俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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その3 カミング・アウト~明かされる彼女の黒歴史(ブラックヒストリー)

 

 

 

 

 夜、比企谷家の二階。

 俺は小町の部屋の扉をゆっくり優しく閉める。勉強中の小町の集中を切らさないようにひっそりと。俺は夕食を作り、受験の勉強を頑張る小町の部屋まで届けた。小町は今は勉強がはかどっていたようで、ペンの音が心地よいリズムを奏でている。

 

 コーヒー、入れてやれば良かったかな。そんな小町を見ると何かしてやりたい衝動にかられるが、やりすぎは余計に邪魔になる。

 

 俺はそのまま部屋に背を向けた。

 

 階段を降っていると、ポケットの携帯からわずかの振動といつも聞きなれている音楽がなり始めた。取り出して見ると、見覚えのある番号だ。

 

 珍しいな。

 歩きながらリビングの扉を開き、その電話に出てやる。

 

 

 

「……比企谷君の携帯でよろしかったですか?」

 

 声の主は雪ノ下だった。綺麗な声が携帯から響く。

 

 

「どうした?」

 

「どうやら、比企谷君で間違い無いようね。夜分に悪いわね。今、電話大丈夫かしら?」

 

 

 時間を見ればまだ19時、まだ俺にとって夜は始まっていない時間だ。問題ない、と返しながら俺は部屋の電気をつけ、ソファーに座り込む。

 

「お願いがあるの。いきなりで、悪いのだけれど」

 

 雪ノ下が頼みごととは珍しいな。

 まあ、俺に出来る事なら聞いてやらん事もない。

 

 

「貴方のお薦めの漫画があったら、数点紹介して欲しいの。貴方の主観で構わないから」

 

 

 ……成る程、三神の依頼に答える為には良質の漫画も読んでおく必要があるのだろう。ネットのレビューより信頼されるとは漫画ラノベ好きとしては嬉しい事だな。

 

 

「解った。うちにある奴を届ける。学校とかで渡したら持ち帰るのは大変だから、構わないな?」

 

 

 ええ。と返事が返ってくると、少しの沈黙の後じゃあ、と雪ノ下が電話を切ろうとする。

 

 

「雪ノ下」

 

 

 切ろうとする雪ノ下に呼び掛け、俺は一言伝える。少しだけ心配だったから。

 

「大変だろうが、無理するなよ。体の方が依頼より大事、意識しとけ。材木座の方は俺と由比ヶ浜がやるから」

 

 

 

 ……。

 

 俺の言葉に雪ノ下は電話の向こうでどんな顔をしているのかは知らないが、ありがとう、と一言御礼を返してきた。

 雪ノ下は依頼の為に無理をする傾向がある。

 受けた依頼をないがしろにしたくないのは解るし、評価出来る点だが。

 

 

「いつもは、私が応援だったのに、比企谷君から応援をして貰う日が来るとはね。……頑張るわ」

 

 

 そう優しい声音で囁くと雪ノ下は”おやすみなさい”と電話を切った。

 

 

 

 優しいおやすみなさいが俺の耳からしばらく離れない。まあ俺も、出来るだけの事はしよう。

 ひとまずは俺が手を出せる材木座の依頼の方、なんとかしなきゃ、な。

 夕食食べながらテレビ見てゴロゴロする前に、俺は書庫から秘蔵の漫画をあさりだす。

 

 

 ・・・・とりあえず、あいつの好きそうなバカボンドからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 学校の昼休み、俺はいつもの場所でパンを取り出す。

 

 そして焼きそばパンをかじりながら俺は物思いにふけった。

 

 その旨味にもにゅもにゅと味わいながら、食べる事の幸福を味わう。

 

 焼きそばとパンってなんなんだよ、どっちも炭水化物だぞ?それを組み合わせてしまうなんて、考えた奴はどうかしている。

 どうかしてる程天才だ。

 焼きそばだぞ?なんでパンと組み合わせようと思ったのか、その発想力に脱帽だ。

 美味しいよ焼きそばパン考えた人、ありがとう。

 

 ふっ、と微笑みながら焼きそばパンを愛で、そして二口目を頂こうと口を開く。

 

 

「せんぱい、こんな所で御昼食べてるんですかぁ?」

 

 後ろから再び肩を叩かれる。

 あざとい声に柑橘系の香水の香りに、俺は振り向く前に相手を理解する。

 

 邪魔したな!?僕の二口目を!

 

 

 

 やれやれと振り替える、と、そこには一色いろはだけでなく水樹美紀がたっていた。

 

 ゲッという顔で水樹は俺を見る。

 まあ多分俺も同じ顔してるから文句は無い。

 

 

 相変わらずの濃い化粧、毎日染め直してるのか茶色の髪、青いピアスに、ルールがあるのか規則的に崩して着ている制服。無い癖に強調された胸。

 

 

 いや~、反射的に拒絶しちゃうビジュアルなんだよな。

 

 

「・・・・珍しい組み合わせだな」

 

 

「あれから仲良くなったんですよ~!もう今は仲良しだよね~?今も売店に水樹ちゃんがご飯買うのに付き合ってて~」

 

 その一色の言葉にパァっと表情を明るくする水樹。凄いな、一色のあざとさが通じる奴が同性にもいるとは。

 

 

 

 すると一色は俺を引っ張ると、耳元で囁いた。

 

「・・・・三神さんの情報、本人が控え目な性格ですから、おな中の子からも集めた方が確実しょ?」

 

 

 ビクッと反応してしまった。

 そういうくすぐったい事止めてくれマジで。

 

 でも一色なりに頑張ってくれているんだな。

 水樹はドンマイ。

 

「私達もここでお昼食べて良いですかぁ?私、お弁当なんですよぉ」

 

 

 そういうと返事を聞く前に隣に座る一色。

 

 いやダメだよ。

 物を食べてる時はね、1人で、静かで、なんていうか救われていないとダメなんだ・・・。

 

 少なくとも今は水樹が救われてない。

 俺等が座る階段が埋まり、何処に座れば良いのか解らないでいるだろうが。

 

 

「先輩いつも1人でここで食べてるんですかぁ?教室とかで皆と食べれば良いのに♪」

 

 

 解って言ってるか?解らないで言ってるのか?

 どちらにしても残酷だ。

 

 

「何それ手作り?」

 

 

「ママの手作りですよ~。あ、ちなみに私も料理出来ますからね~?あしからず」

 

 

 そうか、女子力高いっすね。

 はいはいと聞き流しながら俺も食事に戻る。

 

 

 

 

 

 

 その時一色の携帯が鳴り出した。

 

「あ・・・・葉山先輩だ。今日の練習試合の事かな?水樹ちゃん、ちょっと失礼しますね!」

 

 そう言うと一色は電話片手に俺達から離れる。

 残酷だ!ぼっちになんて残酷な事を!

 

 俺と水樹は二人でオイッ!と立ち上がる。

 

 その拍子にさらに絶望の追い討ちがかけられた。

 立ち上がる拍子に、俺の、俺の焼きそばパンが、焼きそばパンが・・・落ちた・・・・。

 

 

 うわ、うわ、うわぁああああ・・・・。

 

 

「だ、大丈夫っすか、なんか金田一で死体見付けた人みたいなうろたえぶりっすけど」

 

 

「狼狽えずにいられるか・・・。今月ピンチだから一個しか買ってないのに・・・」

 

 焼きそばパンにすがりながら、仕方なく買った時の袋にしまう。雨の後だったから、もう染み込んで食えない・・・。

 

 

「・・・・食べる?」

 

 すると水樹からあんパンが差し出された。

 

 ・・・・お前、いい奴だな。

 

 

「お金は来月でいいよ。100円ね、消費税は見逃してあげるっす」

 

 

 ・・・・キッチリしてるな。まあ払うつもりだったけど。

 寧ろ消費税云々は言わない方がまだ寛大に感じるからそういう事言わない方が良いぞ。

 

 

 貰ったあんパンをかじる。

 

 

 ・・・あんパン、どうしてこんなに”あんこ”とパンの相性が抜群なんだろうか。

 炭水化物はお腹で糖分になるらしいから、甘いあんこと相性が良いのかな。

 俺は粒あんも”こしあん”も大好きだが、こうして口にする今はこしあん派になってしまいそうだ。ちなみにあんパンと牛乳、刑事物の張り込みとかで良く出る組み合わせだが、やはり有名なだけあって、そのコンビは王道ゆえの素晴らしさがあるよな。本当に合う。牛乳が嫌いじゃないなら是非試してほしい・・・・。

 

 

「本当美味しそうに食べるっすね」

 

 物思いにふける俺に水樹が顔を覗かせる。

 

「お陰様で美味い。助かった」

 

 

 あんパンの二口目を頂こうと口を開く。

 水樹も手の豆パンをもぐもぐさせている。

 

 

 

 

「レイプ目先輩って一色さんのなんなんすか?」

 

 

 思わず吹き出しそうになる。

 二口目をお前ら邪魔しすぎだろ。

 ていうかなんだその呼び方は。

 

「お前な、前も思ったけど女の子がそういう事言うな。風評被害ってレベルじゃねぇぞ」

 

「え、あ、いや、名前、知らないし、目が特徴的だから・・・」

 

 

 今さらあたふたと戸惑う。

 自己紹介を避けた事を初めて心から後悔した。

 

 

「比企谷だ。二年比企谷八幡だ・・・」

 

「あ、ども・・・・」

 

 

 頭を下げあい、再び御互い別々に向き合う。

 全く、冗談じゃない・・・。

 携帯に俺の名前をメモっている。そこで漢字変換で苦労していた。

 ひき、たにで入れれば大体出るぞ?

 あれ?もしや戸部もだから・・・。

 

 

「・・・まあ、一色との関係はただ良く話をする後輩ってだけだ。それ以上も以下もない」

 

「あ、そうなんすか。仲良いように見えたからさ」

 

 

 ・・・・まあ一色が優しいからな。

 俺相手にもあざとさを発揮してくれている、そんだけだ。

 

 

 ・・・・・・・・。

 

 再び沈黙が訪れる。

 おいその優しい一色、早く戻ってこい。

 

 前に戸部大和大岡が葉山がいなくなって気まずくなってた気持ちが今は凄いわかる。

 リア充のアイツ等で気まずいんだから、俺なんか、もう、察しろ。

 

 

 

「あ~、三神は今何してんだ?」

 

 

 苦し紛れに共通の知人の話をする。

 あ、これアレだ、戸部の話の仕方はこういう事か。なんだか今日はアイツの事がどんどん解っていくな。別に知りたくないけど。

 

 

「三神っすか?多分今は特別校舎のトイレの個室でご飯食べてると思うっすよ」

 

 

 うん、折角の話題がかえって暗くなっちゃうな。大失敗だわ泣けてくる。

 アイツに俺がこの場所を見付ける迄に見付けた、ベストとまでは言わない良い場所があるから教えてやろうかな・・・。

 

 

「ていうか、なんで私に三神の話聞くんすか。一色さんもそうだけど。知らないよアイツの事なんか・・・。別次元の人間っすよ。アタシとあいつは」

 

 

「そうは言うがお前なんだかんだ、あいつの事見てるだろ?詳しいし、お前もオタクだし」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・。

 

 ガタンッ!

 

 

 俺の言葉に水樹は携帯を落とした。

 大丈夫か?液晶にキズつくぞ?

 

 

「え、は?アタシが、オタ?いや、は?な、なななんの証拠があってそんな・・・・!」

 

 

 わなわなと震える水樹は真っ青な顔で俺を見る。

 

「いや、会話で解るだろ」

 

 

 言葉の一つ一つに滲み出てたからな。

 バレて無いとでも思ってたのかコイツ。

 

「う、嘘・・・、そんな訳・・・、え?皆も・・・・?」

 

 

「さらに言えば高校デビューだろ?」

「ワァアアア!!高校デビューって言うなァアアア!!!」

 

 

 ガバッ!

 

 顔を真っ赤にしながら俺につかみかかる。

 止めろよ!あんパンまで落としたらどうすんだ!

 

 

 化粧の仕方、香水の付けすぎ。

 そしてオタクの癖にオタクへの厳しい言葉。

 世間でのオタクへの風当たりを身をもって知っている証だ。

 そしてこの服を引っ張り合うスマートじゃない喧嘩の仕方がもうオタクだ!

 

 

「ま、待て落ち着け、高校デビューは恥ずかしい事じゃ、な・・・」

 

「言うな!言うなぁ!高校デビューって、い、言うなぁああ・・・。う、うぁあああ・・・」

 

 錯乱し、とうとう崩れ落ちて泣いてしまった。

 ヤバイ、ヤバイヤバイ。

 

 今俺は女子をマジで泣かすという、下手したら周りを敵にしてしまうような事をやらかしてしまった。

 どうやらコイツのブロック・ワードを言ってしまったらしい。

 

 

 

「先輩・・、何やらかしてるんですか・・」

 

 

 一色が軽蔑の眼差しで俺を見る。

 ・・・・すみません。

 

 

 

 一色が水樹を優しく慰め、落ち着くまで俺は10メートル以上離れて立っているよう命じられてしまった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五分後、

 一色の励ましとなでなでで水樹がようやく落ち着いた。いや、マジで焦った・・・。

 

 

「うう、こんな人に見抜かれて錯乱するなんて・・・、黒歴史確定だよぉ・・・。マジでなんなのこのヒキダニ先輩・・・」

 

 

 おい、俺の小学生の時のアダ名やめろ。

 

「もう、先輩デリカシー無いですよ?皆気付かないフリしてたのに!皆の暗黙の了解だったんですよ?」

 

 

 水樹がガビ~ンと顔をあげる。

 もう、そのリアクションが既にオタク臭い。

 

 

 その顔はもう涙を拭いた事で化粧が殆ど落ちてしまっている。

 

「なんてか、その、化粧してない方が可愛いんじゃないか?うん」

 

 お前、化粧下手だし。

 ハッと手鏡を取り出し再び赤くなる水樹。

 わー!とまた声をあげ、俺達から顔を隠す。

 

 

「先輩!女の子の素っぴんに突っ込まない!本当デリカシー、ダニですね!」

 

 

 せめてヒキは付けて下さい・・・・。

 良かれと思って言ったのに、逆効果だった。

 

 

「まあ、言う相手がいないし安心しろよ。それに一色だって気付いてた訳だろ・・・?」

 

 

 

「え?ま、まあ鞄の中にアニメのストラップ隠し持ってるとか、授業中こそこそノートにアニメキャラの漫画を描いてるとか、カラオケの持ち曲がアニソンだらけな所から、まあ・・・」

 

 

 顔を手で覆いながらしゃがみ込む水樹。

 なんだよ、俺が言う迄もなくバレバレじゃねぇか。

 

 

 まあ、もうそこまでバレてんなら、もう良いだろ・・・。

 もう挽回不能だしな。

 

 

 だから悪いが水樹、俺は依頼を優先したいから、ハッキリと聞く。

 

 

 

「・・・お前、三神の元作画担当だな?」

 

 

 今までの情報を統計して考えて、その考えに至った。

 高校に入るまで仲良かったオタク友達。

 嫌いのわりに三神を知りすぎなコイツ。

 今の一色の情報で確信した。

 

 恐らく俺が水樹と話す機会なんてそう無い。

 だから今確認させて貰う。

 

 水樹はオドオドと一色をチラ見する。

 

「大丈夫だ、今更オタクな位で一色はお前を差別しない。そうだな?」

 

 

 そうじゃなくてもこう言えば差別しにくいだろ、という牽制を含めた言葉だったが、一色は特に躊躇もなく頷いてくれた。

 

 それを見届け、観念したかのように水樹はカミングアウトしてくれた。

 

 

「・・・・はい。アタシ三神と昔組んで漫画描いてました・・・・」

 

 

 

 よし。

 これで三神について深く話せる人間を確保出来た。あれから頑張って情報収集してても誰も三神と話をした奴がいなくて、本人に直接聞くだけの信頼も勇気も無いし、あんまり聞いて勘ぐられても困るからな。

 

 

 俺は水樹に話を聞ける約束を取り付け、放課後奉仕部に来てくれるよう約束した。

 水樹から隠れオタの件をクラスに内緒にする事を条件と出されて。

 別に言わないって・・・。しかしながら信用はされない。まあ仕方無いか。

 

 

 そして水樹への謝罪を兼ねて、放課後マッカンを奢る事にする。

 

 ・・・・まあ、マジで泣かせてしまったし、いらぬカミングアウトさせたんだ。仕方無い。

 

 

 だが材木座の依頼に一歩進め、もしかしたら雪ノ下の支援も出来るかもしれない。戦果あり。

 

 

「んじゃ、放課後行きますね?」

 

 いや、水樹が来れば良いから、お前は来なくていいよ・・・・。

 

 

 そうして俺は依頼解決に進み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 




続く

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