今日は一週間ぶりの更新……と言ってもリアルタイム重視でやっているだけで、原稿自体はもう完成しているのですが。
さて今回この小説を書いている訳ですが、一週間で早くも1000人のユニークアクセスがあったようです。
お気に入りに入れて下さった方もそこそこいらっしゃり、書き手としても有難いものです。
今後ともよろしくお願いします。
あ、ちなみに「後日」というのは大体7月上旬ごろになる予定です。
それでは第参話、「変化と一致」どうぞ。
ネルフ本部では、早すぎる新たな使徒襲来でてんてこ舞いになっていた。
「第四の使徒襲来……予想以上に早いわね」
「前は十五年のブランク、今回はたったの一週間ですからね」
「こっちの都合はお構い無しか。女性に嫌われるタイプね」
「国連より、エヴァンゲリオンの出動要請が来ています」
「言わなくても分かっているわよ……」
マコトと共に軽口を叩きながら、目の前の使徒を睨み付けるミサト。
第三の使徒戦における叱責は未だ記憶に新しく、この使徒で名誉挽回するという野望を剥き出しにしていた。
「不幸中の幸いは、兵装ビルなどをはじめとする施設の大半と初号機に被害が無いこと……位かしらね」
「零号機もレイも出撃できる状態ではありませんから……またシンジ君に頼ることになりますね」
「そうね……前回のように行けばいいのだけれど」
リツコとマヤは目の前のモニターを睨んでいた。
そこには、BloodType:Blueという文字があかあかと浮かんでいる。
「碇、これは余りにも早すぎはしないか」
「……問題ない。対使徒戦におけるすべての兵器、及びエヴァ初号機は無傷だ」
「そうは言うがな……死海文書には少なくとも後二週間先と記されているのだぞ?」
「死海文書には書いていない、イレギュラーも時には起こり得る。老人たちにそれを示すいい薬だよ」
「そうかね……シナリオの手直しも必要かもしれんぞ」
「……問題ない」
戸惑う冬月に対し、ゲンドウは一見して普段通りの振る舞いをしている。
そのサングラスの下には、何が映し出されているのだろうか。
「(……どういうことだろう? 前はもうちょっと後だったと思うんだけど)」
『分からない……ただ、幸いにして使徒そのものは前回と全く変わっていないようだ。
前回より強くなっている君なら、暗くなっていることを考慮しても充分勝てるはずさ』
シンジも動揺していた。
カヲル曰く前回の使徒と変わらぬシャムシエルのようだが、心配なのはそこではない。
前回と違う、イレギュラーな展開であること。
これが心配事であった。
S-DATが26番目の曲を奏で始めたところでズボンと共に脱ぎ捨てられる。
プラグスーツに着替え、ケージへと駆けた。
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それは数日前にさかのぼる。
ネルフにおけるある一角。訓練施設とも呼ばれるそこにシンジは居た。
擬似エントリープラグに搭乗し、何かゴーグルのようなものを付けさせられた。
ミサトは前回はここに居た気もするが、今回は先日のサキエル戦における始末書を書いており、今ここにはいない。
暫くすると、リツコから声を掛けられた。
「それでは訓練を始めます。いいかしらシンジ君」
「はい」
「戦闘データは、前回の第3使徒のモノを使っています。
最も、あの使徒は貴方が圧倒してしまったからそこまで色々な行動を取る訳ではないけどね」
「……次からは苦戦して、パターン見た方がいいですかね?」
軽く皮肉を込めてみる。
が、そこは技術部も考えていたようだ。
「いえ、その必要はないわ。国連軍から提供されたデータを基に、考えられる行動パターンは全て叩き込んでおいたの。
その位はしないと貴方に無駄な時間を食わせるだけになりそうだしね」
「それは……どうも」
「貴方の平均シンクロ率は結局70%前後。データもそれに合わせてあるけど、±20%の範囲まで一通りやってもらうわ。シンクロ率はいつ変動するか分からないから……いいわね?」
「はい」
最もその70%もカヲルの力による制御の結果だった。
弐号機のシンクロを自在に変えられるのはやはり素体が同じだったお蔭らしく、
シンジもある程度干渉はしていたものの精々20%~30%程度が初号機で操れる限界であった。
勿論その制御を取ればいつでも99.89%までは持ち上げられることになるので、負の場合についてははっきり言って時間の無駄。
とはいえそこまで言うと怪しまれる可能性もあったので、そこは我慢して訓練することにした。
「まずは射撃訓練よ。貴方の格闘経験に目を見張るものはあるけど、射撃技術はもう少し伸びしろがあるから。
目標をセンターに入れてスイッチ、これを頭に叩き込んで。ついでに兵装ビルの配置も同じものを設定してあるから、同時に覚えて頂戴」
「はい」
目標をセンターに入れてスイッチ。懐かしい18文字である。
あの時は何も考えずにただ動いていたっけ。
でも今こうして対峙すると、何も考えなかったのではなく考える必要がまずなかったのだなと痛感する。
それ程までに目の前の擬似サキエルの手ごたえはなかった。射撃の的であることを意図しているからだろうか?
「……凄いですね、シンジ君」
「ええ……伸びしろがあると言っても、今のところ命中率8割5分以上。下手な軍人よりよっぽど上ね」
感心する声を上げつつ、データを採取する技術部のトップ2。
「でも、ここからが本番よ」
リツコが目の前のコンピュータにあるスイッチを押す。
そこには「strong version」という文字が浮かんでいる。
その時、サキエルを10体ほど倒すと、今度は青色のサキエルが登場した。
「……アレ? バグですか?」
「違うわ。 コレは強化体。これまではあまり動いていなかったけど、行動バリエーションは豊富にしてあるわ。
元々持っていた行動のほかに、技術部オリジナルの行動も加えてるの。それじゃあ始めて頂戴」
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それから2時間後。あらゆる行動パターンを叩きこまれ、ステータスも大幅強化されたサキエルを100体ほど倒しただろうか。
最終的には擬似フィードバックシステムも付けられた超本格的な射撃訓練となったが、それでもシンジの命中率が下がることはなく、おおよそ85%程度をキープしていた。
「お疲れ様、シンジ君」
「お疲れ様」
「ああ、リツコさんにマヤさん。お疲れ様でした」
「貴方……格闘もそうだけど射撃もかなりデキるのね。どこで教わったのかしら?」
「あー……多分ゲームですよ。
最近のシューティングゲームって結構難しくて、普通の戦争では明らかに有りえないであろう弾幕が繰り広げられるゲームとかもあるんですよ」
「へえ……じゃあ、次は模擬体に弾幕を張らせてみようかしら?」
「いいかもしれませんね。 というか折角ですから、模擬体の姿もパターンを作ってはどうです?
もしかしたら……例えば、人と瓜二つの使徒などもあり得るかもしれないですし」
その言葉を聞いてカヲルが少し苦い表情をしていた……ような気がする。
「そうね……使徒は今後も現れるし、人間パターンも勿論、他のパターンも模索してみるわね」
「相手が美少女でついでに弾幕タイプの仮想敵だったら、一部男性オペレータのやる気も上がるかもしれませんね?」
「あら、それは貴方の要望ではなくて?」
「……ノーコメントで」
リツコに軽くからかわれる。が、自分への警戒も少しは薄れてきた証拠であろう。
そこで、リツコのコーヒーカップが空っぽになっているのを確認すると、ふと何かを思い立ったかのように立ち上がるシンジ。
「それでは、僕はこれで失礼します」
「ええ。お疲れ様」
カラン、と音が鳴る。
リツコがカップの中の異変に気付いたのは、シンジが出て3分ほど経った後であった。
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「(……リツコさん気付いてくれてるといいんだけど)」
『まあ、大丈夫なんじゃない? 予知夢という事にしているからそこまで信憑性が高くは見えないだろう』
プラグ内で指示を待っていると、
ピーピーピーピー。
エヴァ内の無線が鳴る。モニターには[Concealment Line is connected]という英文が踊っていた。
「……?」
無線機を手に取る。相手はリツコだった。
いよいよもって気付いたのだろうか。
【シンジ君、聞こえるかしら】
「はい……どうしました?」
【USB、見たわよ。 あの情報の全てを信じる訳ではないけど、少なくともあの使徒に関しては貴方の言った情報と一致している……後で色々と話は聞かせてもらうわ】
「分かりました」
【それで……貴方の言ったとおり、プログ・ナイフは強化しておいたわ。
……本当はこの材料も、孫六剣という別の兵器に充てていたのだけどね】
少し皮肉めいていうリツコ。しかし同時に、無線を行っているこの少年の予言の当たり様に驚いても居た。
「ありがとうございます。
恐らく……このやり方で倒すのがこの使徒は最善、そんな気がするんです」
【ふうん、なんかそういうデータあるのかしら?】
「……それも含めて、もう何週間かしたらお教えしますよ。今は……目の前の敵を倒さねばならないのでね」
【そうね。積もる話はともかく、今回もお願いするわ】
ピッ。
『問題なかったようだね』
これまたいつもの調子で語るカヲル。
「(ああ。 じゃあ、今回も宜しく頼むよ。カヲル君、初号機)」
【発進!!】
ミサトの声と共に、ケージ内から射出されるエヴァ初号機。
またパレット・ガンを撃たされ、自分のせいにされるのだろうか……等と思っていたが、その考えはいい意味で裏切られる。
【いいことシンジ君。 パレットガンは国連軍の兵器とそう威力も変わらない……そう、恐らく通用しないわ。
恐らくあの触手が武器だから、触手での攻撃を回避しつつ隙を見てプログ・ナイフでコアを破壊。 コレで行って頂戴】
「はい……ミサトさん」
目の前には、以前と比べてもそう大差のない
前回は失敗の目立ったミサトであったが、流石に今回もそういう訳ではなかった。
実は裏で今回の使徒をある程度「知っている」リツコと色々相談をしていたようだが、そうでなくとも他部署の意見も聞き、状況を把握し、その上で作戦を立てる。
本来これが作戦部長としてもあるべき姿とも言えよう。
シンジとしてもこの作戦に何ら異論はない。素直に従い、撃退に向かった。
「ほっ、ほっ!」
兵装ビルが明かりを灯してくれているので、実質昼とそこまで変わらない明度下で戦うことが出来た。
シャムシエルも能力や行動自体はそう変わらないのか、触手をただ振り回してくるだけだし、動きも鈍重である。
コレはいける。確信したシンジは、難なくシャムシエルに肉薄する。
そして、コアにプログ・ナイフを突き立てた――――
が、あるべき手ごたえはない。
「……アレは!」
前回では動くのみで殆ど機能すらしていなかった大量の脚が、今回では機能していたのだ。
プログナイフによる攻撃を、その脚を伸ばして受け止めている。
何とかコアに突き立てようとするが、力はどうも均衡状態にあるようだ。動く気配はない。
「(全く同じ、という訳ではないという訳か……)」
『そうだね……そもそもシャムシエルは昼の天使。こうして夜に現れること自体がタブーな気がするよ』
「(タブー……そういえばカヲル君の別名って)」
『シンジ君、今は君の洒落に付き合っている場合ではないと思うんだ』
「(……そうだね、今回もちょっとマジメにやらなきゃダメか)」
「ミサトさん、このままでは埒があきません。作戦を」
【そうね……まだATフィールドは張れそうかしら】
「持って……3分と言ったところなように感じますね」
【分かったわ……初号機、シンジ君。現場の判断を優先します】
ニヤリと笑みを浮かべるミサト。
シンジに対しては先日のこともあり、ちょっと反抗心もないわけではなかったのだ。
そこで、応戦という言葉は使わず「現場の判断を優先」という言葉で、シンジの状況把握能力を見極めることでもし彼に何か非があれば、そこに漬け込もうと考えていたのである。
とは言っても彼に何か害を与えようというよりは、むしろちょっとした悪戯心のようなものではあった。
そして、シンジからすればまたとなく有難い指示であった。
さて、シャムシエル戦で懸念される触手は初号機のATフィールドによって防がれてはいたが、そうずっと張っていられるものでもない。
暴走状態を引き起こせば恐らく圧勝は出来るし、シンジもどのようにすれば暴走に持って行けるかはあの赤い世界に溶け込む際に理解していた。
が、間違いなく怪しまれることになるだろう。ゲンドウのシナリオにこの使徒で暴走するというものはないのだから。
幸い、シャムシエルの脚の意識は完全にプログ・ナイフを抑えることに集中しており、コアそのものはがら空きであった。
触手も少しずつ侵食してきてはいるが、まだ抑え込む余力はある。
「(よし……行ける!!)」
シンジはプログナイフを片手で支えつつ、初号機に備わっているある「スイッチ」を押した。
そして、クラウチングスタートのような体制を取る。
【右脚部リミッター解除されていきます!】
【初号機、右脚に高エネルギー反応!】
報告するオペレーターの声にも驚嘆が混じる。彼らもこのような機能は知らなかったのだ。
シンジはプログ・ナイフを支点にし、脚を後方に捻る。
その間も初号機の脚部にはATフィールドを応用したエネルギーがバチバチと稲妻のように充填されていく。
やがて、その稲妻が一際輝くとともに、初号機は動いた。
「行っけぇえええええ!!!!」
その巨大な脚が、鋭い光を放ち前方へ放たれると、
ガキィイイイイン!!!!!!
シンジの咆哮と共に、手放されるプログナイフ。そして、初号機の強烈な蹴りがシャムシエルのがら空きのコアに突き刺さった。
ATフィールドによる膨大なエネルギー、そして位置エネルギーも加算され音速を越えた一撃により、ひび割れる暇すらもなくコアは打ち抜かれた。
【……勝ったわね】
【ええ……】
その様子を見ていた作戦部と技術部それぞれの長は、最早それ以外の言葉を失うのであった。
余談ではあるが、懸念されていたトウジとケンスケの防護シェルター脱出事件は夜間で上手く写真が取れないとして元凶であるケンスケ自身が諦めたことで起きなかったことが後日判明した。
実際はそこまで外の明度は変わらないのだが、これはこれで都合のいいことではあったのでシンジも特に気に留めてはいない。
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「……お疲れさま、シンジ君」
「ミサトさん」
「ごめんなさい……正直に言うわ。今日は……貴方のこと試してた」
ミサトは深く頭を下げ、それを上げようとはしない。
彼女は罪悪感に苛まれてもいた。呆気なく倒された第四使徒……
いや、呆気なく倒せたからこそ、である。これがもしより強大な使徒であったら?
弱い相手にすらマトモに指揮を行えない自分を責めていたのだ。
「良いんですよ……勝ったんですから、頭を上げてください」
「でも……貴方をまた危険に晒すかもしれなかったのよ? あんな命令……判断を優先なんて聞こえはいいけど、貴方頼りにしてしまったところは前回と変わらないわ。幸い勝ったから良いものの……」
「……顔をあげてください。」
そう言うとやっとミサトは頭を上げたものの、目が泳いでしまっている。彼女は少なからぬ罪悪感を覚えていたのだ。
確かに、一番初めに彼女が打ち立てたプログナイフによる応戦作戦は確かに失敗と言っていい。
恐らくその点が気にかかっているのだろうが、自分としては気にしている訳でもない。
はてさて、どうしたものだろうか……
……そういえば。
シンジは簡単な突破口を見出した。
「……ラーメン」
「え?」
「ラーメン、奢ってくださいよ。あんまり高くなくて、美味しい店知ってるんです。今回はそれがお詫びってことで、一つどうです?」
ややぎこちなく微笑みを浮かべるシンジ。これしか思いつかなかった。
最早体感時間としては一年近く前になる、第十使徒サハクィエル迎撃時のやり取り。
当時食べたラーメンの味はシンジにとって忘れられない味でもあった。美味しさという意味でもそうだが、何かこう思い出じみたものもあったのだ。
「シンジ君……!」
「え? わっ!?」
抱擁するミサト。突然のことで、そこまで女に慣れているとは言えないシンジは慌てふためく。
けれど、この時はもう突き放そうとは最早思えなかった。
「……ありがとう」
……涙声で自分の胸に顔を埋める女性を、誰が突き放せるものか。
LCLで混じり合ったせいだろうか?
拒絶する、という初めの自身の取り決めに反し、思い切り抱きしめてやろう、なんていうナンパ師のような思考すら持っている自分があることに気付き、苦笑する。
「……特別、ですよ」
ポツリと、声を掛けてやる。実質数分ではあったが、その時は永遠にすら感じた。
けれど、それ以上何かをしてやるつもりもまた、毛頭ない。
それをすると、再び彼女を迷わせてしまうことになるだろう。
今は、これでいい。
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後日、シンジとミサトは研究棟の一角の小部屋に呼び出されていた。
そこではリツコが今回の使徒についてわかったことを一通り解説していた。要は、史実通りという訳である。
リツコ曰く、シャムシエルはコア以外の殆どの部位は健在。研究のサンプルに応用されることが決定した。
そして、使徒と人間の遺伝子配置の一致率も99.89%。これもまた全て史実通りの結果である。
規格外のエネルギーを込められた初号機右脚部にはそれなりの損害はあったが、前回のように触手の貫通があった訳でもなく、また前回のように引きずり回されることもなかったので兵装ビルの被害も無し。
サキエル戦ほどではないが、こちらは史実と違って質の高い勝利を収めていた。
「さて……シンジ君。色々と聞かせてくれるかしら」
「そうね~。 あたしもシンちゃんのこと色々知りたいわぁん」
リツコは淡々と、ミサトはいつもの通りおどけた口調。
しかし、今ここで口外するのは少し拙いと判断しているので、予知夢ということでどうにかその場を切り抜けることにした。
ミサトは若干考えた末納得したのか、「じゃ、あたしはちょっち用事あるからぁ~」と手をひらひらさせてどこかへ行ってしまった。
……後日、これはリツコの差し金であったことが分かったのだが。
ともあれ、今はリツコのみ。これは計算通りであった。
「……ミサト、居なくなったわよ。話してくれるわね?」
「はい……ここには父さんも居るようですし、場所を移しましょう」
「碇司令に知られると拙いのかしら?」
「……今は、そうですね。分かってください。エヴァ初号機の損害を少なくしたお礼だと思って、どうか」
「……しょうがないわね」
クスリと笑うと、リツコは自分の研究室へと案内した。
ドアには「リっちゃんのけんきゅうしつ」という可愛らしいネコ型のプレートが掛けられている。
「……お邪魔、します」
「あら、そんなに改まらなくてもいいのよ?」
プレートの可愛らしさと比例し、研究室の中にも可愛らしい小物が多い。
ネコ型のものが多いのは、恐らく彼女がネコ好きであるが故のことであろう。
正直、少し危ないマッド気味な研究者というイメージを持っていたシンジは彼女への印象を少し改めた……かもしれない。
「シンジ君、貴方何か失礼なこと考えてないかしら?」
「い、いいえ?」
「あら、そう?」
何故こうも自分の思考は読み取られるのだろうか。疑問に思いつつも、本題に入った。
「じゃあ、私から聞かせてもらうわね。単刀直入に聞くけど、貴方何者?」
「はあ?」
「惚けなくてもいいのよ? 貴方の知識が普通じゃないことは分かるもの。どうして初号機のリミッターの外し方を知っていたのかしら」
早速核心を突かれる。勿論、今はまだ明かすつもりはない。
まずは惚けてみることにする。
「へっ? リミッター?」
「……」
冷たい目線が突き刺さる……が、気にしないように努める。
「僕はただ強烈な蹴りを見舞ってやろうって思いまして。
サッカーの時なんかも、自分のところにボールが来そうになったら一度自分の右足の靴紐を占めるんです。
まぁ、要は癖なんです」
「ふぅん……」
とてもとても冷たい目線でこちらを見つめるリツコ。
非常に非情な冷たさを帯びたその視線はシンジをめった刺しにするが、それでもどうにか踏ん張る。
暫くの沈黙の末、口を開いたのはリツコだった。
「……まぁ、良いわ。今回の用はそれだけじゃないもの」
「ご理解感謝します……まずこちらが、今日お教えする情報です」
シンジがポケットから取り出したUSBの中身ををコンピュータで展開する。
そこには、第五使徒ラミエルについての情報……特に戦闘についての詳しい記述。
シンジはラミエルの加粒子砲で一度大きなダメージを受けており、それは個人的に何としても避けたかった。
それに、ヤシマ作戦では恐らくレイにも尋常ではない負荷がかかる。それもまた避けたい事象の一つであった。
「……なるほど、ねえ」
一通り資料を読むと、ため息をつくリツコ。
予知夢という前提があるとはいえ、前回の情報もそうだったが余りにも記述がよく出来ている。
具体的な使徒に対する戦法を、必要な武器類なども含めてこと細かく、それも考え得るあらゆる事態に応じて十数パターン、今回に至っては二十パターンもの場合分けがなされていたのだ。
それも行動確率別にパターンが仕分けされているので、より重要な情報は何なのかも一目で分かる。
その情報量はtxtファイルにも拘らず百キロバイトをゆうに超えていた。
更に、これほどの情報量であるのに、そこいらの研究論文よりよっぽど訴求力のある整然とした文章にただただ圧倒されるばかりだったのだ。
勿論これも簡単な工程ではない。
シンジが自分の体験を一通り洗い出し、二人でブレインストーミング。
それによって完成された理論をカヲルがより適切な文章に直していく作業により、完成されたものである。
「考えられる行動パターンは示している通り二十パターンに分かれています。
しかし、ここにある潜行ドリルの伸縮による中距離攻撃という1パターンを除けば、遠距離攻撃という事は一致しています」
潜行ドリルの伸縮。
前回のラミエルが行わなかった行動ではあるが、緩慢とはいえ確実に装甲版を抉るあの力を活用しない手はないとシンジは考えたのだ。カヲルもそれに反対することはなかった。
行動確率は最低ランクに分類されてはいたが、考慮に入れて損はない。
「勿論あくまで予知夢からはじき出してみた結論ではありますが……第3使徒は近接戦、第4使徒は近接に加え中距離の戦闘もありました。ならば、第5使徒は遠距離を使ってくる。間違った考え方でしょうか?」
「……そうね。貴方の言う情報はあくまでも予知夢。
でも、次に遠距離攻撃を仕掛ける使徒が出るというのは、実は私やミサトも予測してはいたの。
違います、って言われても本当は私たちの方が、そっち方面では詳しいと思うのだけど……貴方、かなりカンが鋭いのね?」
「はは……」
今は笑ってごまかしておく。最も、そのうち機を見てバラす予定ではあるが。
「……まあ、いいわ。遠距離攻撃を行う使徒に対する高火力武器。
戦略自衛隊が今極秘裏に『ポジトロン・スナイパーライフル』という陽電子を用いた武器を制作しているようだけど、それを参考にするのも良いかもしれないわね」
「極秘という割にはよくご存じなんですね」
「まあ『ポジトロン』という名前、スナイパーライフルという名前から推測すればこの位は分かるわよ。
……そうね、貴方も学生なら、意味の分からない言葉でも文脈から類推出来たり、
逆に意味の分からない文章や造語でも単語単語の意味から類推できるようにしておくと数年後役に立つわよ」
「あはは……肝に銘じておきますよ」
稀代の天才碇ユイの血を受け継いでいるおかげか、シンジも決して学業の成績は悪くない。
もう既にシンジはこの時期の授業を一度受けているので、授業中に暇つぶしに四次式の解の公式を自力で何も見ず証明してしまった。
他にもカヲルの手伝い付きではあるが明らかに中学を逸脱した知識を得つつある。
しかし、英語についてはどうも苦手な方であった。なので、このリツコの言葉もなかなか突き刺さってくるものがある。
「しかし……」
「どうしたの?」
「こんな、一抹の中学生の話をリツコさんもよく信じてくれますよね」
「あら、まるっきり信じてる訳ではないけど」
「そうですか?」
コレは本当にシンジも思うものである。
使徒については最前線の知識を持つと言っても良い科学者が、こんな一抹の中学生の与太話に真剣に耳を傾けているのだから。
「とは言っても、プログ・ナイフの使用用途だけは疑問が残るけど、外見的特徴や行動的特徴も一致していたんじゃある程度の信頼を置くほかないじゃない。
……本当は、これからどんな使徒が出てくるか知っているのではなくて?」
「……まさか。前回もたまたまですし、今回もこれだけですよ」
「まあ、今は目の前の敵を倒すことに集中しないとね……今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ僕のたわいもない与太話を聞いていただきありがとうございます。
……ところで、綾波レイさんはどこに居ますか? お見舞いに行きたいのですが」
「レイ? レイならもう退院したんじゃないかしら。多分家にいると思うわよ」
「そうですか、ありがとうございます。それでは失礼しますね」
ガチャン。
ドアの閉まる音が鳴るとともに、この時聡明なリツコは推測から確信へと変えた。
シンジは、少なくとも「何か」を知っている、ということを。
綾波レイ、という名前をシンジの前で出したことはないし、どこで知ったのかは疑問だ。
いや、それ自体はミサトあたりから名前を聞いて知っているという可能性もある。
が、「家」だけではどこにいるのかは分かるまい。
リツコは今の質問でシンジを試していたのだった。
そして、目の前のシンジはそのような断片的な情報だけで―――――
ガチャン。
その時、再びドアが開く。
「……レイさんの家、ってどこです?」
「……はぁ」
再び推測に戻ってしまった。
「(……ウソつくのはやめて貰いたいけど、はてさてね)」
リツコはこの時は確信するのを諦めて、素直にレイの家を教えることにしたのだった。
ついでに、持たせ忘れたIDカードも持たせて。
伊「はい、皆さんおはようございます。伊吹マヤでーす」
日「おはようございます、日向マコトです」
青「青葉シゲルです」
伊「そういえば、なんでこういうところでは「おはようございます」なんでしょうね?」
日「さあ……まぁ、業界のしきたりっていう奴なのかな」
伊「そういえば日向君はあの時もどっちかというと昼なのにおはようございます、って言ってましたしね」
青「まあ、そこは物語と関係ないしどうでもいいだろ」
日「そんなことより、このラジオの視聴人数がついに1000人を越えたらしいな」
青「確か前回の放送から3~4日位で到達だろ? 結構上出来なんじゃないかな」
伊「まぁ、今後もその勢いを保てるように頑張りましょうということで、本題に入りましょうか。
「えー……まず、シャムシエルが昼の天使ってどういうこと? だそうですが」
青「……」
日「……」
伊「……」
青「……そういうものです、としか言いようがないよな」
日「……だな。今後は~の天使ってどういうこと? 系は廃止にしようぜ。俺たちの世界ではもう宗教も何もあったもんじゃないし」
伊「そうですね……変な宗教はあの老いぼれ共、ゼーレとか言う奴だけで充分ですぅ」
青「えっ」
日「えっ」
―ネルフ本部、司令室にて―
加持「えっ」
冬月「えっ」
ゲンドウ「えっ」
―静止した闇の中で―
キール「えっ」
「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」
―局内にて―
伊「……みなさんどうしました?」
青「い、いやなんでもないんだ」
伊「そうですかー。じゃあ、次行きましょうか。
シャムシエルの行動が変わっていたのはどういうこと? だそうですが」
日「うーん……これもそれなりに核心ついてきてるよなあ」
青「だなあ……まあ、それ抜きにしてあんまり深入り出来ないというかなんというか」
日「まぁ、次回になればわかると思うよ。特に逆行系のお話ではお決まりのネタなんだけどな。
たとえば俺の知ってる作品では黒髪ロングのクールな可愛い子が……」
伊「……その特徴、葛城さんとかなり一致してますよね」
青「……性的嗜好って次元問わないんだな」
日「いや、あの子はぺったんこだけど葛城さんは結構大きいからそれはないな。あーでも確かに銃器の扱いに優れてるのは共通点かな」
伊「……なんか日向君って、凄いですね」
青「てか、軍人でもないのに銃使うの上手いとかなかなかヤバい奴じゃねえか?」
日「……あの子はそんな子じゃない、好きな人の為に何百回と逆行して、ついにクレイジーサイコな愛に目覚める位の友達思いな良い子だ」
青「……」
伊「……」
日「なんだよ、そんな目で見るなよお前ら……」
伊「……チッ、これだから若い男は……!!」
青、日「……マヤちゃん?」
伊「……ま、コレ読んでる人だってどうせ言わなくてもなんで変わってるのかはここまで言えば想像出来るでしょうし、これ以上言うのはネタバレってレベルじゃありませんしこの辺にしておきましょうか」
青「そ、そうだな」
日「お、おう……最後の質問行こう」
伊「はいは~い。ええと……逆行前とそんなに変わらない筈なのに学力、特に数学が異常に良いのはどういうこと? だそうです」
青「……アレやっぱすげえよな、四次方程式の解の公式を自力で導出だなんて。ユイさんの血統だから出来るのか?」
日「だろうなぁ……ここだけの話、シンジ君って噂によると赤木博士から色々習ってるみたいだよ」
伊「せ、センパイが!?」
青「へぇー、あの赤木博士がねえ?」
日「うん、何でも使徒攻略の手助けになるように科学的素養を学ばせるとかなんとか……マヤちゃん?」
伊「ぶつぶつ……いいなぁ……私も手とり足とり……先輩に……」
日「え、どうしたのマヤちゃん」
伊「ぶつぶつ…」
ぽわぽわぽわ……
「せんぱぁい、あたしこのもんだいわかりませぇん」
マヤが手にA4サイズの大きさのプリントを手に、可愛らしい顔をくしゃくしゃにしながら涙目で訴えかける。
その目線の先には、マヤ憧れの先輩である赤木リツコの映える金髪があった。
「あら……貴方、コレは課題だったでしょう?」
「ごめんなさぁい……ぐすっ、さいころがいびつだなんていわれてもわからないですぅ」
「……しょうがない子ね」
リツコがどこかからペンを取り出すとさらさらさらさら、
幾ら悩んでもマヤが解けなかった問題がスラスラと解かれていく。
「わぁ……」
余りの手際の良さに目を輝かせるマヤ。しかしリツコはそれに反し、厳しい顔をしている。
凍てつくような視線は、マヤの表情をも見事にカチンコチンと凍らせる。
「あ、あぅ……」
「……いいことマヤ、コレは課題なのよ?
本当は自力でやってこなきゃいけないの。お分かり?」
「ご、ごめんなさい……うぅ」
既に先ほどまでのきらめいた目はどこにもなく、再び涙目になるマヤ。
「……あら、泣き落とし? 課題が仕上がっていない上に、それを泣いてごまかそうとする悪い娘にはお仕置きをしないといけないわねぇ」
「え、え……? きゃぅっ!」
そういうとリツコは、突然現れた「りっちゃんのおへや」と可愛らしいネコ型のプレートが掛かった部屋にマヤを強引に連れ込んだ。
「せ、センパイ……何をむぐっ!?」
ふるふると震えつつもかすかな期待も帯びさせながら声を出すマヤの口を、強引にその唇でふさぐリツコ。
そうしながら、後ろにあるキーボードを器用に打ち込んで見せた。
「悪い子マヤ、貴方は私がじっくりと教育してあげるわ……覚悟なさい?」
「ふ、ふぇっ……?」
突然のことに思考が付いていかないマヤ。
リツコの言葉、行動を反芻する。
唇をふさがれる。
押し倒される。
教育してあげる。
全てを理解したマヤは、途端に顔を赤くする。
しかし、その紅潮はむしろ歓喜の色さえ帯びている。
「ふふ、わたしの可愛いマヤ……」
「センパイ…」
「I、need、you」
「……!」
マヤの耳元でそっと囁く。
意図を理解した途端ついには耳まで真っ赤になったマヤだが、
リツコはそれを意に介せず、手際よく部屋の片隅にあるベッドにマヤを押し倒し――――
ぽわぽわぽわ……
伊「キャー!! ……よい、全てはコレで良い……」
青「……マヤちゃん? おーいマヤちゃーん」
伊「センパイ……センパァイ……!」
日「……かえってこーい」
青「やめろマコト、これ下手したら別の意味で還っちゃうから」
数分後……
伊「えー……お騒がせしました」
青「なぁマコト」
日「ん?」
青「マヤちゃんもなかなか……なぁ?」
日「ああ……問題ない」
青「メガネが共通点だからってさらっと司令の物真似してんじゃねえよ俺には問題ありまくりなんだよ」
伊「何ぼそぼそ喋ってんですか」
青「い、いやなんでもないよマヤちゃん」
伊「そうですか……じゃあ、葛城さん。いつものアレお願いします」
葛「はいは~い♪
『第四使徒シャムシエルを倒し、第五使徒ラミエルについての情報を開示したシンジ。
提示される「ポジトロン・スナイパーライフル」による極限的作戦とは何なのか?
そして、これまでのレイの行方はどこなのか?
次回、「決戦、第三新東京市」 さぁ~て、次回も?』」
全員「サービスサービスゥ!」