技大会に出場した。あの時から俺達の距離は変わり、良い意味でも悪い意味でも近くなった。

 

クラスでは話し掛けられるようになったし、皆に良く解らないメールが戸部から送られる事が多くなった。

 

戸部が新幹線食ってるムービー。

大岡や大和がラッスンゴレライ。

今夜の飯。

道端で寝る猫。

 

どう返せば良い訳?

リアクションに困るメールを送るの止めて下さい。それを迷惑メールって言うんだよ。

 

 

まあライザップのCM真似ムービー(ダランとした戸部が一瞬で葉山になる。)は不覚にも笑ったが。

一週間続けるだけでこの効果!

 

しかし戸塚と吉野○ツーショットは許さない。

戸塚が牛丼美味しそうに食べてた。保存した。

 

 

「美嘉に好みとか聞いててさ~!好きな人とか聞いたんよ。何回か聞いてたら打ち明けてくれたんよ。」

 

戸部のその言葉に由比ヶ浜も俺も反応する。

 

 

「三神ちゃんの好きな人聞いたの!?誰?」

 

「いたのか?」

 

 

すると戸部は酷く悲しそうな顔して頷いた。

由比ヶ浜も唖然とする。

 

 

・・・・この依頼の結果に暗雲が立ち込めた。

俺も今までの材木座の頑張りを思いだし、少し可哀想になるな。

 

 

戸部も悔しそうに口を開く。

 

「ザイモクザキ君に言えなくてさ・・・。相手外国の人みたいで、ラ○ナー・ブラウンさんて言うんだけど

「あ、うん大丈夫だわそれ。」

 

 

ロミオとジュリエットも真っ青な恋だわ。

しかも世界にはそっちの次元に好きな人がいて苦しんでる人は溢れている。

 

「ヒッキー!大丈夫じゃないよ!外国人でも好きな人がいるんならヤバいじゃん!」

 

 

「そうなんよ。しかも、友達思いで悲壮な覚悟を持った男で、しかも超面白いらしいよ。シリアスな笑いっての使いこなすらしいし。しかもいまだ謎が多くてミステリアスで・・・」

 

 

「ヤバいじゃん!」

 

 

由比ヶ浜と戸部が凄い悲しそうな顔で本気で心配してる。お前らがシリアスな笑いになってる。外国というか、そのままの意味で次元が違う。

一色も察してたようであ~、と困ってる。

 

 

「聞くとめちゃ語りますよね~」

 

「そうなんよ。20分位語ってた。超好きなんだなって・・・・」

 

 

「20分!?凄い・・・・。自分の気持ちをそんなに語れるなんて・・・・」

 

 

 

埒があかなかったから俺から真実を告げた。

 

 

五分後、

由比ヶ浜が恥ずかしそうにうつ向いたのは言うまでもない。

 

戸部は”なら勝ち目はまだあんじゃん!”とガッツポーズ。

 

 

戸部に癒されそうになった俺は末期。

しかし、その様子を水樹だけはすごく悲しそうな目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

それから数分の雑談の後、戸部が時計を見て

”やべっ”と立ち上がる。

 

 

「もう隼人君来てるかもしんないから、海老名さん呼びに行くわ。じゃ、楽しかったわ~!」

 

 

そう言い戸部は元の位置に椅子を戻し立ち上がる。

 

 

「うん!またね~♪」

 

 

俺達に背を向け、かけだそうとする戸部。

しかしそこに水樹が立ち上がり、呼び止める。

 

「あ、あの!?」

 

 

戸部は「ん?」と駆け足ポーズのまま振り返る。

 

 

「さ、さっきは本、すみません・・・・。ヒきましたよね?」

 

 

そう言いながら恥ずかしそうにうつ向いた。

 

「キモい、ですよね?あんな本、隠し持ってて、アタシ・・・・」

 

「いや普通じゃね?」

 

 

キョトンとしてる戸部の言葉に顔を上げる。

トントンとその場で駆け足をする戸部は体を此方に向ける。

 

「何すみませんなのか知んないけどさ、ミズキチは別に悪いことしてないじゃん?俺の知ってる人はすげぇ楽しそうよ?楽しいなら良いじゃん、別に!」

 

 

そう簡単に言い放ち、ニカッと笑う。

 

「じゃ!またなミズキチ!ヒキタニ君!」

そして戸部はマラソンみたく走っていった。

店内をそんなスピードで走るな。

 

まあ、海老名のが相当濃い趣味だしな?アイツはそんなの気にして無いだろう。

良くも悪くも人に遠慮ないからな。

 

キャンプでもろくに話した事も無い俺のカレートークにも乗っかって来る。相手がどうだと関係ない。楽しそうなら乗っかるのがアイツなんだ。趣味なんてどうでも良いんだろう。

 

自分を隠して、ひたすら自分が恥ずかしい人にとって、自分を気にしないでいてくれる相手がいる事はある意味救いだ。

 

トップカーストの戸部の言葉は水樹にとって救いになったようだ。

そのまま走る戸部の背中を見つめ続けている。

 

ぼそっと

”格好いい・・・・”

とか呟いてたけど聞こえない。

耳の錯覚だとその言葉を聞き流した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

数分後大量の新刊やら抱えた材木座が出てきた。これからそれ持ち歩くつもりか?

 

三神は何をする訳でもなくチャリオッツフィギュアを抱えて固まっていた。

 

 

 

三神に声をかけ、次の店に移動する。

今回は三神を元気付ける事、そして暗に材木座との仲を良くする為に来たんだし、あいつが喜びそうな場所を選ぶ。

 

 

 

そして俺達はゲーセンに来た。

それぞれが好きにゲームを手に取り遊んでいる。

今回はちゃんと三神と回れと材木座にアドバイスして、二人にしてやろうと皆バラけた。

 

 

 

 

そして今は材木座と三神が対戦中。

えげつないコンボで材木座が画面端に追い込まれ、封殺されていた。

 

 

\アストラル・ファニッシュ!/

 

 

 

「くっ・・・・我はコントローラー派だから!ボタン効かないし!今日調子悪いし!」

 

敗北し台から立ち上がる材木座。

材木座が格ゲー三大言い訳をかましながら歯ぎしりしてる。

もしコントローラーでやろう、という自宅デートに繋げる言葉だったとしたら超上級者じゃね?

 

材木座が席を立つと知らない人達も対戦に並ぶ。連勝を重ねる三神に材木座は列の一番後ろに並び直した。

 

違くてさ、敵になってどうすんだよお前。

しかもブツブツと”ハメてやる”とか”壁に押し込んでラッシュかける”とか殺る気まんまんな材木座。違う、そうじゃない。

 

 

 

材木座にあきれていると楽しそうな由比ヶ浜達が視界に入った。

 

 

由比ヶ浜は一色とガン・シューティングで盛り上がっている。

 

 

「由比ヶ浜先輩!左、左!」

 

 

「弾が足りないよぉ!敵いすぎだよぉ!」

 

 

女の子がああいうゲームやると滅茶煩くなるのは何故だろうか。

しかし怖~い、みたいなリアクションしながらも的確に敵を撃ち落としていく一色さん怖いです。

 

 

 

水樹はさっきから心ここにあらず、手鏡片手にボーッとして動かない。

ボソッと”かける先輩・・・かけるかけるアタシ”とか呟いてる。

近寄りたく無い。

 

 

俺もレトロゲーでもやりながら時間潰すか。

 

国民的な格闘ゲームの火付け役、ストリート・ファイ○ーに座る。

 

ファネッフー。ファネッフー。

 

そうして俺はガ○ルさんで待ちをしてコンピューター相手に日頃のストレスをぶつけていた。この相手をちくちくと飛び道具でイライラさせて、飛んできた奴を叩き落とす爽快感が堪らない。

 

 

格闘ゲームとは反射速度と戦術だ。

相手のしてきそうな行動を見切り、それを潰す。敵の裏をかいて戦うゲームだ。嫌いじゃない。

 

 

 

そしてゲームで勝ち進み気分が良い俺の背後から大きな物音が鳴り響いた。

 

 

・・・・ガシャン!

 

 

 

 

 

 

 

突然皿が落ちたかのような大きな音が鳴り、俺も振り返る。音がした方は格闘ゲームの方、材木座達がいた方、だよな?

 

 

そこに視線を送ると、ざわついたギャラリーに囲まれて三神が椅子から落ちて、頭を押さえていた。

 

その足元には灰皿がまだ落ちた衝撃で弾んでいる。三神の服や頭には灰が付着していた。

 

 

・・・・投げられたのか?

 

その様子に俺も状況を理解した。

 

灰皿ソニック、または灰皿ブーメラン。

格闘ゲーム界の禁忌である。

ていうか社会の常識的におかしい、最悪のマナー違反で暴力行為である。

 

 

投げたであろう相手は髪を染めた高校生位のヒョロい男子、椅子から立ち上がり何やら怒鳴っている。

今のはハメだとか、ノーカンだとか、強キャラがどうだとか喚いている。

 

三神は足元で男に怯え、何度も謝っていた。

 

アイツ・・・・。

 

俺はゲームを中断して立ち上がる。

俺は格闘ゲームでリアルファイトに持ち込む奴は嫌いだ。バグだろうと待ち戦法だろうとそれはゲームの内だ。しかし、ああやって現実に実力行使するのは卑怯通り越して卑劣で野蛮だ。

 

そうやって腕力と威圧で相手を支配する。

今の時代に、馬鹿かっての。

 

俺は三神の所に歩き出した。

一言現実を教えてやろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・しかし俺より遥かに早く三神の前に立つ男がいた。

そいつは三神と騒ぎ立てる馬鹿の間に立ち、体を広げた。

 

 

「・・・・材木座先輩?」

 

「・・・・止めぬか」

 

 

材木座と同時に水樹が三神の所に駆け寄った。

それを確認すると材木座は相手の男を睨み付けた。

 

「ゲームの事でリアルファイトに持ち込む等、ゲーマーの風上にも置けぬクズめ・・・。これ以上の暴挙はこの剣豪将軍材木座義輝が黙ってはおらぬぞ?」

 

 

材木座は怒っていた。

あんなに怒りに顔を歪ませた材木座は初めてみる。相手の男を睨み付けながら大きな壁となっていた。

 

「なんだよお前!関係無いだろ!」

 

なおも三神に怒鳴りつけようと勢い付く男。

しかし材木座は一歩も引かなかった。

 

割り込もうと材木座を腕力でどかそうとするもビクともしない。

それに男も怯み、一歩下がる。

 

周りも男に非難の目を送っていた。

ヒソヒソと男を非難する言葉を囁いている。

 

「ちっ!」ガンッ

 

 

男は椅子を蹴るとそこから立ち去ろうと背を向けた。

 

 

ガタンと椅子が倒れ、音が響くも周りはふうと一息ついた。

 

 

 

一先ず一段落ついたな。

 

 

 

 

 

 

 

「待て!!!」

 

 

ゲームセンターに響く材木座の声。

 

 

材木座だけはそれを許さなかった。

肩を掴み、男に怒鳴りつける。

 

 

「灰皿をぶつけた事、謝れ。彼女を侮辱した事もだ!」

 

 

男は”は?と材木座をにらみ返した。

しかし怒りにハイになっている材木座は少しも怯まなかった。

 

「謝らぬか!この虫野郎!」

 

 

掴んだ腕を離さず怒鳴り付ける。

しかし男は謝るつもりは無いらしい。

 

材木座の腕を剥がそうとやっきになっている。

 

 

 

「・・・・よろしい、ならば戦争だ。座れ」

 

 

 

全然反省の色が無い男に、親指でゲームを指差す。

 

「三神はハメ等しておらぬ・・・。お主が二流なだけだ!まずはその事を我が証明してやる!お前みたいな奴はゲーマーでは無いと否定してやろう!」

 

 

 

そして材木座は男を引っ張り椅子に座らせた。

男は材木座のパワーに怯む。

 

・・・・まあ材木座は棒倒しでも何人がかりかを関係なく吹っ飛ばすパワーの持ち主だしな。

ヒョロヒョロの男には対抗出来ないだろう。

 

しかし材木座は持ち前のパワーで男を吹っ飛ばすような真似はしない。

何故ならゲーマーだからだ。

 

「・・・ざ、材木座先輩・・・。」

 

 

頭を押さえながら心配そうな三神に、材木座は力強く頷いた。

 

 

・・・・けどまあ材木座そんなにあのゲーム上手く無いしな。コンボは出来るけど立ち回りが、みたいな感じで。

 

仕方無い、俺が力を貸してやるか。

 

 

なに、簡単な事だ。

男が何か技を当てる度に後ろで”うわっ”とか声を出してやれば良い。

別にプレイの感想とか感嘆の声を出すだけだ。

ルール違反じゃないし、邪魔はしてない。

ただ漏らしただけだ。

 

しかし、それは集中力を必要とする格闘ゲームにおいて、ボタン一つ使えないより辛い物だ。

 

そうして男の隣に立つ。少し近い位で。

視界の隅に見える位に。

 

マナーとしては悪いだろうが、コイツにマナー云々言われる筋合いは無い。

今後会う事も無いだろうから心置き無く嫌がらせしてやるよ。

 

 

「・・・・八幡。」

 

・・・・しかし、材木座は俺を制止した。

俺の腕を掴み、強い眼差しを送ってくる。

 

「・・・・我に、やらせてくれ。」

 

 

 

そう言うと材木座はデカい投げキャラを選択した。

材木座は格闘ゲームでは色んなキャラに手を出すタイプだ。色々な女の子を満遍なく使いたいらしいから。

しかし、ここ一番の時は必ず一発逆転のデカキャラを好んで使っている。

 

 

・・・・そうかよ。

そして俺は男から離れた。

 

 

なんだよ、格好いいじゃないか剣豪将軍。

 

 

材木座の戦いだ。結果はどうあれ、アイツは一人でやる。そう決めた男の勝負に横槍を入れるほどひねくれちゃいない。

 

そして俺は材木座の後ろにつく。

純粋な応援の為に。

 

「やっちまえ、材木座」

 

「任せろ!八幡!」

 

 

 

 

そして材木座は上着を脱ぎ、勝負に挑み吠えた。

 

 




続く


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