俺ガイルSS 二次元に燃える男と二次元に魅了された彼女の恋の物語   作:紅のとんかつ

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お久しぶりです!
読んで下さっていた方々大変遅くなりすみませんでした。
少しリアルがあれでして・・・

でも、またお付き合い頂けたら幸いです!



そして久々ですが番外編です。
オリキャラ二人のうち、今回は水樹の番外を挟ませて頂きました!

本当なら本編中にチラチラと描ければ一番なんですが、自分の表現力と相談した所、回想とか長々とやるよりは別々にした方がテンポがよく出来そうだったのでこのような形を取らせて頂きました!

材木座君の活躍を待たれている方は申し訳ありません!


また頑張っていきますので、よろしければまたお付き合い下さい(*´ω`*)











番外編 水樹美樹 私が隠れになった訳
番外1 その忌々しい過去を懺悔せよ


 

 

 

 

 

 新月で月の無い深夜、部屋の電気も全て消えた一軒家のリビングから、チカチカとカーテンの隙間からテレビの明かりが漏れでている。

 

 その暗がりの部屋の中でテレビにイヤホンを差し、テレビの画面しか見えない距離でペタンと座り込みながら目をキラキラと輝かせてアニメの世界に夢中になっているのは一人の女の子。毎晩のように深夜のアニメをテレビ欄を入念に調べては視聴している女の子。

 

 

 水樹美紀、現在中学2年生。

 これは総武高校に入学する前、まだ背伸びした化粧や派手な髪色にする前の話。

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 明朝。

 

 夜が明け、光の世界に変わったばかりのまだまだ肌寒い春の朝。

 

 静かだった夜とはうってかわり、騒がしい位の大きな声がその家に響き渡った。

 

 

「美紀ちゃん!!! いい加減起きなさい、学校、遅刻するわよ!」

 

 

 無理矢理夢の世界から引きずり出され、最悪の気分だった。

 一階から響き渡るママの怒鳴り声に布団を被り、その騒音から逃げようと試みる。

 働かない頭を動かしてベットの台上で充電している携帯で時間を確認。まだ時間は7時35分。

 

 なんすか、まだまだ余裕じゃないっすか。

 せっかちな母の怒号に少しイラッとしながら二度寝の体制に移行する。

 

 近場だから55分に出れば間に合うんすよ、うちの学校は。だから、まだ5分は寝れる。

 

 

 なんと私が学校に行くのに身支度にかける手間は顔を洗い歯を磨いて着替えるだけ。そんな事に10分以上はかからない。

 

 年頃の女の子にらしからぬ準備の少なさかも知れないけど、別に恋人がいる訳でも無ければ男友達がいる訳でも無い私にはこれ位で十分。

 世の中のリア充達は朝からメイクやらご苦労様っす。私はモテる事より五分の睡眠。私に冷たい男子より温かいお布団を取る。

 

 私は再び愛しのお布団に体を委ねる。冬のお布団の包容力は異常だ。

 もう擬人化したら、

 

「もう君を離さない……」

 

 みたいな高身長タイプイケメンに違いないっすね。

 夕方まで一人にしてしまうと最初は拗ねて少し冷たくなっちゃうけど、ちょっと胸の中に飛び込んだらすぐに温かくなっちゃう可愛い奴。

 

 やだぁ、そんな風に思ったらさらにお布団が愛しくなっちゃったじゃないっすか。私を包み来ぬ布団を抱き返す事で応える。なんという相思相愛。

 

 

 

 

 

 

 

 ……トントントントンッ。

 

 

 

 

 

 

 イラッ。

 

 そんな私の愛の営みを邪魔する為に、お母さんが強行手段に出たようだ。階段を登ってくる音が聞こえてきる。とうとう直接実力行使に出たらしい。

 このまま布団に潜っていたら散々怒鳴られた上布団を剥がされる。他人にそんな事される位なら自分で出た方が遥かにマシだろう。大きなため息とともに、私はベットから顔を出す。

 

 そして私はせめて一矢報いる為に敵にお馴染みの一言を放った。

 

 

「今起きる所だってばっ!」

 

 

 さらば愛しの君!

 母に引き裂かれようとも必ず君の元に戻るからっ!

 また夜になったら愛し合おうね!

 

 温かな布団から出て、自分の慣れ親しんだ部屋にもかかわらず空気が寒々しく、その春先の冷気に辟易しながら私は一日をスタートする。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 朝の水樹家のリビング。

 

 リビングに降りるとヒーターで温まった空気に満たされていた。その暖気を少しでも逃がさないようにさっさと扉を閉めた。テーブルの上には朝食が既に並べられ、母が台所で他の家族が使ったであろう食器を洗ってくれている。起きてきた私を確認すると、ママは時計を見ながらがなりたてた。

 

「やっと起きた! ほら時間無いんだからさっさとご飯食べてしまいなさい!」

 

 

 解ってるっすよ、解ってます。

 

 そこにはベーコンエッグにキャベツの千切り。きのこと海藻の具沢山の味噌汁が並べられていた。

 普通ならとても食欲を掻き立てるメニューだろけどさ、でも朝って私食欲湧かないんだよね。正直ヨーグルトとかで済ませてさっさと行きたい。でも折角作ってくれた物を食べずに残して行くのも悪いし。

 

 絶賛反抗期の私でも、流石に作って貰った朝食をボイコットするほどひねくれてはいない。

 精々、大嫌いなアスパラガスをここぞと避けてやる位のささやかなリベリオンしか出来ないです。

 絶対に食べたく無いでござるっ!

 絶対に食べたく無いでござるっ!

 

 

 アスパラをすべて排除した事を確認し、味噌汁から口に運ぶ。うん、温かい。

 

「全く、毎朝毎朝怒鳴らせて、たまには自分一人で起きなさい! 起きられないなら深夜テレビ見るの禁止にするわよ!」

 

 

 味噌汁を味わう間もなく母親の小言。

 折角美味しく作ってくれたのに、そんな味が落ちるような事しなくてもいいじゃん。

 

 第一、深夜アニメを取り上げられたら私には何を希望に生きればいいんすか。それだけは絶対に無理。

 

 後ゲームと漫画を取り上げられるのも絶対に無理。生きる気力を失ってしまう。

 

 

 私が起きられないのも、アニメを深夜にやるのが悪い。

 なんで面白いアニメは深夜にしかやらないんだろう。寧ろ昼とかにやれば、もっともっとアニメとか好きな人が増えて、アニメ見る人が普通な世の中になるのに。

 

 アニメの放送時間の革命についてもくもくと考えていると部屋の扉が開かれ、冷たい空気とともに二人の兄貴が部屋に入ってきた。

 

「う~、廊下さみい~! もう世間じゃ春なのにまだ超さみい!」

 

「暦では春でも気温は全然冬だよね。制服の下、まだ長袖の方がいいんじゃない?」

 

 

 私には兄貴が二人いる。

 朝からテンションの高い鬱陶しい馬鹿兄が長男の三樹夫。高校2年生。

 ツンツンと頭を尖らせ、茶色い高校のブレザーの下には赤いシャツ。所轄高校のヤンキースタイル。高校でデビューしましたって感じの垢ぬけてない感じ。

 

 部屋に入るや否や置き鏡を手にさっさとリビングのソファーに座り、鏡を見ながら髪を弄り続けているのが次男の玲緒。中学三年生。

 同じ中学の黒学ランを大胆に前を空け、胸元をさらけ出しズボンポケットにはチェーンをぶら下げている(実はサイフの脱落防止)。

 髪は黒のウルフカット。ヘアトニックか何かで形を整えている。所謂粋がりだしたチャラ男スタイル。こっちは小学校の頃から”女子か!”って言いたくなる位お洒落に気を使っているからそれなりに様になっている。

 

 二人とも制服を着ていつでも出れるといった格好だ。私が起きる数時間前には起きていたのだろう。既にテンションが高い。

 

 

「よう美紀、まだ深夜にこそこそアニメ見て寝坊か? 花の女子学生なのに勿体ねぇぞ?」

 

 入ってくるや否や、母とのやり取りが部屋の外にまで聞こえたのか大嫌いな上の兄貴に鼻で笑われる。

 ほっといてくれればいいのにわざわざこちらに近づいてちょっかいを出してきた。

 

 

「寝不足は美容に良くねぇぞ? ほら、くまが出来てっし。学校行くのにそれは無くね?」

 

 

 そういってご飯を頬張る頬をつついてきた。

 うっさい顔触るな鬱陶しい。

 

 それだけでも十分鬱陶しいのに、三樹夫兄ぃは携帯を取り出してヘラヘラと彼女の写メを見せびらかしてきた。

 

「そんな事よりもっとやる事あるだろ? 彼氏作るとかさ~。恋人いるっていいぞ~? マジ満たされっぞ~?」

 

 

「うぜっ」

 

 

 

 この兄貴は最近彼女が出来てからずっとこんな感じで非常に鬱陶しくてしょうがない。

 中学生の時は野球馬鹿で丸坊主だったクセしてさ。高校でいきなり調子こきだした癖に偉そうに。

 ゲームやってれば取り合いになるし、取り合いになれば力で勝てないし、勝手に私のPSP持っていって彼女と遊んでるし!

 

 軽くてウザくて、兄貴の言う通り恋人が良い物だとしても、兄貴みたいな奴には絶対恋しない。断言出来るっすね。

 

 

 私が恋するとしたら、爽やかでかっこ良くて優しくて、絶対に私をバカにしなくて、どんな私も受け入れてくれる素敵な殿方だろうな~♪

 

 そんな事をしているうちに、お母さんが手を叩き出した。マジ朝からうるさいなぁ。

 

 

「ほらもう時間だよ、早く出なさい! 美紀もいつまで食べてるの! 食器はお母さんが洗っておくから早く着替えなさい!」

 

 

 もう、私たちよりお母さんの方が焦っている。

 そんな焦んなくたって時間はまだあ……らあんまりないじゃないですかーやだー!!

 

 ドタバタと着替えを始めた。

 なんで時間ってこう、たつのが早いのさっ!

 社会とかの授業中とかはめっちゃ遅いくせに! 絶対時空の歪みがあるよね!

 

 という事は……社会科教師の村上は能力者?

 確かにあいつの話聞くと時が遅くなる! つまんないから!

 

 

 なんて馬鹿な事考えてる場合じゃない。

 

 ハンガーにかけてある制服を掴み、さっさとパジャマを脱ぎ捨てる。顕わになるJCの下着姿に三樹夫が鼻で笑いやがる。

 

 

「うわ、色気無い下着」

 

 

「う、うううるさい見るな変態兄貴」

 

 

 三樹夫の一言に顔が熱くなる。

 脱いだパジャマを投げつけて、さっさと制服を着る。

 誰かに見せる物じゃないからいいんすよ!

 

 見せる相手も見たがる奴もいないしね。

 HAHAHA……。

 

 

 上から被るように上着を着てスカートを履く。スパッツ履いて防寒して、赤のコートを乱暴に掴み洗面所に走る。顔を洗い歯を磨き、そして鏡を見た。

 

 地味が制服を来て、黒の髪型を後ろにまとめて眼鏡をかける何処にでもいそうな量産型女子がそこにいる。

 そんな己の姿にただ呆れたように息がこぼれ出る。自分でも解るんだよね。自分が地味だって事。悪いルックスじゃないと思うけど、ただ地味なんだ。

 

 まあ、別に私は気にしてないけどね。

 

 そりゃ私だって自分が可愛い方が良いけど、別に目立ちたい訳じゃないしそれでいい。

 クラスでだって輪に入れなくなってたって良い。だって皆は中学生になってからいきなりアニメの話とかしなくなっちゃったんだもん。

 寧ろ皆そういう話を振ると凄い嫌がるんだもんな。なんだよ、皆して大人ぶってさ。

 

 洗面所から飛び出ると、玲緒兄ぃが玄関で鞄を持って、待ってくれていた。私の靴も出してくれていて、私が靴を履くのを待ってから鞄を手渡してくる。

 

 

 こっちの兄貴の事は三樹夫と違いこっちの兄は私の趣味にとやかく言わないし、さりげなく優しいから好きだ。話も合うし、年も近いし年齢の割に落ち着いているから話しやすいし。

 コミュ力低くてなよなよしてて、自分のルックスに全てをかけているような女々しい兄だけど、優しいのだけは間違いない。

 

 

「いってきます!」

 

 玲緒兄ぃから鞄を受け取り元気に扉の前で出陣の挨拶をする。するとまた三樹夫が出掛けに余計な事を言ってきた。

 

「彼氏とまでは言わねーけど、マジで頑張って友達は作れよ? お前只でさえオタクで根暗なんだから、学校なんて出会いの場逃したら将来ヤバイかんな! 孤独だぞ孤独!」

 

「マジうっさい!!」

 

 

 三樹夫兄ぃに苛立ち、扉をバンッと閉め、先に歩く玲緒兄ぃに追い付く為に走り出す。

 

 

 友達なんてのは数いれば良い訳じゃないじゃん! 

 最高の友達が片手で数える位いればそれで良いんだよ。だから私は慎重に選んでるだけなんだ。貴重な物ほど価値が高いんだよ!

 友達も同じで沢山の友人に分担して時間や気を遣うより、少ない大事な友人にこそつぎ込んだ方が絶対大切な絆になるんだ。

 だから三樹夫には薄っぺらい綺麗事しか言わないような友達しかいないんだよ!

 

 私は違う、趣味も話も心も合う本物の友達を作るんだ。

 

 いつ出会うかも解らない友達を探して、私は学校へ歩み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 いつもの通学路、私はいつも玲緒兄ぃと一緒に学校に行く。周囲の建物の隙間をぬうように冷たい冷気が私たちに吹きすさんだ。

 

 空は太陽が明るく光を放って照らしていて視覚情報だけでは温かそうなのに、体感情報は冬そのものだ。

 

 本当温暖化してるのかな地球と冬とかは毎年同じ疑問を持つ。夏は逆に問題視するけどね!

 

 周りには友達、または恋人と学校に向かう学生や、仕事に向かうであろうスーツの大人達が歩いていた。皆それぞれ自分ひとりだったり外で作った人間関係だったり、それぞれのコミュニティで今日過ごす場所に向かっている。

 

 私は家族である兄と一緒に通学中。その兄はクールな感じに澄ました顔で歩いていた

 

 

 ……実は私はこの兄と一緒に通うのが地味に恥ずかしかったりする。

 いや三樹夫と違って玲緒兄ぃは好きだけどね?

 

 でも私は今思春期っすよ?

 近所のおばさんから「兄妹仲良いね!」みたいに言われるんすよ? 厳しいっすわ~。

 

 

 小学校から中学になった時、私は新しい環境が怖くて、まだ道も解らなくて怖がった私の為に玲緒兄ぃは当時一緒に通っていた友人と離れ、私と通ってくれるようになったのだ。

 

 あの時はめっちゃ頼もしかったけどさ、もう、なんてか、あの時とはもう違うんだよ。

 もう思春期なんですよ私。

 

 だから気まずい気まずい。

 

 

 ……でも二人で歩いているのに無言で歩いていくのはもっとむず痒いし。気まずさ対策に仕方無く話題を振るかな。

 

 兄を見上げる。

 

 ツンツンのウルフカット、暗い青のマフラーに黒のコートを着てあるく兄。

 そこで朝に一生懸命セットしていた髪型が目に入った。

 

 

「玲緒兄ぃ、そういや髪型また変えたんだ」

 

 

 昨日迄はマルフォイみたいなオールバック風な髪型だったのに、今日はエアジャムで髪を立てている。

 

 

 

「……うん。変えた」

 

 

 冷めた感じに返事を返す兄。

 うっすらと微笑みを浮かべ、此方に向く顔だちは我が兄ながら本当格好いい。三樹夫とは大違いだ。”写真だけ見せるなら”これ兄ちゃんなんだ!と友人に自慢したくなる位にはいけてる。

 

 玲緒兄ぃが頭をかき揚げ、こちらを見た。

 

 

 

「……格好良いでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ンフッ。

 

 

 

 

 

 ……カッコいいのは黙っていればだけど。

 自分で言って恥ずかしがらないでくんないすか? 自分で吹き出してるし。

 こっちがいたたまれなくなるじゃないすか。

 

 玲緒は兄妹の中で一番根暗で繊細で、ナイーブな癖にナルシストなのだ。

 

 

 

 

 ちなみに見た目が良いのはそれに対する力のいれ具合が半端無いからなんだろう。

 朝起きたらランニングがてら新聞配達、そしてその稼いだお金の半分で美容院やらエステやら温泉やら、中学生の癖して月1で行く。中学生のくせに。

 

 勿論服にも金をかけ、

 たまに何着も服を買ってきては鏡の前で一人ファッション・ショーをしてる。

 そして成長期なのですぐに着れなくなって泣く泣く売りにいくのだ。

 皆さん、これが死金(しにがね)です。

 

 朝早くから身を整え、夜は肌やらケアするのに大忙し。そして夜8時にはぐっすり。顔には主婦御用達の白いお面までして。

 

 

 

 ”自分の評価を決めるのは周りの人間だ”

 

 

 玲緒兄ぃはそれを持論にひたすら周りからの評価を気にして身を磨く。

 

 なんていうか、人から良く思われる為にこんなに必死にならないといけないと思うと、私は嫌だな。この兄を見て育って来たから、ついそう思っちゃう。

 人に好かれるなら自分を高める努力が必要なのは解るけど、

 しかし、外面をどんなに良くしたって、その人の内面まで好きになってくれるとは限らないじゃんか。

 

 現に、玲緒兄ぃはこれだけ見目を取り繕っているにも関わらず彼女どころか女友達すらいないし。マジ無駄な努力。

 

 まあ、格好つけて女の子に声をかけられない思春期男子だから仕方ない所もあるけどさ。

 

 

 

 玲緒兄ぃは私が返事しない事が気になったのか、チラチラと髪型を触りながらもう一度口を開く。

 

 

「……この髪型、格好いい?」

 

 

「……」イラッ

 

 

「……ていうか、俺、格好いい?」

 

 

「しつこい!」

 

 

 そんなに心配なら、そういう雑誌でも読んで真似すりゃいいじゃん!

 

 しかしこの兄はそうしないのだ!

 

 

 

 雑誌の真似をしてるのがいかにも初心者丸出しで格好悪い。

 雑誌とか買ってる姿を誰にも見られたくない。

 オリジナリティを求めていきたい。

 

 

 

 まるで料理に失敗するメシマズ嫁みたいな意見を並び立てて意地でも雑誌とかは使わない。

 

 なら不安がるな!!!

 

 

 

 それからお洒落ポイントについてだらだらと話を続ける兄の言葉を聞き流しながら中学へと歩みを進める。

 そしてこんな兄には好きな女子、そして好きになって欲しい女子がいる。

 

 

 

 

 

 

「お? 水樹じゃん! おはよー!」

 

 

 二人で歩いていると、後ろから大きな声をかけられた。その兄が好きな女子から。

 

 その声にビクッと反応する兄は、しどろもどろに振り向き、手を挙げてひきつった笑みを浮かべた。

 

 

「おっふ……、折本、さん……!」

 

 

 おっふ、兄がキモいっす。

 そんな兄に爽やかな笑顔を向ける声の主。

 

「おっす! 今日も寒いね~♪」

 

 

 後ろから声をかけてくれて、

 ”おっふ”を”おっす”と爽やかに返しでくれた折本かおり先輩だった。

 兄のクラスメイトであり、学園で五本の指に入るであろう学園のアイドルでトップカースト。

 

 社交的で明るく、人との間合いを容赦無く踏み越えていくそのコミュニケーションで兄を含めて色々な思春期男子の心を鷲掴み。

 この誰にでも踏み込んでいくスキンシップに惑わされた男子は多い。

 

 

 折本先輩の登場に、さっきまでのクールな兄はいずこえと。凄まじくキョドりながら汗を流し始めた。

 

 

 折本先輩は兄のキモい言葉にも”ウケる。”と笑ってくれるものだから、もう兄はメロメロ。

 

 

 

「あれ? 髪型変えた~? 良いじゃん!似合うよ~♪」

 

「え? あ、いや、寝てたらたまたま? みたいな? マジ、勝手になったってか、マジ……」

 

 

 

 いやなにそれ寝癖?

 髪型とか気にしてるとか思われたく無いのかも知れないけど、そっちの方が大問題だよ!

 

 

「なにそれっ! ウケる!」

 

 

 

 そんなドン引きトークにすら笑顔で返してくれるこの器の広さ!

 折本先輩は本当にコミュ力高いなぁ!

 正直、とてもかっこいい。

 

 そんなかんだで挨拶を済ませ、次のクラスメイトを見付けた折本先輩はまたね! と手を振り兄から離れた。学園のトップカーストは朝から挨拶する人が多くて忙しいのです。

 

 

 別の友達の所に混ざる折本さんに、いつまでも手を振る兄。そのニヤケ顔止めて欲しいんだけど。

 

 

「……折本先輩、可愛いっすね」

 

 

「うん。マジ天使。マイエンジェル」

 

 

 すっかり骨抜きにされた兄が戻るまで、10分はかかった。

 

 

 

 

 

 さて、歩き歩きでついに校門、そろそろ兄と離れて歩くかな。

 

 

 ふぁ……。

 

 思わずアクビが出る。

 いや~、昨日のアニメは衝撃だったな~。

 まさかあのベテラン魔法少女がモグモグされちゃうなんて……。

 なんでニチアサにやらないんだこのアニメと思って見てたら、納得の展開だったわ。

 ありゃニチアサにやれないわ。

 

 

 

 

 

 そんな風に昨日の衝撃を思い出していると、まだ分離していない兄に気がついた。

 いつもは学校についたら何も言わずに散解するのに、どうしたんだろ?

 

 兄は何か言いたそうに私を見ている。

 困ったように頭をかきながら、首を傾げた。

 

 

「どうしたっすか?玲緒兄ぃ」

 

 

 中々切り出さない兄にこちらから聞いてあげた。すると、兄は意を決したように喋り始めた。

 

 

「……あのさ、深夜アニメの事だけど」

 

 

 その言葉に眉が寄る。

 

「なんすか、玲緒兄ぃまでアニメ見るなって言うつもりっすか? 三樹夫みたいな事言わないで欲しいんすけど」

 

 

 学校では話せる相手がいないのだから、家で位好きにさせて欲しい。

 遅刻だってしてないし、成績だって悪く無いし。

 

 

 

「いや、まあ深夜アニメ見て寝不足で肌が荒れようと、クラスメイトと交流する時間を寝て過ごす事になろうと、美紀の責任だし美紀の自由だと思う。でもさ、毎朝母さんに起こさせて食器片付けて貰うとか、面倒かけるのは、違うんじゃない? 中学生になったんだし……」

 

 

 

 玲緒兄ぃからまさかの説教だった。

 この兄が私に説教する事なんて、今までずっと無かったのに。

 顔が一気に熱くなる。

 

 

「まあ、去年まで小学校だった美紀にはまだ早いかも知れないけど、三樹夫兄ぃだって美紀に幸せになって欲しいから言ってるんだし、母さんもそうだしさ。趣味の事言われるの美紀は嫌いなのは知ってるけど、少しは二人に耳、傾けてやったら?」

 

 

「……っ!」

 

 

 思わず早足で玲緒兄ぃから離れる。

 なんか、なんか頭が沸騰しそうな位恥ずかしい。

 

 玲緒兄ぃから早く離れたくて、スピードがどんどん上がる。そんな私に後ろから声をかけられた。

 

 

「あ、美紀!」

 

 

 

 ……玲緒兄ぃの呼び掛けに足を止める。

 少し、沈黙が入った。

 

 

 

「……俺の髪のセット、後ろから見たらおかしくない?」

 

 

 

「知るかぁ!!!」イラッ

 

 

 私は兄にツッコみ、そして走り出した。

 

 

 いつも何も言わないでいてくれたのに、なんだよ!いつも玲緒兄ぃだけは絶対に美紀の味方だと思ってたのに……。

 

 

 玲緒兄ぃの言葉の正しさは解るのに、なんか素直になれない自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 教室に入る。

 

 中では後ろのスペースでプロレスみたいな事してる男子。

 今風の雑誌広げて集まる女子達等皆思い思いに過ごしていた。

 

 私はクラスの左一番後ろに座る。

 名前順のお陰で良い位置が取れている。

 

 鞄を置いて、よいしょと座り込んだ。

 

 

 はぁ、朝から気分が悪いや。

 しょうがないじゃん思春期真っ只中の絶賛反抗期の私はそりゃ我が儘にもなりますよ!

 ていうかね?子供のうちに我が儘言わなきゃ大人になってから我が儘言うようになるんだよ!たぶん!

 

 

 第一、玲緒兄ぃだって反抗期真っ只中じゃんか!

 親に反抗して、養われるのが恥ずいとか言って新聞配達の稼ぎの半分を生活費として突き返したり、親にやって貰うとか恥ずいとか言って自分の服だけ別で洗ったりとかさ!

 思春期真っ只中じゃん!

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 い、いやいやいや!!

 絶対親からしたら可愛くないね、あんな兄貴!

 寧ろ手のかかる子の方が可愛いんだもんね! 親に素直に甘える事だって、子供の義務なんだもん!

 

 

 寧ろ三樹夫なんて高校生のくせに、帰ったら服は投げ散らかして、自分の部屋の掃除すら親にやらせてエロ本見付かって、昨日もお小遣い足りなくてママにせびってたもんね!あれが子供のあるべき……

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 よぉし、明日から着替えたらちゃんとハンガーにかけよう!!掃除もしよう!

 

 このままじゃ三樹夫になる!!!

 

 

 

 

 もぉおおお!!!

 朝からマジ気分最悪だよぉおお!!!

 

 玲緒兄ぃの馬鹿ぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな時は二次元に逃げるに限る。

 

 私は鞄からノートを出して、サラサラと絵を描き始めた。

 

 二次元は良い。

 辛い現実を忘れさせてくれる。

 

 

 このノートの向こう側から土方さんが私をぶっきらぼうに慰めてくれる。

 絵を描く事を覚えたお陰で、私はいつでも好きなキャラに好きな台詞で励まして貰える。

 

 うひぃ!

 土方さんが私にはにかんでるぅ!!

 皆さん、これが自家発電っす!!

 

 私はとある理由で漫画やアニメのキャラを絵に描いたりして、ピクシ○に投稿したりするのが趣味だ。そこで感想を貰ったりして一喜一憂している。ネーミングセンスがゴミとかオチが糞とか言われるけどね。

 

 

 描くようになったのは、昔大好きだったキャラが亡くなった事が理由。

 小学校の私は、学校に持ち込んだジャン○で大好きなキャラが殺された時、教室でめちゃくちゃ泣いたのだ。ワンピースのエ○ス君。

 

 ”赤犬にお兄ちゃんが殺されたぁあ!”

 と泣きわめいた時は、そりゃあもう小学校中騒ぎになった。

 

 玲緒くんが死んだ!!

 狂犬病の恐れのある犬が学校に入り込んだ!

 

 と、本当に大きな騒ぎになってしまった。黒歴史確定だよね。

 因みに、その時レオ兄は皆に”おばけ”扱いされて”ゴーストバスターズ”なるいじめっ子にバスターされたりしたのだが、まあ割愛。

 

 私もクラスの人気者の佐伯君が上手く纏めてくれなければ危なかったな♪

 

 

 話を戻すと、私はそれ位ワン○ースのエー○が死んだのがショックだった。

 もう漫画には出ない○ース、私はジャンプを開くのが辛かった。

 

 そんな時私を救ったのが、三樹夫兄ぃに見せて貰った薄い本だ。

 

 

 そこにはエースが赤犬に打ち勝ち、見事に脱出したifルートの物語が描かれていて、

 キエアアアア!!イキカエッタァアア!!

 と半狂乱になり喜んだ。

 

 その時の偉大な薄い本の作者の言葉が

 

 ”キャラの不幸は、私が幸せにするのだ”

 

 

 正直感動した。

 

 それから私は色んなキャラを描くようになった。今では一番の趣味だね!

 

 

 黙々と絵を描き進める。

 

 作業をしてれば嫌な事を考えなくて良いし、気楽だな~。

 

 

 

 ギャハハハ!!

 

 教室の前で大声で笑うクラスメイト達。

 皆が共通の話題で盛り上がっていて、すごく楽しそうだ。

 

 

 ……そんな時、三樹夫に言われた事を思い出した。

 

 

 ”彼氏はともかく、友達位作れよ!”

 

 

 

 

 ……兄弟揃って、煩いな。

 

 

 

 私だって、誰かと昨日見たアニメの話とかしたいよ……。

 

 でもさ、仕方無いじゃん。皆が嫌がるんだからさ。

 

 クラスメイトが騒いでるアーティストにも興味無い。お洒落にも興味が無い。

 

 趣味が合う人がいないのだから、仕方無いんだよ。

 

 小学校から卒業すると共に、皆がそういう話を止めた。もうそういうの良いから。と話を聞いてくれなくなった。

 

 なんでだろうな。

 中学に上がってからも、アニメ、楽しいよ?

 

 

 寂しくないと言ったら嘘になる。

 でも、仕方無いよ。趣味が違うんだから。

 

 

 

 そう思い、暗い気持ちを一掃しようとノートにキャラを描き始める。

 変わらない周りの環境を考えるより、今自分がしたい事を考えたい。

 

 変わってしまった、大人ぶるようになってしまった友達こそが先にいってしまったような感覚を振り払い、私は今まで通り”好きな物”を追い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタンッ。

 

 そんな時、私の前の席の主が座り込んだ。

 

 

 話をしないが、

 確か……美嘉ちゃんだったかな。

 

 名字は忘れたけど、まあ”水樹”の前だから、”ま”とか”み”かな。

 どうでも良いけど。

 

 

 あまり喋らない、静かな子だ。

 いつも難しそうな本を読んでいる。話なんてした事無い。

 

 だからいつも通り挨拶とかもしないで絵に没頭する。そこでふと顔をあげると、美嘉ちゃんが目を広げ、私のノートを見ていた。

 

 

「……」

 

 思わず怪訝な顔を向けちゃった。

 美嘉ちゃんはマズいっと言った風に慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい。覗くつもりは無かったんですけど……!」

 

 

「……別にいいけど」

 

 

 あたふたと頭を上げ、そして前を向いて椅子に座った。なんだろ? 別にノート見た位。

 

 

 さぁて、土方さんといったら隣は沖田君だよね。二人揃うとギャグは面白いし絵になるし、本当神タッグだよね~、この二人。

 

 黙々と作業を進めていると、美嘉ちゃんが横座りになり、本を読み始めた。

 

 いつもは前を向いて読むのに、何? ちょっと普段と違って顔が見えるように座られると視界に彼女が映りなんだか居心地悪い。

 

 

 顔を上げて美嘉ちゃんをみると、顔を真っ赤にしながらモジモジと難しそうな本を広げている。

 ちらちらとこちらを見て、何かを勇気だそうと踏み込む漫画のヒロインのようなしぐさだ。

 

 ……そして、難しそうな本のブックカバーがすっと外される。

 

 

 銀○。

 

 

 

 そのカバー下からは今の私には凄く馴染みの深い漫画が現れた。

 

 

「あ……」

 

 

 

 本で真っ赤な顔を隠しながらその本をアピールするその女の子に、

 話すらまともにした事の無いその女の子に、

 

 

 一気に親しみや嬉しさが涌き出てきた。

 

 

「銀魂だぁ・・・♪」

 

 

 目を輝かせた私に、コクコクと頷く美嘉ちゃんに思わず笑顔があふれでた。

 

 

 これはまだ三神美嘉が前髪で自分の顔を隠す前の話。




続く

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