俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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その1 その日、彼女の重い1ページは捲られる。

 

 

 

 

 材木座の登場、それはいつもならある意味気を使わない時間。

 

 自作ラノベを見せられるというのは正直苦痛だが、相手は材木座だ。気を遣う必要もなければ使われてる気もしない。人付き合い疲れという俺が最も苦手とする疲労が起こるはずも無いのだ。

 

 だが今回はいつもと違う。知らない人間が介入した事で嫌な沈黙、慣れない気まずい空気が流れていた。

 

 

 いつもの奉仕部三人に、机を挟んで対面で座る来客二人。腕を組んで何故か偉そうにしている材木座に、俺には見覚えのない女子が一人、俯いて緊張した様相で俯いて座っていた。

 

 その女子を上から観察する。

 

 肩位まで伸ばし黒い髪に、青いヘアバンド。 そして制服は一切着崩されておらず、今時珍しい位スカート丈が長い。

 変わった所はその髪が目を隠してしまって顔の半分が確認できない事。そういう髪型は目を悪くすると聞いた事があるが大丈夫なんだろうか?

 

 最後に彼女の膝の上に抱えられた重そうな鞄には某調査兵団の良い男が”結婚したい……”と真顔でこちらを見つめている。

 

 うん、しっかり観察した所でやはり知らない相手だな。まるで見覚えが無い。言ってしまうとこの学校の人間の9割9分位知らないどうも俺です。

 

 なんならクラスメイトすら名前を言えるか怪しいまである。戸部なんたらとか相模なんだとか川なんとかさんとか。

 

 そんな風に俺の学校の知り合いリストを頭の中で探っていると、とうとう沈黙に耐えられなかったのか、材木座が”えへんえへん”と咳払いを始めた。

 

 

「ふっ。こうしてお互いの気をけん制していても埒が明かないという物! 我が気を利かせてお互いの紹介をしてやるとするか! では紹介しよう!まずはこの目の腐りきった男の名は、比企谷八幡である! 我と数多なる戦場を共にした、暗黒界の住人であり、闇の邪眼を持つ我がしもべの一人よ!」

 

 

 出来れば入ってきた時に済ませて欲しかったお互いの紹介を今更始める材木座。しかもその内容は何一つあっていない。誰がお前のしもべで悪魔族だ。一周して信じられないからいいけど。

 

 引き続き材木座の奉仕部紹介が続く。

 

「あ、それでこちらの派手な女子が由比ヶ浜さんで八幡のクラスメイト。そして隣にいるのがかの雪ノ下さん。彼女は知っているよね?」

 

 

 二人は普通に紹介するのかよ。いきなり改まる材木座に内心突っ込んだ。なんだそのテンションの落差。

 

 

「やっはろ~! 由比ヶ浜結衣です。よろしくね♪」

 

「雪ノ下よ。よろしく」

 

 

 二人の挨拶に女子は席を立ち、丁寧に頭を下げて”よろしくお願いします”と頭を下げる。

 俺は材木座の紹介に気をとられて挨拶のタイミング逃してた。仕方なく二人に合わせて軽く会釈してやると、その女子は顔を上げた時に気付き俺にも頭を下げてくれた。

 

 

「そして最後に、奉仕部の面々よ、この娘を紹介しよう! 彼女は物語の創生者であり、我と同じ道を征く同士で我の宿命を聞き馳せ参じた……」

 

「い、一年の”三神美嘉”と申します。は、はじ、はじめまして、先輩方」

 

 

 材木座の紹介を受け、再び三神が深く頭を下げる。

 変な属性付けられる前に動くとはやるな。

 

 だが、何度も頭を下げられたり、なんていうか、あんまり改められるとこっちも気まずい物だな。材木座の意味☆不明の紹介文も合わせて異質感がパない。

 

 

「ええ、知っているわ。国際教養化一年の三神さんね? 何回か廊下やイベントで見た事があるわ」

 

 

 成程な。一年で国際教養科とくりゃ、それは俺が見覚えが無いのも納得だ。もしかしたら校庭とかですれ違っているかも知れないが。

 

 

「それで、三神さん。そろそろ本題を聞きたいのだけれど、構わないかしら?」

 

 

 材木座のお互いの紹介を皮切りに、雪ノ下が話を進める。

 その言葉に三神は困ったように身をよじらせ、両手で抱きしめるように持っている鞄をより強く抱きしめた。

 

 口からは”えと……”とか”あの……”とかつぶやきが零れている。

 

 コミュ症にありがちな動作だな。なんか親近感が持てる。

 なんなら雪ノ下が怖いのかな? 

 ならさらに親近感が沸くな。俺だって今でも雪ノ下が怖いもん。

 

 だけど折角の切り替えにも関わらず、話が進まないこの三神のもどかしい動きに業を煮やした材木座が三神の抱きしめる鞄のファスナーを下げ、中を漁り始めた。

 

 その行動に由比ヶ浜がぎょっとし、三神が慌てている。女子の荷物に手を突っ込むとか、いいのかそれ……。

 そして鞄から姿を現したのは、材木座の自作ラノベのような重量感のある紙束だった。

 

 その紙面を見て、俺と由比ヶ浜は嫌な汗を一つ。まさか……。

 

 

「今日の依頼はコレである。これを、貴殿らに読んで貰いたい」

 

 

 やっぱきたか~!

 この手の依頼!

 

 

「え~っと、これって?」

 

「うむ! 三神の自作漫画”プリンス☆プリンセス”である! 今回の依頼は、これを読んでの評価、感想だ」

 

 由比ヶ浜の疑問の言葉を待っていたと言わんばかりに材木座は胸をはって答えた。

 

 今日は材木座が手ぶらで来たから安心してたら、まさかの三神の方から取り出されたソレに俺は内心頭を抱える。しかも漫画とはいえ、どうやら材木座のラノベより遥かに枚数が多く時間を要する事を物語っていた。

 

 

「……こ、これは私が学校の合間とかで書いている漫画なのですが、材木座先輩に、此方に見せた方が良いと言われまして……」

 

 

 さらに、持ち込んだのが材木座ならなんとでもキツイ事を言えるが、相手は女子でさらに一年生とくれば、かなり言葉を選んで伝えなくてはならない。困った、これはかなり扱いがデリケートな問題だぞ。

 

 自分が趣味で好きでやってる事に対して他人が下手な事を言うのは、あまり好ましい行動ではない。大体良い事にならない。

 

 

 その内容はどういうレベルなのかを見る為、試しに一枚目の白紙を捲り、漫画の表紙となる部分を確認する。

 

「うおっ……」

 

 

 その紙面には思わず嗚咽が出そうになる一撃が待っていた。

 

 その画力、まさに画伯(笑)級の物だった。

 

 無駄にキラキラした目、サイズが体と比べてでか過ぎる頭。

 鋭利過ぎて武器なのかと見間違う顎、無駄に長い指や腕。

 主人公らしいその少年の形をしたおぞましい何かが紙面から俺のメンタルを一気に削ってくる。

 

 俺が停止していると雪ノ下も手を伸ばし、中身を確認すると”うっ……”っと小さく呟く。

 

 これは色んな意味で厳しいぞ、と思い三神の方に視線を戻すと、どうやら材木座の手で自作漫画が他人の目に入れられたことで踏ん切りが付いたのか、息を飲み手を胸の前で抱き寄せながら泣きそうな目で覚悟を決めていた。

 

 そうなってしまったら恥ずかしいだろ? と止めるのを促すことは出来ない。どうやら、この漫画を読む事からは逃げられそうに無かった。魔王からは逃げられない。

 

 

「……わかった。とりあえず、流し読みしてみるわ」

 

 

 元気なくそう伝えると、俺は観念し率先して三神の漫画を手に取る。頼むから、少し嬉しそうにしないでくれるかな。評価の言葉にさらに困るから。

 

 とりあえず”前衛的な絵だね”は確定。

 

 大きく息を吸い込んで俺は三神の漫画プリンス☆プリンセスを読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 雪ノ下が三神の漫画を捲り、紙のすれる音を奏でる。

 あれから小一時間後、静まり返った奉仕部の部室で俺たちは三神の漫画を読む雪ノ下を待っていた。

 

 三神は怯えきった顔で体を縮ませ手を組んで待っている。材木座は貧乏ゆすりをしながら睨みを利かせている。

 

 そしてとうとう持っていた漫画を机で端をそろえ、三神の漫画を机に置く。その動作に皆注視する。

 

 そして一息入れたのち、雪ノ下の口から待望の感想が告げられた。

 

 

「意外に、面白かったわ」

 

 

 雪ノ下から告げられた高評価。その言葉に二人は顔を上げ、嬉しそうに立ち上がる。

 

 

「そうであろうそうであろう! 三神の漫画は面白いであろう!」

 

 

 何故か自分の事のように喜ぶ材木座はともかく、その意見には俺も同意見だった。俺が最初に読んで”面白い”と感想を言った時コイツは信じられない物をみるかのような目だったが、実際に読んで貰えたらどうやら理解して頂けたようだった。

 

 

「出始めからキャラクターをどういう人間かを上手く伝えられている点を始め、全体的に物語が解りやすく王道で引き込まれる良い内容だと感じたわ」

 

「それな。熱いシーンなんかはすげぇ引き込まれたわ」

 

 俺達から賛美を送る。

 

 三神の漫画は、それは絵こそアレだが内容はスポーツ漫画の一話の物語としての出来映えは良く、少年漫画的な非常に熱い漫画だった。

 二人の女の子がテニスを通じて様々な青春を過ごしながら成長していく過程は、悪く言えばありきたりなのに何故か引き付けられる、奇をてらったような物とは違う”王道”ならではの面白さといった所か。

 

 

「おお~。この二人が素直な高評価出すってすごいじゃんっ、三神ちゃん!」

 

 

 由比ヶ浜の言葉に”まあ確かに”と心の中で思う。

 俺はこの漫画を読み始めた時はいかにして傷つけないで終わらせる事が出来るのか、無理にでも良い所を見つけなきゃ、という気持ち、いわゆる”良い部分を見る”という姿勢で入った事もあるが、俺が、ましてや雪ノ下が人を褒めるのは確かに珍しい。

 

 

「勘違いしないで欲しいのだけれど、私は良い物は良い、悪い物は悪い、いつもそう思っているだけよ。酷評を好んでしているわけでは無いわ。良い物にまで悪い所を探し文句を言う比企谷君と違って。酷い男ね」

 

 

 俺はひどい物という意味ですね。

 

 そうは言うが雪ノ下さん。そのかわり俺は悪い物にもそれなりに優しく伝えないでいられるぞ。寧ろ容赦無く切り捨てるお前の方が酷いだろ。と心の中で思っとく。

 

 さて、これで三神の漫画について良評価を下した訳なんだが、こう内容が良ければ良い程目立ってくる悪い部分、言わなければならない事が一つ出てくる。

 

 

「でもその内容をもってしても目をつぶれないほど、兎に角作画が酷いわ」

 

 俺がその事を言うのをためらっていると、それは雪ノ下から相変わらず容赦無く告げられた。

 

 そうなんだよ……。

 何よりまず、絵が酷い。

 今回は依頼として渡されたから最後まで読んで、だから内容の良さを知る事が出来たが、もしこの漫画がどこかの週刊誌に乗っていたら間違いなく飛ばすだろう。

 

「まずキャラクター。人体の構造がおかしい。横に走っているにも関わらず顔だけこっちを向いているライバル、焦点の合っていない目、左右であまりに長さの違う腕。遠近法を現したかったのかはわからないけど、まるで妖怪のように伸びた手」

 

「……う、うう」

 

 

「次に背景や情景。これは階段? 最初シャッターかと思ったわ。これは坂? この角度なら人は落下するわね。そしてこの緑色の玉はもしかしてメロン?」

 

「き、キャベツです……」

 

 

「最後に、この主人公の憧れの男子”ハヤブサ君”の絵、作中では屈指のイケメンと書かれているにも関わらず、実際の絵では全く表現されていないのがあまりに致命傷だわ。周りにキラキラを浮かばせれば格好良く見える訳では無いのよ?」

 

 容赦なく伝えられる言いずらいであろうその内容をスラスラと言い放つ雪ノ下。

 

 で、でもそれは言い過ぎじゃないか? ハヤブサ君は少し変えればそれなりに格好良くなるかもしれないじゃないか。

 

 まず縮れたカップ焼きそばみたいな髪を直して、でか過ぎる目を小さくし、鼻を直し顎を滑らかにして口をほほを肩を首を……。

 

 体を長さを色鉛筆で書いたみたいな薄さをバランスを……、やだ、全部赤ペン入っちゃう。

 

 

 そんな訳で、三神の漫画は正直、ガッツリ内容を読もう、という意識が無くてはこのインパクトの強すぎる絵では内容を頭に入ってこない。個々のコマで動きは躍動感そのものは表現されているし、何より絵を文字で補おうと努力している節が見られるのだがまるで補い切れていない。

 

 雪ノ下から出される容赦無きダメ出しに、三神は涙目でメモを取りながら頷いている。材木座はあわわ、と手を口に入れている。

 

 

「そうね、例えばハヤブサ君をイケメンと表現したいなら……、この位描けば伝わるのでは無いかしら?」

 

 

 そしてノートに殴り書きされた雪ノ下バージョン”ハヤブサ君(井上和彦様風)”が差し出され、三神達は某海賊漫画の自慢の雷が聞かなかった神のような顔で目をヒンむかせていた。

 

 いやいや、それは敷居高すぎだろう。

 

 その後は雪ノ下による、ひたすら一コマ毎の作画のダメな所、打開案の提案が始まった。その言葉の剃刀の切れ味は、相手が一年の女子であるにも関わらずいつも通りの物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 コチコチコチコチ。

 

 いつものなら耳に入らないほどの小さな音である教室の時計の音。

 

 いまの奉仕部にはやけに耳に届いてくるほど静かに、三神は真っ白になっていた。

 

 

「み、三神。大丈夫であるか……?」

 

 

 三神は黙って頷き、そして俺達に頭を下げ礼を言う。

 

 

「的確な助言にアドバイス、ありがとうございました……」

 

 

 一時間に及ぶ、雪ノ下のダメ出しがようやく終わりを迎えた。もはや取り出したメモ帳では足りず鞄から勉強用であろうノートにまで書き出す事になっていた。

 

 

「私からは以上だけど、比企谷君と由比ヶ浜さんからは何かあるかしら?」

 

 

 ねえよ。打ちひしがれた女の子に死体蹴りする趣味もねえ。由比ヶ浜もぶんぶん首を振って否定する。

 

 

「私はこの絵も結構インパクトが合っていいと思うな! 絶対忘れられなそうだもん!」

 

 

 それ褒めてんの? トドメさしてんの?

 

 まあいい。これにて三神の依頼の漫画を読んでの評価、感想の依頼は終了だ。お疲れ三神。

 

 

 失礼します、と頭を下げ三神と、それに続く材木座が扉に向かい歩き出す。

 

 

「……先輩方、素人の、それも私なんかの漫画を読んで頂きアドバイスまでありがとうございました。う、嬉しかったです……」

 

 

「大丈夫だよ! 三神ちゃん、頑張ってね!」

 

 

「ええ。普段触れない事柄に触れて刺激があって充実した時間だったわ。絵はともかく他は良かったから、そこはめげずにね」

 

 

「お疲れ。楽しかったわ」

 

 

 

 俺達三人の言葉に、少し照れくさそうにした後、三神は俺達に、教室に礼をすると部室を後にした。材木座も一緒に扉から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 ……ふう。

 

 一つだけため息をつく。一仕事終えたような空気が流れ、それぞれ冷め切った紅茶を口にする。

 

 

「……お前、女の子にも容赦ないのな」

 

 

 雪ノ下に横目で視線を送りながら苦言。最後の方なんて、三神泣いてたじゃねえか。

 

 言葉に遠慮や言い回しの優しさなど一切感じられない直球な意見に軽く引いた。悪口等は一切入っていないのにまるで攻撃しているようにすら見えた。

 

 

「あら、三神さんは私たちの言葉を真に受け止めて、真摯にメモを取ってまで自らに受け入れようとしていた。真摯に向かってくれる相手には真剣に答えるべきでしょう?」

 

 

 言っている事は間違っちゃいないが、それでも言い過ぎだろう。

 

 そんなやり取りをしていると、凍えた空気が部屋に入り込んでいる事を肌で感じる。見ると材木座が出て行った部室の扉が開いている事に気が付いた。いや閉めて行けよ。

 

 部室の温もりを逃がさぬように扉を閉めようと立ち上がり、向かう。

 

 ガタン。

 

 

 俺がやれやれと扉に手を掛けようとすると、そこに再び材木座が部室に入ってくる。何、忘れ物?

 

 すると材木座は顔を背けながら教室の扉を閉め、俺達に戻ってきた目的を告げた。

 

 

「依頼がある」

 

 

 ……なに、今度はお前のラノベなの?

 無理無理、今渡されたら完全に宿題じゃねえか。

 

 はっきり断ろうと信念を持って向き合うと、材木座は手ぶらであり自作ラノベを持っている様子は無い。

 

 

「言いにくい、事なのだが……」

 

 

 そして材木座ははにかみながら頬を朱に染めて、呟いた。

 

 

「か、彼女が、好きなのだ……」

 

 

 材木座の口から依頼として繰り出された言葉は、それは恋の告白であった。由比ヶ浜がきらりと目を輝かせて立ち上がった。

 

 いや、それよりその動作をマジで止めろ。言われた言葉より、何よりそれが問題に感じてしまった。

 

 

「いいよ! 中二、話聞くから入ってきなよ!」

 

 

 先ほどは専門外だったから大人しかったのか、今が自分の領域の話題だからかテンションが上がるに上がった由比ヶ浜。いつまでもモジモジしていた材木座をエスコートする。

 その言葉に導かれるまま、再び材木座が椅子に腰かけた。先程の三神との依頼とは打って変わって由比ヶ浜先導により早々に本題に入ろうとする。

 

 切り替えはええな。まあ、今日時間も無いから助かるけど。

 

 

「へぇ~♪ 中二は三神ちゃんが好きなんだ~! なんだかお淑やかな感じで可愛かったよね!」

 

 

「う、うむ。我のような物にも先輩として敬意を払って接してくれる、礼儀正しき者なのだ。マジ優しい」

 

 

 先輩として扱ってくれただけで優しいとな。まあ最近は運動部でも無ければイケてないグループに属してない先輩なんぞの扱いはそんなレベルかもしれないな。一色なんて、完全に俺の事先輩として扱って無い物ね。

 

 

「それでそれで? 何処で知り合ったの? 何がきっかけで恋したの?」

 

 

「うむ、我がいつも休み時間に避難している図書室で、いつも隅っこの方に座っている彼女を見かけていたのだが、毎日見かけているうちに気が付くと図書室に入る旅に三神の事を探している自分がいたのだ」

 

 

「ありきたりなラブソングか」

 

「ヒッキーうるさい。それでそれで?」

 

 

 俺の突っ込みすらもスルーして由比ヶ浜はコイバナに食い付く。

 

 

「それで彼女が毎日ノートに何かを真剣に描いていたので、それすら気になってきて、こっそり背後から近づいて背後から彼女を覗き込んだのよ」

 

「まるで盗撮犯の自供を聞いている気分なのだけれど……」

 

「……そしたら、先の漫画を描いていたという訳よ。そしたらあの絵のインパクトに思わず唸ってしまって……」

 

「それは仕方ない」「それは仕方ないわね」「まあ、アレはね……」

 

 

「そしたら覗いた事がバレてな? 涙目で漫画を隠して顔を真っ赤にする姿に思わず、その、ぐっと来てな! わはは!」

 

 

「通報しましょう」

 

「そうだな」

 

「き、きもい!」

 

 

 マジで引いて、思わず声のトーンが下がる。材木座は慌ててワタワタと手を動かし弁明した。

 

 

「いやいや! それが惚れた要因では無くてだな! その事をきっかけに、お互いが物語を作る者同士だと知り、良く話が合って、それで仲良くなったのだ! 実際漫画を読ませて貰ったら、それが面白くて、是非ともどこかに持ち込み、または投稿を薦めたのだが渋ってしまって。だから我の専属アドバイザーを紹介したって訳よ!」

 

 お前そんな風に言い触れてる訳?

 そんな物になった覚えが無い上に、俺は嫌だぞ学校の自作ポエムやら何やら持ち込まれ始めたりするの。そうなる前にコイツを早急に黙らせる必要がある。

 

 それに、弁明してるけど相手が悲鳴かなんか上げてたらマジで学校の変質者になるレベルの行動だからな? 相手が大人しい三神だったから大事にはならなかったものの。まああまり自己主張強くなさそうで気が弱そうだったから安全と判断してそんな行動したんだろうが……。マジで変態じゃねえか。

 

 

「それから、我が図書室に行く度に我を見付けては挨拶をしてくれるようになって、自然と一緒の席に座り話をするようになって。あんなに、女子と引かれる事なく、無理せず話を出来るのも初めてで、それが楽しくって……。そうなっていたら、気が付いたら、好きになっていたのだ……」

 

 

 同族を見つけたり、その安らぎもあったのだろうがこの未だに由比ヶ浜達と目を合わせて話が出来ない材木座にしてはそれは確かに珍しい。この見苦しい照れた表情を見ても、どうやら本気なのだろう。由比ヶ浜は楽しそうに頷いて返す。

 

 

「成程、彼女に対して好意を持った事情は分かったわ。それで、貴方の依頼とはなにかしら? 彼女の事を知りたいの? それとも彼女にあなたを知って貰いたい? 気持ちを伝えたいのかしら?」

 

 

 そして単刀直入に投げかけられる本会話の主題である材木座の願いに話が移行する。その雪ノ下の言葉に、材木座は迷いなき瞳できっぱりと言い切った。

 

 

「いや、ぶっちゃけ彼女を我にメロメロにしてほしい」

 

 

 ……すげえな。今までの奉仕部に持ち込まれた依頼の中で最も成功の見えない依頼が持ち込まれたぞ。思わず頭を押さえてしまう。

 

 

「え、いきなりソコ!? ちょっとずつ好きになって貰うとかじゃなくて? いきなしゴール狙い?」

 

 

「……一緒に遊びに行くようになりたい、とかその辺じゃなくて、いきなりゴール狙いか?」

 

 

「当然である。狙うなら常に近道一直線でベストな結果よ。それに、ぶっちゃけ我、フラれるとか嫌だし。フラれるとか滅茶苦茶傷付くし」

 

 

 いさぎの良いヘタレ屑。思いもしない言葉に由比ヶ浜は口をパクパクさせて固まり、雪ノ下はゴミを見る目で頭を抑えている。

 

 

「中二」

 

 

「ふむん? 受けてくれるのかな?」

 

 

 腕を組んで満足そうに頷く材木座に、由比ヶ浜は立ち上がり咆哮した。

 

 

「恋愛舐めんなぁああああああああ!!!! 皆それと向き合って戦ってんだぁあああああああ!!!!」

 

 

「ひいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

 椅子から転げ落ちて後退る。息を荒げる由比ヶ浜をどうどうと宥める。

 

 

「だってフラれたらって思うと怖いじゃない! 傷付くぞ! 泣くぞ我!」

 

 

「材木座君。私は最初から諦めるような事は好きじゃない。けれどハッキリと言うわ。無理よ。

 いきなり人に好きになって貰う方法なんてあると思う? あるとしたら、それは催眠か洗脳よ。まれに、最初から人に好かれるような人も確かにいるけれど、それは彼等なりに努力の結果なの。

 貴方は毎日身なりに気を使っているかしら? 美容は? 相手に好かれる会話術は? 人心を掌握する為の技能や才能は?」

 

 

「おうふ」

 

 

 女子二人から一気に責め立てられ、大人しくなる材木座。俺は材木座の気持ちは解るけどな。傷付く位なら告白なんてしたくない。告白の数だけ傷と黒歴史があるしな俺。

 

 そんなお前にオススメなのは誰も傷付かない”諦める”がいいんじゃないかな。

 

 

「今までそういう努力をしてこなかった人間に、いきなり相手を魅了するなんて無理。なら、今からでも三神さんに好かれる努力をしなさい。解ったら、もう一度聞くわ。貴方の依頼は何?」

 

 

 追及されるような言葉に、しぶしぶ材木座は頷き返そうとする。

 

 しかし、これは良くないな。俺はその前に、材木座にしっかり釘をさしておく必要があるだろう。

 

 

「まて材木座。答える前に、もう一度しっかり考えろ。本当にいいのか?」

 

 

 俺の言葉に、三人が怪訝な顔を浮かべる。

 そんな反応が返ってくる事は予測通りだ。だがこれはハッキリさせておかなくてはならないのだ。

 

 

「……お前には、まあ、それなりに借りがある。だからお前の依頼に対して力を貸したくない訳じゃない。だがな、一つ考えろ。お前の言う通り、恋愛は痛みを伴うぞ」

 

 思わず真面目なトーンで口にしてしまった言葉に、由比ヶ浜までどこか苦しそうな表情に変わる。雪ノ下もどこか険しい顔になった。

 

「フラれるかもしれない、その為にした努力が無駄になるかもしれない。ましてや思い出したくない位傷付くかもしれない。それを、そのリスクをもう一度考えろ。今雪ノ下に聞かれたからなんて理由で選ぶなよ。お前が決めて、お前が行動するんだ」

 

 

 

 

 恋は”良い物”だ。それについて全面的に否定するつもりは無い。だが、全部が良い物でなければすれば良いって物じゃない。

 周りの目もある。どんなに相手を好きだからってその思いは一方通行で終わる物なのかもしれない。そして、フラれたりなんかしたら、それは自分が好意を持った相手から告げられるのだ。”お前じゃない”と。まるで存在を否定されたような痛みだ。

 

 そんな痛みを伴う事を、人に言われて引っ込めるのが格好悪いから等の生半可な気持ちで挑むべきじゃない。人に介入されては止めるなんて言いづらくなるのも目に見えている。

 それを再確認させる為にもハッキリと釘を刺しておかないとと思っての言葉だったが、声質を間違ったか思った以上に空気が暗くなってしまった。三人とも、何か思う所があるのか、それぞれが暗い面持で俯いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……暗くなっちゃった?

 

 俺が喋り出す途端空気が凍り付くのは今回に限った話では無いが、相変わらず慣れる物ではない。

 

 思わず必勝爆笑ジョークを言うべきだろうかと躊躇っていると、材木座が重い口を開いた。

 

 

「……諦めたくない」

 

 

 

 小さく、俯きながら呟いたその弱弱しい言葉。しかし、その言葉には確かな意思が乗っていた。由比ヶ浜がまるで自分の事のように喜び飛び跳ね、雪ノ下は一つ息を付いた。

 

 

「中二、偉い! 良く決断したね!」

 

 

「……解ったわ。貴方の依頼、改めて聞いてもいいかしら?」

 

 

 材木座はいつもの剣豪将軍のモードでは無く、材木座義輝としてその依頼の内容を告げる。もう、そこまで決めたなら俺からは何も言わない。

 

 

 

 

 

「フラれたっていい。我は三神に恋をしたいのだ。我の思いを伝える為に、頑張る手伝いをして欲しい……」

 

 

 

 

 そうして、俺達の

”材木座のプロポーズ大作戦”が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続く

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