俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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番外2 変わり出した世界

 

 

 私たちは、例えるならたった一人で荒野を歩いてレアアイテムを探す冒険者だった。

 

 

 

 別にそのゲームは一人でだって出来るけど、本当は二・三人で遊べる物で、仕様として複数人で遊ぶ事を想定されているような物。

 

 一人プレイでだって色々出来る事はあるんだけど、二人プレイになった途端に様々な戦略やダンジョンへの挑戦が出来る、そんな物。

 

 最初から一人でしか出来ないRPGとかならそうは感じないけれど、二人で出来る探索・収集ゲーとなれば二人いないと寂しい物で、二人いた方が有利な作りで。

 

 

 

 そんなゲームを二人は今まで一人で黙々とやっていて、お互いの存在に気付かないでいた、そんな感じ。

 

 そんな二人がゲームの中で出会って、二人でやろうと言い合えたなら?

 

 

 そんなの、凄く嬉しくて楽しくて、堪らなく幸せな事だった。

 

 

 

 

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「おはよう三神ちゃん! 昨日アレ見たっすか? マジ今季アニメ当たり多すぎっすよね!」

 

 

 

 教室に到着するなりクラスメイトに挨拶して話を振る。

 中学入った頃にしかやってなかったそんな行為を私は再び行うようになった。

 

 そんななんでも無い行為がこんなに楽しい物だったなんて、私は忘れていた。

 

 

「あ、えと、おはよう、ございます水樹さん。……見ましたよ? 今回のも、一話から引き込まれる展開で凄く楽しそうでしたね」

 

 

 私の声掛けに、なんの掛値なく微笑み返してくれた友達”三神美嘉”に、机に座りながら私も笑顔になる。

 大好きなアニメの話を振って、それを知っていて、それを一緒に楽しみながら話が出来る相手がいる事がこんなに幸せなんて、思いもしなかった。

 

 

「ね~! 日常系と見せかけてアレだもん! あっという間に30分過ぎてたっすわ~!」

 

「はい、私も時間があっという間で、興奮したまま寝れませんでした」

 

「それね! なんだ三神ちゃんも同じだったならメールすれば良かったな~! 見た後すぐ語りたかったし~!」

 

 

 アニメを見た数だけ、漫画を見た数だけ話したい事が増えていく。季節ごと、様々な物が発売放送されるこの世界、話題に困る暇なんて無い。

 

 周囲のクラスメイトなんか漫画もアニメもみないで何話してるんだと気になる位だった。男子の話とか服の話とか、そんなのばっかで飽きないのかな?

 

 二次元の中で進むこちらの世界は凄い進化を続けている。どんどん表現が増え、新たなる声優が、世界が、設定が。ひと月でも情報社会から隔離されたら追いつくのが大変になるほどの速度で変わっていく。話題なんて尽きてる暇なんて無い位。

 

 だから、もっと話したい。今のアニメが終わる前に、新しい話題が飛び込んでくる前に。

 

 だから私は三神と過ごす時間をもっともっと、もっと増やしたい。だから、一年ぶりにこんな誘いを持ち掛ける。

 

「三神ちゃん今日図書れる?」

 

「……クスッ、図書れますよ。なんだか、新しい言葉が出来てしまいましたね」

 

「じゃあさ! 今日はお互いの神アニメ発表しようよ! アタシ達お互いどんなアニメが好きなのか解ってないじゃん!」

 

 

 誰かに好きな事を語る事がこんなに楽しいとは思わなくて、アニメを見たら”今の三神はどう思ったかな?”なんて友達の事まで考えてしまう。

 

 お互いを共有する事が楽しい、そんな事を思ってしまったら、もっともっと友達の事を知りたい、そう思った。

 

 

「私は、かなり雑食でどんなジャンルも好きです。ドラマや小説だって、自分が出来ない経験を味わわせてくれるようなフィクションがあるならなんだって。……ですが、どちらかと決めるならば”熱い”少年向きのアニメが好きです。仲間と苦難を乗り越えて戦う、そういうお話が」

 

「三神ちゃんはそっちよりかぁ! じゃあ、ジャンプとか好き?」

 

「あ、はい……。毎週、必ず購読してます」

 

 

「アタシも三樹夫が買った奴読んでるよ! あ、三樹夫ってのはアタシの兄貴でさ。まあどうでもいいや。ジャンプだったらヒロアカとか好きだな~!」

 

 

「ヒロアカ、いいですよね。あの作者が前書いていた動物園のお話も凄く面白いのですが打ち切りになっていたらしくて数巻しか無くて凄く寂しかったんですよねなんで何が悪かったのかキャラのデザインはいいし独創的だしカッコよくて可愛くて続きが気になる設定で、まだ明かされていない設定とかあるから復活しないかな~と密かに期待を。ああヒロアカの話から脱線してしまいましたね。ヒロアカはまず今では珍しい努力型主人公で成功したという稀有な例で、それだけで作品の完成度がうかがえるというか、バトルの描写が凄く勢いが伝わってきて良いですよねそして何よりオールマイトが本当にカッコいいカッコいい、あんな素敵なおじさまを描けるなんて本当凄いと思うというかですね」

 

 

「お、おお、目の色変わったね……」

 

 

 この子とは会ってあんまり経っていないけれど、彼女の誠実な性格は伝わってきて、喋るのは未だにごもってしまう事も多く、明るい方ではないけれど好きな事には情熱的で。

 

 友達って素敵だなって思わせてくれるには十分過ぎる相手だった。

 

 凄い勢いで好きな漫画を語る彼女に圧倒されながら、私はあったかい気持ちで一杯になる。

 

 

「それだったらアタシも語るけどさ! ヒロアカって女の子も可愛いじゃん? あのカエルちゃんだって、あんなにカエルしてるのに可愛いとかすごない?」

 

「解ります。お母さんズまで可愛い所で凄いんですよね!」

 

 

 

 好きな事の話になれば、お洒落の事も芸能人の事も解らないけれどアニメや漫画の話になれば、こんなにもスラスラと話が出来るのに。それは三神も同じようで、次々と言葉が出てくる。

 

 何時間だって、この子とだったらいくらでも話せる、そんな感覚を味わいながら、ホームルームで先生が来るまで一切会話が途切れることなく話が弾んだ。今まで出来なかった分、沢山話をした。

 

 周りのクラスメイト達がどんな顔で私達を見ているのか気にしない位に、沢山の話をした。

 

 

 

 

 

 私、水樹美紀は中学二年生で初めて、友達が出来た。私達は友達になった。

 

 三神美嘉。話をしていても相手と目を合わないシャイな、丁寧で、そして何よりアニメや漫画が大好きな女の子と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その日の夕方。

 

 放課後遅く帰宅した水樹家。

 

 家に帰って、仕事でまだ帰っていないお父さんやお母さんを待っている間、私はリビングで玲央兄ぃとゲームを楽しんでいた。

 

 玲央兄の膝の上に乗っかって、兄が私の頭に顎をのっけながらまったりと。

 

 

「……ていう子がいてさ。本当真面目で可愛いんだぁ」

 

 

 

 出会った友達の事を兄に報告する。もう喧嘩した事をすっかりと忘れてしまいながら。

 いつものように行う今日の報告、その報告はいつもは”誰か”の話ばかりで、”私”のいない世界だった。だけど、今日は私を含めた二人の事を沢山話した。玲央兄ぃは、ゆったりとゲームの手を休める事もなく、頷いて聞いてくれた。

 

 

「……そうだね。話で聞いただけでも真面目な子で、話をするのが大好きな美紀にぴったりな友達だと思うよ。あ、そこのドラム缶に回復用のアイテム入ってる」

 

 

「あ、アタシ取るよ危ないからライフ。……そうなんだよね。アタシの話、ずっと続けても最後まで聞いてくれてさ。すっごく落ち着くんだよ。もう知り合って間もないのにすっごい好きになっちゃった! 玲央兄ぃより!」

 

「それは切ない。娘を誰かにやるお父さんの気持ちを中3で味わうとか凄い経験だね。次のフロアに行くよ」

 

 

 話をしながらも共に興じるベルトスクロール系アクションゲーム。

 こういうゲームは仲良し育成にとても向いている。共に苦楽を共に出来るからこそのコミュニケーション・ツールだ。

 

 玲央兄ぃは腕の中で私がぺちゃくちゃ喋るのを聞きながらもゲームの動きは手慣れた物で、バシバシと敵を倒していった。

 

 

「三神っちって、アニメとか見るとグッズまで揃えたくなるタイプらしくって、家にメッチャポスターとか貼ってるらしいっすよ! 部屋に入ると近藤さんが出迎えてくれるとか、聞いててアタシもやろうかな?って思ったよね!」

 

「同じ部屋で寝泊まりしてる俺の事も忘れないでね。あんまり男だらけのポスターとか視線感じても居心地悪いし……。あ、今度は肉(アイテム)俺に頂戴」

 

 

「そのアンドレ(敵)倒してから取ろうよ。玲央兄ぃだって折本さんの写真貼ってるじゃん。視線感じてんじゃないっすか」

 

 

「折本さんの視線なら寧ろ可。寧ろ、見て。俺を見て」

 

 

「キモい。あと部屋にアイドルのポスターに、顔だけ自分の写真貼ってるのも地味にサイコパス。あれ凄く怖いっす。あ、そろそろボスだよ」

 

 

「理想の自分を毎日見る事で目標を明確にしてるんだよ。ここのボス強いんだよな」

 

 

 そしてボス戦になった途端に無言になる私達。

 

 強敵との闘いには、話している余裕なんて無いのだ。二人で黙々とボスの周りの手下達を処理していき、そしてボスを嵌めていく。

 

 

 ドゴ、ドゴ、ドゴ、ドゴ。

 

 

 リズミカルにボスを殴っていって反撃の余地を与えない。対人でやったら間違いなく回線切られるレベルのハメ技も、コンピューター相手なら容赦無く出来る。それもゲームの楽しい所だ。

 

 

 ドゴドゴドゴドゴ。

 

 

 ドゴーん! ボス「ぎゃああああああ」

 

 

 

 画面の中で悲鳴を上げてぶっ飛ばされるボスを見て私は大きくガッツポーズを取った。

 

 

「やったっ!! これでライフ全快で4面っすね! これなら全クリ出来るんじゃ無いっすか!」

 

 

 ずっと全クリできずにいたこのゲーム、買ってから半月の戦いにもそろそろ幕を下ろせる! そう思い上の兄の顔に目を向けると玲央兄ぃは私をよいしょっとどかしてきた。

 

 

「いや、今日はここまでかな。そろそろ母さん帰って来るから、晩御飯の支度しないと。来たらすぐ一緒作れるように」

 

「うぇええ!? なんで!? 今までに無い位に好調子でここまで来たのに、ここで中断とか絶対このノリ再開した時続いて無いよ!

 

 ……ていうか、玲央兄ぃが手伝うの?! 晩御飯!」

 

 

 これからって時にゲーム中断する兄も意味が解らなかったが、兄のその理由にもびっくりした。

 

 

「だって、俺朝忙しいし、昼は学校だから料理教わるのソコしか無いし。あ、今日の美紀の弁当に入ってた卵焼きも実は俺。美味しかった?」

 

「うえ~! 玲央兄ぃ本当に反抗期まっしぐらの中学3年生!? 何いい子やってんの!」

 

 

 制服着崩して髪立てて、如何にも不良みたいな格好しといて何その模範的息子っぷり! 逆にキモイ!

 

 

「まあ、料理とか出来たら俺もっと格好いいじゃん。俺、凄いじゃん。……美味しかった?」

 

「理由が玲央兄ぃっぽくて安心した! 洗濯も料理も自分で、とか、三樹夫よりもしっかりしてる……。女のアタシより女子力高い……」

 

「最近は男の方が料理っていう家庭も少なくないから大丈夫だよ。……美味しかった?」

 

「ああもうしつこい! 美味しかったっすよ卵焼き!!」

 

「フッ……、よかった……」

 

 

 本当自信家なのか自信ないのか解らない兄貴っすね。賛美を受けるまで安心出来ない所、超めんどい!

 私の言葉を聞くまで不安そうな顔がどんどん深刻になっていくのが面倒くさい!

 

 

「それじゃ、美紀はいい加減着替えておいで。制服のままだと皺になるから。後で俺、私服にアイロンかけるからついでにやったげる」

 

 

 そして玲央兄ぃはよいしょっとゆっくり立ち上がった。帰ってきてすぐゲームやってる玲央兄ぃの膝に直行して一緒に遊んでいた私を注意しながら。

 

 

「……明日も着る制服そのまんまとか、もしかして、アタシの女子力ヤバすぎ? 兄貴がそんなんだとみじめになるんすけど」

 

「じゃあ、夕飯一緒に作ろうか?」

 

「それは面倒くさい」

 

 

 私の言葉に玲央兄ぃはクックッと笑い、私の頭を撫でてきた。

 

 

「今日はその三神って子の話をしたくて着替えるの忘れただけだもんね。大丈夫、解ってるから。美紀は女子だよ」

 

 

 その撫でる手が凄く優しくて、なんだか数年前まで同じ小学校に通って、今は同じ中学校に通っていた兄とは思えないほど慈愛に満ちていて(自愛にも満ちてるけど)

 

 なんだか玲央兄ぃが一気に大人になってしまったように感じてしまった。

 

 

「……玲央兄ぃなんかあったすか? 最近、妙に大人っていうか、大人ぶっているというか。クラスの子に”香水臭い”って言われただけで一日ベットで泣いてた玲央兄ぃが」

 

「……」

 

「この間まで、ていうか今でもプリ○ュア見ながら”頑張れ……”とか呟いてた玲央兄ぃが」

 

「……」

 

「自分という存在は誰かに”観測”される事で”存在”出来る。だから俺は皆に”観て”貰いたい。だから”己”を示し続けるんだ。とか言って、派手なカッコしてカラコンにサングラスかけて夜を歩いて躓いていた玲央兄ぃが、なんか最近大人ぶってて超違和感あるんだけど」

 

「……うん。もう大人にならないとなって思ったんだ。今特に」

 

 

 大人びた(笑)玲央兄ぃは、涙目でそのまま台所に向かい、そしてエプロンを胸に巻き始める。子供がグズったような表情で。その顔を見て一安心。

 そう簡単に大人にならせてたまるか。玲央兄はクラスの奴等や三樹夫みたいに私を置いていかせたりなんてしないんだから。

 

 さて、兄貴が一緒にやらないなら、一人でベルトスクロールアクションでは不利だし、一人でやるロールプレイングにソフトを変更する。レベリングするには丁度いい残り時間だ。

 

「美紀」

 

 私も少しは料理覚えた方がいいのかな? なんて思っている私に兄貴は声をかけてくる。

 自分の心を読んだ兄にまた夕食作りを誘われるのかと警戒すると、玲央は間をあけた。

 

 

「……なんすか? セーブはしたっすけど」

 

 

「……良かったね。好きな事を一緒に楽しめる友達が出来て」

 

 小言でもなくお手伝いの指示でもなく、今日の私の話に対する賛美。

 その言葉に私はゲーム画面から目を離し、そして優しい顔の兄に向って微笑んだ。

 

 

 

「うん!」

 

 

 玲央兄ぃは「今度ウチに連れておいで」と言い残し料理を開始する。

 

 私はその心地よい包丁でまな板を叩く音を聞きながら、大好きなゲームを再開した。

 

 

 

 

 やっぱり大人ぶり始めたって、玲央兄ぃは優しいままで、調子こいてる三樹夫やクラスの連中と違ってオタクの私を否定しない。オタクの友達が出来た事を祝福してくれる。

 

 これからも家では何時もの私を出していって、学校でも友達の前で本当の私を出していける。私の世界は、どんどん広がっていった。

 

 今が私にとってベストな時間で、幸せな学生生活と呼べる物になっていった。

 

 

 

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 皆から見て何一つ変わらない学校、クラス。

 でも私にとっては全てが変わった学校生活の一つ、誰かとごはんを食べる。

 

 

 基本私は教室で一人で黙々もくもくと食べながら絵を描いていたのだけど、今日は初めてご飯を食べようと人を誘った。三神はいつもどこでご飯を食べているのだろうか? まあいいや。誰かとごはんを食べるのなんて本当久しぶりで、なんだかそれだけで楽しい。

 

 最近二人揃ってクラスでご飯を食べていると、周りの男子に”オタク”と遠巻きにバカにされるからもっぱら図書室で食事をとっている。

 

 

 私はお母さん(か玲央兄ぃ)が作ったお弁当をひろげ、甘い香ばしい香りが広がっていった。甘い卵焼き、チーズ入りハンバーグ。アスパラ付きサラダ。ッツ!(舌打ち)

 

 三神は女の子が良く使っているちっさいかわいいお弁当を取り出して手を合わせた。食事前にそういう風に食べる人幼稚園ぶりに見た。

 ていうかね? 私も女子なんだけど言うけどさ。それ足りる? ダイエットしてる訳でも無いらしいけど皆良くそれでおなか持つよな~って燃費の良さに感心してしまう。

 

 こうしてみれば、こういう所も三神は女の子しているなぁ、と女の子が思ってみた。

 

 が、そんな思いとはかけ離れた。彼女が開けるお弁当を覗き込むと、”あら可愛らしい”的なお弁当の外面とかけ離れた”あら男らしい”中身、白飯に梅干しのみであった。

 

 ま、まあ他人の食事事情に突っ込むほど話題に困ってないしノーコメント。

 そのお弁当見て「わあ、今日は梅干し入ってる……」と頬を染めてはにかむ彼女の顔が可愛らしかったとだけ思っておこう。

 

 

「いや~、でも真面目な文学少女だと思ってた三神ちゃんが、まさか表紙下に漫画を仕込んで読むような不真面目オタク女子とは思わなかった~」

 

 

 話題の切っ掛けは、私達の出会いの時の話。

 あの日まで三神が見ていた本はてっきり小難しい本だとばかり思っていたから本当に意外だった。放課後残って夕焼けを背に文字を追う彼女の事をクラスの誰もが”古風な文学少女”なのだと思っていたのだから。

 

 

「い、いつもでは無いんですが、あの時は新刊発売で家まで我慢出来なくて……、あの時は特別です……。没収なんてされたら大変ですし、こっそり……」

 

 

 それな。

 

 明かされる理由に思わず全面共感。

 私も家まで我慢したく無かったけど、前に鬼お局教師に漫画取られて以来トラウマで学校に漫画とかは持ち込まなくなった。それで自家発電の絵の練習に時間を当てるようになった訳だけど。

 

「いけない事だと思いながらも校則違反をしてしまいましたが、やって良かったです……。水樹さんと、こうしてお話が出来るようになれたので……」

 

 そういって箸を銜えてはにかむ彼女につい顔が熱くなる。

 

 ちょっと、正面から好意を伝えられると歯がゆいじゃないっすか。照れを隠すべく顔を背けながらおどけて応える。

 

 

「同族がこんなに近くにいると、私も思わなかった!もっと早く声かけてくれれば良かったのにもぉ~!」

 

「い、いえ水樹さんが同じ趣味をしている事は知らなかったので……。それに、誰かに話しかけるなんてとても、勇気が……」

 

 

 まあ、私も話す相手がいない上に没収がトラウマで学校にオタグッツ持ち込まなくなってたしね。

 それに同じオタでも方向性が違かったら相容れない事だってありえる。さらに三神はあまり社交的な方じゃないしね。

 

 だからもういいんだ。そんな中勇気を出して話しかけてくれた事が何より嬉しいし。

 

 

「本当、誰ともアニメの話出来なくて寂しかったもん! 小学校からの友達はみんな卒業して置いてかれてさ~。正直不安もあったっていうか?」

 

 

 暗に私に、その話を俺にふるんじゃ無いと目で訴えられるのが常で、私はもう誰かと感動を共有する事をあきらめていたしね。

 

 そんな自分の悲しさを感じ取ったのか三神ちゃんは、いつものように目を合わせないままに私の言葉を否定した。

 

 

「……皆さんには置いていかれたのでは無くて、歩く道が違うというだけです。決してアニメを見る事が遅れている訳でも幼い訳でも無いです。私達は、周りの人たちに劣ってなんていません」

 

 

 珍しく言い切ったその言葉は迷いなく、ハキハキとごもる事の無いハッキリとした態度で伝えられた。。

 ”劣り”では無く”違い”。周囲の反応なんか本当に気にしないで好きな物を貫くその姿勢に私は一瞬驚き、そして心がスッと軽くなったように感じた。

 

 

「そういう考え方か~! カッコいい事言うね三神ちゃんは!」

 

 でも、その言葉に対する私の思いを現す言葉が出てこなくて、私は彼女にじゃれつく事で応じる。

 たまに向けられる彼女の真っすぐな言葉に、私は感動して嬉しくなるのに、その言葉を受け止めて返す事が出来ないのは照れくさいからだろうか?

 

 

「てかさ、三神っち、敬語止めてよ~! 折角友達になれたのに、寂しいよ~」

 

 

 猫撫で声を出しながら手に縋りついて甘える。こうやってじゃれ付ける相手が玲央兄ぃ以外に出来た事が本当に嬉しいと思えた。

 

 

「あ、いえ敬語の方が私は気楽で……。私のように、人に踏み込む事を苦手とした人間にも話しかける勇気をくれる魔法の言葉というか……」

 

「やだ。タメ語がいい」

 

 

 そう言われて困ったような顔をする三神を愛おしく思いながら食事を共にとった。

 

 彼女は白飯を口に運び、私は卵焼きを口に運ぶ。……ベーコン入ってた。玲央兄ぃだなコレ。

 

 

「……ところで水樹さんは絵を描かれるんですね。ピク○ブとかに投稿とかされるのですか?」

 

「たまにっすね。基本はノートに落書き程度だけど、最近ペンタブ買ったから投稿とかしてるよ。ドット絵とかも好きなんだぁ」

 

「なるほど。な、なんて名前で投稿しているのですか? 良かったらゆっくり見てみたいです」

 

「知り合いにみられるとか気まずいから、や。自分の妄想垂れ流すとか黒歴史同然じゃん」

 

 

 正直あまり評価されてる方でも無いし、見られて気を使わせるのも申し訳ない。

 実は一回コミケに参加しようとした事もあるんだけれどサークルという仲間を持たない私に一人で売り子とかメンタルにきそうだったので、もっぱら買い手として参加している。

 

 三神ちゃんも毎年参加してるとか。今度は一緒に回る相手が出来そうだ。

 

 

「水樹さんの絵は、私好きですよ。女性が描くには男らしいというか、少年漫画向きの絵をしていますねよね」

 

「子供のころから見てたのが兄貴の買ってきた少年雑誌だったっすからね。模写する物がソレだから絵も引っ張られてって感じっすかね。今はゼロからあたりつけて描くようになったっすけど、オリジナリティはまだ出せてないかな~」

 

 

 正直練習の為トレスから始めたものの、未だにその元絵に影響されて男キャラとか髪の毛外した元ネタの劣化コピーにしかなっていない。まあ、趣味だから別にいいけど。

 

 

 そういえば三神ちゃんは放課後一人で、何やらノートに書き綴っている事がある。

 

 こうして仲良くなる前は”何か書いてる”位にしか思わなかったけど、今思えばかなりの時間ペンを走らせていた。という事は彼女も何か創作をしているのだろうか?

 

 考えてみれば彼女は鞄を絶対にほっぽいたりしない。いつも目に届く所に置いているか胸に抱えている。

 

 ならば、どうやら私の予測に間違いは無い。創作活動まで趣味が一致しているなら喜ばしい事だし、是非見せてもらいたい。そうなったら私の絵も見せられるし!

 

 恥ずかしいから一方的にみられるのは嫌だけど、本音を言えば誰かに見て、反応をしてもらいたいというのは創作活動を趣味にしている人だったら共通している事じゃないだろうか?

 

 少なくとも私はそうだ。

 

 

 

 だから私は、放課後になって、一人で図書室でノートにペンを走らせている彼女をこっそりと覗き込んだ。

 

 その紙面に広がっていたのは絵ではなく、文字の世界。

 

 情景を描かず見た人の脳内に広げる文章の創作者だった。

 

 

 

 

 私はその彼女の作り出す世界に、この一回だけで取り込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







続く

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