再臨せし神の子   作:銀紬

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調整が早めに済んだので、とりあえず投稿はしておこうと思います。

あ、ちなみに今のところ全体を26話とすると大体15話目くらいまで執筆が終わっています。
ちなみにこの回は大体6~7回目位になるでしょうか。原作よりは若干少なめの話数になる……かも。

…………きっとアニメ版エヴァみたいに宗教的Endになったりはしませんので、ご安心を。


第五話 決戦、第三新東京市

赤木リツコは驚愕していた。 と、同時に漸く以って推測が確信に変わろうとしている。

 

あの少年、碇シンジは只者ではない。

一般常識でみれば既にシンジは人外の範疇なのだが、何分理論派であるリツコは確固たる証拠が欲しかったのだった。

 

少年が「予知夢」として教えた第五使徒の特徴は、目の前に居るそれと殆ど一致したものであった。

まずは外見。これはもう完全に一致している。

そして、次は内面。

エヴァンゲリオンを射出する前に、1/1バルーンダミーによる威嚇射撃、並びに自走臼砲の射出をミサトに提言した。

最初はエヴァでの強襲作戦を取る予定ではあったが、リツコと共に常々予想していた遠距離型使徒の可能性を指摘されると、「様子見作戦」はあっさり実行に移される運びになった。

 

その結果、

 

「……自走臼砲、ダミーバルーン、共に一瞬で蒸発。こりゃエヴァを射出してたら危なかったわね」

「国連軍や戦自からも事前情報なし、エヴァを破壊されていたら一巻の終わりだというのに何をやってるんでしょうねぇ、本当」

「現在敵はシールドを展開し、第2装甲板を貫通しようとしています」

 

内面もやはり、一致しているのだった。

ミサトとマコトが愚痴り合う中でシゲルの口から語られる実況も当時のものと大差ない。

 

接近しての攻撃はあまりにも危険なので唯一中距離攻撃として懸念される潜行ドリルでの攻撃そのものは確認できなかったが、ここまで長距離型ならそこまで考慮する必要もないだろう。

 

「……でも、これなら貴方の作戦も予定通り実現出来そうじゃない?」

「ええ。こういう時の為に練っておいた高性能射撃武器による超ロングレンジからの射撃、題してヤシマ作戦。

専用兵装はある程度出来ているんでしょうね?」

「勿論。幸い手を付けるのが早かったから、それなりに高出力且つ省エネルギーに仕上がったわよ」

「さっすがリツコ」

 

自走陽電磁砲ポジトロン・スナイパーライフル。通称PSRはリツコにより魔改造され、

多少の重力場などの変化によってその射線がコアを逸れても構成物質の50%以上が一撃で消滅、下手をすればそのままコアを打ち抜けるまでの威力にすら強化されていた。

そして、エネルギー効率もジオフロントの発電施設のみで最大充填が行えるまでに上がっていた。

 

前史では日本中から電力徴発を必要とするだけでなく、理想状態でどうにか撃破出来る程度の火力であった。

元々プロトタイプレベルの完成度だったということもあるが、相当な強化をもたらせたと言えよう。

 

これもひとえにシンジの「予知夢」という名のカンニングペーパーが成し得たことと言っていいだろう。

 

「問題は盾ね……一応それなりの物は用意したつもりではあるけど、あの加粒子砲に対する持続時間はせいぜい25秒前後と言ったところかしら。

初撃を外すか、あるいは耐えきられてしまうと余裕はないでしょうね」

 

盾の方もネルフ技術部の全力を挙げて制作はされていたものの、こちらは元々のSSTOの強度も超電磁コーディングによる強化もあってかなりのものだ。

よって、前史とそこまで差が付くことはなかった。

 

「……あまり頼りたくはないけれど、シンジ君の強力なATフィールドを用いても盾の代わりにはならないのかしら?」

「どうでしょうね。あのATフィールドの出力は計算上第五使徒と同等以上となってはいるけど……

何分あの加粒子砲の攻撃力もネルフのPSRと同等かそれ以上の火力だから確実ではないわ。

それに、一度貫かれれば例えエヴァの特殊装甲でも10秒と持たないでしょうね」

「つまり、アテには出来ないってことか……」

「はっきり言って、パイロットの射撃技術に頼るしかないわね」

 

リツコはコーヒーを一口含むと、ため息をついた。

 

「そうね……零号機の凍結解除もやむなしね。盾役が居ないもの」

「僕が一人二役しましょうか?」

「シンジ君!?」

 

唐突に声を掛けられて驚くミサト。

そこには、既にプラグスーツ姿のシンジが居た。

 

シンジとしては、はっきり言ってヤシマ作戦などやらなくても自前のATフィールドで強引に加粒子砲をカット、コアを叩き潰すといういつもの戦法で勝てると踏んでいた。

勿論、前史通りのラミエルであればそれで充分だろう。

 

しかし、シンジの事情を知らない他の人々にはそれを無謀にしか感じないのも無理はなかった。

 

「一人二役って……無茶にも程があるわよ」

「そうね。貴方のATフィールド出力はかなりのものだけど、あの加粒子砲に耐えきれるかは微妙よ」

「でも、やらないといけないんでしょう? やりますよ。やらなければ皆死んでしまいます」

「……貴方がそこまで気負う必要はないのよ?」

「ですが……」

 

とシンジが言ったところで、ミサトがペチン、とシンジにデコピンした。

 

「……何するんですか」

「あんたね……自分の力を過信しすぎ。少しは、人を頼るという事も覚えなさいよ」

「でも……」

「でもでもだってで物事は進まないわ。リツコ、あたし司令に直接作戦申し出してくるから」

 

走っていくミサトの後姿を見て、シンジはただただ呆然とするしかなかった。

リツコはそんな親友の姿を見て苦笑い、でもどこか清々しい顔をしている。

 

「……貴方が何を抱えているかは知らないけど、ミサトはああ見えて繊細だからね」

「……どういうことですか?」

「あら、意外と人の心には鈍感なのね」

 

シンジより人の心に敏感な人間もなかなか居ないとは思われるが、そのシンジですらこの真意は掴みかねる。

リツコはただ静かに微笑んでいるのみであった。

 

----

 

数時間後、ヤシマ作戦は決行されることになった。

変電所などに頼らなくてもよいので山を利用して加粒子砲をある程度遮蔽出来るのも強み。

件の加粒子砲や威嚇射撃により算出されたラミエルの戦闘能力に対し、マギシステムから算出された勝率も前回のきっかり10倍、87%という極めて高い数字が得られていた。

前史では条件付き賛成が一つあったが、今回は三者一致の賛成が並ぶこととなった。

 

今回も狙撃役はシンジ、盾役はレイになった。

前回はシンクロ率の高さが決め手になったが、今回はそれ以前に純粋な射撃訓練の成績でシンジが選ばれることになった。

 

【いいことシンジ君。 

訓練を思い出して、基本に忠実になって撃ってちょうだい。一撃命中すればそれで勝てる。けど、外したらその後はないと思って】

「……はい」

 

リツコから改めて言われてみると、流石に少し緊張感は走る。

最悪単独で乗り込めばいいし、前回程度のレーザーであればATフィールドで防ぎきれるだろう。

だが、そこまですることになった時点で零号機は、そして中のレイは既に死んでいることになるのだ。油断はできない。

 

そういえば、今日は何かとカヲルが静かだった。

気配がなくなってしまったとかそういう訳ではなく、探知は出来るが、先ほどから一向にモノを言わないのだ。

何か考えているのか、気になったので声を掛けてみる。

 

「(……どうしたの、カヲル君?)」

『……かい』

「(……え?)」

 

カヲルから返ってくるのは思わぬ返事であった。

 

『…………やめさせられないかい、この作戦? 嫌な予感がするんだ……』

「(えっ……?)」

『彼はきっと、まだ……!』

【ヤシマ作戦、開始!】

【撃鉄、起こせ!】

 

カヲルが何を言いかけていたのかは、アナウンスに阻まれて分からない。

ただ、嫌な予感がするという一言だけは聞こえていた。

 

しかし、もうここまで来てしまった以上後戻りすることは出来ないだろう。

いや、出来るだろうが、ここに来ていきなり一人暴走しては怪しまれるどころの話ではない。

カヲルには申し訳ないが、シンジにも作戦を決行するほか選択肢はなかった。

 

【最終安全装置解除! PSR、目標捕捉に入ります!】

「…………」

 

迫る時を前に、神経を研ぎ澄ますシンジ。

武器もバージョンアップこそしているが、やはり少しばかり照準が合うのに時間は掛かるようだった。

 

ピピピピピピピピピピ……という音が発射を焦らす―――――

 

 

 

 

ピーン!

 

 

【撃てぇ!】

【目標に高エネルギー反応!】

 

ほぼ同時に声が重なる。だが、前史でもこのことはあった。このままなら充分予想の範疇。

ラミエルが発射する前に攻撃が届くだろう。

 

思惑通りに直進するポジトロンビームは、ラミエルが加粒子砲を放つコンマ数秒前に到達した。

 

 

ズガアアアアアアアン!!!!!!!!

 

 

凄まじい閃光、轟音が鳴り響く。

 

余りの高出力にホワイトアウトするモニター。

 

息を呑む総員。

 

 

【映像、回復します!】

 

 

ここまでの高出力エネルギーを持ってすれば、流石の第五使徒のATフィールドを以ってしても一溜まりもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のは、前史のみの話であった。

 

 

そこには……

 

「……変形している!?」

【使徒損傷率55%、パターン青健在!】

 

前身がまるでウニのようにトゲだらけの姿に変形しているラミエルの姿があった。

恐らくこの形態をとることで火力を分散したのだろうか?

それでも良く見えるとその表面は大きく焼け落ちており、それなりのダメージは与えられたことが推定された。

 

しかし、まだラミエルは生きている。これは紛れもない事実だ。

何より前史では変形することはなかったし、バルーンダミーへの攻撃も全て変形なしで行われた。

もしや、第五使徒ラミエルにはまだ隠された力が残されているというのか?

 

【総員怯むな! 第二射】

 

準備開始、とミサトが言いかけたその時。

 

 

ガシャン!ガシャン!

 

ウニのような赤くただれ堕ちた姿を変化させ、今度はまるでヒトデのような形状を取るラミエル。

中心部は赤く染まり、凄まじい勢いで青に、そして完全な白に染まっていく。熱量が異常に上がっている証拠だった。

 

甲高い金属音にも似た、エネルギーを溜める音がそこら中に響き渡る。エネルギーを「放出」したと錯覚してもおかしくない程の、凄まじい音量。

 

そこから爆音が鳴り響くまでに時間は掛からなかった。

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

今度はそれほど待たずに、前史とは比べ物にならない破壊力の加粒子砲が牙を剝いた。

 

 

「うわぁっ!?」

 

驚いたのはシンジの方である。

これまでは史実と殆ど変わらない強さの使徒しか出てきていなかったのに、ここに来て使徒が大幅な強化を得たのだから。

 

最も、伏線が無かったわけではない。

第四使徒シャムシエルはプログナイフを器用に受け止めてみせていたのだから。

だが、よりにもよってラミエルがここまでの強さを得ていたのは想定外である。

 

ダメージの影響だろうか、加粒子砲はシンジたちの居るところからは僅かに逸れた隣の山の中腹部に突き刺さった……が、

 

【第二射、急いで!】

【状況は!?】

【初号機、零号機ともにダメージありません。ですが……あの出力となると盾が……!】

【計算上、10秒くらいが限界ね……拙いわ!】

 

ラミエルもまた、異常なまでの強化を遂げていたのである。

恐らく、レベルとしては前回の2倍以上の威力にはなっているだろう。

マギシステムの計算結果にもここに来てかなりの修正が加わり、今では勝利確率8.7%。奇しくも前史のヤシマ作戦と全く一致していた。

 

【目標に更なる高エネルギー反応!】

【なんですって!?】

 

再びヒトデ型に変形する使徒。

先ほど以上の強烈な音で喚き散らしながら、中心部を色めかせた。それは白一色と言ってもよく、エネルギーが極限まで高まっていることは容易に想像できる。

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 

先ほどと同等か、それ以上にすら見える凶悪な加粒子砲を放つラミエル。

 

「くそっ!」

 

ATフィールドを展開し、直撃に備えるシンジ。

しかし、そのATフィールドも長くはもたないだろう。ここに来ていよいよ多大なるダメージを覚悟した―――――

 

が、衝撃はこない。

 

「くっ…………ううう………!」

「綾波!?」

 

そう。前史通り、再び綾波が盾となり初号機を守っていたのだ。

作戦として定められているので、この行動自体に驚くべき点はない。

しかし、前回より頑強になったはずの盾は、それよりも更に強化されている加粒子砲の力により瞬く間に融解していく。

 

【盾が持たないわ! PSR充填まだなの!】

【後20秒! 先ほどの加粒子砲の衝撃で遅れています!】

「綾波ッ!」

 

リツコの指摘する通り、盾は最早5秒も持たないだろう。

そして、ついに恐れていた事態が起こる。

 

【盾、完全に融解! 加粒子砲、零号機に直撃します!】

「キャァアアアアア!!!!」

 

凄まじい勢いで零号機のATフィールドを侵食していく加粒子砲。

今ここで初号機がこれ以上巨大なATフィールドを張っても零号機は前方に吹き飛ばされるだけ。初号機の内に居ない以上、守り通すことは出来ない。

 

ATフィールドを張り続けてはいるのだろうが、それでも無情にも、零号機は徐々に削られてゆく。

 

【零号機、各部位耐性値オーバー! 臨界点到達まで、残り10秒!】

【レイ! 脱出しなさい! レイ!】

 

非情な現実が初号機エントリープラグ内を響き渡っている。

 

「綾波ィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

----

 

――――ここは、どこ?

 

気付くと、赤い海の中に再び綾波レイは居た。

 

シンジ達と手を繋いで、初号機に包まれて、どうなっただろうか?

 

 

ふと顔を上げたレイの目の前には、沢山の……わたし?

 

凍てつくような無表情を貫いていた、綾波、レイ。

小さな者から、大きな者、制服姿、プラグスーツ姿、いつだか誰だかに首を絞められた時の服、水着姿、完全な裸体……

 

 

―ここは、私たちの中よ。

 

貴方は……私?

 

―そうよ。貴方は私

 

わからない。このひとも、あのひとも、あのひとも、あのひとも、わたしも、皆わたし。

レイは、得体のしれないレイたちをじっと見つめていた。

 

わからない。わからない。

 

 

-わからないの? あなたは、わたしたちのなかでも、居るべきではない私。

 

……居るべきではない? なぜ?

 

―あなたはここの私じゃない。もうここに私たちはいる。だから、いらないの。

 

そんな……

 

-だから

 

-還りなさい?

 

制服姿のレイが。

 

-帰りなさい?

 

プラグスーツ姿のレイが。

 

-かえりなさい?

 

水着姿のレイが。

 

-かえりなさい

 

裸のレイが。

 

-……かえれ

 

小さなレイ。

 

-かえりなさい

 

大きなレイ。

 

-還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい

 

還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい

 

脳裏に響き渡る、無数の「自分」の声。

 

還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい

 

……ッ……

 

還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい

 

 

 

怨念のように響いてくる声。

次第に溶けてゆくレイ。指先から、徐々に。

微かに熱を帯びて溶けていく自らの指先を、ただただ見つめるほかはなかった。

 

 

……ダメなのね、もう……

 

抗おうにも、手足は全く言うことを聞いてくれない。

 

脳に響き渡る声を最後に、消えてしまうのだろうか?

 

 

 

 

還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい『ィ……!!』還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい『綾……!!!!』還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい『ィイイ……!!』還りなさい還りなさい還りなさい

 

 

…………?

 

 

還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還『波ィイイ……!!!!』りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りな『綾波ィ………!!!』さい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい還りなさい

 

 

 

『綾波ィイイイイイ!!!!!』

 

 

……いかり、くん?

 

 

 

 

 

 

『耐えてくれ、綾波、綾波ッ!』

 

 

……

 

ああ、貴方は、また―――

 

 

 

 

シンジの声を知覚したまさにその時、既に二の腕にまで届いていた溶解の波が止まる。

やがて手足は再生され、一方で沢山のレイたちのそれが代わりに消えかかりつつあった。

 

 

-なぜ? 貴方は……あってはならない存在。 なのに、なぜ、 求められているの?

 

 

……私は、いえ、私「が」碇君を『ここ』で守らなければいけないの。その為に戻ってきたのよ

 

 

―……なぜ?

 

……私は、守らなければいけない。

私は、碇君も。エヴァも。みんなも。碇君が望む人は、みんな。

 

それが、あの人の、

碇君の、望み。

 

 

その言葉を聞くと、レイの前に立っていた『レイ』たちは次々と消えていき、

やがて一人、まるで合わせ鏡のように同じ姿かたちをしたレイだけが残った。

 

 

 

-そう……そうなのね……本当に求められていたのは、貴方―――

 

……

 

約束を、したの。

 

1年前になるかしら。

 

あの時と同じ、暑い、それでいて冷え切っていた、夜に。

 

守るっていう、大切な。

 

 

―……約束?

 

 

―そうよ。だって、碇君は…………

 

 

 

暗転する、赤い世界。

 

 

 

----

 

「……私が、守るものッ!!」

 

エントリープラグ内で、レイの赤い瞳が青く煌めいた。

 

突如として零号機の深緑色の独眼が紅に染まる。

先ほどまで零号機を侵していた加粒子砲は完全に零号機の眼前で防がれている。

青色のATフィールドが見る見る間に加粒子砲の勢いを押し殺した。

 

【零号機、臨界点到達……い、いえ! 耐性値オールグリーン!? 突如強力なATフィールドを展開開始!】

【ぜ、零号機に何が起きているというの!?】

【分かりません……全メーター、振り切れています】

【何をしようというの、応答しなさい、レイ、レイ!】

 

突然の出来事に発令所は半ばパニック状態に陥っている……が、そのようなことは露知らず、レイの進撃は止まらない。

 

「あや……なみ?」

「碇君は……あの人だけは」

 

シンジも突然の展開についていけていない……が、戦局は凄まじいどんでん返しを迎えていた。

 

【零号機、ATフィールドで加粒子砲を押し返しています!】

 

「私が、護ってみせるッ!!!」

 

『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!』

パキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!

 

ネルフ本部で顛末を見守る人々及びシンジの目には信じがたい光景が写っていた。

 

臨界点に到達し融解せんとしていた零号機が巨大な咆哮と共にが掌に起こした巨大な青いATフィールドが、

何とラミエルの加粒子砲をその場でリフレク、撃ち返したのだ。

そのダメージはPSRを大きく上回っており、ラミエルに大打撃を与えた。

光線が突き刺さるとともに、

 

キャアアアアアアア!!!!!

 

呻き声を上げて再びヒトデ状になるラミエル。コア部分が輝いているのでまだ辛うじてエネルギーを溜める余力はあるようだが、かなりその光も鈍っている。

 

ピーン!

 

心地の良い電子音が、その時鳴り響いた。

 

【ぴ、PSR再充填完了!】

【撃ちなさいシンジ君!】

「は、はいッ……!!!!」

 

今度はもう逃さない。光線が、第五使徒ラミエルを穿つ。

 

ビシュウゥウウウウウウウウウウウウン………!!!

 

その光線は、一直線にコアに吸い込まれてゆく。

 

ラミエルをいつ貫いたのかは分からないが、光線がラミエルの向こう側の山で爆発してから数瞬後、ラミエルが炎を吹き上げた。

攻撃ではなく、体組織があまりの高エネルギーに自然発火を始めたのだ。

 

ズガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

それを観測したかどうかで、コアを貫いた時の音が飛び込んでくる。

 

アア……アア…………ア…………

 

 

ドシャアアァァ………

 

 

最後の断末魔を上げたと思うと、ヒトデ状の体を元に戻すことをしないまま、ラミエルは堕ちた。

 

----

 

ググググググ……!

 

「ぐうぅうううッ……! んんんんんん……ッ!!」

 

ガシャアア……

 

結局史実通りに零号機のプラグを抉じ開けようと奮闘するシンジ。

コツをつかんでいたのか、今回は前回よりは早く開いた。が、高温による手のやけどは結局負うことになった。

 

「綾波ッ! 大丈夫か綾波! 綾波!」

「…………」

「綾波ッ!! 起きろッ! 目を覚ませッ!」

「…………ん……」

 

一瞬、レイが死んでしまったのではないかと危惧したものの、幸いにも、レイは気を失うだけで済んだようだ。

胸をなでおろすシンジ。

 

「良かった……」

「……なに、泣いてるの?」

「……よかったッ……! 本当に……!」

 

黙りこくり、ただただ嗚咽を繰り返すシンジ。

以前は盾が融解してすぐにPSRを撃てたのでまだよかったが今回は違う。

完全に融解してから十秒以上は経過していたのだ。

よく無事だったものである。

 

「……ごめんなさい。こういう時……どういう顔をしたらいいのか…………」

 

前回と、変わらないレイ。

そうだ。レイは、あの時のレイと違うのだ。

 

それでもいい。また、一つずつ、教えて、教わって、前進していけば、それでもいい。

 

ただ、レイが生きているという事実だけがシンジの希望であるからだ。

 

今思えば、恐らく最も好きだったのかもしれない、前史のレイ。

しかし、ここに居るのも、前史のとは違えど、二人目のレイであることに、何ら変わりはない。

 

ならば、それならば―――――

 

その時、レイの顔がハッ、と何かに気付いたような顔になる。

 

「……そうだった、わね」

「……え?」

 

シンジがしゃくり上げながら顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべたレイの姿があった。

シンジははっ、として目を見開いた。

 

 

 

『レイ』だ。

 

 

あの『レイだ』。

 

そのことに再び、喜びを覚え、涙を流す。

心からのそれが、頬から落ちようとしたその時、レイのか細い指がそれをすくった。

 

そしてレイはゆっくりとシンジの元に寄り添うと、静かに抱きしめた。

 

「……ただいま、碇君」

 

何も分からない人には、この声も淡々として聞こえるのだろうか?

しかし、シンジにとっては違う。とても暖かな眼差しと、微笑みが、確かに分かる。

 

この一言も、また心からのそれだ。

 

「…………おかえり。綾波」

「……ええ」

 

 

徐々に静まっていく戦場。

遠方には仄かにまだ炎が立ち込め、熱もまだところどころ冷めやらぬ。

 

だがその熱も、この二人には関係なかった。

 

完全に二人だけの静かな世界が、静かな祝福と共にその場を包む。

 

 

やがて――その二つの影は、静かに重なった。

 




伊「はい、皆さんおはようございます。伊吹マヤでーす」
日「おはようございます、日向マコトです」
青「……青葉シゲルです」


パーパラッパッパパーパパッパー♪
パーパラッパッパパーパパッパー♪

伊「どうしたんですか青葉君? 元気少ないですね」
青「いや……今回っていうか原作でもそうなんだけど、俺あんまヤシマ作戦の出番ないんだよな」
日「確かに「撃鉄起こせ!」とかも俺のセリフだしな。シゲルの目立つセリフはそんなに多くはないというか……まぁ俺たち皆そうなんだけどさ。
まあヤシマ作戦自体が葛城さんの一存で決まった計画だからやむを得ないと思うけど」
伊「目標内部に高エネルギー反応!円周部を(以下略)も、最初から自走臼砲とか出してましたし、
今回は最初から葛城さんがヤシマ作戦を提案していたから地下室で作戦会議とかもありませんでしたからね。青葉君に限らず少ないと思いますよ」
青「うーん……台詞無いならギター弾いてまったりしてたいんだけどな、俺は」
日「そういう問題じゃないだろ……」
伊「『ま、本編で出番が少ない分ここでフォローするのがこのコーナーの存在意義らしいですしね』」
青「……やけに棒読みだね、マヤちゃん」
伊「細かいことはいいんですよ。さて……質問コーナー行きましょうか。
えー……まぁ一番気になることでもありますけど。
『ラミエルちゃんは結局なんだったの? なんで序仕様っぽいの?』ということですが」
青「本編の頭にも書いてあったし前回も示唆したけど、所謂因果律って奴なんじゃないの?」
日「だろうね、まあラミエルは倒せたから良いとして、俺が気になったのはレイちゃんの覚醒(?)だよね」
青「あー、そうだよなぁ。やけに破で覚醒した時のシンジ君っぽかったし。まぁシンクロ率は百パーセントだけ低かったけど、ぶっちゃけあのまま素手でラミエルに殴りかかっても余裕で勝てたと思うし」
伊「これもまた因果律の違いなんですかね」
青「というかこれから出てくるであろう質問全部「因果律の違い」の漢字込み六文字で説明出来ちゃいそうだよな。なんと便利な言葉か」
日「あんまり言いすぎるとネタバレになりかねないしな……結構難しいライン取りだよ」
伊「んー、まぁそれについて関連的な質問ですが、「なぜレイはあの時LCLに溶けなかったのか」ということですね」
青「単純にシンクロ率四百パーセントを越えてなかったからじゃね?」
日「シンクロ率が関係あるのかはわかんないけど……エヴァに取り込まれたというよりは自分自身と戦ってた、みたいな感じだったしな」
青「あー確かに」
伊「まぁ要するにシンジ君の時とは違うってことですね」
日「そういうことだな」
青「全然解決してないけどもうそれでいいんじゃないかな」
伊「んー……じゃ、最後の質問ですね。 おっとコレはちょっとメタな質問ですけど……「新劇の流れにするなら使徒は形象崩壊すんの?」ってことですが」
青「……さぁ?」
日「使徒に聞いてくれよそんなん」
青「てか新劇の流れつってもシャムシエルの時点で若干違っちゃってるし新劇の流れともいえないんじゃね?」
日「あー確かに。案外どっちともつかない倒され方になったりしてな」
伊「とりあえず今回のラミエルは旧劇とおんなじ感じになりましたけど、そのうち某狩りゲームみたいに一定時間が経過したら完全消滅とかありそうですね」
日「まあ、そこはご想像にお任せって感じだよな、進行にも大して関わらないし」
青「進行とか言うなよ、まぁ間違っちゃないけどさ」
伊「そういうわけですね。それじゃあ葛城さん、あとお願いします」
葛「はいは~い♪ お姉さんにお任せなさいな!
『第五使徒ラミエルを突破し、深まるレイとシンジの絆』
『近づいてゆくセカンドチルドレンとの邂逅の日』
『しかしそこでシンジは思わぬ人物と出会うこととなる』
『果たしてその人物とは誰なのか? 次回、「明日の日は歩いてこない」さぁ~て、次回もぉ~?』」

全『『『『サービスサービスゥ!』』』』

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