俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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その2 我は望む、その夢の先を

 

 

 

 

 昼休み。

 食事が終わり、それぞれ思い思いに学校生活を満喫する生徒達。友人と遊ぶ者、読書する者、運動をする者、それぞれ好きに過ごしていた。彼等にはそれぞれ青春があり、物語があるのだろう。様々なコミュニティーの中、自分の生き方を決めて人と、自分と向き合っている。

 

 そんなそれぞれが学校の過ごし方を決めて過ごしている中、昨日自ら地獄の道を選んだ男を廊下の窓から俺は校庭を見おろす。

 

 

「ヒィイイイイ!!!」

 

 

 下から響く材木座の悲鳴。

 あいつは雪ノ下の監視のもと、材木座はジャージで走らされていた。何週目かは解らないが、もう余裕もへったくれも無い顔で顔から色々垂れ流しながら走っている。こんな時もロングコートを脱がないあいつにはある意味関心させられるな。

 

 あれから二日。

 雪ノ下が材木座の見た目的な意味と健康的な意味を兼ねて運動を担当し、由比ヶ浜が全く慣れていないであろう女子との会話の訓練を担当しながら材木座を鍛えていた。

 

 材木座は日常的に運動はしていなかったので、やり過ぎに注意しなくてはならない雪ノ下はもどかしい気持ちに悩まされている。本当ならもっと走らせたい所だろう。

 

 由比ヶ浜との会話訓練も、いまだに材木座は由比ヶ浜の目を見て話せず、すぐに俺に話題をふる。なお訓練中は俺と材木座は会話禁止。

 しかし徹底的に女子との話題を持っていない材木座は常にしどろもどろ。由比ヶ浜に会話のエスコートを頼りきりだ。

 

 そして俺は、何もしないのも居心地が悪いので、こうして情報収集に来ていた。そもそも、敵を知らなければ戦いようが無いしな。材木座の自分を高める努力は必要だが、何に対して力を入れるべきなのはハッキリさせておくべきだろう。無いとは思うが、万が一、三神の好みが”ふくよかな男性でかつ女性と目を見て話せないシャイ系男子。かつ時々やかましくなっちゃうダメ男好き”だったりしたら今の努力が全く無意味になるしな。だから、俺は同じ一年であり女子である一色いろはが何か知らないか、訪ねてみる事にした。

 

 中学生になって一年足らずの彼らがはしゃいでいる一年の教室の前に来て、どうやって一色に会おうか戸惑いながら教室を覗き込む。流石に後輩の教室の中に堂々入って行って注目を浴びる中一色に声をかけるなんて俺には絶対出来ないし。中に一色が仲の良いであろう女子二人と話をしている姿が見えた。たまたま教室を出てきた顔の広そうな男子に声をかけ、一色を呼んでくれと頼む。

 

 その男子は”は? お前一色の何?”みたいな顔でジロジロ見た後、フッと鼻で笑い教室に一色を呼びにいってくれた。その笑いは何、流石に無いな、という安心と見下しが入り交じり零れた笑い? まあ確かにそうだけどさ。

 

 

「せ~んぱいっ!」

 

 

 教室の後ろの入り口から出てくるであろうと待っていたのに、急に後ろから肩を叩かれビクッとする。なんでわざわざ後ろに回り込んだ訳?

 

「なんか~”目が死んだ暗そうな奴が一色を呼び出してるけど追い返す?”みたいな事を田中が言ってきたんで~、先輩だって思って、反対からこっそり出て背後取りました♪ 望み通りビクッとして超ウケます♪」

 

 

 そう言いながらいたずらっ子のように笑う一色。御期待にそえて良かったわ……。

 

 ジト~と目線を送ると、クラスの中からチラチラと視線を感じたので、一色に少し良いか? と廊下を歩きだす。後ろから俺の隣に追いついて、後ろ手を組んで可愛く俺の顔を見上げながら話し開けてくる。その口調はどこか楽しそうで、良い事でもあったのかと確信する。上機嫌なら、頼み事もしやすくていいだろう。

 

 

「先輩が私に会いに来るなんて、超珍しいじゃないですか~! 後輩の可愛い笑顔が恋しくなったんですか~?」

 

 

 いつもの軽口にいつものようにネジ曲がった返事を返しながら、人気があまり無い校舎脇の階段下に到着する。周囲を確認して、人気が無い事を確認すると、俺は一色に向き直す。一色は笑顔を一瞬で引っ込めて、急に緊張してような顔。

 

 

「な、なんですか? こんな所に連れてきて……。も、もしかして口説く気ですか? 口説くんですか? いや流石に急過ぎて、む、無理ですごめんなさい」

 

 

 違うっての。

 お前の中で俺はどんだけ告白したい人なの。会う度に好きって気持ちを小出ししないと収まらないなんて、なんて積極的☆

 

 

「……三神って知ってるか?」

 

 

 ふざけるのも程ほどに、俺がさっさと本題に移ろうと口を開いた瞬間ビクッと反応した一色、俺の言葉が解りにくかったのか、理解する迄間があった。

 

 

「……あ、え、はい。知ってます、けど。国際教養科の子ですよね?」

 

 

 何やら少し残念そうに顔を反らしながら答える一色。そうか、知ってるなら話が早い。

 

 

「三神の事が知りたいんだ。それも、出来るだけ詳しく」

 

 

「…………え?」

 

 

 俺の一言に、一色は何故か固まり、戦慄したように表情を固める。

 

 なに、どうした?

 気まずくなりながらも俺は続ける。

 

「え、えと、出来れば三神の好きな異性のタイプとか知れたら完璧なんだが、どうだろう?」

 

 

 一色の反応が予想外過ぎて俺も軽くテンパる。何か傷つける事でも言ったのだろうか?

 さっきまであんなに上機嫌だったのに、今の一色は泣きそうな顔で俺を見上げている。

 

 

「先輩、ああいう感じが好みなんですか……?」

 

 

 い、いや、俺の話なんかしてないが……。

 なんだか会話がねじ曲がっているように感じる。俺の意図とは違うなにかに一色に伝わってしまっているようだ。

 

 

「そうなら、もっと早く言って下さいよ……。おしとやかな感じが好きなんですか、そうですか。ハハッ、そうですか」

 

 

 一色は俯いてしまい、少し落ち着きが無い。

 コイツ、多分勘違いしているな。確かに考えてみたら紛らわしい言い方や行動だったか?

 

 

「いや違うって。これは知り合いに頼まれてな、いや知り合いにな?」

 

 

 あれ~?

 本当なのに一気に言い訳臭いぞ~。あれ~?

 

 友達の友達の話なんだけどみたいな。俯いた一色の表情が見えないが依然暗いままだ。

 

 

「いやマジだから。知り合いの、知り合いのね?」

 

 

 材木座の、と言う訳にいかないし、

 話を誰かに聞かれる訳にいかないから人気の無い所連れてきたのに、困ったぞ?

 

 

「……本当ですか?」

 

 

「本当だって」

 

「先輩に知り合いなんて、そんなにいないのにですか?」

 

 

 お前失礼じゃね?

 寧ろ俺が落ち込みたくなったぞ。

 

 確かに友達所か知り合いすらいないけど。知ってる奴は沢山いるけど知り”合って”いる奴が少ないけど。それが何か?

 

 

 すると一色がばっと顔を上げ、俺の目を見つめてきた。急なまっすぐ向けられる真剣な眼差しに、思わず目を反らしてしまった。

 

 まずかったか……? なんだか後ろめたいような動作をしてしまった。横目で一色に目線を戻す。まだ俺にじっと視線をぶつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あはっ、信じてあげます♪ まあ、先輩の好みなんてどうでも良いんですけどね?」

 

 

 しばし見つめ合いが続いたのち、ようやく顔を明るくした一式が再びいたずら大成功という風に笑う。

 

 お前な。焦っただろうがマジで。なんでこんな事で落ち込まれたのか解らないし、俺が悪いみたいになって。

 

 ふぅ、と一息つく俺を見て、再び上機嫌に話し出す一色。

 

 

「三神さんですね~? とは言っても、話とかした事無いんですよ~」

 

 

 それは残念、だけど少しでも情報が欲しい。

 

 

「何か話は無いか? こんな感じの子だ、とか。お前から見て、でも良いから」

 

 

「う~ん、大人しい子ですかね?たまに一年行事とかで見かける程度ですけど誰かと話てるの見た事無いです。特徴的な髪型してるから記憶には残ってたんですけどね。結構可愛い顔してるのに隠しちゃってるじゃないですか。髪型変えて、化粧とかすれば化けると思うんですよ」

 

 ん~、と頬に指を当てながら思い出してくれる一色。わざとやってんのか解らないがあざとい動きだな。

 

 

「入学したての頃はあんな髪型じゃなかったんですけどね~。あ!確か同じ中学から来たって子、うちのクラスにいますよ!」

 

 

 それは助かるな。それとなく彼女の事聞いてくれ、と言おうとした所で今連れてきますね!と歩いて行ってしまった。

 

 え~、俺も会うの~?

 知らない女子と話をしなくてはいけないとは、想像してなかった試練だな・・・・。

 

 

 

 

 すると教室から女の子を連れて一色が出てきた。茶髪に髪を染め上げ、肩に届くか届かない位のウルフカットの髪に、横髪だけは胸より下まで伸びている。

 スカートは短く、胸元は開く。

 顔は化粧が遠目にも濃く、せっかくバランスの良さそうな顔しているのに台無しにしている感じまである。

 

 一色の笑いかけに、心底嬉しそうな笑顔で笑い返していた。

 

 

「一色さんがアタシに用なんて、めっずらしいすね~!え~?なに~?」

 

 

 一色はニコニコと俺の所に連れてきて、ハイ!と引き渡してくれた。

 

 

 女子は明るい顔から一転、俺の顔を見て誰?という顔になる。

 クラスの美人に連れてこられたら、人気の無い所に目の腐った知らない男が待ってた。悲鳴をあげられなくて良かったと安心する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

「三神の事っすか~?」

 

 連れてこられた女子は、一色に話しかけられた訳じゃない事に落胆し、態度が一変した。

 最初は告白されるのかと勘違いしたらしく、いや無理でしょ、と俺をフッてきた。

 

 しかも一色とは違うマジな感じでゴミを見るように。もうその時点で俺の心はボドボドだ。

 

 

「うん、ゴメンね?休み時間中に変な質問しちゃって~!水樹ちゃん」

 

 

 彼女は水樹美紀。

 髪を茶髪に染めてピアスを付け、化粧を派手に施したその姿に、俺の苦手なタイプと確信する。

 

「悪いな、すぐに済むから」

 

 

 

「なんでそんな事聞くすか~?三神狙い?」

 

 まあ、知らない男子が女子について聞いてきたら警戒もするよな。

 

 

「先輩は~、奉仕部って所で活動してて、その活動で必要な情報を集めてるんだと思うよ?」

 

 一色のフォローにえ~?と可愛く首を傾げる水樹。その二面性、目の前でコロコロ変えてちゃダメだと思うぞ。

 

 

「・・・奉仕部って聞くとなんかエロいっすね」

 

 ・・・・・・・・ん?

 

 

 三神はふっと溜め息をつくと、俺に向きな押す。思い出しながら、一瞬寂しそうな顔の後口を開く。

 

 

「三神は中学から変わってませんよ。学校でも漫画描いて、ラ○ナーのストラップぶら下げて、口を開けば2次元の話しかしないオタクです」

 

 言いながら水樹は嫌悪するように顔を歪ませる。胸元まで延びる横髪をくるくるさせながら。

 一色はニコニコと話を聞いていた。

 

 

「バックにオタクグッズをパンパンに積めて腰にぶら下げて歩いてるんすよ?立体機動装置みたいに重そうにしながら。よくやるな~って思うわ」

 

 

 う~ん、濃い目のオタクというのは伝わった。

 しかしそれは俺ももう解ってる。

 

「話はした事あるか?性格とか好み聞きたいんだけど・・・・」

 

 

「性格は見たまんま暗いすよ?後勉強出来るのに、勉強の仕方聞けば”授業ちゃんと聞けば解るよ”ですよ?解んないから苦労してんだって」

 

 

 ・・・・だんだんヒートアップしてきたな。

 もう相手が初対面というのを忘れ、話に夢中になっている。

 

 

「準備とかやたらと時間かかって面倒臭いし、ボソボソと喋るから何言ってっか解んない時あるし、すぐ泣くし。クラスメイトの誕生日とか地味にリサーチしてて怖いし、格ゲーも待ちガイル戦法だし、病弱アピールや頑張ってるアピールも凄まじいんですよ!アイツ!」

 

 

 やばいやばい、止まらなくなってきた。

 一色は変わらずニコニコ。お前もすげぇな。

 

 それから昼休みギリギリまで水樹の情報提供(愚痴)は続いた。

 

 

 

「・・・・てな具合っすね。アイツ好きなら止めた方いいって。絶対面倒だから。んじゃレイプ目みたいな先輩、アタシ授業前に友達の所に戻りたいんでそろそろ帰るね!」

 

 

「・・・誰がレイプ目だ。情報、どうもな」

 

 

 水樹は一色に笑顔で手を振りながら教室に戻っていく。結局あれからずっと喋り続けていた。瞬きすら殆どしてなくて怖かった。

 

 

「・・・・なんか、すみません。情報にならなそうで」

 

 

「いや、まあ誰にも好かれる奴なんていない。こういう方面からの見方だって、必要な情報だ」

 

 

 疲れたけど。

 最後水樹もスッキリしてたし、良かったんじゃないかな。

 

 

「まあなんだか良く解りませんけど、私も三神さんと話とかしてみますね?必要みたいですし」

 

 

 一色は伸びをして教室に戻っていく。

 その際少しヘソが見えたのは内緒だ。

 

 

 ・・・・・・・・。

 

 

「あ~、一色」

 

 

 俺が声をかけると半身でこちらに振り向いた。

 

 

 

「・・・・ありがとな。助かる」

 

 

 俺にしては素直に出た感謝に、一色は目を丸くした後、優しく微笑んだ。

 

 

 

「先輩に頼って貰ったの初めてですね♪ま、それなりに頑張ります♪」

 

 

 

 優しい笑顔と言葉を残し、一色は教室に戻っていった。

 ・・・・さて、時間もヤバいし俺も教室に急ぎますか。

 

 

 時間を見ながら小走りで教室に向かい足を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 奉仕部部室

 

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が頭を抱えながら机に寄り掛かる。そこには材木座プロデュース大作戦と書かれた紙。

 

 

「・・・・想像以上に酷いわ・・・」

 

「・・・・そうだね・・・」

 

 

 

 二人の疲労ぶりに俺もなんだか疲れが移ってきた。今回は俺はマジ何もしてないからな。

 彼女達の苦労を労う事しか出来ない。

 

 

「どう酷いんだ・・・?やっぱり体力無いのか?」

 

 昼休みの水樹みたいに話を聞いてやれば少しは楽になるかと雪ノ下から順番に話をふる。

 

 

「体力以前の問題よ。御昼ご飯のお弁当の後、目を離したら食堂でカレーを食べていたのよ?走らせた後にも流れるような動作で鞄からチョコを食べ始めるし・・・。疲れた体に甘いもの、との事だけど」

 

 

 お、おうそれは運動の意味が無いな・・・・。

 

 

「私も会話の練習してたんだけど、なんの話題ふっても返事してくれないし、中2の話しやすい話題って思って漫画の話ふっても目も合わせてくれないし。なに、嫌われてんのかな私」

 

 

 ま、まあいきなり由比ヶ浜との会話はハードルが高かったかもしれないな。

 

 

 

「このままじゃいけないわ・・・、私が挫けそうなんて、いけない。明日からは筋力トレーニングとマッサージも追加しないと・・・」

 

 

「私もアニメとかTSUTAYAで借りて見ておかないと・・・」

 

 

 大変そうだな・・・。

 俺は二人にせめてと紅茶を入れてやろうと立ち上がる。疲れたならマッカンの方がいいかな?

 

 

 

 ・・・・コンコンッ。

 

 そんな時、奉仕部の部室がノックされた。

 

 

「・・・・どうぞ」

 

 

 扉が薄く開き、ゆっくりと部屋に女子が入ってきた。それはこの前部室に訪れた三神美嘉だった。

 相変わらず目元まで隠れた髪で、きっちりと着込まれた制服。まるで意味無いヘアバンド。そして前回と違い、鞄の某調査兵団の彼は結婚しよ・・・に変わっていた。

 

 

 三神は部屋に一礼、俺に一礼、由比ヶ浜に一礼、雪ノ下に三礼位すると扉をゆっくり閉めた。

 武道場とかじゃないからそこまでしなくて良いぞ。

 

 三神は振り向くとカップに紅茶を注ぐ俺を見て、ボソッと何かを呟いた。

 

 

 

 

 ・・・・?

 

 俺が首を傾げると三神はあたふたしながら雪ノ下達に向かい歩きだした。

 

 すると雪ノ下に向かい、三歩前辺りで止まる。

 息を大きく吸い込み、彼女は再び深く頭を下げた。

 

 

 

「い・・・・依頼が・・・・御座います。雪ノ下雪乃先輩・・・」

 

 

 頭を下げたままお願いをする三神。

 流石にそこまで構えられて由比ヶ浜も俺も戸惑う。しかし雪ノ下は表情を変えずたずねた。

 

 

「依頼とは何かしら?三神さん。」

 

 

 三神は頭を上げず、そのまま鞄から漫画を出し、また深呼吸をして雪ノ下に差し出した。

 

 

「私の漫画に、力を下さい!」

 

 

 三神は初めて皆に聞こえる大声を出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「作画、ね・・・・」

 

 雪ノ下は三人に渡された漫画を読みながら呟いた。

 

 

「・・・・こ、今度、学生の漫画コンクールが、あるんです。・・・・私は、そこに私の漫画を出したいんですが・・・・ご存知の通り、私には画力がありません。し、素人なんです。ほ、本当は、私には作画担当の友人がいたのですが、今は疎遠になってしまって・・・」

 

 

 そこで雪ノ下に作画をして貰いたい、と。

 まあ、あの雪ノ下の絵は確かに上手かった。

 ただ立ってるのに何処か動き出しそうな迫力があったしな。

 

「こ、この前驚きました!わ、わ、私のあの汚い漫画を見ただけで、私のキャラを私のイメージそのまま、素晴らしい画力で描いて・・・・。本当に、本当に感動したんです。作品を良く読んでくれたという事が解り、そしてそれを再現してくれた。ゆ、雪ノ下雪乃先輩の画力にも驚きました、その洞察力や感受性にも感服致しました!」

 

 

 

 ベタ誉めだな。

 その言葉に雪ノ下も少し照れたようにし、由比ヶ浜も自分が誉められたようにニコニコしている。

 そして髪を払いながら雪ノ下は口を開く。

 

 

 

 

「ま、まあ私も様々な作品や文学を読んでいるから、物事を捉える事には自信があるわ」

 

 

「はい、素晴らしい洞察力です」

 

「それに、自分が感じたイメージを絵や音で表現するのは嫌いでは無いし」

 

「は、はい。伝わりました」

 

 

「漫画の作画、人生経験としては悪くないわね」

 

 

「だ、だから、今回だけで良いので一緒にコンクールに共に出て下さい!」

 

 

「断るわ」

 

 

 

 ・・・・・・・・。

 

 

 

「え~!?」

 

 

 あの流れでまさかのお断りしますに由比ヶ浜が唖然とする。

 見事に上げて落としたな。

 

 

「だって、貴女の為にならないもの。前回私達のアドバイスを受けて改善をしようとした事は今日の漫画を見て伝わったわ。しかし、今回だけ私が作画して、一体なんの為になるの?」

 

 

 そう言いながら漫画を突き返す雪ノ下。

 まあ今日の漫画は頭は大分小さくなって、顎も凶器じゃない。まあ、それでもおかしいが。

 

 

「これから私がずっとサポート出来る訳じゃない、だから貴女は引き続き努力で画力を向上させるべきよ。数日でここまで直してくる気概があるのなら尚更ね」

 

 

 まあ、雪ノ下の言う通りだな。

 こんな短期間でここまで直してくるのは大変だったろう。そんなにやる気があるのなら1人でもやれる。

 立っている三神を下から見上げれば、その目にはくまが出来ていた。

 

 

「・・・・い、意味なら、あります」

 

 

 しかし三神は雪ノ下から漫画を受け取らず、鞄から一枚の紙を取り出した。

 

 そこには卒業後の進路の紙が。

 

 あ~、一年の時もやったな~。

 一年の時から卒業した後の事まで考えてる奴なんてそういない。

 しかし三神の紙には”漫画家”と描いてあった。

 

 

「・・・・私、いや私達は子供の頃から漫画家になるのが夢でした・・。でも、作画の友達に高校進学してから嫌われてしまって、漫画を描く事に希望を失っていました」

 

 

 三神の長い前髪の隙間から涙がこぼれ落ちる。

 話通り、涙もろい。表情は前髪に加え、うつ向いている為良く見えない。

 

 

「でも、面白いって言って貰えたんです。わ、私なんかの絵の漫画が、面白いって、世間に出さないと勿体ないって、言って貰えたんです・・・」

 

 

 雪ノ下がポケットからハンカチを出し、三神の前髪を上げて涙を拭いてやる。

 するとまだ幼い、一年生の少女の顔があらわになる。まだ大人になりきれてない童顔で、涙を流すその表情にも関わらず、覚悟を決めたという意思を感じる。

 

 

「・・・だ、だから、私の漫画が、物語がどれだけ世間に通じるのか知りたいんです・・。雪ノ下雪乃先輩の作画なら絵に不安は無い、私の物語だけの問題になる。このコンクールが終わって、勝ち残る事が出来たら、私は高校を辞めて漫画家一本に人生を懸けます!アドバイスの通り私の全てを使って技術向上に努力します!だから・・・」

 

 

 涙を拭いている雪ノ下の手を両手で握り、三神は懇願する。初めて三神は前髪という心の防御壁を捨てて雪ノ下に向かい合った。

 

 

「私に夢に挑戦する勇気を、今回だけで良いから下さい!」

 

 

 真剣な眼差しで雪ノ下を真っ直ぐ向いたその瞳に、雪ノ下は真剣な顔で思案する。

 

 

 

 

 

 

「我からも頼むぅううう!!!」

 

 

 バンッと扉を開けて巨体の男が滑り込んで来る。扉に足を引っ掛け、転がりながら奉仕部部室に転がり込み、そのまま土下座の体制を取る材木座。

 

 

「我からも、頼む!我も解るのだ!夢があり、そこに全力を注ぎ込む事に覚悟がいる事も、勇気がいる事も!・・・・だがな、我には八幡がいたのだ!夢をダラダラと語れる相手が!それがどれだけ救われたか、勇気をくれたか!満足させてくれたか!」

 

 

 いや、語るだけで満足しちゃダメだろ?

 つい頭の中でつっこむ。

 

 

 

 

「だが、彼女は1人なのだ!学校には話をする相手がいないんだ!!ぼっちの辛さは八幡も、御主も解るだろう氷の女王よ!それがどれだけ心細いかも!だから、だから我からも頼む、頼むぅ!!」

 

 

 後半の言葉は恐らく逆効果だぞ材木座。

 しかし材木座は地面に頭をすり付けながら懇願する。ぶつけた所が少し赤くなってる。

 

 

「・・・・ざ、材木座先輩・・・」

 

 

 ・・・・・・・・ふぅ。

 三神の願い、材木座の懇願にようやく、雪ノ下の心を動かした。

 

 

「・・・コンクールの日程、後で教えてね」

 

 

 

 

 

「ゆきのん!」

 

「氷の女王よぉお!!!」

 

 

 材木座と由比ヶ浜がパァと表情を明るくする。

 雪ノ下はやれやれと三神の漫画を鞄にしまい込んだ。

 

「・・・あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

 何度も雪ノ下と材木座に頭を下げる三神。

 材木座もへへっと指で鼻の下を擦る。

 

 その動作漫画でしか見た事ない。

 

 

 しかし、三神と材木座の必死な願いが届き、氷の女王の力を借りる事に成功した。

 なんかそれだけ聞いてるとRPGのようだ。

 

 

 だが共通しているのは夢に向かい、覚悟を決めて歩きだすというのはゲームの主人公達に似ているのかもしれないな。

 

 

 

「しかし条件があるわ。三神さんはコンクールが終わっても学校を辞めるというのは無しよ。漫画家だって、学が必要なのだから。そして材木座君は三食以外食べ物は禁止、いいわね?」

 

 

 雪ノ下から出された条件に、三神は思案し、はい、と返事をした。

 材木座はゲッと顔を青くしながら震えている。

 

 

 

 まあ折角格好つけたんだ、そこまで頑張れよ材木座。・・・・また愚痴とかなら聞いてやるから。

 

 そう微笑み、いつまでも床に座る材木座を引っ張り立たせてやる。

 

 

 こうして彼等彼女等の戦いが始まり、恋と夢に向かいだす。




続く

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